さまざまな設定のPSA検査を用いた前立腺がん検診システムモデルの有効性比較

― 文献名 ―
Comparative effectiveness of alternative PSA-based prostate cancer screening strategiesAnn Intern Med. 2013 February 5; 158(3): 145-153. doi:10.7326/0003-4819-158-3-201302050-00003.

― 要約 ―

【背景】
米国予防医学特別作業部会(USPSTF)は最近、PSA検査を用いた前立腺がん検診は不利益が利益を上回るため中止すべきとの勧告を出した。

【目的】
さまざまなPSA検診システムの相対的有効性評価を行う。

【研究デザイン】
様々なPSA検診システムによる不利益と救命効果を定量化した、前立腺がんの罹患および死亡のマイクロシミュレーションシステム

【データ源】
PSA値の上昇、検診と生検パターン、罹患、治療分布、治療の有効性、死亡に関する全米および臨床試験のデータ

【対象集団】
現在の米国人男性コホート

【対象期間】
生涯

【視点】
社会的

【介入】
検診の開始・終了年齢、検診間隔、生検適応のPSA閾値を様々な設定で組み合わせた35種類の検診システム

【主要評価項目】
PSA検査、偽陽性の検査結果、前立腺がんの発見、過剰診断、前立腺がん死、救命数、救命月数 

【基本ケースの解析結果】
検診を実施しない場合、前立腺がん死のリスクは2.68%である。50~74歳の男性に年1回検診を行い、生検適応のPSA閾値を4μg/Lに設定する基準モデルでは前立腺がん死のリスクが2.15%に低下し、過剰診断のリスクは3.3%となる。高齢の男性に対する生検紹介のPSA閾値を高めに設定する戦略を用いると、前立腺がん死のリスク(2.23%)は同程度であるが、過剰診断のリスクは2.3%に低下する。検診を隔年で行い、PSA低値の男性に対する検診の間隔を延ばしたモデルでは、前立腺がん(2.27%)と過剰診断(2.4%)のリスクはほぼ同等であるが、総PSA件数が59%減少し、偽陽性率は50%減少する。

【感度分析の結果】
罹患率の設定値を変えたり、検診の生命予後改善効果を小さくしても結論は変わらなかった。

【限界】
このモデルは前立腺がんの自然史を単純化しており、検診による生命予後の改善効果を確定するものではない。

【結論】
標準的なPSA検診システムモデルと比較し、高齢の男性に対する生検適応のPSA基準値上限設定値を高くするモデル、PSA低値における検診間隔を広げるモデルを用いると、救命効果を維持しつつ不利益を減らすことが出来る。

開催日:平成26年3月19日

Choosing Wisely

― 文献名 ―
 Choosing
Wisely | An Initiative of the ABIM Foundation(http://www.choosingwisely.org/

― 要約 ―

AAFP
 1. 腰痛は最初の6週間はレッドフラッグがないのに画像診断を実施してはいけない。
 2. 軽症から中等症の急性副鼻腔炎は症状が7日以上続いたり、最初の臨床的な改善の後の悪化がない限りは、抗菌薬をルーチンで処方してはいけない。
 3. 骨粗鬆症のスクリーニングは、リスクファクターのない65歳未満の女性や70歳未満の男性ではDEXAを実施してはいけない。
 4. 年1回の心電図やその他の心臓のスクリーニングは、症状のない低リスクの患者では実施してはいけない。
 5. 子宮頸がん検診は21歳未満の女性や非がん疾患で子宮を切除した既往のある患者では実施してはいけない。
 6. 39週以前に、待機的な医学的適応のない分娩誘発や帝王切開は予定してはいけない。
 7. 39週から41週までの間に、子宮頚管の熟化が不十分な場合に、待機的な医学的適応のない分娩誘発は避けるべきである。
 8. 頚動脈狭窄症は無症状の成人患者はスクリーニングしてはいけない。
 9. 子宮頸がんは65歳以上の女性で過去に十分なスクリーニングを受けていた人やその他の高いリスクがない人にはスクリーニングしてはいけない。
 10. 子宮頸がんは30歳以下の女性で、HPVテストのみやHPVテストと細胞診の組み合わせでスクリーニングしてはいけない。
 11. 中耳炎では2歳から12歳までの子どもで、重症症状がなく、経過観察が妥当な場合に抗菌薬を処方すべきではない。
 12. 初発の尿路感染症で2か月から24か月までの子どもにルーチンでVCUGを実施すべきではない。
 13. 前立腺癌はPSAや直腸診でルーチンにスクリーニングすべきではない。
 14. 脊柱側彎症は青年期にスクリーニングすべきではない。
 15. 経口避妊薬の処方のために内診やその他の身体診察を実施すべきではない。

― 考察とディスカッション ―
 Choosing Wiselyは米国の医学会で始まった取り組みである。日本でも、ジェネラリスト教育コンソーシアム出版の書籍が販売されている。実施すべき事をすべきなのは当然であるが、実施すべきでないことにも目を向け、患者さんに適切な選択肢を提示できるようにしたい。

開催日:平成26年3月12日

家庭医療関連の文献におけるシステム・複雑系思考を統合的・歴史的文脈で振り返るレビュー

― 文献名 ―
 Systems and Complexity Thinking in the General Practice
Literature: An Integrative, Historical Narrative Review. Ann Fam Med 2014; 66-74

― この文献を選んだ背景 ―
 臨床医学の中では家庭医療学は他科と本質を異にしている.複雑系の科学という側面でそれがよく語られるが,家庭医療学においてそれがどのように取り入れられ影響を及ぼしているのか,理解を深められるレビューを紹介したい.

― 要約 ―

【目的】
 過去70年,システム/複雑系の科学を扱う理論は学術的思考/研究に大きな影響を与えてきた.このレビューは複雑系の科学が家庭医療学に与えてきた影響を評価することが目的である.
(Figure1は複雑系の科学の発展と家庭医療学の発展を平行して示した図.本文中では「戦後複雑系の科学は多様な分野に適用されていったが,医学は例外とされてきた.家庭医療学によってようやく段階的に医学に適用されてきたのである」とあります.)

【方法】
 以下の方法で文献を検索し,歴史的文脈にそって統合的にレビューを行った.
“complex adaptive systems(複雑適応系)”, “nonlinear dynamics(非線形力学)”, “systems biology(システム生物学)”, “systems theory(システム理論)”といった用語を MeSH “humans”と組み合わせ,2010年12月以前に出版されたgeneral practice/ family medicine(家庭医療)関連の文献に絞った. 16,242の文献が検索され,うち49が家庭医療関連の雑誌に掲載されたものであった.ハンドサーチと雪だるま式検索によりさらに35の文献を得た.全文をレビューしたのちシステム科学と家庭医療を扱う56文献を採用した.

【結果】
 家庭医療学は現れてきたシステム・複雑系理論を4つのステージに分けて取り込んできた.

(Table2)
1995年以前)
 家庭医療学とシステム/複雑系の科学との対話が始まり,臨床現場の観察や臨床上の経験を再度評価する動きが現れた.システム/複雑系の科学が個人や家族,コミュニティの病いを,より効果的にコンテクスト(背景)に基づいて理解することに役立つことへの気づきが生まれた.
 自然科学における研究の「敵」と長く見られてきたコンテクストが,豊かな研究分野となり「知」の創出源となった.

(1995年~2000年)
 家庭医療学の複雑適応系的側面を描写する文献が主であった.システム/複雑系の科学が医療の持つ性質を理解するために大きな力を持つことへの確信が深まり,組織やヘルスケアシステムへの適応にハイライトが当たり始めた時期である.家庭医は個人へのケアの提供のガイドとしてカオス理論を注目し,患者を多変量で非線形で非周期系の存在であるとみなしてケアするようになった.McWhinneyはこの時期,家庭医療の特徴をシステム/複雑系の科学的に以下のように表現し多大な影響を与えた.
① 家庭医療学分野は医師と患者の間にある関係性で定義される.
② 家庭医は人とその人の病との関連について考察する.
③ 家庭医は特徴的な生態系の多様性,非線形性(成長,再生,癒やし,学習,自己組織化,自己超越~McWhinneyはこれをorganismic metaphorと表現した)を受け入れている.
④ 学問分野として家庭医療学は身体と心という二元論を脱却する.
システム/複雑系の科学を取り入れた家庭医療学はヘルスケアシステムの中で重要な学問分野として対等することとなった.

(2000年~2005年)
 家庭医療における診療のシステム力動を描写することに焦点が当たった.研究者はシステム/複雑系の科学を家庭医療学のより広い論点に適用するようになった.コミュニティや職業人としてのリーダーシップ,治療関係などである.

(2005年以降)
 複雑系の科学理論をヘルスケア,ヘルスケア改革,医療の未来に広く適用するようになった.
① より効果的な診療を提供するために病い(illness)と疾患(Disease)を扱う.
② 診療組織の変化をリードする
③ プライマリ・ケアを相互連携の多次元システムであることを理解する
④ ヘルスケア改革へ影響を及ぼす.

【結語】
 この歴史的文脈で振り返るレビューにより複雑適応系理論と関連した家庭医療学の発展が描かれた.そして家庭医療学の原理に流れる哲学やアイデンティティがシステム科学により,より正確に示された.家庭医療学はその(学問としての)境界や範囲を意図的に再構成する過程で経験的なツールを適応する前にまずシステム理論を取り込んだことが示唆された.今後の研究は非線形力学や経験的なモデリングの適用を,患者ケア,診療現場の組織化や発展,コミュニティの発展への関わり,ヘルスケアの改革への影響を及ぼすことなどに力を注ぐことになるだろう.

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開催日:平成26年3月12日

禁煙後のメンタルの変化(システマティックレビューとメタ解析)

― 文献名 ―
Gemma Taylor,et al:Change in mental health after
smoking cessation: systematic review and meta-analysis.BMJ 2014;348 doi

― 要約 ―
【Objectives】 禁煙を続けた場合と比較して禁煙をした後でメンタルにおける変化を調査すること。

【Design】systematic reviewとmeta-analysis

【Date sources】
2012年4月までの関連した研究を以下から検索(Web of Science, Cochrane Central Register of Controlled Trials, Medline, Embase, and PsycINFO)。文献に含まれるreferenceリストから手作業で検索し、データが不十分であれば直接研究者に連絡を取った。検索ワードは”mental health,” “smoking cessation,” “smoking reductionの組み合わせ。

【Eligibility criteria】
・population:一般集団か何らかの臨床診断がついた集団の喫煙者
 ・Exposure:研究期間中に喫煙継続か禁煙をすること
 ・Outcome:禁煙前と禁煙後6週間以上経過した後のメンタルヘルスを測定
 ・Language:言語による除外なし
・ Study design:longitudinal studyのみ(RCTとコホート)

【Results】
不安、うつ、不安とうつの混合、精神的QOL、ポジティブな感情、ストレスを測定するようにデザインされた質問紙にてメンタルヘルスを評価した26個の研究が対象となった。フォローアップ期間は、7週間から9年間であった。不安、うつ、不安とうつの混合、ストレスは喫煙者に比べ、禁煙者において有意に減少した。標準化した平均で不安 −0.37 (95% confidence interval −0.70 to −0.03); うつ −0.25 (−0.37 to −0.12); 不安とうつの混合 −0.31 (−0.47 to −0.14); ストレス −0.27 (−0.40 to −0.13)であった。精神的QOL、ポジティブな感情ではその逆で喫煙継続車に比べ、禁煙者において有意に改善した。精神的QOL0.22 (0.09 to 0.36); ポジティブな感情0.40 (0.09 to 0.71)となった。一般集団と身体疾患、精神疾患を持った集団とで効果の大きさには違いがなかった。

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【Conclusions】
禁煙は不安、うつ、不安とうつの混合、ストレスの改善と関連し、ポジティブな感情とQOLの改善と関連した。効果の大きさは精神疾患を持った集団とそうでない集団で同等であった。この効果の大きさは、気分障害、不安障害患者に抗うつ剤を処方した時の効果と等しいか、それ以上のものであった。

<参考>
 軽症~重症のうつ病患者へのSSRI治療 
−0.17 to −0.11
34個のRCTのメタアナリシスで全般性不安障害患者への抗うつ剤治療 
−0.23 (−0.43 to −0.13)から−0.50 (−0.77 to −0.23)

― 考察とディスカッション ―

①多くの喫煙者はタバコを吸うと落ち着く、気が紛れるため、無くてはならないものだと言う。しかし、本研究では禁煙するほうがむしろポジティブな結果を得られるということであり、今後の有用な情報であった。

②今までうつや不安障害などの精神疾患を有した患者には、禁煙自体が精神的症状の増悪を引き起こすことへの心配があった。しかし、本研究によってこれらの患者でも、ある程度の期間を経たら(今回は6週間以上)、プラスに作用することが分かったため、禁煙指導の対象者や目的が広がったのではなかろうか?

③ただし、本研究は観察研究も含まれるため、因果を証明するには不十分である点にも注意が必要である。

開催日:平成26年3月5日

新規2型糖尿病の成人におけるBMIと死亡率

― 文献名 ―
Body-Mass Index and Mortality among Adult with Incident Type 2 Diabetes
N ENGL J MED 370;3 Deirdre K. Tobias JAN.16,2014

― この文献を選んだ背景 ―
 CQIプロジェクトのピアレビューで、上川チームは旭川チームの作成した糖尿病初診のプロダクトの価を担当した。その中でBMIをチェックしているかどうかの項目があったが、自分の診療を振返っみるとあまりBMIに意識を向けていなかった。糖尿病初診でBMIを知る意義がどれくらいあるのか問に思っていたところ、上川で定期購読しているNEJMに上記論文があったため読んだ。

― 要約 ―

【背景】
2型糖尿病患者における体重と死亡率の関係は明らかにされていないが、一部の研究(特に対象が心不全患者、末期腎不全患者など)では、過体重または肥満の患者の死亡率は、標準体重の患者よりも低い(「肥満パラドックス」)が示唆されているが、その研究の質は低い。

【方法】前向きコホート研究
看護師健康調査(NHS1976年~)と医療従事者追跡調査(HPFS1986年~)から、2010.1.1まにで糖尿病と新たに診断され、診断時には心血管疾患や癌などを有していなかった参加者を対象に検討した。(各8790例、2457例)。また35歳までに糖尿病と診断された物は1型糖尿病の可能性が高いため除外した。BMIが18.5以下も除外した。断直前の体重と身長からBMIを算出した。多変量Coxモデルを用いて、BMI区分ごとに死亡のハザード比と95%信頼区間を推定した。

【結果】
平均追跡期間15.8年の間に,3083例が死亡した。BMI区分と全死因死亡率の間にJ字型の関連が認められた。この関連は喫煙歴のない参加者では線形であったが、喫煙歴のある参加者では非線形であった(喫煙はBMIを下げ、死亡率を上げる方向に影響するため分類した)。糖尿病診断時の年齢が65歳未満であった参加者では、直接的な線形傾向が認められたが、65歳以上であった参加者では認められなかった。(早期死亡(フォロー開始から4年以内の死亡)は診断されていない慢性疾患や脆弱性のバイアスを取り除く一般的な方法。)

【結論】
BMIと死亡率の間には、参加者全体および喫煙歴のある参加者ではJ字型の関連が、喫煙歴のない参加者では直接的な線形の関連が認められた。我々は過体重または肥満の糖尿病患者の死亡率が標準体重の患者よりも低いという肥満パラドックスを見いだせなかった(米国国立衛生研究所、米国糖尿病学会から研究助成を受けた)

【限界】
体重は自己計測なので信用性が低いかもしれない他の人種、文化的コミュニティへの一般化には限界がある

― 考察とディスカッション ―
 この論文によって、糖尿病診断時におけるBMIを喫煙歴とともに確認する事で、患者さんにどれだけのリスクがあるかという事を客観的に説明するひとつの材料となるだろう。ただし有病率が異なるので一概には言えない。

<ディスカッションポイント>
皆さんは普段糖尿病と診断した時BMIは意識していましたが?意識していた方はどう意識していましたか?これを読んで診療は変わりますか?

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開催日:平成26年3月5日

プレゼンスマネジメント

― 文献名 ―
 コーチングのプロが教える プレッゼンスマネジメント 「仕事は外見で決まる!」    日経BP社 2009.06

― この文献を選んだ背景 ― 
 保有している認定コーチングの資格更新のために受けたアドバンストコーチングのテーマの一つに「プレゼンスマネジメント」のセッションがあり、その内容をもう少し深めたいということで手に取った書籍。家庭医の診療やそれ以外の仕事にも役立てられそうなためここで紹介します。

― 要約 ―

 本書でいうプレゼンスマネジメントとは人間としての「ハードウェア(見てくれ、顔の作り、背の高さなど)」ではなく、ノンバーバルと言われる「ソフトウェア(視線、声のトーン、人との距離など)」を指す。よって、当人の努力次第でいくらでも改善できる要素であることが重要である。その外見作りを「プレゼンスマネジメント」とします。例えば、現在のアメリカの多くのビジネスリーダー、政治家などは自分にプレゼンスマネジメント専門のコーチをつけているとされています。彼らはどのように自分をみせるかをトレーニングされています。
 我々には無限の時間があるわけではなく、多くの人に、限られた時間で、信頼を勝ち取りビジョンを示さねばならない、そのためにプレゼンスをマネジメントすることが必要とされます。リーダーは内面だけでなく外見をつくることにも責任をもつべきです。
 本書では全11パートのレッスンから成り立ちますのでその要素を要約して抜粋します。

(1)「あご」の位置をマネジメントする
  × ・・・ あごを挙げて横目でみる(あげる・・・偉そう ずらす ・・・ 隠し事あり の印象)
  ○ ・・・ あごを下げてまっすぐみる

(2)「眼」をコントロールする
ポイントは3つ
 ① 多数が相手なら5秒ずつ眼を合わせていく。
 ② 眼の表情を知る(自身の感情の動きと眼の癖を知り、「優しい眼」を意識的に作れるようにする)
 ③ まばたきを適正化する(多すぎると落ち着きなし、少なすぎると威圧的な印象を与える)
 
(3)声で自分の話をマーキングする
 大事なポイントを声で表現するコツは3つ。淡々とした流暢な話は耳に残らない。
 ① 大きな声のポイント
 ② ゆっくりな声のポイント
 ③ 低い声なポイント

(4)距離を武器にする
 まずは自身のパーソナルスペースを知ること(相手にどこに立っていて欲しいか 癖を読む)
 基本は相手のパーソナルスペースを超えないところで。しかし決定的な緊張をもって話したい時はあえて超えて話す技術もある。

(5)相手の警戒心を緩める
 表情と声と言葉が紹介されています。
 表情:ソフトアイ・・・要は「優しげな顔」を意図的に作る
 声:ペーシング・・・相手と波長を合わせた声のトーンとする
 言葉:前置きして断定表現を避ける ・・・警戒心を緩めるためには有効。

(6)最高の「聞き姿」をつくる
 皆さんは自分の「聞き姿」を意識していますか?ポイントは7つです。
 視線、まばたき、口元、うなづきの頻度、姿勢、足の位置、手足のうごき

(7)最高の「話しかけ方」で相手の心をつかむ
 話しかけ方は「3つの輪」をイメージして話すことが紹介されています。
 第1の輪:自身一人が入っている輪。要は独り言レベル。・・・良くも悪くも注目を浴びます。
 第2の輪:自身と相手が入っている輪。パーソナルな輪・・・「思い」を語る際に有効です
 第3の輪:自身と聴衆皆が入る大きな輪。・・・客観的な情報やルールを多数に伝えるのに有効。
 状況に応じて、この輪を自在に使い分けられるようにするとよい。特に皆さんはきちんと「第2の輪」を使いこなせていますか?

(8)本当に伝えたい「素材」を探してから話す
 相手を引き込む話をしたい場合は、自身が感動したポイントがどこなのかを「探すこと」そして、それをなるべく具体的に「描出」すること、この2点が相手の心を動かすために重要です。
  × ・・・「海がとってもきれい」
  ○ ・・・「海面から30m下の海底がはっきり見えるんです」

(9)相手の存在を承認する「まなざし」を身につける
 「承認」はもちろん大事なのですが、ここでは「まなざし」の作り方として、相手を複眼的にみることを推奨しています(全人的に扱うのは家庭医としては得意技ですよね!)

(10)最高のパフォーマンスを作り出すための「儀式」を用意する
最高の心身状態に入るための儀式は知らずに持っていることも。言語化してみましょう。
例)イチローが打席に入るときの特徴的なバットさばき など。

(11)自分の軸を確立する
 最も難しく最も大切なこと。「リーダーとして(ここは様々に変化)最も大切としたいことは何か?」という質問に答えられるかどうかが指標。これがぶれるとおのずとプレゼンスもぶれてしまうため、常に問いを持ってプレゼンスをつくること。

― 考察とディスカッション ―
 今回はコーチングの一環で読み始めた書籍だが、家庭医のパフォーマンスでも十分応用のきく内容が多く、自身の外来やスタッフへ対し方を振り返るきっかけになった。ビデオレビューではよくノンバーバルのフィードバックがかけられることも多いと思いますが、さらに深いフィードバックとして今回の知識も活かせるのではないでしょうか。
 さて、皆さんは自身のプレゼンスマネジメントで意識していることはありますか?

開催日:平成26年2月12日

金銭的インセンティブは会社の業績を上げるか?

― 文献名 ―
 ジェフリー・フェファー.ロバート・I・サットン.「事実に基づいた経営」.155-190.東洋経済新報社.2006.

― この文献を選んだ背景 ―
  先日のFMS-EoでのHCFMを高機能組織とするためのハード面整備の議論の中で,人事考課の話題が言及された.医療の分野では人事考課という考え方について,どのような判断材料をもっているべきなのか.この点についての組織知を拡張したいと考え本文献を選択した.

― 要約 ―

【事例の紹介】
(事例の要約)「金銭的インセンティブは,単純で,明確で,誰もが納得し,ズルができない指標があって,どんなやり方をしてもその指標を上げることだけを考えればよい」という局面でこそ有効である.
1.サフェリテ・グラスの実践(アメリカの自動車用ガラスの最大手)
 金銭的インセンティブシステムで44%生産性が向上した.サファリテのいくつかの特徴はインセンティブシステム成功の重要な鍵と思われる.ⅰ)仕事は定型の作業として覚えることができ,独立して作業できる.チームワークは必要なく,個人ベースのインセンティブでチームワークが損なわれることはなかった.ⅱ)品質をモニターすることが容易であったため,従業員は仕事の質を犠牲にして早さを求める分けにはいかなかった.ⅲ)従業員のゴールは単純明快で一元的だった.ガラスを落とさないように気をつけながら,できるだけ早く組み込めばよかったのである.「出来高が簡単に測れ,品質の問題もすぐわかり,誰がやったか明確」ということが,個人のインセンティブを使うのに適していた.インセンティブシステムの失敗は,インセンティブが機能しなかったのではなく,機能しすぎた場合が多い.

2.ゴミ回収ドライバーにインセンティブシステム導入(ニューメキシコ市アルバカーキ市)
 「5時間で回収を終わったドライバーは,5時間分の時給と,3時間分のインセンティブ報酬を受け取ることができる」というもの.結果は,2002年に最もインセンティブ報酬を受け取った24人のドライバーのうち,15人は埋め立て場にいつも重量制限をこえたトラックで現れていた.また,気をつけていれば予防可能な事故が頻発するようになった.予想外の結果として,「安全性の低下,オペレーションコスト,法的責任,顧客不満の上昇」が認められた.

【金銭的インセンティブが行うこと】
1.インセンティブによる動機付け効果
 やる気が高まったとしても,上がるのは努力量であって,少なくとも短期的には能力まで向上するわけではない.努力量を上げさせようとする仕組みは,基本的に努力をすればするほど良い結果が得られることを前提としている.この仕組みは従業員がどうしたら仕事を効果的にできるかが分かっており,会社の仕組みや技術が業績の本当の問題ではない時に初めて機能する.
 金銭をやる気の源泉にする仕組みは,仕事の成果は個人次第であり,個人の行動が組織の業績につながることを前提としている.しかし,ある電力会社の幹部は報酬が会社の業績とリンクしていたのだが,電力会社のコストや単価は気温で決まり,フロリダの夏はあつければあついほど電力が消費された.この幹部はフロリダにやってきた夏に報酬が大幅アップした.彼は「フロリダの気候をコントロールできるならインセンティブシステムは有効だろう」と皮肉を漏らしていた.このように,もし業績が社員のせいでなかったり,社員の努力が業績につながらなかったりというように前提が成り立たなければ,金銭的インセンティブによってやる気が上がったとしても,業績には何の結果ももたらさないし,もたらしようがない.逆に,金銭的インセンティブを目指して一生懸命働いたのに,結果が出ないのを見た社員は,逆に欲求不満となりやる気をなくす.

2.社員に組織の価値感を示す情報効果
 社員は評価制度をみて経営が何を本当に重要と考えているのかを知る.インセンティブによって行動が協力にコントロールできるという面ではよいのだが,経営層がその行動の意味するところや,微妙な影響をよく理解していなければ裏目に出る.問題は,企業のビジネスモデルが,1つか2つの行動だけが重要だというような大変シンプルなものでない限り,典型的な金銭的インセンティブは何が重要かを伝えるには,単純すぎる限られたツールであるということだ.かといって,複数の基準があるインセンティブシステムは,複雑すぎて行動をうまくコントロールできない.個人の成績が複数の相互に絡み合った面を持ち,組織の業績を上げるために知恵と判断が必要な場合には,単純なシグナルは往々にして間違う.例え仕事が複雑でないとしても,社員がどのようにして目標を達成するか,すべての可能性を考えることは不可能である.仮にそれができたとしても,長くて分かりにくいルールや条件のリストができ,システムはあちこちが抜けて機能しなくなる.

3.正しい人材をひきつけ,間違った人材を排除する選別効果
 同僚と競争して勝つことに興味を感じる人材は,高い業績が高い報酬に繋がる会社を選ぶ.しかし,自社のインセンティブシステムにひかれて応募してきた者が本当に採りたかった人材かどうか別問題である.「金に釣られて入社する奴は,金に釣られて辞める」(タンデム・コンピュータ 元CEO トレイビッグ).また,インセンティブシステムは報酬格差を生むが,これは人間関係を壊すかもしれない.報酬や評価に格差をつけることは,成績が客観的に測定でき,かつ成績が共同作業でなく個人だけの努力の結果であるときに意味がある.正しい人材は必要な協力を行うべきであるという考えに基づけば,ちょっとした協力が不可欠な仕事の場では報酬格差はほとんどいつもマイナスの影響を与える.大学教員の調査では,学部内の給料の格差は,仕事の満足度の低下,協力の低下,研究生産性の低下に繋がっているとの結果もでている.29チーム,延べ1500人のプロ野球選手の調査では,基本給,過去の成績,年齢,経験の全てを勘案しても,選手間の格差が大きいチームほど選手の成績が悪いことが分かっており,格差の大きいチームほど勝率が低い.野球はメンバー間の調整や協力が比較的少ないにも関わらずである.

全ての組織でこの3つのメカニズムが働いている.しかし同時に,動機付け,情報を与え,ひきつけようとした社員に対して,予想外に業績を下げる効果が働くことも多い.金銭的インセンティブが業績を上げるというのは,危険な「半分だけ正しい」常識である.間違った報酬システムは,社員が「自分は公平に扱われているか」「組織が自分を本当に大切に考えているか」を理解するシグナルとなることを考えると,大変危険である.

― 考察とディスカッション ―

 医療には,①多職種による協力が不可欠,②目指すべき目標が複数あり複雑(経営指標,患者の健康,安全性,倫理的要素など),③これらにおいてやる気と目標指標達成の間に直線関係が必ずしも成立しない,④各職種の業務量が単純に医療機関の売り上げにつながるという関係にない,などの特徴がある.インセンティブシステムが人間関係を壊し,間違った行為(非倫理的,コンプライアンス低下)を誘発するリスクについて,十分検討しておかなければならないだろう.また,インセンティブシステムを各職種に適用しても医療機関の売り上げに直接結びつく構造にないため(i.e.診療報酬は医師の医療行為によって規定されているし,患者の動員は外部環境にも依存する),システムの原資を獲得する土台がないことにも留意が必要である.

開催日:平成26年2月19日

レボチロキシン(チラーヂンS)の内服時間

― 文献名 ― 
 Thien-Giang Bach-Huynh, Bindu Nayak, Jennifer Loh, Steven Soldin, and Jacqueline Jonklaas

Timing of Levothyroxine Administration Affects Serum Thyrotropin Concentration
J Clin Endocrinol Metab. 2009 October; 94(10):905-3912.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2758731/

― 要約 ―

Context: レボチロキシンは、食事による吸収阻害を防ぐため朝食前に内服されている。TSH濃度はレボチロキシンの効果の指標である。

Objective: レボチロキシンのTSH濃度に対する効果が、食事摂取と関連した内服のタイミングで変化するかを検討する
Design: 参加者はランダムに6つに振り分けられ、それぞれが8週間のレジメンを3ターム行うクロスオーバーデザインで実施される。3タームのレジメンはそれぞれ朝食前・就寝前・朝食時での内服。TSH・freeT4・freeT3濃度が各レジメンで測定される。
参加者のレボチロキシンの投与量は変更せずに実施された.
Primary outcomeは、他のレジメンと朝食前のレジメンとのTSH濃度の相違。

Setting: academic medical centerで実施された

Participants: 甲状腺機能低下症または甲状腺癌の治療のためレボチロキシンを内服している患者

Results: 65人の患者が参加。朝食前内服の平均TSH濃度は1.06 ± 1.23 mIU/L。朝食時内服の平均TSH濃度は有意に高かった(2.93 ± 3.29 mIU/L). 就寝前内服の平均TSH濃度もまた優位に高かった(2.19 ± 2.66 mIU/L)。

Conclusion: 朝食前以外のレジメンでは、TSH濃度が高く、またばらつきが大きかった。特定のTSHの目標値が望まれ、それにより医原性の潜在性甲状腺疾患を避けるならば、朝食前のレボチロキシン内服により最も狭い目標範囲でのTSH濃度が確保されるだろう。

― 考察とディスカッション ―

この研究では8週間のレジメンなので、長期間の効果は不明であった。
しかし、自分自身では飲みやすさから食後で処方してしまうことが多いので、調整がより困難な患者さんに対しては、朝食前(それが難しければ就寝時)に処方変更することを検討したい。

開催日:平成26年2月19日

教育者の12の役割 -組織と指導医個人の教育の振り返り・討論のために-

― 文献名 ―
 Ronald M. Harden and Joy
Crosby. AMEE guide No.20 The good teacher is more than a lecturer – the twelve
roles of the teacher. Medical Teacher. 2000;22:334-347

― この文献名を選んだ背景 ―
 我々は家庭医指導医として、日々家庭医療診療と同時に医学生・研修医教育にも当たっている。我々が自らの役割や活動を振り返る時に、家庭医療診療に関しては、ACCCCやPCCM/統合ケア/癒し、地域包括ケアといったように比較的なじみのある枠組みが多く、容易に自らの活動の全体像を思い浮かべることができる。しかし、医学生・研修医教育についてとなると、学習者の個別事例ベースの振り返りや、卒前・卒後という見方はあるものの、全体像や具体的活動を俯瞰する枠組みは意外になじみがないのではないだろうか。今後フェローシップにおける応用も考えている、教育者としての活動を俯瞰するにあたり有用なフレームワークを紹介したい。

― 要約 ―

・モデルの背景
 自己主導型学習、問題解決型学習といったカリキュラムの考え方や、ポートフォリオなどのパフォーマンス評価、ITなどの技術の影響など、医学教育において様々な変化が起こっている。特に学習者中心性を強調する流れは、教育者の役割を大きく変えつつある。こうした変化の中で、求められている教育者の役割が何なのかについてフレームワークを提案している。

・モデルの作成プロセス
3つの情報源、すなわち①ある医学校のカリキュラムの作成・実行において求められる教師のタスクの分析②12人の医学教育者の3ヶ月の日記とそこでの教師の役割についてのコメントを分析した研究③MedlineとTIME(Topics in Medical Education)databaseの検索で同定された教育者の役割についての文献と医学教育の教科書(Cox &Ewan(1988)とNewble&Cannon(1995)を含む)の分析 を統合してモデルを作成した。各々の役割が実際に教育者にとって重要かどうかについてアンケート調査によるRatingが行われ、実際にいずれの役割も重要であるという評価を得た。

・モデルの全体像;上記プロセスから、医学教育者の役割を12のカテゴリーに分類し、配置したのが図1のモデルである。個々の役割の説明の前に、全体像を簡単に説明する。まず、12の役割は医学の専門性を要するものと、教育の専門性を要するものに大きく分けられる。図の右側に医学の専門性を要する役割を、左側に教育の専門性を要する役割が分布している。同じように、12の役割は学習者に直接介入するために必要なものと、遠隔であるいは間接的に介入するために必要なものにも分けられる。図の右上により近くでの役割、左下がより遠くでの役割が分布している。

・個々の役割の説明;12の役割は6つのカテゴリーに分けられる。重要なのは一人の教育者が全ての役割を一人で発揮する必要な無いということである。個々の教育者に傾向や濃淡はあっても問題はない。また、個々の役割は完全に分割可能ではなく、同時に複数の役割を発揮する場面もある。

A情報提供者
1講師(lecturer);いわゆる「教室で行う講義」を実施する役割
2臨床あるいは現場の教員(Clinical or practical teacher);外来や回診におけるプリセプティングにおける役割。具体例として自身の臨床における思考過程を学習者と共有すること(ここにはreflective practitionerとしての能力も問われる)や病歴・身体診察を説明し、伝達することも含まれる。

Bロールモデル
3現場でのロールモデル(On-the-job role model);医師としての振る舞いを通じて教育する役割。具体的には、専門性に対する熱心さや臨床推論能力を示すこと、医師患者関係の構築、患者を全人的な視点で見ることができることなどが当てはまる。
4教育のロールモデル(Teaching role model);教育者として学習者に接する際の振る舞いや態度。

Cファシリテーター
5学習のファシリテーター(The learning facilitator);学習者の自己主導型学習や振り返りを促す役割。例えば話しやすい環境作りや、学習者の考えを引き出すこと、様々な学習資源・資料を学習者が使いこなせるようガイドすることも含まれる。
6メンター(Mentor, personal adviser or tutor);現場における教育や評価からは、離れた部分で学習者とかかわり、支援的な(そして、依存ではない)関わりから学習者の成長を促す役割。(※他の役割と一部重複する部分がある。)

D評価者
7学生の評価者(The student assessor);学習者に対して形成的・総括的評価を行う役割。
8カリキュラムの評価者(The curriculum assessor);カリキュラムを評価する役割。

E計画者
9カリキュラムの計画者(The curriculum planner);カリキュラム全体を計画し、実行する役割。
10コースの計画者(The course planner);コース(=カリキュラムの一部)を計画し、実行する役割。

F教材開発者
11教材の考案者(The resource material creator);ITをはじめとした技術の進歩により生じたものも含めて、様々な教育リソースを考案し、作成する役割。
12学習の手引きの開発者(The study guide producer);学習の手引き(学習者に学習目標や学習資源、学習の仕方や、自己評価の方法を伝える資料。初期研修の歩き方、的な本が該当。)を作成する役割。

― 考察とディスカッション ―

 著者は、このフレームワークを、指導医養成における評価やPF作成、指導医の生涯学習、組織としての教育者リソースの評価や、教育者を雇用する際の人財募集や契約に役立てられる可能性を述べている。
例えばこの図を見ながら、以下のような問いを討論してみると良いように思う。

Aフレームワークそのものに対して
 ・我々のコンテクストを考えた際に、この12の役割以外に何か思いつくものはあるだろうか?

B自らの指導医としての活動を振り返って
 ・指導医として、自分が最も行っている役割(そして、求められている役割)はどれだろうか?
 ・指導医として、自分が最もなじみのない役割(または、他の人に任せている役割)はどれだろうか?

C自らの組織を振り返って
 ・北海道家庭医療学センターにはどの役割がどの程度必要だろうか?
 ・北海道家庭医療学センターの指導層全体を見た時に、最も充実している役割はどれだろうか?
 ・北海道家庭医療学センターの指導層全体を見た時に、最も欠けている役割はどれだろうか?

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図1 教育者の12の役割

 開催日:平成26年2月12日












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