運動は下肢の変形性関節症患者の疼痛を軽減する

<文献名>
 Exercise Relieves Pain in Patients with Lower-Extremity Osteoarthritis
    2013 October 24 BMJ

<この文献を選んだ背景>
 
 変形性膝関節症の患者は日々の診療の中で多い。治療や痛みの軽減のための鎮痛剤、膝関節注射、大腿四頭筋訓練、減量という説明を行うが、他に推奨する何かがないかと思っていたため。

<要約>
 運動によって、膝関節や股関節の変形性関節症(osteoarthritis:OA)を有する患者の疼痛が軽減され、身体機能が改善されることを示すエビデンスが増えている。今回のメタアナリシスではランダム化試験60件(参加者8,200人超、フォローアップ期間の中央値15週)を対象として、運動介入が運動しない場合よりも有効であるかどうかが調べた。また、さまざまな運動介入の比較も行われた。
 膝関節のOAを有する患者に関する試験が44件、股関節のOAを有する患者に関する試験が2件、膝関節、股関節、その他の関節のOAを有する患者に関する試験が12件であった。評価の対象とされた運動の種類は、強化運動、柔軟運動、有酸素運動、およびこれらの運動の水中バージョンであった。疼痛の軽減(視覚的な疼痛尺度[visual pain scales])によって測定)については、強化運動、強化運動と柔軟運動の併用、水中バージョン以外の併用(強化運動と柔軟運動と有酸素運動の併用)、水中での強化運動、水中での強化運動と柔軟運動の併用で、運動なしの場合よりも有意に高い効果がみられた。疼痛が軽減する確率がもっとも高かったのは、水中での強化運動と柔軟運動を併用した場合であり、その次に高かったのは、強化運動のみの場合であった。身体機能の改善については、強化運動、強化運動と柔軟運動の併用、水中バージョン以外の各運動の併用で、運動なしの場合よりも有意に高い効果がみられた。

開始日:平成26年1月22日

生涯学習のための5つのドメインとその能力・資質とは?

<文献名>
Royal college of Physicians and Surgeons of Canada:CanMeds Train-the-Trainer Scholar-lifelongLearner Program.2008

<要約>
導入
生涯学習(Life Long Leraning)のコンポーネントは研修医教育から始まる以下の2つの現実として伝えること
 1つは「専門家は生涯を通じて変容することを求められること」
 もうひとつは「学習スキルと学習資源は変化し続けること」に基づいている。
 そして、生涯学習に必要な能力は「自己モニタリング」と「学習資源の活用」である。
良い臨床家であるための5つのドメインは、
 1 臨床を含めた業務において学習のマネジメントの方法や戦略を持っていること
 2 自分自身の業務を熟知・活用し、学習の優先順位が付けられること
 3 業務を向上させうる可能性やイノベーションのポイントを教えてくれるシステムを持っていること
 4 疑いや問いから質問を形成・変化させ学習機会に結びつけること
 5 継続的に自らの業務を評価し向上させること
である。これに沿ってドメイン毎に必要な能力や資質を以下の通り記載する

ドメイン1「(診療・教育・研究・経営全ての)業務に関する学習をマネジメントする」
  a情報リテラシー
    効果的な学習戦略(どのように学ぶかを知る)
  アクセスする雑誌・ウェブ・データベースを選定する
  何を深く読むか、何を入念に調べるのかを選択する
 
 b学習のマネジメント
    LLLのワークステーション(PCにあるもの)をセットアップする
  省察を投稿し学習ポートフォリオを作成し続けCVやMOCに連携させる
 
 c熟達化の認識
    CVを確立し維持する
  あなたのCVと活動プロフィールが免許や認証の維持と連携することを理解する
  免許や認証の維持のために要求されているものを埋める

ドメイン2「あなたの業務を知る」
  4つのドメイン:診療、教育、研究、管理、がある
 a専門家としての特定の役割と責務についての情報にアクセスし記録をつける
 b専門家としての学習ニーズを同定するために診療情報を活用する
  c持続的に専門家としての成長戦略を立案し修正するために診療情報を利用する

ドメイン3「(業務の)活動それぞれを探るようにチェックする(=Scanning)」
  a業務の範囲で発展段階にあるもの探り、新たな地平と創造を行う
  bガイドラインが診療に統合できるかをプロとして検証し、業務の範囲で根拠に基づいた創造と変化を行う
 cもはや効果的でなく、時に有害となっている古い診療を把握し止めること
  
ドメイン4「業務中の、業務についての、業務のための、問い・疑いから学ぶ」
 a生涯学習のために基礎となる不確実性の解決や解明の力を育成し理解する
 b疑問の生成や分類などのツール・戦略を同定し、個人や組織が公式化させた疑問になるために活用する
 c現実的な疑問の記録や継続的なログそして解決のためのカギとなる戦略を同定し、最終的に業務に組み込むための学習に具体化させる
 d日々の自然な業務と最終的には生涯学習として、個人と組織に探求を促進させる好奇心を再び持たせそれを醸成する

ドメイン5「業務評価と業務の向上」
 a個人のパフォーマンス、そして組織のパフォーマンス評価のためにどのようなツールが用いられているか?
 bそれらのツールはどのように個人の評価に用いられているのか?

 cその評価のプロセスではどのように活動を向上させ学びを促進させているか?

<考察とディスカッション>
 省察のメモは行っているものの、自然にとれる活動のログ(岡田先生でいうところのユビキタスキャプチャー)
についてはまだまだであると感じた。研究のためのセコムカルテの新たなシステム構築が行われているが、
個人の生涯学習にも活用できるための工夫も盛り込みたいと感じた。
 また学会レベルでこれらのシステムを構築することが生涯教育委員に求められており生きている間に完成
させたいとも痛感した。

開催日:平成26年1月22日

Episode of Care という考え方

- 文献名 -
 Episode of Care; A Core Concept in Family Practice
 Henk Lamberts,MD,PhD The Journal of Family Practice,Vol.42,No.2(Feb),1996

 - この文献を選んだ背景 -
 10月、ICPCを搭載した電子カルテシステムをオランダにて視察した。その際に「エピソード」として我々家庭医が扱う疾患を捉える概念を知ることができ、それが電子カルテシステムを利用したICPCデータベースの根幹を担っていることがわかった。それについてPubMedで調べている際に、この文献を見つけて読む事にした。

 - 要約 -
 
141008

 - 考察とディスカッション -
 家庭医療の学会である「日本プライマリ・ケア連合学会」の設立はイギリス・オランダから比べると40年以上遅い。本文献は16年前のものあるが、現在の日本における診療所プライマリ・ケアの記述研究へ重要な示唆を与えている。私たちが年齢や性別ごとにどのような健康問題を扱い、それがどのような診断になり、どのようにフォローされているのか。家庭医療診療所で提供されている医療そのものを記述するためには、ICPCと”Episode”が両輪になると感じた。それを発信していくことの宛先は、国民や住民、ひいては他の臓器別専門医や医療従事者など医療界の方達であり、包括性(幅広い臓器や心理社会背景も含めて)や継続性、不確実性などを客観的に示していくことになるであろう。皆さんはこのようなツールをつかってやりたい研究テーマなどはあるでしょうか?

 開催日:平成25年12月18日

① 小児期の肥満,その他の心血管リスクファクター,そして早期死亡 ② 炭酸飲料消費量の減量による小児期の肥満予防:クラスターランダム化試験

- 文献名 -
① Paul W. Franks, Ph.D., Robert L. Hanson, M.D., M.P.H., William C. Knowler, M.D., Dr.P.H., Maurice L. Sievers, M.D., Peter H. Bennett, M.B., F.R.C.P., and Helen C. Looker, M.B., B.S., 
Childhood Obesity, Other Cardiovascular Risk Factors, and Premature Death, 
N Engl J Med 362;6 nejm.org February 11, 2010
② Janet James, Peter Thomas, David Cavan, David Kerr, Preventing childhood obesity by reducing consumption of carbonated drinks: cluster randomised controlled trial, BMJ. 2004 May 22; 328(7450): 1236.

 - この文献を選んだ背景 -
上川町の保健師さんとの定例会議で小学生の肥満が話題になり,北海道ブロック支部の地方会でも別海町における小児の肥満対策の発表があったので,小児期の肥満について自分なりに調べてみた.まず,小児期の肥満が介入すべき問題なのか?ということと,介入する方略として論文にまとめられているものを調べてみた.研究デザインとしても興味深かったので,今回は2つの文献を取り上げた.

 - 要約 -
① Childhood Obesity, Other Cardiovascular Risk Factors, and Premature Death
BACKGROUND
The effect of childhood risk factors for cardiovascular disease on adult mortality is poorly understood.

METHODS
In a cohort of 4857 American Indian children without diabetes (mean age, 11.3 years; 12,659 examinations) who were born between 1945 and 1984, we assessed whether body-mass index (BMI), glucose tolerance, and blood pressure and cholesterol levels predicted premature death. Risk factors were standardized according to sex and age. Proportional-hazards models were used to assess whether each risk factor was associated with time to death occurring before 55 years of age. Models were adjusted for baseline age, sex, birth cohort, and Pima or Tohono O’odham Indian heritage.

RESULTS
There were 166 deaths from endogenous causes (3.4% of the cohort) during a median follow-up period of 23.9 years. Rates of death from endogenous causes among children in the highest quartile of BMI were more than double those among children in the lowest BMI quartile (incidence-rate ratio, 2.30; 95% confidence interval [CI], 1.46 to 3.62). Rates of death from endogenous causes among children in the highest quartile of glucose intolerance were 73% higher than those among children in the lowest quartile (incidence-rate ratio, 1.73; 95% CI, 1.09 to 2.74). No significant associations were seen between rates of death from endogenous or external causes and childhood cholesterol levels or systolic or diastolic blood-pressure levels on a continuous scale, although childhood hypertension was significantly associated with premature death from endogenous causes (incidence-rate ratio, 1.57; 95% CI, 1.10 to 2.24).

CONCLUSIONS
Obesity, glucose intolerance, and hypertension in childhood were strongly associated with increased rates of premature death from endogenous causes in this population. In contrast, childhood hypercholesterolemia was not a major predictor of premature death from endogenous causes.


② Preventing childhood obesity by reducing consumption of carbonated drinks: cluster randomised controlled trial
OBJECTIVE
To determine if a school based educational programme aimed at reducing consumption of carbonated drinks can prevent excessive weight gain in children.

DESIGN
Cluster randomised controlled trial.

SETTING
Six primary schools in southwest England.

PARTICIPANTS
644 children aged 7-11 years.

INTERVENTION
Focused educational programme on nutrition over one school year.

MAIN OUTCOME MEASURES
Drink consumption and number of overweight and obese children.

RESULTS
Consumption of carbonated drinks over three days decreased by 0.6 glasses (average glass size 250 ml) in the intervention group but increased by 0.2 glasses in the control group (mean difference 0.7, 95% confidence interval 0.1 to 1.3). At 12 months the percentage of overweight and obese children
increased in the control group by 7.5%, compared with a decrease in the intervention group of 0.2% (mean difference 7.7%, 2.2% to 13.1%).

CONCLUSION
A targeted, school based education programme produced a modest reduction in the number of carbonated drinks consumed, which was associated with a reduction in the number of overweight and obese children. 

 - 考察とディスカッション -
①の文献では,対象が限定されたコホート研究であり,一概に日本人の小児に適応することはできないが,人種の系統としては近いと考えられるため,小児期の肥満は介入すべき問題と考えられた.②の文献は,フェローで行う研究のヒントになりそうな研究デザインで,地域コミュニティケアの取り組みとしても興味深く感じられた.
そこで,各サイトでの小児期の肥満に対する取り組みなどについて,共有やディスカッションをしたいと思った.

開催日:平成25年12月18日