国民皆保険、フリーアクセスという医療制度下においてもケアの継続性を保つことは「避けられる」入院を減らす

【文献名】
Shou-Hsia Cheng, et al. : A longitudinal examination of continuity of care and avoidable hospitalization. Evidence from universal coverage health care system. Arch Intern Med: 170(18): 1671-1677.
 
【要約】
<背景と目的>
台湾は1995年に皆保険制度を導入し、99%の国民が加入している。家庭医療科は23ある専門診療科の1つと位置づけられ、国民は自分の症状に合わせて自由に診療科を選び紹介状なしで受診することができる。国民1人あたりの受診頻度は15回/年と世界で最も高い国の一つであり、台湾国民の受療行動は「ドクターショッピング」と批判を受けることもある。このような環境は患者と医師のコミュニケーションや信頼関係やケアの継続性を損ないやすい。先行研究ではケアの継続性を高めることがERの受診を減らすこと、疾病の予防が進められること、入院を減らすこと、慢性疾患のコントロールが改善すること、ICUの利用が減ることが示されているが「避けられる入院」については研究されていない。一方で「避けられる入院」とプライマリ・ケアとの関連は研究されているが、ケアの継続性との関連を研究したものは少なく、十分な結果は得られていない。この研究では台湾の医療環境におけるケアの継続性の「避けられる入院」に対する影響を知ることを目的としている。

<方法>
2000年1月1日から2006年12月31日の期間、健康保険への請求データから医療サービスの利用状況を調査した。この期間に3名以上の医師を利用した30830人の患者がランダムに選択され、3つの年齢層に分けて解析した。主要アウトカムは避けられる入院と全ての入院とした。年齢、性別、低所得かどうか、ベースラインの健康状態、time effect、random subject effectを調整するためにrandom intercept logistic regression modelを利用した。
ケアの継続性の指標はContinuity of care index (COCI)を用いた。
COCIは患者がかかった医師の数とそれぞれの医師に受診した数からなる式で示される。
COCI=(Σnj2-N)/N(N-1)(Σの下にj=1,上にM)
Nは医師に受診した総回数、njは1人の医師を受診した回数、jは医師の番号、Mは医師の数。
COCIは0-1の間の数値で表され、1に近いほどケアの継続性が高い、とされる。
COCI自身に本来的な意味はないため、この研究では対象となった患者のCOCI値の分布を元に0.00-0.16をlow、0.17-0.33をmedium、0.34-1.00をhighとした。
「避けられる入院」はIOM(institute of medicine)による定義を用いた。

<結果>
3つ全ての年齢層においてCOCIが高ければ避けられる入院が発生する可能性は低かった。
全ての入院においても同様であった。

Table3 より抜粋 避けられる入院とCOCIの関連
 
110316_1

Table4 より抜粋 入院全体とCOCIの関連
 
110316_2

<結論>
フリーアクセス(この論文ではeasy access to careと記載)の環境下においてもケアの継続性を良好に保つことは避けられる入院、入院全体を減らすことにつながる。ケアの継続性を改善することが皆保険制度の中に置いても有効な戦略といえる。
 
【考察・ディスカッション】
台湾と同様に皆保険制度・フリーアクセスのシステムを取る日本においても、ケアの継続性(COCI)を高く保つ(多診療科受診を控えること、と言いかえてもいいだろうか)ことは避けられる入院、入院数全体を減らすことにつながる、と言え、日本の医療費高騰の解決策の一つとして家庭医療科の設置が有力であることのエビデンスになるのではないだろうか?
この研究の限界は自費診療を含んでいないこと(非常に少なくはあるが),患者の教育レベルなどの情報を加味して調整していないこと、結果を家庭医からの紹介を原則とする国には適用しにくいことであろう。
 
【開催日】
2011年3月16日

妊娠期間中の鉄、葉酸の補充が、子供の知能と運動機能に与える影響について

【文献名】
Parul Christian,DrPH  et al. Prenatal Micronutrient Supplementation and intellectual and Motor Function in Early School-aged Children in Nepal. JAMA:Vol 304,No24 2716, 2010.
 
【要約】
背景
鉄と亜鉛は知能と運動能力の発達に重要である。鉄と亜鉛を妊娠期間中の中枢神経が発達する重要な時期に補うことが、子供の後の機能に影響するかどうかを調査した研究はほとんどない。
 
目的
妊娠中に微量元素のサプリメントを行った母親の子供の知能と運動能力を調査する。
 
研究デザイン, 背景, 対象
ネパールの地方において、1999年から2001年までの間に出生前に各微量元素のサプリメントを与えられた5グループのうち4グループの女性から生まれた、676人の7~9歳の子供達を2007年6月から2009年4月までコホート研究により追跡調査した。サプリメントを与えたグループはコミュニティに基づき、二重盲検、ランダム化比較試験が行われている。研究対象の子供達は、後に行われた就学前の鉄と亜鉛の補充試験でのプラセボグループの子供達である。
 
介入
追跡調査される子供の母親は、鉄と葉酸、鉄と葉酸と亜鉛、鉄と亜鉛と葉酸に加え11の他の微量元素を含むマルチビタミンを、すべてビタミンAとともに与えられる群と、ビタミンA のみ与えられる対照群とにランダムに割り当てられ、妊娠早期から出産後3ヶ月まで毎日、各々のサプリメントを与えられた。これらの子供達は半年毎のビタミンAの補充以外、他の微量元素のサプリメントは受けていなかった。
 
結果測定方法
子供達の知能を測定するために the Universal Nonverbal Intelligence Test (UNIT)を用い、実行機能を測定するために go/no-go test, the Stroop test, and backward digit spanを行った。また 運動機能を測定するために the Movement Assessment Battery for Children (MABC) と finger-tapping testを用いた。
 
結果
鉄と葉酸が与えられた群ではコントロールに比較し、結果の違いが著明に出たが、その他のサプリメントグループでは違いはなかった。
鉄/葉酸群のUNITテスト平均点数は51.7(SD,8.5)であり、対照群では48.2(SD, 10.2)、交絡因子調整後の平均値の違いは2.38であった。 (95% CI, 0.06-4.70; P = .04) 対照群と鉄/葉酸/亜鉛群(0.73; 95% CI, −0.95 to 2.42)、マルチ微量元素群(1.00; 95% CI, −0.55 to 2.56)では差は明らかではなかった。
実行能力のテストでは、鉄/葉酸群の点数は対照群に比べ、Stroop test (失敗した人達における平均の差, −0.14; 95% CI, −0.23 to −0.04)とbackward digit span (平均の差, 0.36; 95% CI, 0.01-0.71)では良かったが、go/no-go testでは差はなかった。
MABC スコアは鉄/葉酸群は対照に比較し低かった(良かった)が、交絡因子調整後は有意ではなかった(平均の差, −1.47; 95% CI, −3.06 to 0.12; P = .07)。Finger-tappingテストでは鉄/葉酸群では点数が高かった(平均の差, 2.05; 95% CI, 0.87-3.24; P = .001)。
 
結論
鉄欠乏が蔓延している地域において、妊娠期間中の鉄+葉酸の補充は、出生した子供のワーキングメモリ、抑制のコントロールを含む知能の面、運動機能の面に、良い方向に関連している。
 
【考察・ディスカッション】
この研究の対象は、鉄の摂取不足が蔓延している地域の母親とその子供となっているが、食糧事情は悪くない日本においても、有用な情報となり得る。総務省統計局のホームページ、日本の統計2010によると、日本国民一人一日あたり食品群別栄養等摂取量にて摂取量自体は増加傾向にあるが、鉄分に関しては昭和50年の摂取量13.4mgであったのが、年々減少をみせ、平成18年では7.9mgとなっている。鉄の必要摂取量は閉経前の女性で12mg、妊婦では20mgとされている。つまり、現在の日本でも、妊婦における鉄不足は十分に考えられる状況である。この研究において、妊娠中の鉄+葉酸摂取が生まれてくる子供の知能、運動能力の発達に重要な役割を担っていることが示され、今後は栄養状態の乏しい国・地域への対策のみならず、飽食状態にあるわが国でも、意識的に栄養摂取を考える促しや、特に妊婦にはサプリメントの利用も積極的に勧めていくべきではないかと思われた。
 
【開催日】
2011年3月9日

アジア人におけるBMIと死亡リスクとの関連

【文献名】

Wei Zheng, et al.: Association between Body-Mass Index and Risk of Death in More Than 1 Million Asians. N Engl J Med 2011; 364: 719-29.



【要約】



【背景】

BMIと死亡リスクの関連を評価した研究は、ほとんどがヨーロッパ人を対象としている。




【方法】

アジアで19のコホートで集められた110万人以上の人々を対象に、BMIと死亡リスクとの関連を評価した。9.2年間で約120700人の死亡が確認された。
交絡因子の調整はCox回帰モデルを用いた。




【結果】

中国・日本・韓国を含む東アジアのコホートでは、最も死亡リスクが低いのはBMI 22.6-27.5の人々だった。それよりもBMIが高くても低くても死亡リスクの上昇がみられた。BMI≧35の場合は1.5倍、BMI≦15の場合は2.8倍であった。このようなU型の現象は、癌や心血管疾患やその他の原因による死亡のリスクとBMIとの関連にもみられた。インドとバングラデシュを比べたコホートでは、全ての、または癌か心血管疾患以外の原因からくる死亡のリスクはBMI 22.6-25.0の人々より20以下の人々で上昇していた。また一方で、BMIが高くなることで全てのまたは特異的な原因からなる死亡のリスクが過度になることはなかった。




Figure1.

110302_1


Figure2.


110302_2


【結論】

アジア人では、標準以下の体重が死亡リスクの増大と関連していた。BMI高値による死亡リスクの上昇は、東アジアではみられたが、インドとバングラデシュではみられなかった。




【考察とディスカッション】

中国・日本・韓国といった東アジアではBMI 22.6~27.5の人が最も死亡リスクが少ないという結果であり、
今後の外来診療における患者に対する指導が影響を受ける可能性がある。
理想体重(BMI=22)を基準とした保健指導がなされやすい昨今であるが、見直す必要があるのかも知れない。
データは対象者の年齢、性、教育レベル、居住地(都市部か郡部か)、婚姻関係、基礎疾患に関する状態といった交絡因子について調整されたものであり、BMI22.6~27.5の範囲を超える肥満、やせについても注意は必要であろう。(論文のdiscussionでは喫煙歴が交絡因子として取り上げられていないことが述べられている)
ただし、この範囲を超える肥満、やせの人に対して減量や太ることを指導すると結果を改善するかどうかについては今後の研究が必要である。




【開催日】

2011年3月2日(水)

在宅療養している認知症患者の介護家族から求められる、家庭医の役割とは?

【文献名】
Schoenmakers B, Buntinx F, Delepeleire J.: What is the role of the general practitioner towards the family caregiver of community dwelling demented relative? Scandinavian Journal of Primary Health Care 2009;27:31-40

【要約】
<目的>
①認知症患者の家族介護者に対する家庭医の態度と視点を明らかにすること
②介護者の満足度を記述すること

<研究デザイン>
システマティックレビュー

<対象>
認知症患者を抱える家族とその家庭医

<主要アウトカム>
①家族介護者の視点で在宅ケアを改善するために家庭医にとって必要な業務やスキル。
②家庭医が提供したケアに対する満足度。

<結果>
家庭医は認知症ケアのあらゆる側面について必要とされるスキルやその限界について認識していた。適切な診断の重要性も認識しているが患者や介護者に対して診断を開示することに不安感を感じており、認知症の診断の段階よりも治療の段階に対しては自信感を持っていた。 家庭医のそのような態度に対する介護者の回答はHelpfulからPoorly empathizedとまちまちであった。 家庭医は自分自身は認知症の在宅ケアによく関与していると認識していたが、介護者は不十分であると認識していた。家庭医のコミュニケーションスキルの拙さも介護者にとって低い評価につながっていた。 家庭医は十分な時間と報酬のなさが認知症ケアの大きな障害となっていると考えている。

【開催日】
2011年3月2日