A群溶連菌咽頭炎への5日間の抗生剤治療

-文献名-
Gunilla Skoog Stahlgren, et al.Penicillin V four times daily for five days versus three times daily for 10 days in patients with pharyngotonsillitis caused by group A streptococci: randomized controlled, open label, non-inferiority study. BMJ 2019; 367:l5337

-要約-
【Introduction】
スウェーデンにおいて、A群溶連菌咽頭炎に対する治療レジメンは、ペニシリンV 1000 mgを1日3回、10日間となっている。この治療期間は他の国と同じだが、投与量と総曝露量(30 g)は比較的多い。
抗菌薬治療の理由は、主に急性リウマチ熱や糸球体腎炎などの重篤な合併症を避けるためであるが、これらの状態は現在、高所得国では非常にまれなものとなっている。
今日、高所得国での治療の主な理由は速やかな症状の臨床的治癒をはかることであり、また、腹膜炎、膿痂疹、蜂巣炎、中耳炎、副鼻腔炎などのまれな合併症を防ぐことにもなる。
2008年のメタ分析では、A群レンサ球菌咽頭炎の患者へより短期間の治療(5~7日)を行った場合、10日間の治療に比べて臨床的成功と細菌学的根絶の可能性が低いことが示された。
この研究での1日総投与量は750~1600mgの範囲で、1日2回または1日3回だった。薬物動態および薬力学としては、βラクタム系抗生物質の有効性は血清中の非結合薬物濃度の最小阻害濃度を超える時間に依存しており、その決定要因は用量と投薬頻度である。
1日4回800mgの投薬レジメンは、1日3回1000mgと比較してより良いものとなる。短いレジメンでのリスクは、臨床的治癒と微生物学的根絶の割合が低いことだが、治療期間を短縮すると副作用が少なくなり、患者のアドヒアランスが向上し、ヒト微生物叢への影響が少なくなり、抗生物質の総使用量を減らし、患者と地域社会の薬物費用を削減できる。
本研究の目的は、適切な臨床効果を維持しながら、ペニシリンVの総暴露量を削減できるかどうかを調査することである。A群レンサ球菌による咽頭扁桃炎患者において、ペニシリンV800 mg 1日4回5日間の治療は、現在の推奨用量である1000 mg1日3回10日間に劣らないという仮説のもと、非劣勢試験を行った。

【Method】
デザイン:オープンラベル、ランダム化非劣勢試験。2015年9月~2018年2月の期間、スウェーデンの17の医療センターにて実施。
対象:6歳以上で、3~4のCentor criteria(38.5°C以上の発熱、リンパ節腫脹、扁桃の白苔、咳の欠如)、およびA群レンサ球菌の迅速抗原検査陽性となった患者をinclusion。重病の兆候を示した場合、またはペニシリンに対する過敏症を有していた場合、少なくとも15 mgのプレドニゾロンによる免疫調節治療を受けていた場合、過去1ヶ月間に咽頭扁桃炎の抗生物質を投与されていた場合(再発)、またはinclusionから72時間以内に抗生物質治療を受けた場合は除外。
介入:ペニシリンV 800 mgを1日4回5日間、現在の推奨用量1000 mgを1日3回10日間と比較。40 kgまでの子供は、体重に応じて投与量を調整した(10-20 kg:投与量250 mg、20-40 kg:投与量500 mg、治療群に関係なく)。
主要アウトカム:抗生物質治療の終了後5〜7日での臨床的治癒(主要な残存症状または咽頭扁桃炎または症候性再発の臨床所見のない完全な回復として定義)。二次アウトカムは、治癒試験で採取した培養による細菌学的根絶、症状緩和までの時間、再発の頻度、合併症および新たな扁桃炎の発症、有害事象のパターン。

【Results】
患者(n=433)は5日間(n=215)または10日間(n=218)のレジメンにランダムに割り当てられた。プロトコルごとの母集団の臨床的治癒は、5日間のグループで89.6%(n=181/202)、10日間のグループで93.3%(n=182/195)だった(95%信頼区間-9.7~2.2)。
細菌学的根絶は、5日間のグループで80.4%(n=156/194)、10日間のグループで90.7%(n=165/182)だった。5日と10日のグループで、それぞれ8人と7人の患者が再発し、6人と13人の患者が合併症を発症し、6人と13人の患者が新たな扁桃炎を発症した。症状が緩和されるまでの時間は5日間のグループで短かった。有害事象は主に下痢、悪心、および外陰膣障害だった。10日間のグループでは発生率が高く、有害事象の期間が長かっ
た。

【Discussion】
A群レンサ球菌咽頭扁桃炎において、ペニシリンV5日間1日4回の治療は、10日間1日3回の臨床結果に劣らない事が分かった。細菌学的根絶は5日間の治療グループで低かったが、症状が解消するまでの時間は短かった。グループ感の1ヶ月以内の再発数に統計的有意差はみられなかった。最後のフォローアップでは、5日間の治療グループで新たな扁桃炎の発症と合併症の数が少なかった。また、5日間のグループで報告された有害事象はより少なく、有害事象が生じている期間がより短かった。
ペニシリンV5日間1日4回の治療は、現在の10日間のレジメンに置き換えられる可能性がある。

【開催日】2019年10月9日(水)

CPAP療法のアドヒアランス向上に対するエスゾピクロンの短期使用の効果

-文献名-
Christopher J. et al. Effects of a Short Course of Eszopiclone on Continuous Positive Airway Pressure Adherence. 17
November 2009 Annals of Internal Medicine Volume 151 • Number 10

-要約-
Introduction:
未治療への閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)へのCPAP療法の導入は日中のQOLの向上や心血管イベントの発症抑制につながる可能性があり、第一治療選択として推奨されている。
CPAPを新規に導入した患者のうち、約50%が最初の1年以内、ほとんどが最初の1か月以内に使用を中止している。
長期的なアドヒアランスの信頼できる唯一の予測因子は、短期的な持続陽圧呼吸療法(CPAP)を遵守することである。
短期的な治療の遵守を改善することを目的とした戦略は、CPAP療法の成功に合理性があると考えられる。
理論的には、徹底した患者教育、定期的なフォローアップ、およびデバイスの快適性の向上(たとえば、加温加湿器、より適切なマスクの使用)により成功率が増加すると推定されている。
しかしこのような集中的なサポートや技術的介入は、実際の臨床で一貫性、確実性を持って実施されていない。
どのような患者がCPAP療法の長期継続に移行するかを予測し、CPAP療法導入時2週間の非ベンゾジアゼピン鎮静催眠性(エスゾピクロン)を使用するほうがプラセボよりも長期的なCPAP療法のアドヒアランスを改善するかどうかを判定するための研究を行う。

Method:
2007年3月から2008年12月までに新規にOSASと診断され、以前にCPAP療法を受けていなかった18歳から64歳の患者を対象にした。
OSASはすべての患者で、夜間の睡眠ポリグラフ検査に基づいて診断され、またすべての睡眠ポリグラムは、研究調査員および著者によって評価された。診断を確立し、無呼吸低呼吸指数を使用して、米国睡眠医学アカデミーの基準に従ってOSAの重症度を定義した。
催眠薬を長期間使用している患者、1晩に2杯以上のアルコール飲料を摂取している患者、および肝機能障害または研究の完了を妨げる重度の精神疾患のある患者、妊婦を除外した。

エスゾピクロン3 mgを就眠前に服用する群(n 80)、プラセボ群(n 80)を無作為に割り当てた。
ランダム化は、コンピューター化されたプログラムを使用して実施された。薬局には最終データが収集されるまで、無作為化と盲検化を維持した。
CPAPを開始するすべての患者に包括的な教育プログラムに参加し、適切なマスクフィッティングを行った。CPAP自体は全員が同じモデルを使用した。
治療に対する臨床反応を評価するために、1か月後に評価が行われた。また必要に応じて、追加のフォローアップが提供され、圧力の変化、漏れの評価、マスクの変更、
または適切な睡眠衛生などの調整と教育を含む非薬理学的介入は、より良いアドヒアランス向上のために個別化されている。この研究に登録されたすべての患者は、3ヶ月および6ヶ月の治療後にも評価を受けた。
Primary outcomeとして測定したものは、24週目のCPAP療法の遵守であった。
詳細には、使用された夜間の割合、全調査の夜間の平均夜間使用時間、CPAPが使用された夜間の平均時間を計算した。
また、「CPAPの定期使用」ができているかの割合を比較した。これは全体の70%以上使用割合があり、かつ1晩で4時間以上の使用ができているものと定義した。
上記の測定にはCPAPユニットに統合されている「スマートカード」からCPAP使用の客観的な測定値を取得した。
登録時(ベースライン)およびCPAPを開始してから1、3、6か月後に測定された変数をすべて収集した。さらに1か月、3か月、6か月にスマートカードを収集し、
ダウンロードしたデータを1週間単位で毎晩記録および分析をした。
Secondary outcomeは、CPAP中断率と症状の改善率を測定した。
症状の指標には、エプワース眠気尺度(ESS)スコア、疲労感、睡眠アンケートの機能的結果の変化をベースラインと研究の終わりとの間で比較して決定した。

Results:
登録された160人の患者のうち、154人が治験薬を受け取り、分析された。登録された患者のうち、1、3、6ヶ月で追跡調査を行い、その時点で150、136、および120人が対象となった。2つのグループの患者のベースライン患者特性は類似しており(Table1)、治験薬から報告された副作用も稀で、グループ間で差はなかった(Table2)。
JC西園1
JC西園2

エスゾピクロン群は、全体の64.4%でCPAPを使用し、プラセボを投与された患者では45.2%であり、エスゾピクロンによりCPAP療法の遵守が改善された。またエスゾピクロン対プラセボのグループで、全調査の夜間の平均夜間使用時間は3.57対2.42時間、CPAPが使用された夜間の平均時間は4.05対3.02時間であった。

JC西園3

参加者がスマートカードを返さなかったために欠落したデータは、1週目で2%(154人の患者のうち4人)から24週目で22%(34人の154人の患者)であった。欠測データは任意の週にグループ間で均等に分配された。
CPAPの定期使用を中断するまでの期間も、エスゾピクロンよりもプラセボの方が短く、平均期間は、プラセボ群で13.3週間、エスゾピクロン群で17.6週間であった。
さらには、CPAPの使用により、主観的な改善がもたらされた。ベースラインと比較して、ESSスコアはエスゾピクロン群で22.7%減少し、プラセボ群で7.6%、疲労は10.2に対して17.7%減少した。および睡眠アンケート機能スコアの機能的結果は9.4%に対して12.6%増加した。

【開催日】2019年9月4日(水)

軽度高血圧を有する、心血管リスクの低い患者に対する降圧薬投与の功罪

-文献名-
James P. Sheppard et al. Benefits and Harms of Antihypertensive Treatment in Low-Risk Patients With Mild Hypertension: JAMA Internal medicine. 2018; 178(12): 1626-1634.
-要約-
◎背景
心血管リスクを低い、軽度の高血圧患者の薬物療法を支持するエビデンスには決定的なものが存在しない。以前の論文は有効性を保証するに至っておらず、ガイドラインでも矛盾が指摘されていた。

◎目的
心血管リスクの低い、軽度の高血圧患者における降圧治療が、死亡や心血管疾患のリスクを下げるかを確認すること。

◎研究デザイン
後ろ向きコホート研究。1998年1月から2015年9月までの間に、未治療の軽度の高血圧(未治療下で140-159/90-99mmHg)を有する18歳から74歳までの患者が対象。既に心血管リスクを有しているものは除外し、途中で関心outcomeを発症したものは除外した。
※ 心血管リスクとは、心血管イベントの既往、左室肥大、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、若年での冠動脈疾患の家族歴、である。
Primary Outcomeは全死亡率、Secondary Outcomeは①心血管イベントによる入院もしくは死亡、②癌による死亡(Negative control)、③有害事象(低血圧、失神、徐脈、電解質異常、転倒、急性腎障害)である。

◎結果
▼ 19143人の治療群と未治療群に分け、追跡期間中央値は5.8年であった。降圧治療と死亡率の間に有意な証拠は診られなかった(HR=0.88~1.17)。心血管疾患との関連性にも有意差なし(HR=0.95~1.25)。
一方で、治療群では、低血圧(HR=1.30-2.20)、失神(HR=1.10-1.50)、電解質異常(HR=1.12-2.65)、急性腎障害(HR=1.00-1.88)のリスクと関連性を有した。
▼ 治療群における年齢、血圧、降圧薬の種類と、死亡率もしくは心血管イベントの発生率には有意差なし。

◎考察
▼ 過去、これらのoutcomeについて、(降圧による)有意な差を見いだせなかったとする研究や、ハイリスク群での研究はあったが、それに答える研究となっている。
▼ 新しいACC/AHAガイドラインにおける、低リスク群の軽症高血圧に対して降圧を促すことで、心血管イベントを減少させうるとするサジェストに異議を唱える結果となった。
▼ また、降圧薬の長期投与が各種の有害事象と関連していることにも言及できた。
▼ 一部有害事象は、電子媒体の不充分な記載によるところもありそうで、例えば入院まで至らなかったり主治医に報告がなされなかったりした転倒のイベントは拾えていない。
▼ 医療機関に報告がなされないようなイベントは患者個人が重要だと認識していなかったり、secondary outcomeは診断バイアスがかかっている可能性もある(治療中の患者は有害事象をより報告しやすくなるなど)。
▼ 残余交絡(residual confounders)に伴い、治療群をよりリスクの高い群とみなした可能性は否定できない
▼ propensity scoreを使用したマッチングを行っており、risk factorの記録の際にバイアスが生じている可能性もある
▼ サブグループ解析において、女性における心血管イベントの発生や、ACEi投与と心血管イベントの発生との間に関連性があるかもしれないと示されているが、重要な交互作用が考慮されていない点には注意が必要。
▼ 追跡期間の中央値が5.8年であり、より長く観察を続けた際に、薬剤投与を続けることの利点が示される可能性はある。

◎結論
測定が不可能な交絡による影響がある可能性を考える必要はあるものの、心血管リスクの低い、軽度の高血圧症の患者における治療を支持する結果は得られず、有害事象のリスクが増加しているという結果を得た。心血管リスクの高い患者で施行された試験の結果を、リスクの低い患者に一般化するガイドラインに従う場合、医師は注意すべきであることを示唆している。

(図1) 患者の特性について
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(表2) 結果
JC201906富田2

(図1) 各群、イベントごとの発生割合
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(図2) 有害事象の発生割合
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(図3) サブ解析における治療の有効性の評価
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【開催日】2019年6月12日(水)

日本人糖尿病患者に対する食事療法のエビデンス

-文献名-
Yamada S, Kabeya Y, Noto H. Dietary Approaches for Japanese Patients with Diabetes: A Systematic Review. Nutrients 2018; 10(8): 1080.
-要約-
【背景】
食事療法は糖尿病のマネジメントにおいて重要である。米国糖尿病学会(ADA)では地中海食、dietary approaches to stop hypertension(DASH)、ベジタリアン食、糖質制限食などいくつかの食事療法を推奨している一方で、日本糖尿病学会(JDS)では1965年以来、エネルギー制限食のみを推奨している。JDSガイドラインの食事に関する勧告は86の研究に基づいて報告されているが、そのうち83は日本人の2型糖尿病患者を対象にした研究ではなく、残りの3つもエネルギー制限食の有効性を示した研究ではない。
【目的】
日本人糖尿病患者の管理に対するエネルギー制限食(および炭水化物制限食)の影響を解明する。
【方法】
MEDLINE、EMBASE、JAMASのデータベースから検索
除外基準:(1)外国人データ、(2)非糖尿病患者データ、(3)他の食事療法アプローチ、(4)未発表データ(科学会議でのみ発表された要約を含む)、(5)症例シリーズや症例報告など、評価には不適切な研究
Funnel Plotなし(定量的データ分析は実施していない)
Mindsの勧告に従ってバイアスを評価
Yamada S、Kabeya Yのふたりで評価(意見の相違は議論およびNoto Hへの相談で解決)
【結果】
エネルギー制限食の評価:2つのRCTをレビュー(いずれも糖質制限群V.S.エネルギー制限群、nはそれぞれ24、66)
・エネルギー制限群は糖質制限群より6か月後のHbA1c改善において劣っていた。
・片方のRCTではエネルギー制限群の方が糖質制限群よりもエネルギー摂取量が高く、エネルギー制限の正味の影響は評価不能
糖質制限食の評価:3つのRCTをレビュー(上記2つに加えて、糖質制限群V.S.糖質非制限群、n=15)
・糖質制限群は糖質非制限群に比べて持続血糖モニタリング(CGM)における食後血糖の改善に優れていた。
・糖質制限食は、日本人の2型糖尿病患者における限られたエビデンスによって支持される。
【結語】
①日本人糖尿病患者に対する食事療法のエビデンスはほとんどない
②JDSが推奨するエネルギー制限食は科学的根拠に裏付けられていない → より大規模な試験が必要
③短期間のアプローチでは、糖質制限食はエネルギー制限食より効果的 → より洗練された設計の試験が必要

JC2019後藤

【開催日】2019年6月5日(水)

75歳以上の高齢者に対する一次予防目的でのスタチン投与の是非

―文献名―
Rafel Ramos, et al. Statins for primary prevention of cardiovascular events and mortality in old and very old adults with and without type 2 diabetes: retrospective cohort study. BMJ 2018;362:k3359.

―要約―
【背景】
75歳以上の高齢者に対する心血管疾患(CVD)あるいは心血管死の二次予防目的でのスタチン投与は一定確立されている。一方で、75歳以上、とくに85歳以上の高齢者に対する一次予防目的でのスタチン投与はエビデンスが不足している。
【目的】
スタチンが75歳以上の高齢者のCVD発症あるいは全死亡の一次予防に寄与するかどうか評価する。
【方法】
後ろ向きコホート研究
【セッティング】
スペインの大規模データベース「Database of the Catalan primary care system (SIDIAP)」の2006-15年分
【主要アウトカム】
CVD発症と全死亡
【結果】
臨床的にCVDの既往がない46,864名(平均77歳、63%は女性、追跡期間中央値5.6年)が登録された。(Fig.1)
糖尿病がない被検者のスタチン使用によるハザード比は、75-84歳ではCVD発症0.94 (95%CI 0.86-1.04)、全死亡0.98 (0.91-1.05)、85歳以上ではCVD発症0.93 (0.82-1.06)、全死亡率 0.97 (0.90-1.05)だった。糖尿病がある被検者のスタチン使用によるハザード比、75-84歳ではCVD発症0.76 (0.65-0.89)、全死亡0.84 (0.75-0.94)、85歳以上ではCVD発症0.82 (0.53-1.26)、 全死亡1.05 (0.86-1.28)だった。(Table.4)
同様に、年齢によるsplinesを用いた連続スケール効果解析で、糖尿病のない74歳以上の被検者におけるスタチンのCVD発症と全死亡に対する利益欠如を裏付けた。糖尿病がある被検者では、スタチンのCVD発症と全死亡に対する予防効果が示されたが、この効果は85歳以上では実質的に減少し、90歳以上では消失した。(Fig.2)

JC(今江20190522)

JC(今江20190522)1

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【開催日】2019年5月22日(水)

2型糖尿病における心血管及び腎機能の1次予防/2次予防に対し用いられるSGLT2阻害薬

―文献名―
Thomas A Zelniker, Stephen D Wiviott, et al. SGLT2 inhibitors for primary and secondary prevention of cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of cardiovascular outcome trials. Lancet 2018 Nov 9.

―要約―
◎背景
SGLT2阻害薬に関しては、2型糖尿病の患者の心血管イベント発生に対するいくつかのランダム化比較試験が行われている。2型糖尿病患者を対象としたSGLT2阻害薬の無作為化対照試験に関して系統的レビュー並びにメタアナリシスを実施した。’18年9月24日までに公開された試験に関し、PubMed及びEmbaseを検索している。有効性の結果は、主要な有害な心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)、心血管死もしくは心不全による入院、腎臓病の進行を含んでいる。

◎結果
▼ 3つの試験(① EMPA-REG OUTCOME、② CANVAS program、③ DECLARE-TIMI 58)を対象とした
① Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al. Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes. N Engl J Med 2015; 373: 2117–28.
 42カ国、590施設で、18歳以上、BMI≦45kg/㎡、eGFR≧30を満たす患者
② Neal B, Perkovic V, Mahaffey KW, et al. Canagliflozin and cardiovascular and renal events in type 2 diabetes. N Engl J Med 2017; 377: 644–57
 30カ国で、HbA1c 7.0~10.5%、30歳以上で症状を有する動脈硬化性の心血管疾患を持つか、50歳以上で心血管疾患のリスク因子を2項目以上満たす患者
③ Wiviott SD, Raz I, Bonaca MP, et al. Dapagliflozin and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes. N Engl J Med 2018; published online Nov 10. DOI: 10. 1056/ NEJMoa1812389.
 (対象患者に関する情報を検索できず)

・合わせて34322名の患者(うち60.2%が動脈硬化性の心血管イベントを有している)のデータを収集した。平均年齢は63.5歳、35.1%は女性であった。3342名に有害な心血管イベントを、2028名に心血管死もしくは心不全に因る入院を、766名に腎臓病の進行を認めた。
・主要な有害な心血管イベントを11%減らしたが、その効果は動脈硬化性の心血管疾患を有している患者にのみ有意差がみられ(HR=0.86(95%CI=0.80-0.93))、リスクファクターは有するが動脈硬化性の心血管疾患を有しない患者にはみられなかった(HR=1.00(95%CI=0.87-1.16))。
・心血管死もしくは心不全に因る入院を23%減らし、それは動脈硬化性の心血管疾患を有しているか否かに関わらず同様の効果がみられた。
・心筋梗塞のリスクを11%下げ、心血管死は16%下げるとするデータは得られたが、高い異質性がある(I2=79.9%)。
・脳梗塞のリスク低下には寄与しない(HR=0.97(95%CI=0.86-1.10))。
・腎臓病の進行、末期腎不全、腎死のリスクを45%減らし、それは動脈硬化性の心血管疾患を有しているか否かに関わらず同様の効果がみられた。動脈硬化性の心血管疾患を有する患者ではHR=0.56(95%CI=0.47-0.67)、リスクファクターのみを有する患者ではHR=0.54(95%CI=0.42-0.71)。
・SGLT2阻害薬の効果の大きさは基準の腎機能によって変わり、より深刻な腎機能を有している患者では、心不全に因る入院を大きく減らす一方、腎臓病の進行を抑える効果はより小さくなる。eGFR<60の群では心不全による入院は40%減少させるも、腎臓病の進行抑制は33%にとどまった。一方eGFR>90の群では心不全による入院は12%の減少にとどまるが、腎臓病の進行抑制は56%に達した。
・SGLT2阻害薬は全原因死を15%減少させるとする結果は出たが、異質性が高い(I2=75.2%)。動脈硬化性の心血管疾患を有する患者ではHR=0.83(95%CI=0.75-0.92)、リスクファクターのみを有する患者ではHR=0.90(95%CI=0.77-1.05)であった。同様に、心不全の既往を有する患者ではHR=0.80(95%CI=0.67-0.95)、心不全の既往を有しない患者ではHR=0.88(95%CI=0.80-0.97)であった。
・肢切断や骨折のリスク増加は1本の試験のみで示されているが、いずれについても異質性がある。糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加に関しては、プラセボに較べてSGLT2阻害薬がHR=2.20であったが、イベントの発生率自体は1未満/1000人年と低い。

◎考察
・SGLT2阻害薬は、心不全による入院や、腎臓病の進行に対する相対的なリスク軽減に大きな影響を与えることが判明した。一方で、臨床的な効果は、使用する患者の特性に依存し、深刻な心血管イベントのリスク軽減は、既に動脈硬化性の心血管疾患を有している患者のみに明らかで、動脈硬化性の心血管疾患を持たない患者群に対しては効果は認められなかった。ただし、心不全に因る入院に関しては、動脈硬化性の心血管疾患の有無や心不全の既往の有無に関わらず明らかかつ同等の効果がある。腎臓病の進行に関しても、より悪い水準の腎機能を有する患者にSGLT2阻害薬を使う方が、腎機能の悪化への効果が少ないが、心不全による入院の減少に大きく寄与する結果となった。
・概して、SGLT2阻害薬は、真菌性の生殖器感染のリスクを上昇させることを除いては、忍容性が高く、一般的に安全な薬だと捉えられる。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを上げうるが、その割合は極めて低く、充分な患者教育と注意を払うことでリスクを下げることができる。脳卒中に対する安全警告があったが、現時点でのメタアナリシスではそのリスクは示されなかったし、肢切断や骨折に関しては1つの試験でしかリスク上昇は認められなかった。
・今回の研究の限界として、個々の特定のデータというよりは、むしろ研究レベルでのデータの集合を用いたこと、対象とする患者の基準が、検討した研究間でわずかながら異なること、さらに動脈硬化性の心血管疾患や心不全の既往がその患者にあるか否かは、研究者側の報告によっており、一部の患者はこれらの疾患の明確な診断を受けていない可能性があることが挙げられる。

◎結論
・動脈硬化性の心血管疾患や、心不全既往の有無に関わらず、2型糖尿病患者にはSGLT2阻害薬を考慮して良いと思われる。

※資料一覧
20190320富田1
3つの臨床試験の詳細。使用されているSGLT2阻害薬は、それぞれエンパグリフロジン(ジャディアンス®)、カナグリフロジン(カナグル®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)。

20190320富田2
(図1) 心筋梗塞、脳梗塞、心血管死に関するメタアナリシス。

20190320富田3
(図2) 心不全に因る入院及び心血管死に関して、動脈硬化性の心血管疾患を持つか、
リスクファクターのみにとどまるかの観点から検討したメタアナリシス。

20190320富田4
(図3) 心不全に因る入院及び心血管死に関して、心不全既往の有無で検討したメタアナリシス。

20190320富田5
(図4) 腎機能の悪化、末期腎不全、腎死に関して、動脈硬化性の心血管疾患の有無の観点から
検討したメタアナリシス

20190320富田6
(図5) (A)腎機能低下、末期腎不全、腎死について、(B)心不全に因る入院について、
(C)大きな心血管イベントについて、それぞれ腎機能の観点から検討したメタアナリシス

【開催日】2019年3月20日(水)

急性鼻副鼻腔炎,急性細菌性鼻副鼻腔炎の診断に有用な病歴,身体所見

―文献名―
Mark H. Ebell, Brian McKay, et al. Accuracy of Signs and Symptoms for the Diagnosis of Acute Rhinosinusitis and Acute Bacterial Rhinosinusitis. Annals Fam Med 2019; 17:164-172.

―要約―
【背景と目的】
過去の急性鼻副鼻腔炎の臨床診断に関するシステマティックレビューは全て15年以上前のものであり,2変量メタ解析のような最新の統計分析的手法を用いていない.本研究の目的は急性鼻副鼻腔炎や急性細菌性鼻副鼻腔炎の臨床診断に関する包括的なメタ分析を行うことである.
【方法】
臨床的に急性鼻副鼻腔炎を疑う外来患者を対象とし,感度と特異度を測定し十分な情報を報告している研究をMedlineで探索した.検索された1649の研究のうち17の研究が組み入れ基準(inclusion criteria)に合致した.急性鼻副鼻腔炎は評価が確定されている参照基準(レントゲン,超音波エコー,CT)により診断され,急性細菌性鼻副鼻腔炎は副鼻腔穿刺による膿汁の証明または細菌培養陽性により診断した.病歴や身体所見の精度の見積もりを測定するために2変量メタ解析を用いた.
【結果】
副鼻腔炎を臨床的に疑う患者において,画像的に確定診断された急性鼻副鼻腔炎の有病率は51%,副鼻腔穿刺により確定診断された急性細菌性鼻副鼻腔炎の有病率は31%であった(Table2).

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急性鼻副鼻腔炎を最もよくrule inできる臨床所見は中鼻道の膿性鼻汁(陽性尤度比[LR+] 3.2),全体的な印象(LR+ 3.0)であった.最も良くrule outできる所見は全体的な印象(陰性尤度比[LR-] 0.37),transillumination(副鼻腔の透過照明)が正常であること(LR- 0.55),先行する気道感染がないこと(LR- 0.48),鼻汁がないこと(LR- 0.49),膿性鼻汁がないこと(LR- 0.49)であった(Table 3).

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限られた情報に基づくが,急性細菌性鼻副鼻腔炎の最良の予測因子は全体的な印象(LR+ 3.8,LR- 0.34),悪臭症(息の悪臭)(LR+ 4.3,LR−0.86),歯痛(LR+ 2.0,LR- 0.77)であった(Table4).

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Clinical decision ruleがいくつか提案されているがどの研究においても前方視的に有効性が確認されてはいなかった(Table5).

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【結論】
臨床的に急性鼻副鼻腔炎を疑う患者において急性細菌性鼻副鼻腔炎は約1/3しか認められない.全体的な印象,悪臭症,歯痛が急性細菌性鼻副鼻腔炎の最良の予測因子であった.C-reactive proteinや尿検査をもちいたClinical decision ruleは有用である可能性があるが,前方視的な有効性の確認が必要である.

【開催日】2019年3月20日(水)

電子タバコの方がニコチン代替療法よりも禁煙率が高い

-文献名-
Peter Hajek, Ph.D, et al. A Randomized Trial of E-Cigarettes versus Nicotine-Replacement Therapy. The New England Journal of Medicine. 2019;7(380):629-637.

-要約-
Background:
電子タバコは禁煙の試みとしてよく利用されるが、禁煙治療として認定されているニコチン代替療法と比べて、その効果についてのエビデンスは限られている。
タバコから電子タバコへの変更することで、健康上のリスクを減らすことが期待されている
ニコチン含有の電子タバコはニコチンの入っていない電子タバコとくらべて禁煙に効果があるとコクラン・レビューは示している
しかし、対面の診療を伴わない、ニコチンパッチと低用量のニコチンを含有している電子タバコによる治療を比較した研究では、いずれの治療法もあまり効果は高くなかった
Method:
イギリスのNHSによる禁煙プログラムに参加した成人を、最大3ヶ月間のニコチン代替療法(各々が選択した製品を利用、複数併用可能)か、電子タバコスターターパック(第2世代、詰替可能、1本あたり18mg/mlのニコチン含有)にランダムに割り付けた。詰替用の液体は、各々が好みの香りや強さのものを購入して良いと勧めている。治療には、少なくとも4週間、週1回の行動療法が行われる。プライマリ・アウトカムは、最終受診で生化学的に評価される1年間の継続的な禁煙とした。フォローから脱落した、あるいは最終的な生化学的な評価を受けなかった参加者は禁煙失敗と判断した。セカンダリー・アウトカムは、参加者の自己申告による治療の利用状況と呼吸器症状とした。
Two-group, pragmatic, multicenter, individually randomized, controlled trial
期間:May 2015-Feb 2018
NHSの禁煙プログラムは英国内では無料で提供されている
ソーシャル・メディアや広告で参加者を募る
事前に候補者をスクリーニングし、ベースラインのセッションに呼ぶ
書面で同意を得て、禁煙日を決める
禁煙日を決めてから、いずれかの治療法にランダムに割り付ける
ランダム化の後は、すぐに製品の利用を開始する
全ての参加者は行動療法的なサポートを受ける
医師による1対1のセッションで、CO濃度測定も行われる
参加者は26週と52週に、電話にて製品の使用状況と禁煙状況について報告する
52週の時点で禁煙あるいは50%以上の減煙ができているか参加者はCO濃度測定するよう勧められる(26$US支給あり)
ニコチン代替療法:パッチ、ガム、飴、鼻スプレー、口スプレー、mouth strip、吸入、microtabs)、併用療法が推奨されており、特にパッチと速攻型系抗生剤の組み合わせが多い。変更も可能。提供の仕方はサイトによって異なる。通常の治療の同様、最大3ヶ月まで利用可能。
電子タバコ:One Kitというスーターキットを提供される。電子タバコの詰替方法の指導あり。電子タバコの液体がなくなったら、ネットや店で詰替用を購入してもらう。ある製品が合わなければ別な製品へ変更しても良い。詰替用の液体は、異なる香りや強さを自由に試してみてよい。One Kit 26-40$。
ニコチン代替療法も電子タバコも、禁煙後4週間はもう一方へ変更してはダメ。
Results:
Figure 1, Table 1〜5参照
Conclusion:
行動的なサポートが行われている場合には、電子タバコはニコチン代替療法よりも禁煙に対する効果がある。
Discussion:
他の同じような研究と比べて禁煙率がとても高い。その原因として以前にも禁煙にトライしたことのある参加者が多いので、参加者のモチベーションが高かったか。あるいは対面のサポートがあったからか。詰替可能な電子タバコがよかったのか、自由に詰替用液体を選択できたからか。
これまでの研究では、電子タバコはタバコの離脱症状が軽く、禁煙率が高く、それぞれのニーズに合わせてニコチン量を選べることがニコチン代替療法よりも良い理由としている。
電子タバコの継続率はかなり高い。まだ知られていない健康上のリスクが長期使用で出てくる可能性がある。しかし、便秘や口内炎、体重増加といった禁煙の離脱症状を和らげる効果がある。ヘビースモーカーの再発予防のためには役立つかもしれない。
Limitation:製品は盲検化出来なかった。CO濃度は24時間以内の喫煙を検出するため偽陰性の可能性あり。脱落率が21%と高く、通常研究の妥当性に影響するとされるが、他の禁煙の研究でも同等。
By Dynamed:
禁煙率は人種によって異なる。今回の研究では、人種毎のデータがなく、人種によって調整された分析がされていない。
白人やヒスパニックでは禁煙率は高いが、アフリカン・アメリカンでは禁煙率は低い。

【開催日】2019年3月6日(水)

血圧コントロールを評価するための血圧日誌の活用

-文献名-
James E.Sharman, BHMS(Hons), PhD, et al. Pragmatic Method Using Blood Pressure Diaries to Assess Blood Pressure Control. Annals of family medicine. Vol.14, No.1, January/February 2016

-要約-
Introduction
診療所血圧は患者の血圧管理によく使われるが、真のコントロール状況を正確に反映しないという限界がある。家庭血圧(HBP)、または24時間自由行動下血圧(ABP)の使用は予後有用性が高い。HBPは一般的に広く利用されており、その有用性から多数の国で支持されているが、患者の日誌から手動で血圧の平均を計算しなければならないという問題がある。外来の時間で医師がその計算をすることは現実的ではない。今回、HBPが収縮期血圧の閾値(≧135mmHg)を超えている割合について、どの程度の割合が最適かを決定する目的で研究が行われた。
Method
3つのオーストラリアの施設で、高血圧治療中の患者286名が募集され、ランダム化臨床試験が実施された。患者は合併症のない本態性高血圧に対し、3種類以下の降圧薬内服により治療を受けている妊娠していない成人が選ばれた。除外基準は左室心筋重量係数の異常、冠動脈疾患または腎疾患の既往、血清クレアチニン>1.6、二次性高血圧、コントロール不良の高血圧(診療所血圧>180/100)、大動脈弁狭窄症、上肢閉塞性アテローム性動脈硬化症の患者である。患者は7日間HBPを記録し、24時間ABP、大動脈硬化、左室心筋重量および機能、ならびに研究登録時のベースライン検査で評価された左房面積が測定された。24時間ABP収縮期血圧≧130mmHg、または日中の24時間ABPの収縮期血圧≧135mmHgと定義された。確証的証拠による検証は、最終臓器疾患のマーカーとの関連によって行われた。
Results
治療/目標閾値を超える24時間のABP収縮期血圧の最良の予測因子は、最後の10回の在宅収縮期血圧測定値のうち3回以上が135mmHg以上の血圧となっていることであった(Table 2参照)。この基準を満たさない患者と比較して、この基準を満たす患者は標的臓器疾患の証拠があり、有意に高い大動脈硬化、左室の相対的な壁肥厚、左房拡大、左室駆出率低下がみられた。
Discussion
患者のHBP日誌の使用は、血圧管理ガイドラインおよび国際的な専門家委員会によって推奨されているが、外来の中で全ての患者のHBPの平均を計算することは現実的ではない。本研究により、最後10回のHBPのうち30%以上が≧135mmHgであった場合、24時間ABPによれば血圧コントロールが不良になる傾向があることが分かった。その妥当性として、最後10回のHBPの30%以上が≧135mmHgとなった患者で、高血圧関連の心臓および大動脈の末梢臓器疾患罹患率が高いことで裏付けられた。本研究の限界として、今回の調査結果は我々が使用したHBPプロトコルの影響を受けているかもしれず、異なるHBP記録方法や、著明に高い診療所血圧(>180/100mmHg)の患者に一般化できない可能性がある。また、降圧薬の服用時間を標準化したり、HBPの一貫性に影響を与える可能性のある日常生活活動を制限したりはしなかった(運動習慣、食事、飲酒など)。それでも、HBPが今回の研究で使用され、ガイドラインで推奨されているような方法で記録された場合、再現性高く、信頼性の高い血圧が確認できる。

【開催日】2019年2月20日(水)

ACE阻害薬と肺癌リスク

-文献名-
Blánaid M Hicks, et. al. Angiotensin converting enzyme inhibitors and risk of lung cancer: population based cohort study BMJ 2018;363:k4209

-要約-
Introduction:
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(以降、ACEI)は短期的には比較的安全であることが示されているが、長期使用が癌のリスク増加と関連する可能性が懸念されている。いくつかの生物学的研究がACEIと肺癌リスクとの関連の可能性のために存在する。ACEIの使用は肺にブラジキニンの蓄積を引き起こし、肺がんの増殖を刺激しうると報告されている。5また、サブスタンスPの蓄積をもたらし、これは肺癌組織において発現され、そして腫瘍増殖および血管新生と関連している。
いままでの研究では無作為化対照試験のメタアナリシスでは、ACEIによるがんの発生率の増加は認めらなかったが、ほとんどのサンプルが比較的小規模で追跡期間が短かった(中央値3.5年)。アンジオテンシン受容体遮断薬(以下、ARB)の使用と比較してACEIの使用が肺癌リスク増加と関連しているか決定するため大規模な集団ベース試験を行った。
Method:
この研究は1500万人以上の患者を含む約700の一般診療からのデータが含まれる、英国臨床診療研究データリンク(CPRD)を使用した。降圧薬(βアドレナリン受容体遮断薬、αアドレナリン受容体遮断薬、ACEI、ARB、カルシウムチャンネル遮断薬、血管拡張薬、中枢性降圧薬を含む)で新たに治療開始された18歳以上の全患者の基本コホートを特定した。すべての患者に少なくとも1年間の病歴がCPRDにあることを要求した(利尿薬、神経節遮断薬、およびレニン阻害薬)。
上記で定義された基本コホートから、1995年1月1日以降(英国でACEIとARBの両方が処方可能となった最初の年)の12月31日までに新規降圧薬を服用し始めた全患者の試験コホートを特定した。これらの患者には、新たに降圧薬で治療開始された患者、ならびに以前の治療歴で使用されていない降圧薬を追加または切り替えた患者が含まれた。癌と診断をうけたことのある患者(非黒色腫皮膚癌以外)およびコホートに入る前の任意の時点で癌治療(化学療法または放射線療法)を受けたことのある患者は除外した。潜伏期間の考慮と追跡調査の間の偶発的事象の同定を確実にするためにコホート登録後の追跡調査1年未満の患者を除外した。
すべての解析モデルでは、コホート参加時に測定された以下の変数について調整された:年齢、性別、コホート参加年、BMI、喫煙状態(喫煙継続中、禁煙後、非喫煙)アルコール依存性疾患(アルコール依存症、アルコール性肝硬変、アルコール性肝炎、肝不全を含む)、および肺疾患の既往歴(肺炎、結核、慢性閉塞性肺疾患を含む)。さらに研究モデルには治療された高血圧の期間(降圧薬の最初の処方からコホート参加との間の時間として定義)およびコホートに参加前のスタチンの使用が含まれた。
各曝露群について、ポアソン分布に基づいて、肺癌の粗発生率および95%信頼区間を計算した。欠損値を持つ変数の多重代入を使用して、アンジオテンシン受容体遮断薬の使用と比較したACEIの使用に関連する肺がんのハザード比および95%信頼区間を推定するために、時間依存Cox比例ハザードモデルを使用した。
Results:
コホートには992 061人の患者が含まれ、1年後のコホート参加準備期間を超えて平均6.4(SD 4.7)年間追跡された。追跡調査期間中、335,135人の患者がACEIで治療され、29,008人がARB、そして10 1,637人がACEI/ARB併用で治療された。全体として、7952人の患者が肺癌に罹患していると新たに診断され、1000人年当たり1.3の粗発生率1.3(95%信頼区間1.2〜1.3)となった。

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表1は、コホート全体のACEI、ARB、および他の降圧薬の使用によるベースライン特性を示す。アンジオテンシン受容体遮断薬の使用者と比較して、ACEI服用群は男性、アルコール関連障害、現在喫煙していること、およびより高いBMIを有する可能性が高かった。さらに、ACEI服用群は治療された高血圧の期間がより短く、スタチンや他の処方薬を使用する可能性がより高かった。ACEIおよびARB服用者は、肺炎、結核、および慢性閉塞性肺疾患の類似した病歴を持っていた。

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ARBと比較して、ACEIは14%の肺癌リスク増と関連していた(1000人年あたり1.6v1.2 ハザード比1.14、95%信頼区間1.01〜1.29)。5年未満のACEIの使用は肺がんのリスク増加と関連していなかった(ハザード比1.10、0.96から1.25)。しかし5〜10年の使用(1.22、1.06〜1.40)で上昇し、10年以上の使用(1.31、1.08〜1.59)でも増加し続けた。ACEI開始以降の期間についても同様の関連性が観察され、ハザード比は開始後より長い時間で増加し、開始後10年以上でピークに達した(ハザード比1.29、1.10から1.51)。

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Discussion:
約100万人の患者を対象としたこの大規模な集団ベースの研究では、ACEIの使用は全体で14%の肺がんリスクの増加と関連していた。関連性は5年間の使用後に明らかになり、特に10年間以上ACEIを使用した患者の間では、長期間の使用で増加した(31%のリスク増加)。英国では、毎年7,010万件の降圧薬が投与されており、そのうち約32%がACEIである。
以前の無作為化比較試験のメタアナリシスでは、ACEI服用と癌全体または肺癌との間に関連は見つからなかったが、比較的短期間の追跡期間(中央値期間3.5年(1.3〜5.1年))であることから癌などの長期の有害事象を評価するのに十分な追跡期間ではなかった。本研究で5年間の使用後にACEIと肺癌リスクとの関連が明らかになったことを考えると、これは特に重要である。
この研究にはいくつかの制限がある。まず、重要な交絡因子を調整することはできたが、この研究では、社会経済的地位、食事、ラドンまたはアスベストへの曝露、肺がんの家族歴など、他の潜在的な交絡因子に関する情報が欠けていた。さらに、喫煙状態を調整したにもかかわらず、喫煙の期間と強度に関する詳細な情報が不足していた。しかしながら非喫煙者内で行われた分析は、明らかな持続時間- 反応の関連性とともに、一次分析の結果と一致する結果を生み出し、喫煙強度による交絡が今回の調査結果に重大な影響は及ぼさないだろう。第二に、CPRDの処方は一般開業医によって書かれた処方を表しているので、患者が治療計画に従わなかったり、専門家から処方を受けたりした場合、ばく露の誤分類が起こり得る。しかし、コホートに入るすべての患者が降圧薬で新たに治療された患者であったので、非遵守による誤分類は最小限であり、ACEIとARBの間ではおそらく差がないはずである。
最後に、持続性咳嗽はACEIの一般的でよく知られた副作用であり、観察された関連性が検出バイアスに起因する可能性を高める。ACEIを服用している患者は、胸部コンピュータ断層撮影などの診断的評価を受ける可能性が高く、前臨床肺癌の検出率が増加する可能性がある。CPRDに胸部検査に関する情報は十分に記録されておらず、分析でこの可能性を説明することはできなかった。しかし、最近の研究では、ACEIとアンジオテンシン受容体拮抗薬の開始後の胸部検査での違いはごくわずかなものと示されており、さらに、肺癌の過剰検出は治療開始後比較的早く観察されることが予想され、それが我々の追跡調査を1年遅れらせた理由の一つである。さらに、ACEIの使用と肺癌リスクとの関連は、使用期間の増加(少なくとも5年間の使用後)によってのみ明らかになった。まとめると、これらの結果は肺癌の過剰検出の仮説を裏付けるものではない。
Conclusion:
この大規模な集団ベースの研究では、ACEIの使用は、期間と反応の関係の証拠とともに、全体として肺がんのリスクの上昇と関連していた。観測された推定値は控えめだが、肺癌リスクがある多数の患者につながる可能性があるため、今回の知見は他の状況でも再現する必要がある。

【開催日】2019年2月20日(水)