~患者さんに薬を飲んでもらうためにはどうすればよいか?~

【文献】
#1
Barbara J. Stephenson et al.: Is This Patient Taking the Treatment as Prescribed? JAMA & ARCHIVES JOURNALS, Chapter 15, p173-182, McGrawHill Medical.
#2
なぜ、患者は薬を飲まないのか?「コンプライアンス」から「コンコーダンス」へ クリスティーヌ・ボンド編集、岩堀禎廣/ラリー・フラムソン翻訳、薬事日報社.

【要約】
臨床評価の重要性
コンプライアンス不良は多く、臨床医はそれを改善する手助けが出来、患者の有益性を高めることが出来るため、臨床医は患者の服薬コンプライアンスを評価すべきである。長期にわたる自己管理薬治療の平均的なコンプライアンスは、治療継続中の患者でおよそ50%である。

コンプライアンス不良の本質
投 薬内容を患者はしばしば、複雑、不便、厄介(embarrassing)、あるいは高価と感じる。特に慢性疾患では、長期の利益より短期の不都合の方が重 視される。コンプライアンスの「規定因子」に関して、年齢、性別、人種、教養、学歴といった社会統計学的因子との関連はわずかである。その一方で、コンプ ライアンスは精神疾患を有する患者は低くなりがちで、疾患に伴う機能障害をもつ患者で高くなる傾向にある。外来待ち時間が長く、再診間隔が長いと、予約時 に受診せずケアから脱落する。複雑で、コストがかかる治療内容だったりその治療期間が長くなったりするほどコンプライアンスは低くなる。

コンプライアンス不良の評価
次の3つのステップで、ほとんどのコンプライアンス不良の患者が同定できるだろう。
1.予約日に受診しない。
2.十分な量の治療に対する反応が乏しい(あるいはなくなる)
3.コンプライアンスが疑わしい患者に対しては、より適した方法をTable15-2から選んで用いる。
患 者への質問が最も幅広く適応できるコンプライアンス評価法である。注意深く質問することで半数以上を同定できるだろう。実際にどのような薬剤を服用してい るか、いつそれらを服用しているのかを助言を与えずに尋ねるべきである。治療内容への異なった理解やアドヒアランスが明らかになるかもしれない。自己申告 について調べた研究では、質問の前に「多くの人々がいくつかの理由により自分の薬を服用するのにしばしば困難を感じています」と前置きし、予断を与えず、 威嚇しない方法で「あなたは今までに自分の薬のどれかをふくようしわすれたことがありますか?」と尋ねている。その際、患者が前日や前の週に薬を服用し忘 れたことを認めたとしても、依然として実際のコンプライアンス率を過大評価しやすい。(ある研究では17%にも及ぶ)

コンプライアンスの臨床的評価の正確性
Gilbert らの研究によると、プライマリケア医が自分の良く知っている患者のみに対してコンプライアンスの推定を行ったところ、不良なコンプライアンスを検出する臨 床的判断の感度は10%に過ぎなかった。Richardsonらの研究では、受診は服薬コンプライアンスを保証するものではないことと、コンプライアンス は非受診者の方がずっと悪いことを確認した。自己申告に関するコンプライアンス不良(75-100%)未満の錠剤服用と定義)の感度は55%、特異度は 87%(LR+4.4)であった。しかし、陰性尤度比は0.5であり、服薬を順守しているという自己申告については、コンプライアンス不良があるかもしれ ない。(Table15-3)

Original Review:まとめ
患者のコンプライアンスに関する情報はコンプライアンスを高める効果的な方法を効率的に適用することにつながる。

~以下、UPTODATEより~
新たな知見
アドヒアランス評価のため、「あなたは先週、いずれかの薬を飲み忘れましたか?」という質問は錠剤数の計測を参照標準として、コンプライアンス不良(100%未満の服薬)の患者の55%を検出し、特異度は87%になる。(LR+4.3)

最新情報の詳細
ア ドヒアランス不良は医学的、社会的、経済的な重要性に加え、有害な健康アウトカムとも関係する。一般的に患者は自身の服薬アドヒアランスを過大評価しがち で、患者が治療に反応していない限り、アドヒアランス不良を同定することは難しいかもしれない。アドヒアランスを患者が過大報告しないためには次の4つの ことが必要となる。1.服薬方法に関する明確な指示を与えること、2.患者が社会的に望ましい回答をしないようにアドヒアランスを正しく報告することの必 要性を指導および推奨すること、3.予断を与えず、威嚇をしないように現在の服薬状況について質問すること、4.正確な申告への障壁を突きとめること。こ れらの手段はルーチンに行われるべきである。

結果(MEMSの説明については省略)
患者自身が薬剤を服用していないという場合には正 確である傾向を示している。(=患者が自身の薬剤を処方通りに服用するのが難しいという場合は、真実を話している。)(Table15-4) 患者に自身 の薬について、名称、服用目的、いくつの錠剤を服用しているかなど、既に知っていることと信じているところを尋ねることは有用である。最も一般的な副作用 について尋ねることで、より開かれた議論を患者に促すことができる。これらを尋ねる前後で、処方薬について既に知っていることや薬に対する信条を尋ねるこ とは有用である。

UPTODATE:まとめ
<事前確立>
 およそ50%の患者が処方通りに服用していない
<服薬アドヒアランス不良が考慮されるべき群>
・「全ての」患者が評価されるべき
・薬剤に期待される反応をしめさない患者
・複数または複雑な投薬内容をうけている患者
・高齢者
・思春期
・認知症の患者
・精神疾患のある患者
・無症状の疾患(例えば高コレステロール血症や高血圧など)に対する治療を受けている患者
<服薬アドヒアランス不良の可能性の検出>
 「あなたは先週、いずれかの薬を飲み忘れましたか?」と尋ね、「はい」と答えた全ての患者はアドヒアランス不良について考慮すべき。(LR+4.3)
  Morisky質問票「1.あなたは今までに服薬をわすれたことがあるか?2.あなたは服薬時間にこだわらないか?3.調子がいい時は薬をやめるか?4. 調子が悪い時に薬をやめるか?」について、どの質問にも「いいえ」であればアドヒアランスが良好である可能性が高くなる。(LR-0.36)

【開催日】
2010年8月18日(水)

~外来でうつ病の認知行動療法マニュアル活用しよう!~

【文献】
『うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル/患者さんのための資料』
厚生労働省研究費補助ここの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」
『実践家のための認知行動療法テクニックガイド』北大路書房 坂野雄二監修

【要約】
A.総論
・理論背景
私たちは自分が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けている。通常は半ば自動的にそして適応的に行っている。しかし強いストレスを受けるなど特別な状況下ではその判断に偏りが生じ非適応的な反応を示すようになる。
・実践
自動思考と呼ばれる、様々な状況で自動的に沸き起こってくる思考やイメージに焦点を当てて治療を進めていく。面接は30分以上で原則は16~20回行う。またホームワークとして面接で話し合ったことを実生活で検証しつつ認知の修正を図ることが必須となる。
・ゴール
治 療のゴールは自律性の回復である。ただ、自ら治ろうという意思が満ちていない場合、CBTがまだ早い段階の患者もいるので、無理に適応しないことも重要で ある。自律性を回復するということは①自己への気付き:外部情報の入力を適切にできる②思考の柔軟性と多様性の獲得③自信をつけて継続して日常生活で行う ことができる、というステップを一緒に見つけていく作業である。
・治療の流れ
①患者を一人の人間として理解し、患者が直面している問題点を洗い出して治療方針を立てる
②自動思考に焦点を当て認知のゆがみを修正する
③より心の奥底にあるスキーマに焦点を当てる 
④治療終結
・マニュアルに沿わないで対応する場合
自殺・自傷に関する問題。治療継続に影響しうる現実上の問題(経済的な問題、身体的健康問題、被虐待など)、治療や治療者に対する陰性感情。

B.1回目外来
目標:
●ラポール形成。
●うつ病(患者用資料P2-4 利用)・認知行動療法を理解してもらう。(患者用資料P5-7を利用)
●治療構造になじんでもらう(時間配分、ホームワーク①パンフ読んでくる②活動記録の作成)
活動記録の例は、患者用資料P8参照。縦軸に時間、横軸に日付が入っている。
ここでホームワークの意義:治療セッションの30分以外の時間も治療に生かせる。日々の困ったことを一緒に話し合う手助けになることを説明する。
●問題点の整理(困っている事に対し、出来事→認知・自動思考→気分・行動の仮説モデルたてる)

C.2回目外来
目標:
●ラポール強化
●治療構造になじむ
「今回はHWの振り返りと、今お困りのことついて伺い、治療の方向性を考えていきましょう」
ここでHWをしていなくても責めない。(治療者マニュアルP10 HWを振り返る参照)
具体的にセッション内で一緒にプリントを作成しつつ、方法になじんでもらうのも有効。
●問題点の整理 気分の楽・つらいを、患者自身の行動や考えの変化と結び付ける。

D.3~4回目外来
目標:
●治療目標を設定 全般的目標と具体的な目標(測定可能)を立てる(治療者マニュアルP11表)
認知面の介入が必要な目標・・・セルフモニタリングの利用。
現実的な問題解決が必要な場合・・・「問題解決」「対人関係を改善する」モジュール利用。
●治療構造になじむ
●症例の概念化

E.認知面を重視する外来(5~6回目外来)
目標:
○出来事→認知・自動思考→気分・行動の把握
状況:          同僚の前で上司から怒られた
ふと浮かんだ考え: 上司からバカにされた,みんなも私を馬鹿な奴と思った
気分:          悔しい
気分と思考を分けることがはじまり。気分は一語で記載する。
このシートをみつつ、多くの場面に共通してみられる考え方の特徴を見つけしていく。
つらい気持ちにさせる考え方の癖:全か無か/白か黒かの極端な考え方。悪いほうの予測がエスカレートする。嫌なことしか見えない考え方。自分を苦しめるしばりつける考え方。何でも自分のせいだと考える。過度の一般化。自分に対する固定的なラベリング。

F.7~12回目外来
目標:
●認知の偏りに気づく(治療者マニュアルP15~16)
 反証をみつけていく
 第三者の立場「他の人が同じような考え方をしていたら、何と言いますか?」
 過去や未来の自分「元気なときだったら、違う見方をしないでしょうか?」
 経験を踏まえて「以前にも似た経験はありませんか?その時はどうなりました?」
 もう一度冷静に「その考え方の癖(自動思考)は100%正しいですか?」    
●行動実験を積極的に利用する
 問題解決モジュール(治療者マニュアルP23-25)を利用して行動計画をたてていく。
 上手な自己主張の仕方を学ぶ(治療者マニュアルP26-27)

G.13~14回目外来
目標:
●スキーマを整理する:将来のストレッサーへの抵抗力向上。再発リスク軽減に寄与。
スキーマとはの説明。(患者用資料P15)
スキーマに気づくような質問
「いつも決まってそのように考える何か心の中にあるルールや法則のようなものがあるでしょうか?」
「価値観や人生のモットーのようなものはありますか?」
「大きな影響をうけた人物や体験やはありますか?そこから得られた信念は?」どんな影響ですか?」
ホームワークとして心の法則リストを作成してもらう。
元気なときの心の法則
・自分について
・人々について
・世界観について
うつのときの心の法則
・自分について
・人々について
・世界観について
終結を意識し始める。

H.15~16回目外来(患者用資料P22参考)
目標:
●終結と再発予防
うつの再燃の可能性と、その対応を説明する。
・治療全体のふりかえり
治療が終了後も、身に付けたスキルを使用すること。「どのような事が役立ったと思いますか?」
「治療を始めた時に比べて、うつが随分よくなりましたね。一体何が良かったのでしょうか?」
気分や状況が改善したのは、患者自身の考え方や行動を変化させた結果であることを強調する。
「私がアドバイスした点もありましたが、考え方や行動を実際に変えたのは○さんですよね?」
・セッションで扱ったツールや技法のおさらい
・治療が終了する不安を尋ねる。
・悪化した際の対処方法を検討する。「治療で身に付けた使えそうな方法は何でしょう?」

【開催日】
2010年8月11日(水)

~痛風の診断精度を上げましょう~

【文献】
A Diagnostic Rule for Acute Gouty Arthritis in Primary Care Without Joint Fluid Analysis
Hein J. E. M. Janssens, MD; Jaap Fransen, PhD; Eloy H. van de Lisdonk, MD, PhD; Piet L. C. M. van Riel, MD, PhD; Chris van Weel, MD, PhD;Matthijs Janssen, MD, PhD
Arch Intern Med. 2010;170(13):1120-1126.

【要約】
背景と目的
 急性の痛風性関節炎の患者の多くは、プライマリケアで診断と治療を受けているが、診断時に関節滑液の分析が行われないことも少なくない。今回、家庭医の診断の精度を調べ、関節液採取なしに痛風を診断するための臨床スコア表を作成した。

方法
  2004年3月24日から2007年7月14日まで、オランダ東部の家庭医93人のもとを訪れた、単関節炎で急性痛風性関節炎の疑いが非常に強い患者 381人を、症状発現が初回かどうかにかかわらず登録した。医師の診断とは別に、全員を対象に受診から24時間以内に関節液を採取した。
 381 人の平均年齢は57.7歳、74.8%が男性だった。それらの中で、顕微鏡観察により関節液に尿酸ナトリウム結晶が認められ、痛風と確定したのは216人 (56.7%)。ただし、受診時に採取された標本が陽性と判断されたのは209人で、7人は追跡中に結晶陽性となったため、その時点で痛風と確定した。
 したがって、プライマリケアで関節液を採取し結晶を指標とする診断を行った場合の感度は0.97(受診時に結晶陽性の209人/結晶陽性の216人)、特異度は0.28(医師の診断が非痛風で結晶陰性の46人/追跡終了後も結晶陰性の165人)となった。
  家庭医が関節滑液の分析なしに痛風と診断した患者は328人(86.1%)。医師の診断の陽性予測値は0.64(受診時に結晶陽性の209人/医師の診断 が痛風だった328人)、陰性予測値は0.87(医師の診断が非痛風で結晶陰性の46人/医師の診断が非痛風だった53人)。これらから計算すると陽性尤 度比は1.3、陰性尤度比は0.1となった。したがって、プライマリケアでの痛風診断の精度は中程度と判断された。
 医師から痛風と告げられた 328人を結晶陽性患者と陰性患者に分けてベースラインの特性を比較したところ、有意な差が見られたのは、男性の割合(陽性群は89.5%、陰性群は 62.2%)、高血圧(52.6%、30.3%)、心血管疾患(30.6%、14.3%)など。これらの統計学的に有意な要因と、あらかじめ定義した変数 を組み込んで、多変量ロジスティック回帰モデルを作成、プライマリケアを訪れる単関節炎患者の尿酸ナトリウム結晶陽性の予測精度=診断精度を、ROC曲線 を描いて分析した。
 最適なモデルは以下の変数を含んでいた。性別が男性、自己申告による関節炎発作歴、24時間以内に症状が最も悪化、関節部の 発赤、第一中足指節関節に症状あり、高血圧または心血管疾患あり、血清尿酸値が5.88mg/dL超。このモデルのROC曲線下面積は0.85(95%信 頼区間0.81-0.90)となった。
 著者らは、日常診療において簡便なモデルにするために、回帰係数を簡単な臨床スコアに変換、以下のような診断用スコア表を作成した。

性別が男性⇒スコア2.0
自己申告による関節炎発作歴あり⇒スコア2.0
24時間以内に症状が最も悪化した⇒スコア0.5
関節部の発赤あり⇒スコア1.0
第一中足指節関節に症状あり⇒スコア2.5
高血圧または心血管疾患あり⇒スコア1.5
血清尿酸値が5.88mg/dL超⇒スコア3.5

 それぞれ該当しない場合はスコア0として合計を求めると、最大値は13.0になる。
 医師が痛風と診断した328人の患者をスコア合計が4以下、4超8未満、8以上の3群に患者を分けると、各グループの結晶陽性患者の割合は2.2%、31.2%、82.5%となった。
 さらに受診者381人全員を対象にこの方法でROC曲線下面積を求めると、0.87(0.84-0.91)になった。臨床スコア4以下、4超8未満、8以下の3群に患者を分けると、各群の結晶陽性患者の割合は2.8%、27.0%、80.4%となった。

結論
 したがって、スコアの合計が4以下であれば痛風の可能性はほとんどないと言える。一方、8以上なら痛風治療を開始してもよいだろう。スコアが4から8の間の患者については必要に応じて関節液の分析を行うべきだ、と著者らは述べている。

【開催日】
2010年8月11日(水)

~Motivational Interviewing(動機づけ面接法)とは?(その1)~

【文献】
動機づけ面接法 基礎・実践編
ウイリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 著   松島義博、後藤恵 訳

【要約】
なぜ人はかわるのだろう?
・  「動機づけ」への関心は、「なぜ人は変わらないのだろう」と考えるときに始まる。これは、健康管理に携わる人々、教師、カウンセラー、両親および福祉行 政や司法組織で働く人々に共通する疑問である。明らかに、していることがうまくいっていない、あるいは自己破壊的で、第三者の立場から見れば他により良い 方法があるにもかかわらず、なお当事者が同じ行動を繰り返している。このような嗜癖行動は、破壊的であると本人がわかっていても、あえて続けているのが特 徴である。罰を重くしてもそれを防ぐことはできない。人間は、必ずしも賢明で、常識的であるとは限らない。
・ しかし、人が変わることも少なくない。そのため創造的で魅力的な問いは「なぜ人は変わることができるのか?」である。時とともに人は、新しい生き方に順応していく。
・  なぜ人は変わるのであろうか?援助職に携わる人は、援助・カウンセリング・治療・助言や啓蒙活動の結果、人が変わると考えがちである。しかし、変化は自 然におこる。以下のような多くの推定への疑問やいくつかの嗜癖行動の研究などから、「動機」を人が変化する基礎と捉えることができる。
① 正式な介入(カウンセリングや治療)によって生じる変化は、特殊な変化の形式というよりは、むしろ自然の変化を反映している。それにもかかわらず、どの程度の変化が起こるかは、治療者との人間関係に非常に強く影響される。
② 比較的短時間(新しい対処技術を習得したり、性格の変化を経験するには短すぎる時間)のカウンセリングでさえ、変化が起こりうる。
③ 行動の変化は、治療の初期の段階で起こり、平均的には治療の時間や回数はあまり関係がない。
④ どの臨床家に治療を受けるかは、治療の中断・継続・持続および治療結果に対する、重要な決定因子である。
⑤ 特に共感的なカウンセリングは変化を促進し、共感性がなければ変化を妨害される。
⑥ 自分が変化できると信じる人は回復してゆく。カウンセラーが変化を信じていると、実際に回復する。改善の見込みがないと言われた人たちは回復率が低い。
⑦ 「変化を語る」言葉は重要である。変化への動機を反映した言葉や決意の表明は、その人の回復を予見させる。一方、変化に反対する言葉は回復に支障をきたす。どちらの言葉も人間関係(カウンセリング)に深く影響される。
・ 「変化の動機づけは、基本的に不快の回避による」と信じている人たちがいる。十分に深い間んを与えれば、人が変わるというのである。この見方によれば、人が変わらないのはまだ十分に苦しんでいないから、ということになる。
・  人の建設的な行動の変化は、その人の内的価値、重要なこと、大切にしているものに触れた時におこる。人はしばしば行き詰まるものであるが、それは必ずし も、自分の状況の不利な価値を認めないからではなく、むしろ2つの方向を感じている(両価的感情)からである。人が、その迷いの森から抜け出すには、その 人の経験とその人自身の立場から見て、本当に大切なことに従って、道を探さなくてはならない。

アンビバレンス(両価性)
・  両価性は一般的な人間的経験であり、変化の正常な過程の1段階である。この両価的葛藤を病的状態と誤って解釈し、その人の動機、判断力、知識、精神状態 に問題があると結論するのは、安易な方法である。なぜなら、その人を教育し、正しい行動をとるように説得するだけでよい、ということになるからである。実 際、人が変わっていく過程で、両価的状態を経験し行き詰まりの気持ちを経験するのは、普通のことである。
・ 両価性の中で身動きが取れないとき、 問題は持続し、重篤化する。人が変わるためには、この両価的葛藤を解決することが中心的課題であり、両価的状態を検討することは行き詰まりの核心に触れる ことである。これを解決するまでは、変化は遅々として進まず、たとえ変化しても長続きはしないであろう。
・ 「葛藤」は多くの心理学理論の重要な概念で、主に以下のように分類される。
① 「接近-接近葛藤」…同じくらい魅力的なものから1つだけを選ぶときに経験する葛藤
② 「回避-回避葛藤」…2つの嫌のことから1つを選ぶときに経験する葛藤
③ 「接近-回避葛藤」…この葛藤は人を身動きできない状態にさせる特別な性質をもち、強いストレスとなる。この状態では、人は1つの対象に引きつけられると同時に、抵抗感をもっている。(愛さずにいられない、でも愛したら生きてゆけない)
④  「二重接近-回避葛藤」…2つの対象のそれぞれに、心を奪われるほどの好意と同時に強烈な抵抗感を抱き、その間で引き裂かれる。対象Aに接近するとAの 短所が次第に見えてきて、逆に対象Bの長所がすばらしく思えてくる。そこで、方向転換して対象Bに接近し始めると、今度はBの欠点がはっきり見えてきて、 Aが魅力的に見えてくる。
・ 「接近-回避葛藤」を、自分ひとりの力で解決するのは至難の業であろう。人が変わるには、両価性の解決が鍵であり、 事実両価性が解決されれば、変化は容易に起こる。しかし、ある特定の解決法を強要する(直接的説得や、特定の行動に対して罰を与えるなど)と、逆説的反応 が引き起こされ、減らしたい行動をかえって増やすことさえある。

変化を促進する
・ 人間は「ものごとを正したい」という、本能的な願望をもっているようである。介護や医療、教育などの職業に携わっている我々は特に「ものごとを正したい」傾向が強く、この傾向が我々を自分の職業に引きつけたのかもしれない。
・  両価的状態にある人が両価性の板挟みにあるとき、「ものごとを正したい」反応をもっている人に一方の解決法を助言されると、自然に反対の立場を強く主張 する。そして自分の言葉を聞くことにより、さらに反対の行動が引き起こされてしまう。そのため両価的状態にある人に対しては「正したい」反応をなるべく控 えることが大切であることが分かる。これは氷の上で車を運転する場合に覚えなくてはならないことに似ている。 
・ 変化に対する「重要性の認識」 の根本には、矛盾がある。矛盾がなければ、動機も生じない。矛盾は、現在の状況と望んでいた状況の違いであり、現在起きていることとこうであってほしいと 希望していた目標との違いである。これは、2つの「認識」の違いと考えることもでき、この矛盾の度合いが大きければ、変化の重要性も大きくなる。
・  矛盾と両価性は、明らかに重なるところがある。矛盾がなければ両価性は生じない。そこである人たちにとって、変化への第一歩は「両価的状態になること」 である。矛盾が拡大すると、初めて両価性が強くなる。そこで矛盾が拡大し続ければ、変化の方向へと両価性が解決される可能性がある。このように理解すれ ば、現実には両価性は変化への障害物ではなく、むしろ変化を可能にするものである。
・ 抵抗や反発を招く言葉のやりとりがあるように、クライアン トが「変化を語り」初め、実際に変わっていくような対話もある。動機づけ面接法(Motivational Interviewing)とは、クライアント中心主義的であると同時に、両価性を探索し解決することによって、心の中にある「変化への動機」を拡大す る、指示的な方法である。
・ 動機づけ面接法は、ある状況で使えば効果があると立証されている。しかし今までの研究データでは、なぜ、どのように して、この方法が効果を現すのかという点は明らかにされていない。またこの方法は、すべての問題行動やカウンセリングに効果的な特効薬であるというわけで はない。他のカウンセリング技法とともに使える、1つの方法である。「この面接方法はどのような人たちには不向きか」という限界も明らかではないが、治療 を強いられ腹を立てている人には、動機づけ面接法が特に効果的で、治療初期で抵抗が少なく怒りのレベルが低い人には動機づけ面接法よりも認知行動療法など が効果的であると報告されている。
・ 基本的に動機づけ面接法は、変化を触発することを目的としている。ある人にとってはそれだけで十分である が、継続した援助が必要な場合には動機づけ面接法の後で、他の治療法を用いて治療を継続するのが自然である。しかし、驚くべきことに、後に続く治療法が動 機づけ面接法の原則と一致していなくても効果があると報告されている。したがって、最も効果的な統合的治療法は、初めの相談で動機づけ面接法を治療への導 入としてもちいることであろう。また、治療中に問題が生じた時などの「動機づけ」の課題が生じるたびに、背景にある動機づけ面接法を用いて新しい課題の解 決を図ると良い。

【開催日】
2010年8月4日(水)

~電子カルテ導入の影響について~

【文献】
Gradual Electronic Health Record Implementation: New Insights on Physician and Patient Adaptation. Ann of Fam Med ;2010;8:316-326.

【要約】
目的
電子カルテ導入が医師患者関係や患者の行動にどのような影響を与えているかを検証する。

方法
家庭医の外来診療所において、電子カルテの導入前5か月・移行期の10ヶ月間・導入後3または6か月後に以下の調査を行った。
①170人の患者について、外来を直接観察して、時間を計測した。
②出口で患者へ電子カルテを用いた外来についてインタビューを行った。
③診療所の看護師・看護助手・事務職員を集めてフォーカスグループディスカッションを行った。
④診療所の看護職員と医師に対して、観察(構造化されていない)とインタビューを行った。
 ※電子カルテ;Logicianという商品;血液・画像・病理・患者の地理的情報の結果が参照できる。

分析
Immersion-Crystallization discussionと代替仮説の検索を用いた。

インタビュー・FGDの結果の要約
①患者の評価
 ・導入前は、情報技術に対する不安の表出がみられたが、医師への信頼や医師患者関係の安全性を実感して、電子カルテに肯定的な意見が出るようになった。
②医師・医療従事者の評価
 ・導入後は、電子カルテの懸念事項への不安は解消され、電子カルテの利点が理解されるようになり、更には予想していなかった利点も見出された。
 ・特に、医師はコンピューターという第三者が外来に入るようになって、快適そうに見えた。仕事の能率化が実感されることで看護師や事務職員の電子カルテへの抵抗感も次第に改善した。
 ・予想していなかった利点として、その場で参照できる情報(薬の毒性や避妊法、検査のリマインダーなど)による作業の能率化や、医師が診察室から出る時間の減少が挙げられた。
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結果の詳細
A導入前;この時点では、電子カルテに記載されるのは問題点リストと薬のリストのみであった。
①患者の視点
 ・ほとんどの患者が電子カルテがあることに気づいていなかった。
 ・患者の回答の殆どは紙でも電子カルテもどちらでもよいというスタンスだった。
 ・患者は電子カルテが導入されると、医師の仕事内容、筆跡、情報の蓄積と検索、信頼度、正確性、医師同士のコミュニケーションを改善し、外来中に医師が診察室を出ることが減ると予想した。
 ・患者はしばしば、セキュリティや技術上の問題を理由に、電子カルテの導入について中立的な意見であった。
②医療職種の意見
 ・事務職は、文字の判別性、データの正確性、カルテの捜索・ファイリングが必要なくなることを期待していた。
 ・医師が電子カルテ導入の障壁になると考えられていた。
 ・看護師は、タイピング能力不足や、子供が壊さないかなどを心配していた。また、移行期の仕事増大を懸念していた。

B移行期;医師のカルテ記載は、紙/電子カルテどちらでも可。看護師はバイタル・予診は紙と電子カルテ両方に記載した。
①患者の意見
 ・電子カルテの存在についてどれくらい気がつくかは人によってまちまちだった。
 ・スピードやそのアクセスの良さはいいと感じていた。その一方でセキュリティへの不安を感じていた。
 ・患者によっては、紙でも電子カルテでもどちらでもいいという姿勢を持つ人もいた。
②医療職種の意見
 ・看護師は記録の抜け落ちや重複があったが、時間がなかったり、やり方を知らないからであるという意見が出た。
 ・看護師は、医師のアイコンタクトや診察が減ることや、患者が医師の記載した内容を見ることによる悪影響や、守秘義務が守られない可能性(院内の他のスタッフがカルテをみる可能性など)、コンピューターの故障を心配していた。
 ・時間が節約できることや、リマインダーによって検査の漏れが防げる点を評価していた。
 ・また、、患者が診療により責任を持つようになる(データに興味を持ったりなどから)のではという予想があった。
 ・医師は、患者がみている中で患者の問題点を記載しないといけないことに不快さを感じていた。

C完全導入後;院内・院外のネットワークとつなぐことが可能となった。
①観察結果
 ・外来の時間は変化がなかった。情報を収集するために使う時間は少なくなった。
 ・医師はアイコンタクトが減る事を危惧しており、実際に電子カルテの時にカルテを見る時間の方が、紙カルテの時にカルテを見る時間よりも長かったがが、患者は医師のアイコンタクトや外来の質に満足していた。
②患者の意見
 ・安全性、情報へのアクセスの早さ、能率、情報共有、それから、「現代らしい」スタイルについて良く評価していた。
 ・セキュリティ面については評価が分かれていた。
③医療職種の意見
 ・看護師からは、作業の能率化、医師の記載が正確になった、データの参照が早くなった、新たなテンプレートのお陰で医師の入力が早くなった、医師のカルテ記載へのインセンティブにもなるという肯定的な意見が出た。
 ・患者がコンピューターの画面に興味を示すことで、より診療に積極的になる、と評価する者もいた。

D外来での医師の変化について
①診察室にコンピューターという第三者が入ることで患者とのコミュニケーションに変化が生じた。
 ・体とコンピューターの位置や、言葉でのコンピューターの説明、患者との情報の共有方法などを工夫していた。
 ・特に導入後は、モニターを患者にも見えるように配慮して、モニターとアイコンタクトを同時に行うようにしていた
 ・非言語的コミュニケーションがより多くなった。使っていない腕を患者の方へ伸ばしたり、足や膝だけ患者の方へ向けたり、診察台に寝ている時も、膝は患者に垂直に向かっていた。
 ・医師によっては、患者の言葉などをカルテにタイプして繰り返すようになったため、患者がより外来に集中し、自分の言葉を訂正する余裕が持てるようになった。
②医学的情報の共有が促進された。
 ・即座に情報が見れるため能率がまし、患者との情報の共有がよりなされるようになった。これに対して、紙カルテ時代に情報を患者と見ると言うことは殆どなかった。(移行期は情報を患者に見せる医師はまだ少なかった。)

【開催日】
2010年8月4日(水)

~家庭医は一回の診察でいくつの問題に対応しているのか?~

【文献】
John W.Beasley MD,et.al: How Many Problems Do Family Physicians Manage at Each Encounter? A WReN Study .Ann Fam Med. 2004 Sep-Oct;2(5):405-10.
文献へのリンク

【要約】

目的
 実は家庭医がどれくらいのproblemを同時に扱っているかはしっかりと調べられてこなかった。
 この論文の目的は、一回の診察で家庭医がいくつのproblemを扱っているかを明らかにすることと、それが実際にカルテと請求にどれくらい反映されているかを比較することである。実際にここには解離があり、家庭医のケアの複雑な側面を明確にしたい。

方法
Wisconsin Research Network(WReN)の29人の医師を対象とした。29人の内訳としては、9人が教育を行う医療機関勤務、20人が地域の医療機関勤務で、その20人の中で12人が僻地勤務であった。患者は18歳以上とした。
医師は連続して診た患者20人に対しての各人の診療の後にproblem logを記載してもらった。problem logはカルテのコピー、請求書のコピーとした。
●Problemは情報を収集し、かつ、意思決定を下した問題と定義した。
  ・例えば咳についてカルテに記載はあるが、それ以上何もなされていなければ咳は検査、治療が必要なかったと判断される。
  ・例えば糖尿病性の神経症のように部分症であるproblemも別に扱われていれば、糖尿病とは分けてproblemとする。
  ・既にある問題(糖尿病)も、他の問題(足関節捻挫)で緊急時の対応をした診察の際に扱われなければproblemとしならない。
  ・もともと分かれていた問題、例えば咳、胸痛も最終的に問題として肺炎などに統合されれば、1つのproblemとする。
 ・患者とは別の人物に対しての問題(例えば夫のうつ)もproblemとして扱う。
●カルテを調査していく際には、
 ・十分に記載がないとリスト化はしない。
 ・例えば既往に狭心症があっても、それ以上記載がなければだめ。
●請求書を調査していく際には、
 ・診察の際に提出される請求書に記載があるかどうかで判断する。

患者カルテと請求のために提出された診断名をこれらのproblem logにある情報と比較した。

結果

100802

女性 351人 problem 3.1個  男性 213人 problem 2.9個 (P=0.27)
  定期受診 3.2個  定期受診以外 2.4個(P<0.01)   7%が患者以外の人物と関連したproblem   精神的な問題、薬物、中毒などの問題はあまり請求書には反映されていなかった。(仮説通り)    例えば、高血圧はlogでは96回出てきて、請求書には74回記載あり(77%)。    精神的問題などはlogで137回出てきて、請求書には58回の記載のみ(42%) (P=0.02) 医師は一回の診察で平均3.05個の問題を扱ったと報告し、カルテ上には2.82個、請求上は1.97個であった。全ての対象患者の中で37%が3個以上の 問題があり、18%が4個以上であった。65歳以上の患者においては、平均3.88個であった。糖尿病患者では、平均4.60個であった。 限界  最も明確な限界点は、医師の自己記入方式をとっていることである。  医師らは本研究の仮説を理解しながらの診療を行っている。  カルテ記載しか見ていないことで、漏れがあるかもしれない。 レビューを一人でしか確認していない点も限界あり。 Problemの数をどのように決定していくのがよいのかという標準的手法が確立していない。 一つの州での研究ということで一般化できない可能性あり。 結論  家庭医療では多くの健康問題を並行して扱っているが、請求上のデータは正確に反映されていない。結論としては、家庭医療と、質評価の方法やガイドラインの推進、教育、研究、管理運営、資金などとが釣り合っていないことが分かった。 本研究などの結果を踏まえ、いくつかの領域では概念を再構築する必要がある。 ①質評価やガイドラインでは疾患特異的な項目だけを診るように縮小していくのではなく、患者全体に着眼するようにすべきである。 ②医師の教育、とくにプライマリケア領域に進む医師に対する教育は、従来の単一疾患orientedな教育モデルではないものにすべきである。 ③家庭医療におけるリサーチは単一疾患の問題に対するものではなく、全人的問題に着目するようにすべきである。 ④Administratorsとfunderはケアは多くの問題をはらんでいるということに注目すべきである。 【開催日】 2010年7月28日(水)

~家庭医の診療の包括性に対する予測因子~

【文献】
Wong E, Stewart M. Predicting the scope of practice of family physicians. CAN FAM Physician 2010:56:e219-24.

【要約】
目的
 診療所で働く家庭医の診療の幅と関連する要因を同定する
デザイン
・ 2001年のカナダ家庭医療学会による全国家庭医勤務調査の横断調査に対する2次的な単変量及び多変量解析
セッティング
・ カナダ
参加者
・ 診療のほとんどを診療所で実施する家庭医
1次アウトカム
・ 診療の地理的条件、及び、診療所を基盤とする家庭医によって提供される12の医療サービスの数で表現される診療の幅スコア(SPS:Scope of practice score)
・ 12の医療サービス
麻酔
慢性疾患のマネジメント
救急医療
施設在住の高齢者に対する診療
在宅医療
入院ケア
緩和ケア
予防医療
患者が他の医療機関・福祉サービスを利用する際の調整
メンタルヘルス(精神療法とカウンセリング)
外科サービス(一般外科、外科補助、小外科)
周産期ケア(出生前、分娩、分娩後)

結果
・ 多変量解析モデルでは参加者の中でのSPSの多様性の35.1%を説明することができた。州の違いや地域が郡部かどうかという要素が、SPSの多様性の 30.5%を説明していた。男性、若年、グループ診療、入院ベッドへのアクセスの良さ、臓器別専門医へのアクセスの悪さ、大学などでの教育ユニットにおけ る診療、混合型診療報酬支払い、専門研修終了後の更なる系統的教育、診療現場での多様な医療職種の参加は高SPSと相関があった。

結論
・ 地理的要因が家庭医診療の幅の最大の要因であった。医師自身の要因、周辺の医療資源の使いやすさ、診療組織自体の要因はいずれも関連は弱かった。地理的要 因が診療の幅にどのようにそしてなぜ影響しているのか、そして、住民のニーズと独立した診療の幅の広さが住民に利益を与えるのかどうかを調べることが重要 である。この研究は、家庭医療を刷新しようとする努力の中でも、混合型診療報酬支払い、多様な医療職種の参加を促進する試み、グループ診療を養成する試み を支持していると考えられる。

【開催日】
2010年7月28日(水)












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