COPD患者と在宅NPPV

―文献名―
Wilson ME, et al. Association of Home Noninvasive Positive Pressure Ventilation With Clinical Outcomes in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2020 Feb 4;323(5):455-465.

―要約―
Introduction
COPD患者の急性増悪時における高CO2血症・急性呼吸不全に対してのNIPPVの院内使用についてはエビデンスが確立している(COPD急性増悪による急性呼吸不全の患者において、院内NIPPVは、死亡率の低下、気管挿管の減少、入院期間の短縮、合併症の減少に関連していることがわかっている。)しかし、慢性COPDと高CO2血症における在宅NIPPVとその転帰との関連は不明である。
COPD および高CO2血症の患者において、bilevel positive airway pressure (BPAP)およびnoninvasive home mechanical ventilator (非侵襲的HMV)による在宅 NIPPV と臨床転帰および有害事象との関連を評価した。

※呼吸機器の定義に関しては、eTable2参照
BPAP装置は通常、圧換気を行うが、換気モードやモニタリング機能が追加されている場合がある。HMVは、Pressure control換気、Volume control換気などが可能であり、通常は気管切開した患者に使用されるが、NIPPVでも使用できる。BPAP装置と比較して、追加の換気モード、モニタリング、制御機能、および安全装置、アラーム、バックアップ電源の機能を備えている。

Method
1995年1月1日から2019年11月6日までに発表された英語の論文をMEDLINE、EMBASE、SCOPUS、Cochrane Central Registrar of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic Reviews、National Guideline Clearinghouse、Scopusで検索した。
在宅NIPPVを1か月以上使用した高CO2血症を伴うCOPDの成人を登録した無作為化臨床試験(RCT)および比較観察研究を対象とした。
データの抽出は独立した 2 人のレビュアーが行った。バイアスについてはRCT については Cochrane Collaboration の risk of bias tool を用いて評価し、非ランダム化研究については Newcastle-Ottawa Scale の選択項目を用いて評価した。
主要評価項目は、最長追跡期間における死亡率、全原因による入院、挿管の必要性、および QOL とした。副次評価項目は、呼吸器疾患による入院、救急外来受診、集中治療室(ICU)への入室、COPDの増悪、日常生活動作、呼吸困難、睡眠の質、運動耐容能、有害事象とした。

Results
21件のRCTと12件の観察研究の合計51085名の患者(平均年齢65.7歳、女性43%)が対象となった。
死亡者は434名、挿管を行った患者は27名であった。

BPAPと装置なしの比較

死亡リスクを有意に低下させた。
2.31% vs 28.57%、RD-5.53%[95%CI; -10.29%~-0.76%]、OR0.66 [95% CI; 0.51〜0.87]、P=0.003
全原因による入院患者を優位に減らした。
39.74% vs 75.00%、RD-35.26%[95% CI; -49.39%〜-21.12%]、OR0.22[95% CI; 0.11〜0.43]、P<0.001
挿管の必要性を優位に減らした。
5.34% vs 14.71%、RD-8.02%[95%CI; -14.77%〜-1.28%] OR0.34[95% CI; 0.14〜0.83]、P=0.02
QOLには有意な差は見られなかった。

非侵襲的HMVと装置なしの比較

死亡リスクに有意差はなかった。
21.84% vs 34.09%、RD-11.99%[95% CI; -24.77%~0.79%]、OR0.56[95% CI; 0.29-1.08]、 P=0.49

有害事象

NIPPVを使用した場合と装置を使用しない場合と比較して、有意差はなかった。重篤な副作用はほとんどなく、0.24/人で非重篤な副作用が出現、多くは皮膚症状(顔面発疹や鼻潰瘍)、眼症状、鼻症状だった。

Discussion
COPD と高CO2血症の患者を対象としたこのメタアナリシスでは、家庭用 BPAP は装置を使用しない場合と比較して、死亡率、全原因による入院、挿管のリスクを低下させたが、QOL には有意な差はなかった。非侵襲的HMVは装置を使用しない場合と比較して、入院リスクの低下と有意に関連していたが、死亡リスクには有意差がなかった。
しかし、エビデンスの質は低~中程度で、QOLに関するエビデンスは不十分であり、いくつかのアウトカムの分析は少数の研究に基づいていた。
装置の種類、設定、PaCO2減少に伴う調整方法などについては依然として不明。一部の研究では、より高強度のNIPPVや、追加のモードや機能を備えた装置で転帰の改善が確認されているが、装置のモードを比較した他の研究では転帰の違いは確認されていない。また、どのPaCO2閾値でNIPPVを開始すべきか、閾値が低くても臨床的に有意な効果があるかどうかも不明なままである。現在のガイドライン、推奨事項、実施方法は様々である。

※日本のガイドラインについては下図参照

NIPPVを受けた患者の顔面発疹や粘膜乾燥などの非重篤な有害事象の発生率は25%近くに及んだが、重篤な有害事象はまれであり、発生率はNIPPVを使用した群と使用していない群とで有意差はなかった。

【開催日】2021年6月9日(水)

COVID-19既感染者に新型コロナワクチン(mRNA BNT162b2:ファイザー/ビオンテック社)を接種したときの副反応について

―文献名―
Antonella d’Arminio Monforte, Alessandro Tavelli, et al. Association between previous infection with SARS CoV-2 and the risk of self-reported symptoms after mRNA BNT162b2 vaccination: Data from 3,078 health care workers.E Clinical Medicine 36 (2021) 100914.

―要約―
【背景】
医療従事者(HCW)は,SARS CoV-2による感染症に罹患するリスクが高いため,ワクチン接種の優先順位が高い。 本研究では過去にCOVID-19の罹患歴のあるHCWにおいて、ワクチン接種後の重度および中等度の全身症状のリスクが高いかどうかを調査することを目的とした。

【方法】
イタリア・ミラノの2つの大規模三次病院(ASST Santi PaoloおよびCarlo)で2021年1月4日から2月9日の間に抗SARS CoV-2 mRNA BNT162b2ワクチンを接種したHCW全員のコホートにオンラインアンケートを実施した。アンケートは2回実施.1回目は2回目接種の直前,2回目は2回目接種2週後.過去のSARS-CoV-2感染/COVID-19発症,2回の各投与後の局所および全身の症状を報告してもらった。中等度の全身症状は「日常生活に支障をきたすもの、または休業を余儀なくされるもの」とした。中等度の全身症状に関連する因子をロジスティック回帰で特定した。

【結果】
3,078人のHCWが対象となった。うち,SARS-CoV-2感染/COVID-19の既往のあるものは396名(12.9%)であった。対象となったHCW全体では59.6%が1回目の投与で、73.4%が2回目の投与で、局所的または全身的な症状を1つ以上経験していた。重度の全身症状,重篤な有害事象は報告されなかった。中等度の全身症状については1回目と2回目の投与後に、それぞれ6.3%(COVID-19経験者14.4% vs COVID-19未経験者5.1% p<0.001)と28.3%(COVID-19経験者24.5% vs COVID-19未経験者28.3% p=0.074)に発生した。(Table2,Table3,下記)すでにCOVID-19を経験している被験者は、初回投与後に中等度の全身症状のリスクが独立して3倍高くなり、2回目の投与後には30%低くなった。

【適応】
今回のデータは、既感染のHCWにおいては重篤な有害事象がなく,短期間の副反応が発生することを現実世界において証明した。女性や若年層と同様に免疫反応の違いがこのグループのHCWの中等度の全身症状の要因となっている可能性がある。

【資金提供】
資金提供なし。

Table2. 1回目のワクチン接種後

Table3. 2回目のワクチン接種後

【開催日】2021年6月9日(水)

心房細動の早期リズムコントロール

-文献名-
P. Kirchhof, A.J. Camm, A. Goette.Early Rhythm-Control Therapy in Patients with Atrial Fibrillation.N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1305-1316.

-要約-
背景 心房細動の患者は心血管系合併症のリスクが高い.過去にリズムコントロールとレートコントロールで予後に差がないという報告があるが,発症早期にリズムコントロールを行うことで心血管リスクを軽減できるかどうかは不明である.アブレーションも含めたリズムコントロール戦略が早期Af診療のアウトカムを改善させるか調べる.
デザイン RCT.非盲検化試験.多施設(欧州11カ国,135施設).2011年〜2016年.ITT解析.
ドイツの教育研究省による資金提供.
対象者 2789例.≧18歳の発症早期(初回診断から≦12カ月)の心房細動患者で,①TIA/脳卒中の既往があるか,②>75歳の者か,③以下の条件*のうち2つ以上に該当する者。年齢>65歳,女性,心不全,高血圧,糖尿病,重症冠動脈疾患,慢性腎臓病(GFR15〜59),左室肥大(拡張期中隔壁幅> 15mm),末梢動脈疾患.
介入 現行のガイドラインが推奨する治療(抗凝固薬,レートコントロール)および合併する心血管疾患に対する治療を受けたうえで,早期のリズムコントロール(洞調律維持療法)群(1395例)または標準治療のみの群(1394例)。
早期のリズムコントロール群:抗不整脈薬または心房細動アブレーションによる治療.週に2度また症状発生時は,患者自ら遠隔モニタリングデバイスECGを送信.医療機関がリズムコントロールを調整.
標準治療群:抗凝固薬による治療とレートコントロール(心拍数調節療法)を中心とした治療。これらの治療でも心房細動による症状が生じた場合は,リズムコントロールを実施。
結果
追跡期間中央値5.1年。
有効性が確認されたため,第3回目の中間解析の時点で試験は中止。
(以下,Fig1)
2年後の治療状況は,リズムコントロール群では65.1%が抗不整脈薬継続,標準治療群では14.6%が抗不整脈薬使用.リズムコントロール群でアブレーションを行ったのは19.4%.(フレカイニド(タンボコール®,1c),アミオダロン,ドロネダロン(日本採用なし),プロパフェノン(プロノン®,1c),その他の不整脈薬)

(以下,Table1)
患者背景:平均年齢70.3歳,女性46.4%。
心房細動の診断から登録までの日数:中央値で36日。
登録時の心房細動の状況:初発 37.6%,発作性 35.6%,持続性 26.6%。
登録時の洞調律の割合:54.0%
登録時のCHA2DS2-VASCスコアの平均値:3.4

(以下,Table.2)
プライマリーエンドポイント=「心疾患や脳卒中による死亡」「心不全や急性冠症候群の悪化による入院」の複合
早期リズムコントロール群249例(3.9/100人・年) vs. 標準治療群316例(5.0/100人・年)
[ハザード比(HR)0.79; 96%信頼区間(CI)0.66~0.94; P =0.005]
内訳のうち,心疾患や脳卒中による死亡をみても有意差あり.

セカンダリーエンドポイント=1年あたりの入院日数.
群間で有意差なし.
平均値:早期リズムコントール群 5.8日/年 vs. 標準治療群5.1日/年(P =0.23)

(以下,Table.3)
安全性の主要アウトカム=「死亡」「脳卒中」「リズム制御療法に関連した重篤な有害事象」の複合
群間で有意差なし.
早期リズムコントロール群231例(16.6%)vs. 標準治療群223例(16.0%)

<内訳>
脳卒中:早期リズムコントロール群2.9% vs. 標準治療群4.4%(P =0.03)。
死亡:9.9% vs. 11.8%。
リズムコントロールに関連する重篤な有害イベント:4.9% vs. 1.4%(P <0.001)。(5年間)
 →非致死性の心停止,中毒,徐脈,AVブロック,トルサードポワンツ,タンポナーデ,出血など

安全性の副次アウトカム=2年後の症状,左室機能
両治療群間に有意差は認められなかった。

ディスカッション 
・過去の報告と異なり,今回リズムコントロール群で有意差が出たのは,①カテーテルアブレーション治療群が入っていることや②発症早期の介入をみていることなどが考えうる.
・リズムコントロールによる有害事象は有意に発生したが,その頻度は低い.
・限界は,非盲検化試験であること,フォローアップ期間が短いこと,費用について検討していないこと,などが挙げられる.

結論 早期リズムコントロールは,早期心房細動と心血管疾患を有する患者において,通常のケアに比べて有害な心血管転帰のリスクが低いことと関連していた.

【開催日】2021年2月3日(水)

虫垂炎に対する抗菌薬と虫垂切除術のランダム化比較試験

-文献名-
The CODA Collaborative. A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis. The New England Journal of Medicine 2020; 383:1907-1919

-要約-
INTRODUCTION
虫垂切除術は,60年以上前に代替療法として抗菌薬療法の成功が報告されていたにもかかわらず,長い間虫垂炎の標準治療だった.成人における虫垂炎に対する抗菌薬療法のいくつかのランダム化試験が行われているが,重要なサブグループ(特に合併症のリスクを高めるかもしれない虫垂石を伴う症例)の除外,小さなサンプルサイズ,および一般集団への適用性に関する疑問が,この治療法の使用を制限している.2014年には,米国の虫垂炎患者の95%以上が虫垂切除術を受けた.しかし,2019年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い,医療システムや米国外科学会などの専門団体は,虫垂炎の治療における抗菌薬の役割など,ケア提供の多くの側面の再検討を提案している.そこで,成人の虫垂炎に対する抗菌薬療法と虫垂切除術を比較するために,この比較試験(CODA)を行った.当初,参加者全員が少なくとも1年間のフォローアップを受けた後に結果を報告する予定だったが,虫垂炎の管理に関するCOVID-19関連の懸念を考慮して,ランダム化後の最初の90日間に基づいて結果を記述する.

METHODS
米国の25のセンターで虫垂炎患者を対象に,抗菌薬療法(10日間コース)と虫垂切除術を比較する実用的,非盲検,非劣性,ランダム化試験を実施した.一次アウトカムは,ヨーロッパのQOL-5次元(EQ-5D)質問票で評価した30日間の健康状態で行った(スコアは0~1の範囲で,スコアが高いほど健康状態が良好であることを示し,非劣性マージンは0.05ポイントとした).二次アウトカムには,抗菌薬群の虫垂切除術と90日間の合併症が含まれていた.その解析は,虫垂石の有無に応じて定義されたサブグループで事前に定義された.

RESULTS
合計で1,552人の成人(虫垂石を伴う414人)が,ランダム化された.776人は抗菌薬の投与を受け(47%はインデックス治療のために入院しなかった),776人は虫垂切除術を受けるように割り当てられた(96%は腹腔鏡下手術を受けた).抗菌薬は,30日間のEQ-5Dスコアに基づいて虫垂切除術に劣っていなかった(平均差,0.01ポイント;95%信頼区間[CI],-0.001〜0.03).抗菌薬群では,虫垂切除術を受けた人の41%と虫垂切除術のない人の25%を含めて,29%が90日までに虫垂切除術を受けていた.合併症は虫垂切除群よりも抗菌薬群でより一般的だった(100人の参加者あたり8.1対3.5;レート比2.28; 95%CI,1.30~3.98); 抗菌薬群のより高い割合は,虫垂石のある人(参加者100人あたり20.2対3.6;レート比5.69; 95%CI,2.11〜15.38),虫垂石のない人(3.7対3.5人100人の参加者;レート比1.05; 95%CI,0.45~2.43)に起因する可能性がある.重篤な有害事象の発生率は,抗菌薬群の参加者100人あたり4.0,虫垂切除群の参加者100人あたり3.0だった(発生率比1.29; 95%CI 0.67〜2.50).

DISCUSSION
30日でのEQ-5Dスコアは,虫垂炎治療に反応する全体的な健康状態の検証済みの尺度であり,主要な結果として選択された.虫垂切除からの回復には典型的な期間と考えられる.
別の関連する結果は,虫垂切除術を受けていない患者の悪性腫瘍を見逃す可能性が挙げられる.ほとんどすべての参加者がCT検査を受け,腫瘍性病変を示唆する所見がある参加者は除外されたが,9つの虫垂切除標本で悪性腫瘍が同定された.注目すべきことに抗菌薬群の参加者の間で発見された悪性腫瘍は少なく,早期発見が患者の転帰に影響を及ぼしたかどうかは不明である.
 今回のCODA試験の幅広い選択基準は,過去の最大のランダム化試験であるAPPAC試験(合計530人の参加者)との結果の違いを部分的に説明できるかもしれない.APPAC試験では,抗菌薬群の虫垂切除術の発生率は,90日で16%,1年で27%,5年で39%だった.虫垂切除術の術中に穿孔が認められた患者の割合は,APPAC試験では2%未満であり,CODA試験では,虫垂切除群で16%だった.CODA試験で特定された穿孔率は,虫垂炎の疫学研究で報告された割合と一致する.APPAC試験では開腹手術のみであったが,CODA試験は,ほとんど腹腔鏡下手術であったことから,APPAC試験でより入院期間が長かったことを説明していると考えられる.
5件のランダム化試験の最近のメタ解析では,虫垂切除術よりも抗菌薬治療の方が,合併症の発生率が低く,障害期間が短いことが示されている.
 今回の試験の限界としては,90日間の追跡データしか含まれていないため,再発と長期的な合併症を過小評価していることである.また,無作為化に同意した患者が約30%であり,センター間でその割合が異なり,選択バイアスをもたらした可能性がある.今回の試験は盲検化されておらず,抗菌薬群の治療レジメンは指定されていなかったことから,いくつかの結果に影響を及ぼした可能性もある.虫垂切除群の一部の患者は手術を拒否し,抗菌薬群の一部はプロトコルで指定された手術基準を満たさずに虫垂切除術を受けた.地域や患者の特性により予想される交絡を考慮して,外来または入院治療による結果を評価しなかった.そして,虫垂石の有無によるサブグループを定義したが,これらのサブグループで観察された結果は,少ないサンプル数の個別の合併症を考慮する必要がある.
 今回の試験で,虫垂炎に対する抗菌薬治療は,少なくとも短期的には,一般的な健康状態の標準化された測定の結果に基づき,虫垂切除術に劣っていないこと示した.

【開催日】2020年12月2日(水)

アタッチメント理論(愛着理論)と継続性(医師患者関係)

-文献名-
Frederiksen, Heidi Bøgelund, Jakob Kragstrup, and Birgitte Dehlholm-Lambertsen.
“Attachment in the doctor–patient relationship in general practice: A qualitative study.”
Scandinavian journal of primary health care 28.3 (2010): 185-190.

-要約-
【目的】なぜ主治医とのinterpersonal continuityは患者にとって有用なのかを探索する

【デザイン・セッティング・対象】
22名の患者にインタビューを用いた質的研究をした。そのうち12名は毎回同じGPに診てもらっており、10名は馴染みの薄いGP(専攻医)に診てもらっていた。診察を観察後にインタビュー対象者を選択し、主訴(受診理由)、年齢、性別によって合目的に対象者を抽出した。研究テーマは心理学的理論を用いて対応した。

質的分析の方法論:*解釈的現象学的分析
「主治医との関係性を患者はどのように経験しているか?」
インタビュー逐語録の読み込み、テーマを注釈し、各テーマを連結させ、最後に、それらのテーマと
主観的な記述の理論的な意味を解釈するための適切な社会心理学的理論を結びつけた。その過程で、Attachment理論が、役立つ枠組みとして立ち上がってきた。

*Attachment理論とは:John Bowlby,1907―1990
主に幼少期における養育者などとの関係性,ことにアタッチメントattachment(愛着)が,人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論。 愛着理論ともいう。

【結果】
患者のinterpersonal continuityの有用性の理解にとって中心的問題は、attachmentの必要性であった。患者はGPとの人間的な関係性の構築をより好み、大多数の患者は医師患者関係の中にある、ある程度の脆弱性を述べた。病気が重症だったり心配が強いほど、患者は脆弱であり、毎回同じGPをより必要としていた。更に、たとえ医師患者関係が好ましくない状況であっても、GPを変えることは困難であると述べていた。

【考察 *抜粋記載】
病気になると、自動的に医師はアタッチメントの対象となる。アタッチメント理論では、安全になることよりも、安心感を得ることへの関心が述べられているが、医師はケアを提供するためのより賢く強い個人として認識される。またアタッチメント理論は、合理的な判断が個人の関係性で説明つかないことも説明することができる。患者は弱い立場(脆弱性)なので、好ましくない医師患者関係の場合も医師を変えるに至らないのだ。

【結論】
Attachment理論は、毎回同じGPに診てもらいたい患者ニーズの原理の説明を提供するかもしれない。患者という弱い立場は、ケア提供者へのattachmentの必要性を作り出す。この欲求は根本的なものであり、病いや怖さを感じる時に活性化される。

【開催日】2020年11月11日(水)

ペニシリンアレルギーのリスクの層別化

-文献名-
Jason A. Trubiano, et al. Development and validation of a penicillin allergy clinical decision rule. JAMA Internal Medicine. 2020;180(5):745-752.

-要約-
■Importance:
ペニシリンアレルギーは、患者、抗菌薬管理プログラムおよび医療サービスにとって重要な問題である。専門家によるペニシリン皮膚検査を必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを特定するために、妥当性を評価されたclinical decision ruleが求められている。

■Objective:
患者から報告されたペニシリンアレルギーのpoint of care リスク評価を可能にするペニシリンアレルギーのclinical decision ruleを開発、検証する。

■Design, setting, and participants:
 この研究では、オーストラリアのメルボルンにある2つの三次医療機関(Austin Health and Peter MacCallum Cancer Centre)からの622人の患者(多施設、前向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)が参加して、ペニシリンアレルギー decision ruleの開発と内的妥当性の評価を行った。ロジスティック解析・変数減少法を使用してペニシリンアレルギーテストの陽性結果を予測する臨床変数を含むモデルを導き出した。最終モデルの内的妥当性の評価には、Bootstrapped sample(※1)と係数から導出されたモデルスコアリングを使用した。外的妥当性の評価は、オーストラリアのシドニーとパース、テネシー州のナッシュビルからの945人の患者(後向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)で実施された。ペニシリンアレルギーを報告した患者は、皮膚プリックテスト、皮内テスト、パッチテストと経口チャレンジ(直接または皮膚テスト後)を組み合わせたアレルギーテストを受けた。データは2008年6月26日から2019年6月3日まで収集され、2019年1月9日から12日まで分析が行われた。
※1:母集団となるデータがある時に、母集団から重複を許してランダムにいくらかデータを取り出して再標本化する手法。予測モデルの生成に使われる。

■Main outcomes and measures:
 Primary outcomeは、外来または入院患者のペニシリンアレルギーテスト陽性という結果。

■Results:
 モデルの開発および内的妥当性の評価に用いられたコホート622人(女性367人(59%)、年齢中央値60歳(四部位範囲48-71歳))、外的妥当性の評価に用いられたコホート945人(女性662人(70.1%)、年齢中央値55歳(四部位範囲38-68歳))から、多変量解析によりペニシリンアレルギーテスト陽性に関連する4つの特徴は、PEN-FAST(penicillin allergy, five or fewer years ago, anaphylaxis/angioedema, severe cutaneous adverse reaction(SCAR), and treatment required for allergy episode)という略語にまとめられた。大基準(major criteria)には、5年以内に発生したアレルギーイベント(2点)、アナフィラキシー/血管浮腫もしくはSCAR(2点)が、小基準(minor criterion)にはアレルギーに治療を要したというエピソード(1点)が含まれた。内的妥当性の評価では、AUC 0.805(※2)、minimal mean optimism(※3) 0.003だった。ペニシリンアレルギー低リスクの分類には、PEN-FAST 3点以下がカットオフと設定されました。この場合、460人の患者のうち17人(3.7%)のみがアレルギーテスト陽性となり、陰性予測値は96.3%(95%CI、94.1%-97.8%)だった。また、外的妥当性の評価でも同様の結果が得られました。
※2:AUCの診断精度の目安 0.7-0.8 fair, 0.8-0.9 good, 0.9-1.0 excellent
※3:optimismとは、モデルの予測精度の過大評価のバイアス

■Conclusion and relevance:
この研究で、PEN-FASTは、正式なアレルギーテストを必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを正確に特定できる簡便な基準であることと証明された。3点未満のPEN-FASTスコアは高い陰性予測値を有するという結果から、臨床医にとって、あるいは抗菌薬管理プログラムにおいて、ペニシリンアレルギー低リスクをpoint of careで特定するために役立つということが示唆された。

JC202010堀み1

JC202010堀み2

JC202010堀み3

JC202010堀み4

■Limitation:
・非ペニシリンβ-ラクタム系抗菌薬アレルギー、静脈内投与でのみ起こるペニシリンアレルギーが除外されている
・SCARのようなアレルギー表現型を持つ患者が少ない
・予測モデルの生成に際して、入院患者の割合が多かった
・成人患者のみしか適用できない
・ペニシリンアレルギーとアレルギー表現型の有病率が変化する可能性が高い、民族による違いの検証はネクストステップ

【開催日】2020年11月4日(水)

笑いの頻度と一般集団における全死亡率および心血管疾患の発症リスクとの関連

-文献名-
Associations of Frequency of Laughter With Risk of All-Cause Mortality and Cardiovascular Disease Incidence in a General Population: Findings From the Yamagata Study.
J Epidemiol. 2020; 30(4): 188–193.

-要約-
背景
過去の研究では心理学的なポジティブ要因とネガティブ要因は死亡率や心血管疾患と関連していることが明らかにされてきた。笑いやユーモアが健康に対しポジティブな要因だという考えは医療従事者だけでなく一般人の間でも浸透してきている。
2013年の横断的データで、1日の笑いの頻度が高いほど、日本の高齢者における心疾患の有病率が低いことが示されていた。しかし、横断的な研究であるため笑いが心血管疾患の予防効果を明確に示すことはなかった。そこで今回、地域社会に根ざした集団において日常的な笑いの頻度と死亡率および心血管疾患との関連を前向きに調査した。

方法
山形県の年1回の健康診断を受けた40歳以上の17152人が対象
7市(山形市、酒田市、上山市、寒河江市、東根市、米沢市、天童市)の40歳以上の住民
除外基準なし
2009-2015年に、合計20969人(男性8558人、女性12411人)の被験者を登録
66人の被験者が他の地域に移動、ベースライン時のデータが不完全であったため3817人を除外
最大8年間(中央値、5.4年)追跡
男性7003人(40.8%)、女性10149人(59.2%)、平均年齢62.8歳
自己申告した1日の笑いの頻度を3つのカテゴリー(週1回以上、1か月以上1週間未満、月1回未満)に分類
毎日の笑いの頻度と全死因死亡率および心血管疾患発生率の増加との関連をCox比例ハザードモデルを用いて決定

「笑い」=「大声で笑う」と定義
ほぼ毎日、1~5回/週、1~3回/月、1回/月未満の4つの選択肢を提供し、自己申告で得られた回答から3つのカテゴリー(≧1/週、≧1/月だが<1/週、<1/月)にグループ分けした
・笑いの頻度別の有病率
週1回以上       :14096人(82.2%)
1か月以上1週間未満:2486人(14.5%)
月1回未満       :570人(3.3%)

JC202010大西1

笑いの頻度が低い群は、男性・現役喫煙者・糖尿病患者・独身者・身体的不活発者の割合が有意に高かった。

結果
追跡期間中(中央値、5.4年)、257人の被験者が死亡し、138人の被験者が心血管イベントを経験した。Kaplan-Meier解析の結果、笑いの頻度が低い被験者では全死因死亡率および心血管疾患発症率が有意に高かった(log-rank P<0.01)。年齢、性別、高血圧、喫煙、飲酒状況で調整したCox比例ハザードモデル解析では、全死因死亡のリスクは、月1回未満で笑う被験者の方が(週1回以上笑う被験者よりも)有意に高い(ハザード比1.95)。同様に、心血管イベントのリスクは月1回以上週1回未満で笑う被験者が(週1回以上笑う被験者よりも)月1回以上笑う被験者の方が高かった(ハザード比 1.62)。

JC202010大西2

<笑いの頻度に応じた全生存期間>
頻度が低い群で、全死因死亡率が有意に高い(P値=0.003)

JC202010大西3

<笑いの頻度に応じた心血管疾患の無病生存期間>
同様の曲線が心血管疾患についても観察された(P値<0.001)

JC202010大西4

<Cox比例分析を用いた、笑いの頻度と死亡率および心血管イベントとの関連性>
・無調整
全死亡率:月1回未満の人が有意に高い(HR 2.38;95%CI、1.42-3.74)
心血管疾患発症リスク:1か月以上1週間未満の人が有意に高い(HR 2.06;95%CI、1.38-3.00)
・年齢・性別・高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒状況の調整後
全死亡率:月1回未満の人が有意に高い(HR 1.95;1.16–3.09).
JC202010大西5

<笑いの頻度と全死亡率の関連性のサブグループ解析>
女性、非高血圧、糖尿病患者、肥満、知覚される精神的ストレスのレベルが中程度、大学卒業以上のサブグループにおいて、月1回未満の群では、全死因死亡率が有意に高い。
笑いの少ない群では、他の群(4.2~4.7%)に比べて精神的ストレスが低い有病率(7.8%)が高く、笑いの少ない群では精神的ストレスが高い=重度の有病率は他の群(70.3~72.9%)と同程度。

検討
笑いの頻度は、男性、現在の飲酒者、糖尿病、低身体活動、配偶者のいない生活の高い有病率と関連していた。年齢、性別、および喫煙、飲酒状況、高血圧、糖尿病などの複数のよく知られた危険因子を調整した後でも、笑いの頻度が全死亡率および心血管疾患の発症率と独立して関連していることが明らかになった。確立された危険因子とは無関係に、笑いそのものが長寿化や心血管疾患発症率の低下に寄与していることが示唆された。

笑いの頻度が全死亡率と心血管疾患に及ぼす影響は不明であるが、いくつかの可能性が示唆されている。
・笑いは健康を促進する行動と関連している可能性がある。この研究では、笑いの頻度が高い群では、現在の喫煙・飲酒者の割合が低く、身体活動が低いことが示されていた。
・過去の研究で、免疫系に関して、笑いは様々な免疫学的要因に影響を与えることが示されている。
・笑いは血管内皮を改善する:機能や動脈硬化を抑制、食後血糖値やストレスのバイオマーカーである唾液性クロモグラニンAの増加を抑制。

笑う頻度は女性では有意で、男性では有意でなかった。一般的に男性は感情を表に出さない傾向があり、今回の調査では女性よりも男性の方が大声で笑う頻度が低かった。
日常的に頻繁に笑うことの効果は、高齢者、肥満のある人、中等度のストレスレベルの人でより強く認められた。

・本研究の強み
前向き研究、大規模なサンプルサイズ
年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙状況、飲酒状況など、複数のよく知られた危険因子を用いて調整が行われた

<制限>
・笑いの定義に誤差あり
「大声で笑う」が笑いの定義だったので、無言で笑う、微笑む、などは笑いとしてカウントされていない→笑いの頻度が過小評価されている可能性あり。しかし、笑いの度合いには個人差あり→過大評価も過小評価も両方を引き起こしているかも。
・無症状の心血管イベントの症例があったかも
・健康意識の高い、選択バイアスがあったかも
調査対象者は地域の健康診断の参加者→健康意識が高く、社会活動のレベルが高かった可能性がある。

結論
毎日の笑いの頻度は、日本人一般集団における全死亡率と心血管疾患の独立した危険因子である
笑いの頻度を増やすことで、心血管疾患のリスクが減少し、寿命が延びる可能性があることを示唆している
笑い療法は、容易にアクセスでき、受け入れられやすく、費用もかからない
→一般の人々に笑い療法を広く普及させることを支持するものである。

【開催日】2020年10月14日(水)

救急部門の指導医コメントが研修医の仕事量に与える影響:J(^o^)PAN無作為化比較試験の結果から

―文献名-
Kuriyama A et al. (2016) Impact of Attending Physicians’ Comments on Residents’Workloads in the Emergency Department: Results from Two J(^o^)PAN Randomized Controlled Trials.
PLOS ONE 11(12): e0167480.

―要約-
目的
救急部門は迷信が信じられる傾向にあり、先行研究では満月の夜や13日の金曜日の受信が増加したかなどの調査が行われている。
また文献的には指摘がないが、一般的には「今日は平和だね」「静かな当直になるといいね」という元気なコメントを指導医がすると、突然救急部門が忙しくなるというジンクスが蔓延しているため、指導医からの明るい元気付けるコメントは控える傾向になっている。そこで今回は指導医からの日直帯の救急外来に景気付けのコメントがあるかないかで、救急部門で働く研修医の仕事量がどうかを検討する。その結果、ジンクスが否定された場合は、指導医と研修医でより良い会話ができることが期待される。

方法
倉敷中央病院(1131床の3次医療機関)の救急部門の平日9時から17時の救急外来(J(^o^)PAN-1試験)そして14時から22時までの救急搬送患者(J(^o^)PAN-2試験)のいずれかを診察した25名の研修医を対象として、単施設における2つの並行群、評価者盲検、無作為化試験としてCONSORTガイドラインに沿って実施した。結果に影響しないように研究委員会によって参加同意書は破棄され、研修医には未告知で研究は進められ、研究終了後に研究計画書が公開された。
参加した研修医は “今日は平和だといいね、今日は静かな日になるといいね”などのコマンドを乱数発生器を元に無作為に受け取ったこの研究を知っている6名の救急指導医から、コメントもらった群(介入群)とコメントを受け取っていない群(介入群)に割り付けられた。両試験は2014年6月から2015年3月まで実施され、研修医は、勤務中に診察を受けた患者数、シフトの忙しさや難易度についてアンケートが毎回救急シフト開始時に配布され、5ポイントのLikert尺度で評価し、救急部門の秘書がシフト後にアンケートを回収し、独立した別の指導医がデータセットを作成し、もう一人の医師がデータを分析した。統計解析はWilcoxon順位和検定を使用し、介入群と対照群の間でその他のアウトカムを比較するためにスチューデントのt検定を使用した。研修医への潜在的な学習効果やメッセージの経時的な鈍化効果を除外するために、主要アウトカムについて、各2ヵ月間の最初の10回のシフトで感度分析を行った。すべての統計検定は両側一致で、有意水準はp<0.05であった。すべての解析はStata v.11.2(StataCorp, College Station, TX, USA)を用いて行った。

結果
J(^o^)PAN-1試験では合計169件がランダム化され(介入群81件、対照群88件)、J(^o^)PAN-2試験では178件(介入群85件、対照群93件)がランダム化された。
J(^o^)PAN-1試験では、診察した救急外来患者数(それぞれ5.5人と5.7人、p=0.48)、研修のスケーリングによるシフトの忙しさ(2.8人対2.8人、p=0.58)、または経験したシフトの難易度(3.1人対3.1人、p=0.94)に差は認められなかった。しかし、J(^o^)PAN-2試験では、忙しさ(2.8対2.7;p=0.40)と難易度(3.1対3.2;p=0.75)は群間で同程度であったが、介入群の方が対照群よりも多くの転院患者を診察した(4.4対3.9;p=0.01)。

J(^o^)PAN-1試験では、ストレス(それぞれ2.8対2.9;p=0.40)、食事時間(17.2分対17.3分;p=0.98)、または疲労(3.0対3.0;p=0.85)において、介入群と対照群の間に有意差は認められなかった。さらに、入院数(10.4対10.6;p=0.70)または救急部門を受診した外来患者数(中央値、31対32;Wilcoxon p=0.98)には有意差は認められなかった。J(^o^)PAN-2試験では、ストレス(それぞれ3.0対2.9;p=0.61)、食事時間(15.6分対15.3分;p=0.82)、または疲労(2.9対2.9;p=0.95)において、介入群と対照群の間に有意差は認められなかった(表2)。さらに、入院患者数(14.1対14.0;p=0.86)または転院患者数(中央値、11対12;Wilcoxon p=0.68)には有意差は認められなかった。

結論
指導医からの激励コメントは、救急部門で働く研修医の仕事量への不吉な効果は最小限であった。

 

【開催日】2020年9月23日(水)

日本人2型糖尿病患者に対する経口セマグルチド単剤療法の用量反応性、効果、安全性(PIONNER9)

-文献名-
Yamada Y, Katagiri H, Hamamoto Y, et al. Dose-response, efficacy, and safety of oral semaglutide monotherapy in Japanese patients with type 2 diabetes (PIONEER 9): a 52-week, phase 2/3a, randomised, controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020;8(5):377-391. doi:10.1016/S2213-8587(20)30075-9

-要約-
背景 日本人2型糖尿病特有の表現型を考えると経口セマグルチドなどの新規両方は、この集団での評価を必要とする。PIONEER9は経口セマグルチドの用量反応を評価し、日本人集団における経口セマグルチドの有効性と安全性をプラセボおよび皮下GLP1受容体アゴニストと比較すること目的とした。
方法
 PIONEER9は日本の16施設(診療所と大学病院)で行われた52週のフェーズ2/3aのランダム化試験。
参加者は食事や運動による加療でコントロール不良の2型糖尿病(HbA1c7.0~10.0%)、または経口血糖降下薬単剤(HbA1c6.5~9.5%)で加療中の20歳以上の日本人患者。除外項目は90日以内に週1回GLP-1受容体アゴニスト、週1回DPP4阻害薬、チアゾリジンによる加療を行われた患者、腎障害(eGFR<30)、緊急治療を要する増殖性網膜症や黄斑症の患者。 1日1回の経口セマグルチド(リベルサス:3mg/7mg/14mg)とプラセボ、1日1回皮下注射製剤のリラグルチド(ビクトーザ)0.9mgを1:1:1:1:1にランダムに割付け、二重盲検化された。(Figure1) Primary endpoint  ランダムに割り付けられた全ての患者の試験製品推定値でのベースラインから26週までのHbA1cの変化。 結果 2017年1月10日から7月11日までの間に243人の患者がセマグルチド3mg(n=49),7mg(n=49),14mg(n=49)また、プラセボ(49),リラグルチド0.9mg(n=48)にランダム割り付けされた。患者のベースラインに差はなかった。 26週までのHbA1cのベースラインからの変化(平均8.2%)において経口セマグルチドは用量依存的だった。(セマグルチド3mg ではmean change-1.1%,[SE0.1]、7mg では-1.5%[0.1]、14mgでは-1.7%[0.1]、プレセボでは−0.1%[0.1]、リラグルチド0.9mgでは-1.4%[0.1]) 26週時点でのHbA1cのベースラインからの推定変化はプラセボと比較して経口セマグルチド3mg,7mg,14mg全てで優位に変化していた。セマグルチド14mgではリラグルチド0.9mgに比較して有意に変化していた。(Figure2) プラセボと比較したHbA1cの変化の推定治療差 経口セマグルチド3mgで-1.1%ポイント(95%CI-1.4to0.8;p<0.0001) 経口セマグルチド7mgで-1.5%ポイント(–1·7 to –1·2; p<0·0001) 経口セマグルチド14mgで-1.7%ポイント(–2·0 to –1·4; p<0·0001) リラグルチド0.9mgと比較した推定治療差 経口セマグルチド3mgで0.3%ポイント(95% CI –0·0 to 0·6; p=0·0799) 経口セマグルチド7mgで-0.1%ポイント(–0·4 to 0·2; p=0·3942) 経口セマグルチド14mgで-0.3%ポイント(–0·6 to –0·0; p=0·0272) 体重変化は経口セマグルチド14mgでは26週でベースラインから減少し、52週まで持続的に減少した。26週でプラセボ(P=0.0073)、リラグルチド(セマグルチド7mg P=0.0312/セマグルチド14mg P<0.0001)と比較して経口セマグルチド14mgは有意に体重減少した(Figure3)。 主要な軽度または中等度の消化管イベントが経口セマグルチドで最も頻繁に報告された有害事象だった。便秘が最も一般的で、経口セマグルチドの患者5~6人(10~13%)、プラセボで3人(6%)、リラグルチド9人(19%)だった。 結論 この研究は経口セマグルチドが2型糖尿病の日本人患者におけるプラセボとリラグルチドの両方と比較した経口セマグルチド単剤療法の有効性と安全性を示している。用量反応関係が確立され、経口セマグルチド14mgにより26週目においてHbA1cと体重両方がプラセボおよび日本で承認されたリラグルチドの維持量(0.9mg)よりも有意に減少することがわかった。経口セマグルチド7mgはリラグルチド0.9mgと同等にHb1cを下げることがわかった。 JC白水1

JC白水2

JC白水3

JC白水4

【開催日】2020年8月12日(水)

経口抗凝固薬/PPI内服併用と上部消化管出血による入院の関連

-文献名-
Ray, Wayne A., et al. “Association of oral anticoagulants and proton pump inhibitor cotherapy with hospitalization for upper gastrointestinal tract bleeding.” JAMA 320.21 (2018): 2221-2230.

-要約-
背景 抗凝固薬とPPIの併用療法は、(頻度が高く、時に重篤な抗凝固療法単独の合併症である)上部消化管出血のリスクに影響する可能性がある。
目的 上部消化管出血による入院発生率を、抗凝固薬単独群とPPI併用群で比較する、また上部消化管出血リスクに関係する変数を明らかにする
デザイン・セッテング・対象者 過去起点コホート研究。
2011年1月1日から2015年9月30日のMedicare被保険者
要因 Apixabanエリキュース、Dabigatranプラザキサ、Rivaroxabanイグザレルト,Warfarinと
PPI併用のあり・なし
主たるアウトカムと測定方法 上部消化管出血による入院の調整済み10000人年あたり発生率と10000人年あたりの抗凝固薬の調整済みリスク差、発生率比
結果 Table2添付あり
1,643,123人の対象者において1,713,183件の新規経口抗凝固薬のケースがコホートに含まれた(平均年齢76.4歳±2.4、 女性の651,427人年フォロー(全体の56.1%)、心房細動による内服870,330人年(74.9%)、PPIなし群754,389人年で7119人が発生。調整済み上部消化管出血による入院発生率115人/一万人年(95%CI:111-118)。Rivaroxabanでは1278人発症、入院発生率144人/一万人年(95%CI:136-152)で他の3剤よりも統計学的に有意に高い発生率であった。Apixabanが279人発症、入院発生率73人/一万人年(発生率比1.97 95%CI1.73-2.25)、リスク差70.9(95%CI59.1-82.7) 、Dabigatranが629人発症、入院発生率120人/一万人年(発生率比1.19 95%CI1.08-1.32)、リスク差23.4(95%CI10.6-36.2)、Warfarinが4933人発症、入院発生率113人/一万人年(発生率比1.27 95%CI1.19-1.35)、リスク差30.4(95%CI20.3-40.6)であった。またApixabanは、Dabigatran(発生率比0.61 95%CI0.52-0.70)、リスク差-47.5(95%CI-60.6から-34.3)Warfarin(発生率比0.64 95%CI0.57-0.73)、リスク差-40.5(95%CI-50.6から-31.0)と比較し有意に発生率が低かった。
PPI併用群264,447人年:76人/一万人年。PPIなし群と比較して、上部消化管出血による入院リスクは発生率比0.66(95%CI:0.62-0.69)、Apixaban内服群:発生率比0.66(95%CI:0.52-0.85)、リスク差 -24 95%CI-38から-11)、Dabigatran内服群:発生率比0.49(95%CI:0.41-0.59)、リスク差 -61.1 95%CI-74.8から-47.4)、Rivaroxaba内服群:発生率比0.75(95%CI:0.68-0.84)、リスク差 -35.5 95%CI-48.6から-22.4)、Warfarin内服群:発生率比0.65(95%CI:0.62-0.69)、リスク差 -39.3 95%CI-44.5から-34.2)と全てにおいて発生率は低値であった。
結論 新規に経口凝固薬を内服した患者において、上部消化管出血による入院発生率はRivaroxaba内服群で最も高く、Apixaban内服群で最も低かった。それぞれの抗凝固薬において、PPI併用群はPPIなし群と比べて上部消化管出血による入院発生率は低値であった。この知見は、抗凝固薬を選択する際のリスク・ベネフィットの評価に影響を与えうる。

JC佐藤①

【開催日】2020年8月5日(水)