アメリカ男性の朝食摂取と冠動脈疾患の危険性についての前向き研究

- 文献名 -
 Prospective Study of Breakfast Eating and Incident Coronary Heart Disease in a Cohort of Male US Health Professionals Leah E. Cahill,  et. al. Circulation. 2013; 128: 337-343

- 要約 -

【背景】
 成人において、食事をスキップすることは、体重増加、高血圧、インスリン抵抗性、空腹時脂質濃度上昇と関連する。しかしながら、食事内容にかかわらず、特定の食習慣が冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクに影響するかどうかは分かっていない。本研究の目的は、食生活と冠動脈疾患のリスクを前向きに検討すること。

【方法と結果】
 朝食を食べることを含む食習慣について、1992年に45歳から82歳のアメリカ人男性26,902人を評価した。彼らは、Health Professionals Follow-up Study に参加しており、心血管系疾患や悪性腫瘍には罹患していなかった。フォローアップの16年間に、1527もの冠動脈疾患発症が診断された。 人口統計、食事、ライフスタイルで調整した冠動脈疾患、およびその他の冠動脈疾患の危険因子の相対リスクおよび95%信頼区間を推定するためにCox比例ハザードモデルを使用した。朝食をスキップした男性は、スキップしなかった男性に比べて27%高い冠動脈疾患発症のリスクを有していた(95%信頼区間1.06~1.53、相対リスク1.27)。夜遅くに食べない人に比し、夜遅くに食べる人は55%高い冠動脈疾患発症のリスクを有していた(95%信頼区間1.05~2.29、相対リスク1.55)。これらの関連は、BMI、高血圧、高コレステロール血症および糖尿病の影響を受けていた。食べる頻度(一日あたりの食べる回数)と冠動脈疾患の危険性との間には有意な関連は認められなかった。

【結論】 
 健康の専門家の男性のこのコホートでは、朝食を食べることは、冠動脈疾患のリスク低下と有意に関連していた。

開催日:平成25年12月4日

認知症の家族の介護者のメンタルヘルスを促進するプログラム(manual based coping strategy programme)の臨床効果

- 文献名 -
 Clinical effectiveness of a manual based coping strategy programme (START, STrAtegies for RelaTives) in promoting the mental health of carers of family members with dementia: pragmatic randomised controlled trial  Gill Livingston, et. al.  BMJ 2013;347:f6276 doi: 10.1136/bmj.f6276 (Published 25 October 2013)
 
- この文献を選んだ背景 -
 認知症の家族を介護している介護者が精神的にダメージを受けるケースをよく経験する。今回、認知症の家族を介護する介護者のメンタルヘルスに関する論文を読んだので共有する。

- 要約 -
【目的】
 manual based coping strategy programmeが通常の治療と比較して、認知症の家族を介護している介護者のうつ、不安症状を軽減するかどうかを評価する。
【デザイン】
 Randomised, parallel group, superiority trial.
【セッティング】
 英国(ロンドンとエセックス)、Three mental health community services and one neurological outpatient dementia service
【参加者】 260人の認知症の家族を介護している介護者
【介入】
 manual based coping strategy programme:8回のセッションから成り、指導された心理学の専門家から提供される。認知症、介護者のストレス、感情的サポートを得る場などの精神教育、介護者の行動の理解、行動を管理するテクニック、支援がないという考えの変容、受容の受け入れ、自らの意見の主張、relaxation、将来のプランニング、楽しい活動の増加、スキル学習の維持など。これらの事を自宅でマニュアルを使いながら、relaxation CDを聞きながら学ぶ。
【Main outcome measures】
 4ヶ月後と8ヶ月後の症状 (hospital anxiety and depression total score)
<Secondary outcomes>
・depression and anxiety caseness on the hospital anxiety and depression scale;
 介護者のQOL:health status questionnaire, mental health
 要介護者のQOL:quality of life-Alzheimer’s disease
 介護者から要介護者への潜在的な虐待行為:modified conflict tactics scale
【結果】
 260人の介護者が選ばれた(Figure)。ランダムに173人が介入群、87人が通常の治療群に割り付けられた。
 8ヶ月後のhospital anxiety and depression total scoreは介入群が通常の治療群と比較してより低かった(adjusted difference in means −1.80 points (95% confidence interval −3.29 to −0.31; P=0.02) 
)(Table5)。
 うつのケースが介入群で低かった(odds ratio 0.24, 95% confidence interval 0.07 to 0.76) (Table5)。
 介護者のQOLが介入群で高かった(difference in means 4.09, 95% confidence interval 0.34 to 7.83) (Table5)。
 介護者から要介護者への潜在的な虐待行為の報告は介入群で少なかった(odds ratio 0.47, 95% confidence interval 0.18 to 1.23) (Table5)。
【結論】 
 manual based coping strategy programmeが認知症の家族を介護している介護者の不安やうつに対して効果があり、介護者のQOLを改善させている。

- 考察とディスカッション -
 認知症の家族を介護している介護者への支援プログラムが有効である事が改めて示された。寿都町では、町役場の保健師が中心となって定期的に家族会を開催しているが、今回の論文のような体系だったプログラムでの支援ではない。今後、このような支援プログラムを作成するかは議論の余地があるが、皆さんの地域の状況はいかがでしょうか? 

開催日:平成25年12月11日

長期療養患者に対する遠隔ヘルスケアの費用効率

- 文献名 -
 C. Henderson et al. Cost effectiveness of telehealth for patients with long term conditions (Whole Systems Demonstrator telehealth questionnaire study): nested economic evaluation in a pragmatic, cluster randomised controlled trial. BMJ 2013; 346:f1035

- この文献を選んだ背景 -
 先日、英国での家庭医療視察報告を聞き、電話での医療相談がごく一般的におこなわれていることを知った。適応を正しく定めれば、移動や待ち時間等の負担軽減や医療者の業務軽減、医療費削減につながる診療方法ではないかと感じた。そんな中、遠隔医療の費用効果を検証した研究を見つけたので、紹介する。

- 要約 -
【目的】
標準的な外来治療・支援と、それに遠隔ヘルスケア(電子ヘルスケア、telehealth)を加えた場合の費用/費用効果を検証する

【デザイン】
pragmatic, cluster randomised controlled trial に含まれた経済的評価

【セッティング】
英国の3つの地方自治体での、地域密着型遠隔ヘルスケアによる介入

【参加者】
3230 人の慢性疾患患者(心不全、COPD、糖尿病)が2008年5月から2009年12月までWhole Systems Demonstrator 遠隔ヘルスケア試験に採用された。 受容性、効果、費用効果を検証した同試験の参加者のうち、845人を遠隔医療、728人を通常医療に無作為に割り当てた。

【介入】
参加者は自分の地域で利用可能な標準的ヘルス/ソーシャルケアに加え、遠隔ヘルスケアの設備一式を受け取り、モニタリングサービスを12ヶ月間受ける。

【主要評価項目】
費用効果分析のプライマリ・アウトカムは、得られた質調整生存年(QALY)毎の増分費用効果とした。

【結果】
私達は、965人の参加者(534人が遠隔ヘルスケア、431人が通常のケアを受けていた)の費用とアウトカムの純利益分析から始めた。12ヶ月後の2群間のQUAYの調整平均差は0.012だった。介入前の3ヶ月間のヘルス/ソーシャルケアの総費用(介入の直接経費を含む)は、遠隔ヘルスケア群と通常医療群でそれぞれ、1390ポンド(1610ユーロ、2,150ドル)と1,596ポンドだった。費用効果の閾値分析(the analysis surrounding the value of the cost effectiveness threshold)における決断の不確実性を検証するため費用対効果受容曲線(cost-effectiveness acceptability curve)を算出した。一般的なケアに遠隔ヘルスケアを加えた時の質調整生存年(QALY)毎の増分費用効果は92,000ポンドだった。この値では、費用効果の可能性は低い。(支払いを希望する最高額が30,000ポンドの場合11%で、50%以上になるためには90,000ポンド以上にならなければならない。)装置の価格が80%低下するか遠隔ヘルスケアサービスを最大限に利用したと想定すれば、感度分析において遠隔ヘルスケアは通常ヘルスケアに比べわずかに高くなる(有意ではないが)。しかし、最も楽観的なシナリオ(装置の価格が80%低下し、遠隔ヘルスケアを最大限利用している)でも、この群の差異は示されなかった。(費用効率 12,000 £/QALY)

【結論】
 一般的ケアに加え遠隔ヘルスケアを使用した患者のQALYは一般的なケアのみを受けている患者と変わらず、遠隔ヘルスケアによる治療介入に関わる総費用はより高額だった。遠隔ヘルスケアを標準的な外来治療・支援に加えることに費用効果はなさそうである。

- 考察とディスカッション -
 これまでにも遠隔ヘルスケアに関する研究はいくつかおこなわれているが、アウトカムと費用の関連を検証した研究はほとんどなかった。費用軽減に繋がることを示唆する研究もあるが、質の高い研究デザインに基づいておこなわれていない。遠隔ヘルスケア利用により急性期ケア受診率が下がることを示した研究はあるが、プライマリケア外来における利用についての研究はほとんど無かった。本研究の結果は、筆者の予想に反し現時点での遠隔ヘルスケアの有用性を否定するものだったが、今後、遠隔ヘルスケアシステムの改良やコスト軽減が進むにつれこの結論が変化していく可能性はあると考える。

開催日:平成25年12月11日

新型うつ病

- 文献名 -
 「新型うつ病のデタラメ」 中島聡

- この文献を選んだ背景 -
 最近産業医活動の一環として産業医として関わっている企業の職員に対してうつ病レクチャーを実施した。その中で新型うつ病について総務や管理職の方から質問が多く見られた。これまで新型うつ病について勉強する機会がなかったため、上司に相談したところ本書を紹介された。

- 要約 -

 本書は一般向けに書かれた書籍であるが、新型うつ病を理解する上で非常に役に立つとのことで上司の精神科医である友人から推奨された書籍であった。内容は新型うつ病と従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病)を比較し新型うつ病と従来のうつ病の違いと新型うつ病に対する筆者の対応が記載されている。筆者は精神科医としてキャリア33年、1996年から沖縄で精神科クリニックを開業している。本書では最近新型うつ病の患者が増えてきており社会問題になっていることを指摘している。
いくつか重要と思われた箇所を以下に抜粋する。

①新型うつ病の臨床経過

・症例1:40歳男性、市役所職員、ガス関係の技術者で10年間勤務していたが畑違いの公園管理科に転属になりそれを期に仕事を休みがち、気分の落ち込みを訴え受診した。「夜は行こうと思うが、朝になるといいや休んでしまえという気持ちになり休んでしまう」とのことで休職の診断書を希望。理由を尋ねると「行きたい気分になれないから」と述べる。診断書を発行し4ヶ月休職後、異動の確約をもらい復職し異動したが、その半年後また仕事に行けなくなったと受診。希死念慮も出現し上司に相談したら休んだ方が良いと言われたとのこと。1ヶ月の休職診断書を発行し再び休職し、休職が決まったときはやったーという気分だった。その後も復職と休職を繰り返すようになり、「ずっと休んでいたい」と訴えるようになった。出社するように促すと「アルコール漬けになっているから内科に入院して食生活を整えたい」と訴えるようになった。アルコール専門の精神科による治療を勧めると受診しなくなり終診となった。薬物療法として抗うつ薬と抗不安薬および睡眠薬を用い、また2週間に1回の臨床心理士によるカウンセリング(支持的性格のもの)も行った。

②従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病、大うつ病)の臨床経過

・症例2:41歳女性、独身、事務職として長く勤務している。1ヶ月前から特にきっかけなく「イライラして、気分が滅入り、集中力もなくなっている、食欲もなく1ヶ月で体重が3kg減った、夜も寝れない」とのことで受診。「仕事をやりたくない」という気持ちはないが、「人とはあまり会いたくなくテレビ新聞はあまり見る気になれない。普段の感じとは全く違う」とのこと。元々の性格は「きちんきちんとやらないと気が済まない」タイプ。軽いうつ病ですと伝えしっかりとした休息と服薬が必要であることを話し、抗うつ薬と抗不安薬、睡眠薬を処方。1週間後非常に明るい表情で「もう治っている感じです。食欲もでてきた」との反応。その後も経過良好で半年ほどで内服通院中止となった。

③新型うつ病と従来のうつ病の違い

・従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病、大うつ病)の核となるのは症状の異質性、経過の異質性、医師患者関係の異質性の3つである。

・症状の異質性には「生気的悲哀」と「悲哀不能」がある。「生気的悲哀」とは心的というより、むしろ身体的なものとして感じる悲哀感であり、しばしば頭の重苦しさや胸のもやもやした圧迫感など体に局在する憂うつ感として訴えられる。「悲哀不能」とは単なる気分の落ち込みではなくむしろ悲しむ事も喜ぶこともできないような感情が全面的に遮断された状態。

・経過の異質性には「了解不能」という異質性がある。これがなくストレス的な出来事からそのまま「なるほど、そういう状況ならひどく落ち込んでも無理はないだろう」と了解できるようなものはうつ病ではない。途中まではかなり了解出来るものであっても経過をよく見ればどこかに、たいていは発症に至る最後のところに「それにしてもどうしてここまで」あるいは「それにしてもどうして球に」と感じさせるような不連続がある。

・医師患者関係の異質性:うつ病患者の悲哀は了解不能である。うつ病ではなく抑うつ体験反応の人の悲しみは、聞いていて自然に感情移入でき、こちらも気の毒になるようなことが普通だが、うつ病患者の悲しみはどうにもついて行けないと感じられるような性質がある。

・新型うつ病とは逃避的な傾向によって特徴づけられる、抑うつ体験反応である。

・精神科医の中でも新型うつ病の位置づけは議論されているところで時に身体的不定愁訴の中に生気的悲哀感のような訴えが混じることがあることを根拠に新型うつ病は内因性の軽症うつ病であるという主張もある。しかし筆者は新型うつ病に見られる異質性はあまりにも弱く異質性とは言えないと主張している。

④新型うつ病がもたらした社会的弊害

・休職のための診断書:新型うつ病は復職が近づくと「また落ち込みが強くなってきた、不安になってきた」など症状が強くなり休職診断書の更新を希望する場合が多い。十分に回復するまで復職させないとなると本人に治療意欲が高い場合は問題ないが、そうでない場合は疾病利得につながってしまいいつまでも休職を続ける事になりかねない。休職中も復職出来るようにしっかり気持ちの準備をするように促し、ある程度以上症状が強い場合は別だが、単に症状がなくなっていないから、本人が希望するからといって安易に更新しないことも治療的配慮として必要。

・傷病手当金のための診断書:休職しても給料の6割を受け取ることが出来る。症状が固定している必要はなく、その時期に就労出来ない状態であったかがポイント。とくに新型うつ病の場合、病気の影響と自己責任の判別をしっかりする必要がある。本書の例では「自分の好きなことがやりたいので、夜ついパソコンでいろんなサイトを見たりゲームをしてしまう。それで朝眠い。夜になって仕事に行かなかったことを反省する」という場合は診断書発行していない。

・しばしばもらえる障害者年金:障害を残す疾患やけがの結果初診から1年半以上経過して、症状固定した場合に国から支給される年金。従来型のうつ病で遷延化し症状固定するものは15%前後、新型うつ病で障害が固定することはまずあり得ない。

開催日:平成25年12月4日