~対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)~

【文献名】
水島広子. 臨床家のための対人関係療法入門ガイド.創元社,2009.

【要約】
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)とは
・「対人関係療法」は、KlermanやWeissmanによって1960年代末から開発され、1984年に定義づけられた。日本ではまだ認知度は低いが、現在、米国精神医学会などの治療ガイドラインにおいてもうつ病に対する治療法として位置づけられており、「認知行動療法」と双璧をなすエビデンスのある期間限定の短期精神療法として認識されている。

・対人関係療法は「対人関係が原因で病気が起こる」と一元的に考えられているわけではなく、従来のように遺伝的、人生経験、社会状況や個人的ストレスなどの「多源モデル」で考えられている。一方で、うつ病などの発症のきっかけとしてはほとんどが「対人関係上の状況」がある。「過労」であっても、一見対人関係とは無関係に見えるが、その人がなぜ過労に陥るほど仕事を抱え込んだのか、断ることはできなかったのか、などと考えると、これも1つの対人関係上の状況とみることができる。

・対人関係療法で目指すことは、抑うつ症状を減じることと対人関係機能・社会的機能を改善することである。つまり、「症状と対人関係問題の関連」を理解し、対人関係問題に対処する方法を患者自身が見つけることによって、症状に対処できるスキルを身につけられることである。

対人関係療法の特徴
(1)期間限定
 短期療法の場合も維持療法の場合も、もちろん必要がある場合には治療を継続して行うが、その場合も「期間限定の治療を再契約する」という形にする。期間限定にする利点としては以下のことがあげられる。
①目標を明確に取り組むことができる、②期限を意識することで治療の集中度が高まる、③決められた期間の中で計画的に治療を進めることによって、治療で得たものを振り返り本人のスキルとして定着させていくことができる、④終結があることが常に明確にされるため、依存や退行を防ぐことができる。

(2)焦点化
 患者が、対人関係の4つの問題領域:①悲哀(患者にとって重要な人の死)、②対人関係上の役割をめぐる不和・不一致、③役割の変化(生活上の変化)、④対人関係の欠如(社会的孤立)のうちどの領域に問題があるかを焦点化する。

(3)現在の対人関係に取り組む
 対人関係療法では、現在進行中の対人関係と症状の関連を扱う。過去の人間関係は、初期に聴取して認識するが、治療の焦点とはしない。

(4)精神内界ではなく対人関係が焦点
 精神分析など「治療者がそれをどう解釈したか」ということではなく、「実際に患者と相手との間で何が起こっているか」ということに焦点を当てる。相手は何と言ったのか、患者はそれについてどう感じたのか、その結果患者はどう行動したのか、それが相手にどう伝わったのか…ということに焦点を当てる。

(5)認知ではなく対人関係が焦点
 対人関係療法では、最終的には認知行動療法と同じように認知面への効果は大きいが、治療の焦点は患者の気持ちや感情に注目し、それを引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点を当てる。「どのような認知がそのような感情を引き起こしたか」と考えるのではなく、「誰が何を言ったからそのような感情が起こったのか」ということを直接みる。

(6)パーソナリティは認識するが、治療焦点とはしない
 「対人関係」というと、すぐに「パーソナリティの問題」として片付ける人が多いが、対人関係療法ではパーソナリティを変えることを治療焦点とはしない。これはⅠ軸障害(臨床的な疾患)があると、Ⅱ軸障害(パーソナリティ障害にみえるもの)がしょうじることが多いためである。

対人関係療法のエビデンス
・対人関係療法はうつ病に対して三環系抗うつ薬と同等の効果を示すが、異なる領域に効果を発揮するため、併用により効果は高まる。治療終結後1年間のフォローアップで、対人関係療法を受けた群の心理社会機能が優位に改善した(Weissman et al.1979)・重度のうつ病に対しては対人関係療法は認知行動療法よりもすぐれた効果を示す(NIMH研究:Elkin et al.1989)
・対人関係療法のみで寛解に至った患者は、対人関係療法のみで2年間の寛解を維持できる可能性が高い。維持治療の効果は、月1回、月2回、週1回の受診間隔で変化はなかった(Frank et al.2007)
・維持治療が対人関係に焦点化されていた方が、再発までの期間が有意に長かった(Frank et al.1991)
※国際IPT学会(International Society for Interpersonal Psychotherapy)のサイトを参照:http://www.interpersonalpsychotherapy.org/

【開催日】
2010年12月29日(水)

~意欲の低下した認知症患者にどう関わるか~

【文献名】
折茂賢一郎、安藤繁、新井健五 共著 廃用症候群とコミュニティケア  医歯薬出版株式会社 p187-195, 

【要約】
Tさん 82歳女性 認知症
・ADLは誘導と指示などの軽介助があればほぼ自立。
・意欲・活動性が低く放っておくとすぐに横になって居眠りする。→自宅で転倒し大腿骨頚部骨折で入院加療
・家族が話しかけても開眼すらしない。
・体を他動的に起こそうとしても、全身に全く力が入らない。

このように、認知症高齢者は「どうせ、何もできないから・・・」、「また、失敗するから・・・」、「何を言ってもわからないから・・・」、「聞こえないから・・・」と放置されやすい。また、問題点(できないこと)を探すとできないことだらけになってしまい、「これはよくなる見込みはない」と判断して放置してしまう。

そこで、「残存能力(できること)」を発見しようとする視点をもち、評価することが大切。
・過去の生活史や仕事、趣味などの「個人」の情報から残存能力を見つけ出す、「昔とった杵柄によるアプローチ」。
・Tさんは東京の女学校を優秀な成績で卒業、読書が趣味だったという話から「昔取った杵柄」は「読書」「活字」「文字」に関連する能力ではないかとアプローチして、「声を出して文章(活字)を読むことができる」という能力が残っていたことがわかった。
・Mさんは和裁の先生をしていたという生活史から、周囲の「危ない!」という反対の声もあったが、「針と糸とタオル」を渡したところ、みごとに雑巾を縫い上げた。

いずれのケースも、発見したアプローチを継続的に実施し、発展させていくことで着実に認知症状は改善をみせた。このように、認知症の高齢者に対するアプローチは、個別に行っていくことが大切である。

【開催日】
2010年12月29日(水)

~患者が考えるプライマリケアの近接性、継続性、協調性の特徴とは?~

【文献名】

Jeannie L. Haggerty, et al. Practice Features Associated With Patient-Reported Accessibility, Continuity, and Coordination of Primary Health Care. Ann Fam Med. 2008 March; 6(2): 116-123.


【要約】

(目的)

プライマリヘルスケアのリフォームが行われる前に、患者にとっての近接性、継続性、協調性を左右する診療組織、医師の診療に寄与しているものを同定するためのプライマリヘルスケアの多角的調査を行った。



(方法)

・プライマリヘルスケアクリニックをカナダケベック州において都市部、準都市部、へき地、remort locationにおいてそれぞれランダムに選んだ。

・それぞれのクリニックで4人までの家庭医、総合医を選び、研究者が4つのクリニックの待合室に詰め、20人の患者を連続サンプリングし、PCAT(Primary Care Assessment Tool;http://www.jhsph.edu/pcpc/pca_tools.html)を用いて、以下について調査した。



*first-contact accessibility: 初診の近接性(突然の発症に対して迅速にケアが得られているか)

*relational continuity: 関係性における継続性(患者それぞれの特徴を知っている医師との継続した関係性)

*coordination continuity: 協調性の継続(医師と専門医との間の協調性)

・医師は診療の側面を報告し、秘書やディレクターはクリニックの組織的な特徴について報告した。

・Hierarchical regression modelを用い、クリニックにおいて定期通院している患者の二次解析を行った。



(結果)

100か所のクリニックが参加し(61%の回答率)、221人の医師、2725人の患者(87%の回答、追跡終了率)に対して実施した。

PCAT score 1点:definitely not、2点:probably not、3点:probably(最低ラインと設定)、4点:delinitely
first-contact accessibility:初診の近接性…平均2.30(施設側の問題20.3%、医師側の問題3.2%)

これがもっとも問題があった。
急病に対して1日以内に診療を行うか、助言を行ったのは、たった10%であった。

平均24日(中央値19日)であった。

近接性は10人以下の医師(10人以上いると-0.21点)、看護師のいるクリニックで(+0.12点)、24時間毎日電話対応に応じるクリニック(+0.30点)、他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.03点)、夕方の診療を行っていること(+0.07点)が良い結果となった。



relational continuity: 関係性における継続性…平均3.35(施設側の問題8.8%、医師側の問題6.7%)
他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.03点)や夕方診療(+0.05点)がこられにも有利に作用していた。継続性に価値を見出し(+0.09点)、コミュニティに対して親和性を感じている(+0.05点)医師はよりよい関係性の継続性を育んでいた。それゆえにaccessibility-oriented style(ウォークインが多く(ウォークインが50%未満に比較して70%以上だと-0.14点)、患者数が多くなる(1時間当たりの平均診察患者数が3.4人以上になると-0.03点))が継続性を妨げる要因にもなっていた。

coordination continuity協調性の継続…平均3.30(施設側の問題2.4%、医師側の問題6.3%)
これはさらに他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.04点)や継続した電話対応(+0.16点)やPT/OTの存在(+0.12点)との関連があった。また、医師が病院にパートタイムで診療に行っている場合で50-70%程度を自クリニックにて診療を行っているケース(+0.09点)やクリニックにおいて幅広い手技(+0.02点)を実施している場合により良い結果となっていた。



(まとめ)

クリニックがどのように組織されるかで医師が近接性、継続性を達成できるかが決まってくる。両方を手にする特徴は夕方診療と電話対応、他のヘルスケア機関と正式な運営上の連携を得られていることであった。

(DISCUSSION)
理想的なfamily medicine groups(FMGs)モデルの特徴は、8~10人の医師がいて、看護師がいて、夕方診療を行い、nurse help lineとつながる情報リンク(電話対応可能という意味か?)があり、他の施設とのケアを正式な形態でシェアしていることである。
医師が一か所以上の施設で働くと、専門家との個人的な関係性強化につながるということも分かった。



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【開催日】
2010年12月22日(水)

~認知症高齢者の困った行動(BPSD)とどう接するべきか?「パーソンセンタードケア」②~

【文献名】
認知症の介護のために知っておきたい大切なこと パーソンセンタードケア入門 トム・キットウッド,キャスリーン・プレディン著 高橋誠一監訳 寺田真理子訳 筒井書房 より p69-90

【要約】
(おさらい)パーソンセンタードケアとは?
おおもとは、イギリスの心理学者のT. キットウッドが提唱。
●パーソンセンタードケアのコンポーネント
•人間性が失われたのではなくて、見えなくなっているだけとみなす。
•全てのケアの場面で、その人の人間らしい側面を重視する。
•環境やケアを個別化したものとする
•意志決定の共有(Shared-decision making)を提案する
•認知症の方の行動を、その方の視点にたって解釈する
•ケアのルーチンタスク(清拭など)と同等に、認知症の方との関係性に重きを置く。

(この書籍について)
T.キットウッドが自らが介護者・家族向けに書いた、認知症患者との接し方の訳本。
上記の原則から始まって、日常の接し方、サポート、生きがい、薬との付き合い方、人権やグリーフまで網羅して接し方について具体的なことから心構えのようなところまで記してある。
その中から、今回は第7章『徘徊やおもらし、攻撃…認知症の「困った!」にどう対応すればいいの?』を紹介します。この章は、いわゆる認知症の問題行動(BPSD;Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」について総論と、よくあるもの7つ(徘徊、失禁、攻撃、物を隠す、同じことを繰り返す・叫ぶ、性的行動、妄想・幻覚)について個別に取り上げています。

(基本的な考え方)
●認知機能が衰えてくると、周りの世界は以前よりもおそろしい場所のように思える。周りの人がだれなのかわからなくなっていく。混乱は不安を生み、さらにこの年齢層に特有の病気や障害の多さが加わって、生活の中でのあらゆる問題によって、うちのめされてしまう。喪失や障害を抱えている彼らがうまくいかないということに共感することが重要である。
●問題行動を起こしているのは「彼ら」であるが、実際には私たちの思いやりや優しさ、注意が足りないために、「わたしたち」も問題の一部であることが往々にしてある。
●手っ取り早い解決策を取ろうとする代わりに、以下の5つを考えることが有用である。
①それは本当に問題なのか?どれくらいの頻度で起きているか?
②どうしてそれが問題なのか?
③だれにとって問題なのか?私たち介護者が変化や適応、受け入れを拒むことで問題にしたのではないか?
④「問題行動を」する人は、わたしたちに何かを伝えようとしているのではないか?
⑤どうすれば、その人の生活の質を高めるような方法でこの問題を解決できるでしょうか?

(各論)
全般的に、問題行動の裏にあるその人の不安が何かをくみ取り、その人が本当は必要としているもの、を考えるように促す内容が記されています。(「徘徊」の部分の内容を例に挙げてみます。)
●徘徊は、不安を感じた人が、なじみの場所や愛する人を探したり、仲間や安心を求めているため起こす行動かもしれない
●活気や十分な刺激がなくて、単に生きていることを実感したいだけかもしれない。
●夜に増えるのは、光や音がなくなり、人もいなくなり、感覚に訴えるものが少ないからで、仲間と一緒にいて安心する人は夜になると不安になってくるかもしれない。
●混乱が原因ではないこともある。トイレに行きたいかもしれない。痛む所があるのかもしれない。服が汚れて気持ちが悪いのかもしれない。退屈なだけかもしれない。運動不足が原因のこともある。

●徘徊をやめさせるための鎮静薬は、徘徊する人より混乱させてしまう可能性が高い。安全に徘徊できるようにする方がいい。もっと徘徊者を安心させる方法は、一緒に歩いてみること。腕や手をとったり、近くに一緒に居るというメッセージを送り、安心させる。
●急に家具の場所を変えたり、夜に物の位置を変えることは避ける。寝室の明かりをつける
●一人で外へ出る人なら、状況に応じて鍵をかける必要がある。馴染みのないドアの下の部分につける必要がある。身分証明書は持たせるようにする。

●万が一徘徊しても、パニックを起こさず、警察の力を借りて探すのを手伝ってもらう。
●再発をどうやれば防げるか考える。刑務所のように閉じ込めるよりは、少しのリスクを引き受ける方がよいでしょう。

【開催日】
2010年12月15日(水)

~新しいCSR(カルテを利用したケースレビュー・振り返り)のワークシート~

【文献名】
Shirley Schipper : Structured teaching and assessment; A new chart-stimulated recall worksheet for family medicine residents: Can Fam Physician 56(9) 958 – 959, 2010.

【要約】
Evidence and Best Practice
・CSRは、診療の強みと弱みを同定するツールとして効果があり信頼性がある。
・CSRの信頼性と妥当性は家庭医療学の分野とそのほかの専門家、リハビリの領域で発展してきた。
・CSRの最もよい利点はFeedbackをすぐにかけることができる評価ツールであることである。
・学習評価のためのレジデント教育へのCSRの適用は、論理的Stepがある。
・今までのCSRではPatient centered careの評価が弱かったため今回再作成した。またCanMEDS-FMの役割(2009年提唱のカナダの家庭医の役割)に則って質問を再構成した。
・新しいCSRの私たちの使用経験では全てのレベルの学習者に有用であり、特にハイレベルに機能していて外来でのFeedbackが少なくなりがちな優秀な学習者に役に立つことがわかった。また困難を抱えている学習者にとってもCSRワークシートは、知識のギャップを表面化し、臨床推論スキルを評価し、共通の理解基盤に立つための問題点を同定するために有効であった。

Using the CSR tools
・学習者は課題の準備をする。指導医は学習者にカルテをレビューし事例についてディスカッションを行うことを知らせる。
・学習者はこれが教育セッションであることを知らされ、学習者はカルテ記載やカルテレビューでFeedbackを受けることを知らされる。
・レビューのためのカルテが選定される。
・指導医、学習者でカルテ記載をみて、カルテ記載についてのFeedbackをワークシートのBoxAに書く。
・質問リストから、患者中心のケアや家庭医の役割について切実なものを選んで議論のガイドとする。
・議論に対するFeedbackをワークシートのBoxBに記入する。
・Feedbackを学習者に渡し、ポートフォリオにはさんでもらう。

Conclusion
・CSRは各プログラムや自身のニーズに合わせて使用される。
・コンピテンシーに基づくシステムの一部として、また困難を抱える学習者について、有用性を更に調査中である。

*CSRワークシートの使用説明書・質問集の和訳、CSRワークシートのVer1.0は添付文章参照。

【開催日】
2010年12月8日(水)

~SAHの早期診断~

【文献名】
Perry JJ, et al. High risk clinical characteristics for subarachnoid hemorrhage in patients with acute headache: prospective cohort study. BMJ 2010;ONLINE FIRST.

【要約】
(目的)
・ 頭痛を訴える神経学的異常所見のない患者において、SAHについてリスクの高い臨床特徴を同定する。

(研究デザイン)
・ 5年にわたる多施設前向きコホート研究

(セッティング)
・ 大学関連の3次救急対応教育病院6カ所にて2000.11~2005.11までデータ収集

(参加者)
・ 1時間以内にピークに達した非外傷性頭痛を訴えて、神経学的異常所見のない患者

(主要アウトカム)
・ 頭部CTでのくも膜下腔の出血像、脳脊髄液中の黄色症(キサントクロミー)、血管造影で陽性所見(動脈瘤)を示しかつ脳脊髄液中の赤血球像 のいずれかで確定されたクモ膜下出血

(結果)
・ 登録された1999名の患者の中で、130症例のSAHを認めた
・ 平均年齢は43.4歳(16-93歳)、1207名(60.4%)が女性、1546名(78.5%)が人生で最悪の頭痛だと訴えた。
・ 13の病歴情報と3の身体診察所見の信頼性が高く、SAHとの関連が見られた。
・ これらの変数を帰納的に群分離して、3つの臨床診断ルールを設定した。
・ 全てが100%の感度(95%信頼区間 97.1-100%)、28.4~38.8%の特異度を示した。
・ この3つの診断ルールのうちどれかを利用すれば、CT・腰椎穿刺・その両者の検査率を現在の82.9%から63.7~73.5%に低下させることができたであろう。
<ルール1> 感度100% 特異度 28.4%
 40歳以上、頚部痛やこわばりの訴え、意識消失の経験、運動に伴う発症
<ルール2> 感度100% 特異度 36.5%
 救急車での到着、45歳以上、少なくとも一度の嘔吐、拡張期血圧100以上
<ルール3> 感度100% 特異度 38.8%
 救急車での到着、収縮期血圧160以上、頚部痛やこわばりの訴え、45-55歳

(結論)
・ ある臨床的な特徴はSAHに対する予想因子となりうる。
・ 1時間以内にピークに達した頭痛を訴える患者には、実践的で感度の高い臨床診断ルールを利用することができる。
・ 前向きの検証も含めて、ここに提示した診断ルールに対する更なる研究を実施することで、頭痛の患者に対してより選択的で正確な検査を行うことができるようになるはずだ。

【開催日】
2010年12月8日(水)

~「更年期」の女性への対応~

【文献名】
D. ASHLEY HILL, SUSAN R. HILL: Counseling Patients About Hormone Therapy and Alternatives for Menopausal Symptoms. American Family Physician: 82(7):801-807, 2010

【要約】
最近の大規模臨床研究の結果から臨床家や患者は更年期のホルモン治療の安全性に疑問を持つようになった。過去には、健康全般を改善、心疾患を予防を試みるためにホルモン療法を行っていた。ホルモン療法は3-5年以上使用した場合、乳癌のリスクを高めるようである。従って、規制当局はホットフラッシュや膣乾燥といった更年期症状に対してのみ、最短期間、最少量での処方を行うよう助言している。ホットフラッシュにはエストロゲンが最も効果的ではあるが、venlafaxine(ベンラファクシン:SSNRI)やgabapentin(ガバペンチン:抗てんかん薬)といった代替療法も有効なことがある。dong quai(中国で古くから用いられたハーブ)、 朝鮮人参、kava(ポリネシア原産のハーブ)、食用大豆といったハーブ製剤はプラセボ以上の利益は得られないようである。子宮内膜保護目的のプロゲステロンの追加治療が必要ないので、外陰膣部の乾燥症状に対するエストロゲン局所療法は全身投与に比べて魅力的である。SERM:選択的エストロゲン受容体モジュレーターを閉経後骨粗鬆症の予防に対してホルモン療法の代替治療として支持している人もいる。どちらの治療も潜在的に健康に有害な効果があり、静脈血栓症のリスク増加と関連しているため、どちらを使用するかは臨床症状によって、またリスクとベネフィットを評価して決めるべきである。
Key Recommendations for Practice :(R8、B9)
 【Bioidentical and compounded formulations;人体と同一の、調合された製剤】
R:FDAおよび米国産婦人科学会は、配合ホルモン製剤の処方に関する安全性と有効性データの欠如に対して、警告を発している(エビデンスレベルC)。
 【Bone health;骨の健康】
B:エストロゲン補充療法は閉経後骨粗鬆症性骨折のリスクを減らす選択肢の一つ;FDAに認可された骨粗鬆症治療ではないものの、非ホルモン療法が使えない場合の選択肢の一つとなる(エビデンスレベルB)
 【Cancer risk;悪性腫瘍のリスク】
R:エストロゲン・プロゲステロン併用療法を3~5年以上継続することにより乳癌のリスクが上昇する(エビデンスレベルB)
B:エストロゲン単独療法では明らかな乳癌のリスク上昇は認められない(エビデンスレベルB)
B:エストロゲン・プロゲステロン併用療法は大腸癌のリスクを減少させる。エストロゲン単独療法におけるリスクの変化は明らかでない(エビデンスレベルB)
R:子宮のある女性でのエストロゲン単独療法は子宮体癌(子宮内膜癌)のリスクを上昇させるため、完全な子宮の残った女性がエストロゲンを使用する場合は、プロゲステロン療法の併用が勧められる(エビデンスレベルC)
 【Dosage and duration;用量と期間】
B:更年期症状を訴える女性に対して、ホルモン補充療法は治療の選択肢の一つであり、最小有効量を最短の期間で用い、定期的に再評価を行う(エビデンスレベルC)
R:ホルモン補充療法を3~5年継続した後は、毎年治療の終了を試みるべき(エビデンスレベルC)
 【Heart disease;心疾患】
R:ホルモン補充療法は心疾患予防としてはいかなる年齢の女性に対しても勧められず、既存の心疾患治療にもならない(エビデンスレベルA)
B:早期ホルモン補充療法(閉経開始の時期)は、更年期症状を訴える、心疾患のリスクの低い女性に対しては妥当なものである(エビデンスレベルB)
R:60~70歳代の女性に対してホルモン補充療法を開始することは、冠動脈疾患のリスクを高める;この治療法はホルモン以外の薬物療法に耐えられない有症状の女性に対し、治療のリスクと有益性を医師と十分に議論した上でのみ行われるべき(エビデンスレベルA)
 【Stroke;脳梗塞】
R:エストロゲン・プロゲステロン併用療法とエストロゲン単独療法はいずれも虚血性脳卒中のリスクを上昇させる。特に治療開始後1~2年間はリスクが高い(エビデンスレベルA)
B:知見は一貫していないものの、50~59歳でホルモン補充療法を開始した女性では脳卒中リスクは上昇しないと思われる(エビデンスレベルB)
 【Vasomotor symptoms;血管作動性の症状】
B:更年期の血管運動症状に対して、エストロゲンは最も有効な治療法であり、この適応に対してはFDAも認可している(エビデンスレベルA)
 【VTE;静脈血栓症】
R:エストロゲン単独療法およびエストロゲン・プロゲステロン併用療法はVTEのリスクを上昇させる。特に治療開始後1~2年間はリスクが高い。60歳未満、あるいはエストロゲン単独療法の女性のリスクはやや低い(エビデンスレベルA)
B:観察研究のデータ(ランダム化比較試験ではない)によると、経皮エストロゲンは経口エストロゲンよりもVTEのリスクが少ない可能性がある(エビデンスレベルB)
 【Vulvovaginal symptoms;外陰膣部症状】
B:中等度から重度の外陰・膣萎縮に対しては、局所エストロゲン療法が最も有効な治療法であり、この適応に対してはFDAも認可している。プロゲステロンの追加は必要としない(エビデンスレベルA)

【開催日】
2010年12月1日

~非結核性抗酸菌症の診断~

【文献名】
David E Griffith, Richard J Wallace, Jr: Diagnosis of nontuberculous mycobacterial infections of the lungs in HIV-negative patients. Up To Date ONLINE 18.3: last updated December 2, 2009.

【要約】
臨床的基準(以下の両者を満たす)
1.肺症状、胸部レントゲンで結節状あるいは、空洞陰影(M.kansasii感染の90%、M.avium complex(MAC)感染の50%に見られ、結核感染の場合よりも壁が薄く、周辺実質組織が不明瞭になる)、HRCTで多発性の小結節陰影を伴う気管支拡張像。
・MACの少なくとも50%は気管支拡張像を伴う結節影を認め、それは右中葉、舌区に最も頻繁に見られる
・ある研究では、気管支拡張像も持つ患者で24%は肺に多発性の結節影を認め、喀痰培養でMAC陽性の患者で結節影を認めた患者が53%、認めない患者は4%に過ぎなかった。
かつ
2.他の疾患を適切に除外
微生物学的基準
(1)喀痰検査は少なくとも3回、別々の検体で検査する必要がある。その中で少なくとも2回、別々の喀痰の検体で培養陽性。もし、その結果から診断出来ない時場合、塗抹と培養を繰り返す事を考慮。
または、
(2)少なくとも1回、気管支洗浄液の検体で培養陽性。
または、
(3)経気管支的、または他の方法で採取した肺生検検体で抗酸菌の組織学的特徴(肉芽腫性炎症、あるいは抗酸菌)を有し、かつ、非結核性抗酸菌の培養陽性、または、抗酸菌の組織学的特徴(肉芽腫性炎症、あるいは抗酸菌)を有する生検検体と一つ以上の喀痰あるいは気管支洗浄液で非結核性抗酸菌の培養陽性。
(4)頻回の培養検査で診断できない、または、環境の汚染によるものと考えられる場合は、専門医にコンサルトする。
(5)非結核性抗酸菌症と疑われるが、診断基準を満たさない患者は、診断が確定するか否定されるまでフォローされるべきである。
(6)非結核性抗酸菌症と診断されても治療開始を必要としないこともある。それは、患者個々の治療に対するリスクと有益性に基づいて決定されるものである。

【開催日】
2010年12月1日(水)