~家庭医療の発展におけるメンターシップの重要性~

【文献】
Hajar Kadivar: The Importance of Mentorship for Success in Family Medicine. Ann of Fam Med 2010 8:374-375.

【要約】
メ ンターシップは家庭医の個人的な成長やキャリア形成の上で非常に重要な役割を持っている。家庭医療学において学術、研究の領域で適切なフィールドを構築す るためにも必要となる。この記事ではメンターシップの重要性と、主要な要素なコンポーネントを見出し、メンターシップの個人や施設における障壁を同定し、 それらを乗り越えるステップとしたい。

メンターシップは医学の専門性発展のための重要なformal social supportである。このサポートは以下の4つに分類される。
(1) emotional support・・・共感や信頼を提供
(2) instrumental support・・・具体的な支援を提供
(3) informational support・・・アドバイスや情報を提供
(4) appraisal support(評価)・・・形成的なフィードバックと激励をする
こ れらは重要であるが、一人のメンターが全てを提供する必要はない。たいていの人には複数のメンターがいて、彼らが相補的に支援してくれていることが多い。 メンターはメンティーが研修を受けている際には提供されるものであるが、研修早期からずっとメンタリングを受け続けることが重要である。

学術的な分野にいる医師は十分な経験や時間がないと感じているため、メンターシップを提供することに抵抗を感じることもある。メンティーは多種多様な経験レベルのメンターを必要とし、それぞれのレベルのメンターから様々な学びを得る。

メ ンターシップはたいてい個人レベルに対して提供されるが、その利益は個人と組織の双方に認められる。それゆえ、施設間の障壁が取り除かれ、メンターシップ に対する動機づけがなされることで組織は変化する。特に家庭医療が研究の分野での成功を収めるためには重要となる。家庭医が小児科医や内科医と同様にメン ターシップを受けたとしても、フェローシップ終了後のメンターシップはほとんど受けることができず、臨床家や研究者としてのファカルティのポジションもあ まりなく、ほとんど論文も出てこないだろう。よって、研究分野において家庭医療をもっとアピールし、研究、論文を増やしていくことが望まれるのであれば、 新しい研究者に対するメンターシップ制度の構築は不可欠である。

North American Primary Care Research Group (NAPCRG)は、地域においてメンターがいないprotégésのためにメンターシップを提供するワークショップやプログラムの開発を行っている。こ のプログラムの目標は、家庭医療におけるリサーチメンターの数、質、効率、そして生産性の向上にある。Grant generating project(STFM、AAFP、NAPCRGの共同出資)は研究活動に対して支援者がない新人の研究者に対して教育とメンターシップを提供する機会 を与えている。

【開催日】
2010年10月20日(水)

~Capabilityアプローチ~

【文献】
Ferrer RL, Carrasco AV. Capability and Clinical success. Ann fam med 2010;8(5):454-60.

【要約】
《プロセスとアウトカム改善の間の乖離》
・ 慢性疾患の管理において、多くの臨床研究ではケアプロセスの改善とアウトカムの間の乖離が示されている
・ その理由の一つは、成功がヘルスケアシステムのコントロール外にある、患者が不健康な行動を変えて疾患を管理しようとする能力に依存しているからである。
・ 患者の参加度合いを高めるために、自己効力感のような全人的な関わり、そしてそこから起因する介入としてempowerment、自己マネジメント、motivational interviewingのような方法が開発されて、一定の効果をもたらしている。
・ ただ、こうした方法論は外部の環境が実際に行動変容の機会を与えているかどうかはあまり強調していない。今までのアプローチが十分な成果を挙げなかったのは、こうした健康の社会的要因への理解が乏しかったからではなかろうか。
《制約:健康的行動への環境面からの障害》
・ 実例として、貧しい地域に住む住人は健康的な食事をとる機会が減り、運動も実施しづらく、肥満の罹患率は上昇していく。つまり、健康的な生活を送るための資源が最初から乏しい。
・ こうした健康の不均衡をもたらす構造的原因となる一般的な状況や環境面の障害については、現在のアプローチでは十分取り上げられていない。
・ もちろん、communityレベルでこうした問題に取り組むアプローチも重要だが、診療所を基盤とした効果的な方法論を開発することも重要であり、プライマリ・ケアが広く国民に受け入れられるためにも必須である。

《臨床的な成功の決定要因としての患者のCapability》
・ Capabilityフレームワークは個人の幸福とその社会的なコンテクストを評価するために作られた。
・ Capabilityとは人々が有意義と感じる生活を送る機会をどの程度持てているかで定義される。
・ 有意義さは活動に起因し、それにはおいしく食べられる、十分な栄養が確保できているような段階から、更には、自分の力で判断を下すことができる独立性を保てているなどの高い目標なども含まれる。
・ このフレームワークの特徴は、達成状況に加えて機会を強調した点にある。つまり、単なる能力abilityを目標達成のための活動に変えるためには、現実 的な機会が必要だからである。ある人にとって実行可能な潜在的な機会のセット(capability set)を調べることで、どのような目標が達成可能か明らかになる。例えば、運動へのcapability setであれば、潜在的に実行可能な様々なタイプの運動をその人の時間・金銭、身体能力、他者からの支援、地域性などを考慮して提供することとなる。
・ このように機会を幸福測定の方法に加えることで、達成度が持つ問題点、つまり、人によってその度合いが変わることを回避することができる。
・ コミュニティーレベルでのcapability approachは行動変容に対する視点を、不干渉の観点(健康的な食生活を妨げる者はいない)から、そうした食材を近くのマーケットで入手することがで きるよう積極的にサポートするというスタイルへと変えることとなる。つまり、意志があっても方法を持たないものには行動の自由があるという見方は幻想に過 ぎないということである。
・ もちろん、こうしたサポートは一律に提供されるものではないことが重要である。
・ capabilityの観点からは、求める有意義な活動や目標に対して機会が乏しいということが貧困である。つまり、社会経済的状況と結果の関係性の中で、capabilityが鍵となる。
・ Capability評価尺度
1.この健康問題に関して、その方の価値観や目標は何でしょうか?
2.その地域で利用可能なリソースは何でしょうか? それを利用する機会はありますか? それは手近ですか? その費用は?
3.こうしたリソースの利用を促進あるいは邪魔するような個人的、家族、コミュニティーの要因はありますか?
・ capability介入
1.実質的に有効な目標は? そうした有効性を他の方法で達成するための機会はあるか?
2.機会を増大させるために、重要な個人、家族、コミュニティーの強みはあるか?
3.コミュニティーに向けての行動や提唱を通じて、社会的なコンテクストに関わることは可能か?
《臨床での応用》
・ このフレームワークは、まだ臨床での応用面では初期段階にある。
・ 最も重要なのは、生活習慣の変容や慢性疾患のセルフマネジメントの観点であろう。
・ 環境、機会、そして選択という間での相互作用を理解することで患者の生活習慣の変化における進展をより完全に理解することが可能となるだろう。
・ 機会提供のためには、診療所には目標と活動をつなげる地域のリソースをふんだんに用意する必要があり、パンフレットの作成やlocal connector(地域リソース提供のプロ)の養成、webの充実などが方法に挙げられる。
・ こうした活動は地域の様々なグループとのコラボで更に広がり、実行可能性を高める。ウォーキングキャンペーン、運動メッセージなどを地域ぐるみで展開している例もあり、こうした活動が良いアウトカムを生み出しているという研究結果も見られる。
・ 更に、地域の行政機関との連携もまだ乏しく、これからの発展が求められている。草の根活動との連携も重要である。
・ 地域にこうした機会が少ない場合、臨床家が必要なものを提唱することも重要である。

【開催日】
2010年10月13日(水)

~発売されたばかりの新薬。使う?使わない?~

【文献】
Pelger S. Underhill J.: Evaluating the safety and effdectiveness of new drugs. Am Fam Physician : 82(1)53-57, 2010.

【要約】
《はじめに》
発売されたばかりの新しい薬剤は既存の治療法のように幅広く研究されていなかったり、効果や安全性が十分検討されていないことが多い。
この問題に対処するためにSTEPSという語呂合わせがよりよい意志決定を行うために有用である。
《Safety: 安全性》
入院患者の約6.5%が薬剤の副作用によるものであるという報告がある。
新薬の安全性の問題は治験段階で明らかにならないこともあり、明らかになるのに長期間を要することも多い。米国では販売承認後に重大な副作用が明らかになる薬剤が10%もあり、新薬の重大な副作用が判明するまでの中央値が3年であるという報告もある。
こういった問題の背景には新薬の販売承認の決定が患者数1500人程度の短期間の臨床研究をよりどころとしていることがある。
《Tolerability: 忍容性》
多くの薬剤は症状を治療するためではなく未来に発生しうるイベントのリスクを避けるために処方される。こういった薬が患者の具合を悪くしてしまうのであれば、もはや継続することはできない。
《Effectiveness: 有効性》
97%の新薬は代用エンドポイントを設定した短期間のエビデンスをよりどころとしている。
短期間のエビデンスを元に発売され、その後有害であることが分かった薬剤も多い。
Milrinoneは心不全患者の心拍出量を増大させ運動耐容能を改善するというエビデンスをもとに発売になったがその後、死亡率を上昇させることが分かった。
新薬の採用について考えるとき、いつもこう問うべきである。
「この薬剤には既存の同様の薬剤と比較して私の患者の生命予後やQOLを改善するエビデンスがあるか?」

《Price: 価格》
新薬の価格はその薬剤を自身の治療オプションに加えるときに十分考慮すべきである。
例: ある疾患に対する治療薬Aは40%の治癒率で月20$かかる。治療薬Bは50%の治癒率で月50$かかる。印象ではより多くの患者を治療できるBを選ぶべ きであるように見えるが、仮にこの疾患に対して月10万$しか利用できないと仮定するとAは5000人の患者に投与することができ2000人の患者を救う ことができる。Bは2000人の患者に投与、1000人の患者しか救うことができない。
実際はもっと複雑であり、薬剤の相対的なメリットはその疾患に依存する。
《Simplicity: シンプルに》
投与期間の長い薬剤は1/3~1/2の薬剤が処方箋どおりに服用されていないと言われている。
できる限り単純な投薬スケジュールにすることが重要である、というのが常識であるが、1日1回の薬剤や合剤がadherenceを改善したというよいエビデンスはほとんどない。
ある質的研究では患者にとっては投薬の複雑さそのものよりも、投薬スケジュールを生活の中に取り込んでいくことが難しいようである。
《STEPSに加えて》
 ・ ARRかRRRか
 新薬のパンフレットや臨床研究の結果はARRよりもRRRで報告されることが多い。
このことは薬剤の効果を誇張しやすく、誤解の元となりやすい。
薬剤の効果はARR(NNT)で評価したい。
 ・ 既存の薬剤の新剤型には付加価値があるか?
近 年薬剤メーカーの間で既存の薬剤の新しい剤型(例:徐放性剤、プロドラッグなど)を発売するケースが多い。こういったケースが安全性や効果、 adhereanceを改善するのであれば、付加価値もあろうが、多くの場合ジェネリック薬品の登場に対抗して市場を守るためのものであることが多い。
合剤にも同様のことが言えるが、商品によっては処方を単純にする効果があるものもある。
 ・ 非劣性試験
新薬には監査機関に非劣性試験のエビデンスを提出することにより承認を得たものもある。
非 劣性試験は新薬が既存の標準的な治療薬と比較して劣っていないことをテストすることが目的である。本質的には限られた時間内に類似性を証明する。非劣性試 験は新薬のある疾患の治療における位置づけなどを検討せず薬剤の販売を許可することを目的に商業目的に行われることが多いため、こういった研究が倫理的で あるかが疑問視されている。
こういった薬剤は従来の薬剤に比較して優位であるどころか、効果や安全性の面で劣っている可能性もある。

【開催日】
2010年10月13日(水)

~プライマリケアにおける誤診・診断の遅れの事例にはどんな特徴があるか?~

【文献】
Diagnostic difficulty and error in primary care -a systematic review- Family Practice 2008; 25: 400-413.

【要約】
<導入>
このReviewは、①GPの診断ミスまたは遅れの状況 ②どんな特徴が、診断を困難にしたり、誤りの可能性を高めているか の2点を同定するために行われた。
< 方法>この論文の著者らが設定した検索ワードでPubmedを検索し、タイトルや内容からさらに絞り込んだ21のGPの診断ミスに関する文献をレ ビューした。具体的には、GRADEシステム(異なるMethodologyの文献をお互いに評価出来る方法らしいです)でStudyの質をチェックし、 かつ診断ミスが起こる事例が持つ特徴を割り出した。
<結果>
●上記のごとく21の文献が該当した。そのうち、2つの前向き研究以外は、全て後向き研究だった。
●Errorの定義は文献によって異なっていた。
 ・避けられるべき診断の遅れ、行うべき紹介が初回で行われなかった事例
 ・初診から診断までの時間が適切かどうか(適切の基準はそれぞれの文献ごと)
 ・診断ではなく、マネージ全体の適切さを扱っているものもあった
●診断ミスや遅れが起こりやすい事例の特徴
 ・7つの文献は原著で言及があった。
 ・筆者らは、診断の困難さと結び付く5つの特徴を見出した。すなわち、1非典型的な臨床像 2特異的でない臨床像 3非常に有病率が低い疾患 4併存疾患の存在 5認識できる特徴が見逃される(見逃されやすい)もの、であった。この特徴を複数持っているものも多かった。
1非典型的な臨床像
いわゆる「Prototypical features」が無いことを指す。Prototypicalとは、最も多くの患者が持つ特徴、進行した疾患でみられる特徴、医学書に単純によく描かれている特徴を指す。
  予想しない症状の特徴を指すこともある。(右腕に放散する胸痛とか。)
 レビューした文献の中では、例えば「Breast Lump」が無い乳がん、心筋梗塞における非典型的な症状(めまい、胃の痛み、刺すような痛み、など)や典型的な症状が無い状況があった。また、女性の心筋梗塞もより搬送が遅れる傾向にあるという分析もあった。
2非特異的臨床像
診断価値が低い特徴や、鑑別診断をよりわけられない特徴を指す。以下にStudyを列挙する。
 ・喘息において咳自体が、上気道炎などと同じように非特異的なものである。
 ・小児の骨の悪性腫瘍においては四肢より体幹の方が見逃されやすい(内臓痛や機能性疾患の非特異的な症状と捉えられてしまう)
  ・胃癌の初期症状であるDyspepsiaや心窩部痛(一般人口の40%が1年のうちに経験する症状)などが例に挙げられる。胃癌についての前向き研究で は、体重減少や嚥下障害、黄疸、貧血といった、赤旗徴候の人の方がよりGPは紹介していた(48%vs32%)しかし、実際のPPVは3%でしかなく、し かも胃癌の半分はAlarm sympotomなしで診断されていた。
3非常にまれな疾患
まれな疾患は、考慮される頻度が少ないこと、症状が特異的であっても事前確率が低いため、PPVが非常に低いことなどが関与していると思われる。
 ・舌癌・網膜芽細胞腫が例として挙げられていた。
4合併疾患がある場合
 ・一つの疾患が他の疾患の臨床像を変えたり、一つの疾患で、症状を説明できてしまう場合を指す
 ・例えば、認知症はうつ病が合併していると、診断が遅れる傾向にあった。
5Perceptual features
疾患に特徴だが、その疾患が鑑別に想起されていないとみても気づかれないものを指す。(SLEにおける蝶形紅斑やMumpsにおける耳下腺腫脹など)
 ・HIVにおける、Kaposi肉腫やHairy Leukoplakia、全身性のリンパ節腫脹についての文献があった。

【開催日】
2010年10月20日(水)

~うつ病スクリーニングにおけるPHQ-9の有用性について~

【文献】
デヴィッド・L・サイメル、ドルモンド・レニー/編:第19章アップデートうつ病. JAMA版 論理的診察の技術 日経BP社:263-268、2010年5月24日

【要約】
・成人において、2-9項目のスクリーニング手法は、より長いうつ病質問表に匹敵する性能を有する。
・短い9項目のPatient Health Questionnaire(PHQ-9)は、最も識別力に優れ、かつうつ病の診断に対してより診断的な情報を与える。PHQ-9はまた、治療反応性も定量化できる。
《文献吟味の結果》
 5つの研究は合計5652人の患者においてこれらの手法を評価し、うち1653人が参照基準となる面接を受けた。それぞれの研究は、米国(研究数=2)、ドイツ(研究数=2)、ニュージーランド(研究数=1)で行われた。
 これらの研究は、短い2-9項目のスクリーニング手法がより長い質問表に匹敵するあるいはそれを上回る性能を持つ、ということをこれまでのエビデンスに付け加える(表19-6)。
あ る質の高い研究では、HenkelらがPHQ-9およびWHO-5を、心理学的な健全性に関する一般的な測定法であるGeneral Health Questionnaire(GHQ-12)と比較した。PHQ-9の陽性尤度比(LR+5.2、95%信頼区間[CI]=3.9-6.8)は、WHO- 5(LR+2.6、95%CI=2.2-3.0)あるいはGHQ-12(LR+2.2、95%CI=1.9-2.6)よりも有意に高かった。PHQ-9の 陰性尤度比(LR-0.26、95%CI0.17-0.4)はWHO-5(LR-0.11、95%CI=0.05-0.25)およびGHQ-12(LR- 0.24、95%CI=0.14-0.42)に匹敵した。
他の3つの研究もこうした所見を支持している。Loweらは大学関連の家庭医療部門から抽出された1619人の患者を対象に、PHQ-9をHADSおよびWHO-5と比較した。PHQ-9は他の手法と比べ有意に高いLR+を有し、LR-はそれらに匹敵した。
Kroenke らは、プライマリケア部門および産婦人科部門の対象者から得られたPHQ-9に関するデータを統合した。この質の高い研究では、PHQ-9のLR+は 7.3(95%CI=5.6-9.4)、LR-は0.14 (95%CI=0.06-0.32)であることが分かった。
まとめると、PHQ-9は 他の短い手法よりも直接比較において優れた性能を有し、より長いうつ病質問法に匹敵するあるいはより優れたLRを有することを、これらの研究は示してい る。PHQ-9は大うつ病に対するDSM-Ⅳの基準症状について特に尋ねるという利点を持ち、臨床的な状態変化にも反応することが示されている。それゆ え、PHQ-9は診断面接法に不可欠の症状に関するデータを提示し、加えて治療への反応性をモニターすることもできる。

【開催日】
2010年10月6日(水)

~緩和ケア: 呼吸困難感に酸素投与は必要?~

【文献】
Barbara J. Stephenson et al.: Effect of palliative oxygen versus room air in relief of breathlessness in patients with refractory dyspnea: a double-blind, randomized controlled trial, Lancet, vol.376 September 4, 2010

【要約】
《背景》
緩和的な酸素療法は死期のせまっている疾患で不応性の呼吸苦の患者に良く投与されている。しかし、緩和的酸素吸入が室内空気吸入に比べて効果があるかどうかについて調べた。
《論文のPICO》
P:オーストラリア、米国、英国の9つの呼吸器、緩和ケア、オンコロジーおよびプライマリ・ケア外来クリニックで7.3kPa(54.7mmHg)以上の動脈酸素分圧で予後不良、不応性の呼吸困難を呈する患者
I:経鼻カニューレにより1日15時間以上、7日間、2L/分の酸素投与を行う。
C:経鼻カニューレにて同様の条件で室内空気投与を行う
O:起床後30分以内と就寝時の2回、その時点での呼吸困難の状態をNRS(数値的評価スケール)にて0(全く息切れを感じない)~10(想像される最高に苦しい状態)の変化で評価
《結果》
【背景】
緩和的な酸素療法は死期のせまっている疾患で不応性の呼吸苦の患者に良く投与されている。しかし、緩和的酸素吸入が室内空気吸入に比べて効果があるかどうかについて調べた。
【論文のPE(I)CO】
P:オーストラリア、米国、英国の9つの呼吸器、緩和ケア、オンコロジーおよびプライマリ・ケア外来クリニックで7.3kPa(54.7mmHg)以上の動脈酸素分圧で予後不良、不応性の呼吸困難を呈する患者
I:経鼻カニューレにより1日15時間以上、7日間、2L/分の酸素投与を行う。
C:経鼻カニューレにて同様の条件で室内空気投与を行う
O:起床後30分以内と就寝時の2回、その時点での呼吸困難の状態をNRS(数値的評価スケール)にて0(全く息切れを感じない)~10(想像される最高に苦しい状態)の変化で評価した。
【結果】
239名が登録、酸素群120名、室内空気119名に割りつけられた。
内訳は男性7割、平均年齢73-4歳、平均の動脈酸素濃度10kPa(75mmHg )であった。
酸素群の93%(112人)、室内空気群の83%(99人)が7日間の評価を修了した。
介入後(6日後)のNRSのベースラインからの変化は

酸素投与群   -0.9(95%CI-1.3 to-0.5) (ベースラインのNRS 4.5)
室内気投与群  -0.7(95%CI-1.2 to-0.2) (同 4.5)
P=0.504

酸素投与群   -0.3(95%CI-0.7 to 0.1) (同 4.7)
室内機投与群  -0.5(-0.9to-0.1) (同 4.7)
P=0.554
副作用は両者で差は見られなかった。
《結論》
経鼻カニューレ投与下では、酸素投与であろうと室内空気投与であろうとNRSでの呼吸困難感の改善に有意な差はみられなかった。

【開催日】
2010年10月6日

~ナラティブ・セラピーの紹介とillnessを聴く意味と深み~

【文献】
「ナラティヴ・セラピーの世界」 日本評論社1999年 第一版  小森康永ら編著

【要約】
≪概念≫
人間は解釈する生き物である。つまり、私たちは人生を生きるとき、自分たちの経験を積極的に解釈しているということである。明瞭な何らかの枠組みを頼ることなしには経験を解釈することはできない。
こ の枠組みを構成するのが、ストーリーである。そしてそのストーリーは「経験」「意味」「行為」というものが円環になった状態である。経験することで、その 意味付けがされ、それが行為へつながる、という一連の流れがストーリーである。認知療法との違いは、このストーリーが個人の中にあるもの(認知の歪みな ど)ではなく、家族をはじめとする様々な人々との相互作用によって絶えず構成されつつあるという考え方である。(ここにナラティブセラピーが家族療法を出 自とする由縁がある)そしてこのストーリーの書き換え(リ・ストーリング)が治療の内実となる。
≪背景≫
・社会構成主義的な主張「現実は社会的に構成される」という前提に立つ。我々の思いや他者との交流を通して現実を我々は経験する。
・日常生活は、何よりもまず言語による意味づけによって維持されている。会話の機構は現実を維持すると同時に、絶えずそれを修正する。また自分を語ることが自分を構成することであり、自分自身を経験することでもある。
・人間の病いは、基本的には意味をもつものであり、そしてすべての臨床的な実践は、本来的に解釈を伴ったものである。
≪ナラティブ・セラピーの姿勢≫
・ リフレイミング「ある具体的な状況に対する概念的および感情的な構えや見方を変化させることであり、それは同じ状況下の『事実』の意味を規定する古い枠組 みを代えて、それよりも良い、もしくは同等の他の枠組みを与えて全体の意味を変えてしまうこと」(責任はセラピスト)ではなくて…
リ・ストーリン グ「今まで認知されがたかった問題解決の具体例である『ユニークな結果』が明らかにされると、そのユニークな結果を説明させる質問、それに伴う人間関係を 再描写するように誘導する質問をして、新しいストーリーを築いていく方法」(すべての人が意味を作り上げることに協力する責任)
「リフレイミングとは対照的に、リ・ストーリングは過去と現在そして未来を抱合するより広い意味の文脈に適応される。」
・ 無知の知とは、セラピストの旺盛で純粋な好奇心がその振る舞いから伝わってくるような態度ないしスタンスのことである。話されたことについてセラピストが もっと深く知りたいという欲求をもつことが『無知』ということで、その欲求を相手に表すことが『無知の姿勢』となる。セラピストはクライエントによって常 に教えてもらう立場にあり、この『教えてもらう』立場こそ無知のアプローチを端的に表している。
・理解の途上でとどまり続けること:セラピスト自身の理解の範囲に限界があることを認識する。
・クライアントの語るローカルな言葉を使用する。
・無知の立場をとる場合、セラピスト自身がどのような「自己物語」を生きようとしているのか?という問いかけの深さが、対話する二人のコミュニケーションの相互作用に反映される。

≪実際の技法≫
・会話的質問「この病気にかかったと思ってどのくらいですか?」→「この病気にかかってどのくらいですか?」(その会話が広がるという焦点をもつ質問。相手のもつ現実に立った会話としてのやりとり)
・Bio‐Psycho‐Socialの各レベルで治療者と患者の間で視点が共有され、折り合いをつける。
・「老い=衰退である」「社会の抱く女性らしさ」などの神話に対して自己認識し、無知の知の姿勢で面接をする。

【開催日】
2010年9月29日

~プライマリ・ケアの場で認知症と診断された患者さんの予後~

【文献】
Rait G et al. Survival of people with clinical diagnosis of dementia in primary care: Cohort study. BMJ 2010 Aug 5; 341:c3584.

【要約】
《目的》
プライマリ・ケアの場で、認知症と診断された後の生存期間を概算する。また、認知症の発症数を確定する。
《デザイン》
プライマリ・ケアのデータベースからの情報を用いたコホート研究
《セッティング》
353のGP施設
《対象者》
患者は1990-2007に認知症と新たに診断された60歳以上の成人22529人。対照はランダムに選ばれた認知症のない112645人(患者群の5倍)。
《主要アウトカム》
生存期間の中央値, 認知症の発症数
《結果》
認 知症と診断された患者さんの生存期間の中央値は60-69歳で6.7(3.1-10.8)だが90歳以上で1.9(0.7-3.6)と低下。調整死亡率は 診断後1年目でもっとも高かった(relative risk 3.68)。これは2年目に2.49まで低下した。認知症の発生数は、3-4/1000人年と安定していた。発生率は女性や若年(60-79歳)群でより 高かった。
《結論》
生存期間の中央値は、スクリーニングされた場合より短い(構造化された認知症スクリーニングツールを使って行った地域 住民に基づいた研究では、認知症発症後の生存期間の中央値は、65~69歳の対象者で10.7年、90歳以上の対象者で3.8年であった。)。この臨床的 に有用な結果は、患者・介護者・医療者・政策者を助けとなりうる。診断後1年目がもっとも死亡リスクが高いことは、診断が危機の時期や疾患経過の遅い時期 になされることを反映しているかもしれない。プライマリ・ケアにおいて認知症の診断が遅れることは、早期介入の機会を逸することになるかもしれない。

【開催日】
2010年9月29日