電子カルテにおけるDMコントロールサポートシステムの効果

【文献名】
Patric J. O’Connor et al. Impact of Electronic Health Record Clinical Decision Support on Diabetes Care: A Randomised Trial, Annals of Family Mdedicine, Vol.9, Jan/Feb 2011

【要約】
<目的>
成人の糖尿病患者におけるHbA1c、血圧、LDLのコントロールにおいて、電子カルテによるDMサポートシステムの効果を調べた

<論文のPECO>
P 11のクリニックにおいて了承を得た41人のプライマリケア医がみている2556人のDM患者
E 診察時に電子カルテに基づいた臨床サポートシステムを利用する(HbA1C推移と治療オプションなど示したメモをカルテに挟む)と
C 同システムを使わないのに比べ
O HbA1c、血圧、LDLのレベルが改善されるか

<結果>
HbA1cレベルはコントロールと比較して‐0.26%, (95%[CI]-0.06% to -0.47%)改善された。収縮期血圧はよりよいメンテナンスの割合だった(80.2% vs 75.1%,P=.03)が、拡張期血圧のメンテナンスの割合は境界域(85.6% vs 81.7%, P=.07)で、LDLのレベルは差を認めなかった。介入群の医者の94%が満足し、中等度の割合で介入終了後1年後もこのサポートシステムを使用していた。

<限界点>
ベースラインのDMコントロールが比較的よいグループで、臨床的な改善は極めて緩やかだった。より少ないインセンティブによる代わりの研究が必要。この介入における効果のメカニズムをより詳細に解明する必要がある。
 
【考察とディスカッション】
ある意味でAuditの効果を測定している研究だと思うが、(多少は)介入の効果があるということが分かった。このような質改善につなげられることが電子カルテを導入することの利点の一つと感じた。
 
以下全体でのディスカッション
デンマークは7割のクリニックにおいてGP用に開発された単一の電子カルテを利用。国を挙げて電子カルテにアラーム機能を持たせている。
 
【開催日】
2011年4月27日

気分・不安障害のスクリーニングにおける質問紙の有用性

【文献名】
Bradley N. Gaynes et al. Feasibility and Diagnostic Validity of theM-3 Checklist: A Brief, Self-Rated Screen for Depressive, Bipolar, Anxiety, and Post-Traumatic Stress Disorders in Primary Care. Ann Fam Med 2010;8:160-169.

【要約】
<背景>
気分障害・不安障害はプライマリ・ケアにおいてはもっとも頻度の高いメンタルヘルスの問題であるが、見過ごされていたり、きちんと治療されていない。スクリーニングのためのツールがこういったメンタルヘルスの問題の発見に貢献しうるが、取り扱う疾患の数が多いため利用可能なツールは限られている。

<セッティングと対象>
2007年7月から2008年2月までに米国の大学の家庭医療クリニックを受診した18歳以上の647名の患者

<デザイン>
横断研究

<方法>
利用したチェックリストはこちら
Mini International Neuropsychiatric Interview (MINI)を診断のスタンダードとして用いた。
クリニックを受診する患者を随時参入。待合室でチェックリストに記入していただいた。
診察後に医師と患者双方にチェックリストの実用性に関する質問紙への回答を頂いた。
受診後30日以内にリサーチアシスタントが患者に電話し、MINIを実施。

<主要なアウトカム>
M-3チェックリストの大うつ病性障害、双極性障害、何らかの不安障害、PTSDに対する感度と特異度。

<結果>
(1)診断に対する妥当性
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(2)実用性
患者が待合室でM-3チェックリストに回答するのにかかる時間は5分未満であり、うまく回答できないと回答したのは1%未満であった。83%の医師が30秒以内に記入されたチェックリストを確認することが出来、80%以上の医師が有用であると回答した。

<結論とディスカッション>
M-3チェックリストの測定特性は既存の単疾患スクリーニング用のツールと比較しても有用であり、かつ何らかの気分障害や不安障害の存在をスクリーニングするだけではなく、特定できる可能性もある。

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また既存の多疾患スクリーニングツールに加えて双極性障害とPTSDもスクリーニングの対象とすることができる。実用性についても本研究では問題はなかった。
Table3

【開催日】
2011年4月20日

アルブミンとCRPはPEG増設後の短期予後の予後予測に役立つ。(欧州の前向きコホート)

【文献名】
John Blomberg,et al.Albumin and C-reactive protein levels predict short-term mortality after percutaneous endoscopic gastrostomy in a prospective cohort study. Gastrointest Endosc. 2011 Jan;73(1):29-36. 

【要約】
<背景>
PEG増設は多くの合併症を伴う可能性がある手技である。合併症のリスクに関して患者に説明をするために、重要なリスクファクターは理解しておく必要がある。

<目的>
年齢、BMI、アルブミン、CRP、PEG造設の適応となった病態、併存症がPEG増設後の死亡率、もしくは胃瘻周囲の感染に与える影響を評価すること。

<デザイン>
2005年から2009年までの前向きコホート研究。PEG増設後の感染症に関しては14日間追跡死亡率は30日間

<セッティング>
大学病院
【対象】PEG造設に至った484人の患者(参照:characteristicsはTable.1)
【介入】PEG 
【主要アウトカム】①30日間の死亡率と②PEG挿入後14日間の胃瘻周囲の感染率。
【結果】
①30日間の死亡率
484人の患者のうち、58人(12%)が30日以内に死亡した。
以下の項目が死亡率増加と関連した。
アルブミン<30g/L(日本では3.0g/dlの表記が一般的、基準値>36g/L)(HR, 3.46; 95% CI, 1.75-6.88)
CRP≧10mg/L(日本では1.0mg/dlの表記が一般的、基準値<3mg/L)(HR, 3.47; 95% CI, 1.68-7.18) 年齢≧65歳(HR, 2.26; 95% CI, 1.20-4.25) BMI<18.5(HR, 2.04; 95% CI, 0.97-4.31) 低アルブミンとCRP高値の両方を認める患者は死亡率は20.5%、それらを認めない患者は2.6%で 7倍の調整死亡率の増加があった(HR, 7.45; 95% CI, 2.62-21.19) ②PEG挿入後14日間の胃瘻周囲の感染率 453人の患者を評価した。 年齢、BMI、アルブミン、CRPでは差がなかった。 適応疾患で、脳梗塞の患者で他の疾患患者より感染リスクが低かった。 併存疾患では差がなかった。 <Limitations> 若干のデータを採取ができていない。 胃瘻周囲の感染に関して、フォローアップできなかった患者の内訳は20人が死亡、 9人はフォローできず、2人はカテーテルを抜去してしまったためであるが、 それらの患者がよりCRPが高かったり、アルブミンが低いなどの問題を抱えていた可能性 もあるため、関連が薄い方向へ結果が導かれた可能性がある。 サンプルサイズが大きいにもかかわらず、弱い関連も見出すことができなかった。 <まとめ> 低アルブミンとCRP高値の両方を認める場合(ここが新奇性があるとのこと)には、PEG増設後の短期間での死亡率増加につながり、適応を決める際には考慮すべきである。 【考察とディスカッション】 患者やその家族にとって胃瘻を増設するということは、生物医学的にも、心理社会的にも大きな問題である。その際に、当然のことながら予後を念頭に入れてディスカッションする必要がある。このような予後予測因子についての具体的な研究を原著で確認できたことは有意義であった。しかし、本研究では追跡期間が30日間と短期である。調整すべき要因が多くはなるが、家庭医としては中長期予後の予測因子の研究も望まれるところである。 以下、全体でのディスカッション 低アルブミンとCRPの高値であった場合、PEGを造設するのかしないのか? 造設せずに他の栄養法を選択した場合、または栄養を取りやめた場合、PEGを造設した場合と比較してどうなるのか? 造設した場合このアウトカムを避けるために何かすべきなのか? など、実際の臨床の現場に適用するには難しい部分が多い研究である。 110518

【開催日】
2011年4月20日

在宅療養している認知症患者の介護家族から求められる、家庭医の役割とは?

【文献名】
 Schoenmakers B, Buntinx F, Delepeleire J.: What is the role of the general practitioner towards the family caregiver of community dwelling demented relative? Scandinavian Journal of  Primary Health Care 2009;27:31-40

【要約】
<目的>
①認知症患者の家族介護者に対する家庭医の態度と視点を明らかにすること
②介護者の満足度を記述すること
 
<研究デザイン>
システマティックレビュー
 
<対象>
認知症患者を抱える家族とその家庭医
 
<主要アウトカム>
①家族介護者の視点で在宅ケアを改善するために家庭医にとって必要な業務やスキル。
②家庭医が提供したケアに対する満足度。
 
<結果>
家庭医は認知症ケアのあらゆる側面について必要とされるスキルやその限界について認識していた。適切な診断の重要性も認識しているが患者や介護者に対して診断を開示することに不安感を感じており、認知症の診断の段階よりも治療の段階に対しては自信感を持っていた。
家庭医のそのような態度に対する介護者の回答はHelpfulからPoorly empathizedとまちまちであった。
家庭医は自分自身は認知症の在宅ケアによく関与していると認識していたが、介護者は不十分であると認識していた。家庭医のコミュニケーションスキルの拙さも介護者にとって低い評価につながっていた。
家庭医は十分な時間と報酬のなさが認知症ケアの大きな障害となっていると考えている。

【開催日】
2011年3月2日

高齢者の予後予測には歩行速度が有用かもしれない

【文献名】
 Gait Speed and Survival in Older Adults
Stephanie Studenski et al.  JAMA. 2011;305(1):50-58

【要約】
<目的>
①高齢者の歩行速度と予後の関係を評価すること
②年齢や性別を補正して歩行速度が予後の変動性を説明しうるのかを明らかにする
 
<研究デザイン、セッティング、対象者>
1986年から2000年の間に行われた9つのコホート研究を解析。
地域社会に暮らし、ベースラインの歩行速度が得られた65歳以上の高齢者34485人を6~21年(平均12.2年)フォローアップ下。対象者の平均年齢は73.5歳59.6%が女性、79.8%が白人(11.2%がアフリカ系アメリカ人、7.7%がヒスパニック)、平均の歩行速度が0.92m/sであった。
 
<主要アウトカム>
生存率と平均余命。
 
<結果>
17528名が研究期間中に亡くなった。全体の5年生存率は84.8%(CI 79.6%-88.8%)、10年生存率は59.7% (95% CI, 46.5%-70.6%)。すべての研究において歩行速度が生存率と関連性を示した(hazard ratio per 0.1m/s1は0.88。95%CI 0.87-0.90, p<0.001)。 歩行速度が0.1m/s増加するごとに生存率が上がる傾向がすべての歩行速度において見られた。75~84歳の男性では歩行速度が0.4m/s未満では10年生存率が15%、1.4m/s以上では50%。 女性においては35%~92%。 民族による層別化でも同様の傾向であったが、信頼区間は広くなる傾向にあった。 ベースラインの歩行速度ごとに余命を予測すると中央値は0.8m/sあたりであった。 年齢、性、歩行速度による予後予測は年齢、性別、移動補助具の使用、自己申告による機能評価を組み合わせたものや年齢、性別、慢性疾患、喫煙、血圧、BMI、入院歴を組み合わせた指標と同様に正確であった。   <限界> この観察研究では歩行速度と余命との因果関係はわからず、様々な形のHealthy volunteer biasの影響を受けている。9つのうち1つのみしか実際の臨床をベースにしておらず、研究への参加に同意できる進行した認知症患者はほとんどいない。身体の活動性と生命予後の関連は活動性の足底の仕方にばらつきが大きいため評価することはできない。今後はより臨床を基礎にした対象者において他の重要なアウトカム(障害など)について検討する必要が賀あるだろう。   <臨床への適用> 介護予防的介入に用いるのが適当であろう。ベースラインの歩行スピードを測定することにより高齢者の全体的な健康状態の特徴をつかめる。歩行速度を経時的にモニターしていくと、低下は評価を要する新しい問題の発生を示唆することになるだろう。歩行速度は手術や化学療法のリスク評価に用いることができるかもしれない。 【開催日】 2011年3月2日