慢性疾患を持つ成人に対しての家族を巻き込んだ介入の有効性

-文献名-
Sousa, Helena, et al. ““Should WE Stand Together?”: A systematic review and meta‐analysis of the effectiveness of family‐based interventions for adults with chronic physical diseases.” Family process 60.4 (2021): 1098-1116.

-要約-
家族支援は、慢性的な身体疾患を持つ患者の心理的適応に重要な因子であることが確認されている。本研究は,慢性身体疾患に対する家族ベースの介入と患者志向の介入(patient-oriented intervention)の有効性を比較する研究を系統的にレビューし,メタ解析を行うことを目的とした。検索は,2021年4月12日から4月29日にかけて,Web of Science(含まれるすべてのデータベース),Scopus,PsycINFO,CENTRALで行った。13 件の RCT(癌6件、関節リウマチ3件、変形性関節症2件、慢性腰痛1件、COPD1件) が含まれた。その結果、痛み、苦痛、自己効力感、社会的・感情的機能、ストレス対処、家庭環境の幸福、社会的支援を動員する能力、性的関係に関連する様々な患者のアウトカムに対して、家族ベースの介入が中~大きな効果量(Cohenのd範囲:0.45~0.90)で支持された。この種の介入はまた、家族の不安、抑うつ、睡眠問題、苦痛を減少させ、人生の意味の探求と存在、社会的支援、患者に提供された支援、性的関係を改善し、中程度から非常に大きな効果量であった(Cohenのdの範囲:0.58-2.76)。メタ分析の結果、患者(k=12、d=0.34、95%CI=0.13-0.55、I2=74%、p<0.01)および家族(k=4、d=0.68、95%CI=0.08-1.27、I2=88%、p<0.01)は患者中心の介入と比較して家族中心の介入により、心理社会的アウトカムが著しく改善したことが示唆された。患者の自己効力感のメタアナリシスでは、中程度の効果が認められた(d = 0.64; k = 3; I2 = 19%)。この結果は、家族ベースの介入の有益な効果に対する傾向を示唆しているが、この仮説を確認するために、より質の高いRCTによるさらなる研究が必要である。
Cohen’sdは,式(1)からも明らかなように,
d=1の場合,二つの平均値が2条件の平均された標準偏差の一つ分 ,離れていることを意味する。 このCohen’sd の大きさの基準はCohen(198) によって,小( d= 0.2),中( d= 0.5),大( d = 0.8) と 定 め ら れ て い る

専修大学人間科学部心理学 国里愛彦先生スライドより

【開催日】2023年1月11日(水)

生まれ順という視点~自己洞察や家族志向型ケア、人財マネージメントへ

―文献名―
「相性が悪い!」 島田裕巳著 新潮新書 2003年

―要約―
<兄弟姉妹を区別する文化>
 私たち日本人は、兄と弟、姉と妹をつねに明確に区別して考えます。ところが欧米では、BrotherやSisterという言葉がありますが、兄elder brother 弟younger brotherという言葉があります。
言葉の使い方が異なる。日本の場合、自分の兄にむかって「兄さん」と呼びかけるが、欧米では「elder brother」と呼びかけることはない。John,Paulとはファーストネームで呼ぶのが普通である。兄弟や姉妹の中で上か下かあ余り意識されていない。Brother ,sisterという言葉は、修道士や修道女の間でもつかわれ、神のもとでは皆平等で同じ立場である、という考え方がある。
 中国では、兄は「ゴアーゴアー」、弟「ディーディー」姉「ジェジェ」妹「メイメイ」であって使い方は日本と同じ。韓国語では更に、兄と姉は弟からみるか妹からみるかで言い方が異なる。弟からみた兄は「ヒョン」、妹からみると「オッパ」、弟からみた姉は「ヌナ」で妹からみると「オンに」
日本、中国、韓国の東アジアの国々では、兄と弟、姉と妹をはっきり区別している。

<日常の表現として>
 二人の息子を抱える母親は、上の子どもに対しては「お兄ちゃん」と呼びかける。父親が自分の父親のことを子どもにいうときに「お父さん」といわずに「おじいさん」と呼んだりします。夫婦間でも妻が夫のことを「お父さん」と呼び、夫は妻のことを「お母さん」と呼びます。母親にとって、長男が自分の兄であるわけはありませんし、父親に取っての祖父は、こどもにとっての曾祖父になるはずです。どれもおかしな言い方なのですが、それが疑問をもたれずに使われているのは、そこに一定の規則があるからだ。「すべての家族のなかの最年少者が基準となっている」
 日本社会において、兄弟姉妹の中で何番目に生まれたかが重要になってくるのも、こうした家族や親族をどう呼ぶかという問題がかかわってきて、日常の暮らしの中でも大きな影響を与えている。
特に第一子の場合、家族内で「お兄ちゃん」「おねえちゃん」と呼ばれることが多く、自然と自分は家の立場なのだと自覚を持つようになります。それは夫婦についても「お父さん」と呼ばれる夫は、妻に対しても父親的な役割を果たすことが期待され、「お母さん」と呼ばれる妻にとっても、夫にとって母親としての役割を果たすことが求められる。クラブやバーの女性が、客から「ママさん」と呼ばれるのもその延長線上でのことでしょう。
「お兄ちゃん」と呼ばれてきた兄は、家族から離れた他人との人間関係でも、やはり兄であり、その場を仕切るようになっていく。

<そこにどういう人間関係があるか>
 上に生まれた人間は下に生まれた人間を甘やかし(面倒をみる側)、下の人間は上の人間に甘えます(面倒をみられる側)。重要なのは長男か長女かではなく、第一子か真ん中っ子か、末っ子なのかという点です。
第一子:仕切り屋、自分が思っていることでも口に出さない(プライドが許さない)、決断が唐突。
真ん中っ子:二刀流、甘える側・甘えさせる側のどちらもやれる。自意識が過剰。
末っ子:何でも口に出す、自分が考えたとおりに面倒をみようとする。言われればその通りにしてしまいがち。本音と建前の区別がうまくできないことあり。
一人っ子:妄想家

【開催日】
2014年11月19日(水)

家族歴の把握

―文献名―
Jon D. Emery, et al. Development and validation of a family history screening questionnaire in Australian primary care. Annals of family medicine. 2014, vol. 12, no. 3, p. 241-249. 

―要約―
【目的】
オーストラリアのプライマリ・ケアにおいて、乳癌、卵巣癌、大腸癌、前立腺癌、メラノーマ、虚血性心疾患、2型糖尿病のリスクが高い人を同定するための家族歴スクリーニング票の効果を実証することを目的とした。

【方法】
オーストラリア、パースにある6つの診療所にて前向きに調査を行った。対象者は、受診したことのある診療所から一通の招待状を受け取り、参加を表明した20~50歳代の526人の患者である。対象者は15項目からなる調査票に記入し、その後、調査票に書かれた内容を知らない遺伝カウンセラーにより参照基準となる3世代の家系情報を聴取される。この家系情報を基準(reference standard)として調査票の診断能について統計解析を行った。 

【結果】
7つの疾患いずれかのリスクが増加するかどうかを調べるためには、9つの質問の組み合わせが以下の診断能を有していた。Area under the receiver operating characteristic curve 84.6%(95%CI  81.2%-88.1%)、感度95%(92%-98%)、特異度54%(48%-60%)。男女別に5-6疾患のいずれかのリスクが増加するか調べるための質問の組み合わせでは、男性;感度92%(84%-99%)、特異度63%(28%-52%)、女性;感度96%(93%-99%)、特異度49%(42%-56%)。陽性予測値は男性;67%(56%-78%)、女性;68%(635-73%)、偽陽性率は男性;9%(0.5%-17%)、女性;9%(3%-15%)であった。

【結論】
家族歴があることで疾患のリスクが高くなる、プライマリ・ケア領域の患者を同定するために、簡単な家族歴スクリーニング票が有効であることがわかった。プライマリ・ケアにおいて個々人に合わせた疾病予防を行っていくための包括的アプローチの一部として活用できるだろう。

【開催日】
2014年8月20日(水)

配偶者の入院後の死亡率

【文献名】
著者名:Nicholas A. Christakis, Paul D. Allison. 
文献タイトル:Mortality after the Hospitalization of a Spouse.
雑誌名・書籍名: N Engl J Med 
発行年:354;719-30, 2006. 

【要約】
<Background>
The illness of a spouse can affect the health of a caregiving partner. We examined the association between the hospitalization of a spouse and a partner’s risk of death among elderly people.

<Methods>
We studied 518,240 couples who were enrolled in Medicare in 1993. We used Cox regression analysis and fixed-effects (case?time?control) methods to assess hospitalizations and deaths during nine years of   
follow-up.

<Results>
Overall, 383,480 husbands (74 percent) and 347,269 wives (67 percent) were hospitalized at least once, and 252,557 husbands (49 percent) and 156,004 wives (30 percent) died. Mortality after the hospitalization of a spouse varied according to the spouse’s diagnosis. Among men, 6.4 percent died within a year after a spouse’s  hospitalization for colon cancer, 6.9 percent after a spouse’s hospitalization for stroke,7.5 percent after a spouse’s hospitalization for psychiatric disease, and 8.6 percent after a spouse’s hospitalization for dementia. Among women, 3.0 percent died within a year after a spouse’s hospitalization for colon cancer, 3.7 percent after a spouse’s hospitalization for stroke, 5.7 percent after a spouse’s hospitalization for psychiatric
disease, and 5.0 percent after a spouse’s hospitalization for dementia.  After adjustment for measured covariates, the risk of death for men was not significantly higher after a spouse’s hospitalization for colon cancer (hazard ratio, 1.02; 95 percent confidence interval, 0.95 to 1.09) but was higher after hospitalization for stroke(hazard ratio, 1.06; 95 percent confidence interval, 1.03 to 1.09), congestive heart failure (hazard ratio, 1.12; 95 percent confidence interval, 1.07 to 1.16), hip fracture(hazard ratio, 1.15; 95 percent confidence interval, 1.11 to 1.18), psychiatric disease(hazard ratio, 1.19; 95 percent confidence interval, 1.12 to 1.26), or dementia (hazardratio, 1.22; 95 percent confidence interval, 1.12 to 1.32). For women, the various risks of death after a spouse’s hospitalization were similar. Overall, for men, the risk of death associated with a spouse’s hospitalization was 22 percent of that associated with a spouse’s death (95 percent confidence interval, 17 to 27 percent); for women, the risk was 16 percent of that associated with death (95 percent confidence interval, 8 to 24 percent).

<Conclusions>
Among elderly people hospitalization of a spouse is associated with an increased risk of death, and the effect of the illness of a spouse varies among diagnoses. Such interpersonal health effects have clinical and policy implications for the care of patients and their families.

【開催日】
2012年8月15日

「父親はどう作られるか?」

【文献名】
著者名:尾形和男
文献タイトル:父親の心理学
雑誌名・書籍名:編著 北大路書房
発行年:2011年

【背景】
 家族志向型ケアを考えるにあたり、経験しているライフサイクルを想像することは比較的可能である。しかし未経験のライフサイクルを想像することは、経験すみのものよりも難しく、また源家族や現家族のイメージにも大きく影響され、多様なイメージを想像することは難しい。今回、家族療法学会の書籍販売コーナーにて興味深いテキストを見つけ、多角的な「父親」を考える視点を得たので共有する。

【要約】
P34:表3-1
欧米では少なくとも日本以上に、家庭関与を行っている。日本は韓国に次いで二番目
に、父親が子どもと過ごす時間が短い。しかも父親として家事・育児にかかわる時間についての調査でも、日本は低値を示している。

P35:図3-4
国全体としての取り組み①保育の充実度②児童給付の水準③育児休業の有給度。男性の役割の変化軸①女性に対する男性の家事・育児の時間割合②父親による育児休暇の所得率③男性保育者の割合 これらをもとに点数化している。日本はどちらも低く、母親の孤立した育児が進行していることが推測される。

P43:図3-6
親子でどのような行動を一緒に行うかについてみている。アメリカの父親は睡眠・入浴以外はすべての行動において子どもと共有する時間が長い。日本は逆に睡眠・入浴が3国の中で一番長く共有しており、親子で積極的に行動することは比較的短く、休憩する場合は時間が長くなっているのが特色である。アメリカではコミュニケーションを中心とする共同行動が豊富に行われており、子どもはダイナミックな父親とのかかわりを通じ、父親として、人間として多くのことを吸収する機会に恵まれており、日本とは違った存在感であることが推測される。

P77:図5-5
「父性」の発達を促進するであろう要因をモデル化した図である。男性は誕生以来、さまざまな要因の影響をうけながら少しずつ「父性」を発達させていく。

P87 図6-2
家族システムのライフサイクルという考え方があるようなので紹介する。図の見方はステージ1
「結婚して第1子誕生まで」を例にすると、この段階のネガティブな家族のライフタスクは、配偶者との親密感よりも配偶者に対する「幻滅感」を強く抱いてしまうことである。ステージ2は「子ども誕生から小学校に入学するまで」である。ここで問題になるのは、個人・夫婦・親としてのバランスである。この時期のネガティブな家族のライフタスクは閉塞感である。初めての育児で不慣れな上、家事や夫の身のまわりのことなどあれば、母親の心身の疲労は蓄積し、育児不安や育児ストレスへ移行し、閉塞感を抱くことになる。

P133 図10-1
父親に期待される子育ての役割は「権威としての父親(稼ぎ手・子どもの社会化・しつけ)」から近代社会の「父親不在(稼ぎ手)」の時代への移行し、現在では「新しい父親(稼ぎ手・子どもの社会化・子どもの世話)」の模索がされている。そして父親の役割として①扶養者②子どもの社会化の担い手③子どもを世話するもの、の3点をあげて新しい父親とはトータルな存在であるとしている。

【開催日】
2012年7月18日

在宅療養している認知症患者の介護家族から求められる、家庭医の役割とは?

【文献名】
 Schoenmakers B, Buntinx F, Delepeleire J.: What is the role of the general practitioner towards the family caregiver of community dwelling demented relative? Scandinavian Journal of  Primary Health Care 2009;27:31-40

【要約】
<目的>
①認知症患者の家族介護者に対する家庭医の態度と視点を明らかにすること
②介護者の満足度を記述すること
 
<研究デザイン>
システマティックレビュー
 
<対象>
認知症患者を抱える家族とその家庭医
 
<主要アウトカム>
①家族介護者の視点で在宅ケアを改善するために家庭医にとって必要な業務やスキル。
②家庭医が提供したケアに対する満足度。
 
<結果>
家庭医は認知症ケアのあらゆる側面について必要とされるスキルやその限界について認識していた。適切な診断の重要性も認識しているが患者や介護者に対して診断を開示することに不安感を感じており、認知症の診断の段階よりも治療の段階に対しては自信感を持っていた。
家庭医のそのような態度に対する介護者の回答はHelpfulからPoorly empathizedとまちまちであった。
家庭医は自分自身は認知症の在宅ケアによく関与していると認識していたが、介護者は不十分であると認識していた。家庭医のコミュニケーションスキルの拙さも介護者にとって低い評価につながっていた。
家庭医は十分な時間と報酬のなさが認知症ケアの大きな障害となっていると考えている。

【開催日】
2011年3月2日

在宅療養している認知症患者の介護家族から求められる、家庭医の役割とは?

【文献名】
Schoenmakers B, Buntinx F, Delepeleire J.: What is the role of the general practitioner towards the family caregiver of community dwelling demented relative? Scandinavian Journal of Primary Health Care 2009;27:31-40

【要約】
<目的>
①認知症患者の家族介護者に対する家庭医の態度と視点を明らかにすること
②介護者の満足度を記述すること

<研究デザイン>
システマティックレビュー

<対象>
認知症患者を抱える家族とその家庭医

<主要アウトカム>
①家族介護者の視点で在宅ケアを改善するために家庭医にとって必要な業務やスキル。
②家庭医が提供したケアに対する満足度。

<結果>
家庭医は認知症ケアのあらゆる側面について必要とされるスキルやその限界について認識していた。適切な診断の重要性も認識しているが患者や介護者に対して診断を開示することに不安感を感じており、認知症の診断の段階よりも治療の段階に対しては自信感を持っていた。 家庭医のそのような態度に対する介護者の回答はHelpfulからPoorly empathizedとまちまちであった。 家庭医は自分自身は認知症の在宅ケアによく関与していると認識していたが、介護者は不十分であると認識していた。家庭医のコミュニケーションスキルの拙さも介護者にとって低い評価につながっていた。 家庭医は十分な時間と報酬のなさが認知症ケアの大きな障害となっていると考えている。

【開催日】
2011年3月2日

~個人レベルと家族レベルの「家族ライフサイクル」の視点を活かす~

【文献】
精神療法 特集「家族の歴史を治療に活かす」2009年2月号
家族ライフサイクルを活かす~臨床的問題を家族システムの発達課題と危機から捉えなおす

【要約】
家族ライフサイクルの各段階にはその段階に特有の発達課題があり、それに伴う発達的危機がある。これは平均的な家族が共通して経験するもので、ある程度は予測可能なものである。この危機は、適切に対処できない場合は特定のメンバーの問題行動につながったり、関係性が悪化する危険があるが、適切に対処できた場合は、関係性が親密になったり、家族として成長につながる可能性もある。
つまり、現場で出会う個人や家族の多くは十分に変化し成長することができず、困っているのであり、家族が発達的危機を乗り越え、次の段階に移行できるような変化を促進することが臨床家に求められる。
(表1参照)
《第一段階:結婚前の成人期 ―家からの巣立ちと家族の基盤つくり―》
この段階は、既に原家族から離れつつあるものの、まだ自分自身の新たな家族を形成するには至っていない移行期である。ここでの個人レベルの発達課題は、職業を選択してそれにコミットする(アイデンティティの確立)、そして経済的に自立すること(心理的自立を促す)が挙げられる。また個人の対人関係に関わる課題としては、同性・異性と親密な関係を築くことが挙げられている。親密とは、自分らしさを失うことなく、自分とは異なる個性をもった相手と心理的に近づくことができることである。また家族レベルの発達課題としては、源家族との関係での自己分化である。とりわけ親との関係において親密な関係を保ちながらも 分は自分であるという姿勢を保つことである。

《第二段階:新婚夫婦の時期 ―二つの異なる家族システムの結合―》
一般的に幸福なイメージを持ちやすい新婚期であるが、同居期間別の離婚率は、5年未満の夫婦が一番高い。現実に結婚生活が始まると、それまでの人生に身につけてきた、性格、価値 観、家族観などの違いに日々直面する。当人たちは自分が正しいと思い込んでおり深刻な葛藤に発展する可能性もある。こうした中、葛藤を乗り越えるのは、コミュニケーションと問題解決スキルが身についているかどうか?である。またなるべくお互いに満足できるような結論を出そうとするアサーティブな姿勢が重要である。

《第三段階:乳児期を育てる時期 ―幸せとストレスの狭間―》
子供の誕生は、多くの夫婦に至福の喜びをもたらすと同時に、心理的、肉体的、経済的なストレスをもたらす。家事と育児を二人でどう分担するか?仕事と家庭の両立、実家からの援助、子育ての方針など葛藤や衝突を繰り返しながら、徐々に解決していくと夫婦の絆は強いものになるが、うまくいかない場合は悪化する危険性も秘めている。また子どもの誕生は、祖父、祖母という役割が生まれ、子育てに取り組む夫婦の心理的サポートにであればいいが、過剰に介入する場合もある。

《第四段階:学童期の子どもを育てる時期 ―生活の広がりと境界の維持―》
子どもが小学校に通う学童期は、子どもの能力や個性に合わせた育て方が重要である。また親として家族と外の社会の間に適切な境界を築くという新たな役割が生じてきたと言えるかもしれない。親子の親密な関係は保ちながらも、夫婦連合が維持され、親世代と子ども世代との世代間境界も明確であることが望まれる。

《第五段階:思春期・青年期の子どもを育てる時期 ―健康な家族でも揺れる段階―》
様々な子どもの問題や親子の衝突が起こりやすくなり、この段階は家族ライフサイクルの中でも最も困難な段階である。子どもは第2次性徴や、他人の目に敏感になる、進路選択、職業選択など自分らしさとは何か?とアイデンティティを確立していかなくてはならない。中高年になった親は、肉体的な衰えを感じ、仕事でも重責を担い、自分の能力の限界に直面することもある。また老年期を迎える自分の親、パートナーの親の世話が現実的になってくるのもこの段階である。親子の関係でみると、親は子どもが大人になりつつあることを認め、子供の自立の試みを支えていかなければいけない面と、まだまだ情緒的には幼い部分があるために、傷つきや不安を受け止め、依存できる場を保証してやらなければいけない面があり、親として柔軟に関わることは容易ではない。さらに夫婦関係の問題もある。この段階で子どもに問題が生じたとき、父親がいかにそこに関与するか、夫婦として協力して補い合えるかもポイントになる。

《第六段階:子どもの巣立ちとそれに続く時期 ―岐路に立つ家族―》
この段階は子どもを中心に考えれば第一段階に相当する。子どもは進学や就職、結婚により巣立ちをしなければならないが、同時にそれは親が子離れしなければならないことを意味する。親の夫婦関係が良好であればそうした移行も乗り越えていけるが、それまで子どもを生き甲斐にしてきたような場合や、子どもがいることで夫婦間の葛藤を否認してきたような場合は、成人した子どもへの過干渉という問題にもつながる。また熟年離婚もこの時期に多い。抑うつには自尊心の低下が関係しているが、男性では退職の前後、女性では巣立ちの時期が問題になることが多い。

《第七段階:老年期の家族 ―さまざまな別れと人生の統合―》
老年期を迎え、自身やパートナーの老化に直面し、さまざまな喪失に対処していかなければならない段階である。それまでの人生を振り返りありのまま受け入れること、そして、死への準備をしていくことが課題になる。これらは家族との絆が保たれ、家族のみならずさまざまな社会的資源に恵まれていて初めて可能になる。

《家族ライフサイクルの世代間伝達》
臨床問題を家族ライフサイクルの観点から理解しようとする時、ケースによっては世代をさかのぼ り、発達課題がどのように前の世代から未解決なまま現在に持ち越されているのかを理解する必要があることがある。例)虐待の問題。親自身が思春期のときに 自分の親と葛藤を経験し、今の子どもとも同様の葛藤をしている。

《臨床家自身の家族ライフサイクル》
臨床家自身が家族ライフサイクルのどの段階にいるのか、それは患者の段階と一致しているのか否か。一致していないとすれば、すでに臨床家が経験した段階か、それとも未知の段階か、いずれの場合も、それが適切な理解と援助に結びつく場合もあれば、阻害する要因にもなりうる。例えば、臨床家自身が思春期の子どもと葛藤状態にあるとき、親の傷つきや苦しみを共感的に理解しやすい場面もあるが、反抗的な中学生の患者に、批判的になってしまうかもしれない。臨床家は、家族メンバーの誰に対して、どのような感情を抱いているのか、どのように理解しているのか、自分自身の家族ライフサイクルとどう関連しているのかを日頃から意識化しておく必要がある。

《おわりに》
家族ライフサイクルの視点は、患者の症状や問題の意味を、家族システムの発達課題と危機という角度から理解することを可能にする。ただ離婚や再婚の問題、未婚化・晩婚化、できちゃった婚も増えてきている。このように家族のありようも変化しており、家族ライフサイクルという枠組みに縛られてしまうと平均的なプロセスをたどっていない人や家族に病理のレッテルを貼ることになりかねない。家族ライフサイクルの枠組みを活用しながらも、それに捉われない柔軟さが必要であろう。

【開催日】
2010年11月17日(水)

~家族療法家の介護家族とのかかわりの視点から学ぶ~

【文献名】
「介護者と家族の心のケア―介護家族カウンセリングの理論と実践」 渡辺俊之著 金剛出版 2005年

【要約】
※注 この著者は精神科医で精神分析をベースにする流派である。本全体の要約は内容が多岐にわたり困難であり、家庭医療外来のセッティングで役立ちそうな情報を私のほうで抜粋して要約とさせて頂く。

第Ⅰ部「家族が介護を抱えるとき」
第1章 介護者の心理
・ 介護の動機付けは、要介護者への強い愛着と依存、投影性同一視(自分が本来体験したい喜びを相手に体験してもらって満足する)自己愛を満足させたい(相手 を思うようにコントロールしたい無意識)といった願望、世間体を気にする気持ち、罪悪感、償い、また純粋な愛他主義(自己犠牲をして他人のために尽くす) と幅があり、これらに介護者の人柄が影響する。そして動機付けを理解することは介護者の心理の理解の最初の鍵となる。(P15~25)
・配偶者同士の介護の場合、夫は妻に対して無意識的に母親のイメージを投影し、妻は夫に対して子供のイメージを投影することが多い。嫁が介護する場合は、家族内に無意識的な序列付けができている場合がある。(P30)
・依存する人の理由は、①元々の性格特性②退行からの回復の遅れ③依存心に潜んだ攻撃感情④病手的な自己愛。依存しない人は、①性格特性②基本的信頼感の欠如による依存への恐怖③人間関係が苦手。(35
・ 介護は『喪失との出会い』である。親の心身の機能が低下していくのをみて生活するのは悲しい体験である。介護のために自分の時間、空間、社会的役割を失 う。介護ストレスがたまると、負担感や身体疲労が生じてくる。介護者の不安は①要介護者の将来に関する不安②介護行為そのものに対する不安③取り残されて いく不安。(P45) 

第2章 介護のストレス
・身体疲労。排泄の介護が苦痛。介護者の動機づけと要介護者のニーズの不一致。要介護者と介護者関係にもともと問題がある。認知症など要介護者側の要因が強く、良好な関係が築けないとき。介護者と介護者でない家族メンバーとの関係から生じる。(P58)
・ストレスへの反応①攻撃適応:外部にむかって不満を発散させる②逃避適応:現実をさける。一人の時間をもつ。③防衛適応:抑圧・知性化・退行・身体化。(P62)

第3章 介護が提供してくれる肯定的感情
・介護によって自己評価が高まるためには、要介護者や他の家族メンバーから肯定的フィードバックが必要である。
自己評価や自尊感情が高い人は、自分だけでなく他人に配慮できるようになる。その中で、ケアとは『他人の成長を願う心理である』(P70)

第4章 さまざまな介護家族
・ 高齢者の介護家族を援助するポイントは、高齢者の家族内での役割を把握することである。障害者の場合。障害者に対する家族の考え、を把握することが重要で ある。認知症の場合、負担のかかる問題行動や精神症状を取り除いてあげることが重要である。慢性疾患をもつ子どもの家族は、ライフサイクルを念頭において 情報を提供する。精神障害者の場合、家族内にある障害者のイメージを共有する。ターミナルケアにおいて、家族が自分自身の死を受容していないと適切な介護 ができない。(P90)

第Ⅱ部 介護家族カウンセリングの基礎と実践
第5章 介護家族を理解するための家族療法の理論
第6章 介護家族カウンセリングとは
・介護者個人の心理問題(個人システム)、介護家族の構造と機能(家族システム)、家族と地域専門職の連携(地域システム)を扱い、介入が一番効果的なシステムを選択することである。(P116)

第7章 介護者への精神療法
・ 人の心には理解できないことも、共感できないこともたくさんある。何か言葉をかけるよりも、黙ってそばに座って、何もできない自分の無力感を感じ、じっと 介護者の無力を感じてあげることのほうが、共感的だと思う。援助者の心構えとして、介護者が自分なりに努力してきた生活を尊重することである。
そして彼らの努力に敬意や尊敬を払う気持ちが大切である。(P118) 
・把握すべきこと①介護者の介護能力で、これは知識と技術からなる。加齢、病気、障害についての知識。介護保険制度についての知識。介護そのもの(食事、排せつ、清潔への対応)の知識。技術。
・負担感への対応:介護における潜在的なストレッサーの発見。それをどのストレス反応(上記)を使えば負担感軽減に役立つか。(P127)
・悲哀への対応:怒りや攻撃衝動が支配的になる抗議の段階、落胆が襲ってくる絶望の段階、心から断念しあきらめる再建の段階の、どの段階にいるか?そして投げられた感情に対する自分自身の感情の処理が重要。(P134)
・ 援助者は介護者が自分に何を投影して、何を求めているかを理解し、その背景にどのような転移が生じているか心得ておくと、介護者にかかわりやすくなるだろ う。援助者は時に自分の語ることで介護者に対して、援助者の現実的な側面を伝え、安心感を伝えることも大切である。(P135)
・逆転移を形成する背景には①援助者になった動機づけ②援助者がおかれている現状や立場③介護者にむけて生じる援助者の転移④介護者が援助者に向けた転移に対する反応。(P140)
・介護者のセルフケア能力を高める:①ストレスマネージメント②家族内コミュニケーションの促進(お互い何も言わなくてもわかりあっているという神話を捨てる)③外部とのコミュニケーションとの促進(本音を打ちあける人をもつ。介護者に仲間はいるか?)(P148)

第8章 介護者への家族療法
・ジェノグラムの作成:介護の歴史を聞きながら、共有する。家族に病人や障害者はいなかったか?
当時はだれが介護していたか?「家いえ」の在り方の違いが介護に関した葛藤の根本にあることは案外多い。またジェノグラムに現在の家族の健康状態、介護や看病をサポートしてくれる家族以外の人を書き込む (P154)
・介護家族の評価:基礎データ。年齢、職業、健康状態、習慣、日常生活、経済状況、住環境。地域との関係。(P156)
・家族構造の評価:コミュニケーションの評価。送信と受信はできているか。その伝達手段は。家族メンバーの家族内・外の役割。介護に関係した役割関係。
・以上から、「目標が設定される」その家族の介護能力と価値を合わせた目標設定が大事。要介護者と介護者の幸せとは何であろうか?(P164)
・ 介入方法①教育的アプローチ:介護者における身体と精神両面の健康管理を第一と考え、そのためにどんな知識を提供すればよいか再考する。家族に対して病気 や障害の知識についてもう一度確認する作業②否定的感情の緩和:第三者の関与じたい、これに寄与する。家族とのラポール形成が重要③家族のコミュニケー ションの改善:家族会議での座り方、視線を合わせているか、など非言語的な観察も大事。
言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの矛盾をみつけたら、その会話の受け手に体験を聞いてみる。(P160)

第9章 介護家族を支える地域サポートネットワーク
第10章 介護家族カウンセリングとコラボレーションの事例

【開催日時】
2010年6月30日

~ライフイベントの生活へのインパクト~

【文献】
Holmes TH, Rahe RH: The Social Readjustment Rating Scale. Journal of Psychosomatic Reseach,Vol.11,P213-218,1967

【要約】
<背景>
病 いillnessの発症は「life stress」「emotional stress」「object loss」など呼ばれ、新たに生活を適応させることを強いるものであるという先行研究がある。ただ今までインタビューや質問表が使われてきており統一した ものがなかった。今後の研究のためにもライフイベントの重要性を測定する量的ものさしを定義するのがこの論文の目的である。

<方法>
Table1の質問票をTable2ようなベースラインの394人に行った。
質問票に入る前に
(A)社会的な再適応readjustmentは適応までの量と期間が関係しています。イベントの望む望まないにかかわらず、適応するまでの大変さと必要な期間によって、readjustmentは測定されます。
(B)Valueの記載にはあなたのすべての経験を元にして下さい。つまり極端なケースに偏らずあなたの平均的な適応readjustmentを教えてください。
(C)具体的な方法は、結婚を500として、その適応に必要なエネルギーより多いか少ないかでValueに記載してください。

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100531_2

<結果>

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Table3参照。
各イベントの平均値を10で割り、上から並び変えたものである。
Table2より各グループで比較して相関係数はWhite対Negro以外は0.9以上と高い数値を示す。
Kendallの一致係数(※1参照)0.477は一致度はいまいち。
上位7位をあげると、配偶者の死100、離婚73、別居65、拘留63、ちかしい家族の死63、自分の怪我や病気53、結婚50であった。

<Discussion>
歴 史的にはAdolph Meyerのlife chartに挙げられている重大イベントと似たような結果であった。また最近ではHarold G.Wolff研究室の結果から、このようなストレスフルなライフイベントが、多くの疾患の重要な原因因子となっていることが分かっている。Table1 に挙げられたイベントリストも、この研究所の研究結果より導き出されたものである。ライフイベントには2パターンあり、個人が自分のライフスタイルへの適 応する問題と、個人が環境への適応に巻き込まれる問題である。大体は普遍的なイベントだが、そうでない場合もあり、大きな影響をもつ。家族構成、結婚、職 業、経済面、住居、職場内やグループ内の人間関係、教育、宗教、余暇活動、健康である。各イベントへの反応は、適応することだけでなく、その後も生活をし ていく上で必要な変化である。
この重要度の評価は、身体レベルの観察から推測されるだろう。(イベントの長さ、重症っぽさ、目の輝き、イベントの数など)また今回のリストもその推測に役立つ。ただこのリストに見合わない重要度をもつ集団もあるだろう。

【開催日】
2010年5月12日(水)