【EBMの学び】帯状疱疹に対するPSL

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015/08/12
【臨床状況のサマリー】
 関節リウマチでプレドニゾロン5 mg/day、環軸椎亜脱臼による疼痛でトラムセット内服中の70代男性。高齢者住宅に独居でADLはベッド上生活、当院定期訪問診療中。前胸部左側に疼痛を伴わない水疱・発赤出現し、帯状疱疹と診断したが、発疹出現から約80時間と72時間を過ぎていたため抗ウイルス薬の適応はなく、無治療経過観察とした。訪問看護師に報告すると、帯状疱疹後神経痛(PHN)予防のため何かできないかと相談を受けた。インターネットで帯状疱疹治療ガイドラインの概要をみると、PHN予防にプレドニゾロン60 mg/day内服7日間(以後漸減)を行うことがあるようだった。プレドニゾロンにPHN予防のエビデンスがどれほどあるのか疑問に感じ、文献を検索した。
  P;帯状疱疹急性期の患者
  I(E);プレドニゾロン内服
  C;プラセボ内服
  O;PHNの出現を抑制するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Wood MJ, Johnson RW, Mckendrick MW, Taylor J, Mandal BK, Crooks J.
A randomized trial of acyclovir for 7 days or 21 days with and without prednisolone for treatment of acute herpes zoster. New England Journal of
Medicine 1994;330(13):896-900.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;免疫抑制状態にない18歳以上の成人(各対照群の平均年齢は60歳前後)で、発疹出現から72時間以内
   の中等度以上の疼痛を伴う帯状疱疹急性期の患者
 I(E);アシクロビル+プレドニゾロン40mg/day内服7日間or 21日間
 C;アシクロビル+プラセボ内服
 O;疼痛が完全消失するまでの期間を短縮するか
   (6か月後まで疼痛をフォローし、PHNの重症度として評価)
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
②解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない) (intention to treatの記載なし)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
 Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 P=0.74
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
  コックス比例ハザード分析 HR = 1.043
 ・ARRとNNTを計算する
   Outcomeが「日数」なので計算不可?
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 HRの95%信頼区間:0.81-1.34

STEP4 患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 年齢が論文の対照群より高齢であり、もともと関節リウマチでプレドニゾロン長期内服中であるため、免疫抑制状態である点が異なる。また、発疹出現から72時間をわずかに超えている点、トラムセット内服中で疼痛を伴っていない点(マスクされている可能性あり)でも異なる。しかしながら、プレドニゾロンを追加投与のPHN予防のエビデンスが低いということを確認するには、当論文で概ね問題はないと思われる。(あるいは、若年者より高齢者の方がPHNのリスクが高いので、対照群を高齢者に限定すれば、違った結論に至るのかもしれない)
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 実行可能
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 副作用も評価されている。当論文は、プレドニゾロン投与はPHNの重症度に影響を与えず、副作用出現の可能性もあるため、推奨しないと結論している。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 疼痛もないため、発疹の出現をまるで気に留めていない。無治療経過観察の方針で、何の抵抗もなく合意している。上記③と併せて、本症例にプレドニゾロン追加投与する理由はないと考える。

健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療の有効性

―文献名―
Alexander C Ford, et al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMJ. 2014 May 20:348:g3174.

―要約―
【目的】
 健常者の無症候性ピロリ菌感染に除菌治療を行うと、プラセボや無治療と比較し、胃癌発症を減らせるか。

【方法】
 Systematic review and meta-analysis of RCT

【情報源】
 Medline、Embase、Cochrane(~2013年12月)、会議録(2001~2013年)、関連研究の参考文献。言語による制限なし。2人の独立した研究者で評価し、不一致あれば合意形成。

【採用基準】
 健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療の胃癌発症減少効果を調べたRCT。除菌治療は最低7日間。対照群はプラセボまたは無治療。追跡期間が最低2年間。

【主要アウトカム】
 除菌治療による胃癌発症減少効果(RR:relative risk)

【結果】
 1560文献が検索され6件のRCTを採用、Random effects modelで結果が統合された。除菌治療群3294名中51名(1.6%)、対照群3203名中76名(2.4%)に胃癌が発症し、RR0.66(95%信頼区間0.46-0.95)で有意差があった。研究間の異質性なし(I2=0%、P=0.60)。除菌治療効果が生涯続くと仮定すると、NNT16(中国人男性)からNNT246(アメリカ人女性)と人種性別によって幅あり。なお、日本人男性NNT16、日本人女性NNT23であった。

【限界】
 妥当性の高いRCT(Cochrane handbookによる評価)は6件中3件のみ。除菌レジメンが研究間で異なる。有害事象の検討はされていない。

【結論】
 アジア人健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療は、胃癌発症予防効果あり。

【開催日】
2015年7月22日(水)

長期尿道カテーテル留置患者の閉塞

―文献名―
DJ Stickler and RCL Feneley. The encrustration and blockage of long-term indwelling bladder catheters: a way of forward in prevention and control. Spinal cord (2010)48, 784-790

―この文献を選んだ背景―
 訪問診療を受ける患者には尿道留置カテーテルが挿入されている人も少なくない。そのなかで閉塞を繰り返して頻回の訪問看護での出動となったり、医療材料の供給で規定を超える数が必要となって自己負担いただく事例が多い。その原因について調べたところこの論文にあたった。

―要約―
目的
 細菌のバイオフィルムの結晶によってFoleyカテーテルが硬い層で覆われ、閉塞するかを説明した文献を概観することで、長期膀胱内カテーテル留置をうける患者のケアのなかでこの合併症を制御するための戦略を導き出す。
方法: 1980年から2009年12月までに発表された文献のPubMedの広範な検索を‵バイオフィルム´‵泌尿器へのカテーテル法´‵カテーテル関連尿路感染症´‵尿路結石´の語を用いて行い、妥当な論文を探し出した。

Nature of encrustration
 カテーテルに付着した結晶の分析からストルバイトとアパタイトの2種類が中心ということが示された。電子顕微鏡での解析は多数の桿菌が結晶生成に関連していることがわかった。培養の結果、ウレアーゼ産生菌が主体となっていた。ウレアーゼが触媒となってPHをあげ、リン酸マグネシウムとリン酸カルシウムの結晶化が引き起こされる一方で細菌のバイオフィルムが形成される。このプロセスはカテーテルを閉塞するまで続く。Proteus mirabillisの感染が実験上でも疫学的にも主因となっていた。

Controlling the rate of crystalline biofilm formation
 P.mirabillis感染を受けたカテーテル挿入された患者の前向き研究ではカテーテル閉塞が起こるまでの時間は2-98日と幅があった。閉塞を決める重要な要因は尿PHと同定され、pHが高ければ高いほど、カテーテル閉塞まで長くなる。P.mirabillis感染モデルの実験結果ではpHが8.3を超えるとバイオフィルムの結晶は形成されなかった。健康なボランティアでの研究では単純に水分量を増やしクエン酸摂取でpHを上げることができる。

Epidemiology and pathogenesis of P.mirabillis infections
 長期カテーテル留置を受ける44%の患者でP.mirabillisが尿検体から同定されている。留置カテーテルは膀胱結石の重大なリスクとなっており、Chenらは脊髄損傷患者1336人のコホートの病歴を解析し、受傷後最初の1年でカテーテル挿入されてない人と比べて9倍のリスク上昇と報告している。Fenelyらによると膀胱鏡検査の結果、カテーテル閉塞する62%で膀胱結石が発見され、膀胱結石が見られた90%の患者にP.mirabillis感染が起こっていた。

結論
 カテーテル挿入された尿路への出現を発見次第の抗生剤加療によるP.mirabillisの除去は、多くの患者のQOLを改善させ、カテーテル閉塞の合併症を管理するうえで現状の資源の浪費を減らせるかもしれない。すでに慢性的に閉塞し、結石形成している患者に対しては、抗生剤治療はバイオフィルムの結晶内に細胞が潜むことから効果的である見込みはない。クエン酸飲料と飲水量増量といった戦略は膀胱結石除去するまでカテーテル問題をコントロールできるかもしれない。

【開催日】
2015年7月15日(水)

敗血症の治療方針(Early goal-directed therapy:EGDT)は時代遅れなのか

―文献名―
Ling Zhang, Guijun Zhu, Li Han and Ping Fu .Early goal-directed therapy in the management of severe sepsis or septic shock in adults: a meta-analysis of randomized controlled trials:BMC Medicine (2015) 13:71

―要約―
【背景】
 The Surviving Sepsis Campaignガイドラインでは、early goal-directed therapy (EGDT) が、重症敗血症または敗血症性ショックの患者の致死率を下げる重要な戦略だとしている。しかしながら、その効果は不明である。

【方法】
 1966年1月から2014年10月までのMedline, Embase, the Cochrane Library, Google Scholar, Chinese database (SinoMed)といったデータベースにある文献を渉猟した。
重症敗血症または敗血症性ショックに対するEGDTに関する全てのランダム化比較試験について、システマティックレビューおよびメタアナリシスを行った。プライマリアウトカムとしては致死率、セカンダリーアウトカムとしてはICU滞在期間、入院期間、人工呼吸器管理、昇圧剤、輸液、輸血とした。Review Manager 5.2を用いて、相対リスク、95%信頼区間を算出した。

【結果】
 2011年~2014年までの10のRCT、4157人の患者を組み入れた。全ての研究で、EGDT群とコントロール群では致死率に有意差を認めなかった(RR 0.91, 95% CI: 0.79 to 1.04,P = 0.17)。異質性の検定ではχ2 = 23.65, I2 = 58%であった。サブグループ解析では、標準EGDT群(注1)は、修正EGDT群(注2)と違って、通常治療(注3)に比較して低い致死率だった(RR 0.84, 95% CI: 0.72 to 0.98, P = 0.03)。しかしながら、EGDT群は、早期に乳酸除去をした群と比較し、より高い致死率であった(RR 1.52, 95% CI: 1.06 to 2.18, P = 0.02)。最初の6時間で、EGDT群は通常治療に比較して、より昇圧剤が投与され、輸液され、輸血をされていた。ICU滞在期間、入院期間、気管挿管率、昇圧剤投与については有意差を認めなかった。

注1:標準EGDT…治療開始6時間以内のCVP8~12mmHg、平均血圧65~90mmHg、尿量0.5ml/kg/h以上、中心静脈酸素飽和度(ScvO2)70%以上を保つ方略
注2:修正EGDT…標準EGDTを簡素化したもの(CVP、ScvO2を計測しない)
注3:通常治療…元文献によるが、おおよそ輸液量、昇圧剤の使用量はEGDTに比べて少量

【結論】
 EGDTは、重症敗血症、敗血症性ショックの患者にとって生命予後を改善しないようである。EGDTは早期乳酸除去群と比較してより高い致死率であった。早期乳酸除去(※)をするEGDTについての、質の高いRCTが施行されることが望ましい。

※乳酸除去治療…おそらく持続的血液透析濾過治療(CHDF)のことを指す

【開催日】
2015年7月1日(水)

【EBMの学び】便秘への漢方

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015/ 06/05
【臨床状況のサマリー】
 日常診療において便秘で困る患者と出会うことは非常に多い。特に虚弱高齢者の便秘に対して、「とりあえず麻子仁丸」というイメージを漠然と持っていたが、実際にどれほどの効果があるのか調べたことはなかった。
 P;機能性便秘症の高齢者
 I(E);麻子仁丸内服
 C;プラセボ
 O;便秘が改善する

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Chinese herbal medicine for functional constipation: a randomised controlled trial

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;18歳から65歳の機能性便秘症患者
 I(E);麻子仁丸内服
 C;Placebo内服
 O;1週間当たりの自発排便が増加するかどうか
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
 Pについて、臨床での疑問は麻子仁丸の処方対象として最も多いと感じていた虚弱高齢者。しかし高齢者についての論文は見つからなかった。I,C,Oについては、合致。Oについて、「便秘が改善する」とはどのように評価すべきか自分でもわからなかったが、この論文のOをみて、むしろこういう評価方法があるのかと納得。

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
②解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3論文で見いだされた結果の評価
 Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 Responder rate:麻子仁丸群43.3%、対照群8.3%(P<0.001) 【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】  ・RR(あるいはHR・OR)を確認する   RR 0.618  ・ARRとNNTを計算する    ARR 0.35    NNT 2.857 【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】  参考:   麻子仁丸群の8週間内服終了後CSBM/weekの回数は、   麻子仁丸群の内服前と比べて優位に増加1.62回(95%CI 1.11-2.13)P<0.001   プラセボ群の8週間内服終了後と比べて優位に増加 P=0.003 STEP4患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 知りたい対象は虚弱高齢者であったが、今回は18-65歳。この論文の結果が、施設入居などしている虚弱高齢者に適応できるかはわからない。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 麻子仁丸の用量は7.5g 1日2回で日本の一般的な用量の倍であり、この点も考慮が必要、保険適応はあり、投薬期間は8週間であり継続が難しい期間ではない。漢方薬自体の飲みづらさを感じない患者であれば、内服可能。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 副作用は腹痛、消化管の有痛性痙攣、下痢、浮腫、おならは麻子仁丸群で多かった。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 今回はある個人症例についての疑問ではなかった。虚弱高齢者に麻子仁丸を処方して、特に抵抗を受けた経験はない。

150612

【開催日】
2015年6月10日(水)

上部消化管内視鏡時における音楽療法の緊張軽減効果について

―文献名―

Rudin D, et al. Music in the endoscopy suite: a meta-analysis of randomized controlled studies. Endoscopy. 2007, June; 39(6):507-510.

―要約―
【背景と研究目的】
 先行研究で音楽療法がストレス軽減と鎮痛を提供することが示唆されている。このメタ解析において我々は上部消化管内視鏡施行中の患者における音楽療法の効果に焦点を当てた。

【資料と方法】
 PubMedとコクラン•ライブラリのデータベースを利用した文献検索と手動検索によって上部消化管内視鏡施工中の患者における音楽療法の効果を調べた6つのランダム化コントロール試験を抽出した。
 データ抽出後にfour separate meta-analysesが実施された。薬物療法を使用しない3つの研究(グループA)において不安レベルが効果の尺度として使われた。薬物療法を使用した3つの研究(グループB)において鎮静剤と鎮痛剤の必要量と内視鏡施行時間が解析された。

【結果】
 合計641名の患者が解析に加えられた。グループAにおいて音楽療法を受けた患者はコントロール群と比較してより低い不安レベル(8.6%の減少、P0.004)を示した。グループBにおいて音楽療法を受けた患者はコントロール群と比較して統計学的に有意な鎮痛薬必要量の減少(29.7%の減少、P0.001)と内視鏡施行時間の減少(21%の減少、P0.002)とほぼ有意に近い鎮静薬必要量の減少(15%の減少、P0.055)を示した。

【結論】
 上部消化管内視鏡を実施する患者において音楽療法はストレスの軽減と鎮痛に効果的なツールである。

【開催日】
2015年3月18日(水)

医療アシスタントによる健康に関するコーチングは低所得層の患者の糖尿病,高血圧,高脂血症を改善する(ランダム化比較試験)

―文献名―

Rachel Willard-Grace, et al. Health Coaching by Medical Assistants to Improve Control of Diabetes, Hypertension, and Hyperlipidemia in Low-Income Patients: A Randomized Controlled Trial.Ann Fam Med. 2015;13:130-138.

―要約―
【目的】
 医療職ではない医療アシスタントによる健康に関するコーチングがもし効果的ならば、プライマリ・ケアの現場におけるセルフケア支援の実現可能なモデルとなり得る。著者らは医療アシスタントがクリニック内で行う健康に関するコーチングが、通常のケアと比較して心血管系または代謝系のリスク因子の改善に寄与するかどうかを調査した。

【方法】
 カリフォルニア州サンフランシスコの2つのセーフティネットプライマリ・ケアクリニックにおいて、441の患者による12か月間のランダム化比較試験を行った。患者は、40時間のトレーニングを受け修了証書を持つ医療アシスタントによる健康に関するコーチングを受ける群:Table 1と、通常ケア(通常の医師の診察、糖尿病教育担当者、管理栄養士によるケア、慢性疾患認定看護師など)を受ける群に分けられた。
 調査開始時に十分コントロールされていなかったヘモグロビンA1c、収縮期血圧、LDLコレステロール値が12か月後に少なくとも3つのうち1つが目標値を達成したか、という複合アウトカムを主要アウトカムとして設定した。データはカイ2乗検定と線形回帰モデルにて解析した。

【結果】
 コーチングをうけたグループは、コントロール群と比較してより多くの患者が主要アウトカムを達成した(46.4% vs 34.3%, p=0.02)。全ての数値が目標値を達成したという2次複合アウトカムも同様の結果であった(34.0% vs 24.7%, p=0.05)。ヘモグロビンA1cは約2倍の目標達成率であった(48.6% vs 27.6%, p=0.01)。規模の大きいクリニックでは、コーチングを受けた患者はLDLの目標達成率が高かった(41.8% vs 25.4%, p=0.04)。収縮期血圧の目標値を達成した患者は、2グループ間では違いは認められなかった。

【結論】
 クリニック内の健康に関するコーチとして務める医療アシスタントは、通常のケアと比較してヘモグロビンA1c、LDLコレステロールを改善するが、血圧は改善しなかった。この結果は患者の臨床的な状態と介入、遂行における背景的な側面のもつ関係性への理解が必要なことを強調している。

【開催日】
2015年3月11日(水)

最適な収縮期血圧目標

―文献名―
Xu W, Goldberg SI, Shubina M, Turchin A.Optimal systolic blood pressure target, time to intensification, and time to follow-up in treatment of hypertension:population based retrospective cohort study.BMJ. 2015 Feb 5;350

―要約―
【目的】
新しい降圧薬を加えるか、既に処方されている薬の量を増やすかについて、最適な収縮期血圧目標を調査することと、治療強化やフォローアップの遅れと心血管イベントあるいは死亡のリスクとの間の関係を明らかにすること。

【デザイン】
後ろ向きコホート研究。

【セッティング】
英国のプライマリ・ケア診療所で、1986年から2010年まで。

【参加者】
健康改善ネットワークの全国のプライマリ・ケア研究データベースから88,756人の高血圧の成人患者。

【主なアウトカム評価】
異なる治療戦略の患者における急性冠動脈疾患イベントの発症率とあらゆる原因の死亡率。治療戦略は10年間の治療評価期間における収縮期の治療強化閾値、強化までに要した時間、フォローアップまでの時間で定義された。年齢、性別、喫煙の状況、社会経済的貧困、糖尿病の病歴、冠動脈疾患もしくは慢性腎臓病、チャールソンの併存疾患指数、BMI、薬物所持率、そして、ベースラインの血圧で調整した。

【結果】
治療戦略評価期間の後、フォローアップの中央値は37.4か月で、その間に9,985人(11.3%)が急性冠動脈イベントを起こしたか、あるいは死亡した。治療強化の閾値が130-150mmHgではアウトカムのリスクに違いはなかった。150mmHg以上では、リスクの増加と関連していた(ハザード比1.21、95%CI 1.13-1.3、160mmHg以上ではp<0.001)。アウトカムのリスクは治療強化までの時間が短い(0-1.4か月)と長いときと比べて1/5になった(ハザード比1.12、95%CI 1.05-1.20、1.4-4.7か月ではp=0.09)。降圧療法を強化して以降、最初に患者が受診するまでの期間が2.7か月を超えると、リスクが上昇することもわかった(ハザード比1.18、 95%CI 1.11-1.25、p<0.001)。 【結論】 心血管イベント・全死亡リスク上昇には、収縮期血圧が150mmHgを超えていること、降圧療法の強化が1.4か月以上遅れること、治療強化後のフォローアップが2.7か月以上遅れることが関連することがわかった。この結果は高血圧の治療でタイムリーな医学管理とフォローアップの重要性を支持するものである。 【開催日】 2015年3月11日(水)

市中肺炎におけるプレドニゾンの追加治療は有効か?

―文献名―

①Djillali Annane: Corticosteroids and pneumonia: time to change practice.The Lancet,Published online: January 18, 2015
②Claudine Angela Blum: Adjunct prednisone therapy for patients with community-acquired pneumonia: a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled trial.The Lancet,January 18, 2015

―要約―
Background:
 全身性ステロイドを市中肺炎の治療に追加することについては、未だ議論がある。今回入院市中肺炎の患者に対し、短期ステロイド治療が臨床的安定に至るまでの期間を短縮するかの検討を行った。

Methods:
 この二重盲検多施設共同ランダム化プラセボ対照試験において、18歳以上の支柱肺炎の患者をスイスの7つの3次医業機関から登録した。患者はランダムに1:1にプレドニゾン 50mg/日あるいはプラセボを7日間投与する群に割り付けられた。プライマリエンドポイントとして臨床的な安定(バイタルサインが少なくとも24時間安定)までの日数とした。

Findings:
 2009年12月1日から2014年5月21日までの間、2911人の患者が登録され、785人がランダム化された。392人がプレドニゾン群、393人がプラセボ群。臨床的に安定するまでの期間の中央値はプレドニゾン群の方が有意にに短かった(プレドニゾン群 3.0 days, IQR 2.5-3.4、プラセボ群 4.4 days, 4.0-5.0; hazard ratio[HR] 1.33, 95% CI 1.15-1.50, p<0.0001)(Table 2)。  30日目までの肺炎関連合併症については両群とも差はみられなかった(11 [3%] in the prednisone group and 22 [6%] in the placebo group; odds ratio [OR] 0.49 [95% CI 0.23-1.02]; p=0.056)(Table 3)。  プレドニゾン群はインスリンを要する入院中の高血糖の頻度が有意に多かった(プレドニゾン群 76 [19%] vs 43 [11%]; OR 1.96, 95% CI 1.31-2.93, p=0.0010)(Table 3)。  ステイロイドによるその他の有害事象はまれであり、両群とも差はみられなかった(Table 3)。 Limitation:  入院患者としたため、外来患者全体への一般化の限界あり。  死亡数が少ないので検討するにはパワー不足。  Primary endpointにおいていくつかのパラメーターが存在していること。しかし、筆者としては、これは現実に即していると考えている。 Interpretation:  入院を要する市中肺炎の患者に対する7日間のプレドニゾン治療は合併症を増加させることなく臨床的な安定までの期間を短縮する。この結果は患者の利益、医療の費用、効率性からは切実なものであると言える。 【開催日】 2015年3月4日(水)

Rivaroxabanについて

―文献名―
1) Manesh R. Patel, et al, Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation, N Engl J Med. 2011 Sep 8;365(10):883-91. doi: 10.1056/NEJMoa1009638. Epub 2011 Aug 10.
2) Masatsugu Hori, et al, Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation – the J-ROCKET AF study -, Circ J. 2012;76(9):2104-11. Epub 2012 Jun 5.
3) Masatsugu Hori, et al, Safety and efficacy of adjusted dose of rivaroxaban in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation: subanalysis of J-ROCKET AF for patients with moderate renal impairment, Circ J. 2013;77(3):632-8. Epub 2012 Dec 8.

―要約―
1) Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation
BACKGROUND:
The use of warfarin reduces the rate of ischemic stroke in patients with atrial fibrillation but requires frequent monitoring and dose adjustment. Rivaroxaban, an oral factor Xa inhibitor, may provide more consistent and predictable anticoagulation than warfarin.

METHODS:
In a double-blind trial, we randomly assigned 14,264 patients with nonvalvular atrial fibrillation who were at increased risk for stroke to receive either rivaroxaban (at a daily dose of 20 mg) or dose-adjusted warfarin. The per-protocol, as-treated primary analysis was designed to determine whether rivaroxaban was noninferior to warfarin for the primary end point of stroke or systemic embolism.

RESULTS:
In the primary analysis, the primary end point occurred in 188 patients in the rivaroxaban group (1.7% per year) and in 241 in the warfarin group (2.2% per year) (hazard ratio in the rivaroxaban group, 0.79; 95% confidence interval [CI], 0.66 to 0.96; P<0.001 for noninferiority). In the intention-to-treat analysis, the primary end point occurred in 269 patients in the rivaroxaban group (2.1% per year) and in 306 patients in the warfarin group (2.4% per year) (hazard ratio, 0.88; 95% CI, 0.74 to 1.03; P<0.001 for noninferiority; P=0.12 for superiority). Major and nonmajor clinically relevant bleeding occurred in 1475 patients in the rivaroxaban group (14.9% per year) and in 1449 in the warfarin group (14.5% per year) (hazard ratio, 1.03; 95% CI, 0.96 to 1.11; P=0.44), with significant reductions in intracranial hemorrhage (0.5% vs. 0.7%, P=0.02) and fatal bleeding (0.2% vs. 0.5%, P=0.003) in the rivaroxaban group. CONCLUSIONS: In patients with atrial fibrillation, rivaroxaban was noninferior to warfarin for the prevention of stroke or systemic embolism. There was no significant between-group difference in the risk of major bleeding, although intracranial and fatal bleeding occurred less frequently in the rivaroxaban group. (Funded by Johnson & Johnson and Bayer; ROCKET AF ClinicalTrials.gov number, NCT00403767.) 2) Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation - the J-ROCKET AF study - BACKGROUND: The global ROCKET AF study evaluated once-daily rivaroxaban vs. warfarin for stroke and systemic embolism prevention in patients with atrial fibrillation (AF). A separate trial, J-ROCKET AF, compared the safety of a Japan-specific rivaroxaban dose with warfarin administered according to Japanese guidelines in Japanese patients with AF. METHODS AND RESULTS: J-ROCKET AF was a prospective, randomized, double-blind, phase III trial. Patients (n=1,280) with non-valvular AF at increased risk for stroke were randomized to receive 15 mg once-daily rivaroxaban or warfarin dose-adjusted according to Japanese guidelines. The primary objective was to determine non-inferiority of rivaroxaban against warfarin for the principal safety outcome of major and non-major clinically relevant bleeding, in the on-treatment safety population. The primary efficacy endpoint was the composite of stroke and systemic embolism. Non-inferiority of rivaroxaban to warfarin was confirmed; the rate of the principal safety outcome was 18.04% per year in rivaroxaban-treated patients and 16.42% per year in warfarin-treated patients (hazard ratio [HR] 1.11; 95% confidence interval 0.87-1.42; P<0.001 [non-inferiority]). Intracranial hemorrhage rates were 0.8% with rivaroxaban and 1.6% with warfarin. There was a strong trend for a reduction in the rate of stroke/systemic embolism with rivaroxaban vs. warfarin (HR, 0.49; P=0.050). CONCLUSIONS: J-ROCKET AF demonstrated the safety of a Japan-specific rivaroxaban dose and supports bridging the global ROCKET AF results into Japanese clinical practice. 3) Safety and efficacy of adjusted dose of rivaroxaban in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation: subanalysis of J-ROCKET AF for patients with moderate renal impairment BACKGROUND: In the Japanese Rivaroxaban Once-daily oral direct factor Xa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation (J-ROCKET AF) study, rivaroxaban 15 mg once daily was given to patients with creatinine clearance (CrCl) ≥ 50 ml/min (preserved renal function), and was reduced to 10mg once daily in patients with CrCl 30-49 ml/min (moderate renal impairment). The aim of this subanalysis was to assess the safety and efficacy of the adjusted dose of rivaroxaban compared with warfarin in a cohort with moderate renal impairment. METHODS AND RESULTS: Compared with patients with preserved renal function, those with moderate renal impairment (22.2% of all randomized patients) had higher rates of bleeding and stroke events irrespective of study treatment. Among those with moderate renal impairment, the principal safety endpoint occurred at 27.76%/year with rivaroxaban vs. 22.85%/year with warfarin (hazard ratio [HR], 1.22; 95% confidence interval [CI]: 0.78-1.91) and the rate of the primary efficacy endpoint was 2.77%/year vs. 3.34%/year (HR, 0.82; 95% CI: 0.25-2.69), respectively. There were no significant interactions between renal function and study treatment in the principal safety and the primary efficacy endpoints (P=0.628, 0.279 for both interactions, respectively). CONCLUSIONS: The safety and efficacy of rivaroxaban vs. warfarin were consistent in patients with moderate renal impairment and preserved renal function. 【開催日】 2014年11月19日(水)