新たなコレステロールガイドラインの人口ベース標本への適用

―文献名―
M.J. Pencina and Others, Application of New Cholesterol Guidelines to a Population-Based Sample, NEJM, April 10, 2014; 1422-1431

―要約―

【背景】
米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC-AHA)によるコレステロール治療ガイドライン2013では、心血管疾患の予防にスタチン療法の適応が拡大されている。

【方法】
2005~2010年の全米健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、新たなACC-AHAガイドラインではスタチン療法が推奨される人の数を推定し、危険因子プロファイルを要約して、ATPⅢのガイドラインに基づく場合と比較した。得られた結果を米国の40~75歳の人口1億1540万人に外挿した。

【結果】
ATPⅢガイドラインと比較して、新ガイドラインに基づいた場合には、スタチン療法を受けている人、またはスタチン療法の適応である人数は、4320万人(37.5%)から5600万人(48.6%)に増加する。この増分のほとんど(1280万人中1040万人)は、心血管疾患のない成人が占める。60~75歳の心血管疾患がなくスタチン療法を受けていない成人において、スタチン療法の適応である割合は、男性は30.4%から87.4%に、女性は21.2%から53.6%に上昇する。これは主に、心血管イベントの10年リスクにのみ基づいて分類される成人の数の増加によって生じる。新たにスタチン療法の適応となる人は、女性よりも男性が多く、血圧は高いがLDLコレステロール値が著しく低い人が含まれる。新ガイドラインに基づいた場合には、将来的に心血管イベントが起こることが予測されるより多くの成人にスタチン療法が推奨される(感度が高い)が、将来的にイベントが起こるとは予測されない多くの成人も対象となる(特異度が低い)。
Figure1,2参照.

【結論】
 ACC-AHAによるコレステロール管理に関する新たなガイドラインによって、スタチン療法の適応である成人の数は、1280万人増加する。そして、その大部分は、心血管疾患のない高齢者である。

―考察とディスカッション―
概に日本人に適応できないが、ACC-AHAのガイドラインに準じた治療選択を行うと日本人においてもスタチン療法の適応となる対象が増加することが予想される。特に対象の拡大が予想される60~75歳の高齢者については、日本動脈硬化学会のガイドラインでも薬物療法の妥当性は記載されているが、副作用や薬物相互作用などに留意するように強調されている。
今回の文献で示されたデータも踏まえて、新ガイドラインの日本人への適応について、それぞれの考えや意見を聴取し、さらに理解を深めたいと思う。

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Figure.1

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Figure.2

【開催日】
2014年4月23日

贈り物の心理学~皆さんは患者さんからの贈り物をどう捉えていますか?

―文献名―

「贈り物の心理学」 成田善弘著 名古屋出版会 2003年

―要約― 

P89 この頃病院に「職員に対するお心付けは固くお断りする」という張り紙をみる。患者からの贈り物をある種の賄賂とみてそれを拒絶する、正当な料金以外は受け取らないという姿勢であろう。
また近年は患者の権利意識が高まり、患者は医療の施しをうける存在ではなくユーザーであると考えられるようになり、医療が商品視されるようになると、買い手である患者が、売り手である医療者に贈り物をするなどは考えられなくなりつつある。しかし、わが国には様々な時や場合に贈り物を贈るという習慣が定着している。他家を訪問するには手みやげを携えていくのが常識とされているし、世話になった人たちへの中元、歳暮を贈る事は慣習になっている。医師に贈り物をする患者の中には、医師に世話になっていると感じている人もいるであろう。そういう患者達は医療を商品と見なすのではなく、そこに医師の善意や尽力を感じているのだろう。

P91 ある時期から方針を変更し、常識の範囲で判断して特別に高価な物でない限りよろこんで受け取ることにした。というのは、贈り物を謝絶することで患者との関係が安定する事は少なく、むしろ患者を傷つけ関係を不安定にする場合が多いと感じたからである。贈り物を贈るのは、歴史的、文化的慣習であり、また医師の善意や尽力に対する謝意であり、さらには贈り物を通して、自分の気持ち(感謝・愛)、人格が医師に伝わる事を望むからである。それを断ることは、医師が患者とは歴史と文化を共有しないと告げることであり、自分の行為は善意に基づくものではなく、単なる業務であり商品の提供だと告げることであり、患者の気持ちや人格は受け取らないと告げることである。

P94 (精神療法)治療中の贈り物は一般に無意識的に動機付けられた行為である。患者は自分が価値あると思う何らかの好ましい現実の経験を治療者にも共有して欲しいという願望は意識している。しかし贈り物が、治療者に自分の現実世界の喜びを共有する現実の対象になってほしいという願望を表していることには通常まったく気付いていない。

P175 贈与交換は単なる物のやりとりではない。ものを媒介として贈り手と受け手のコミュニケーションである。ものを贈る側も受け取る側も、好意や信頼に根ざした人格的関係によって結ばれ、双方の間には互酬性の原理もしくは互酬性の規範によって、返済の期待や返済の義務が生じる。贈り手は受け手に返済を期待し、受け手は贈り手に返済の義務を負う。こうした交換当事者双方の思惑や感情が錯綜する結果、贈与交換の生活はますます複雑になっている。
(内観療法は、してもらったらして返すのが当然という事が前提として強調されている日本であるため発達したのかもしれない)

日本社会では、ハレの日に食物をやりとりすることは多い。日本語の「もらう」という言葉は、元々は多くの人が食物によって不可分の関係を結ぶ事を意味したという。人と飲食を共にするという事から「酒もり」の語もできたという。

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【開催日】
2014年4月23日

Outcomes of Medical Emergencies on Commercial Airline Flights

―文献名―

Peterson DC, M.D., et al.  N Engl J Med ;368:2075-83,2013 

―要約―

【背景】
世界では、毎年 27 億 5,000 万人が民間航空機を利用する。飛行中に医学的緊急事態が発生した場合には,医療へのアクセスは限られる。飛行中の医学的緊急事態と、その転帰を報告する。

【方法】
2008 年 1 月 1 日~2010 年 10 月 31 日に、5 つの国内・国際航空会社から,医師が指揮する医療通信センターに通報された。飛行中の医学的緊急事態の記録を調査した。頻度の高い疾患と、機内で提供された支援の種類を明らかにした。予定外の着陸地変更、病院への搬送、入院の発生率とそれらに関連する因子を検討し、死亡率を算出した。

【結果】
センターへの通報にいたった飛行中の医学的緊急事態は 11,920 件あった(飛行 604 回あたり 1 件)。頻度の高い疾患は,失神または失神前状態(37.4%)、呼吸器症状(12.1%)、悪心または嘔吐(9.5%)であった。飛行中の医学的緊急事態 の 48.1%では、乗り合わせた医師が医療支援を行い、7.3%では着陸地が変更された。飛行後の追跡データを入手しえた 10,914 例のうち、25.8%が救急隊員によって病院に搬送され、8.6%が入院し、0.3%が死亡した。入院の要因としては、脳卒中の可能性(オッズ比 3.36,95%信頼区間 [CI] 1.88~6.03)、呼吸器症状(オッズ比 2.13,95% CI 1.48~3.06)、心症状(オッズ比 1.95,95% CI 1.37~2.77)の頻度が高かった。

【結論】
飛行中の医学的緊急事態のほとんどは、失神,呼吸器症状、消化管症状に関連し、医師が任意で医療を提供する頻度が高かった。着陸地変更または死亡にいたった飛行中の医学的緊急事態は少なく、飛行中に医学的緊急事態が発生した乗客の 1/4 は病院でさらなる評価を受けた。(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた。)

―ディスカッション―

思っていたよりも飛行機内の緊急事態の際に医療関係者が乗っている割合が多かった(医師(48.1%))ことに驚いた。
実際、日本の医師にとられたアンケートでは「航空機の中で『お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか』というアナウンス(ドクターコール)を聞いたときに手を挙げるか?」という質問に対して、 「手を挙げる」と答えたのは4割程度という結果がある。このような結果になった一因としては、対応した場合の責任問題や医療器具が乏しい状況での判断や、自身の判断が運航に与える影響が大きいことに対する不安などが考えられる。

資料
「善きサマリア人の法」
災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない。
→アメリカやカナダで施行されているが日本では法整備なし。

JAL機内の医療用品
・薬剤
注射:生理食塩液、アドレナリン、リドカイン、ブドウ糖、イノバン、アトロピン、ネオフィリン、ハイドロコートン、ブスコパン、メテナリン
内服:ニトロペン、アダラートカプセル、タベジール、タリビット
医療用具:聴診器、血圧計、AED、心電図モニター、血糖測定器、点滴セット、アンビュバッグ、気管内挿管セット、液体吸引セット、異物吸引セット、ネラトンカテーテル
一部国際線のみ

開催日:平成26年4月16日

発達障害児に対するアプローチ

―文献名―
岩間真弓、市河茂樹.かかりつけ医がみていこう common diseaseとしての発達障害.治療.2014;4.Vol.96.増刊号:556-557ページ

―要約―

【はじめに】
2012年度の文部科学省の統計では、発達障害がある児童は全児童の6~9%であることが示された。発達障害は、診断や治療において専門性の高い判断が必要な場合もある。一方、発達障害児の日々の生活のアドバイスや健康相談については、なかなか受診できない専門施設だけでなく、児の住む地域のプライマリ・ケア医が積極的に関わっていくことは大切であり、今後ますます求められていくだろう。

【発達障害とは】
自閉症、アスペルガー症候群その他の汎用性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(2004年の発達障害者支援法)。
特性に応じた支援が受けられれば、十分に能力を発揮できる可能性がある。

a.自閉症
自閉症の児は発語が遅い、対人意識が弱い、かんしゃくが強いということで保護者から相談を受ける事が多い。成長発達の中で、児の言語、運動、社会性の発達にはマイルストーンがあるが、そこから外れているようであれば、まず1~2ケ月後に、成長が認められるかをしっかりとフォローする。そして表1(言語評価を行うべきred flags)に当てはまるようであれば、耳鼻科、言語聴覚士、地域の発達障害者支援センターに紹介しながら言語評価を開始する。対人面やこだわり、コミュニケーションの取り方について早期に関わっていくことで、児がより安心して成長することが可能となる。

b.注意欠陥多動性障害
じっとしていられない、順番が待てない、忘れ物が非常に多いといったことに、保育園や幼稚園などの集団生活の中で気付かれ、相談される事が多い。ただ、「落ち着きのない子」で終わるのではなく、どうしてそのような行動になっているのかを見極め、周囲にも伝える事が大切。伝える情報はなるべく少なくシンプルにする等、本人に合わせた情報の入力の仕方をすることで生活しやすくなる。

【適切な支援】
発達障害とは児の生まれ持った特性であり、治療して治す疾患ではない。また、決まった対応方法があるわけでもなく、児の特性とライフステージに合わせた支援を、医療、保健、福祉、教育および労働などの各関係機関が連携を図りながら提供していく必要がある。各都道府県に、発達障害者支援センターがあるほか、各自治体の子育て支援課が相談を受け付け、近くの療育機関を紹介してくれる。支援における医療の役割としては、医師による診断、特性に合わせた育児方法のアドバイス、薬物療法、言語聴覚士・作業療法士や児童心理士による言語・行動療法や感覚統合訓練などが挙げられる。ADHDに対して治療薬もあり、注意力の向上に一定の効果が期待出来る。発達が気になる児やその育児者の相談に乗り、児にあったリハビリ、子育て支援機関を紹介し療育を開始する。診断が困難な場合は発達支援外来に紹介している。専門医、言語聴覚士、作業療法士、保健師、教員などが集まって児の事を話し合うカンファレンスを実施する。

【おわりに】
発達障害児の診療といっても医師1人の力だけでは出来る事は限られている。日常診療の中で、かかりつけ医が児やその育児者の悩みに気づき、その児にあった支援につなげていく流れをリードしていくことで、児1人ひとりが生まれ持った特性を安心して十分発揮するためのお手伝いができるのである。専門医に紹介した後も、かかりつけ医としてこまめに関わり続けていけば、常に「その児の専門家」として近くで成長を応援し、児がのびのびと成長出来る地域づくりを推進していく事が出来る。

―ディスカッション―

発達障害児に対するアプローチ、支援方法が紹介され、我々家庭医の関わりについても述べられている。寿都での最近の取り組みとしては、5歳児健診前に、家庭医、役場保健師、保育園保育士が集まり、情報の共有をするようにして、すでに診断されている児の最近の動向や、疑いがある児に対する対応策を検討し、健診での対応の改善につなげた。疑わしい児は、家族と相談し、専門医に紹介し、診断がつけば、その後の支援につながっている。しかし、その後、我々家庭医が、紹介した専門医や療法士、児童心理士とうまく連携して、児の特性に合わせた対応が統一して出来ているとはあまり感じられない。今後、このような専門家との密接な連携がより求められるのはないかと感じた。

開催日:平成26年4月16日