小児に対する地域・コミュニティケアに求められるものとは?

―文献名―
平林優子ら.保育園児の家族が子供の健康に関して利用する社会資源と要望-首都圏1地区の調査より-.2009

―この文献を選んだ背景―
ここ最近、ケアcaféや地域包括ケアシステムなど、地域・コミュニティケアについて重要視され活動も活発になってきているが、対象が高齢者であることが多い。小児に対してはどうなのか、どのようなことが必要とされているのかなど、今後の活動に参考にしたかったため調べてみた。

―要約―
目的
・首都圏の1地区の公立保育園に通院する家族を対象に、子供の健康に関する社会資源の利用状況や要望を明らかにし、地域の支援のあり方を検討する

方法
・対象:首都圏の1地区の公立保育園に通院する1,217家族のうち回答された652件(回収率53.6%)のうち、有効回答649件を分析対象

・調査:調査用紙は2部構成。第1部は全員に回答を依頼し、子供の健康状態、地区の社会資源の利用の実態と要望などを内容とした。第2部は、特に継続支援を必要とする慢性疾患を持つ保護者に回答を依頼し、子供の健康状態、保育園での健康管理と支援の状況、社会資源の利用と利用の困難や要望を内容とした。

・分析:数値や名義尺度に関しては記述統計、記述項目については質問の目的に沿って回答を分類する内容分析を行った。子供の健康問題、社会資源の利用についてはχ2乗検定により慢性疾患の有無で回答の違いを確認した。

結果
・調査対象:回答は母親がほとんど。第2部まで回答した割合は94件(14.4%)。子供の月齢は42.1ヶ月で、2-5歳が77%。男女はほぼ半数ずつ。3-4名の核家族がほとんどを占めた。

・子供の健康問題(表2):全体では「風邪をひきやすい(32.6%)」が最も多く、次に「アレルギー(27.4%)」が多く、慢性疾患を持つ子供については「気管支ぜんそく(42.6%)」、「食物アレルギー(41.5%)」、「アトピー性皮膚炎(36.2%)」とアレルギー疾患が多かった。

・慢性疾患を持つ子供に必要なケアと保育園での支援の現状(表3):必要なケアについては「毎日の服薬(52.1%)」が最も必要とされていたが、保育園において保育士の支援は行われておらず、毎日服薬が必要な子供の86%が1日2回の服用方法になっていた。外用薬は30%が必要とされていたが、保育士の支援が行われていた。また、支援の現状に関しては「子供の体の状態を観察する(80.0%)」と保育士・看護師からの支援があるとの回答が高かったが、「体の状態に合わせ活動し必要時休息をとらせていない(33.0%)」、「子供のコミュニケーションを助けていない(56%)」という結果であった。

・子供の健康に関連して利用している社会資源と要望
①利用している社会資源(表4):対象の特性から「保育園(80.9%)」は高く、「親族(56.9%)」、「近隣者・友人(52.5%)」、「近所の開業医(53.8%)」、「病院(43.3%)」であり、「インターネット(26.9%)」、「保健センター(19.4%)」と少なかった。また、慢性疾患を持つ子供については「近隣者・友人」の項目のみ有意な差を認め、慢性疾患を持つ子供は「近隣者・友人」を利用する割合が少なかった。また、慢性疾患のみの質問紙の回答では半数近くが「保健師」「保育園看護師」を利用していたが医療者の回答はなく、「医師」についても25%、「病棟や外来看護師」はほとんど回答がなかった。「栄養士(19%)」は比較的高かったが、アレルギー疾患の子供が多いことが関与していると考えられた。

②利用するのに困難がある、あるいはもっと支援を期待したい社会資源:全体的に回答が少なかったが、「保健センター(13.7%)」、「病院(7.7%)」、「近所の開業医(5.4%)」であった。

③子供の健康を守るうえで支援の改善への要望(表5):全334件のうち、種々の社会資源への要望としては「病院・診療所(121件)」が最も多く、診療時間の拡大・小児に対応可能な診療施設の増加が多かった。診療体制に関しては診療内容や対応の改善、待ち時間改善を望んでいた。次に多かったのは「病児・病後児保育や病児がいる際のサポート(80件)」であり、病児保育などを望む声が多かった。「保育園(28件)」については、健康管理機能の充実・健康教育の場・服薬管理という声があり、「保健センター」では対応時間の柔軟性が求められていた。また、「相談システム」については子供の急な病気への相談・気軽に相談できる窓口が求められていた。「予防接種」に関しては予防接種の情報や健診の充実・時間や日程の拡大などが挙げられた。慢性疾患の子供の家族では特に「病児保育の充実」「病院の対応の改善や小児診療の向上」「療養方法の情報提供」などが挙げられた。

―考察とディスカッション―
今回、小児に対する地域・コミュニティケアのきっかけとして上記を調べてみたが、キーとしては「アレルギー疾患」、「慢性疾患の子供を持つ家族」ではないかと感じた。慢性疾患の子供を持つ家族は慢性疾患のない子供を持つ家族に比べ「隣人・友人」を利用する機会が少なくなっているが、「近所の開業医」を利用する人は同等であるということもあり、医療機関としてアプローチできる印象がある。また、その家族を対象としたアプローチや保育園だけではなく、栄養士との連携などもさらにアプローチが広がるのではないかと感じた。皆さんの地域では小児に対する地域・コミュニティケアはどのようにしているでしょうか?

【開催日】
2014年5月14日(水)

グループ診療が壊れるとき

―文献名―
Francois Marechal, Dorothee Schmidt, Evelyne Lasserre and Laurent Letrilliart. When the group practice breaks up; a qualitative study. BMC Family Practice. 2013 May 3;14:53.

―要約―
【背景】
グループ診療は世界中のプライマリ・ケア医の間でだんだんと普及してきている。しかしグループ診療の中で分裂が起こる可能性もしばしばあり、そのプロセスはこれまで研究されていない。この研究の目的は家庭医のグループ診療の破綻の原因を探索し、それにまつわる感情を記述することである。

【方法】
我々は、フランスのローヌ・アルプ地方でグループ診療の破綻を経験した、21人の家庭医と1人の事務員を対象とした深層インタビューによる質的研究を行った。

【結果】
初めてグループ診療を始めるとき、若い医師たちは準備が出来ている、あるいは、サポートされていると感じておらず、必ずしもパートナーと同じ期待を共有しているわけではなかった。破綻の原因には、グループ内の不均衡、対照的な働き方やマネジメント・スタイル、コミュニケーションの途絶などが含まれていた。破綻のプロセスにより、それを経験したパートナーほぼ全員、特に辞めた方のパートナーは、苦悩や失敗といった感覚を長く持ち続けていた。

【結論】
パートナーシップの最も初期の段階から弱体化の要因が存在し、グループ内で起こる変化や出来事すべてにおいて問題が増加する可能性があった。そこで我々は以下のことを推奨する。公正なマネジメント、明確な契約に基づく共有されたプロジェクト、必要に応じて第3者からもらう助言、そして最悪の場合にはグループ診療を辞めることである。

【開催日】
2014年5月14日(水)

巻き込む技術

―文献名―
「巻き込む技術」  大和出版  2014.2 桑畑幸博

―要約―
①この人の話なら聞いてみよう」と周りとの距離を縮める。
 ・本題に入る前に相手に耳を傾けてもらう環境を作る。(つかみが重要)
 ・計画的に顔をうることが重要。
 単純接触効果:接する回数が多いとその対象に好感をもちやすくなる。(ロバート・ザイアンス 1968)巻き込みたい相手に好感を抱いてもらう。ただし、自分が否定的感情を持たない対象との接触という前提条件あり。(正像と鏡像、本人は見慣れた鏡像のほうが好き。)
 ・第一印象は大事、汚名返上は難しい。
 初頭効果:最初の情報から形成される第一印象が、その後の情報の「受け取り方」に影響を与える。(例:印象形成実験 知的で勤勉で頑固な人 vs 頑固で勤勉で知的な人 印象は?) 
 ・ 自分の個性を知り、相手に頼る。
  いい人そうだと感じてもらえる個性を意識する。
  明るい、真面目そう、優しそう…、寡黙、謙虚なども含まれる。(寡黙だけど聞き上手とか。)
  ハロー効果:役に立ちそうだと感じられる知識やスキル、経験(役職なども)
  返報性:自分を好きな人を好きになる、自分を嫌いな人を嫌いになりやすい。
  まずは相手のどこかよいところを探して自分から好きになることで相手からも好感を抱いてもらう。
  好感を抱く相手に「頼る」傾向がある。頼られて嫌な気分になる人は少ない。(自分から相談を。)
 ・共通点が多いと好感をいだきやすい。
 過去の事実:出身地、過去に参加したイベントや趣味
 その場の振る舞い:ミラーリング、間合い
 考え方のベクトル:共感(共感したふり、共感しずぎも注意)
 ※否定的反応(いや、でも)は耳を傾ける環境が整ってから。
☆参考:ニューカムのABXモデル

②「これは他人事じゃない」と周りに当事者意識を持たせる
 ・当事者意識がない人は巻き込めない、なぜ当事者意識をもてないか?
 代表例は「自分に自信がないため積極的に関わろうとしないタイプ」
 当事者になるのを避けている、役になっている実感がない
 (環境:叱ってばかりで褒めない上司の下で働いていると「どうせ頑張っても」という気になる)
 このタイプは褒められた経験だけでなく感謝された経験も少ない人が多い。
 →ほめる、感謝することで「役になっている実感」が得られれば当事者意識がもてるようになる。
 「失敗を恐れる、守備範囲を決めて積極的に関わらないタイプ。」
 リスク回避思考、手段の目的化に陥っているタイプ
 仕事の意味がわかれば役になっているという実感がわく。
 →意味を示し、様々な立ち場で考えてみること。
  失敗にもメリットがあることを示す。(セーフティーネット:責めない、再チャレンジの機会)
 「関係ないね、という当事者意識ゼロのタイプ。」
 実は関係があることを理解させる方法
 ・因果関係を丹念に追いかける(回り回って関係することは多い)
 ・他人ごとを自分たちに当てはめる
 (明日は我が身、似た立ち場:
  他部門や他業界で起こっていることが自分の立ち場で起こる可能性を考えさせる。)

③「たしかにその通りだ」と周りに理解・納得させる
 ・理屈で納得させる
 伝えるべきことをまとめる。まとめるグルーピング(整理)とラベリング(要約)を繰り返す。
 「論理のピラミッド」 結論を複数の根拠で支え、根拠を示す具体的情報で支える。
  上から下に「なぜならば」、下から上に「したがって」で繋がる。
 ・たとえ話でわかりやすく伝える。
 たとえ話を論理のピラミッドで組み立てる。

④「やるしかないでしょ」と周りをその気にさせる
 ・理屈を心が後押しする
 「ワクワク」という高揚感、「ヤバい」という危機感のような相手の感情を刺激する。
 プラスの感情とマイナスの感情のどちらを刺激するとこの人は動いてくれるのかを考える。
  プラスの感情:喜び、楽しみ、期待感、高揚感、安心感、充実感
   →変革志向:現状に満足しないが飽きっぽい、気が短く忙しくしていないと不安なタイプ
  マイナスの感情:怒り、悲しみ、危機感、挫折感、不信感、焦燥感
   →現状維持志向:我慢強く現状への不満は受け入れる、どちらかといえば面倒くさがり、慎重
 ・因果関係を示す。
 長期的・間接的な影響や結果を丹念に追いかける。
 ・ストーリーテリング:あえてメッセージを明示せず相手に答えてもらう。その答えに「その通り!」
 (例:さて、彼は何に気をつければよかったと思いますか?)

⑤「あ、そうすると…」と周りに気づかせる
 ・閉じた質問で確認する
 抽象的な発言は「たとえば」と具体例を挙げて、具体例だけの発言は「要するに」と要約して言い換える。
 本当ですか?という疑う問いかけ。
 ・開いた質問で考えさせる、気づかせる
 広く考える=たくさんの答えを出す、深く考える=掘り下げる・突き詰める

⑥「これからもこいつと」と上司を継続的に巻き込む
 ・対立する思惑に対して「どちらも間違ってはいない」ことを認める。
 立ち場や価値観に基づく優先順位が違うだけ。両者が合意できる共通点を見つけ提示する。
 (似た者どおしの雰囲気を作る)
 共通点を対立する思惑の「上:共通する目的」と「下:一緒にできること」を見つける。
 ・反感を買わない
 どんな話でも最後まで聞く、聞いている途中で否定的な反応をしないこと。
 批判は冷静に論理的に。
 ※質問の形をとる指示に注意。
 「○○したほうがいいと思うんだけど。君はどう思う?」
 こう聞かれてもまずは否定せず受け止めて、代案など自分の考えを述べる。
 ・非言語情報センサー

☆回りを巻き込むにふさわしい大義はあるのか?を考える。(回りへの影響を考える。)

【開催日】
2014年5月7日(水)

第三版Patient-Centered Medicineのまとめ 臨床技法、教育、チームワークのPCM、その研究結果

―文献名―
Stewart, Brown, Weston, Mcwhinney. Patient-Centered Medicine Transforming the Clinical Method. Radcliffe Medical Press(2014)

―要約―
PCM第3版のまとめ~2版からの変更点~
1. コンポーネントが6つから4つに
「予防と健康増進」「現実的になる」の2つがなくなり、別のコンポーネントや章に組み直された。
またコンポーネント4「医師患者関係を深める」では”信頼””癒しと希望””自己認識の実践知”について加筆されている。

2. 第1のコンポーネントに”Health”の探索が加わった
DiseaseとIllnessの探索にHealthが加わった。
健康観や人生の意味を尋ねることの重要性がCassellの知見を基に大幅に加筆されている。

3. 第2版でのコンポーネント4「予防と健康増進」がコンポーネント1と3に組みいれられた
健康増進と疾病予防は”Health”の探索と同時に行い、その価値や信念について尋ねるプロセスとしてコンポーネント1に、また実際にそれをAgendaとして扱うプロセスはコンポーネント3にそれぞれ組みいれられた。

4. PCMの教育についてアップデートされつつ、カリキュラム作成についての章が消えた
チームワークの教え方やケースを使った教育、FeedbackのSNAPPSの枠組みなど加筆されている。

5. 第2版でのコンポーネント6「現実的になる」のTeamのところが新たな章『ヘルスケアのコンテクストと患者中心のケア』として昇格
新たな章:Part 4『The Health Care Context and Patient-Centered Care』としてTeam-Centered ApproachとHealth Care Costが加わった。
Teamの所では、患者中心の医療を実践するためにPCMの臨床と教育を並行して進めることは過去の方法で、新たにチームの機能を強調し、臨床・教育と同様のモデルでチーム医療について記述している。

6. PCM研究で具体的なPCMのエビデンスの集積が記載されている
これまでの研究結果から、ケアのプロセス、医療者の行動、患者のアドヒアランス、健康の質そのものの改善が詳述されている。

―考察とディスカッション―
後期研修目標の議論で中心として扱ったコンポーネント1.2.3.5がそのまま新しいコンポーネントになっていることは今までのHCFMの実践と教育と一致しており心強く感じた。

PCMの4つのコンポーネントが教育のみならずチームにも適応され、臨床と教育の2つを並行して扱うのみならず、臨床と教育とチームワークという3つを並行して扱うという書籍の構成は、ORSCなどでHCFMが扱っているテーマ・課題と一致しており今後の取り組みへのヒントになると感じた。

また教育面のアップデートについても後期研修会議などで指導医で共有し、今後のレジデンシー教育に反映していきたい。

【開催日】
2014年5月7日(水)