小児の急性中耳炎に対する抗生剤は1〜2回/日で良いのか?

―文献名―
Thanaviratananich, S., Laopaiboon, M., & Vatanasapt, P. Once or twice daily versus three times daily amoxicillin with or without clavulanate for the treatment of acute otitis media. The Cochrane Library.2013.

―要約―
【Introduction】
 急性中耳炎は小児の良くある問題である。CVAの有無に関わらずAMPCは頻繁に選択される治療として処方される。従来の推奨は1日に3回あるいは4回である。しかしながら、今日1日に1回あるいは2回投与がなされている。
 もし、1日1回あるいは2回投与が3回あるいは4回投与と同等の効果であれば、便利でコンプライアンスを向上するかもしれない。

【Method】
 5つのランダム化比較試験のメタ分析。

 ●参加者:12歳以下の急性中耳炎患者。急性中耳炎は急性の耳痛と、鼓膜穿刺あるいはティンパノグラムのB型C型で診断されたもの。
     (B型は中耳のfluidを示唆し、C型は中耳内の圧力が大気圧より低い事を示唆している)
 ●介入のタイプ:CVAの有無に関わらずAMPC1〜2回/日と3〜4回/日と比較する。
 ●Primary outcomes:データがある場合、耳痛の改善・解熱・細菌学的治癒による、抗生剤終了(7〜15日目)の臨床的治療率。
 ●Secondary outcomes:耳痛の改善と解熱による臨床的治癒率。再発性中耳炎のないAOM治療後患者のみにおいて評価された、
            治癒後(1〜3ヶ月後)、ティンパノメトリーによる中耳浸出液の改善。AOMの合併症(再発、乳様突起炎)。
            投薬への有害事象。

 2人の著者は独立してそれぞれの試験から治療アウトカムに関するデータを抽出し、選択バイアス、施行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス、報告バイアス、及びその他のバイアスについて評価した。
 バイアスの低リスク・高リスク・不確実なリスクとして、質の格付けを定義した。その結果を95%信頼区間のRRとしてまとめた。

【Main Results】
 1601人の小児を含む5つの研究が含まれた。

 治療終了時(RR1.03,95%信頼区間 0.99〜1.07) Fig.3

貴島先生図1
  Figure 3. Forest plot of comparison: Clinical cure rate at the end of therapy.

 治療中   (RR 1.06, 95%信頼区間 0.85 to 1.33) Fig.4

貴島先生図2
  Figure 4. Forest plot of comparison: Clinical cure rate during therapy.

 フォローアップ期間 (1〜3ヶ月)(RR 1.02, 95%信頼区間 0.95 to 1.09) Fig.5

貴島先生図3
  Figure 5. Forest plot of comparison: Clinical cure at post-treatment (one to three months).

 再発性中耳炎(RR 1.21, 95%信頼区間 0.52 to 2.81)Fig.6

貴島先生図4
  Figure 6. Forest plot of comparison: AOM complications: Recurrent AOM after completion of therapy.

 AMPCのみ、またはAMPC/CVAでサブグループ解析を別々に行った結果、すべての重要なアウトカムにおいて1日1〜2回と1日3回の群で差がなかった。
 また、内服遵守率(RR 1.04, 95%信頼区間 0.98 to 1.10)、下痢や皮膚障害などの全有害事象 (RR 0.92, 95%信頼区間 0.52 to 1.63)と有意差はなかった。(経口抗生物質の1日1回または2回の投与は、1日3回の投与より高い遵守率を有する報告がある(Kardas 2007; Pechere 2007))

【著者らの結論】
 本レビューでは、CVAの有無に関わらずAMPCの1日1回or2回の用量を使用した結果は、AOMの治療で3回投与の結果に匹敵する事が示された。これらの結果は、両方の投薬が同じ有効性を有すること、または複雑でないAOMが自然治癒できることを示し得る。

【開催日】
 2017年8月23日(水)

自閉症スペクトラム障害 プライマリ・ケアでの原則

―文献名―
Kristian E. Sanchack, Craig A. Thomas. Autism Spectrum Disorder: Primary Care Principles. AFP, December 15, 2016

―要約―
【概要】
 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、コミュニケーションの難しさと、反復行動、興味、活動で特徴づけられる障害である。早期の介入により、認知能力、言語、適応能力を改善させられるというエビデンスが増えており、そのため早期の診断が重要となっている。専門家は、18ヶ月および24ヶ月の幼児の訪問時にスクリーニングツールの使用を推奨している。薬物療法は、不適応行動や精神状態の問題に対して補助的に使用されるが、ASDで単一の有効な薬はない。予後は診断の重症度と知的障害の有無に大きく影響される。より早期に、より集中的な行動介入を受け、薬物治療は少ない子供が最も良い転機をたどる。

【疫学】
 ASDの遺伝的影響は約50%。
 環境因子の影響も受ける。出生前の母体の年齢や代謝性疾患(糖尿病、高血圧、肥満など)、バルプロ酸、母体感染、大気汚染、農薬暴露、低出生体重児、早産。

【臨床症状】
 ASDの診断上の特徴には、社会的コミュニケーションの欠損と限られた反復パターン(行動、関心、活動)が認められる。ASDの診断基準と重症度レベルはTable 1,2参照。いくつかの徴候・症状は月齢6~12ヶ月で出現している。多くのケースでは、信頼性のある診断は24ヶ月で可能となる。
 共同注意(興味を共有するために自分の注意を調整する能力) 月齢12~14ヶ月までに始まる。15ヶ月までに共同注意を示さない場合はASDの評価をするべき。子供が名前を呼ばれても反応しないので、「難聴じゃないか」と心配して来院することがある。
 言語の遅れ 18~24ヶ月で、指さしや身振りのない言語遅延は、ASDと表現のある言語遅延の鑑別に役立つ。
 限られた関心領域、反復的な行動 ASDの診断上必須の症状。小さい頃には目立たないこともある。ルーチンの行動パターンを変えるのは大変。常同運動(手を振る、つま先立ち歩行、目の近くで指をはじくなど)が見られることも。

【スクリーニング】
 スクリーニングツールは、精査が必要な子供を特定するのに役立つ。長期的なアウトカムに基づいた3歳以下の小児におけるASDスクリーニングの有効性を評価するRCTはない。定期的な発達スクリーニングは、9ヶ月、18ヶ月、24ヶ月または30ヶ月児で提案される。
 幼児自閉症修正チェックリスト(Modified Checklist for Autism in Toddlers;M-CHAT)は、最も広く使用されているスクリーニングツールだが、単独で使用した場合は偽陽性率が高い。ツールの作者は、その後にフォローアップ改訂版幼児自閉症修正チェックリスト(Modified Checklist for Autism in Toddlers-Revised, with Follow-Up;M-CHAT-R/F)を公開した。無料ダウンロード可能(http://mchatscreen.com/wp-content/uploads/2015/09/M-CHAT-R_F.pdf

【紹介と診断】
 ASDの評価には、包括的なアセスメントが含まれていることが望ましい。ASDを確実に診断し、ASDを模倣する状態を除外し、併存疾患を特定し、子供のレベルを決定することを目指す。
 学際的なチームへの紹介が良いが、該当するチームがない場合は専門知識をもつ個々の専門医(児童心理学者、発達小児科医)が良い。
 診断はDSM-5のASDの診断基準に基づく。

【治療】
●行動療法
 早期集中的行動介入:就学前~低学年児童 望ましい行動を強化し、スキルの一般化を促し、望ましくない行動を減らすことによって、新しいスキルを教えることを目指す。
 ・認知行動療法
 ・Targeted play
 ・ソーシャルスキルトレーニング
 ・ペイシャントトレーニング

●薬物療法
 ASD自体に効果のある薬物はない。不安障害、ADHD、睡眠障害などの治療に。頭痛、副鼻腔炎、胃腸障害はASDに似た症状が出たり、ASDの行動症状を悪化させることもある。

【開催日】
 2017年8月16日(水)

希釈リンゴジュースと電解質調整経口補液の軽度の胃腸炎小児に対する効果

―文献名―
Effect of dilute apple juice and prefered fluids vs electrolyte maintenance solution on treatment failure among children with mild gastroenteritis JAMA. 2016.5352.Published online April 30, 2016.

―要約―
【背景】
 胃腸炎は小児のコモンディジーズである。電解質調整補水液は脱水の治療と予防に推奨されている。軽症脱水小児での効果はよく分かっていない。

【目的】
 小児の軽症胃腸炎に対して、希釈リンゴジュース+好みの水分による経口補水が電解質調整補水液と比較して非劣性かどうかを評価する。

【デザイン、セッティング、患者】
 ランダム化比較試験で、単盲検・非劣性試験がカナダオンタリオ・トロントの小児の3次救急外来で2010年から2015年までに行われた。組み入れ患者は6-60か月(5歳)までの軽度の脱水を伴う胃腸炎患者。

【介入】
 患児は色調を合わせた半希釈のリンゴジュース+好みの水分群(n=323人)とリンゴ風味の電解質調整補水液(n=324人)に割り付けられた。経口補水治療は施設のプロトコールで行われた。退院後、半希釈のリンゴジュース+好みの水分群は飲みたいときに水分摂取し、電解質調整補水液群は電解質調整補水液で行われた。

【メインアウトカム】
 プライマリアウトカムは、7日以内の治療失敗の複合アウトカムで、点滴による脱水補正・入院・予定外受診・症状遷延・クロスオーバー・3%以上の体重減少・重症脱水の複合とした。
 セカンダリアウトカムは、点滴による脱水補正・入院・下痢や嘔吐回数が含まれた。非劣性マージンは7.5%と設定し、片側検定でα=0.25。

【結果】
 647人の小児(平均28.3か月、331男児、441女児、脱水徴候なし)が割り付けられ、644人(99.5%)がフォローアップされた。半希釈のリンゴジュース+好みの水分群の方が電解質調整補水群と比較して治療失敗が有意に少なかった(16.7% vs 25.0%、-8.3%:-∞ to -2.0%、非劣性かつ優越性あり)。半希釈のリンゴジュース+好みの水分群が有意に点滴による脱水補正を受ける群が少なかった(2.5% vs 9.0%, -6.5%:-11.6% to -1.8%)。入院率や下痢や嘔吐頻度は両群で差を認めなかった。
榎原先生図①

【結論】
 軽症胃腸炎の軽度脱水患者では、半希釈のリンゴジュース+好みの水分を投与することは、電解質調整補水と比較して、治療失敗が少ないことが明らかになった。多くの先進国小児の胃腸炎の脱水補正に対して半希釈のリンゴジュース+好みの水分を投与することは、代替方法になり得る。

【開催日】
 2017年3月1日(水)

【EBMの学び】吃音

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年9月25日
【臨床状況のサマリー】
 4歳女児。母親より吃音に対しどのような対応をしたらよいのかと相談を受けた。吃音に対する知識を持ち合わせておらず、家族はこれまで通りに接するべきか、家族も吃音の指摘・介入をしてよいのか分からなかった。
 書籍を読み知識を得る中で、自己肯定感を育む支援方法、また家庭環境で家族が患児に対し吃音に対するフィードバックを行い、時に言語聴覚士(以下、ST)に評価を受けるリッカムプログラムの存在を知った。
 患者家族に説明をするにあたり、リッカムプログラムの情報提供を行うべきなのか判断するために有用性を調べたい。

 <リッカムプログラム>
 ・毎日15分間言語的刺激を与える。
  具体的には
   吃音のない発話に対して
     賞賛:とても良かったね
     自己評価の促し:今のはスムーズだった?
     認知:今のは滑らかだったね
   吃音のある発話に対しては
     認知:ちょっとつかえたね
     修正の促し:もう一回言ってみる?
  上記を、吃音のない発話に対する刺激を5回施行し、その後の吃音に対し刺激を1回。この5:1の頻度は守る。
  その上で週1回言語聴覚士に診てもらう。

 P;吃音のある小児
 I(E);リッカムプログラムを行う
 C;リッカムプログラムを行わない
 O;吃音が改善するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 検索したエンジン;ClinicalKey
 見つけた論文;
  Mark Jones, et.al, Randomised controlled trial of the Lidcombe programme of early stuttering intervention.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;3〜6歳の(少なくとも音節2%で)吃音のある患者。(除外:6ヶ月内発症。12ヶ月以内の治療歴。)
 I(E);リッカムプログラムを行う
 C;行わない場合
 O;改善に差があるか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 記載なし )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
貴島先生図EBM①

貴島先生図EBM②

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 ●ARRとNNTを計算する
 貴島先生図EBM③

  RR=(13/27)/(17/20)≒0.567
  ARR=(17/20) – (13/27)≒0.37
  NNT=1/ARR≒2.71

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ①参照

STEP4 患者への適用
【①エビデンスの視点】
 ●論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?
 年齢は研究対象内であるが、発症時期は1ヶ月以内のため除外基準である発症6ヶ月以内に該当しており本患者は対象外である。
 日本でも取り入れ始めているプログラムであるが、日本語に適応した際に効果があるかどうかのエビデンスはまだなさそう。

 ●内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 ランダム化はされており、observerのみ盲検化がされている。
 年齢、吃音の重症度、性差、治療の場所、家族の治癒歴に関し検討されbalanced randomisationの記載がある。
 110人の参加者を目指していたが、募集困難でN:54と少ない。その内7人が脱落(一人は病気のため、その他は主に引越しにより接触できなくなった)

【②臨床セッティングの視点】
 ●治療そのものは忠実に実行可能か?
 →研修を受けたSTが必要であり、当院での忠実な実行は不可能である。また、実施している施設数も限られているようで困難。

 ●重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?
 →12ヶ月間のフォローアップが予定されていたが、コントロール群の親が患児に治療を受けさせたい希望のために9ヶ月間に変更された。

【③使う者の経験の視点】
 ●これまでのその治療に対する経験はどうか?
 経験はない。

 ●自分の熟達度から実行は可能だろうか?
 STと伴に行われるものであり、忠実な実行は困難である。
 当クリニックのセッティングであれば某大学耳鼻咽喉科と連携し施行は可能ではありそうだが・・・。

【④患者の考え・嗜好の視点】
 ●illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
 →そもそも40分かけて定期的な病院受診(大学)は望んでいない。
 接し方のアドバイスを欲しているため、従来の支援手段の提案にとどめておくのが良いのではないかと考える。
 リッカムプログラムはエビデンスが構築されている時期であり、情報に敏感になりながら有用性を判断し、今後に備えられたらと感じた。

 <従来の支援手段の例>
  ・話し方のアドバイス(例:ゆっくり落ち着いて話して)、言葉の先取りをしない(例:「6時からちちちち」「ちびまる子ちゃんが始まるね」)。
  ・話を最後まで聞く、話す内容に注目する(例:「とととと跳び箱2段飛べたんだ」「2段も!すごい!」)ことで、自己肯定感を育む対応をする。
  ・幼稚園や学校に吃音の情報提供をする。

【参考図書】
 菊池良和. エビデンスに基づいた吃音支援入門.初版.東京都:学苑社:2012.
 菊池良和. 子どもの吃音 ママ応援BOOK.初版.東京都:学苑社:2012.

【開催日】
 2016年10月12日(水)

小児の風邪の夜間咳嗽に対するハチミツの効果

-文献名-
Cohen HA, et al. Effect of honey on nocturnal cough and sleep quality: a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71.

-この文献を選んだ背景-
 小児の風邪に対して処方される抗ヒスタミン薬・鎮咳薬等のいわゆる風邪薬の効果は証明されておらず、小児科研修で御指導いただいた小児科専門医の先生は、ペリアクチン®はもう処方しないと明言していた。一方で、小児の風邪の鼻汁・咳嗽は一般的に長引くことが多く、就寝中に悪化し親子の睡眠も妨げられ、お互い「何とかしてあげたい・してほしい」との思いを込めて風邪薬が処方されることも実際は多いのではないだろうか。また、薬局で発行される説明書を見て、「鼻汁=抗ヒスタミン薬」「咳=鎮咳薬」という一対一対応で親も認識しており、症状に応じてこれらの処方を指定されることもしばしばある。
 そこで、最近よく教科書や雑誌で取り上げられており、UpToDate®やDynaMed®でも一定推奨されている「小児の風邪の夜間咳嗽に対するハチミツの効果」に関して、風邪薬に頼らない診療・セルフケア指導の一助になると考え、原著論文を一度読んで見ることにした。

-要約-
【背景】
 ハチミツはWHOでも鎮咳薬として推奨されており、181以上の物質が含まれ抗酸化作用やサイトカイン放出により抗菌作用をもたらすと考えられている。これまで2つのRCT施行され、1つはソバハチミツをデキストロメトロファン(メジコン®)と投薬なしとで比較したもので、もう1つは盲検化されていなかった。

【目的】
 小児の急性上気道炎による夜間咳嗽や睡眠困難に対する、3種類のハチミツ(ユーカリ、柑橘系、シソ科)の効果をプラセボ(水酸化ケイ素含有エキス)と比較した。

【方法】
 6箇所の地域の小児科クリニックにおいて、1歳から5歳までの急性上気道炎と診断され、夜間咳嗽があり、罹病期間が7日間未満の小児300名を対象とした(Table.1)。尺度はCough Severity Assessment Questionnaire(Figure.1)を用いた。対象者は二重盲検化のうえ4群(ユーカリ、柑橘系、シソ系、プラセボ)にランダムに割り付けられた(Figure.2)。一次アウトカムは連続する二晩において投薬を行わない日(1日目)と就寝前30分に投薬を行う日(2日目)における咳の頻度の変化、二次アウトカムは咳の重症度、咳の煩わしさ、親子の睡眠の質の変化とした。

【結果】
 プラセボを含む4群すべてにおいて、連続する二晩において咳の頻度は有意に改善した。また、ハチミツ群においてアウトカムの改善度はより高かった(Figure.3)。

【結論】
 親は子供の急性上気道炎による夜間咳嗽や睡眠の妨げに対して、プラセボと比較しハチミツにおいてより高い評価をつけた。ハチミツは小児の急性上気道炎による夜間咳嗽や睡眠の妨げに対して好ましい治療となるかもしれない。

【考察】
 過去の研究による風邪薬の有害性、FDAの推奨、1歳未満の乳児にはボツリヌス菌感染リスクのため推奨されないこと、齲歯の原因にならないよう短期間の投与を推奨、等について触れられている。

【開催日】
 2016年6月15日(水)

早期教育と幼児の発達

―文献名―
須森りか、鈴木克明:早期教育が幼児の発達に与える影響と今後の在り方.東北学院大学教養学部総合研究論文:1999

―要約―
【研究方法】
 文献とインターネットを使った研究論文。国会図書館での雑誌検索、インターネットにて早期教育を検索し独自に書籍やインターネットからの情報をまとめた。
 この論文における早期教育の定義は「胎児から小学校以前の教育でできるだけ早い時期から開始するという志向性を持ち、知的な教育、主にIQを高めることを意図し、働きかけに対する子どもの期待される反応を強く期待して行われる幼稚園や保育園を除いた教育」と定義づける。ここではお稽古ごとや、スポーツ教室は除外する。

【早期教育側の考え】
 知的早期教育の特徴は大脳生理学の考えである「才能逓減の法則」と「右脳教育」という2点がある。
 大脳の発達を年齢で見ると、第1の段階が1歳頃まで、第2の段階が3歳頃まで、第3の段階が6歳から7歳まで、そして第4の段階がそれ以降となっている(三石、1990)。脳が急速に発達を遂げているのは第2の段階までで、3歳頃まで が環境から与えられる刺激により脳の働きの可能性を大きく左右してしまうといわれている。「才能逓減の法則」とは、教育は早く始めるほど 高い能力が育ち、才能が伸びる可能性は年齢とともに急速に減っていくというものである(村松・吉木、1990)。また、「右脳教育」では右脳の働きが活発なのは幼児期で、0歳に近ければ近いほど高度の能力があり、学習意欲も旺盛であると考えている。右脳にはたくさんの能力が隠されており、開発できるのも右脳優位である3歳までが決め手になるのだという(七田、1993)。脳が急速に発達する3歳までの間に外からの刺激を受け止め、パターン化し、記憶するという最も基本的で重要な情報処理の仕組みができる。そのため右脳の働きも3歳までの間がもっとも活発である。上記2つの視点から、早期に教育することで幼児の才能を最高にひきだせるとしている。
 早期教育の教育内容の一つは、パターン認識を利用した「パターン教育」がある。特徴は「理屈抜きに見せる」「繰り返す」「結果は忍耐強く待つ」の3つであり、遊びの形態にしやすく左脳教育と比較し脳の負担が少ない。具体的にはカードを使うことが最良で、カードの使い方は一枚一秒の間隔でパッパッとめくって見せていく。するとこの速さに左脳はついていけないので引っ込んでしまい、右脳に働きを任せる。すると子供たちが生来持っている右脳の働きが優位に働くと説明している。
 アメリカのギルフォードが発表した知能構造論においては、脳には120の知能因子があるという。この知能構造論に基づいての教育法は、言語中枢と密接な関係があるという指先を司る脳を発達させることである。つまり言葉や文字の暗記などのひとつのことに偏らず、指を使うことで脳のいろいろな部分に刺激が与えるので子供の知能が全脳的に開発されるといっている。
 また、親子関係も深まる。早期教育をすることは子供への働きかけの時間が多くなるので、以前よりも子供とのふれあい、スキンシップが増えて、親子関係が深まると主張している。

【早期教育反対派の意見】
 幼児教育には「子供は遊びの中で育つ」という。早期教育でもその遊びを中心とした教材を開発しているが、本来の遊びと早期教育の遊びを取り入れた教材をすることでは本質が違うという。幼児の遊びの世界は、意味や価値の世界と無関係なところで展開される世界である。それに対して早期教育の世界は、この社会がもっている価値や意味の世界を体系化・記号化して子供の中に入れて行くことで成立する世界である。遊び体験は、自分の感情や要求に従いながら、子供自身が「内的ルール」を作り上げることで成立する世界であるのに対して、早期教育の場合は、外部で準備された活動を受動的に受け入れることで成立する世界である(加藤1995)。
 遊びを体験しなかった幼児は、体力がつかず幼児同士のコミュニケーションがないので社会性や協調性も育たず他人の気持ちが理解出来なくなる。遊びに熱中した経験がないと、集中力も育たなくなる。
 また山口(1994)は、早期教育で受動的な学習をしている幼児は自発性、創造性の領域の発達が抑圧されるのではないかと懸念している。幼児は親からの評価を気にして親の期待に沿おうと努力し続けてしまうという「依存的」なパーソナリティーが育ってしまう (高良、1996)。自主性が無く依存的な性格では、自分で自分の道を切り開いて行くことは出来ない(小宮山、1995)。
 早期教育では子供の知能をIQで測定するが、本当の賢さとは子供たちはその年齢にふさわしい形で対象に主体的・能動的に働きかけていく存在にほかならない。自分が体験したさまざまな事実を自分なりの論理でつなげ、それらのあいだに共通性を見つけだし、自分なりの「主観的な概念の枠組み」を形成しながら知的能力を伸ばしていくのである。賢さの本質はこの点にある(加藤、1995)。
 早期教育機関が挙げている大脳生理学の「合理性」に対しては、3歳までの脳の重さが急激に重くなることは確かであるが、それは脳の「構造」ができるだけであって「機能」が発達するわけではないと反論している。乳幼児期には子供自身が興味をもって広義の学習活動を行うことで、その後の脳の発達に影響する。早期教育機関の教材の遊びでは、なんのために覚えなければならないのか本人の自覚がないものでは学習の効果は一時的なものになる(汐見、1996)。
 加藤(1995)は、現在進められつつある早期教育はもっとも現代的な形で組織された管理主義保育の典型であるといっている。早期教育には基本原則が存在し、しかもその原則には一定の方向と順序を認める。その原則は「もっと早く、もっと高く、もっと正確に」である。早期教育が考える「能力観」には、「人間観」が欠如している。

【開催日】
 2015年12月2日(水)

子どもの風邪に抗生剤を処方しないためには

―文献名―
Rita Mangione-smith, et al. Communication practices and antibiotic use for acute respiratory tract infections in children.Annals of family medicine. 2015;3(13):p.221-227.

―要約―
【目的】
 この研究では、小児の風邪(急性呼吸器感染症acute respiratory tract infection;ARTI)の診療における、医師のコミュニケーションと抗生剤処方および親による診療評価との関係について調査した。

【方法】
 ARTIの症状を主訴に受診した小児の診療1285件について横断研究を行った。対象となった小児は2007年12月から2009年4月までの間にワシントン州シアトル市の10の診療所に勤務する28人の小児科医のいずれか1人の診療を受けた。医師は小児の症状・身体所見・診断・治療を診察後調査票に記入し、親は医師のコミュニケーションと診療の評価を診察後調査票に記入する。多変量解析を行い、ARTIに対する抗生剤処方および親の診療評価に対してキーとなる予測因子を特定した。

【結果】(Table 1-4参照)
 子どもの症状をやわらげるために親ができることを提案すること(positive treatment recommendations)は、それ単独で、またnegative treatment recommendations(抗生剤の必要性を否定する)と組み合わせるとさらに、抗生剤処方の減少と関連することがわかった(adjusted risk ratio(aRR) 0.48; 95%CI, 0.24-0.95; and aRR 0.15; 95%CI, 0.06-0.40, respectively)。positive/negative treatment recommendationsの組み合わせを提示された親は診療に対して最高の評価をする傾向にあった。

【結論】
 positive/negative treatment recommendationsを組み合わせることが、ウイルス性のARTIの小児への抗生剤処方のリスクを減らし、同時に診療の評価を高めうる。コミュニティ・個人レベルで抗生剤耐性化の脅威が高まっており、コミュニケーションのテクニックは最前線の医師がこうした問題に取り組む上で助けとなるだろう。

―考察とディスカッション―
 今回の研究では、親が診察前に抗生剤の処方を期待しているかどうかについては評価していなかった。このため前医からの継続処方を期待している親に対象を絞ると結果が変わる可能性はあるが、第1子の風邪での初診などの機会にpositive/negativeを組み合わせて親の教育を行っていくことは重要と思われた。
 positive treatment recommendationsとしてどんな情報提供を行っていますか?

【開催日】
2015年6月3日(水)

ピーナッツアレルギーのリスクのある乳児へのピーナッツ負荷試験

―文献名―

George Du Toit M.B, et.aRandomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergyl. N Engl J Med 2015; 372:803-813February 26

―要約―
背景:
 西欧では小児のピーナッツアレルギーの有病率がここ10年で倍増している。また、ピーナッツアレルギーはアフリカやアジアでもみられるようになってきた。そこで筆者らは、ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児におけるアレルギー発症の予防に対して、ピーナッツを摂取する方法と摂取を回避する方法のどちらが有効かを調べた。

方法:
重度の湿疹、卵アレルギー、またはその両方を有する乳児640人を、生後60ヶ月までの間、ピーナッツを摂取する群(ピーナッツ群)と、摂取を回避する群(回避群)にランダムに割り付けた。対象となった小児は、生後4ヶ月以上11ヶ月未満だった。プリックテストによるピーナッツ抽出物への反応の有無によって、測定可能な膨疹が観察されなかった群と、直径1~4mm膨疹が観察された群に層別化し、ランダム化した。プライマリアウトカムは、生後60ヶ月時点でピーナッツアレルギーを有する参加者の割合とし、群ごとに独立に評価した。

結果:
プリックテストがベースラインで陰性だった530人では、生後60ヶ月時のピーナッツアレルギー有病率は、回避群13.7%、ピーナッツ群1.9% であった(P<0.001)。プリックテスト陽性であった98人では、同様に回避群35.3%、ピーナッツ群10.6%であった (P=0.004)。重篤な有害事象には群間差はなかった。
ピーナッツ特異的IgG4抗体の上昇はピーナッツ群でみられ、回避群では同IgE 抗体価の上昇がみられた。プリックテストでの膨疹がより大きいこと、ピーナッツ特異的IgG4/IgE比がより小さいことは、ピーナッツアレルギーの発症と関連していた。

結論:
ピーナッツに対するアレルギーのリスクが高い小児において、ピーナッツの摂取を早期に開始することで、アレルギーの発症頻度が有意に低下する。

【開催日】
2015年4月15日(水)

ペアレント・トレーニング

―文献名―
「むずかしい子を育てるペアレント・トレーニング」 野口啓示著 明石書店

―要約―
はじめに
 しつけとは、親の愛情を子どもに伝えるための方法である。しかし、しつけには子どもの成長に悪い影響を与えるものと、良い影響を与えるものの2つがあることが分かってきた。子どもに悪い影響が出てしまうしつけは、多くの場合叩いたり、怒鳴ったりといった罰を伴うしつけである。これらは、子どもにしてはいけないことを伝えるというより、親は怖いといった恐怖心を伝えてしまう。それにより子どもの成長に一番大事な親子関係にダメージを与えてしまう。親子関係が悪くなると、親と子のコミュニケーションが悪化し、その結果子どもの問題行動は増加する。その状況は親の苛立ちを強め、罰を伴うしつけを生み出しやすくなる。それによって親子関係はさらに悪化するというバッドサイクルに陥ってしまう。このサイクルが始まると、抜け出すのはなかなか難しく、抜け出すための方法が必要になる。
 この本では、アメリカで生まれたペアレント・トレーニングを日本流にアレンジした10の方法を紹介する。

1.わかりやすく伝えよう [具体的な言い方のすすめ]
 例えば、「今からレストランに行くから、ちゃんとしているのよ」「今日はいい子にしていてね」という表現はどうか。これで子どもが親のしてもらいたいことを理解するのは難しい。「レストランでは走り回らないで、座って食べる」というように、具体的にしてほしい行動を伝えることが重要である。

2.ほめることで悪い面をやっつけよう [良い面を増やして悪い面を減らす方法]
 人はほめられると嬉しくなる。その体験は行動を維持するのに大きな力を発揮する。ほめ方のコツは、①ほめ言葉をかける、②何が良いかを伝える、③理由を説明する、④もう一度ほめ言葉をかける、というステップを意識すると良い。

3.がんばり表を使って子どものやる気を引き出そう
 ほめることに役立つのが「がんばり表」である。具体的な行動を取り上げ、目標をはっきりさせる。それができたら表に○をつける。①子どもが喜んでする行動、②ときどきする行動、③ほとんどしない行動、の3つに分ける。がんばり表を作るポイントは、①子どもが喜んでする行動をうまく取り入れることである。子どもが達成しやすい目標をあげて成功体験をさせて、本当にできてほしい②や③の行動を少しずつ達成させていく。

4.前もってのお約束 [ころばぬ先の練習]
 何かが起こる前に、前もって子どもに言ってきかせる方法を紹介する。ここでは4つのステップで、子どもと約束をする。①子どもにしてほしいことを説明する、②理由を説明する、③練習、④お約束、である。練習をすることで、ただ口で説明するより子どもが教えられたことをするようになる。また、親がしてほしいことを子どもが理解しているのかを確認することができる。

5.まずは落ち着こう [不安感を減らして落ち着きを取り戻すプラン]
 親の苛立ちが強くストレスの高い状況から抜け出すため、落ち着きを取り戻すヒントを紹介する。叩いたり、怒鳴ったりするような状況の時は、我を忘れた状態になっていることが多い。それは状況にうまく対処できないのではないかという不安感が強い時に起こる。そのため少しでも不安感を下げるためのリラックス方法を考えておく。ここでは3つのステップを使う。
①状況の整理   「次に(       )が起こったとき」
②体の変化を察知「私が(       )を感じたら」
③リラックス     「私は(       )をして落ち着きを取り戻します」
この( )を埋めて、落ち着きを取り戻すプランを作成する。

6.行動を分析しよう
 子どもの問題行動を分析する。ポイントは、子どもの問題行動が起こった前後の状況を観察し、何が起こっていたのかを見ることである。子どもの行動が起こる前の状況はどんな状況だったのか、どんな刺激があったのか。それによってどんな行動に至ったのか。行動の後にどんな結果があったのか。結果によって行動は強められたり、弱められたりする。
 実際に行動を変えるためには、良い結果と悪い結果をうまく使い分ける。良い結果を使うのは、前述した「ほめる」「がんばり表を使う」という方法でできるが、悪い結果を使うのはどうか。叩く、怒鳴る、という方法は多くの場合有効ではなく、子どもが「しまった」と思えるものを使う。①特権を取り去る方法(子どもの楽しみに制限を加える)、②責任を取らせる方法(汚したら掃除をするなど、したことを償わせる)などが有効である。

7.怒鳴ったり叱ったりしないで子どもをしつける方法
 これまで紹介した方法を用いて、子どもをしつける。①共感的な表現を使って、問題行動をやめさせる、②悪い結果を使い、「しまった体験」をさせる、③子どもにしてほしいことを説明する、④練習、という4つのステップを使う。

8.危機介入 [親子で身につけるセルフコントロール]
 親が落ち着くための方法は5で説明したが、そのテクニックを子どもにも教える。興奮してくると人の言うことは聞こえなくなるので、親とともに子どもも落ち着きを取り戻す必要がある。ここでのステップは「まずは落ち着く」の第1ステップと、「セルフコントロールを教えるフォローアップ」の第2ステップの2つからなる。

9.子どもの発達と親の期待
 子どもの発達と親の期待がぴったりと合っていれば、そこにストレスはない。しかし、なんだか怒ることが増えているなと感じたら、一度立ち止まって、親としてどのような期待を子どもにしているのか考えてみると良い。
 子どもが言われたことをできない状況には、言われたことが理解できていない状況、実行する力がない状況の2つがある。具体的な表現を使って親の期待を詳しく教えること、そして教えたことを実際にさせてみて、教えたとおりにできるのか確認することで、その期待が適切なものであるのか確認できる。

10.問題解決法 [子どもとの話し合いをうまく行うための方法]
 問題を解決するために、子どもとの話し合いをうまく行うための方法を紹介する。ここでは①子どもが抱える問題を整理する、②どうしたら良いかの案を整理する、③メリットを考える、④デメリットを考える、⑤どうするかを決める、というステップを使う。

【開催日】
2014年12月17日(水)

子どもの運動はどの時期にどのようなことをしたらよいのか?

―文献名―
智原江美:幼児期の発育発達からみた運動遊びの考え方. 京都光華女子大学短期大学部研究紀要 49, 7-17, 2011-12

―要約―
はじめに
 近年、子どもの体力・運動能力は著しく低下しているといわれている。大人にとって便利になった社会環境の変化は子どもが環境に対応する機会や動きを習得する機会をことごとく奪ってしまっている。このような子どもを取り巻く環境の変化の中で、子どもにはどのような遊びや動きを経験させることが望ましいのであろうか。

子どもの体力・運動能力の現状
 愛知県での調査および神奈川県教育委員会による報告書のデータがある。これを用いて幼児の体力・運動能力の変化を概観すると、1969年から1999年の30年間の幼児の体力・運動能力の変化は、一概に低下しているとはいえなかった。特に、体格に関する測定項目である身長は5歳後半男児で1.1cm、体重は1.2kgの増加が見られ、体格が良くなって体格の向上が結果に直接影響するような20m走や、瞬間的に力を発揮すればよいような立ち幅跳び、反復横跳びなどもむしろ向上しているといえる。しかし、苦しい思いをして持久力を測定する懸垂や繰り返し練習をして初めて習得できる動きである投球能力を測定するテニスボール投げなどは大幅な低下傾向が見られた。
 一方、神奈川県教育委員会教育局スポーツ課は1986年、1997年、2002年、2006年の20年間に4回にわたり幼児の運動能力測定を行った。5歳後半男児の測定結果によると、「25m走」では0.25秒、「立ち幅跳び」は約1cm の低下、「テニスボール投げ」と「両足連続跳び越し」はほとんど変化がなく「テニスボール投げ」は高年齢になるほど個人差が大きくなり、記録の二極化傾向が見られる。また「立ち幅跳び」の主要素である「1回動作の強いキック力」は高いが、全力で走るときにはそれをうまく使えておらず、四肢を素早く、力強く、繰り返し動かす「身のこなし」の能力の低下を示している可能性がある。
 これら2 つの報告から考えると、幼児の体力・運動能力のすべてが低下しているとはいえないが、「身のこなしの不器用さ」、「持久力の低下」といった現代の子どもの運動経験がいかに少ないかということが浮き彫りになってくる。

乳幼児期の運動能力の発達
 ガラヒューは運動を発達的な視点からとらえて分類した。ガラヒューが表した「運動発達の段階とステージ」(1999)では、人間の運動は胎児期から1 歳ごろまでは「反射的な運動の段階」、3 歳ごろまでは「初歩的な運動の段階」、10 歳ごろまでは「基本的運動の段階」、10 歳以降は「専門的な運動の段階」とそれぞれのステージを経て発展していくと述べている。
 一方、身体の発達についてみてみると、スキャモンの発育曲線(1930)では身体の各器官、臓器の発育は大別すると四つのパターンに分類される。そのうち運動能力の発達に大きく関わるものは、一般型と神経型であり、特に乳幼児期の特徴として神経系型の発達が非常に顕著である。
 また、ブラウンは「子どもの運動技能発達のピラミッド」(1990)を表し、1~5歳頃までの「基本動作」を習得する段階と、5~7歳頃までの「より複雑な動作への移行」する時期との間には『運動技能熟達の障壁』が存在すると述べている。「基本動作を5歳ごろまでに経験しないと、成長にともなう向上に障壁ができ、新しい『技術』の獲得が困難になる」と警告を発している。また「幼児のうちにさまざまな動きを体験する機会を、親を中心とした周囲の人たちが積極的に与えなければ、潜在的には獲得可能なはずの運動の『技術』が身につきにくくなってしまう」とも述べている。
 このように、3~6歳までの幼児期は、運動発達の過程から見ても非常に重要な時期であり、その環境を整えることも重要である。

幼児期の3つの運動課題
 第1点はさまざまな「体位感覚」を経験することである。体位感覚とは自分の体が現在どのような状態であるかを把握したうえで、どのようにすれば通常の状態に戻ることができるかを考え実行できる能力である。たとえば頭部が腰の位置より下になるような逆立ちの状態から通常の頭部―胴体―脚部といった体位に戻すことができるような逆さ感覚や、マット上での前・後転の際に、また、鉄棒での逆上がりや前転の際に、自分のからだの状態を正確に把握し身体を回転させて通常の状態に体位を戻すことのできる回転感覚といった能力である。これらは体全体に占める頭部の割合が大きいため重心が上部にあり、また、神経系の発達する時期である幼児期に比較的容易に習得することのできる感覚である。これらの逆さ感覚や回転感覚などは器械運動や園庭・公園の固定遊具で遊ぶことで習得しやすい動きである。
 第2点は「歩く・走る」量の確保があげられる。移動の手段を車にたよっている今日の社会において大人も子どもも運動量が格段に減少している。子どもの体をつくるための運動量確保のためにも、日常の活動でできる限り歩いたり走ったりする量の確保が大切である。これは幼稚園や保育園に通う子どもにとっては保育環境の整備や、自然と子どもの活動量が多くなるような興味ある教材の提供が鍵である。
 第3点はいろいろなリズムで動くことの経験である。人間の通常の動きは歩くという2拍子の動作が基本となると考えられるが、例えばスキップやギャロップ、3拍子の動きなどの体全体でさまざまなリズムを体験、表現することがあげられる。これも神経系が達する幼児期がもっとも習得しやすい時期である。
 幼稚園・保育園や家庭における日常の遊びの中で幅広い運動遊びを経験することにより自然に多くの動きを習得することが望ましい。また、運動遊びの中で重要なことは、運動の楽しさを味わい自発的に運動に取り組む意欲が持てるような環境の設定、教材の提供、保育者のかかわりが重要になる。体を動かすことの楽しさや爽快さを経験することが生涯にわたって運動する習慣の基本となるであろう。

【開催日】
2014年9月3日(水)

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