6ヶ月未満の乳児におけるCOVID-19関連入院に対する妊娠中のmRNACOVID-19ワクチンによる母体ワクチン接種の有効性-17州

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Natasha B. Halasa, MD, Effectiveness of Maternal Vaccination with mRNA COVID-19 Vaccine During Pregnancy Against COVID-19–Associated Hospitalization in Infants Aged. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Feb 18; 71(7): 264–270.

-要約-
COVID-19の予防接種は、妊娠中、授乳中、妊娠希望している人、または将来妊娠する可能性のある人をCOVID-19から守るために推奨されている。乳児は、急性呼吸不全などCOVID-19による生命を脅かす合併症の危険性がある。他のワクチンで予防可能な疾患から得られた証拠によると、母体免疫は、特にリスクの高い生後6カ月間に、経胎盤的な受動抗体移行により乳児を保護することができる。妊娠中のCOVID-19ワクチン接種に関する最近の研究では、SARS-CoV-2特異的抗体の経胎盤移動が乳児に保護を与える可能性を示唆している。しかし、妊娠中の母親の免疫による乳児のCOVID-19に対する保護効果についての疫学的証拠は今のところ存在しない。
検査陰性、症例対照研究デザインにより、症例乳児の母親と対照乳児の母親(SARS-CoV-2検査結果が陰性の者)の妊娠中に2回の一次mRNA COVID-19ワクチン接種シリーズを完了した確率を比較して、ワクチン性能を評価した。参加した乳児は6か月未満であり、2021年7月1日から2022年1月17日までの間に20の小児病院の1つに出生入院以外で入院した。この期間中、SARS-CoV-2デルタ変異体は米国で優勢な変異体だった。12月中旬までの州で、その後オミクロンが優勢になった。症例-乳児は入院の主な理由としてCOVID-19で入院したか、急性COVID-19と一致する臨床症状を示した。症例の乳児は、SARS-CoV-2逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)または抗原検査の結果が陽性。多系統炎症性症候群の診断を受けた乳児はいない。対照乳児は、COVID-19症状の有無にかかわらず入院し、SARS-CoV-2RT-PCRまたは抗原検査の結果が陰性であった乳児。登録された対照乳児は、部位ごとに症例乳児と照合され、症例乳児の入院日から3〜4週間以内に入院した。
ベースラインの人口統計学的特性、臨床情報、およびSARS-CoV-2検査履歴は、入院中または退院後に訓練を受けた研究担当者が実施した親または保護者のインタビュー、および乳児の記録の電子医療記録レビューを通じて取得された。母親はCOVID-19ワクチン接種歴について尋ねられた。投与回数、妊娠中に投与を受けたかどうか、ワクチンを受けた場所、ワクチン製造業者、COVID-19ワクチン接種カードの入手可能性などが含まれる。研究担当者は、州の予防接種登録、電子医療記録、またはその他の情報源(プライマリケア提供者からの文書など)を含む文書化された情報源をレビューして、予防接種の状態を確認した。
 母親は,資料に基づいて、またはもっともらしい自己申告(接種日および場所の提供)により、ファイザー・バイオンテックまたはモデルナのmRNA COVID-19ワクチンの2回接種シリーズを完了した場合、COVID-19のワクチン接種済みとみなした.母親のCOVID-19ワクチン接種状況は、1)未接種(乳児の入院前にCOVID-19ワクチンを接種しなかった母親)、2)ワクチン接種††(妊娠中に2回分の一次mRNA COVID-19ワクチンシリーズを出産前14日以上に完了した母親)に分類された。妊娠中または出産後の母親の SARS-CoV-2 感染状況は、この評価では記録されていない。母親は、妊娠中に部分的にワクチン接種された場合(妊娠中に1回接種し、妊娠前には接種しなかった場合)(71人)、Janssen(Johnson&Johnson)COVID-19ワクチン(4人)を受け、COVID-19を2回接種した場合、妊娠前にCOVID-19ワクチンを2回接種(7人)、出産前14日以上でCOVID-19ワクチンを2回より多く接種(10人)の場合は除外した。
 症例乳児と対照乳児の特徴を比較するために記述統計(カテゴリー別結果についてはピアソン・カイ二乗検定およびフィッシャーの正確検定、連続結果についてはウィルコクソン・ランクサム検定)を用いた。乳児の COVID-19 入院に対する母親のワクチン接種の効果(すなわち、ワクチン効果[VE])は,ロジスティック回帰モデルから求めた VE = 100% ×(1-症例乳児および対照乳児の母親が妊娠中に COVID-19 mRNA ワクチンの 2 回投与を完了する調整オッズ比)式で算出した。モデルは、乳児の年齢と性別、米国国勢調査の地域、入院の暦年間、および人種/民族で調整された。その他の因子(例:乳児の基礎疾患、社会的脆弱性指数、行動因子)も評価したが、ワクチン接種のオッズ比を5%以上変化させなかったため、あるいは多くの乳児に関するデータ(例:母乳歴、未熟児、保育参加)が得られなかったため、最終モデルには含まなかった.二次解析では、母親が妊娠初期(最初の 20 週以内)および妊娠後期(21 週から出産 14 日前まで)に 2 回目の COVID-19 ワクチン接種を受けた場合の有効性を評価した。統計解析はSAS(バージョン9.4;SAS Institute)を用いて行った。
2021年7月1日から2022年1月17日の間に、17州の20の小児科病院において、483人の対象乳児のうち、104人(22%)が除外され、71人の除外乳児は妊娠中に部分接種した母親から生まれたか出産後に接種し、10人は出産14日以上前に3度目のワクチン投与を受けた母親から生まれ、23人は他の理由により除外された。残りの入院乳児379人(症例乳児176人、対照乳児203人)の年齢中央値は2カ月で、80人(21%)が少なくとも1つの基礎疾患を有し、72人(22%)が未熟児として生まれた(表1)。症例児のうち、妊娠中にCOVID-19ワクチンを2回接種した母親は16%であったが、対照児の母親は32%が接種していた。症例児と対照児の基礎疾患(それぞれ20%と23%、p=0.42)および未熟児(それぞれ23%と21%、p=0.58)の有病率はほぼ同じであった。症例児は対照児(それぞれ9%と28%)に比べ、非ヒスパニック系黒人(18%)とヒスパニック系(34%)の割合が高かった。

Table 1. COVID-19(症例乳児)で入院し、COVID-19(対照乳児)で入院していない生後6か月未満の乳児の特徴— 20の小児病院、17の州、* 2021年7月から2022年1月

 症例児のうち、43人(24%)が集中治療室(ICU)に入院した(Table 2)。25例(15%)の乳児は重症で、入院中に人工呼吸、血管作動性輸液、体外式膜酸素療法(ECMO)などの生命維持療法を受けており、これらの重症乳児のうち1例(0.4%)が死亡した。ICUに入院した43例の乳児のうち、88%は母親がワクチン未接種であった。ECMOを必要とした1例と死亡した1例の母親は、いずれもワクチン未接種であった。

Table 2. COVID-19で入院した6か月未満の乳児の臨床転帰と重症度、妊娠中の母親の予防接種状況別* — 20の小児病院、17の州、† 2021年7月〜2022年1月

妊娠中に母親の一次mRNA COVID-19ワクチンシリーズを2回接種した場合の、6カ月未満の乳児のCOVID-19関連入院に対する有効率は61%(95% CI = 31%~78%) であった(Table 3)。ワクチン接種済みと分類された母親93人のうち,90人(97%)がワクチン接種日を記録していた。妊娠初期(最初の20週)の2回接種COVID-19シリーズの効果は32%(95%CI=-43%~68%)であったが、信頼区間が広く、慎重に解釈する必要があり、妊娠後期(21週~出産14日前)は80%(95%CI=55%~91%)であった。

Table 3. 妊娠中の母親のワクチン接種のタイミングによる、6か月未満の乳児におけるCOVID -19関連の入院に対する母親の2回投与一次mRNA COVID-19ワクチン接種の有効性 — 20の小児病院、17の州、2021年7月〜2022年1月

Discussion
妊娠中のCOVID-19は重症化および死亡と関連しており、COVID-19を有する妊婦は早産、死産およびその他の妊娠合併症を経験する可能性が高い。重症化や死亡を含むCOVID-19の予防のために、妊婦へのワクチン接種が推奨されている。COVID-19のワクチン接種は、妊娠中に行うことで安全かつ効果的である。妊娠中のCOVID-19ワクチン接種は、出産時の母体血清、母乳および母体抗体の移行を示す乳児血清で母体抗体が検出されることと関連している。妊娠後期にワクチン接種を受けた女性から生まれた乳児のVE点推定値が高いことは、乳児に保護を与える可能性のあるSARS-CoV-2特異的抗体の経胎盤移動の可能性と一致する。乳児を保護する抗体が移行するための母親のワクチン接種の最適なタイミングは現在のところ不明であり、乳児の重症COVID-19の予防における母親のCOVID-19ワクチン接種の直接的効果は、これまで報告されていない。さらに、現在、乳児はワクチン接種の対象年齢ではなく、乳児の入院率はパンデミックの最高レベルにとどまっていることから、本研究は、妊娠中の母親のCOVID-19ワクチン接種が生後6カ月未満の乳児をCOVID-19による入院から守る可能性を示唆するものであった。

Limitations第1に、特定の変異体に対するVEを直接評価することができなかった.第2に、サンプル数が少ないため、ワクチン接種の妊娠三期別のVEを評価することができず、サンプル数が少ないため、いくつかの推定値の信頼区間が広くなり、慎重に解釈する必要がある。第3に、この解析では、妊婦が妊娠前または妊娠中にSARS-CoV-2に感染していたかどうかを評価しておらず、それによって母体の抗体が得られたかもしれない。第4に、感染リスクに影響を与える可能性のある、ワクチン接種者と非接種者の母親の行動の違い(母親が出生前ケアをしていたかどうかなど)などの交絡が残っており、潜在的交絡因子(例えば、母乳、保育への出席、未熟児)は、すべての乳児についてこの情報が得られなかったため、モデルで説明することができない。第5に、この解析には少数の参加者の自己報告データが含まれるため、母親のワクチン接種状況が少数の乳児について誤って分類されているかもしれない、あるいは母親が妊娠中にCOVID-19ワクチン接種を完了したかどうかについての記憶が不完全である可能性がある。第6に、母親がプライマリーシリーズを完了するために追加の mRNA COVID-19 ワクチン接種を必要とするかどうかを判断するために、母親の免疫不全状態が収集されていないことである.最後に、妊娠中に受けた母親のブースター用量のVEは、サンプルサイズが小さいため、評価できなかった。
生後6カ月未満の入院乳児379人(COVID-19を接種した176人[症例乳児]、COVID-19を接種しなかった203人[対照乳児])のうち、月齢中央値は2カ月、21%が少なくとも1つの基礎疾患を持ち、症例乳児と対照乳児の22%が早産(妊娠37週未満)で生まれたことが分かった。生後6カ月未満の乳児のCOVID-19入院に対する妊娠中の母親のワクチン接種の有効性は61%(95%CI=31%-78%)であった。妊娠中に 2 回の mRNA COVID-19 ワクチン接種シリーズを完了することで、生後 6 ヵ月未満の乳児の COVID-19 入院を予防できる可能性がある.CDCは、妊娠中、授乳中、現在妊娠を希望する女性、または将来妊娠する可能性のある女性がCOVID-19のワクチン接種を受け、最新の状態を保つことを推奨している。

【開催日】2022年6月1日(水)

小児アトピー性皮膚炎における頻繁な入浴と頻度の少ない入浴:無作為化臨床試験

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Cardona ID, Kempe EE, Lary C, Ginder JH, Jain N. Frequent Versus Infrequent Bathing in Pediatric Atopic Dermatitis: A Randomized Clinical Trial. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020;8(3):1014-1021. doi:10.1016/j.jaip.2019.10.042

-要約-
Introduction:アトピー性皮膚炎(AD)は慢性の皮膚炎症で世界中のこどもの15~30%に影響を及ぼしている。アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能障害と免疫調整障害を特徴とする。その高い有病率にも関わらず、小児アトピー性皮膚炎に関する入浴頻度を含む最良の入浴方法を評価した研究はほとんどなく、その結果、アトピー性皮膚炎のガイドラインでは一貫した根拠はない状態である。アトピー性皮膚炎を持つ子供の親はしばしば矛盾する情報を受け取り、不満と混乱を生んでいる。プライマリケア医の50%以下しか毎日の入浴を進めていないのに対して、専門医(アレルギー専門医、免疫学者、小児皮膚科医)の50%以上が毎日の入浴を推奨しているというデータもある。
これらの研究からPCPsより専門医は毎日の入浴を推奨する傾向にあり、矛盾したアドバイスは混乱と不満をうむ原因となりうる。
中等度から重症のアトピー性皮膚炎の小児に対するwet-wrap therapy(WWT)による閉鎖療法は効果的であるとされている。Soak and smear(or Soak and Seal)(SS):少なくとも10〜15分バスタブに浸かって、すぐに乾かし、皮膚軟化剤で閉鎖をする方法も急性期に効果的であることが示されている。アトピー性皮膚炎の病態生理学に置いて皮膚の水分補給と経表皮水分喪失量の重要性を考慮し、SS入浴は局所薬剤の浸透を促進し、水分喪失を防ぐことによってWWTを模倣する可能性があることを考慮し、頻繁なSS入浴は小児のアトピー性皮膚炎において入浴を制限するよりも効果的であるかもしれないと仮定した。
我々の目的は重症のアトピー性皮膚炎に対して急性期の治療介入として、1日2回、15~20分、SS入浴すること(Wet method : WM)と、週2回、10分以下でSS入浴すること(dry method : DM)の効果を比較することである。また、水分補給状態やStaohylococcus aureusのコロニー形成する密度をWM、DM間で定量化した。

Method:どのような方法を用いたのか、特殊な方法であれば適宜解説を入れる。
アメリカのメイン州の病院関連のアレルギー免疫学診療所でシングルブラインドのクロスオーバー試験を使用したランダム化試験を実施した。対象者はSCORing Atopic Dermatitis(SCORAD)index*1で25以上(中等度〜重度)のアトピー性皮膚炎の6ヶ月〜11歳の小児に対する、頻繁に行うSS入浴と頻繁には行わないSS入浴の頻度を比較した。
2グループに1:1でランダム化した。
グループ1は週に2回、10分以下のSS入浴を2週間に渡る(DM)実施したのち、日に2回、15~20分のSS入浴を2週間に渡る(WM)実施した。グループ2はその反対の順番で実施した。
患者は同じ保湿剤、洗剤、低ランクの局所コルチコステロイド(TCS)を投与された。Primary outcomeはSCORing Atopic Dermatitis(SCORAD)indexを利用してADの重症度を評価した。
Secondary outcomeはアトピー性皮膚炎の重症度(アトピー性皮膚炎クイックスコア(ADQ)*2、QOL、staphylococcal aureusのコロニー形成密度、皮膚の水分補給状態、保湿剤、局所コルチコステロイドの使用量に関する評価された。

Results:
63人の小児をスクリーニングし、42人が基準を満たし、ランダム化された。(Figure1)
ADの重要度に関して、両群でWMのSCORADの平均変化がベースラインから大幅に減少していることがわかった。
WM、DM間のSCORAD治療効果のモデル推定値は21.2だった。[95%CI 14.9-27.6;P<.0001](table2 95%CI,14.9-27.6;P<.0001).SCORADの臨床的に重要な値の変化は8.7であり、この変化はその差を超えていた。
ある研究では症状の30%の減少が臨床的に重要であると見なされており、マクマネー検定で二次解析すると、WMで30%の改善を達成した患者は23人で、DMでは6人だった。WMはDMに対して大幅な改善を示していた(Figure 2: McNemar’sX2=8.83,df=1,P=.0030) 同様にWMはADQを5.8減少させ、(tableⅡ 95%CI,1.8-9.7)統計的に優位な改善を示した。さらにSCORADの変化はADQの変化と相関していた(図3r=0.66)しかし、ADQの解析ではSCORADと同様の傾向を示したが、優位性には達しなかった。(P=.061)
そのほかの二次解析では優位な変化は認めなかった

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
中等度から重度のアトピー性皮膚炎の小児に対する、保湿剤やステロイド外用などの通常ケアに加え、入浴の頻度の影響を調べ、Wet methodはSCORADやADQで比較した場合に統計的、臨床的に優位に改善を示すことがわかった。これらのデータにより1日2度のSoak and seal入浴が中等度から重度のアトピー性皮膚炎の重症度を減らすことが示された。
今回の研究はsingle blind の前向き、クロスオーバーデザインのランダム化試験を使った、SSを組み合わせた入浴頻度に関する疑問における初めての研究である。SSと組み合わせて入浴頻度を評価する研究は数、サイズ、質、に制限があるが、我々の研究で見られたWMアプローチの有効性はこれまでの研究と一致している。
今回の研究の結果の説明として最も可能性の高いのはTCSの吸収の強化と潜在的なアレルゲンや刺激物の「洗い流し」が皮膚バリアの改善ではなく免疫調整不全を改善したことである。これまでのエビデンスでは乾燥している角質層より湿潤している角質層の方が局所薬はよく浸透することが示されている。その結果WMはwet wrap therapyの有効性を示されたメカニズムと同様に、TCSの有効性を高めることによりステロイドを節約することができるかもしれない。また、皮膚へのアレルゲンの暴露がアトピー性皮膚炎の炎症を引き起こしている可能性があり、WMはこの炎症の原因となる鱗屑、外皮、アレルゲン、刺激物をより効果的に除去する可能性がある。
小児ADの表現型は成人の慢性疾患とは実質的にことなると考えられており、今回は小児集団を研究しており、成人にそのまま適応することはできない。小児ADではTH2およびTH17/TH22応答の増加とTH1活性化およびINF-γ応答の低下を特徴とする。アトピー性の低い成人集団でこれらの結果が一貫しているかどうかはっきりしていない。
現実の世界で1日2回のSS入浴は手間がかかり、家族にとってはアドヒアランスが難しくなる可能性があると認識している。我々の研究では高いアドヒアランスだったが、入浴ログと患者への直接の電話連絡が必要なこともあり、これらのインセンティブは研究以外の環境では存在しない。我々の研究は患者が中等症から重症の場合に短期間(2週間)の急性治療介入であることを意味しており、1日に2回の入浴は家族により労力を強いることになるが、少ない入浴よりはより効果的であることを示した。また、中等度から重度程度の場合にウェットラップ両方を行う必要やより強力な局所ステロイドなしに、湿疹の重症度を改善する可能性を示した
ADの治療および予防におけるSS入浴頻度の役割を評価するには、より大規模な研究が必要である。 更なる研究により、TCSを使用しないWMアプローチが長期的にADのリスクを軽減できるかどうか判断される可能性があるが、中等度から重度のADの6ヶ月〜11歳の小児では、急性期治療としてWMアプローチを行うことが、標準治療のTCSへの介入として安全であり、ADの重症度を低下させ、ステロイドの節約効果がある可能性がある。

 

*1<アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018より>
JC2020白水1

*2 ADQ
JC2020白水2

Carel K, Bratton DL, Miyazawa N, Gyorkos E, Kelsay K, Bender B, Strand M, Atkins D, Gelfand EW, Klinnert MD. The Atopic Dermatitis Quickscore (ADQ): validation of a new parent-administered atopic dermatitis scoring tool. Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Nov;101(5):500-7. doi: 10.1016/S1081-1206(10)60289-X. PMID: 19055204.

Figure 1
JC2020白水3

TableⅡ
JC2020白水4

Figure 2
JC2020白水5

Figure 3
JC2020白水6

【開催日】2020年12月9日(水)

思春期の主観的心身症状の軽減に及ぼす学校ベースの家庭と連携した生活習慣教育の効果:クラスターランダム化比較試験

-文献名-
Junko Watanabe, Mariko Watanabe, et al.
Effect of School-Based Home-Collaborative Lifestyle Education on Reducing Subjective Psychosomatic Symptoms in Adolescents: A Cluster Randomised Controlled Trial. PLOS ONE. October 25, 2016. DOI: 10.1371/journal.pone.0165285

-要約-
背景 
 思春期は、思春期及それ以降の人生の、肥満[1-3]、メタボリックシンドローム[4]、および有害な心理学的(心身症または精神医学的)症状[5,6]などの潜在的な慢性的な健康問題を、改善または予防するためのいい機会であり、人生の重大なステージである[7]。肥満を予防するためのライフスタイルの改善方法に関する、学校ベースのクラスターランダム化比較試験が、西欧では数多く行われているが、アジアではほとんど行われていない。
 また、肥満だけでなく、精神衛生上の問題も、世界中の子どもおよび青年の10~20%に見られると報告されている[15]。思春期のライフスタイルと主観的心身症状(SPS)スコアとの関連が報告されているが [16,17]、思春期のライフスタイルを変えるための介入がSPSスコアの改善に有効かどうかを検証した研究はほとんどない [18,19]。日本で、SPSスコアの悪い人が急速に増加していることを考慮すると[20]、日本の思春期の青少年に広く用いることのできる、効果的な生活習慣と行動の介入プログラムを開発することが重要である。
そこで我々は、思春期の青少年の不良なSPSスコアを改善するために、学校ベースで家庭とも協働した生活習慣教育プログラム(Program for ADOlescent of lifestyle education in Kumamoto, PADOK)を開発した。PADOKの設計は、先行研究[9, 21-25]で述べられた戦略に基づいており、各食事時の栄養摂取量を評価することで習慣的な食事摂取量を評価するために開発されたFFQW82食物頻度調査票を用いた評価によって、自発的に思春期の生活習慣を変え、食習慣についてのフィードバックを提供することを目的とした[22,23]。家庭での協力支援を加えることで、好ましい効果が得られる可能性がある。

方法
 思春期の生徒を対象としたPADOKの主観的精神身体症状(SPS)の改善に対する有効性を検討した。

【研究デザイン】個々の中学校を配分単位とし、個々の参加者を分析単位とした2アーム型の学校ベースの2群並行クラスター比較対照試験。

【対象】熊本県の19の中学校から募集された、中学1〜2年生の生徒(12~14歳、n=1,565)を研究対象とした。体調不良などで登校していない生徒や、参加したくない生徒は除外した。

【ランダム化、盲検化など】
PADOKグループとコントロールグループには無作為化リストを用いてpermuted-block法で割り付けた。介入の特徴上、被験者への盲検化はできなかったが、評価者には盲検化していた。

【介入】介入は、2013年5月から2014年1月まで、保健の授業中に行われた。
<PADOKプログラム>:Figure 2参照。FFQW82を用いた食事摂取量の評価に基づき、思春期の生徒の不良なSPSを改善させる目的でPADOKプログラムが実施された。PADOKの介入は、6回の教室での授業、5回の生徒と保護者による対話型の宿題計画、授業と宿題のためのテイラーーメイドのテキストブック、そして6ヵ月に4回の学校通信で構成されていた。
<通常ケア>:通常の学校プログラム(対照群)の生徒は、通常のカリキュラムに従って学校が提供する健康教育セッションに参加した。セッションは、FFQW82を用いた食生活評価のために外部から招聘した講師によって提供された。通常のケアとは、参加している各学校で日常的に教えられている食事および/または運動に関する既存の健康カリキュラムであった。 Figure 1, 2

【栄養士・学習支援補助者の研修】
 栄養士である試験指導者によって行われた。研修は終日(8~10時間)、試験管理センターで行われた。研修期間中、介入の根拠が説明され、各レッスンと宿題が対話的に議論された。
訓練を受けた4人のファシリテーターが、登録栄養士と一緒に各セッションを指導した。ファシリテーターは、少なくとも関連分野の大学の学部卒、適切な専門職歴、または思春期の子どもたちとの関わりの経験を有していた。すべてのセッションにおいて、介入はファシリテーターの観察下で行われた。

【アウトカム測定】
質問紙をベースライン時と介入6ヶ月後の時点で、学生に記入してもらった。
<プライマリアウトカム>SPSスコア。SPS質問紙は9つの症状(疲労感、頭痛、倦怠感、イライラ、集中力低下、意欲低下、朝の目覚めの悪さ、胃腸の不調、肩こり)から構成されている。各症状の経験の有無については、「0 = 一度もない」、「1 = まれに」、「2 = 時々」、「3=よくある」、「4=いつもある」 をリッカート尺度で測定し、9 項目のカテゴリ値の合計として SPS スコア(0-36 点)を算出した。SPS、SPS-Dともに、スコアが高いほど症状が悪い。
<セカンダリーアウトカム>学校生活の楽しみ、BMI、食事摂取量などの生活習慣因子をFFQW82で評価した(Table1参照)。FFQW82 は 82 種類の食品リストから構成されており、各食事(朝食、昼食、夕食)ごと、食品群ごとに、過去 1 ヶ月間の食生活を算出することができる。

【解析】
ベースラインでの試験群間のバランスを評価するために記述統計を用いた。クラスター無作為化が成功していることを確認するために、介入群と対照群の差の有意性をカイ二乗検定とt検定を用いて検討した。一次効果は、PADOK群と対照群のSPSスコアのベースラインから6ヵ月間の変化の差を計算することで評価した。一次分析は、intention to treat(ITT)で実施された。解析には最尤法を用いた線形ランダム効果混合モデルを用いた。連続変数の分析には、制限付き最尤法を用いた一般的な線形ランダム効果混合モデルを用いた。介入の効果を調べるために、アウトカム尺度を粗モデル(モデル1)、ベースライン値で調整したモデル(モデル2)、多変量データで調整したモデル(ベースライン、性、年齢、BMIで調整した)(モデル3)を用いた。
セカンダリーアウトカムについては ITT/LOCF 法を用いて二次解析を行った。感度解析は、ITT/LOCF の SPS-D スコアの解析を含む事前に決定された基準に従って、全データセットから特定されたプロトコルセット(PPS)を用いて、一次アウトカムと二次アウトカムの感度解析を行った。二次アウトカムについては、一般化線形ランダム効果混合モデル(ロジスティックモデル)を解析に使用し、関連性をオッズ比とその95%信頼区間(CI)で示した。
結果
【ベースライン】
Figure1参照。
参加19校はPADOK群(10校)と対照群(9校)に無作為に割り付けられた。登録された生徒数は1,509名であった。6ヵ月後、1,420人の参加者が身長、体重、SPS、生活習慣因子、食事摂取量(FFQW82)の最終評価を完了した。
Table1は、PADOK群と対照群に割り付けられた参加者のベースライン特性を示している。
SPSスコアのクロンバッハα係数は0.88であった。ベースライン時のSPSスコアはPADOK群23.2(3.9),対照群22.8(6.6)であった。ベースライン時の各測定された生活習慣因子とエネルギー摂取量(kJ)を持つ参加者の割合は、両群間で大きな差はなかった。ベースライン時の「1回の断食あたりに消費された野菜」については、介入群と対照群の間に統計的に有意な差(P = 0.012)があった。対照群では、介入群よりも高い頻度で習慣化していた。

【プライマリアウトカム】
ITT/LOCF解析で評価した6ヵ月後のSPSスコアのベースラインからの平均変化量は、粗平均差ではPADOK群が対照群に比べて有意に減少した(-0.95、95%CI-1.70~-0.20、P = 0.016)。SPSスコアの減少(すなわち、負の変化)は、対照群と比較して介入群のSPSの改善を示している。ベースライン調整値(-0.72、95%CI -1.48~0.04、P = 0.063)およびマルチバリアート調整値(-0.68、95%CI -1.58~0.22、P = 0.130)のベースラインからの平均変化は、同様の方向性を示したが、有意ではなかった(表2)。ITT/MI法で得られた結果もこれらと同様であった。SPS-Dスコアについては、粗値、ベースライン調整値、マルチバリアート調整値でベースラインからの平均変化が有意であった。また、感度分析では、各分析とも同様の結果が得られた。

【セカンダリーアウトカム】
PADOK群では、ITT/LOCF分析の結果に応じて、測定された生活習慣のいくつかが改善された。これらの改善(モデル2およびモデル3ではオッズ比[OR]<1)が会ったのは、「学校生活を楽しむ」(OR [95%CI]:0.55 [0.33~0.92]、P=0.022、0.52[0.33~0.84]、P=0.008)、「朝食1回あたりの主食消費量」(0.69[0.50~0.96]、P=0.028、0.68[0.48~0. 65])、「朝食あたりの主食消費量」(0.69[0.50~0.96]、P=0.025)、「朝食あたりの野菜消費量」(0.65[0.45~0.93]、P=0.018)であった。モデル3のものは、これと同様であった(表3)。 感度分析(PPS分析)で得られた結果は、上記とほぼ同様の結果が得られた(表3、表4参照)。また、FFWQ82で評価した食事摂取量については、PADOK群と対照群との間に有意な差は認められなかった。 ディスカッション  PADOKの介入プログラムは思春期のSPSスコアの改善に有効であることが示唆された。また、学校生活の主観的な楽しみ、主食、主菜、主菜、朝食時に消費される野菜の1日の摂取量の増加など、いくつかの生活習慣の改善も観察された。  私たちの調査結果は、定期的に朝食を食べた学生は、学校でより良い行動を取り、そうでない人よりも仲間とうまくやっていく可能性が高いことを報告した先行研究のものと一致していた [33]。瞑想、リラクゼーション、レクリエーション、自然の中での時間など、治療的なライフスタイルの変化の多くは楽しいものであり、それゆえに自立した健康的な習慣になる可能性がある [34]。  PADOK群の生徒の先生方が生活習慣教育の重要性についての考え方を変え、一般授業での改善を目指していた可能性は否定できない。そうであれば、それはPADOK介入の副次的効果と考えることができる。PADOKがSPSの低減と健康促進のための生活習慣行動の促進にどのような効果があるのか、その詳細なメカニズムを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。 強みと限界  我々は、介入に生徒の保護者を参加させることが重要であると考えた [38]。これを達成するために、生徒はPADOKプログラムから得た知識を保護者と話し合うように求められた。家庭での協力的な支援を含めることは、好ましい効果を得るのに役立つかもしれない。思春期の生徒の身体活動介入に関する以前のクラスター化RCTでは、親の支援を含む介入により、学校関連の身体活動の自己報告が増加した [12, 39]。我々の研究では、生徒、その保護者、登録栄養士の間の情報交換に教科書を使用した。教科書のノートを利用することで、3 者間での自由な情報交換が可能であった。このように、3者間での共通理解が生まれることが期待された。 本研究にはいくつかの限界があった。第一に、PADOKプログラムの成功は管理栄養士のスキルにある程度依存していることである。この問題に対処するために、我々は登録管理栄養士が無作為化試験開始前に行うトレーニングプロセスを開発した。また、SPSの自己申告による評価に依存し、診断的な相互評価は行っていない。したがって、SPSの状態に重要な変化があった可能性がある。  第三に、結果の一般化可能性については、熊本県の日本人中学生に限定した。また、当初 178 校に参加を依頼したところ、19 校が参加に同意し、残りの 159 校は参加を辞退した。その理由として最も多かったのは、「カリキュラムが既に決まっていて変更できない」というものであった。そのため、本試験に含まれるサンプルセットは、平均よりも革新的な学校を過剰に代表している可能性があり、バイアスのリスクがあると考えられる。しかし、無作為化を実施したので、リスクが存在することは否定できないが、バイアスのリスクは小さい。利用可能なデータ[20]によれば、熊本の生徒の健康状態や活動状況は日本の平均的な青年期と大差がなかったことを考えると、この結果は日本の他県の一般的な青年期にも当てはまる可能性がある。第四に、介入期間は6ヶ月であったが、より長期の介入は児童生徒の精神衛生を改善することが明らかにされている[40]。さらに、健康行動介入がメンタルヘルスのアウトカムに「波及効果」を持つ可能性があるという証拠も出てきており[41, 42]、これも考慮すべきである。PADOKプログラムの長期的な効果と費用対効果を評価するためにはさらなる研究が必要である。第5に、クラスタランダム化が成功したことを確認するために、介入群と対照群の間のベースライン値の差を調査した。いくつかの変数が有意な差を示したが、ランダム化の性質上、これらの差は偶然に生じたものである可能性があると考えられる。最後に、LOCF法を用いて欠落アウトカムを推定した。介入群と対照群のフォローアップまでの喪失率は同程度であった(それぞれ40[5.0%]、49[4.9%])。 結論   これまでのところ、日本の青年期に生活習慣の介入を行うことが不良なSPSスコアの改善に及ぼす効果については、クラスターRCTからのエビデンスが不足していた。我々の試験は、この文献のギャップを埋めるものである。その結果、熊本の中学校で実施された生活習慣介入プログラムは、青年のSPSスコアを改善し、朝食時に主食、主菜、野菜を毎日定期的に摂取し、学校生活の楽しみが増えたと報告する参加者の割合を増加させたことが示された。この試験集団はPADOKプログラムのアドヒアランス率が中程度に高いことを示しており、これは、より広範な学校ベースの家庭での共同実践においてPADOKプログラムが実現可能であることを示す重要な指標である。本研究は、熊本地域の児童生徒のみならず、日本の青少年全般を対象とした生活習慣教育介入を設計する上で有用な情報を提供するものである。 JC20201007柏﨑1

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【開催日】2020年10月7日(水)

愛着理論で、家庭医療における医師・患者関係の新しい理解を付け加える

-文献名-
Darren Thompson and Paul S. Ciechanowski
The Journal of the American Board of Family Practice May 2003, 16 (3) 219-226; DOI: https://doi.org/10.3122/jabfm.16.3.219

-要約-
<背景>
家庭医は、患者とその家族のケアの継続性の結果として、患者との永く続く臨床上の関係を形成する独自の姿勢を備えている。患者と医療提供者の同盟に対する協力度と満足度は、さまざまな医学的問題にわたる治療アウトカムに重要な意味を持つことが示されている。最適なケアを提供するには、家庭医が、患者と自分自身の両方で、ヘルスケアの関係に過去の関係の臨床的に関連する側面が現れるという後遺症を理解する必要があります。これらの重要な側面の認識を支援するには、概念モデルが不可欠です。
<方法>
MEDLINEを使用して文献検索を実施した。キーワードは「illness」と「愛着理論」とした。 35件の英語のみの記事があり、そこからさらに関連記事を収集した。
<結果>愛着理論は、医師と患者の関係の重要な特徴を強調するための有用なモデルとして機能する。これは、家庭医療のセッティングで治療結果に影響を与える可能性がある。愛着理論では、誰もが初期の養育者に強い愛着の絆を形成する生来の欲求を持っていると仮定する。確実に生き抜くために、子供はその絆を介護者の愛着スタイルに適合させる。時間が経ち成熟していく過程で、人は、これらの初期の、そしてある程度はその後の、密接な人間関係に基づいて、その後の人間関係(ケアを受ける関係)に関連するスタイルを作り上げる。回避型、とらわれ型、恐怖型などに至りうる不安定な愛着スタイルは、臨床上の関係と治療結果にしばしば重要で予測可能な影響を及ぼすことが示されている。
<結論>
家庭医は、患者の個別の愛着パターンを認識することにより、患者を理解し、思いやりのある、柔軟な治療スタンスをより簡単に選択することができ、それによって治療結果を改善することができる。

<不安定型愛着の要約>
Book1

医師の愛着タイプも、患者との関係構築に影響を与える。

【開催日】2020年3月4日(水)

在宅における新生児緩和ケア

-文献名-
Kuhlen, M., Höll, J. I., Sabir, H., Borkhardt, A., & Janßen, G. Experiences in palliative home care of infants with life-limiting conditions. European journal of pediatrics. 2016;175(3):321-327.

-要約-
研究の目的:予後の限られている疾患を持った新生児およびその家族が在宅緩和ケアにおいて直面する問題点を同定し、医師・支援者がそのニーズを理解することを目指す
背景:これまでに在宅緩和ケアを受ける新生児についての実態調査研究は2013年のポーランドのものをのぞいてほとんどない。同研究では37.7%(20人)が緩和ケアから通常のケアに安定して脱していることが報告されている。
デザイン:ドイツ・デュッセルドルフの子供病院の小児緩和ケアチーム(PPCT)に紹介され、自宅ケアを受けた事例を2007-2014年の期間で記述的研究を行った。生後365日を超えた事例は除外した。なお、同都市では5820人の子供が1年あたり生まれている。
結果(Table1, 2, 3参照):31人の患児が該当した。そのほとんど(17人)が先天性奇形または染色体異常だった。21人が死亡し、そのうち5人は入院中の死亡だった。64.5%が自宅でお看取りとなった。83.9%が嚥下機能障害を持ち、NGチューブあるいはPEGを受けていた。1/5の子供がPEG造設のために再入院したが、その周術期に死亡していた。71%が鎮痛薬による治療を受け(そのうち16人72.7%がNSAID、2人9.1%がトラマドール、17人77.3%が強オピオイド)、45.2%が酸素療法が必要で、9.7%が人工呼吸器を要していた。
死亡率が最も高かったのは、周産期合併症を持っていた場合(75%)であった。4人の患者においては、状態が劇的に改善し、緩和ケアから通常ケアに脱することができた。

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【開催日】2020年2月12日(水)

急性期小児疾患における意志決定

―文献名―
‘So why didn’t you think this baby was ill?’ Decision-making in acute paediatrics.
Arch Dis Child Educ Pract Ed. 2018 Mar 1. pii: edpract-2017-313199. doi: 10.1136/archdischild-2017-313199.

―要約―
Introduction:
小児の急性疾患の診療の核については不明な点が多いです。重篤な疾患に出会う確率は低いですが、見逃すと致命的となります。今まで有効なバイオマーカーとスコアリングシステムの探索を行っていたにも関わらず、小児の重篤な疾患を鑑別するための診断ツールに大きな変革はありません。
詳しく調べるか、経過観察するか、治療するかの判断は医師の経験に基ついています。
不要な入院を防ぎ、安全にかつ効果的に子供たちに介入する意思決定はどのように作られるか?
この記事では小児急性疾患における意思決定のアートと化学について臨床医と教育者が無意識に
使っているプロセスを理解し、概念化させることを目的とします。
A common problem:遭遇する可能性は低いが、重篤な急性疾患の鑑別は重要である。急性小児疾患の見逃しは責任が大きいにも関わらず、診断のプロセスを複雑にする4つの要因があります。
1小児生理学の性質:小児の生理学的評価(バイタル)は複雑です。バイタルの基準値が設定され、それを知っていることは重要です。しかし専門家の意見に基つかれて作成されているため正常範囲内に異常な子供が含まれていることも多々あります。つまり基準値は普段の状態や診察内容などの他の一連の流れも含めた傾向が確立された際に有用となるものです。これは流れが確認出来ない可能性があるプライマリケア医、救急医には困難なことがあります。
大事なのは病気の全体の程度を裏つけるためにバイタルを利用することです。
2コミュニケーションの多様性:小児の診療で重要なのは病歴です。ここで注意として、病歴を保護者から聞く際に、保護者の不安(主観)によって、プレゼンテーションが強く影響することを知っておく必要があります。
また検査、診察の難しさもあります。(例:4歳児の脳波の検査が正しいのか?2歳児の腹部診察での号泣の意味など)。どの情報を取り入れるか理解するためには経験が必要です。また、意思決定に関しては患者のプレゼンテーション
を分析し統合的に判断する必要があり、その際には「リスク」についても適切に説明されなければなりません。
病気の診断に関しては医師の努力が依然に必要ではあるが、意思決定を行う際の最適な方法については今後決められるべきである。
3臨床医の経験則:ヒューリスティックは完璧ではないが、十分に実用的な問題解決アプローチです。経験豊富な臨床医が膨大な病歴と検査から得られた情報を融合させて無意識に行います(table1)。トラップを回避するためには直観的思考よりも分析的思考が重要ですが、緊張性気胸のように直観的思考が必要な場合もあるし、分析的思考が過度だと親に混乱を与えてしまう可能性があります。この中でバイアスに対する1つの対策がベイズの定理の適用です(figure1).事前確率を見積もり、検査を行い、検査後確率から診断に至る方法です。
4外的因子の影響:医師と保護者の病気に対するアジェンダが異なることが多々あります(table2)。例えば頭部外傷では親は被曝のリスクから子供を守るよりもCTスキャンをとることを優先することがあります。また、有熱者では安全に帰すために髄膜炎を否定する医師と咳を治して欲しい保護者のようなアジェンダのズレも影響しています。
病気の発生の影響:小児における一貫した課題は重大疾患になる確率が低いことです。医師は安心のために過度に検査をするか直観に基つくのかに直面します。有病率が非常に低い疾患で所見がない場合は検査の意義は低い一方で、特定のプレゼンテーションを持つ疾患では検査の意義は高い。小児の診断決定ツールはあまり有でない。英国で使用されているNICEの有熱のガイドラインは感度、特異度ともに乏しい。頭部外傷ガイドラインは感度を犠牲にすることなく特異性を達成した稀なツールである。疾患の発症は年齢でも異なる。例えばアトピー性の喘息は5歳未満では稀であり、3歳の子供の喘鳴の再発はウイルスに起因するものと誰もが考えるだろう。しかし年齢が変わるとその確率も変化してくる。喘息のリスク因子として確定したものもなく最近の英国呼吸器学会でもアトピーの家族歴は貧弱な指標と示しています。
まれな疾患と一般的な疾患を区別するための明確なツールはなく、一般的な疾患の方が明らかに多い。稀な疾患のネガティブを証明できないことは小児診療の意思決定における最大の課題の1つです。
上級意思決定と直観の利用:小児急性疾患の診断は、テストや意思決定ツールに頼ることが出来ないので上級意思決定への道をガイドラインは示しています。上級意思決定とは子供を安全で正確な臨床評価を受けるプロセスである。仮説を確認するか否か検証するテスト(hypothetic-deductive technique)やベイズの定理のような教育的、数学的アプローチに沿うことは、正しいという本来の感覚です。このゲシュタルト(どちらにもとれる感覚)と直観の両者の利用は上級意思決定の中核的な実践です。スクリーニングツールは未経験者を助けるが、すべての患者に適応するものでもない。臨床的な直観を発達させる能力は、患者経験が最も大事である一方でフィードバックプロセスやエラーから学ぶことも重要である。その教育戦略についてbox1に記載があります。子供を見る臨床医の間では多くの暗黙の知識が存在します。これはエビデンスベースの外にあり、ガイドラインには含まれません。デルファイ法(熟練の意見を集約する)などのツールを使用することで知識を有効な方法で抽出することが可能になります。
これによって患者経験から生まれる重要な要素が明らかになる可能性があります。これは今までグレーの領域を解明するかもしれない。経験から生まれる大規模なコンセンサス・オピニオンの発表は意思決定プロセスの重要な要素の開発に大きく関わるだろう。
結論:小児診療の意思決定はいくつかの要因によって影響されます。子供/親に依存するもの、臨床医に依存するものがあります。認知バイアスを意識し上級意思決定者へのアクセスを行い、臨床実践における直観の役割を理解することは急性小児科診療の転機を改善する上で重要です。医師は最良の決定を行うために可能な限り公表されたエビデンスを利用すべきです。暗黙の知識の開発と適応は、現在は理解不十分な部分ではあるが、意思決定における最も重要な要素の1つとなる可能性がある領域です。

【開催日】2018年12月19日(水)

小児の急性中耳炎に対する抗生剤は1〜2回/日で良いのか?

―文献名―
Thanaviratananich, S., Laopaiboon, M., & Vatanasapt, P. Once or twice daily versus three times daily amoxicillin with or without clavulanate for the treatment of acute otitis media. The Cochrane Library.2013.

―要約―
【Introduction】
 急性中耳炎は小児の良くある問題である。CVAの有無に関わらずAMPCは頻繁に選択される治療として処方される。従来の推奨は1日に3回あるいは4回である。しかしながら、今日1日に1回あるいは2回投与がなされている。
 もし、1日1回あるいは2回投与が3回あるいは4回投与と同等の効果であれば、便利でコンプライアンスを向上するかもしれない。

【Method】
 5つのランダム化比較試験のメタ分析。

 ●参加者:12歳以下の急性中耳炎患者。急性中耳炎は急性の耳痛と、鼓膜穿刺あるいはティンパノグラムのB型C型で診断されたもの。
     (B型は中耳のfluidを示唆し、C型は中耳内の圧力が大気圧より低い事を示唆している)
 ●介入のタイプ:CVAの有無に関わらずAMPC1〜2回/日と3〜4回/日と比較する。
 ●Primary outcomes:データがある場合、耳痛の改善・解熱・細菌学的治癒による、抗生剤終了(7〜15日目)の臨床的治療率。
 ●Secondary outcomes:耳痛の改善と解熱による臨床的治癒率。再発性中耳炎のないAOM治療後患者のみにおいて評価された、
            治癒後(1〜3ヶ月後)、ティンパノメトリーによる中耳浸出液の改善。AOMの合併症(再発、乳様突起炎)。
            投薬への有害事象。

 2人の著者は独立してそれぞれの試験から治療アウトカムに関するデータを抽出し、選択バイアス、施行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス、報告バイアス、及びその他のバイアスについて評価した。
 バイアスの低リスク・高リスク・不確実なリスクとして、質の格付けを定義した。その結果を95%信頼区間のRRとしてまとめた。

【Main Results】
 1601人の小児を含む5つの研究が含まれた。

 治療終了時(RR1.03,95%信頼区間 0.99〜1.07) Fig.3

貴島先生図1
  Figure 3. Forest plot of comparison: Clinical cure rate at the end of therapy.

 治療中   (RR 1.06, 95%信頼区間 0.85 to 1.33) Fig.4

貴島先生図2
  Figure 4. Forest plot of comparison: Clinical cure rate during therapy.

 フォローアップ期間 (1〜3ヶ月)(RR 1.02, 95%信頼区間 0.95 to 1.09) Fig.5

貴島先生図3
  Figure 5. Forest plot of comparison: Clinical cure at post-treatment (one to three months).

 再発性中耳炎(RR 1.21, 95%信頼区間 0.52 to 2.81)Fig.6

貴島先生図4
  Figure 6. Forest plot of comparison: AOM complications: Recurrent AOM after completion of therapy.

 AMPCのみ、またはAMPC/CVAでサブグループ解析を別々に行った結果、すべての重要なアウトカムにおいて1日1〜2回と1日3回の群で差がなかった。
 また、内服遵守率(RR 1.04, 95%信頼区間 0.98 to 1.10)、下痢や皮膚障害などの全有害事象 (RR 0.92, 95%信頼区間 0.52 to 1.63)と有意差はなかった。(経口抗生物質の1日1回または2回の投与は、1日3回の投与より高い遵守率を有する報告がある(Kardas 2007; Pechere 2007))

【著者らの結論】
 本レビューでは、CVAの有無に関わらずAMPCの1日1回or2回の用量を使用した結果は、AOMの治療で3回投与の結果に匹敵する事が示された。これらの結果は、両方の投薬が同じ有効性を有すること、または複雑でないAOMが自然治癒できることを示し得る。

【開催日】
 2017年8月23日(水)

自閉症スペクトラム障害 プライマリ・ケアでの原則

―文献名―
Kristian E. Sanchack, Craig A. Thomas. Autism Spectrum Disorder: Primary Care Principles. AFP, December 15, 2016

―要約―
【概要】
 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、コミュニケーションの難しさと、反復行動、興味、活動で特徴づけられる障害である。早期の介入により、認知能力、言語、適応能力を改善させられるというエビデンスが増えており、そのため早期の診断が重要となっている。専門家は、18ヶ月および24ヶ月の幼児の訪問時にスクリーニングツールの使用を推奨している。薬物療法は、不適応行動や精神状態の問題に対して補助的に使用されるが、ASDで単一の有効な薬はない。予後は診断の重症度と知的障害の有無に大きく影響される。より早期に、より集中的な行動介入を受け、薬物治療は少ない子供が最も良い転機をたどる。

【疫学】
 ASDの遺伝的影響は約50%。
 環境因子の影響も受ける。出生前の母体の年齢や代謝性疾患(糖尿病、高血圧、肥満など)、バルプロ酸、母体感染、大気汚染、農薬暴露、低出生体重児、早産。

【臨床症状】
 ASDの診断上の特徴には、社会的コミュニケーションの欠損と限られた反復パターン(行動、関心、活動)が認められる。ASDの診断基準と重症度レベルはTable 1,2参照。いくつかの徴候・症状は月齢6~12ヶ月で出現している。多くのケースでは、信頼性のある診断は24ヶ月で可能となる。
 共同注意(興味を共有するために自分の注意を調整する能力) 月齢12~14ヶ月までに始まる。15ヶ月までに共同注意を示さない場合はASDの評価をするべき。子供が名前を呼ばれても反応しないので、「難聴じゃないか」と心配して来院することがある。
 言語の遅れ 18~24ヶ月で、指さしや身振りのない言語遅延は、ASDと表現のある言語遅延の鑑別に役立つ。
 限られた関心領域、反復的な行動 ASDの診断上必須の症状。小さい頃には目立たないこともある。ルーチンの行動パターンを変えるのは大変。常同運動(手を振る、つま先立ち歩行、目の近くで指をはじくなど)が見られることも。

【スクリーニング】
 スクリーニングツールは、精査が必要な子供を特定するのに役立つ。長期的なアウトカムに基づいた3歳以下の小児におけるASDスクリーニングの有効性を評価するRCTはない。定期的な発達スクリーニングは、9ヶ月、18ヶ月、24ヶ月または30ヶ月児で提案される。
 幼児自閉症修正チェックリスト(Modified Checklist for Autism in Toddlers;M-CHAT)は、最も広く使用されているスクリーニングツールだが、単独で使用した場合は偽陽性率が高い。ツールの作者は、その後にフォローアップ改訂版幼児自閉症修正チェックリスト(Modified Checklist for Autism in Toddlers-Revised, with Follow-Up;M-CHAT-R/F)を公開した。無料ダウンロード可能(http://mchatscreen.com/wp-content/uploads/2015/09/M-CHAT-R_F.pdf

【紹介と診断】
 ASDの評価には、包括的なアセスメントが含まれていることが望ましい。ASDを確実に診断し、ASDを模倣する状態を除外し、併存疾患を特定し、子供のレベルを決定することを目指す。
 学際的なチームへの紹介が良いが、該当するチームがない場合は専門知識をもつ個々の専門医(児童心理学者、発達小児科医)が良い。
 診断はDSM-5のASDの診断基準に基づく。

【治療】
●行動療法
 早期集中的行動介入:就学前~低学年児童 望ましい行動を強化し、スキルの一般化を促し、望ましくない行動を減らすことによって、新しいスキルを教えることを目指す。
 ・認知行動療法
 ・Targeted play
 ・ソーシャルスキルトレーニング
 ・ペイシャントトレーニング

●薬物療法
 ASD自体に効果のある薬物はない。不安障害、ADHD、睡眠障害などの治療に。頭痛、副鼻腔炎、胃腸障害はASDに似た症状が出たり、ASDの行動症状を悪化させることもある。

【開催日】
 2017年8月16日(水)

希釈リンゴジュースと電解質調整経口補液の軽度の胃腸炎小児に対する効果

―文献名―
Effect of dilute apple juice and prefered fluids vs electrolyte maintenance solution on treatment failure among children with mild gastroenteritis JAMA. 2016.5352.Published online April 30, 2016.

―要約―
【背景】
 胃腸炎は小児のコモンディジーズである。電解質調整補水液は脱水の治療と予防に推奨されている。軽症脱水小児での効果はよく分かっていない。

【目的】
 小児の軽症胃腸炎に対して、希釈リンゴジュース+好みの水分による経口補水が電解質調整補水液と比較して非劣性かどうかを評価する。

【デザイン、セッティング、患者】
 ランダム化比較試験で、単盲検・非劣性試験がカナダオンタリオ・トロントの小児の3次救急外来で2010年から2015年までに行われた。組み入れ患者は6-60か月(5歳)までの軽度の脱水を伴う胃腸炎患者。

【介入】
 患児は色調を合わせた半希釈のリンゴジュース+好みの水分群(n=323人)とリンゴ風味の電解質調整補水液(n=324人)に割り付けられた。経口補水治療は施設のプロトコールで行われた。退院後、半希釈のリンゴジュース+好みの水分群は飲みたいときに水分摂取し、電解質調整補水液群は電解質調整補水液で行われた。

【メインアウトカム】
 プライマリアウトカムは、7日以内の治療失敗の複合アウトカムで、点滴による脱水補正・入院・予定外受診・症状遷延・クロスオーバー・3%以上の体重減少・重症脱水の複合とした。
 セカンダリアウトカムは、点滴による脱水補正・入院・下痢や嘔吐回数が含まれた。非劣性マージンは7.5%と設定し、片側検定でα=0.25。

【結果】
 647人の小児(平均28.3か月、331男児、441女児、脱水徴候なし)が割り付けられ、644人(99.5%)がフォローアップされた。半希釈のリンゴジュース+好みの水分群の方が電解質調整補水群と比較して治療失敗が有意に少なかった(16.7% vs 25.0%、-8.3%:-∞ to -2.0%、非劣性かつ優越性あり)。半希釈のリンゴジュース+好みの水分群が有意に点滴による脱水補正を受ける群が少なかった(2.5% vs 9.0%, -6.5%:-11.6% to -1.8%)。入院率や下痢や嘔吐頻度は両群で差を認めなかった。
榎原先生図①

【結論】
 軽症胃腸炎の軽度脱水患者では、半希釈のリンゴジュース+好みの水分を投与することは、電解質調整補水と比較して、治療失敗が少ないことが明らかになった。多くの先進国小児の胃腸炎の脱水補正に対して半希釈のリンゴジュース+好みの水分を投与することは、代替方法になり得る。

【開催日】
 2017年3月1日(水)

【EBMの学び】吃音

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年9月25日
【臨床状況のサマリー】
 4歳女児。母親より吃音に対しどのような対応をしたらよいのかと相談を受けた。吃音に対する知識を持ち合わせておらず、家族はこれまで通りに接するべきか、家族も吃音の指摘・介入をしてよいのか分からなかった。
 書籍を読み知識を得る中で、自己肯定感を育む支援方法、また家庭環境で家族が患児に対し吃音に対するフィードバックを行い、時に言語聴覚士(以下、ST)に評価を受けるリッカムプログラムの存在を知った。
 患者家族に説明をするにあたり、リッカムプログラムの情報提供を行うべきなのか判断するために有用性を調べたい。

 <リッカムプログラム>
 ・毎日15分間言語的刺激を与える。
  具体的には
   吃音のない発話に対して
     賞賛:とても良かったね
     自己評価の促し:今のはスムーズだった?
     認知:今のは滑らかだったね
   吃音のある発話に対しては
     認知:ちょっとつかえたね
     修正の促し:もう一回言ってみる?
  上記を、吃音のない発話に対する刺激を5回施行し、その後の吃音に対し刺激を1回。この5:1の頻度は守る。
  その上で週1回言語聴覚士に診てもらう。

 P;吃音のある小児
 I(E);リッカムプログラムを行う
 C;リッカムプログラムを行わない
 O;吃音が改善するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 検索したエンジン;ClinicalKey
 見つけた論文;
  Mark Jones, et.al, Randomised controlled trial of the Lidcombe programme of early stuttering intervention.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;3〜6歳の(少なくとも音節2%で)吃音のある患者。(除外:6ヶ月内発症。12ヶ月以内の治療歴。)
 I(E);リッカムプログラムを行う
 C;行わない場合
 O;改善に差があるか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 記載なし )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
貴島先生図EBM①

貴島先生図EBM②

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 ●ARRとNNTを計算する
 貴島先生図EBM③

  RR=(13/27)/(17/20)≒0.567
  ARR=(17/20) – (13/27)≒0.37
  NNT=1/ARR≒2.71

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ①参照

STEP4 患者への適用
【①エビデンスの視点】
 ●論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?
 年齢は研究対象内であるが、発症時期は1ヶ月以内のため除外基準である発症6ヶ月以内に該当しており本患者は対象外である。
 日本でも取り入れ始めているプログラムであるが、日本語に適応した際に効果があるかどうかのエビデンスはまだなさそう。

 ●内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 ランダム化はされており、observerのみ盲検化がされている。
 年齢、吃音の重症度、性差、治療の場所、家族の治癒歴に関し検討されbalanced randomisationの記載がある。
 110人の参加者を目指していたが、募集困難でN:54と少ない。その内7人が脱落(一人は病気のため、その他は主に引越しにより接触できなくなった)

【②臨床セッティングの視点】
 ●治療そのものは忠実に実行可能か?
 →研修を受けたSTが必要であり、当院での忠実な実行は不可能である。また、実施している施設数も限られているようで困難。

 ●重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?
 →12ヶ月間のフォローアップが予定されていたが、コントロール群の親が患児に治療を受けさせたい希望のために9ヶ月間に変更された。

【③使う者の経験の視点】
 ●これまでのその治療に対する経験はどうか?
 経験はない。

 ●自分の熟達度から実行は可能だろうか?
 STと伴に行われるものであり、忠実な実行は困難である。
 当クリニックのセッティングであれば某大学耳鼻咽喉科と連携し施行は可能ではありそうだが・・・。

【④患者の考え・嗜好の視点】
 ●illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
 →そもそも40分かけて定期的な病院受診(大学)は望んでいない。
 接し方のアドバイスを欲しているため、従来の支援手段の提案にとどめておくのが良いのではないかと考える。
 リッカムプログラムはエビデンスが構築されている時期であり、情報に敏感になりながら有用性を判断し、今後に備えられたらと感じた。

 <従来の支援手段の例>
  ・話し方のアドバイス(例:ゆっくり落ち着いて話して)、言葉の先取りをしない(例:「6時からちちちち」「ちびまる子ちゃんが始まるね」)。
  ・話を最後まで聞く、話す内容に注目する(例:「とととと跳び箱2段飛べたんだ」「2段も!すごい!」)ことで、自己肯定感を育む対応をする。
  ・幼稚園や学校に吃音の情報提供をする。

【参考図書】
 菊池良和. エビデンスに基づいた吃音支援入門.初版.東京都:学苑社:2012.
 菊池良和. 子どもの吃音 ママ応援BOOK.初版.東京都:学苑社:2012.

【開催日】
 2016年10月12日(水)