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地域包括ケア

 家庭医は自身の診察室を訪れる患者さんだけをケアするのではなく、診察に訪れることのない地域の住民の健康にも心を配り活動しようとします。これは家庭医に特徴的な活動であり、地域包括ケアと呼びます。それは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

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更別村国民健康保険診療所 山田康介

地域の医療に対するニーズを知り、応えるプロセス

「家庭医療」の項で家庭医は診療所の壁の向こう、地域社会全体を視野に入れて活動することについて触れました。
さて、ここで問い直したいと思います。
地域*1、または地域住民が医療者に求めるものとは何でしょうか?
病気やけがの早期発見早期治療? 病気やけがの予防活動?
昔はこれがすべてだったかも知れません。しかし、日本が世界一の長寿国となった今、はたして?
私たち医療者は日々の忙しい診療に専念するあまり、地域住民にこんな風に思われているかも知れません。
「病院がこんなことに協力してくれたら安心なのになあ」「医師が自分たちの目線のところにまで「降りてきてくれたら」うれしいなあ」・・・
地域に家庭医として勤めていると、それまでの自分が想像もしていなかったところにも医療者に対するニーズがあることに気づかされます。
「地域包括ケア」とは、医療者がこれらのニーズを理解し、それに応えるプロセスです。そしてそのプロセスは地域住民が描く地域の未来像(ビジョン)と方向性を同じくすべきです。
この「地域包括ケア」はすべての医療者がそれぞれの領域で行いうる活動ですが、家庭医はこういった活動を行う絶好の立場におり、家庭医を特徴づける重要な原理の一つとして紹介されています1)。
地域包括ケアの活動は欧米ではすでにCommunity-Oriented Primary Care2)3)として紹介されていたり、日本国内では地域診断といった言葉で同様の活動が紹介されていますが、医療者が第3者として地域を診断し介入を施すという視点での公衆衛生的活動のイメージが強くなり、医療者自身が地域の複雑なネットワークや人間関係の一部であり1)相互にさまざまな影響を及ぼしあうものであるという家庭医がもつべき視点とは若干のずれがあります。
このため、筆者は家庭医が行う活動としての地域包括ケアはこれらのCommunity-Oriented Primary Careや地域診断とは若干異なるものと認識しており、この分野は日本国内ですでに良い活動を行っている多くの家庭医をモデルに研究、一般化していく作業が必要と考えています。

事例

以下に、筆者が勤務する地域で「発生した」地域包括ケア現象(筆者自身は自分が主体となって起こした活動、というよりは勝手に発生した現象、という印象を持っている)を例として示し、これに解説を加えたいと思います。
「家庭医が行う地域包括ケア」の理解の一助となれば幸いです。

筆者がこの地域の公的診療所に所長として赴任したのは7年前です。半年前に常勤の内科医が退職し、大学の医局からの週替わりのアルバイトで診療をつなぐ状態でした。
筆者が家庭医として赴任することで新たに始まったことの一つは小児の診療です。
「今度の医者は子供も見てくれるらしい」ということで徐々に地域の子供がかかってくれるようになります。せっかく田舎に来たのでそれらしい活動を、ということで小児のインフルエンザワクチン接種の料金を大幅に値下げしました。周辺の町村と比較しても大幅に廉価であったため多くの小児が接種するようになりました。 「子供のことを真剣に考えてくれるらしい」と、地域の乳児健診の委託を受けるようになったのは赴任して1年後のことです。
 中には小児科専門医に紹介し入院していただく子もでてきます。
 紹介先の小児科医や小児科病棟の看護師が紹介した子の親に「あなたの地域はいいお医者さんが来ましたね」などと声をかけてくださったらしく、口コミで幼稚園や保育園の先生方に情報が入ります。
 幼稚園、保育園の園医を引き受けることになります。先生方から支援の必要な子、親の相談を受けるようになったり、ケース検討会に参加させていただくようになりました。あるとき、地域の中学校で不登校が大きな問題となりました。それまで子育て支援に関してリーダーシップを発揮してきた保育士が立ち上がり、保育園から幼稚園、小学校、中学校、高校の先生まで巻き込んだ地域の子供の成長を考えるためのサークルが立ち上がります。筆者もそのメンバーの一人となりました。
 筆者自身にもこの地域で子が生まれ、子を育てる親同士の交流がプライベートでもすすみ・・・

 誰かが計画したわけではないのに、地域の「子育て支援や小児医療の充実」というニーズに応えるべくみんなが進んでいったのです。
 誰もが無意識に感じていたこのニーズに対して筆者は全く意識することなしに小児の診療を始めるという形で少しだけ重たい歯車を回しました。地域の保健師が筆者と乳児健診を一緒にやる、という決断を下したことでまた少し重たい歯車が回りました。小児科専門医が地域の住民に対してポジティブなフィードバックを返したことでまた歯車が回りました。保育園の先生が組織の枠組みを超えた連携を取ろうとして歯車をまた回しました。
 ここまで歯車が回り出すとどうやらこの地域には「子育て支援や小児医療の充実」というニーズが存在することが顕在化してきます。それぞれがリーダーシップを発揮し活動をはじめ、さらに歯車は回り続ける・・・

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地域のビジョン実現のための組織作りから

この事例を振り返ると、「地域包括ケア」とは?という問いに対する答えのヒントが隠れているように思われます。
(参考文献 4)5))

    1. 「地域包括ケア」は住民が描く地域のビジョン実現のための活動
      ・ビジョン実現のために地域には様々なニーズがありそれを理解することが重要
    2. 「地域包括ケア」活動の根幹は組織づくり
      ・自分自身が良きリーダーシップを発揮すること、同様に良きリーダシップを発揮している人との出会い
      それぞれが自分自身の得意分野の知識・技術を生かし、学び、前進しようと具体的に行動する
      一方で自分自身の限界を知り、他へ協力を求め、互いに支え合おうとする
      ・そのような人たちとビジョンとニーズが共有され、連携すること

 地域のビジョンやニーズは地域により異なるものですが、多くの地域で重要なニーズとして取り上げなくてはならないのは高齢化や予防医学の問題でしょう。まさしく患者としてやってくる人を診察室で待っているだけでは地域のニーズに応えられない問題です。ケアマネージャーと患者さんのケアについて打ち合わせをしたり、メタボリックシンドロームについての情報提供を目的とした講演会を地域で開催したり・・・
この記事をお読みいただいた医師の皆様はきっとすでに当たり前のこととしてこの「地域包括ケア」を実践しているはずです。
難しい話はさておき、まずは思いついたことを気軽に行動に移してみることが一歩ではないでしょうか?

*1:ここでは「地域」をいわゆる「僻地」という意味ではなく、「コミュニティ」という意味で用います。
1) Ian R. McWhinney: Principles of Family Medicine. A textbook of Family Medicine, 2nd, Oxford University Press, New York, 1997, pp13-28.
2) Paul A. Nutting: Community-Oriented Primary Care: From Principle to Practice.
3) Robert Rhyne et al: Community-oriented Primary Care: Health Care for the 21st Century
4) ジェームズ・C・コリンズ著, 山崎洋一訳: ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則, 日経BP社.
5)ピーター・M・センゲ著, 守部信之訳: 最強組織の法則 新時代のチームワークとは何か, 徳間書店

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