前腕遠位端骨折が疑われる小児におけるポイントオブケア超音波検査とX線検査の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
P J.Snelling. Ultrasonography or Radiography for Suspected Pediatric Distal Forearm Fractures. NEJM. 2023; 388;22

-要約-
Introduction
● 小児の骨折で多いのが若木骨折であり、リストスプリントや整復、固定術等の処置が行われる
● Xp検査がルーチンで行われるが、見落としも多く、また、途上国では利用できないことも多い
● そんな中で骨折に対するPoint-of-care エコー(POCUS)の有用性が近年強調されている
● これまでNonrandomized trialで小児の前腕遠位骨折に対するエコーでの診断が正確かつタイムリーで、被爆の点からも有用であることは示されていた
● ただ、これまでは骨折の初期診断におけるエコーの活用が、Xpと比較し、アウトカムとしての腕の運動機能という点で非劣性であるかどうかは検討されていなかった
● 今回、救急の現場での小児・若年者の骨折の初期診断において、中期的な運動機能という観点でエコーがXpと比較して有用であるかについてrandomized trialを実施した結果を報告する

Method
<対象>
● オーストラリアの4施設共同で、open-label, noninferiority, randomized, controlled trialを実施。
● 施設は、large territory の小児病院、大学病院、混合病院が含まれた
● 救急外来を訪れた5~15歳の小児・若年者が対象
● 急性期の、診察上変形が明らかではない、前腕骨単独の外傷で、骨折が疑われ画像検査が必要な患者が含まれた
● 対象者は、1:1でエコー群、Xp群の2群にランダム化割付された

<プロトコル>
エコー群
● トレーニングされ認証を受けた救急部の医療従事者(Ns practitioner, PT, 救急医)によってエコーを実施(A modified six-view forearm ultrasonography protocol)。
● エコーのタイプはポータブルだったり様々
● エコー後には、骨折なし、若木骨折、その他の骨折の3つのタイプに分類され、その他の骨折には更にincomplete(unicortical or bicortical), complete, そしてSalter-Harris骨折(骨端軟骨板(成長板)の骨折)の3つへ分類された
● その他の骨折、に分類された場合には、エコー後にXpも実施、骨折なし・若木骨折に分類された場合には基本的にその後Xp検査は実施されなかった
Xp群
● 二方向撮影され、放射線技師によって撮影され、まずはその場で対応した医師によって読影された。(後日放射線科医によって読影)
● 画像は骨折なし、若木骨折、その他の骨折に分類された。

● 最終診断は小児放射線科医、小児整形外科医、小児科のフェローシップトレーニングを受けた救急医からなる専門家パネルによってなされた。
● Management principlesは両群間で統一され、初期治療はサイト間で標準化された。
● 骨折なしは医師の最良で保存的に加療され、若木骨折はwrist splintでの加療、その他の骨折は必要に応じて外科的な介入(マニピュレーション、手術)もしくはcast immobilizationを受けた。

<アウトカム>
● Primary outocomeはPROMIS(Patient0-Reported Outcomes Measurement Information System) toolをもとにした4週後の腕の運動機能
※PROMIS toolは、5歳から15歳の小児・若年者を対象に、8項目で腕の運動機能をスコアリングするツール、8~40点で、点数が高いほど良い。今回は5点以上の差を優位とした。
● Key secondary outcomeは、初期診断時に若木骨折であった患者(expert panelで確定)の4週後の腕の運動機能
● その他のsecondary outcomとしては、1週・8週後の運動機能、4週・8週後の満足度(5-point Likert scaleで評価)、1,4,8週後の疼痛(6-point Faces Pain Scale-Revised toolで評価)、合併症の頻度、Xp撮影の頻度、救急外来滞在時間を設定
● Primary analysisは線形回帰モデルを用いて分析された

Result
● 2020年9月から2021年11月まで、total 270名がランダム化割付された。135がエコー群、135がXp群へ。Primary outcome dataはエコー群130名、Xp群132名で評価できた
● ベースラインはTable1の通り

● 診断カテゴリー2群間で差はなし
● エコー群のうち40名がXpも実施した
● 救急外来でのマネジメントも2群間で大きな差はないものの、ギプス固定はエコー群でやや少ない(エコー群23%, Xp群32%)

<Primary outcome>

● 4週後のPROMIS scoreはエコー、Xp群でそれそれ36.4±5.9, 36.3±5.3点(mean difference, 0.1 point; 95% CI -1.3 to 1.4)
● ITT analysisでも同様の結果

<Secondary outcome>

● 1週・8週間後のPROMIS scoreで2群間で有意差なし
● 4週・8週間後の患者もしくはケアギバーの満足度はエコー群で優れる
● エコー群で救急外来滞在時間が短い
● 有害事象の頻度、予約外で(想定外で)救急外来へ帰ってくる割合は2群間で有意差なし

Discussion

● 救急外来での検討であり、施設も大病院に限られているため、今後はプライマリ・ケアのセッティングなどでの検討が臨まれる
● 本研究の限界として、初期診断方法とは別に、その後の治療的介入の違いがプライマリアウトカムに影響を与えることが考えられる。ただし、二群間で診断カテゴリーごとの初期治療等に差は見られなかった
● また、施設が少なく、少数の救急医によってトレーニングされた医療従事者が実施していることも限界の一つ。
● さらに、年齢が5歳から15歳に限定されており、例えば5歳以下で同様の結果かどうかは不明

【開催日】2023年8月2日(水)

救急部門の指導医コメントが研修医の仕事量に与える影響:J(^o^)PAN無作為化比較試験の結果から

―文献名-
Kuriyama A et al. (2016) Impact of Attending Physicians’ Comments on Residents’Workloads in the Emergency Department: Results from Two J(^o^)PAN Randomized Controlled Trials.
PLOS ONE 11(12): e0167480.

―要約-
目的
救急部門は迷信が信じられる傾向にあり、先行研究では満月の夜や13日の金曜日の受信が増加したかなどの調査が行われている。
また文献的には指摘がないが、一般的には「今日は平和だね」「静かな当直になるといいね」という元気なコメントを指導医がすると、突然救急部門が忙しくなるというジンクスが蔓延しているため、指導医からの明るい元気付けるコメントは控える傾向になっている。そこで今回は指導医からの日直帯の救急外来に景気付けのコメントがあるかないかで、救急部門で働く研修医の仕事量がどうかを検討する。その結果、ジンクスが否定された場合は、指導医と研修医でより良い会話ができることが期待される。

方法
倉敷中央病院(1131床の3次医療機関)の救急部門の平日9時から17時の救急外来(J(^o^)PAN-1試験)そして14時から22時までの救急搬送患者(J(^o^)PAN-2試験)のいずれかを診察した25名の研修医を対象として、単施設における2つの並行群、評価者盲検、無作為化試験としてCONSORTガイドラインに沿って実施した。結果に影響しないように研究委員会によって参加同意書は破棄され、研修医には未告知で研究は進められ、研究終了後に研究計画書が公開された。
参加した研修医は “今日は平和だといいね、今日は静かな日になるといいね”などのコマンドを乱数発生器を元に無作為に受け取ったこの研究を知っている6名の救急指導医から、コメントもらった群(介入群)とコメントを受け取っていない群(介入群)に割り付けられた。両試験は2014年6月から2015年3月まで実施され、研修医は、勤務中に診察を受けた患者数、シフトの忙しさや難易度についてアンケートが毎回救急シフト開始時に配布され、5ポイントのLikert尺度で評価し、救急部門の秘書がシフト後にアンケートを回収し、独立した別の指導医がデータセットを作成し、もう一人の医師がデータを分析した。統計解析はWilcoxon順位和検定を使用し、介入群と対照群の間でその他のアウトカムを比較するためにスチューデントのt検定を使用した。研修医への潜在的な学習効果やメッセージの経時的な鈍化効果を除外するために、主要アウトカムについて、各2ヵ月間の最初の10回のシフトで感度分析を行った。すべての統計検定は両側一致で、有意水準はp<0.05であった。すべての解析はStata v.11.2(StataCorp, College Station, TX, USA)を用いて行った。

結果
J(^o^)PAN-1試験では合計169件がランダム化され(介入群81件、対照群88件)、J(^o^)PAN-2試験では178件(介入群85件、対照群93件)がランダム化された。
J(^o^)PAN-1試験では、診察した救急外来患者数(それぞれ5.5人と5.7人、p=0.48)、研修のスケーリングによるシフトの忙しさ(2.8人対2.8人、p=0.58)、または経験したシフトの難易度(3.1人対3.1人、p=0.94)に差は認められなかった。しかし、J(^o^)PAN-2試験では、忙しさ(2.8対2.7;p=0.40)と難易度(3.1対3.2;p=0.75)は群間で同程度であったが、介入群の方が対照群よりも多くの転院患者を診察した(4.4対3.9;p=0.01)。

J(^o^)PAN-1試験では、ストレス(それぞれ2.8対2.9;p=0.40)、食事時間(17.2分対17.3分;p=0.98)、または疲労(3.0対3.0;p=0.85)において、介入群と対照群の間に有意差は認められなかった。さらに、入院数(10.4対10.6;p=0.70)または救急部門を受診した外来患者数(中央値、31対32;Wilcoxon p=0.98)には有意差は認められなかった。J(^o^)PAN-2試験では、ストレス(それぞれ3.0対2.9;p=0.61)、食事時間(15.6分対15.3分;p=0.82)、または疲労(2.9対2.9;p=0.95)において、介入群と対照群の間に有意差は認められなかった(表2)。さらに、入院患者数(14.1対14.0;p=0.86)または転院患者数(中央値、11対12;Wilcoxon p=0.68)には有意差は認められなかった。

結論
指導医からの激励コメントは、救急部門で働く研修医の仕事量への不吉な効果は最小限であった。

 

【開催日】2020年9月23日(水)

家庭医療におけるポイントオブケア超音波検査(POCUS)

―文献名―
Paul Bornemann, Tyler Barreto. Point-of-Care Ultrasonography in Family Medicine. American Family Physician. 2018; 98(4): 200-202.

―要約―
論説 家庭医療におけるポイントオブケア超音波検査
ポイントオブケア超音波検査(POCUS)は、臨床医によってベッドサイドで行われる超音波検査プロトコル
POCUSプロトコルにより表1の問いに答えることができる。

比較的短いトレーニング期間の後に行うことができる
・家庭医レジデントを対象としたPOCUSの使用可能性(feasiblity)の研究
 ポータブルエコーを使用した16時間のトレーニング
 使用法の学習が容易で診断効率と精度が向上し、患者満足度が上がる
 参加者の86%が毎日の実践においてPOCUSを引き続き使用することに同意するか強く同意した

OCUSは医療費を削減する可能性を示すエビデンスが増えている
・救急における尿管結石疑いの評価でエコーとCTを比較した研究
 POCUSによる初期検査で転帰の変化なしに59%のCT検査数が減少
・静脈アクセス、胸腔鏡検査、関節症への手技などにおいて超音波検査が合併症を減らす。

POCUSは多くの場面で身体診察やレントゲン写真より優れている
・POCUSを使用する場合、ジェネラリストの左心室収縮機能の評価は循環器科医と同等に正確
 医学生でも診断精度を50%から75%に高めることができる。
・POCUSは、蜂窩織炎と膿瘍を鑑別するための身体検査よりも優れている
 マネジメントを14%~56%の症例で変更させる。
・POCUSは、胸水、肺水腫、肺炎および気胸を含む多くの肺の診断において、身体診察またはCXpより優れている。

POCUSはイメージングへのアクセスを迅速化し増やすことができる
・POCUSを用いた腹部大動脈瘤のスクリーニングは、感度99-100%。4分未満で完了できる。
・POCUSによる下肢DVTのスクリーニングは、感度95%、特異度96%。4分未満で完了できる。

POCUSには様々なベネフィットがあるため、家庭医療における使用への関心が高まっている
・プログラム責任者らへの2014年の調査
  POCUSの公式カリキュラムを取り入れたレジデントプログラムは2%しかなかったが、
  29%が(非公式の?)カリキュラムを前年度から開始しており、
  11%がカリキュラムを開始する準備をしていた。
・2016年、AAFP(American Academy of Family Physicians)代表者会議の決議
  すべての家庭医療プログラムがPOCUSを研修に組み入れることを推奨
  POCUS研修を組み入れた継続的な医学教育をAAFPが増やしていく
・AAFPにより、大学医学教育におけるPOCUSカリキュラムガイドラインが作成された(添付資料)

後藤先生図1

腹部大動脈瘤スクリーニング
 ・瘤はあるか?
心臓
 ・左室収縮機能障害はあるか?  ・左室肥大はあるか?
 ・心嚢液はあるか?  ・体液量過剰ではないか?
DVT
 ・DVTはあるか?
肝胆道
 ・胆石はあるか?  ・胆嚢炎はあるか?  ・肝脾腫はあるか?
 ・脂肪肝はあるか?  ・腹水はあるか?
筋骨格
 ・骨折はあるか?  ・靭帯あるいは腱の病変はあるか?
 ・関節液はあるか?  ・手根管症候群を示唆する正中神経腫大はあるか?
産科
 ・子宮内妊娠はあるか?  ・胎位は正常か?
 ・胎児心拍はあるか?  ・妊娠期間は?
眼科
 ・網膜剥離はあるか?  ・硝子体出血はあるか?
 ・頭蓋内圧亢進を示唆する視神経腫大はあるか?
手技の際のガイド
 ・針、カテーテル、気管内チューブは適切な場所にあるか?

 ・気胸はあるか?  ・肺炎の所見はあるか?
 ・胸水はあるか?  ・肺水腫の所見はあるか?
皮膚軟部組織感染症
 ・膿瘍はあるか?
甲状腺
 ・甲状腺に病変はあるか?
泌尿器科
 ・水腎症あるいは腎結石の所見はあるか?残尿はどれくらいか?

【開催日】
 2018年11月8日(水)

敗血症性ショックの患者に対するステロイド投与

―文献名―
B.Venkatesh, et al. Adjunctive glucocorticoid therapy in patients with septic shock. NEJM. 2018;378(9): 797-808.

―要約―
■Introduction:
・入院患者の敗血症による死亡率は30-45%
・グルココルチコイドは、40年以上補助療法として使用されてきたが、その安全性や効果については明らかでない。
・1980年代に行われたRCTでは、高用量のメチルプレドニゾロン(30mg/kg)の投与はプラセボと比較して死亡率を増加させた。
・2つのRCTにて、敗血症性ショックの患者に対する低用量のヒドロコルチゾン(200mg/日)の投与が死亡率を減少させるか検討されたが結果は一致しなかった。さらにこの研究では、ヒドロコルチゾン投与群でショックの早期再発が認められた。
・その後のシステマティック・レビューやメタ・アナライシスでは、敗血症性ショックの患者に対するヒドロコルチゾンの使用が良いのか悪いのか、確固たるエビデンスを示せなかった。
・最近のガイドラインでは、補液と昇圧剤投与により血行動態が安定しない敗血症性ショックの患者に対して、ヒドロコルチゾンを使用することが勧められているが、質の低いエビデンスに基づくもののため、その推奨度は弱い。
・敗血症性ショックの患者に対するグルココルチコイドの効果が不確実なため、臨床現場によって治療が異なる。
・易感染性、代謝、神経や筋肉の変化といったグルココルチコイドによる副作用が、さらに臨床的な不確実性を増している。
・このため我々は、敗血症性ショックの患者に対するヒドロコルチゾンの投与はプラセボよりも死亡率を低下させるという仮説のもとAdjunctive corticosteroid treatment in clinically ill patients with septic shock(ADRENAL)試験を行なった。
■Method:
■trial design and oversight
・investigator-initiated, international, pragmatic, double-blind, parallel-group, randomized, controlled trial
・参加したのは、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマーク
・スポンサー:the George institute for global health, Australia
■patients
・18歳以上の成人
・人工呼吸器管理中、臨床的に感染症の疑いが強い、SIRSの基準を2項目以上満たす、昇圧剤か強心薬を最低4時間以上使用中
・除外基準:グルココルチコイドの全身投与を受けていた人、etomidate(副腎抑制をきたす麻酔薬)投与を受けていた人、基礎疾患で余命が90日以内の人、適切な治療が受けられない人、24時間以上経過してから包含基準を満たした人
■randomization and trial regimen
・ヒドロコルチゾン(Pfizer)200mg/日orプラセボ(Radpharm Scientific)
・7日間もしくは、死亡退院あるいはICUから退室するまで、24時間持続静注
■outcomes
・Primary outcome: (死因にかかわりなく)90日以内の死亡
・Secondary outcome: 28日以内の死亡、ショック改善までの期間、ショックの再発、ICU入院期間、入院期間、人工呼吸器装着の期間と回数、腎代替療法の利用、2-14日間後の菌血症もしくは真菌血症の発症率、ICUでの輸血
■Results
■patients
・2013年3月から2017年4月まで3,800人の患者が試験に参加し、うち3,658人(ヒドロコルチゾン投与群1,832人、プラセボ群1,826人)のプライマリ・アウトカムが確認された
・患者の特徴は両群で差がなかった(Table 1.)
■primary outcome(Table 2.)
・ヒドロコルチゾン投与群の患者511人(27.9%)、プラセボ群の患者526人(28.8%)が死亡した(オッズ比 0.95; 95%CI, 0.82-1.10; p=0.50)。治療の効果は、6つのサブグループで同等だった。(Figure 1.)
■secondary outcome
・ヒドロコルチゾン投与群の患者は、プラセボ群と比してショックからの回復がより早かった(平均期間, 3日間 [四分位, 2-5] vs 4日間 [四分位, 2-9]; ハザード比, 1.32; 95%CI, 1.23-1.41; p<0.001)。
・ヒドロコルチゾン投与群の患者は、プラセボ群と比べて初回の人工呼吸器装着期間が短かった(平均期間, 6日間 [四分位, 3-18] vs 7日間 [四分位, 3-24]; ハザード比, 1.13; 95%CI, 1.05-1.22; p<0.001)。しかし人工呼吸器の再装着を考慮に入れると、人工呼吸器離脱後の生存期間については有意差が見られなかった。
・ヒドロコルチゾン投与群はプラセボ群に比べて、輸血を受けた患者が少なかった(37% vs 41.7%; オッズ比, 0.82; 95%CI, 0.72-0.94; p=0.004)。
・28日間の死亡率、ショックの再発率、ICUから退室後の生存期間、退院してからの生存期間、人工呼吸器再装着率、腎代替療法の割合、菌血症や真菌血症の新規発症率については、両群で差がなかった。
■adverse events
・ヒドロコルチゾン投与群では、プラセボ群に比べて、副作用の割合が高かった(1.1% vs 0.3%, p=0.009)。(Table 3.)
■conclusion
・人工呼吸器管理をされている敗血症性ショックの患者に対してヒドロコルチゾン投与を行うことは、プラセボと比較して90日間死亡率を低下させなかった。

1201809堀み

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【開催日】2018年9月5日(水)

急性心筋梗塞が疑われる患者に対する酸素療法

-文献名-
Robin Hofmann, et al. Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction.

-背景-
従来は急性心筋梗塞が疑われると虚血部位への酸素供給を増やす目的でルーチンの酸素投与を行っていたが、過剰な酸素は冠攣縮や活性酸素産生により再灌流障害をきたしうる.AVOID trialでは,STEMI患者において酸素投与群で非投与群と比較しより大きな梗塞巣が確認された.一方で,ベースラインで低酸素血症を認めない急性心筋梗塞が疑われる患者にルーチンに行う酸素療法の臨床効果は不明である.

-方法-
スウェーデンの全国的データベースを用いた患者登録とデータ収集によりRCTを実施した.急性心筋梗塞が疑われ,SpO2 90%以上である患者を,酸素投与群(マスク6 L/分を6-12 時間投与)と,室内気吸入群に無作為に割り付けた.(Figure.1)
【結果】 6,629例が登録された.(Table.1)酸素療法の施行時間の中央値は11.6 時間であり,治療終了時のSpO2の中央値は,酸素群で99%,室内気群で97%であった.低酸素血症は,酸素群では62 例(1.9%)が発症したのに対し,室内気群では254 例(7.7%)が発症した.入院中のトロポニン最高値の中央値は,酸素群で946.5 ng/L,室内気群で983.0 ng/L であった.(Table.2)主要エンドポイントとした無作為化後1年以内の全死因死亡は,酸素群では5.0%(3,311例中166 例),室内気群では5.1%(3,318例中168 例)で発生した(ハザード比0.97,95%信頼区間 [CI] 0.79-1.21,P=0.80).1年以内の心筋梗塞による再入院は,酸素群では126 例(3.8%),室内気群では111例(3.3%)で発生した(ハザード比1.13,95% CI 0.88-1.46,P=0.33).(Figure.2,Table.3)事前に定義したサブグループのすべてで結果は一貫していた.

-結論-
低酸素血症を認めない,急性心筋梗塞が疑われる患者に酸素投与をルーチンに行っても,1 年全死因死亡率の低下はみられなかった.

 

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【開催日】2018年5月23日(水)

指示通りに呼吸を行うことが難しい気管支喘息患者に対するスペーサーの有効性

―文献名―
Cates CJ, Welsh EJ, Rowe BH. Holding chambers (spacers) versus nebulisers for beta-agonist treatment of acute asthma (Review). Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013; 13(9)

―要約―
【背景】
 喘息発作におけるβ刺激薬吸入にはネブライザーが用いられることが多いが、スペーサー(”Holding chambers”または”spacers”)によるMDI吸入も同等の効果があるという意見もある。またネブライザーは電源や定期メンテナンスが必要だったり、地域で用いるにはより高価であったりする。

【目的】
 喘息発作時のβ刺激薬吸入における、ネブライザーと比較したスペーサーの効果を評価する。

【検索方法】
 the Cochrane Airways Group Trial Register and reference lists of articlesを検索した。詳細について著者らに連絡をとった。

【選択基準】
 喘息を有する成人と小児(2歳以上)に対しβ刺激薬吸入におけるスペーサーとネブライザーを比較したランダム化試験

【データ収集と評価】
 2人の評価者が独立して選択基準を適用し、データを除外し、バイアスのリスクを評価した。失われたデータは評価者によって獲得よび見積もりされた。結果は95%信頼区間にのっとって報告された。

【考察】
 39の研究における1897人の小児と729人の成人を組み入れた。33本の研究は救急救命室と地域のそれに相当する場所で、6本の研究は喘息発作の入院患者で行われた(207人の小児と28人の成人)。β刺激薬の吸入方法は入院率に明らかな影響を及ぼさなかった。スペーサーとネブライザーの入院に対するリスク比(RR)は成人で0.94 (95% CI 0.61 to 1.43)、小児は0.71 (95% CI 0.47 to 1.08, moderate quality evidence)だった。スペーサーを用いた小児において、救急救命室の滞在時間はネブライザーで103分、スペーサーで33分短縮し著明な減少を認めた(95% CI -43 to -24 minutes, moderate quality evidence)。成人では滞在時間、ピークフローと努力肺活量に差を認めなかった。脈拍(mean difference -5% baseline 、95% CI -8% to -2%, moderate quality evidence)や振戦発生率 (RR 0.64; 95% CI 0.44 to 0.95, moderate quality evidence)は小児のスペーサー群で低かった。

【著者の結論】
 成人でも小児でも、参加者の反応性に応じて臨床家が治療を繰り返したり増量したりする方法において、ネブライザー吸入はスペーサーによるMDI吸入に比較して著明な改善を認めなかった。小児の喘息発作ではスペーサーはネブライザーに比べ利点があるかもしれない。しかし本研究では致死的な喘息発作は除外したため、そういった患者に対して適応されてはならない。

佐治先生図①佐治先生図②佐治先生図③佐治先生図④
佐治先生図⑤

【開催日】
 2017年6月7日(水)

災害時における家庭医の役割

-文献名-
JOHN R. FREEDY, M.D., PH.D., and WILLIAM M. SIMPSON, JR., M.D., Disaster-Related Physical and Mental Health: A Role for the Family Physician, Am Fam Physician. 2007 Mar 15;75(6):841-846.

-要約ー
Introduction
 米国赤十字は災害を100人以上巻き込んだもの、10人以上死亡者がでたもの、あるいは救援を養成されたものと定義している。限定的なものとしては自然災害(台風や地震等)、科学技術による災害(原子力や産業災害)、テロなどがあげられ、災害による例年の世界的衝撃は大きい。研究や実践によって災害に対する米国人の脆弱性についてコンセンサスが得られつつあるが、以下の要素が指摘されている。
 (1)災害は翼あるイベントであり、年間100万人に影響を与えている
 (2)災害の多い地域や技術的に発展したな複雑な地域に住んでいる多くの人において、災害の影響は今後数年間で増加することが予想される
 (3)災害は軽度で一過性のものから重大で慢性なものまで様々な身体的、心理的悪影響と関連している。
家庭医は被災者の心身の健康ニーズに対応するために適している。それはイベント後1年以内もしくは1年以上の期間において、被災者はプライマリヘルスケアの利用が増加するからである。さらに重要なのは、一般的に災害後に発生する急性および慢性の身体的・精神的健康問題は、家庭医の診療の範囲内ということである。

一般的な災害後の健康アウトカム
 身体的・精神的健康状態は、災害発生からの時間に応じて変化する:急性期(1ヶ月以内)、亜急性期(1-12ヶ月)、慢性期(12ヶ月以上)。また、災害による身体的・精神的健康への影響はしばしば共存する。いくつかの例では身体的な問題は精神的問題を増大させる可能性がある。例えば災害は鬱病の発症や増悪に寄与し、糖尿病やうっ血性心不全のような慢性の身体疾患を悪化させる。
・身体的健康アウトカム
 身体的健康問題は4つのカテゴリーに分けられる:①急性外傷、②急性疾患、③慢性疾患、④医学的に原因不明の身体疾患(表)
災害後急性期の健康問題の半分以上は、急性上気道炎や胃腸炎などの病気であり、また4分の1が切り傷や擦り傷、捻挫、骨折などの外傷である。そのほかの健康問題は処方や総称チェック、副子などの日常の処置が含まれる。
被災者は慢性的な健康問題(例えば糖尿病、高血圧、心不全)の管理に支援を必要とすることが一般的である。特に災害後の亜急性期から慢性期に、災害が社会インフラに影響を与えた度合いに応じて、そのような支援が部分的に必要になるかもしれない。
また医学的に問題のない身体的症状の訴えは災害後共通してみられる。これらの症状はまた、鬱病やPTSDおよびその他の不安障害など精神的問題と関連している。
・精神的健康アウトカム
 災害後の精神的問題をもつ多くの患者は、災害前に同様の問題を抱えている。そのような場合、家庭医の役割は処方すること、カウンセリングを行うこと、適切に専門家を紹介することなどがある。
災害後急性期の精神的苦痛は情緒不安定を含み、具体的には否定的な感情、認知の機能障害やゆがみ(例えば混乱、変わった記憶など)、身体的症状(頭痛、緊張、疲労、胃腸障害、食欲の変化など)、対人関係への影響(神経過敏、閉じこもりなど)などがある。多くの人は急性の心理的苦痛は数ヶ月に数週間以内に解決するが、1年ほど持続することがある。
より重度である新規発症の精神的問題は、明らかにわかりやすいものからわかりにくいものまで幅を持って現れる。最も一般的な災害後の精神的問題は、うつ病、PTSD、およびその他の不安障害であり、アルコールや薬物乱用、家庭等への暴力の増加も指摘されている。家庭医は、精神的問題、生命の脅威を感じているもの、重度の傷害をうけたもの、死を曝露されたものなどの災害弱者において一般的なスクリーニングを検討する必要がある。

災害対策
筆者は災害が発生したときに、家庭医が柔軟で着実な行動をとれるように4段階の災害準備計画を提案する。この計画には、①他組織との連携、②事前の準備、および③個人の準備、④教育が含まれる。
①教育
 家庭医は、災害に関連した身体的・精神的健康の脅威について自己学習する必要がある。すべての医師はバイオテロやテロリズムなど、多くの人に影響を与える可能性がある脅威について知っている必要がある。また、その地域に特有の自然災害について学んでおく必要がある。
②連携
 多くの災害は地域のヘルスケアの容量を超えることが多いため、家庭医は災害後の地域医療のニーズを満たすために必要とされる可能性が最も高い組織と連携しておくことが重要である。地域または州レベルで病院や地域医療群、災害対策チームなどがあり、また米国家庭医療学会、米国医師会CDCなど国家レベルでの組織や、国家をまたいだ団体もある。
③事前準備
 各組織(例えば、診療所、病院、地域保健センター)において、頻繁に使用されるもの(例えば一般的な身体的・精神的問題のための薬剤や、縫合糸、副子など)は準備されている必要である。災害後数週から1ヶ月間は外部からの援助が使用できないことも多いので、現地の医療資源は不可欠である。
④個人の準備
 被災した中での診療は、家庭医は二重の役割を持っている。被災者として、医師とその家族は、他の被害者が直面していることと同じ身体的・精神的健康問題に対して脆弱になる。一方で医師は利他的な理由のために自らの医療行為を続けることになる。自分自身や自身の家族のケアと患者のケアのバランスを追求することが重要となる。
家庭医は災害後の健康ニーズに対応するため、集団的負荷がかかった場合に共有できるコミュニティ内の他のヘルスケアの専門家と災害前から連携しておく必要がある。また、地域の医師は他の地域で災害が起こった場合に自ら手を差し伸べると同様に、地域の外のヘルスケアの専門家からの支援を受け入れられるよう準備しておくことが必要である。

【開催日】
 2016年6月15日(水)

Outcomes of Medical Emergencies on Commercial Airline Flights

―文献名―

Peterson DC, M.D., et al.  N Engl J Med ;368:2075-83,2013 

―要約―

【背景】
世界では、毎年 27 億 5,000 万人が民間航空機を利用する。飛行中に医学的緊急事態が発生した場合には,医療へのアクセスは限られる。飛行中の医学的緊急事態と、その転帰を報告する。

【方法】
2008 年 1 月 1 日~2010 年 10 月 31 日に、5 つの国内・国際航空会社から,医師が指揮する医療通信センターに通報された。飛行中の医学的緊急事態の記録を調査した。頻度の高い疾患と、機内で提供された支援の種類を明らかにした。予定外の着陸地変更、病院への搬送、入院の発生率とそれらに関連する因子を検討し、死亡率を算出した。

【結果】
センターへの通報にいたった飛行中の医学的緊急事態は 11,920 件あった(飛行 604 回あたり 1 件)。頻度の高い疾患は,失神または失神前状態(37.4%)、呼吸器症状(12.1%)、悪心または嘔吐(9.5%)であった。飛行中の医学的緊急事態 の 48.1%では、乗り合わせた医師が医療支援を行い、7.3%では着陸地が変更された。飛行後の追跡データを入手しえた 10,914 例のうち、25.8%が救急隊員によって病院に搬送され、8.6%が入院し、0.3%が死亡した。入院の要因としては、脳卒中の可能性(オッズ比 3.36,95%信頼区間 [CI] 1.88~6.03)、呼吸器症状(オッズ比 2.13,95% CI 1.48~3.06)、心症状(オッズ比 1.95,95% CI 1.37~2.77)の頻度が高かった。

【結論】
飛行中の医学的緊急事態のほとんどは、失神,呼吸器症状、消化管症状に関連し、医師が任意で医療を提供する頻度が高かった。着陸地変更または死亡にいたった飛行中の医学的緊急事態は少なく、飛行中に医学的緊急事態が発生した乗客の 1/4 は病院でさらなる評価を受けた。(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた。)

―ディスカッション―

思っていたよりも飛行機内の緊急事態の際に医療関係者が乗っている割合が多かった(医師(48.1%))ことに驚いた。
実際、日本の医師にとられたアンケートでは「航空機の中で『お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか』というアナウンス(ドクターコール)を聞いたときに手を挙げるか?」という質問に対して、 「手を挙げる」と答えたのは4割程度という結果がある。このような結果になった一因としては、対応した場合の責任問題や医療器具が乏しい状況での判断や、自身の判断が運航に与える影響が大きいことに対する不安などが考えられる。

資料
「善きサマリア人の法」
災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない。
→アメリカやカナダで施行されているが日本では法整備なし。

JAL機内の医療用品
・薬剤
注射:生理食塩液、アドレナリン、リドカイン、ブドウ糖、イノバン、アトロピン、ネオフィリン、ハイドロコートン、ブスコパン、メテナリン
内服:ニトロペン、アダラートカプセル、タベジール、タリビット
医療用具:聴診器、血圧計、AED、心電図モニター、血糖測定器、点滴セット、アンビュバッグ、気管内挿管セット、液体吸引セット、異物吸引セット、ネラトンカテーテル
一部国際線のみ

開催日:平成26年4月16日