研究利用時の電子カルテデータの質の評価軸と評価法

-文献名-
Methods and dimensions of electronic health record data quality assessment: enabling reuse for 
clinical research
Weiskopf NG, Weng C. J Am Med Inform Assoc (2012). doi:10.1136/amiajnl-2011-000681

-要約-
【目的】研究のために電子カルテ(electronic health record : EHR)データを再利用する点で、データの質の評価方法と評価軸を検討するため
【対象と方法】臨床研究の文献でEHRデータの質評価法が考察されているものを対象とした。反復プロセス(質的研究方法の1つ。Ref.11) A general inductive approach for analyzing qualitative evaluation data. )を用いて、測定されたデータの質や評価方法は抽出され分類された。
【結果】5つの質の評価軸が同定された( Table.1参照)。
Completeness 完全性(患者について真実が、電カル内にあるのか?漏れはないか)
Correctness 正確性(電カル内のデータは、真実か?入力の誤りなど)
Concordance 適合性(電カル内のデータ間や他リソースとの間で正誤性が保たれるか)
Plausibility もっともらしさ (知識から見て電カル内のデータが意味をなすか)
Currency タイムリーか (診療の機会に、データが記述がされているか)
また7つの評価方法が同定された。
ゴールドスタンダード: 別のリソース(GS)と電カルデータの比較
date element agreement :電カル内で同様の内容が別に記載されている同士の一致検討
data source agreement:上記GSと近いがデータ同士の一致検討
分布の比較 : 臨床から期待されうる分布との比較
妥当性の確認   :データがmake senseかどうか
ログ検討     :データ入力時の日時・時間・編集の有無など調査
element presence :望まれる箇所に、データ自体が存在するか
(Figure1参照)
【考察】
本調査は、データの質の基本的特徴(測定することは難しいが)と、更に評価軸
があることを示した。EHRデータの再利用に興味がある研究者に対して、データの質の分類を考慮すること、データの質について研究課題に準拠した関心を維持すること、他分野からのデータの質評価の作業を統合すること、システマティックに、実践経験に従い、統計的に基づくデータの質評価の方法を採用すること、を推奨する。
【結論】今の所、EHRデータの質の評価方法は一貫しておらず、一般論/標準基準として成熟する可能性も乏しい。もし臨床研究にEHRデータを再利用することになれば、研究者は妥当性が担保されたシステマティックなEHRデータの質評価の方法を用いなければならないだろう。

201810佐藤1

201810佐藤2

【開催日】2018年10月3日(水)

共同研究の成功を導くために

―文献名―
Moira Stewart et al. Success in leading collaborative research. Canadian Family Physician. Vol 61 : JUNE 2015

―要約―
 今日のカナダでは、プライマリケアの研究の機会は広がっている。それはその研究チームの規模が拡大し複雑になってもいるからである。そしてその多くの研究が共同研究である。
 今回は共同研究をよりよく導くために、「コラボレーション(D’Amour,2008)」のフレームワークを用いて、4つの概念を紹介したい。

1. 目標とビジョンの共有
 これが最も基盤となるコンポーネントである。研究の早期に顔を合わせての会議が重要である。
 そして研究計画と指示系統の構造を協議しそれに合意することも基本となる。チームはその目標とビジョンについて共通の理解基盤に立つべきであり、同時に詳細な部分は多様な視点・見方があることも重要である。
 もし不同意が生じれば、より高次の目標について協議し同意を得るべきである。

2. チームの強化
 “internalization(内面化)”と呼ばれているプロセスである。
 メンバー間での個人的な専門的なやり取りが顔合わせの会議で行われること、そして個人的な趣味や活動や家族についてなどの情報を交流すること、同時に個人的な資質と同様に持っている専門職や専門的なスキルについて議論できると良い。またチームメンバー内での快適さやエネルギー、そして信頼を引き起こす個人的・専門的な情報を共有したい。

3. リーダーシップ
 組織変革が成功するとき、そこには強力なリーダーシップが存在している。
 リサーチチームの場合でも、リーダーは組織構造を開発し、チームやワーキンググループでの研究メンバーの役割が選択されることを可能にしたい。リーダーはメンバーにその役割や関係性をアナウンスすることに責任がある。
 はっきりとした中央からの指示と自然と育ち発生するリーダシップの間で、すべてのメンバー間の創造的な緊張が生まれる。学習する組織を生み出すこともリーダーシップのプロセスで重要となる。研究は常にイノベーティブであり、チームの創造性が求められる。リーダーはメンバー間で学び合いが可能となる環境を整えることが大切である。
 リーダーは繋がりを様々に作るべきである。それは定期的な会議もそうだし、明確な期待や正式な議題を設定することも必要となる。リーダーが作る繋がりは、リーダー自身を安心させ快適にさせてくれる。

4. コミュニケーションの構造
 チームははっきりとした同意を得た組織ガバナンスを持つべきである。また一定したポリシーを必要とし、特に衝突の解決や、オーサーシップ、コミュニケーションのプラットフォームなどを構築したい。
 Webベースのコミュニケーションプラットフォームは研究プログラムの情報や文章類、論文のドラフトなどを蓄える機能がある。またチーム内だけではなく、チームの外に向かってのWebやニュースレターも含まれる。

【開催日】
 2017年9月6日(水)

患者満足度調査の落とし穴

-文献名-
Jhon W.Bachman. The Problem With Patient Satisfaction Scores. Fam Pract Manag. 2016 Jan-Feb;23(1):23-27

-この文献を選んだ背景-
 患者満足度の一つであるJPCATは、一つのクリニックについて、プライマリ・ケアの主要な機能を満足度に似た形で測定するツールである。我々はグループ診療であるため、特に医師に関する調査項目は医師全体としての評価と捉えられるが、日本の診療所は一般的にはソロプラクティスが多く、もし一般開業医がJPCATを実施すれば、それは医師に対する直接的な評価となりうる。海外では医師ひとりひとりに対する満足度調査が徐々に広まっている。それについて読んでみた。

-要約-
<要点>
1.適切なサンプルから得たすべての医師の総合データが、有意義な変革を可能にする。問題を引きおこしているプロセスを同定し、介入し、その介入に効果があるかみていく
2.誤差と分析手法といった統計学的な情報が含まれなければ、満足度は発表しない。(すなわち、個人やグループの点数と全体の平均の違いがいかに重要かということである)
3.正確な満足度を出すためには困難と費用がかかるが、医師個人の満足度をベースにした報酬制度やペナルティは行ってはいけない。医師は不十分なデータに基づいて診療をすべきではないし、医師の給料はそれによって決められてはいけない。
4.いわゆる外れ値である、数は少ないが最低値の患者満足度を精査すること。それだけ低い点数の医師はバーンアウトの危険性があるが、注意すべき特別な環境因子がある可能性がある。
5.質改善と統計学的多様性について学びなさい。大きい組織では、すべての結果の85%が組織のシステムに関係しており、残りの15%が人に関係している。焼き過ぎたトーストの焦げを落とす良い方法を考えるより、トースターを直す方法を学びなさい。

<背景>
 医師一人ひとりについての患者満足度がだんだんと普及してきた。
 患者満足度はここ数年でさらに注目されてきた。患者中心のケアが強調されてきたからだけでなく、小グループあるいは大規模な組織に所属することが多くなってきたからである。大きな組織は、彼らの診療のあらゆる点についてシステマティックに患者満足度を調査している。集計された結果をもちいて、他の医師や組織や、一般的な基準と比較することができるようになった。
 近年患者満足度のインパクトは強くなっている。そのため正確な集計や結果の適応が重要となっている。ひとたび患者満足度がネット上に出ると、医師の評判はその影響を受ける。幾つかの診療所では、トレーニングや経営上の改善が必要な医師を見極めるために満足度を利用している。
 正当な患者満足度は確かにケアやサービスの質を改善するかもしれない。しかしそれは医師自身の満足度を減らすといった予想もしていなかった結果を招く可能性がある。ある研究では、78%の医師が、患者満足度は仕事の満足度に、中等度から強度のネガティブな影響を与えることがわかった。さらに28%の医師は、患者満足度によって退職を考えたことがあると答えた。

<サンプリングの問題>
 患者満足度の潜在的な問題を理解するために、まずデータがどのように集められ、どのように集計され、どのような影響があるか理解することから始める。
 患者満足度は、普通複数の異なる方法で作成・管理された調査から得られる。質問がどういうふうに、どんなときに尋ねられたかは結果に影響を与える。
たとえば電話調査は、記載調査とは異なる結果になる傾向がある。また診察後の調査と、診察後数週間後の調査でも得られる情報は変わってくる。
 多くの調査は一つの地域についての一連の質問で構成されている。例えば典型的な患者満足度調査は、医師とのやり取りについて13の質問からなり、各質問に5つの選択肢がある形式だ。「医師はたいていよくやっている」、などバリエーションは限られている。ミネソタやその近郊の一部の地域では、79%の患者が10点中9〜10点をつけている。高得点に固まっていると、個別の医師の点数と全体の点数を比較する時、少数の不満を持つ患者が重大なインパクトをもつことになる。もし担当患者の数が異なったら、満足度はミスリードされてしまう。患者満足度は普通パーセンテージで表わされるので、サンプルサイズの違いはすぐにはわからないのだ。
 また回答者の数が異なる調査で得られた満足度同士を比較すると同様の問題がおこる。回答者が少なくなればなるほど、満足度は高く、あるいは低くなる傾向がある。データの数が少ないと、非常に良い評価や非常に悪い評価の影響が反映されやすくなるためだ。回答者が多くなるほど、そして患者経験が多岐にわたるほど満足度は平均に近づく、これは質の問題ではなく、統計学的な作用の問題である。
 サンプルサイズは正確性にも影響を与える。調査というのは95%信頼区間と5%の誤差があるものである。もし私達が誰かのコンピテンシーを評価するときは、95%信頼するのが妥当だ。20回に1回間違いがあるのでは、正確に評価されないのではという不安をもたらす。対象患者の数が少なければ少なくなるほど、誤差はたいてい小さく見積もられ、スコアは大きくなる。調査の信頼度を上げるためには、より大きなサンプルサイズが必要だが、その調査の費用はかさみ、典型的には医師一人ひとりの患者満足度を評価するためには実施されない。
 正確な比較を行うためには、サンプルサイズと調査方法は同じでなければならない。あなたがある程度の結果を得るまでいくつかの調査を実施し、積極的にフォローアップすると、ある一つの結果を得ることになる。十分なパーセンテージになるように期待しつつたくさんの調査を実施すると、別の結果を得る。後者はサンプルがランダムでは無くなったり、回答者を選んでしまったりするからだ。

<多様性が大きくなると、満足度調査の信頼性が下がる>
 患者満足度は、医師のパフォーマンスに関係のない幾つかの要因の多様性に影響を受け、そのため評価と比較が難しくなっている。

人:点数を高くつける患者のキャラクターについては今までで研究されてきた。つまり、高齢患者、医療者が女性、医療的結果が良好な時、より重病なとき、より医療コストが掛かった時などにスコアは上がることがわかっている。
 また他の要因は比較するときに影響を与える。たとえば新規開業した医師は、もともと開業している医師とは異なる患者の期待や要求に直面する。時間をかけて医師患者関係が発展してきた医師よりも、difficult patient interactionの経験や、drug-seeking患者の診療が起きやすくなっているかもしれない。
 医師は毎日無数の形で患者と相互に影響しあっている。中には満足度調査の内容に含まれる患者経験を阻害するようなものもあるかもしれない。例えば医師と電話やメールでやり取りした患者は、実際診療所で診察を受けた患者よりも、満足度調査の際対象として除外されやすい。
 さらに、調査は患者とのやり取りの本当の質を実際には測定していないかもしれない。医師が最高の質のケアを提供していなくても、最高の患者満足度を得るかもしれないし逆もまたあり得る。ある研究で、記載型の調査を終えた患者にインタビューをした時、彼らが受けたケアと点数付けの間にときどきかなりの差があることがわかっている。

システム:医師はシステムの中で仕事をしている。そのシステムは患者満足度に影響を与えるうるが、医師のコントロールの及ばないものもある。たとえば患者のアクセスの問題、長い受診間隔、予約をとる困難さなどである。システムに必要なのは、患者にネガティブな影響を与えうる過労、混雑する受診、電子カルテの複雑さ、必要な書類が多すぎることの助けになることである。

解釈:どんなプロセスでも結果の解釈について、私たちは様々な解釈をすることになる。そしてしばしばその解釈は間違っている。たとえば完全にランダムなスコアのカルテや主題のコントロールを超えたタスクの結果についての研究は、観察者はそこにない、歪んだ解釈を探すことがわかっている。その他満足度の弱点として、時間経過の一時点のみを反映していることもある。もし同じ調査を繰り返したら、その結果は予想ができない。

環境:医師が働いているセッティングによって患者のポピュレーションやミッションは大きく異なる。たとえば3次医療センターvsプライマリ・ケアセンター。これらの医師の患者満足度の比較は慎重にしなければならない。

<改善は現実的なのか?>
 患者の満足度の測定は安くない。調査の実施と集計は高価であり、正確な調査を求めるとコストだけがあがっていく。幾つかの組織は外部に委託している。それは結果の独立性が明らかだし、組織の満足度をトップ10に入れ競争的優位にたてるように改善させる戦略を提供してくれるからである。しかし患者満足度の測定と結果に基づくより良いパフォーマンスは実行されているのか?
 最近行われたオタワ足関節ルールの使用に関する会議で、ある医師が「患者の満足度は、レントゲン検査をオーダーすると高くなる」と発言した。金銭的なインセンティブは注意が必要だがすべきである。安定したシステムの中では平均への回帰、つまり最高値、最低値は徐々に平均に引き寄せられる。しかし実際のパフォーマンスは改善しない。
 患者満足度を改善させるもっともよいアプローチは、介入を考案することである。そしてそれを組織に適応し、介入が悪いパフォーマンスにだけでなく、システム全体を改善するかを見ることである。このアプローチは、公式目標と、組織の患者対応の改革案に関わるだろう。監査でなく、改善がプロセスの質の改善のキーなのだ。

<それで何をする?>
 以下を組織に問うことで、医師は患者満足度の潜在的問題を軽減させ、誤ったプロセスがあったとしてもそこから組織が最高のベネフィットを生み出せるだろう。

1.適切なサンプルから得たすべての医師の総合データが、有意義な変革を可能にする。問題を引きおこしているプロセスを同定し、介入し、その介入に効果があるかみていく
2.誤差と分析手法といった統計学的な情報が含まれなければ、満足度は発表しない。(すなはち、個人やグループの点数と全体の平均の違いがいかに重要かということである)
3.正確な満足度を出すためには困難と費用がかかるが、医師個人の満足度をベースにした報酬やペナルティは行ってはいけない。医師は貧弱なデータに基づいて診療をすべきではないし、医師の給料はそれによって決められてはいけない。
4.外れ値である、数は少ないが最低値の患者満足度を精査すること。それだけ低い点数の医師はバーンアウトの危険性があるが、注意すべき特別な環境因子がある可能性がある。
5.質改善と統計学的多様性について学びなさい。大きい組織では、すべての結果の85%が組織のシステムに関係しており、残りの15%が人に関係している。焼き過ぎたトーストの焦げを落とす良い方法を考えるより、トースターを直す方法を学びなさい。

【開催日】
 2016年8月17日(水)

家庭医の研究関与の生態学

-文献名-
Nicholas Pimlott, Alan Katz. Ecology of family physicians’ research engagement. Canadian Family Physician May 2016 vol. 62 no. 5 385-390

-要約-
 ここ20年での家庭医療学の研究は大きく成長し、研究の時代が来たという状況となっている。1990年以前はほんの数人の偉大な研究者がわずかに行なっていた研究だったが、今は大学の大きな家庭医療学講座の誕生で、その国や国際的な雑誌に高いレベルの投稿を行なう研究グループが出現している。このような状況に際し、我々家庭医は全員が研究に関与するかしないのか?どのように家庭医は研究に参加するのか?なぜそれが重要と考えるのか?などの疑問を以下のように考えて行きたい。

 まず家庭医の研究関与の生態図を作成した。これは何かが欠けていたり、疑問を生じさせるものでもあろう。このモデルは研究との関与方法を様々な言葉やフレームに落として、研究について考えたり、研究スキルや研究者としての訓練する道のりを考えたり、最終的には我々の成長を評価するフレームを生むことになる。

【研究のコアコンピテンシーを開発・維持する】
 最も家庭医としての基本的な研究との関わりは、治療のRCTや正確な診断法の開発、ガイドラインへの推奨など「商品」というべき研究に触れることである。
 批判的吟味やガイドラインの活動は、スキルの維持と継続的な生涯学習の側面も持っている。論文を検索し、見つけて、批判的に評価し、質の高い結果を臨床状況に応用することが重要なコンピテンシーとなる。しかし時間に追われる家庭医は、検索・評価された二次資料の活用に頼っている。より研究に関わる準備として批判的吟味・EBMがあるが、より多くの研修医にとっては標準的ではなく、UpToDateのような二次資料、三次資料に取って代わられている。これは家庭医が他の領域で研修する際に、その領域の医師がそのような学習をしていることに起因する。家庭医のプログラムとしては、エビデンスを探し、批判的に評価し、臨床に適応できるスキルの重要性と妥当性を伝え、それは挑戦でもあるが指導医としてそれをロールモデリングしてもらう必要がある。

【世界がひっくり返る】
 家庭医は生涯学習と患者ケアの改善をガイドラインに主に頼っているが、これには重大な問題を孕んでいる。多くのガイドライン作成とその実行について家庭医が出席の機会を与えられ関与と影響することが求められている。USPSTFでさえ、単一の疾患などは互いに衝突し関心をもつ家庭医ではない専門医で方向付けられている。ガイドラインの作成には家庭医の代表が参加し、経済的側面や効果的な分配など他が気付かない側面を伝えて欲しい。

【質改善】
 継続的な質改善は、家庭医にとってミクロの世界の研究経験となる。研究とは一般的な知識を生成することであるが、患者の改善のために自身の診療や行為を研究することも非常に類似したものである。多くの家庭医のプログラムでは研修医が質改善のProjectを任務とされ、診療のなかで研究プロセスの大いなる洞察を経験している。

【症例報告:核となる活動】
 研究活動とその貢献として症例報告は最も良い方法の一つである。研究の形としては質を落とすが、症例報告は早期だったり特異的な疾患の状態の理解を促し、新しい疾患の発見に繋がる可能性を持つ。
 指導医が研修医に研究についてのトレーニングに苦労するのは、研究計画書から執筆までの一連のプロの研究者の行為を想定するからである。研修医が前もって必要なスキルを持ち合わせ、レジデンシー期間中にそれらを見につけることは難しい。しかし彼らを敏感な臨床の観察者として支援し、興味深い通常ではない経過の事例を報告してもらうことは研究に触れ、臨床かとしてのアイデンティティ形成に寄与する。

【臨床的発見:忘れられた研究の型】
 マクウィニーはそのキャリアの晩年、家庭医がもはや臨床的発見に関与しないことを嘆いていた。新しい疾患の発見や、よく知られた疾患の新しい、通常ではない経過の発見、患者に相互に影響を与える疾患やその治療の独特の方法論のみならず、ケースシリーズや臨床の場での実際的な介入も乏しくなっている。
 RCT全盛の時代によって、その研究の価値が減じられたとマクウィニーは述べているが、現代においても家庭医の行ないやすい研究の型として重要である。

【PBRNs:新しい地平】
 PBRNsは決して新しくないが、カナダではその発展が他の国より遅れている。
 PBRNsの発展の一つの大きな挑戦は臨床家が、現場で働きながらプロの研究者として成長するプロセスであり、そのうちの何人かは臨床を行なう家庭医ではなくなる。また家庭医にとっては重要な臨床的発見の機会となり、規模の大きなPBRNsの活動では研究者の同僚として熟達していくであろう。PNRNsでのITスキルや遠隔観察、クラウドソーシングなどの技術革新が家庭医の研究を拡張し、全く新しいレベルの研究関与を可能にする。

【プロの研究者】
 全ての努力と同じで、鍛錬と経験の組み合わせによって熟達する。研究の熟達のためには臨床の縮小と研究活動の時間の確保が求められる。これを行なう家庭医をプロの研究者と呼んでいる。研究資金を獲得することで“週末の戦士”からプロの研究者となる。また研究者としての成功は、「家庭医の研究室」でもある地域基盤の臨床セッティングとの近い距離の研究が求められる。

【この箱の中の人生】
 研究のかかわりについての今回の記述的なモデルは静的であり限界もある。しかしこのモデルの階層化された箱は様々な研究のレベルや関与を表現している。家庭医はこの中で様々な研究と関わっている、プロの研究者となるものもいれば、違った場所で違った時間で行なうものもいる。この箱は家庭医の半透膜の図である。

【結語】
 家庭医の多くは研究のユーザーとなっている。カナダには3万5千人の家庭医がいるが、プロの研究者はわずかである。
今後このモデルの発展には2つのことを際立たせた。1つは、プロの研究者という存在である。もう1つは研究参加のための様々なコアスキルがありそれを維持発展できることである。

松井先生図

【開催日】
 2016年6月1日(水)

“研究をやる前の自分とやり終えた自分が変わる”ということ

―文献名―
質的研究の方法 いのちの<現場>を読み解く 語り手:波平恵美子 聞き手:小田博志 春秋社 2010年

―要約―
以下、印象に残った文章の抽出
第一部 質的研究のコツを聴く
第一章:質的研究とは何よりも「問題を発見する」ことに強みがある。たてた問題の答えを見出すだけではなく、それまで気づきもしなかった問題の存在に気付き「問題を発見」することによって、研究全体の発展に貢献することができる。
・問題意識と研究課題は分けておく

日常生活の中にある問題意識を「研究課題」にするためには、自分の抱き続けている問題意識を自分のなかで整理しておく(自分の動機付けがどこにあるかを明確にしておく)ことが必要です。
・質的研究は手仕事、まずは素材に向き合う
 データを繰り返し、繰り返し見て、そのなかで研究計画書を作りながら考える。
・問題意識を持ち続けること。それは優れた発想を生む。
 「なぜ、あのように男泣きに泣いていた父が、弟の骨を見て笑ったのか(4歳6ヶ月の時)」 
 質的研究の上で優れた、意義のあるRQを立てるためには、自分の興味関心のある問題あるいは、
 時には幼い時から抱いている疑問や体験の中から生じた問題を簡単に捨てないことである。
第二章:質的研究の強みは、問題を発見することである。そのためには「相対化」する視点を獲得することが必要になってくる。相対化の視点とは、対象を、対象をみる自分自身とは全くことなる存在として扱う「客観化」とは違い、対象をみている自分、対象について語る自分自身も暗黙に含んだものの見方のことである。それは、地図を描いたり地図をみる行為に似ている。
・「距離をおく」ということ

 自らを「よそ者」の視点で見てみる。Making the familiar strange 自分にとっては当たり前の  
 ことを奇妙と捉える。これは相対化ということでもあります。自分が生きている状況を相対化することが問題、そして研究課題の発見にもつながる。
・質的研究では多様なものをデータとする
あるテーマについて書かれたものだけを集めて、それをよんで自分が納得したかどうかを書いてもらう。同時に、自分の考えがいかに人の受け売りなのかということに気付き始める。一般言説の霧が晴れれば研究課題は見えてくる。それはデータ分析であると同時に、自分自身の思考の相対化にもつながる。
・データの持ち味を活かす
 質的研究によって得られた結論とは、もとにある生データを推測させるようなものでなくてはならない、という考えが常に私にはある。
 いい研究というのは、対象についての本質が言い当てられる、読んでいて「よくわかった」という「眼」をあたえてくれる研究なんだと思います。そのためにも、データ自身が「語り始める」ように繰り返し読むことが大事。
・「語ってもらえる私」になる
 インタビューのとき「いかに聞きすぎないか」にも気を配る必要がある。

Intermezzo 子どもの時の体験と「プロの『よそ者』」への道
 その研究テーマに取り組まざるを得ない、抜き差しならない状況で始めている印象があります。
 人類学者とは「プロのよそ者」だという表現があるが、子供って「世界のよそ者」なんですね。
–色々なことを感じているけれど、まだ人に伝える言葉にできない。しかしそれを既存の言葉にあてはめて終えてしまうのではなく言葉にならない自分のひっかかりを大切にして、保ち続ける−それは自分にとって意味があるだけではなく他の人たちの言葉にならない思いをひらくことにもなる・・・

第二部 経験を聴く
第5章 当事者の切実さを忘れない。なおかつ当事者と異なる視点を忘れない。
質的研究の場合、問題発見は大胆に行い、一方、データ収集、整理、分析には細心を心がける。一部の文化論のように、飛躍だけでは次が続かない。
質的研究は社会に概念的資源を提供する役割がある、と表現したい。すなわち現場で生きている人たちがうすうす気づいているのだけど、言語化していない点を「言い当てる」という役割ですね。
・ひらめきの知、アブダクション

どうしてリンゴが木から落ちるのかを説明する理論枠組みを生み出す思考の展開のこと。そこには現象レベルからの飛躍、ひらめきがある。量的研究は演繹的であるのに対して、質的研究は帰納的だと言われます。しかしアブダクションはそのどちらでもない第三の推論様式なのです。
・手間暇をかけること
書いていることにきづくのは100あるうちの3読めばわかる。書いていないことに気づくには、やはり30とか40とか読まないと気がつかない。

【開催日】
4月16日(水)

‘POLST'(Physician orders for Life-Sustaining Treatment) OHSUでの終末期・延命治療についての取り組み

【概要】POLSTとは
 
・Physician Orders for Life-Sustaining Treatmentの略語 
 
・’End of life'(敢えて終末期と訳しませんでした。)における医療の質の改善のために考慮されたプログラムで、患者の希望を聞き出すための効果的なコミュニケーション、色彩がはっきりした紙への行いたい医療の記載、その希望に対する医療者の遵守が土台となっている。

・1991年に、オレゴンにて延命治療に対する患者の希望が尊重されていないことに問題意識を感じた医療倫理分野の専門家が活動を開始し、1995年にForm(書式)が初めて出版された。
 
・現在では、オレゴン州では、POLSTを用いていることが、ケアの基準として受け入れられており、全てのホスピスと95%の高齢者施設において採用されている。2004年にはPOLSTのメンバーが、USの国のタスクフォースとして、国内への流布・政策整備・リサーチの実施のために、活動を開始した。

・現在のUSAにおける、POLSTプログラムの採用状況は図1のとおりである。

【POLST Formの記載内容】

・「POLST Oregon sample」「POLST newest 日本語」にそれぞれオレゴン州のサンプルとその日本語訳があります。
 
・確認するのは主に以下の3点
  
①心肺停止状態の時のCPRをするかどうか 日本での従来的なDNARかどうか、に該当します
  
②①ではなかった時の、医療をどこまで希望するか
    1.緩和処置のみ施行     ;対症療法のみ
    2.限定された医学的処置の施行;通常の治療を行うが、気管内挿管・長期の生命維持・ICU治療などは行わない
    3.積極的な治療       ;侵襲的な処置も全て行う
  
③人工的な栄養と輸液の投与
    1.一切行わない 2.期間を限定して行う 3.長期的に行う
 
④抗生物質投与(州によって項目として独立していない場合もあり)
   1.使用しない。症状緩和のための場合は行う
   2.侵襲的な投与は行わない(筋肉内・静脈内は行わない)   3.積極的に行う
 
⑤話し合いに参加したメンバーの記載

【実際にどのように使用されているか?】

・オレゴン州では、ある年齢を超えた患者全員に対して推奨されているとのこと。電子カルテのAlertとも連動しているクリニックもあるようで、聴取していない場合は、Alertが出るようにされているところもあるとのこと。
 
 ※HPでみる限りは、オレゴンは非常に進んでいるようで、プログラム全体としてPOLSTの推奨としているのは、「進行した慢性進行性の疾患を持っている人、翌年に死亡あるいは意思決定能力が失われる可能性がある状況にある人、また、自分が受けるケアについて意思表示を明確にしたいという要望を持っている高齢者ならだれでも」、となっています。
参考;http://www.ohsu.edu/polst/developing/core-requirements.htm
・実際には、希望を書いた紙を、平時は患者自宅の冷蔵庫などに貼ってあって、救急隊が現場到着した際に、その紙を同時に持っていく、というような感じになっているそうです。(外出時はどうしているのかは聞いてきませんでした)

・法的効果も認められており、実際にPOLSTに反して蘇生をして、生き返った当人が訴訟をしたケースもあるとのこと。

・記載はもちろん強制ではなく、患者(あるいは代理人)の自発的な判断に基づく、とあります。

・延命治療への配慮は全ての患者においてなされるべきだと日ごろから感じている。内科的疾患で入院した際にDNARを確認した際に、「今まで話し合ったことがない」と答えた家族には退院後に一度きちんと話すように勧めたり、悪性疾患の診断を受けている患者の定期外来で、近い話題が出たら、確認してカルテに記載するよう努力はしていた。

・このようなフォームの活用することで、家族・本人との話し合いの場は持ちやすくなるし、より具体的な話をする機会を持てるだろう。継続性や関係性構築に長けている家庭医なら、「不要な心配」をかけることなく話題を切り出す役割としては適任と思われる。

・しかし、このようなフォームが本当に効力を発揮するためには、多彩な段階の治療への要望に対応するための複数の場(ホスピス・入院病床)や、それに寄り添える価値観を持ち、多彩な段階の治療を実践できる医療スタッフが存在することが必要だろう。POLSTのようなシステムと実際の受け皿が両輪になって、初めて走り出すもので、片方だけの過剰な整備では、フォームを形骸化させるもととなる。

・その一方で、こうした類のイノベーションにおいては、フォームの導入が、もう一方の「車輪」の整備のきっかけになる可能性(例えばACLSのように)があることも鑑みる価値はあると思う。現場で患者の個別化されたケアの実践に取り組み家庭医としては、システマティックでなくとも、出来ることがあるように感じる。
    
  例えば、我々にでも以下のような活動は出来るかもしれない。
      
       都市部;自分が受ける治療に対して希望があり意識が高い患者とのコミュニケーションに利用する
      
       郡部;こうした概念自体の存在をチームでシェアして、特にリスクが高くかつ地域から出ていく可能性が低い集団(グループホームや特養の利用者)に関わる職種と勉強会やシステムの導入を試みる

・皆さんの普段のこうした分野でのプラクティスや工夫・実践・経験についてお伺いしたい。

111219

【開催日】
2011年12月7日

韓国におけるプライマリ・ケア医の供給とポピュレーションヘルスのアウトカムの関係

【文献名】

Juhyun Lee, MD, MPH et al. The Association Between the Supply of Primary Care Physicians and Population Health Outcomes in Korea. Fam Med 2010;42(9):628-35.



【要約】

<Background and Objectives>

Several studies reported that primary care improves health outcomes for populations. The objective of this study was to examine the relationship between the supply of primary care physicians and population health outcomes in Korea. 



<Methods>

Data were extracted from the 2007 report of the Health Insurance Review, the 2005 report from the Korean National Statistical Office, and the 2008 Korean Community Health Survey. The dependent variables were age-adjusted all-cause and disease-specific mortality rates, and independent variables were the supply of primary care physicians, the ratio of primary care physicians to specialists, the number of beds, socioeconomic factors (unemployment rate, local tax, education), population (population size, proportion of the elderly over age 65), and health behaviors (smoking, exercise, using seat belts rates). We used multivariate linear regression as well as ANOVA and t tests. 


<Results>

A higher number of primary care physicians was associated with lower all-cause mortality, cancer mortality, and cardiovascular mortality. However, the ratio of primary care physicians to specialists was not related to all-cause mortality. In addition, the relationship between socioeconomic variables and mortality rates was similar in strength to the relationship between the supply of primary care physicians and mortality rates. Accident mortality, suicide mortality, infection mortality, and perinatal mortality were not related to the supply of primary care physicians.

<Conclusions>

The supply of primary care physicians is associated with improved health outcomes, especially in chronic diseases and cancer. However, other variables such as the socioeconomic factors and population factors seem to have a more significant influence on these outcomes.



【開催日】

2011年6月8日

電子カルテにおけるDMコントロールサポートシステムの効果

【文献名】
Patric J. O’Connor et al. Impact of Electronic Health Record Clinical Decision Support on Diabetes Care: A Randomised Trial, Annals of Family Mdedicine, Vol.9, Jan/Feb 2011

【要約】
<目的>
成人の糖尿病患者におけるHbA1c、血圧、LDLのコントロールにおいて、電子カルテによるDMサポートシステムの効果を調べた

<論文のPECO>
P 11のクリニックにおいて了承を得た41人のプライマリケア医がみている2556人のDM患者
E 診察時に電子カルテに基づいた臨床サポートシステムを利用する(HbA1C推移と治療オプションなど示したメモをカルテに挟む)と
C 同システムを使わないのに比べ
O HbA1c、血圧、LDLのレベルが改善されるか

<結果>
HbA1cレベルはコントロールと比較して‐0.26%, (95%[CI]-0.06% to -0.47%)改善された。収縮期血圧はよりよいメンテナンスの割合だった(80.2% vs 75.1%,P=.03)が、拡張期血圧のメンテナンスの割合は境界域(85.6% vs 81.7%, P=.07)で、LDLのレベルは差を認めなかった。介入群の医者の94%が満足し、中等度の割合で介入終了後1年後もこのサポートシステムを使用していた。

<限界点>
ベースラインのDMコントロールが比較的よいグループで、臨床的な改善は極めて緩やかだった。より少ないインセンティブによる代わりの研究が必要。この介入における効果のメカニズムをより詳細に解明する必要がある。
 
【考察とディスカッション】
ある意味でAuditの効果を測定している研究だと思うが、(多少は)介入の効果があるということが分かった。このような質改善につなげられることが電子カルテを導入することの利点の一つと感じた。
 
以下全体でのディスカッション
デンマークは7割のクリニックにおいてGP用に開発された単一の電子カルテを利用。国を挙げて電子カルテにアラーム機能を持たせている。
 
【開催日】
2011年4月27日

Journal Club 開設!

平成22年度が始まりました。

医療法人 北海道家庭医療学センターは今年で独立3年目。

組織も大きくなり、北海道内6カ所の診療所を運営することになりました。

後期研修を終え、各診療所を支えるスタッフ医師、フェロー医師も合計13名!

これまでは各診療所レベルで学び、家庭医としての診療のレベルアップを図ってきましたが、今年度からは学びを共有し、互いに深め合う場を設け、センター全体で診療のレベルアップをして行こう、ということになりました。


そこで新規に設置されたのが「組織学習委員会」です。

委員長は私山田(更別村国民健康保険診療所)。


長年勤めてきた後期研修プログラムの責任者を離任し、新たなチャレンジであります。

企画第一弾は「Journal Club」です。

13名のスタッフ医師、フェロー医師が持ち回りで家庭医療に関する新たな知見を紹介、議論していく企画です。
週1回、1時間で2例。

このブログで内容を紹介して参ります。












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