サルコペニアと嚥下障害

―文献名―
Ichiro Fujishima. Sarcopenia and dysphasia. Sarcopenia and dysphagia. 2019; Jan 9.

―要約―
Introduction:
 サルコペニアと嚥下障害については学会や研究会で話題に上がることが多い。しかし、明確な基準や定義はまだ定まっておらず。今後のさらなる研究の発展のためにも、現時点でわかっていることをまとめる必要があると考えられた。メカニズム・診断・治療・今後の展望について統一見解を出すことを目的とする。(日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会の4学会合同で作成)

 サルコペニアは1989年に提案された概念で、骨格筋量の低下に伴う筋力低下による身体機能低下を示している。診断基準は未だまちまちで、骨格筋量は必須項目であるものの、筋肉の機能の評価には筋力低下(握力)と身体機能低下(歩行速度)の両者もしくはいずれかを採択するのかで意見は分かれている。嚥下機能との関連については2012年に最初の報告があり、その後は本邦を中心に研究が重ねられている。サルコペニアの概念は、老化に伴う生理的なもの(内的要因)と運動不足・栄養摂取不足といった外的要因の両者が誘因となって生じる筋萎縮を示しており、原因には中枢神経、筋繊維自体の変化、ホルモンや栄養、生活習慣などが関与している。嚥下筋のサルコペニアについては未だ議論中で、嚥下筋の廃用とサルコペニアの違いや、栄養改善と訓練によって回復可能性があるのかどうかについてさらなる研究が必要である。
 サルコペニアによる摂食嚥下障害のリスク因子としては、サルコペニアそのもの、低栄養、低ADLがあり、予防にはリハビリテーションや栄養管理が有用ではないかと考えられている。
現在、サルコペニアに伴う嚥下障害は2017年に診断フローチャート(Fig.1)があり、嚥下関連筋の筋肉量を評価せずに診断が可能である。これにより、「サルコペニアの嚥下障害とは、全身と嚥下筋関連のサルコペニアによる摂食障害である。全身のサルコペニアをみとめない場合、神経筋疾患によるサルコペニアは除外。加齢・活動低下・低栄養・疾患による二次性サルコペニアは含む。」定義されている。嚥下関連筋の筋肉量はCTやエコーで評価可能と言われており、特にオトガイ舌骨筋のエコーでの筋肉量・輝度による評価が有用と言われており、サルコペニアの診断基準案(Table.1参照)を提示した。
 治療によってサルコペニアによる摂食嚥下障害が改善されたという報告は3例。いずれも摂食嚥下リハビリと同時に35kcal/kg(理想体重)を目標とした栄養管理を行っている。リハビリテーションと栄養改善の併用がやはり重要と言える。

 嚥下筋にサルコペニアが生じた場合の嚥下障害の判定方法は未だ不明瞭。両者の関係性についても引き続き議論を要する。予防や治療については、栄養改善を目指した栄養管理がどこまで予防・治療に効果を及ぼすのかを明らかにしていきたいところ。健常高齢者や加齢に伴う変化を評価していくことや、薬物療法の開発も今後の課題の一つである。

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CC:下腿最大径、DXA:二重エネルギー X 線吸収測定法、BIA:生体インピーダンス法
DXAは全身測定用のものが必要のため、骨密度測定に一般に使われているものは不適切
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【開催日】2019年2月6日(水)

禁煙による体重増加の影響

―文献名―
Yang Hu. et al. Smoking Cessation, Weight Change, Type 2 Diabetes, and Mortality. N Engl J Med 2018; 379:623-632.

―要約―
Introduction:
禁煙後の体重増加によって、禁煙による健康上の利益が減少するかどうかは明らかにされていない。
Method:
米国の男女を対象とした3つのコホート研究で、禁煙した人を特定し、禁煙状況と体重の変化を前向きに評価した。禁煙者における2型糖尿病・心血管疾患による死亡・全死因死亡のリスクを禁煙後の体重の変化量別に評価した。
Results:
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最近(禁煙2〜6年間)禁煙した人は、現在の喫煙者よりも、2型糖尿病のリスクが高く、HR:1.22 (95%CI:1.12-1.32)。
しかし、心血管疾患による死亡のHRは現在の喫煙者と比較して、体重増加の程度を問わず最近の喫煙者および長期間(>6年間)の禁煙者ともに低下した。
2型糖尿病のリスクは、体重の増加量に正比例しており、体重増加がない・0.1〜5kg増ではリスク上昇の有意差はなかった。
禁煙した人では、禁煙後の体重変化にかかわらず、死亡率に一時的な上昇は認められなかった。現在の喫煙者と比較して、心血管疾患による死亡のHRは、最近の禁煙者のうち、体重が増加しなかった群で0.69(95%CI:0.54~0.88)、0.1~5.0 kg増加の群で0.47(95%CI:0.35~0.63)、5.1~10.0 kg増加の群で 0.25(95%CI:0.15~0.42)、>10.0 kg増加の群で0.33(95%CI:0.18~0.60)、また、長期禁煙者で0.50(95%CI:0.46~0.55)であった。全死因死亡についても同様の関連が認められた。

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Fig1
図A:2型糖尿病のリスクは禁煙後5〜7年でピークとなり、その後減少する。
図B:体重増加を伴わない最近の禁煙者の2型糖尿病のリスクは、体重が増加した禁煙者におけるリスクよりも、喫煙をしたことがない人のリスクに早く近づいた。

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Fig2
図A:心血管系死亡率は禁煙後に大幅に減少し、10〜15年で最低に達し、その後ゆっくり上昇しましたが、現在の喫煙者のレベルには到達しなかった
図B:層別分析では、このような関連パターンがすべての体重増加群で観察されたが、体重増加なしの群の中では、心血管死亡率は5〜10年間禁煙した後減少し、その後上昇傾向なしに横ばいになった
図C:全死因死亡率は5〜7年の中止で単調な減少を示し、その後横ばい状態になった
図D:このパターンは、体重増加なしの禁煙者が禁煙後に直線的なリスク減少を示したことを除いて、すべての体重変化群で観察された

CONCLUSIONS:
大幅な体重増加を伴った禁煙は、2型糖尿病の短期的なリスクの上昇に関連したが、心血管死亡と全死因死亡の減少に対する禁煙の利益を減少させなかった。

[開催日]2019年2月6日(水)

Multimorbidity発生の予測

―文献名―
Luke T.A.Mounce,PhD et al. Predicting Incident Multimorbidity. Ann Fam Med 2018;16:322-329. https://doi.org/10.1370/afm.2271.

―要約―
PURPOSE
多疾患併存は有害な結果に関連するが、その発生の決定要因に関する研究は不十分である。私たちは社会人口統計学的、健康的、個人的な生活習慣(例えば、身体活動、喫煙、BMI)のどのような特徴が多疾患併存の新規発生を予測するかを研究した。
METHODS
10年間のフォローアップ期間を含む英国加齢縦断研究(ELSA)における50歳以上の4,564名の参加者のデータを使用した。慢性疾患がない研究参加者(n=1477)については、2002-2003年から2012-2013年の間の結果とベースライン特性の関連性を別々に調べるための離散時間ロジスティック回帰モデルを構築し、 初期の疾患にかかわらず10年以内の疾患の増加、および多疾患併存の発生に対する個々の疾患の影響を調べた。
RESULTS
多疾患併存の新規発生リスクは、年齢、財産(少ない方がハイリスク)、身体活動低下または外的統制(ライフイベントは自分ではコントロールできないと信じていること)と有意な関連性がある。
性別、教育、社会的孤立に関しては有意な関連性は認められなかった。
疾患が増加した参加者(n=4564)については、喫煙歴のみが追加の予測因子であった。
単一のベースライン疾患(n=1534)を有する参加者にとって、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息および不整脈は、その後の多疾患罹患と最も強い関連性を示した。
CONCLUSIONS
我々の知見は、影響を受けやすいグループの多疾患併存の新規発生予防を目的とした戦略の開発と実施を支援する。このアプローチは、生活習慣要因に対処する行動変容を組み込み、健康関連の統制の所在(Locus of Control)を目標とすべきである。

【開催日】2018年12月5日(水)

禁煙のための電子たばこ・インセンティブ・薬剤に関する実臨床試験

―文献名―
HALPERN, Scott D., et al. A Pragmatic Trial of E-Cigarettes, Incentives, and Drugs for Smoking Cessation. New England Journal of Medicine, 2018.

―要約―
Introduction:
金銭的インセンティブ・薬物療法・電子タバコが禁煙を促進するかどうかは不明である。
Method:
54 社に勤務する喫煙者を、4つの禁煙介入のうち 1 つor通常ケアに無作為に割り付けた。
・通常ケアでは、禁煙の利益に関する情報と動機付けメッセージ配信サービスを提供した。
・通常ケアの加え
 無料の禁煙補助薬(ニコチン代替療法あるいは薬物療法 (バレニクリンやブプロピオン日本未発売)、これらの標準療法が失敗した場合に電子タバコを使用)
 標準療法を試みたことを要件としない無料の電子タバコ
 無料の禁煙補助薬と禁煙継続に対する 600 ドルの報奨金
 無料の禁煙補助薬と600 ドルの報奨金(保証金)の前払い(禁煙の目標が達成できなかった場合は、継続期間に応じて報奨金は払い戻される)
Results:
登録を呼びかけた喫煙者 6,131 例のうち、125 例が辞退し、6,006 例が無作為化された。6 ヵ月の禁煙継続率は,通常ケア群 0.1%、無料の禁煙補助薬群 0.5%、無料の電子タバコ群 1.0%,報奨金群 2.0%、払い戻し可能な保証金群 2.9%であった。禁煙継続率に関して、払い戻し可能な保証金と報奨金は、無料の禁煙補助薬に対し有意差があった(それぞれ P<0.001 と P=0.006)。払い戻し可能な保証金は無料の電子タバコに対し有意差があった(P=0.008)。無料の電子タバコは通常ケアに対しても(P=0.20)、無料の禁煙補助薬に対しても(P=0.43)有意差を示さなかった。この試験に積極的に参加した従業員1,191 例(19.8%)では、禁煙継続率が試験に積極的に取り組まなかった者の 4~6 倍で、相対的な有効性は同程度であった。

Conclusions:
禁煙に関する実臨床試験において,無料の禁煙補助薬に金銭的インセンティブを追加した群のほうが,無料の禁煙補助薬のみの群よりも禁煙継続率が高かった.通常ケア(情報と動機付けメッセージの提供)を受けた喫煙者では,無料の禁煙補助薬や電子タバコを追加してもメリットなかった.

Discussion:
無料の電子タバコは、従来の禁煙補助薬と比較しても禁煙継続率は高くならなかった。しかし効果を調べる研究ではそれぞれのグループにおいてそれぞれの製品の使用を確実にしておかなければならないので、実情を反映していないかもしれない。
この試験では、喫煙者の間では、職場の禁煙プログラムの禁煙率が低く、無料の禁煙薬や無料の電子タバコを提供しても、情報や動機付けのテキストメッセージにアクセスできた喫煙者の禁煙は増加しなかった。

【開催日】2018年8月1日(水)

30歳男性の3人に1人が65歳までに2型糖尿病を発症 ー 日本人会社員5万人超の累積罹患率を調査

-文献名-
Huanhuan Hu et al. Cumulative Risk of Type 2 Diabetes in a Working Population: The Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study. Journal of Epidemiol. 2018 May 4

-要約-
Background
糖尿病は世界的な公衆衛生上の大きな健康問題であり、日本には1,080万人の糖尿病患者がいるとされている。日本人の全般的な人口を対象とした糖尿病発症リスクに関するデータはあるが、本研究は日本の30歳から65歳までの労働人口(会社員)について2型糖尿病の累積罹患率を調べたものである。
Methods
 研究グループは今回12の企業で働く約10万人の会社員を対象に行われている職域多施設研究(Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study;J-ECOH Study)のデータを用いて、2型糖尿病の累積罹患率を男女別やBMI別に調べる観察研究を行った。
 対象は、ベースライン時(2008~2010年)に糖尿病を有さず、最大で7年間追跡しできた11企業で働く30~59歳の会社員5万3,828人(男性4万6,065人、女性7,763人)。2型糖尿病の定義は、健診時のHbA1c値が6.5%以上、空腹時血糖値が126mg/dL以上、随時血糖値が200mg/dL以上、あるいは糖尿病治療を受けている場合とした。
Results
 27万4,349人年の追跡期間中に、3,587人(男性3,339人、女性248人)が2型糖尿病を新たに発症していた。解析の結果、30歳から65歳までの2型糖尿病の累積罹患率は男性が34.7%、女性が18.6%であることが分かった。対象者をBMIで層別して解析したところ、2型糖尿病の累積罹患率は男女ともに肥満(BMI 30kg/m2以上;男性77.3%、女性64.8%)と過体重(BMI 25~29.9 kg/m2;それぞれ49.1%、35.7%)の人では、BMIが25 kg/m2未満の適正体重あるいは低体重の人(それぞれ26.2%、13.4%)と比べて高いことも明らかになった。
Conclusions
 日本人会社員の大規模コホートで、30歳から65歳までの2型糖尿病の累積罹患率を調べた研究は今回が初めてだと思われる。この結果から、日本人の会社員は男女ともに2型糖尿病になるリスクが高く、その疾病負荷は大きいと考えられることから、特に若年の肥満者を対象とした効果的な体重管理法や2型糖尿病のスクリーニングプログラムの開発が必要とされる。

【開催日】平成30年7月18日(水)

高齢者の肥満への介入

-文献名-
Deniss T.Villareal.et.al Aerobic or Resistance Exercise or Both in Dieting Obese Older Adult,N Engl J Med 2017;376:1943-55.

-要約-
【背景】
高齢者の肥満は虚弱(フレイル)の原因となるが,減量は加齢に伴う筋量・骨量減少を加速させ,その結果サルコペニアや骨減少が生じる可能性がある.
【方法】
肥満高齢者 160 例を対象とした臨床試験で,いくつかの運動方法について,フレイルからの回復と,減量による筋量・骨量減少の予防における有効性を評価した.対象者を,体重管理プログラム(食事療法)に,有酸素運動,レジスタンス運動,有酸素運動とレジスタンス運動の組合せのいずれかのプログラムを併用する群と,対照群(体重管理プログラムも運動プログラムもなし)に無作為に割り付けた.主要評価項目は,身体機能テストの点数(0~36 点で,高いほど身体機能が良好であることを示す)のベースラインから 6 ヵ月後の変化とした.副次的評価項目は,その他のフレイルの指標,身体組成,骨密度,身体機能の変化などとした.
【結果】
141 例が試験を完了した.身体機能テストの点数は,組合せ群(27.9 点→33.4 点 [21%上昇])で,有酸素群(29.3 点→33.2 点 [14%上昇])とレジスタンス群(28.8 点→32.7 点 [14%上昇])よりも大きく上昇し(それぞれ Bonferroni 補正後の P=0.01,0.02),いずれの運動群も,対照群と比較して大きく上昇した(いずれの群間比較も P<0.001).最大酸素消費量は,組合せ群(17.2 mL/kg/分→20.3 mL/kg/分 [17%上昇])と有酸素群(17.6 mL/kg/分→20.9 mL/kg/分 [18%上昇])で,レジスタンス群(17.0 mL/kg/分→18.3 mL/kg/分 [8%上昇])よりも大きく上昇した(いずれの比較も P<0.001).筋力は,組合せ群(272 kg→320 kg [18%上昇])とレジスタンス群(288 kg→337 kg [19%上昇])で,有酸素群(265 kg→270 kg [4%上昇])よりも大きく上昇した(いずれの比較も P<0.001).体重は,いずれの運動群でも 9%減少したが,対照群では有意な変化はみられなかった.除脂肪体重の減少は,組合せ群(56.5 kg→54.8 kg [3%低下])とレジスタンス群(58.1 kg→57.1 kg [2%低下])で,有酸素群(55.0 kg→52.3 kg [5%低下])よりも小さく,股関節の骨密度の低下も,組合せ群(1.010 g/cm2→0.996 g/cm2 [1%低下])とレジスタンス群(1.047 g/cm2→1.041 g/cm2 [0.5%低下])で,有酸素群(1.018 g/cm2→0.991 g/cm2 [3%低下])よりも小さかった(いずれの比較も P<0.05).運動関連の有害事象には,筋骨格損傷などがあった.
【結論】
検討した運動法のなかでは,食事療法による減量に有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせる方法が,肥満高齢者の機能状態の改善にもっとも有効であった.(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.LITOE 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01065636)
【限界】
・研究の参加者はライフスタイルプログラムに参加出来る身体能力を有する参加者を選んだため、肥満高齢者全般への適応は不十分
・性別の差異を分析するには十分なサイズではなかった
・参加者の大部分は女性、白人、教育を受けている方であったため一般化の限界がある
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【開催日】2018年3月7日(水)

健康の社会的決定要因に取り組むためのプライマリ・ケア能力を育てるフレームワーク

-文献名-
Andrew D. Pinto and Gary Bloch. Canadian Family Physician November 2017, 63 (11) e476-e482;

-要約-
<背景>
家庭医は個人や地域の健康に影響する社会的な要因についての理解を持っている。
しかし多くのプライマリ・ケア組織はそれらのSDOHへの取り組む能力を開発できないままでいる。

<プログラムの目的>
質の高いプライマリ・ケアの一部としてSDOHに取り組むための介入を支援し、組織文化を強化する。

<プログラムの詳細>
トロントの聖ミカエル病院(関連グループで4万5千人の患者;貧困が多くホームレスやホームレスリスクの患者を抱え、六つのクリニックを持つ)の学術家庭健康チーム;FHT(75名の医師と100名以上の多職種ですべてのプライマリ・ケアを提供している組織)がSDOHに焦点を当てた多職種チーム(医師8名、地域デザインの専門家1名、ナースプラクティショナー2名、看護師1名、ソーシャルワーカー1名、法律家1名などなど、レジデントや医学生も参加)と委員会活動(年9回の会議と年1回のリトリート)を立ち上げた。活動目標はBox1。委員会では患者への社会因子の影響を調査し、五つの介入についてそのアイディアからプログラムの計画と開発(実施プログラム、その研究費の確保、人材の採用、寄付の募集まで)を行った。

■健康格差についての詳細な社会地理的なデータの収集と分析
・FHTを受診する患者の収入、住宅環境、ジェンダー、その他の鍵となるSDOHを収集し電子カルテに記入
・これらのデータベースを活動と計画のもとにした
■収入保障と健康増進サービスの試験的取り組み
・FHTの中に2名の収入保障・健康増進の専門家を置く
・収入を増やすため、浪費を減らすため、家計のリテラシーを高めるためのプログラムを実施
・実施した内容のカルテレビューや当事者のインタビューから質的研究を実施し、プログラムを改善
■医学と法律の連携の確立
・数年来の取り組みから、常勤の法律家を配置し、三つの活動目標を設定
・一つは社会的危機の予防や、危機による被害への早期介入のための法的な助言
・もう一つは医療システムを扱う力の改善と、弁護士の介入を受けずに法的な問題を同定し対応する
・そして全体的な法的な問題を同定し、SDOHに取り組むための法律の改定や代弁の強化
■診療所単位での子供の健康リテラシー向上プログラム
・アメリカで始まった小児への早期の健康リテラシー向上の取り組み(Reach Out and Read);クリニックの待合室をリテラシー・リッチ(具体的な記述なし)にする、受診毎の助言や本のプレゼント、をもとにした
・トロントの公立図書館への支援、子供への図書バンク、ファーストブックの活動を行なった。
■正規職への就労支援
・診療所と就労支援センターとの連携で開始
これらの介入は厳格な評価計画と実施や効果の測定を含み、次の段階としては開発された方法を社会格差の是正のための社会的に上方の活動に持っていくことである。

<フレームワークの紹介>
Figure1に紹介、このフレームワークはcommunity-oriented primary careの考え方と、Devoeのフレームを組み合わせて開発した。まず四つの視点での情報収集、そしてそれに取り組むための組織開発や五つのStepが述べられている。

【開催日】2017年12月20日(水)

海外渡航前の予防接種

-文献名-
Travel Immunizations (American Family Physician)

-要約-
プライマリケア医が旅行者にvaccine preventable diseaseについて助言する責任は増してきている。それは旅行に関連した疾患のリスクアセスメント、出発までに残された期間、vaccine preventable diseaseの疫学に関する最新の知識などに基づいていなければいけない。
トラベルワクチンはおおまかに以下の3つに分類される。
① アップデートおよび追加接種を受けるべき小児期のルーチンな予防接種
② 特定の地域に入る際に法律の上で必要とされる予防接種
③ 目的地で暴露される可能性次第で利益になることが予想される推奨予防接種

Risk Assessment:
まず全目的地、経由地、それぞれの滞在期間、宿泊形態(都会か田舎か、ホテルかテントか)、アクティビティ(動物との接触、川や湖の水に接触するか、食事)、季節に応じたリスク、現地の住民との接触などを含めた全旅程を考慮する。次にその人の健康状態(特に旅行中に関係しうる基礎疾患)、今までの予防接種歴、薬や予防接種に対するアレルギー、現在の薬、Table3のリスクの高い旅行者に該当しないかを確認する。
旅行者は、特に発展途上国に行く場合、少なくとも4週間前までに医学的助言を受けるべきである。リスクの高い目的地であればトラベルクリニックも助けになりうる。出発までの期間に応じて予防接種計画を立てるが、通常のスケジュールでよいのか、早めて行ったほうがよいのか(この場合出発までに最大限の効果が得られない可能性があることを知らせる必要がある)を検討する。
Tabel2のような資料や、CDCのHPを参考にする(日本の状況を考慮し最後に追記した資料も参照)。

Routine Immunizations:
旅行は医療者にとって定期接種を振り返る機会でもある。
・最後の破傷風予防接種から5年以上経過していて、暴露後接種ができないかもしれない土地に行く旅行者は破傷風とジフテリアの追加接種を。
・1956年以降に生まれ2回接種していないまたは抗体価が陰性で麻疹流行地に行く旅行者ならMMRを。
・インドやエジプトなどの流行地に行くならポリオの追加接種を。
・水痘接種歴を確認し12歳なら1回、13歳以上なら2回追加接種を。
・65歳以上やそれ以下でも慢性肺疾患や無脾、肝硬変、糖尿病があるなら肺炎球菌を。
といったように、今までの接種歴を考慮しながら検討すべきである。渡航地の季節によってインフルエンザも忘れずに。

Required Immunizations:
黄熱病
まれだが、赤道付近のアフリカや南アメリカといった流行地では致死的になりえる感染症。月齢9か月以上で黄熱病が報告されている地域に入る場合に推奨。流行国では出入国に接種証明書が必要になる場合もある。(ただし検疫所など限られた機関でしか打てない)

A型肝炎
目的地が北アメリカ(メキシコを除く)、西ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ニュージーランドである場合除くすべての旅行者に推奨。

B型肝炎
B型肝炎流行地で密に現地の住民と接触する可能性があるまたは6か月以上の長期滞在の場合、海外で医療行為を受ける可能性がある場合、外国で生まれて出生地に戻る場合に推奨。

日本脳炎
インド亜大陸、中国、韓国、日本、東南アジアなど流行地に(田舎なら特に)、流行時期に、30日以上滞在する場合に推奨。短期旅行者であっても屋外アクティビティに参加したり流行地に行ったりする場合は推奨。

腸チフス
中南米、インド亜大陸、アフリカなどの流行地に行くなら推奨。通常の旅行ルート以外に立ち入って汚染された可能性がある飲食物を摂るかもしれない人も推奨。

髄膜炎菌
サブサハラは12~1月に”髄膜炎ベルト”で流行するので推奨。メッカ巡礼やその他の宗教的休暇の時期にサウジアラビアに行く巡礼者も必要。

狂犬病
インド亜大陸、中国、東南アジア、フィリピン、一部のインドネシア、ラテンアメリカ、アフリカ、旧ソ連諸国で今だに流行。暴露後接種も有効だが必ずしも利用可能とは限らない。流行地に30日以上滞在、へき地に行く、動物の近くで働く、ハイキングやサイクリングなど動物と近づくアクティビティに参加する、噛まれたことを伝えられない小児などの場合に推奨。

TABLE1
TABLE2
TABLE3
TABLE4

【開催日】
2017年11月1日(水)

White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality

―文献名―
Huang, Yuli, et al. “White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality.” Journal of hypertension 35.4 (2017): 677.

―要約―
【背景】
白衣高血圧が本当に患者にとって無害かは、まだまだ議論の余地がある。

【方法】
 白衣高血圧と、心血管疾患および全死亡のリスクとの関連性を、ベースラインの降圧治療の状況によって階層化して評価した。データベース(PubMed, EMBASE, CINAHL Plus, Scopus, and Google Scholar)から、白衣高血圧に関連する心血管疾患および全死亡に関する前向き試験を検索した。主要アウトカムは降圧治療の状況によって層別化(未治療集団、降圧治療を受けている集団、混合集団)された白衣高血圧と心血管疾患および全死亡のリスクとした。正常血圧との相対リスクを計算した。

【結果】
 最終的に14の研究(うち8つはベースラインで降圧治療が無いもの、4つは降圧治療が行われているもの、6つは両方が混ざっているもの)が解析対象となった。診療所での収縮期血圧、拡張期血圧は白衣高血圧群が正常血圧群より優位に血圧が高かったが、診療所外の収縮期血圧は白衣高血圧群の方が血圧は有意に高かったもののその差は診療所血圧ほど大きくはなく、診療所外の拡張期血圧は白衣高血圧群と正常血圧群とで有意差はなかった。
 高血圧未治療集団において、白衣高血圧群は正常血圧群より心血管疾患のリスクが38%、全死亡のリスクが20%それぞれ増していた。混合集団においても白衣高血圧群でそれぞれ19%、50%リスクが高かった。しかし降圧治療を受けている集団においては、心血管疾患、全死亡とも白衣高血圧群と正常血圧群とでリスクに有意差がなかった。

川合先生図1

川合先生図2
FIG.6 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: cardiovascular disease

川合先生図3
FIG.7 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: all-cause mortality.  (RR 1.20, 95% CI 1.03–1.40)

【開催日】
 2017年8月2日(水)

効果的な予防の優先度アップデート

―文献名―
Michael V. Maciosek,et al.Updated Priorities Among Effective Clinical Preventive Services.Ann Fam Med January/February 2017 vol. 15 no. 1 14-22

―要約―
【目的】
 プライマリケアセッティングにおいては人手や時間が限られている。結果として、どこに注力すべきかが重要となる。これは相対的な健康へのインパクトや費用対効果をアップデートするものである。

【方法】
 ■含めた予防サービス
  ・全住民に対してUSPSTFでgradeA,Bと考えられたサービス
  ・一般住民に対してAdvisory Committee on Immunization Practices予防接種諮問委員会が推奨しているサービス
  ・心血管疾患のハイリスク群と性感染症のハイリスク群に対してUSPSTFでgradeA,Bと考えられたサービス
 ■測定
  以下の2つに対してそれぞれ1~5点で採点され、トータルスコアが2~10点の範囲で評価した。
   ・臨床的な予防効果…米国の出生コホートで400万人に対して予防サービスが推奨されている年齢で推奨されている期間にわたって提供された
             として得られるQALYsとして定義
   ・費用対効果…QALYsあたりの費用(net cost純原価)を推定
  これらを推定するために新しいマイクロシミュレーションモデルを12の予防サービスにおいて最新の見積もりを出すために用い、スプレッドシート
 モデルを13の予防サービスに、ピアレビューで文献に基づいた推計を3つの予防サービスに用いた。
 ■評価項目
  ・28個のエビデンスに基づいた臨床的な予防サービスを評価した。

【結果】
中川先生図①

・最も高得点であったのは、小児のワクチン接種、若年者における喫煙開始の予防を行うためのカウンセリング、成人に対する喫煙スクリーニングと
 簡単な禁煙に対する同意付け介入の3つで、それぞれ10点であった。
・費用対効果CEの最高点5点であったのは、小児のワクチン接種、若年者における喫煙開始の予防を行うためのカウンセリング、成人に対する喫煙スク
 リーニングと簡単な禁煙に対する同意付け介入、アルコーールのスクリーニングと簡易的な介入、CVDのハイリスク者への低用量アスピリン、梅毒
 スクリーニングの6つであった。
・CVDハイリスク者への食事指導、運動習慣指導、ならびに成人肥満者のスクリーニングは費用対効果は1点と悪かった。

中川先生図②

 トータルスコアが5点以上の項目について、90%以上のサービス利用率になったとした場合のQALYsの上昇がどの程度期待できるかを示したのがTable3である。ただし、血圧とコレステロールのスクリーニングはすでに高い割合で達成できているので除外した。高い費用が出ている項目はより高い利用率にしていくことで効果を期待できる項目である。多くの人々への健康改善は、大腸癌のスクリーニングとインフルエンザワクチンと同様に、たばこの使用、肥満関連行動、アルコールの乱用を予防的に対処するための施設利用を増やすことで得られる可能性がある。

中川先生図③

【まとめ】
 本研究は予防サービスの優先度を同定し、質改善の先導を切っていく上でどのサービスを強調していったらいいのかを選択していくのに役立つだろう。

【開催日】
 2017年2月15日(水)