授業を”反転”させるための12のヒント

-文献名-
JENNIFER MOFFETT. TWELVE TIPS Twelve tips for ‘‘flipping’’ the classroom: Medical Teacher. 2015, 37: 331–336

-要約-
はじめに
反転授業とは、従来の講義と宿題の要素を逆転させた教育手法を指す。学生はまず、授業に先立って、本の章を読んだり、ビデオを見たり、ポッドキャストを聞いたりして、コースの資料を提示される。そして、授業時間は単なる情報の伝達から解放され、他の目的、特に少人数でのアクティブラーニングに使われる(Bishop & Verleger 2013)。
現在の研究結果では、反転授業には多くの潜在的な利点があることが示されている。その中には、学習者に個別教育を提供する機会の増加や、エビデンスに基づく教育技術を既存のコースに取り入れることが含まれている(Kachka 2012a; Johnson 2013)。さらに、このアプローチは教育者の時間を最適化することができる。反転授業では、学生が新しい知識を分析し適用しようとするときに教育者が同席するため、教育者と学生の対話時間が増える(Bergmann et al.2012, Johnson 2013)。このアプローチを採用した教育者は、反転授業によって学生の自己管理能力が向上し、学生が自分の教育に責任を持つようになると述べている(Bergmann et al.2012)。また、学生は反転授業を楽しんでおり、特に自分のペースで教材を進めることができることに関連する柔軟性を報告している(Johnson 2013; Butt 2014)。
しかし、「反転授業」に関連する課題もある。文献で議論されている主な落とし穴の1つは、コース教材の改造に伴う時間と作業の増加である(Wagner et al.2013)。さらに、このアプローチでは、学生が自発的に自分の教育に責任を持つことが要求される。学生が授業前や授業中に課された活動に取り組まなければ、反転授業が効果的な学習をサポートしないというのは、正当な懸念である(Kachka 2012b)。
自分の授業を反転させるかどうかを検討している人にとって、貴重な質問は、”私は学生の前で過ごす時間を最も効果的に使っているか”ということである。もしその答えが「ノー」であれば、反転授業への移行、あるいはその特徴の少なくとも一部を採用することは、教育と学習を活性化させるシンプルで実践的な方法となり得るだろう。
この記事では、反転授業への移行を検討している医学教育者のための12のヒントについて見ていく。

ヒント1 認知された教育理論とエビデンスに基づいたテクニックを使って、反転授業を推進する。
一般に、反転授業の強みはテクノロジーの活用にあると誤解されている。例えば、講義資料をオンラインでビデオ録画したプレゼンテーションに移行することである(Bergmann et al.2012)。教育テクノロジーは反転授業のコンセプトに革命をもたらしたが、このリソースは、効果的な学習のモデルの構築に関する意思決定を後押しするのではなく、むしろサポートするものであるべきだ。
反転することを決めたら、教育者はまず、コース設計の重要な要素として認識されていることを考慮する必要がある。これには、ニーズ調査の実施、コンテンツと学習成果の決定、適切な教育・評価方法の選択などが含まれる(Lockyer et al. 2005)。

ヒント2 反転授業の良いところを生かす
コースの再設計には多大な時間と労力がかかることを考慮すると、反転授業のアプローチに投資する場合は、そのポジティブな特徴を生かすことが重要である。医学教育者は、新しいトピック、方法、人々をコースに統合したり、既存の課題を解決したりするために、このアプローチをどのように使用できるかを考えることをお勧めする。
例えば、時間や地理的な制約から教育者としての役割を果たせなかった外部の専門家を巻き込むために、反転授業のモデルがうまく利用されている(Wagner et al. 2013)。反転授業のもう一つの利点は、既存のカリキュラムの中に教育改革のための時間と空間を作り出すことができることであると認識されている(Kachka 2012a)。コンテンツの配信(全体または一部)がオンライン環境に移行すると、授業時間は、体験学習、チーム学習、問題解決型学習など、さまざまなエビデンスに基づく教育モデルを導入するスペースとなる(Kolb & Kolb 2005; Klegeris et al.2013; Ofstad & Brunner 2013)。

ヒント3 教材をどのように整理するか決める
反転授業の教育者が直面する最初の決定の1つは、コースの教材を2つの要素に分割する方法である:授業前に対処するものと授業中に対処するものである。ブルーム分類法(改訂版)(Anderson & Krathwohl 2001)のような教育モデルを用いて、アプローチを整理することができる。例えば、授業前の活動は、学習者の認知作業の低レベル(例:知識や理解)をサポートするために、授業中の活動は、高レベル(例:応用や分析)を促進するために使用される。
この計画段階は、どのような教材に優先順位をつける必要があるかを検討する適切な場でもある。医学教育者は、学生の時間に対する競争の激化を背景に、拡大する科学知識をカバーするという課題にしばしば直面する(Densen 2011)。反転授業のアプローチでは、教育者はオンライン学習環境にコンテンツを “投棄 “し、学生にとって情報過多となるリスクに直面することがある。いくつかの反転授業研究では、過剰なコンテンツが学生の懸念事項として取り上げられている(Johnson 2013; Wagner et al.2013)。
うまく設計された反転授業は、授業と学習の効率化を促進するはずである。理想的には、反転授業で授業前や授業中の活動に使える時間は、従来の教室で講義や講義後の宿題に使われる時間と同じか、それ以下であるべきである。

ヒント4 授業前活動の選択に投資する
反転授業の重要な構成要素は、授業前活動であり、エビデンスに基づく教育方法(Wagner et al. 2013)を参考にする必要がある。教育者は、授業前にどのような形式で教材を提供し、効果的な学生の学習をどのように評価するかを検討する必要がある。
ビデオによる授業は、コンテンツを提供する唯一の方法ではなく、また必ずしも「ベスト」な方法でもない(図1)。また、オンラインの仮想学習環境(VLE)は、柔軟で学習者中心の教材をサポートする機会を提供する(Ellaway & Masters 2008)。

ヒント5 VLEを効果的に活用する
最新のVLE、例えばMoodleやBlackboardは、教則本的なコンテンツの単純な提示にとどまらず、学習をサポートするために使用することができる。

ヒント6 授業時間を創造的かつ効果的に使う
反転授業のもう一つの重要な利点は、授業時間を教材の配布から解放し、より創造的な教育・学習方法に使うことができることである。ここでも、授業中の活動をエビデンスに基づく指導に合わせることが重要である。Roweら(2013)は、医学教育における技術の統合を調査した上で、「学習者中心で、対話的、統合的、反射的で、関与を促すような教育活動」を用いることを推奨している。このようなカリキュラムの革新の可能性は、今、教育者に検討を求めている: 学生の前で過ごす時間をどのように使えば最も効果的なのか。
どのような教育方法が採用されるにせよ、通常、反転授業では、講義中に教育者と学生の相互作用を高めることができる。
学生も教育者も、このような相互作用の増大が反転授業の最も価値ある特徴の一つであると報告している(Snowden 2012; Johnson 2013)。

ヒント7 反転授業の活用で、学習者のニーズに合わせた教育ができる
反転授業では、教育技術を活用することで、学習者のニーズに合わせた教育を行うことができる。例えば、教育者は、ディスカッション、クイズ、コンピュータ支援型学習モジュールなどのオンライン対話型演習を利用して、学生の参加と理解に関する豊富な情報を収集することができる(Cooper 2000)。

ヒント8 反転授業への転換に伴うスケジュールを把握すること
教育関係者が反転授業への転換を懸念する主な理由のひとつに、時間と労力がかかるということがある(Snowden 2012)。これは正当な懸念である。反転授業を成功させるためには、教育者は新しいテクノロジーを学び、取り入れ、教材を効果的に提示する方法を考案する時間が必要である(Shimamoto 2012; Snowden 2012)。しかし、反転授業を成功させるために必要な時間の大半は、一回限りのものであることも認識しておく必要がある。一度作成した学習リソースは、連続したクラスの学生に使用することができる。さらに、反転授業が効果的に機能すれば、教育者の講義時間や就労時間を全体的に削減することができる(Wagner et al.2013)。

ヒント9 反転授業の実施に携わる方へのトレーニングの提供
教育者の「準備」は、反転授業コースの成功の重要な要因である。教育者が反転する能力、あるいは熱意を感じなければ、うまくいく可能性は低い(Shimamoto 2012; Snowden 2012)。島本によれば、「反転授業を効果的に実施するためには、(教育者は)必要な技術的スキル、概念的知識、教育的経験のセットを保有する必要がある」。研修やFDの提供は、貴重な第一歩である。教育研究者は、講師に新しいテクノロジーの使い方や、エビデンスに基づく教育を授業に取り入れる方法を教えることを勧めている(Shimamoto 2012)。また、研修では、教育者が自分の専門分野で反転授業をどのように適用できるかの実例を示す必要がある。これは、自信をつけるためのステップであると認識されている(Shimamoto 2012)。
調査によると、教育者がすでに授業でかなりの量のアクティブラーニングを利用している場合、反転授業のアプローチに切り替えることのメリットは少ないと考えられる(Shimamoto 2012; Snowden 2012)。このような場合、反転授業の導入は、一部の人にとって「売りにくい」ものになる可能性がある。反転授業に対する教育者の態度に関する研究では、トレーニングが提供され、適切な技術サポートや反転授業を行うための時間やリソースなど、必要な前提条件が整っている場合、教員は通常、このアプローチを使用する意欲を持つと報告している(Shimamoto 2012, Snowden 2012)。

ヒント10 学生の準備を整える
また、学習者が反転授業に移行する際にサポートが必要な場合もあるようである。例えば、従来の受動的な講義環境から、より能動的な学習活動を行う環境に移行する学生は、そのアプローチに「納得」するためのサポートが必要かもしれない。米国の大学レベルの学生を対象とした研究で、Strayer (2007)は次のようなことを発見した: 反転授業の学生は、授業の構成がコースの学習課題をどのように方向付けるかについて、あまり満足していなかった。また、反転授業の学習活動の多様性が、従来の教室の学生にはなかった学生の不安感(「迷子」感)を助長しているという分析結果も出ている。教育者は、今一度、エビデンスに基づく教育・学習の推奨概念を守ることが重要である。

ヒント11 反転授業のアプローチをどのように評価するかを決める。
反転授業を採用することを決定した教育者は、その効果をどのように測定するかを検討する必要がある。例えば、カークパトリックの4つの評価レベル(Kirkpatrick & Kirkpatrick 2006)である「意見・反応」「能力・学習」「パフォーマンス・行動」「成果・結果」に応じて、特定のアプローチがどのように機能するかを検証することが考えられる。質的研究アプローチ、例えばアンケートやフォーカスグループなどのデータ収集方法を用いれば、下位レベルに関する情報を得ることができ、一方、試験成績や学生の成績は上位レベルを調査するために用いることができる。
反転授業に関する文献の多くは、学生の成績の客観的評価ではなく、アプローチに対する学生の認識について報告している(Bishop & Verleger 2013)。例えば、反転授業のアプローチを採用した生物学とコンピュータのコースでは、学生の成績向上が記録されている(Bishop & Verleger 2013年)。医学教育では、Pierce and Fox(2012)が、薬学生を対象に腎臓薬物療法に関するモジュールを反転授業にしたところ、試験の成績が向上したことを報告している。教育者が反転授業の効果を追跡するために学力を使用する場合、選択した評価方法が適切であることが重要である(Norcini et al.2011)。反転授業の目的が、スキル(例:コミュニケーション)の向上やより高度な理解の促進である場合、最終試験はそれに応じて調整する必要がある。

ヒント12 反転は”すべてか全くの無かのどちらか”である必要はないことを忘れてはならない。
実際、学生は従来の授業と反転授業の両方に分かれたコースを好むという証拠もある。ある研究(Wagner et al. 2013)では、工学部の学生は、30%の反転授業と70%の従来型授業のバランスが最適であると回答している。
反転授業の長所を活かすという考えに立ち返れば、教育者は、カリキュラムに課題がある場合、例えば、学生のエンゲージメントが低いトピックや、学習者の批判的思考を促進する必要があるモジュールなど、このアプローチを試験的に導入することができる。

まとめ
反転授業は、医学教育での活用が期待される教育イノベーションである。このアプローチには、学習者中心の教育の促進、教育者と学生の相互作用の増大、教育者の時間の最適化など、多くの潜在的な利点があるが、教室反転を実施するためには時間と労力がかかる。大規模なコース改造は慎重に計画・実施することが重要であり、特に、教育者がこのアプローチを採用するためには、時間と技術的なサポートが必要であると考えられる。最後に、教育工学は、反転授業が最近注目されるようになったきっかけを作ったとされているが、教育関係者はこれに惑わされないことが重要である。コースデザインの決定は、これまで同様、健全な教育理論とエビデンスに基づく実践に基づくものでなければならない。

【開催日】2023年6月7日(水)

家庭医療学研究についての非公式カリキュラムと学生の認識がキャリア選択に与える関連について

―文献名―
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice
Beinhoff P, Prunuske J, Phillips JP, et al.
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice. [published online ahead of print February 13, 2023]. Fam Med

―要約-
背景
米国はプライマリ・ケア医の不足に直面しており、2034年までに17800~48000人のプライマリケア医が不足すると予測されているが、マッチングの専攻医枠を拡大しても1/3ほどしか埋まっていない。正規のカリキュラムとキャリア選択の創刊についての研究はいくつかあるが、研究環境などの学習環境や学生の認識との研究は少ない。今回、家庭医療に対する学生の認識やその環境が学生の家庭医療キャリアの選択に与える影響について調査した多施設共同研究を行い、医学生が家庭医を目指すことを決定する理由を明らかにし、今後の不足に対処するための取り組みに役立てたい。
方法
家庭医療に対する学生の態度を評価するために開発され改良された14項目の検証済み質問票であるFamily Medicine Attitudes Questionnaire(FMAQ:Table2)に対する医学生の回答を、米国の16医学部で収集され、各大学の家庭医療に進む卒業生の割合と比較した。
※ FMAQについては以下を参照
※ https://journals.stfm.org/media/2378/phillips-2018-0409.pdf
※ 14項目の質問票は、Cronbach αが0.767。総スコアは家庭医療分野の選択と相関があった(P<.001)。質問票のスコアが56以上であれば、家庭医療に進む学生を特定するのに78.1%の感度と65.3%の特異性。回帰分析で質問票スコアは、家庭医療を選択する独立した予測因子であった(オッズ比1.289。信頼区間1.223-1.347)。 家庭医療に対する学生の意識と卒業生のキャリア選択との関係を探るため、各医療機関のFMAQスコアの合計を、各医療機関の卒業生の家庭医療を選択する割合と関連させて分析した。学生個人のレベルではなく、教育機関レベルで探り機関毎で測定した。またFMAQの下位尺度である、家庭医の仕事の楽しさ、家庭医で十分な収入が得られるか、仕事量のコントロールなどを反映した質問から採点された。マッチング結果と家庭医のライフスタイル、研究、重要性、不足に対する学生の態度など、特定のFMAQデータセットサブセット領域との比較について、二次的なピアソン相関係数分析を実施した。

結果
FMAQスコア(学生の認識)の学校別平均は55.7(SD 2.5)、範囲は51.5-59.9。家庭医のマッチング率の平均は12.0%(SD 4.6%)、範囲は2.8~22.3%で、2,844人の学生のうち1,189人がアンケートに回答し、全体の回答率は41.8%となりました。

図1は、16校のFMAQ平均スコア(x軸)と家庭医のマッチング比率(y軸)をグラフ化した散布図である。この散布図から、1校が外れ値であると判断され、さらなる分析から除外された。この学校は、その後、もともとデータに含まれていた唯一のオステオパシー学校であることが判明した。

表3は、FMAQサブスケールのドメインと各校の家庭医へのマッチング比率との相関を示したものである。各サブスケールドメインのピアソン係数は以下の通りである。それぞれ、ライフスタイルが0.539、研究が0.812、重要性が0.607、不足が0.644であった。家庭医療学研究に対する学生の態度は、FMAQの総合得点や他の下位項目と比較して、教育機関からの家庭医マッチ率の割合と最も強く相関している変数であった。家庭医療研究に対する学生の肯定的な認識は、家庭医療レジデンシーへマッチングと最も強く相関する要因であった。

ディスカッション
医学部全体での学生の家庭医療に対する考え方が、その医学部の学生のうち家庭医療レジデントを目指す学生の割合と相関していることを示唆しています。家庭医療の経験のみならず研究に積極的に触れることは、学生の認識に変化をあたえる可能性がある。
AAMCのデータによると、卒業時に家庭医療を選択した学生の約半数は、医学部の初期に別の専門分野を選択していたと報告しており、学生への介入することの意義を強調している。また家庭医療研究に対してポジティブな印象を与える大学は、家庭医療のキャリア選択を支援する環境作りに影響力を持つ可能性がある。さらに、優れた研究実績を持つ家庭医療学教室は、教育やリーダーシップなど他の面でも優れている可能性があり、それらが一体となって学生にとって魅力的な学問分野としての評判を形成している可能性がある。
家庭医療研究に対する認識と家庭医キャリア選択の間に正の相関があることは、家庭医療研究の質と量が修正可能な特性であるため、家庭医療科にとって重要な発見である。家庭医療研究者を奨励・支援し、家庭医療科の学生に高品質でインパクトのある研究に触れさせることは、プライマリ・ケア人材を強化するための重要な戦略であると思われる。さらに、医学生が家庭医学研究プロジェクトに参加する機会を充実させることや、臨床実習で家庭医の研究を強調することも、診療科の戦略として考えられる。これまでの研究で、家庭医療学研究の最も重要なテーマは、全人的、地域ケア、ライフコース、集団への健康活動であるとされている。これらの研究テーマを医学生の臨床実習に組み込むだけでなく、家庭医や診療科の研究活動やSDH活動を紹介すれば、家庭医療学研究の価値を伝える有効な手段になるであろう。
結論
家庭医療と家庭医療学研究に対する学生の認識や接点を強化することは、家庭医なる卒業生数の増加を目指し、家庭医療学講座や医学部での関わりに有効な機会を生み出す可能性がある。

【開催日】2023年3月8日(水)

ケアのたましい〜夫として、医師としての人間性の涵養

-文献名-
ARTHUR KLEINMAN アーサー・クラインマン THE SOUL OF CARE THE MORAL EDUCATION OF A HUSBAND AND A DOCTOR 2011年8月 福村出版

-要約-
クラインマンは、妻のジョーンが早期発症型アルツハイマー病との診断を受けた後、自ら妻のケアをはじめ、ケアという行為が医学の垣根を超えていかに広い範囲に及ぶものかに気づくことになった。彼は医師としての生活とジョーンとの結婚生活について、深い人間味ある感動的な物語を伝えるとともに、ケアをすることの実践的、感情的、精神的な側面を描いている。そしてまた、我々の社会が直面している問題点についても、技術の進歩とヘルスケアに関する国民的な議論が経済コストに終始し、もはや患者のケアを重要視していないように思えると述べている。
ケアは長期にわたる骨の折れる地味な仕事である。ときに喜びがあるけれども、たいていはうんざりすることばかりで、しばしば苦しみでもある。けれども、ケアは常に意味に溢れている。今日、われわれの政治的無関心、燃え尽きの危機、ヘルスケア・システムへの不満、これらを前にしてクラインマンは、自分たちと医師にいかに気まずい質問を投げなければならないのかを力説する。ケアをすることを、われわれを必要としている人のために「そこにいる」こと、そして慈しみを示すことは、深く情緒的で人間的な経験であり、われわれにとっての本質的な価値観の実践であり、職業的な関係および家族関係の中心となるものである。ケアの実践は、医学と人生においてかけがえのないものは何なのかを教えてくれる。
プロローグ:妄想状態の妻を介護するエピソード。ケアというのは不安に怯え傷ついている人に寄り添い続けることである。不安や傷つきがそれ以上深くならないように、手を差し伸べ、護り、一歩先んじて考えることである。
第一章:1941年生まれ、本人の源家族 私は子供の頃から細やかなことを気にせずcarelessnessにやってきた.ケアしてもらうことを期待してきた。影響を受けた下水道のバイトの先輩、ユダヤ人としてのアイデンティティー
第二章:影響を受けた自分の家庭医、医学部5年次の火傷の少女の対応「こんな大変な状況に来る日も来る日も耐えられる理由を教えて欲しい」→患者が危機的状況にあるとき、おそらくその時にこそ、患者の人生にお
      いて何がもっとも大切なのか話し合うことができる、医師と患者の両者を、ケアの核心へ導く情緒的で人間的な共鳴関係を築くことができる。診察室と自宅での患者の違い。客観化による失われる人間性。
第三章:ジョーンとの出会いと結婚。変わる自分。気をつけることができる、慎重になることができる、そしてケアすることのできる人間にしてくれた。臨床家として、燃え尽きに陥らないように自分を守りながら、より効果的であるために、目的を貫くために、そのためには癒し手には何が必要だつたのであろうか
第四章:初めての台湾訪問。人間は個ではなく、一種のスペクトラムや連続性の上に存在しているという中国文化の視点。人格は、主に家族や社会ネットワーク内の人間関係によって定義づけられる。中国文化への暴露とその視点の影響。
第五章:ケンブリッジに戻る。小児精神科レオンとの出会い「何がもっとも現実の人々の役に立ち社会を改善させるのか」専門職にとっていかに挑戦的な手のかかる患者だとしても、その患者の苦悩の方があなたの苦悩より重い。1974年、代表的なケアに関する4本の論文を出す:医療の実践は、はるかに広範囲のケアの実践のほんの一例に過ぎない。患者と臨床医にとって、ケアのそのものは病の経験および治療経験の中で、真の重要性に基づいて行われる。この患者志向アプローチは、様々な国や文化で当てはまる。
第六章:シアトルにあるワシントン大学准教授(精神医学・行動医学)へ。慢性疼痛の診療を通じて、痛みは患者が感じているのに、家族や医師に信じてもらえず相互不信というひどく厄介で非治療的な関係に患者が巻き込まれていること。実際に癒し手として機能するためには、目の前の患者の苦悩の経験と治療されたい願望を肯定し、承認しなければならない。この種の敬意、深い敬愛の念が、信頼を再建できる。6年後、ハーバードに戻る。さらに忙しくなり、健康状態が悪化。ただ妻ジェーンがまわりのことを全て円滑に調子よく進むようにしてくれたからこそだった。
第七章:ジェーンが50代後半になると視力障害や記憶障害から後頭葉からくる初期アルツハイマー病と診断され
た。二人の不安や人間性など気にも留めない専門職に次々と診察されることによって、二人は困惑し無力
感に襲われていくのである。「生きながらえたくないの、尊厳を失って死にたくない。あなたとチャーリーは人生
の終わらせ方を知っているわね」。全てのケアを一人でやってきたが、それを変えなければならないと思い始め
た。神経内科医たちは、病の経験ではなく、疾患の経過だけをみていた。
第八章:ジェーンの病気の初期段階は、本人を非常事態に追い込んだが、必要とするケアを注意深く続けている間
に、恐怖と不安は次第に薄れていった。ケアを必要とする人が私の人生や心の中心にいなければ、認知症
ケアという延々と続く作業を責任を持ってやり通すことはできなかっただろう。ジェーンが幸せで安心した姿を、
いや、少なくとも不幸せでも不快でもない姿を見たいという本能的欲求からだった。ホームヘルパーを利用
し、主たるケアの担い手とケアの受け手双方にかかる重圧が弱まり、相応する関係が作られ、その一方で家
族で一緒になってジェーンを在宅ケアすることができるようになった。ケアとは「やれなければならないことがそこ
にあるから、それをする」自分にとって大きな意味を持つ人が助けを求めており、そして自分がここにいてケアを
する。更に必要とされる限り、できる限りケアを提供し続ける。それだけのことなのである。
第九章:ジェーンの病の後半、私がケアの担い手であった最後の時期である。病との戦いは、感謝されている気がしないという日常の些事から始まる。それから次第に失望感が増し、目の前に山積みになっていく膨大な作業に圧倒され、途方にくれ、無力感に苛まれ、それらがないまぜになりほぼ完全に疲労困憊してしまう。終いにはケアは素人の家族で手に負えなくなる。夫のことがわからなくなり、半世紀以上培った強靭な絆が、瞬く間にボキッと音と立てて切れたようなものだった。愛する人の生活機能が低下して、排便管理などをするようになり、身のすくむ経験をしたという人がいる。私が約束を交わした女性は、認知症の進行により約10年後には同じ女性でなくなってしまった。私が愛し世話になってきたジェーンはいってしまった、ただ私はそのことを受け入れることができなかった。またケアを続ける思考は、罪悪感に支えられてもいた。36年もの間ジェーンのケアを受けてきた自分が、10年たっただけでジェーンを見捨てることなどどうしてできようか。ただ私がケアをする中心的役割は終わった。
第十章:施設入所の選定とヘルスケアシステム、医学教育絵への問題意識
第十一章:入院、施設、永眠、その後 
エピローグ:ケアのたましいから、たましいのケアへ

【開催日】2022年9月7日(水)

患者中心性(人間中心性person-centredness)の教育 何が有効で何が失敗するのか

-文献名-
Bansal A, Greenley S, Mitchell C, Park S, Shearn K, Reeve J. Optimising planned medical education strategies to develop learners’ person-centredness: A realist review. Medical Education. 2022;56(5):489–503.

-要約-
背景 人間中心性(※1)は医学教育の目標として掲げられているが、既存の研究がこれが達成されていないことが示唆している。人間中心性を育成することを目的とした医学教育への介入は、どのように、なぜ、どのような状況で成功するのかについて、十分にわかっていない。
方法 リアリスト・レビュー(※2)の方法論に基づいて、「医学教育」「人間中心」および関連する同義語を用いてMedline、Embase、HMIC、ERICの各データベースと、未出版文献を検索した。医学教育における計画的な教育介入を含み、人間中心性に関連するアウトカムのデータがある研究を対象とした。分析は、さまざまな教育戦略が学習者の生物医学的な視点とどのように、そしてなぜ相互作用し、人間中心性の視点への変化につながる、あるいはつながらないメカニズムを引き起こすかに焦点を当てた。
結果 最終的に、53の介入を表す61の論文が含まれた。データ統合から生成された9つのContext-Intervention-Mechanism-Outcome configuration(CIMOc)についての記述から、修正されたプログラム理論が構成された。教育的介入が人間中心性の理論を用いずにコミュニケーションスキルの学習や経験に焦点を当てた場合、学習者は生物医学的視点との不協和を経験し、学習の重要性を最小限に抑えることで解決し、(生物医学的)視点の維持に終わっていた。教育的介入が人間中心性の理論を有意義な経験に適用し、意味づけのためのサポートを含む場合、学習者は人間中心性の切実さを理解し、(人間中心性の)学習に伴う自ら反応に対処できると感じ、人間中心性への視点の変容(※3)がもたらされた。
結論 本研究の結果は、なぜコミュニケーションスキルに基づく介入は、学習者の人間中心性を育成するのに不十分なのかについて、説明を与えるものである。人間中心性の経験学習と人間中心性がなぜ臨床実践において重要なのかを説明する理論を統合し、学習者が学習に際して生じる自分の反応を意味づけできるようにすることは、人間中心性への視点の変容を支援する可能性がある。私たちの知見は、人間中心性を支援することを目的とした医学教育戦略の開発に情報を提供する上で、プログラムや政策立案者に検証可能な理論を提供する。
※1:人間中心性:患者中心性の4つの概念的枠組み(BPS、patient-as-person、権力と責任の再分配、治療的関係の構築)に加えて、doctor-as-personを加えた5つの枠組みに基づいた、健康および臨床医の役割に対する視点
※2:リアリスト・レビュー:ある介入がなぜ、どのようなメカニズムで、どのような状況で有効なのか?(あるいは有効ではないのか)を研究するための文献レビューの研究方法論。はじめにprogram theory(介入がなぜどのようにして有効なのか?)についてのモデルを作り、それを踏まえて文献をレビュー、さまざまな介入のCIMO(Context=どのような状況で、Intervention:どのような介入をすれば、Mechanims:どのような過程を経て、Outcomes:どのような成果につながるのか)をレビューしていき、CIMOのセットを結果として提示する。
※3変容:原文ではTransformationと書かれているが、おそらくは変容的学習(メジロー)などで言われている世界に対する根本的なものの見方の変化を指している。(McWhinneyが家庭医療学で述べている「パラダイム・シフト」を起こす学習のこと)

【開催日】2022年8月10日(水)

学部医学教育における臨床推論カリキュラムの内容に関するコンセンサス・ステートメント

―文献名―
Cooper, Nicola, et al. "Consensus statement on the content of clinical reasoning curricula in undergraduate medical education." Medical Teacher 43.2 (2021): 152-159.

―要約―
導入:安全な患者ケアのためには、効果的な臨床推論が必要である。卒前・卒後の医学生は、効果的な臨床推論に必要な知識、スキル、行動を、経験や現場での見習いを通して暗黙のうちに学ぶことがほとんどである。医学部では、最新のエビデンスに基づいた体系的なアプローチを採用し、各学年のコースに明示的に統合された形で臨床推論を教えるべきだという合意が作られつつある。しかし、臨床推論に関する文献は「断片的」であり、医学教育者がアクセスすることは困難である。この論文では、すべての医学部に役立つ実践的な提言を行うことを目指す。

・臨床推論とは?
本論文では以下の定義を採用している。「臨床医が患者を診断・治療するために、データを観察・収集・解釈する技術、プロセス、または結果。臨床推論には、意識的および無意識的な認知的活動が必要であり、患者固有の状況や好み、診療環境の特徴などの文脈的要因と相互作用する。」
・臨床推論教育の現状:教育に関連した科学におけるエビデンスを踏まえた教育的アプローチを用いて、診断プロセスについての教育を扱うカリキュラム(例:診断検査の正確な解釈、問題の表象の形成(診断の正確さと相関する)、決断の共有)の必要性が指摘されつつあるが、現状ではカリキュラムの中では診断推論は必ずしも明示して扱われてはいない。また、教えるべき内容および教育に適した方略の両方を網羅したカリキュラムについての報告もほとんどない。
何を教えるべきか:clinical reasoningの5つの領域:Table1参照。
1病歴聴取と身体診察:
UKではコミュニケーションのカリキュラムの内容についてのconsensus statementがある(Noble et al. 2018)
それに加えて、以下の内容が含まれる:患者本人以外の情報源から病歴を取る技術の重要性、仮説に基づいた合目的的な情報収集、仮説の生成あるいは否定を目的にした身体診察、両者から得られた情報の統合と疫学に基づいた疾患の可能性を踏まえた見積もり、古典的な疾患像および多くの患者がそういった像を呈しないことの理解
2診断的検査の選択と解釈:
概念の理解:事前確率、感度、特異度、検査後確率、疾患の有病割合、尤度比
疾患以外で検査結果に影響する因子、高頻度で用いる検査の特徴
多くの検査結果は、臨床所見に合わせて解釈を要し、臨床推論中にその知識の適用を要する
個々の検査が、どんな問いに答えることができるかの知識、エビデンスに基づいたガイドラインとdecision aidsの利用
3問題同定とマネジメント:
正確に問題を表現し、それに基づいて優先すべき鑑別診断を構築する能力
Semantic qualifierと正確な医学用語を用いた問題のencapsulatationが診断を考慮する前に行う能力
診断の不確実性の対応する能力
4適切なマネジメント計画の作成
患者の好み、併存疾患、リソース、コスト、ローカルの規則など、影響する因子を考慮する能力
メタ認知と批判的思考を用いて自らのパフォーマンスを改善する能力
5決断の共有
他者の価値観を同定し理解するための効果的なコミュニケーション
学習者は、現実世界では、知識とは自分の頭の中にあるものではなく、環境、つまり人々、コンピューター、書籍、他のツールや道具を通して広がっているものであると理解する必要がある(他にも記述があるが今回は省略)

どうやって教えるべきか:Table2、Literature reviewの詳細および結果のoverviewはsupplement2参照
同定された研究の概略:
意思決定の原則の教育、認知バイアスからのエラーを減らそうとする教育はいずれも診断推論の能力を改善しなかった。
一方で、イルネススクリプトの教育、思考過程を声に出したり、ブレインストーミングする方略、構造化した省察、ケースに基づいた実践+フィードバック、については改善が見られた。つまり、思考の仕方自体の教育(dual process theoryやバイアスを避けるように教える教育)は、臨床推論の能力が改善するというエビデンスには乏しく、思考能力や思考の方法を教えるアプローチは効果がない。しかし、具体的な知識や理解を構築する方略は効果があることがわかっている。

個別の戦略について:
・自己説明・自己精緻化(Self explanation/elaboration)
教育者が説明するよりは、学習者が説明するよう促す方が、学習者が活性化する認知プロセスが異なり、学習者が新たな知識と自分の事前知識との結び付けを強化するため、効果がある
メカニズムの理解が診断的能力を改善するため、単なるrecall=思い出しではなく、理解を促進する方法を使うべき

・Structured reflection(※)を用いた方略
学習者のレベルより複雑な事例を用いたときに最も効果が出る
※例として、事例を提示した後に、学習者に最も考えられる診断を挙げさせ、その鑑別診断について幾つかの質問に答える形を取る(具体例を知りたい方は別資料文献1参照:Mamede et al. – 2012)

・症例を用いた練習+修正のフィードバック
練習だけでは不十分であり、その練習に直接フィードバックがあることが重要。ただしフィードバックが機能するには、議論の中で間違えることが後押しされ、不確実性があることが認知されるような雰囲気作りが重要
具体的な知識があることよりも、その知識の構成の方が重要であるため、illness scripts (Schmidt et al. 1990)が学習者の中で作られるよう促すことが(知識の記憶を促すより)重要。
なお、初学者が相手の場合は、症例の情報を少しずつ順番に出すよりは、一度に全て出して学習させる方が有用である (Schmidt and Mamede 2015).

・臨床問題に特異的な概念について、知識の構成を促す方略
臨床推論について高いパフォーマンスを見せる者は、低い者と比べて、知識の量よりは、その構成の仕方が質的に異なる (Coderre et al. 2009)。よくある臨床問題に特異的な知識をお互いに関連づける方略(概念図やdecision treeを、関連する知識とセットで書かせる)が適切である

・Retrieval practiceを促す方略
努力して情報を思い出させるような戦略が診断能力を改善するというエビデンスがある。
具体例:structured reflection (Norman et al. 2017; Prakash et al. 2019:知りたい方は別資料文献1参照:Mamede et al. – 2012), low stakes quizzing (Green et al. 2018; Larsen et al. 2009), spaced practice (Kerfoot et al. 2007:時間をあけて思い出してもらう・考えてもらうこと) and contrastive learning (Ark et al. 2007) (類似した事例を比較対称して学ぶやり方)

相手の学習段階に応じて教育方略を変える重要性
教育方略における情報提示は、複雑度と現実の再現度が低い事例を用いて、綿密に手順のサポートを行う方略から、複雑さと現実の再現度が高い事例を用いて、サポートを最小限にして行う方略まで段階に応じて調整する必要がある。最終的には、特に手を加えていない(=現実のままの)事例に対応させて、構造化したでブリーフィングを行う形が良い

【開催日】
2021年11月10日(水)

医学生と家庭医療のキャリアについて話すときに考慮するべき12の論点

-文献名-
Kathleen Horrey. et al. Twelve points to consider when talking to a medical student about a career in family medicine. Canadian Family Physician. 1 January 2020; 66 (1): 74-76.

-要約-
背景;カナダ家庭医の大学(CFPC)の学部教育委員会(UGEC)は、医学生の家庭医療に対する認識と、彼らが私たちの専門分野について受け取るメッセージを調査している。この洞察を収集するために、UGECはメンバーの多様なグループからの意見を求めた。
まず、家庭医療のキャリアのやりがいと課題に関する彼らの見解について学ぶため、医学生のセクションを通じて共有される医学生向けの調査を開発した。これらのデータは、過去の家庭医療フォーラムのフォーカスグループスタイルのワークショップで発表された。ワークショップの出席者は、新卒者から40年以上の都市部と農村部の包括的な診療を含む40年以上の診療経験を持つ家庭医の幅広いグループを代表していた。医学生の認識に関する豊富な議論の後、私たちは居住者と最近の卒業生からより多くを聞く必要があることに気づいた。追加の調査は、居住者のセクションおよび家庭医療実践委員会の最初の5年間を通じて、選択したキャリアのやりがいと課題に対する認識を決定するために広められた。入力を提供したすべての人からの応答を捉えた概念的なテーマを開発した。家庭医療に関連するやりがいと課題の認識に関するこれらの概念的アイデアは、その後の家庭医療フォーラムの別のフォーカスグループスタイルのワークショップで発表され、参加者は反復的に出現した概念をさらに微調整した。UGECのメンバーとCFPCのアカデミック家庭医療部門の同僚は、これらのメッセージをさらに洗練させた。
「家庭医療でのキャリアについての12の論点」は、多数の異なる意見や経験の収集から生まれたものであり、家庭医が医学生と日常診療やその間に起こったことに役立てることができ、家庭医療のキャリアのやりがいと課題に関する医学生との議論において焦点を合わせるのに役立つ。以下に示すこれらの12の論点は、文書「家庭医療のキャリアについて医学生と話をする際に考慮すべき12の点」からのものであり、それはwww.cfpc.ca/uploadedFiles/Education/Twelve-Talking-Tipsからダウンロードできる(フランス語版もあり)。
話すポイント
1.家庭医療は専門であることを強調する
特に、かかりつけ医はジェネラリストの専門知識を持つ熟練した臨床医であることを説明する。家庭医療は、知的に刺激的で、挑戦的であり、非常にやりがいのある職業である。患者とその家族に奉仕することがどんな特権かを話す。これらの有意義な縦断的関係は、医師としての私たち自身の回復力と幸福を高める。かかりつけのポイントとして、家庭医療の4つの原則(www.cfpc.ca/Principles)を強調すると役立つ場合がある。その4つの原則とは、かかりつけ医は熟練した臨床医、家庭医療は地域に根ざした学問、かかりつけ医は、定義された診療集団のリソース、患者と医師の関係は、かかりつけ医の役割の中核であるというものだ。
2.彼らとの包括性の概念を調べ、これが圧倒的と思われるかどうか尋ねる
患者のプレゼンテーションの謎を受け入れ、「多くのことを少し知っている」という認識を拒否する。これは、家庭医療に必要な知的厳格さを低く評価する。
3.地域および新興のニーズを満たすために、コミュニティに適応したケアを提供するための訓練方法について話し合う
医学生は社会的説明責任に強い関心を持っている。かかりつけ医が包括的実践、特別な利益を伴う実践、および集中的実践のすべてを共同で私たちのコミュニティのニーズを満たす方法を調査することにより、この素因を構築する。
4.この仕事は、単独ではなくチームで行うことを指摘する
私たちは、他のかかりつけ医や他の医療提供者とチームで協力し、患者のケアを互いに支援する。
5.家庭医療がいかに多様性を提供し、決して退屈しないかを祝う。毎日が新しい経験をもたらす
私たちの仕事には、すべての人々、年齢、ライフステージ、プレゼンテーションの包括的で継続的な医療が含まれる。リーダーシップ、アドボカシー、奨学金、研究、品質改善が含まれる。
6.家庭医療が、このような多様な実践機会を持つ唯一の医療専門分野である方法を説明する
コミュニティのニーズよりも個人の利益に集中していると解釈されるため、柔軟性の概念よりも汎用性を強調する。
7.家庭医療は私たちと共に適応し成長するキャリアであることを強調する
私たちは自分の人生の段階と実践の段階に合わせて調整することができ、個人や私たちが奉仕するコミュニティとして私たちに最適なものを見つける。
8.この汎用性により、ワークライフの統合を達成するためにどのように努力できるかを説明する
医学生は誤って家庭医療を専門分野の「ライフスタイル」選択であると誤解しているため、ワークライフバランスなどの用語は避けてください。
9.「プラス1」年間の強化されたスキルトレーニングに関する神話を払拭する
学生がこれについて尋ねている理由を調べてください。一部の学生は誤解されており、家庭医療の訓練にさらされる前であっても、家庭医として患者に緩和ケア、産科ケア、緊急ケアなどを提供できるように強化されたトレーニングが必要であると考えている。他の学生は、包括的な実践の考えが圧倒的であることに気づき、より集中したいと考えている。この場合、家庭医療が彼らにふさわしいのか、それとも道筋なのかを探ってください。私たちは、生徒が地域のニーズを満たすために強化されたスキルプログラムを選択し、個人の利益を達成するためだけでなく、最良の結果が得られるように利益を達成することを奨励する。
10.家庭医療を「バックアップ」計画と見なしているかどうかを尋ねる
一部の学生にとっては、カナダのレジデントマッチングサービスでの一致で家庭医療を選択することが適切かもしれないが、家庭医療はすべての人のバックアップと見なされるべきではない。生徒が自分にぴったりだと思う分野を選択し、それに応じてランク付けすることを生徒に奨励する。
11.将来の診療条件の不確実性について懸念がある場合は、対処する
認識について率直に話してください。政治的風潮と家庭医療への支援は、時々変わる。物事が今日不確実に見える場合、それらは将来より良くなるだろう。すべての医療専門職に不確実性があることを認める。しかし、他の多くの専門分野よりも家庭医療の雇用機会に関してはるかに確実性が残っている。
12.患者があなたの仕事をどのように評価しているかについてのストーリーを共有する
かかりつけの医師に対する全身的圧力の背景と、私たちの職業は価値がないという印象に反して、患者が私たちの仕事をどれほど大切にしているのか、患者が私たちとの信頼関係を重視していることを忘れてしまうかもしれない。
結論:医学生の家庭医療に対する認識と、彼らが私たちの専門分野について受け取るメッセージを調査した後、医学生に伝えようとするメッセージは、いつも彼らから聞くメッセージとは違うことがわかった。「12の論点」は、家庭医療のキャリアに関するメッセージを改善し、メリットを強調し、神話を払拭し、課題に正直になり、医学生自身に家庭医療が適切かどうかを振り返るのを促すための推奨事項として浮上した。

【開催日】2020年2月12日(水)

研修プログラムとしてのSNS発信の12のコツ

-文献名-
Avital O’Glasser et al. Twelve Tips for Tweeting as a Residency Program. MedEdPublish Published: 23/07/2019

-要約-
導入
2004年にfacebook,2006年にTwitterが誕生した。SNSは複数のデジタルプラットフォームを形成し、情報交換や討論への参加を可能にしており、この動きは継続的な医師の生涯学習と同じ機能である。そしてSNSのヘルスケア領域の分析では、教育的な価値や専門性への影響などが分析され、調査対象の医師の60%がSNSは患者ケアに役立ったと報告している。
複数存在するSNSの中でもtwitterはオープンアクセスの特徴を持っており、ヒエラルキーの平坦化や教育の民主化に寄与するツールであり、若手医師や専攻医により良い発信媒体であり、いくつかの文献でそのメリットが述べられている。
理論的には、Twitterでレジデンシープログラムについての知識を斬新な方法で広めることが可能であり、専攻医のより良い活動や業績に関心を集めることができる。SNSをプログラムが使うことの実例がOHSUの内科プログラムであり、正式な承認や組織のSNSポリシーによって運営され、1200名のフォローワーが存在し、4900のつぶやきがある。この文献では、レジデンシープログラムの発信についての成功と持続性のtipsを紹介する。

12のコツ
Tip 1: Tweet early, tweet often
あまりアカウントに長く潜まないこと。つぶやきはつぶやきを産み、その結果勢いがつき、快適で親しみのをもたらす。そしてフォローワーの獲得にも役立つ。他のアカウントとのやり取りは繋がりを生み創造的なコラボが可能となる。我々のところでは、専攻医によって下書きのつぶやきが事前に記載され、アカウントを持っているチーフレジデントが投稿している。

Tip 2: Know core Twitter vocabulary and use hashtags, mentions, links!
投稿数は280文字ですが、文字情報だけではなく、ハッシュタグやリンクを埋め込むことを推奨します。写真や動画の埋め込みも関心やエンゲージメントを高めます。

Tip 3: Celebrate and engage your residents
レジデントの業績を祝い、彼らの成長を讃えることは、アカウントにとって最も充実した側面となります。
レジデンシーは常に、専攻医の出版やポスター発表、学会のプレゼンや賞などをつぶやくことを目標にしています。
つぶやきは出版物のリーチを広げ、ツイートされた論文は引用が増えます。

Tip 4: Use your program’s calendar of key annual events as source material
レジデンシーのコアな年間イベントをつぶやきで共有します。これによって専攻医はプログラムのイベントへの準備ができるようになり、リクルート活動の基盤にもなります。プログラムの構造の情報だけではなく、文化や雰囲気などを外部の読み手に発信します。イベントごとにハッシュタグを作ると後で把握がしやすくなります。

Tip 5: Engage faculty and fellows on Twitter
広くコミュニティを形成するために、専攻医やフェロー、そして指導医にもアカウントを持ってもらうように学習もしくは強力に誘います。彼らを会話に巻き込み、彼らの直接的な指導をTwitterの読み手に届けることができます。
熱心な指導医やフェローは、学術大会の現場の最前線(地上のブーツ)の価値のある資料を提供してくれます。

Tip 7: Identify preferred content themes within medicine
限定的な専攻医コミュニティだけではなく、他のコミュニティも定義する必要がある。
あなたの所属している組織には複数のブランドのアカウントが存在している。そして関連する全国や地域の団体を特定し、あなたの専門や関心の領域でのアカウントと繋げてください。
twitterのコミュニティはSNSの親切さと寛大さを思い出させてくれる。ソーシャルメディアにおいて奪う人から与える人になることが大事である。

Tip 8: Keep your eyes open & your chin up!
皮肉にもツイートを奨励することは、日々をマインドフルに過ごし、キャンパス内でスマホばかりに埋もれることの助けになりました。自分の環境と身の回りで起きること、そこに生じている小さな瞬間の素晴らしい学びに注意してください。
教育的なツイートも良いですが、風景の写真も人気です。

Tip 9: Utilize Twitter Analytics
Twitterの目標はいいね!やリツイート、フォローを増やすだけではなく、リーチやツイートの有効性についての数値がフォードバックになります。レジデンシーの奨学金についてのツイートが、リーチを広げ、このテーマのツイートを継続的に優先度を高くしました。

Tip 10: Be professional and follow the 5-second rule at all times; think first, tweet later
プライバシーへの配慮、プロフェッショナリズムとしての考慮はtwitterの使用の障壁になります。
所属機関のソーシャルメディアポリシーを参考に、アカウントの開設許可に申請が必要なこともあります。
適切な投稿トーンを維持し、ネガティブにならず、嵐をせず、トロール(絡んでくる系?)に関与しないでください。

Tip 11: Do not be afraid to brag or toot your own horn!
自分を見てよ!文化と批判されますが、お祝いや祝福についてはプログラムの成功と関連するためツイートすることが適切です。フェローへのマッチやカリキュラムの改革、そしてプログラムリーダーのチームの仕事や成功など発信していきましょう。

Tip 12: Have fun!
個人ではなく、プログラムのアカウントであったとしても楽しいキャラクターを設定することができます。賢く、風変わりな、そしてユーモアのあるツイートを発信してください。学ぶこと、教えること、そして診療を実践することが好きであることを魅せてください。

まとめ
レジデンシーのSNS発信は、専攻医にプラスの影響を与え、プログラムやその教育ミッションを広く見せる事に貢献する。ツイートするコンテンツの進化や成熟を加え、フォローワーとの相互的でダイナミックなプロセスで新しい仲間やつながりを促進しました。

【開催日】2019年11月13日(水)

プライマリケア教育診療所(内科・家庭医)における指導医の働き方の3つのモデル

-文献名-
Bodenheimer Thomas MD; Knox Margae MPH; Kong Marianna MD. Models of Faculty Involvement in Primary Care Residency Teaching Clinics. Academic Medicine. In press.

-要約-
三つのモデルとその具体例
レジデンシーは二つの同等に重要なミッション、つまり、未来のための医師を要請することと今の患者をケアすることがあるが、プライマリ・ケアの教育診療所ではこの二つはよく衝突する。
レジデントは他サイトでの業務があるし、指導医は入院担当、教育業務の準備、管理業務、研究といった他の責務があるので、常に患者の対応ができるわけではない。
結果として多くの教育診療所は複雑な指導医・レジデントのスケジュールを’juggle’する必要がある。
著者らは、2013-2018年に行なった42の内科あるいは家庭医の教育診療所へのサイトビジット(2日ずつで診療所長・プログラム責任者、レジデント、指導医、診療所スタッフへのインタビューを実施+その診療所の業務の直接観察)を通して、指導医の業務への参与のあり方にスペクトラムがあることを見てきた。
そこでそれを3つのFaculty involvement modelsとして記述し、具体例を示す。 (詳細レポートはAAMCからpublishされている様子:参考文献1)

1.The focused model
・少数の指導医がそれぞれ少なくとも5コマ/週以上を診療またはレジデントのプリセプティングに費やすモデル
・17/42=40%で、コミュニティ基盤型(=非大学型)レジデンシーによく見られる。
例:Program A:コミュニティ基盤型で11人の指導医、すべての指導医が6-8コマを診療所で診療あるいはプリセプティングで過ごすProgram B 後述のDispersed modelから移行した例。
以前は多数の指導医が週に1コマ診療、2コマ指導だったが、患者が待つ状況などを踏まえて、体制を移行し、プログラム内の指導医を入院対応のホスピタリストと外来のphysician educatorsに分かれるようにした。
結果、12人の指導医による6コマ診療、2コマプリセプティングの体制となり、レジデントの学習経験も、ケアの継続性も改善した。
Program C 大学基盤型で4つの小サイトでそれぞれが5-8人の指導医・4-5コマ診療、2コマプリセプティング。ただ、近年academic responsibilitiesが増したことでこの指導医たちが診療のコマ数を減らさざるをえなくなっている

2.The dispersed model
・多くの指導医が1-2コマ/週を診療所での臨床または教育業務に費やす
・9/42=21%で、大学基盤型のレジデンシーにしか見られない
例:Program D:大学基盤型の内科レジデンシー:100人レジデント、50人の指導医がいる。指導医は個
々の診療所では1-3コマしか費やさない。チームでのミーティングもなく、継続性は乏しいし、患者も担当医を待たなければならない。
Program E:大学基盤型の家庭医療レジデンシー。30人の指導医がいるが、臨床のコマは2-3コマと少ない。24人のレジデントも1-2コマずつで多くの診療所を回って診療をしている。(詳細あるが省略) 診療所の問題についてレジデントが指導医の働き方がFocusedになるように提言中。
Program F: 指導医たちは週に7コマを外来や教育に費やしているが、診療のほとんどがレジデントのいない診療所で行なっており、レジデントのいるサイトには週に1-2コマしかいかない。教育のための診療所配置の観点から、この状態はdispersed modelである。

3.The hybrid model
・1.と2.の融合型で、少数の5コマ以上費やす指導医と、1-2コマ/週の指導医の両方が務める
・16/42=38%が占めていた。
例:Program G: 大学基盤の内科レジデンシーで、ほとんどの指導医は週1-3コマを診療とプリセプティングに割り振っているが、2人の指導医がそれぞれの診療所で5コマ/週以上を診療・教育に費やしている。
が、リサーチグラントや他のアカデミックな業務の影響で指導医が診療所を離れるような圧力が働いており、診療所長はdispersed modelのような状態にならないようにするにはどうしたらよいか、懸念を抱いている。
Program H: 大学基盤型の家庭医療レジデンシー、小さい教育診療所が4つ、4コマ診療・1-3コマがプリセプティングとなるような指導医が診療所ごとにおり、それに加えて、community preceptorが週に1回レジデントの指導に携わっている。

上記のモデル以外の指導医の働き方に影響する因子
・それぞれの指導医が自分の診療スケジュールを決められる程度が重要
・あるレジデンシーではそれぞれの指導医がきめるため、ある日は2人の指導医が次の日が8人ということが起きていた
・診療所側が医師がいる人数を調整するために規則を持つパターンもある:例としては
・level loading: コマごとに同じ数の医師がいるように調整する
・Access-centered rule (Program D): 指導医が会議などの理由で診療をキャンセル可能なシステム。以前は許可なしに買おうだったが、今は診療所が十分な医師数が予約患者に対してあることを確認してキャンセルが可能になっている。

Focused Facultyの利点と実現するための障壁
利点:診療所チームの安定、継続性の維持、外来診療/教育者としてのロールモデルを示せる、その診療所のリソースや紹介先を熟知しており、より効果的なプリセプティングが可能、診療所の機能不全を看過しないのでチームのAnchorとなり、質改善、ポピュレーションアプローチ、継続性、レジデントへの対応などを主導的に行う
障壁:大学基盤の場合は特に、指導医の多重の、特にリサーチなどの業績評価の重圧との間で葛藤が起こる。大学組織では入院診療の方が外来診療より重んじられる、臨床教育者は研究者よりも大学では昇進しにくいなど。大学ではなくても入院診療との間のジレンマはある。

【開催日】2019年9月11日(水)

アカデミックコースセッションの授業の評価は、クッキーに影響される

-文献名-
Availability of cookies during an academic course session affects evaluation of teaching MEDICAL EDUCATION 2018 52 : 1064–1072

-要約―
背景と目的:
コース終了時の授業評価(SETs:student evaluations of teaching)の結果は、教員の採用や資金配分、カリキュラム変更のための基準として用いられている。しかし、コースの内容やそれが伝わっているのかを正確に測定できているかどうかには疑問がある。内容には関係のない介入としてチョコレートクッキーの提供がSETの結果に影響するかどうかを検討した。

方法:
ドイツのミュンスター大学の救急医学コースでのRCT
118人の医学生(3年生)を20のグループ(最大6人の小グループ)に無作為に割り当て、半分の10のグループにのみセッション中に500gのチョコレートクッキーを提供した。セッションの内容はACSについてのケースディスカッション。授業の内容と教材は両グループで同じとし、授業の終了後に38の質問(教員、コースの内容、学習環境、教材、学生の自己評価など)からなるアンケートで評価した。

講師は同じ内容で担当したことのある経験豊富な二人が選ばれ、これに学生が無作為に割り当てられた。授業は全て14−16時の間に実施。授業開始時に提供し「私はチョコレートビスケットを買ってきました」と言う。みんなが取りやすいようにまず講師が一つ食べて良い、というルールとした。

201907大西1

201907大西2

201907大西3
(参考:カントリーマアムは1個10g 写真はイメージです)

結果:
112人(95%)の回答あり。グループ間の年齢(p=0.173)・性別(p=1.000)・体重(p=0.424)・BMI(p=0.895)に差はなかった。
→クッキーグループは対照グループよりも教員への評価が有意に優れていた。
(113.4±4.9 vs 109.2±7.3; p = 0.001, effect size 0.68)
学生がしたコメントを分析すると、54%のコメントがクッキー関連であった。クッキーグループの学生はコントロールグループと比較して有意に高評価をつけており、コース全体の合計スコアは有意差をもって優れていた。(224.5±12.5 vs 217.2±16.1; p = 0.008, effect size 0.51)。また、サブグループ解析では教師または教材に関する質問項目により良いと評価され有意さがあることが明らかになった(10.1±2.3 vs 8.4±2.8; p = 0.001, effect size 0.66)。

201907大西4

重回帰分析の結果のまとめ:
質問の合計スコアのばらつきがどのくらい各項目(クッキーの有無、教師AorB、性別、BMI、年齢)に影響したかを示している。重回帰モデルは全ての質問において合計スコアの統計的に有意な差を予測した。標準化されていない係数の回帰係数、標準語さ、95%信頼区間を以下に示す。

201907大西5

「クッキーの追加のみ」が評価結果の合計スコアの予測に寄与していると示されている。しかし、クッキーの提供の結果としてのグループの違いは、クッキーのチョコレートの内容かもしれない。チョコレートは血圧にプラスの影響としてだけでなく、体への効果、鎮痛効果、不安減少効果など、感情の変化を生じさせる。過去のRCTでは、口当たりの良いチョコレートの消費後の気分の即時効果を解説されている。

結論:
チョコレートクッキーの提供という単純な介入はコースの評価に大きな影響を与えた。
この影響の大部分がクッキー自体に起因するのか、もっと広い社会変数の相互関係に影響するのかは結論が出ない。
これらの調査結果は、SETの有効性とその利用に関しては疑問が残った。

【開催日】2019年7月24日(水)

家庭医療の後期研修中に学術活動を増やすための持続可能なカリキュラムとは?

―文献名―
Sajeewane Manjula Seales et al.
Sustainable Curriculum to Increase Scholarly Activity in a Family Medicine Residency.
Fam Med. 2019;51(3):271-5.

―要約―
背景と目的
学術活動(以下SA)は,家庭医療の後期研修プログラムのためにACGMEの準拠要件である。しかし専攻医に学術活動に参加させることは困難である。しかし2010年にジャクソンビル海軍病院の家庭医療レジデンシー(NHJ―FMR)は、専攻医のSAのアウトプットを劇的増加させるリサーチカリキュラムを開発した。この研究の目的は,そのアウトプットが経時的に持続可能かどうかを測定することである。
方法
NHJ-FMRプログラムにおける2012~2013の学年から2016~2017の学年(N=185)の間のレジデントのSAについての後ろ向き記録レビューを実施した。リサーチカリキュラムへの以下の介入が2010~2012年度に実施された:
・研究コーディネートの指導医ポスト(FRC)
 →理想的には研究の経験が豊富でリーダシップスキルがある人材だが、我々のFRCは限られた研究経験であり、准教授レベルでFRCのポストは0.1FTEであった。
・SAポイントシステム(Table1参照)
・同僚支援を行う研究コーディネーターのポスト
 →PGY2やPGY3で特に研究への関心が高い人材で、同僚の研究の動機付けやメンタリングを行う役割。
  彼らは半日の研究日をもつ
・SAのアウトプットは、専攻医の年間のプロジェクトの合計、年間の質プロジェクト(地方会や全国学会での発表もしくはピアレビュー雑誌への投稿)もしくはピアレビューのプロジェクトを計算し、回帰分析とマン・ホイットニーのU検定(ノンパラメトリック検定)を行った。

結果
専攻医一人あたりのプロジェクトの年間件数は、2012~2013年度の0.34件から、2016~2017年度の1.05件に増加した(Fig1)。また専攻医一人あたりの質改善プロジェクトは、統計的に有意な経時変化を示した。(F(1,9)−18.98,P<0.05,R2 of 0.6784:Fig3)介入前の年数と介入後の年数を比較すると、専攻医の平均の質プロジェクトでは統計的有意はなかった(P<005) 結語 このカリキュラムのモデルは、研修プログラムで実施できる学術活動の成果を高めるために独自性かつ信頼性の高い介入を重視している。 毎年の研究コーディネーターの異動にもかかわらず,SAの量と質は5年間で増加している、介入後に増加している。 この研究は専攻医主導の(教育)文化の変化を実証し、他のプログラムへの適応性に関する今後の研究の証拠となる。 ディスカッション ピアレビューのメンターシップは専攻医の文化を変え、研究が修了のためのチェックボックス項目から、それぞれの専攻医にとっての教育的な経験となった。この研究の限界は、記録に基づいているデザインであることと、単一プログラムであること。そして軍隊のプログラムであるが、軍隊であることの特徴はなく、ACGMEに準拠してAMFMの要件を満たす非軍隊のプログラムにも応用しやすい。  JC(松井0522)

JC(松井0522)1

JC(松井0522)2

【開催日】2019年5月22日(水)