終末期における、家庭医の認められた役割 ~入院の予防とガイド~

―文献名―
Thijs Reyniers .The Family Physician’s Perceived Role in Preventing and Guiding Hospital Admissions at the End of Life: A Focus Group Study.Annals of Family Medicine.2014;Vol12:441-446.

―要約―
【目的】
家庭医は終末期ケアを提供する際に、そして終末期の患者が住み慣れた環境で亡くなっていく際に重要な役割を担っている。この研究の目的は、終末期における、入院を予防したり進めていったりする際の役割と困難さについての家庭医の認識を探る事である。

【方法】
5つのフォーカスグループが開かれた。参加した家庭医はベルリンの家庭医で39人。 議論はテープ起こしされ、constant comparative approach※1で分析された。

【結果】
終末期における、入院の予防と案内での5つの重要な役割が分かった。①未来のシナリオを予想するケアの計画者; ②助言するという形での急変時の決断をする役割;③終末期ケアの提供者(これは能力と態度が重要である);④特に急変時に対応できるという支援の提供者;⑤総合的な責任を担う意思決定者

【結論】
終末期における入院の予防と案内の際、家庭医は多様で複雑な役割と困難さに直面する。 病院医療へのゲートキーパーとして家庭医の役割を向上させたり、家庭医にもっと終末期ケアのトレーニングをさせたり、家庭医をサポートする方法を発展・拡大すれば、終末期における入院の割合を減らせるかもしれない。

※1:constant comparative approach;データの収集,コーディングとカテゴリ化,理論構築の作業を、データ収集ごとに分析の結果を絶えず比較し,それをまたデータ収集に反映することを繰り返す

―考察とディスカッション―
この研究で導き出された5つの役割は、どれも納得できるものであった。あくまで終末期における「入院」に関わる家庭医の役割ではあるが、かなりの部分が網羅されていると思われる。

①皆さんはこの結果を見て納得できるか?
②終末期ケアにおける家庭医の役割として、皆さんが抱えている悩み、疑問はどんなものがあるか?
③「終末期ケアにおける家庭医の役割は?」というクリニカルクエッションに対し、この研究に更に上乗せするとしたら、どのような切り口で研究を構成していくか?

【開催日】
2014年10月22日(水)

情動の敏捷性

―文献名―
スーザン・デイビッド,リスティーナ・コングルトン.不安や疑念と向き合うスキル ガティブな感情をコントロールする法.ハーバード・ビジネス・レビュー10月号 p118-125

―要約―
 物事を肯定的に考え、明るく振る舞ったほうがよいと思っていても、胸の内では批判や疑念、不安など否定的な考えや感情が生まれてくるものだ。それ自体は健全な心の働きだが、問題は否定的感情に囚われ、がんじがらめになることだ。この点において、優れたリーダーは自分の思考や感情をうまく制御する「情動の敏捷性」(emotional agility)を身につけている。このスキルを養うための認知行動療法に基づく4つの方法−自分の思考パターンを認識する、湧き起こる考えや感情に名前をつける、それらを受け入れる、価値観に基づいて行動する−について論じる。
 社会通念上、やっかいな考えや感情は職場では排除すべきものとされている。経営幹部、とりわけリーダーは感情を表に出さず平然としているか、明るく振る舞うかしなければならない。自信をみなぎらせ、胸の内に湧き起こるいかなる否定的思考や感情も振り払うべきなのである。
 しかし、これは人間の本質に反することだ。健全な人間なら、だれでも胸の内でさまざまな考えや感情が生まれるし、批判や疑念、不安も生じる。これは単に、我々の心が本来の機能を果たそうとしているだけである。つまり、先を見通し、問題を解決し、落とし穴となりそうなものを避けようとしているのだ。
 優れたリーダーたちは自分の内側で起きていることを鵜呑みにしたり押し殺そうとしたりすることはない。むしろそれらに気を配り、自分の価値観に基づいた生産的な方法で向き合う。すなわち、我々が呼ぶところの「情動の敏捷性」を養っているのだ。

(1) 自分のパターンに気づく
 情動の敏捷性を養う第一段階は、内なる考えや感情に囚われたら、それに気づくことである。これは難しいが、すぐにわかる手がかりがある。一つは思考が硬直的になり、堂々めぐりすることだ。また、自分の思考が繰り返し語る内容に覚えがあり、まるで過去の経験が甦ったかのように感じられる。何かを変えようとする前に、自分が袋小路に迷い込んでいることに気づかなければならない。

(2) 自分の考えや感情に名前をつける
 自分の考えや感情に囚われると、それにばかり気を取られて、頭がいっぱいになる。その考えや感情を吟味する余裕がなくなってしまうのだ。自分の置かれている状況をより客観的に検討するための一つの戦略として、名前をつけるというシンプルな作業が役立つかもしれない。スペードを「スペード」と呼ぶように、湧き上がってきた考えを「考え」、感情を「感情」と名づけるのである。
 たとえば、「同僚が間違っている。彼は頭にくる」という思いが込み上げてきたら、「私は同僚が間違っているという考えを持ち、怒りを感じている」とする。名前をつけることで、自分の考えや感情が、ありのままに捉えられるようになる。つまり、今後役に立つかどうかはわからない一時的なデータ・ソースとなる。

(3) 自分の考えや感情を受け入れる
 制御の反対は受容である。あらゆる考えに逐一反応したり、否定的な思いに甘んじたりせずに、自分の考えや気持ちに心を開いて向き合い、注意を向け、それを味わうようにする。ゆったりと深呼吸を10回繰り返し、その瞬間に起きていることに注目するとよい。
 こうすることで気持ちは楽になるが、必ずしも満足感が得られるとは限らない。それどころか、いかに自分が取り乱しているかを身に染みて感じることもあるだろう。大事なのは、自分自身(そして他者)に思いやりの気持ちを示し、現状が実際にどうなっているかを吟味することである。自分の内と外で、何が起きているのだろうか。

(4) 価値観に基づいて行動する
 やっかいな考えや感情から解放されると、選択肢が広がる。自分の価値観に即して行動することを決められるようになるのだ。
 我々はリーダーたちに、実効可能性(workability)という概念に注目することを勧めている。あなたの対応は、あなた自身やあなたの組織に長期的にも短期的にもメリットをもたらすか。それは、全体的な目的を前進させる方向に人々を導くうえで助けになるか。あなたは、何よりもなりたかったリーダーや、何よりも送りたいと思っていた人生に向かって前進しているだろうか。
 頭のなかで思考はたえず流れ、気持ちは天気のように移り変わる。だが、価値観はいついかなる状況でも指針とすることができる。

やっかいな考えや感情を遮断することは不可能である。優れたリーダーたちは内側で起きていることに気づいているが、それに囚われてはいない。彼らは内なる資源を解き放つ術を心得ており、自身の価値観に即した行動に全力を傾けている。

【開催日】
2014年10月22日(水)

どんな組織にもある2つの欠陥

―文献名―
ジョン・P・コッター.村井章子 訳.「企業変革の革新」.150-194.日経BP社.2009

―この文献を選んだ背景-
新しい組織で新しいことをやるということは、つまり変革を手動するということである。このテーマを意識するようになり「適応のリーダーシップ」(ハイフェッツ)や「変革のリーダーシップ」(コッター)を参考にしていたが、コッターが提唱する「危機感」についての考え方は、イノベーションを起こせずに廃れていったほとんどの組織にとってあてはまるのではないかと思われる。こうした概念を企業転落の予防線として知っておくことは、あらゆるリーダーにとって重要と考え、この場で共有することとした。

―要約―
企業変革のプロセスの第一段階は「危機感を生み出す」ことである(※詳細はコッターの企業変革の8段階を参照)が、ほとんどの組織がこの第一段階でつまずいている。本当の危機感を理解するためには、その反対の概念を知っておくとよい。「自己満足」と「偽の危機感」が、それである。

1.自己満足
 ■自己満足はなぜ生まれるのか?:
過去の成功体験から生まれることがほとんど。
 ■自己満足するとどう考えるようになるか?:
自分が自己満足に陥っているとはまず考えない。「やるべきことは自分が一番よく知っている」「やるべきことはわかっているが、しかし容易ではない」「自分はやるべきことをやっているが、上手くいかないのは他に(上司に、他部門に、競合に)問題があるせいだ」と考える。
 ■自己満足するとどう感じるようになるか?:
変化を恐れ、現状に執着する。
 ■自己満足すると、どう行動するようになるか?:
言葉ではなく行動にはっきり現れる。「このままでいい」と思っているので、外からの脅威を見逃すし、新たな機会を探そうとしない。関心の対象が内向きになり、変化のスピードが鈍感になる。過去に上手にいった事をいつまでも続けようとする。

2.偽の危機感
 ■偽の危機感はなぜ生まれるのか?:
失敗経験または、現実の危機の重圧から生まれることがほとんど。
 ■偽の危機感を抱くとどのように考えるようになるか?:
混乱し、思考停止に陥る。経営陣や上司がいたずらに危機感を煽っていると考えたりする。
 ■偽の危機感を抱くと、どう感じるようになるか?:
不安(自分はこの先どうなるのだろう)や恐れ(こうなったのは誰のせいだ)を感じ、焦って行動する結果、疲労感や徒労感を覚える。
 ■偽の危機感を抱くと、どう行動するようになるか?:
思いつくままに次々に行動に移す。一見すると精力的に活動しているため、本当の危機感に基づく行動と取り違えやすい。しかし偽の危機感に駆られた行動は「行動のための行動」であって、よい結果に結びつかないことがきわめて多い。会議に次ぐ会議で疲れ切る。組織にとって重大な脅威や有望な機会にフォーカスするのではなく、他人を攻撃したり保身に走ったりする。

自己満足と偽の危機感を突き止めるチェックリスト
✓重要な事柄を経営陣がほとんど関与しないタスクフォースに任せたりしていないか?
✓重要な取り組みをはじめようというときに、関係者のスケジュール調整がつかないということがないか?
✓社内の裏工作やお役所的な事務手続きで重要なイニシアチブが滞っているのに、そのまま放置されていないか?
✓重大な問題に関する会議で、何も決まらずに先送りにされることはないか?
✓議論が社内の人事など内向きなことに終始し、市場・技術・競争等が話題に上らないということはないか?
✓会議に次ぐ会議で時間をとられ、大事なことがおろそかになったりチャンスを逃したりしていないか?
✓脅威や機会の存在を示すデータに対し、偏った事実や断片的な事実に基づく議論が展開され、最終的にそちらが優勢になることはないか?
✓過去の失敗から学ぶのではなく、過去の失敗を盾にとって新たな試みが阻害されることはないか?
✓真剣な議論の最中に、皮肉なジョークやしらけた発言が飛び出すことはないか?
✓重要なイニシアチブの一環として割り当てられた仕事が、中途半端に終わったり形だけになったりしていないか?

―考察とディスカッション-
ハイフェッツが提唱する「適応のリーダーシップ」では、リーダーシップは「人々を困難な仕事に向き合わせること」であるとしている。困難な仕事に向き合うという作業については、メンバーはもとより、リーダー自身にも重荷を強いるとこになる。さて、リーダーが本当に必要な作業に向き合えていないとすれば、そこは自己満足や偽の危機感が存在する可能性が少なくないと考えるが、あなたの組織ではどうだろうか?

【質問】
「あなたが関わる組織は、変わるべきですか?変わらない出来ですか?」
「変えるとすれば、何を変えるべきですか?その意見は組織の中でどのようにみなされていますか?」
「あなたは本当に必要な作業に、向き合えていますか?向き合えていないとすれば、それはなぜですか?その理由は過去の経験の影響をどの程度受けていますか?その過去の経験はいつまでも成り立つものですか?」
「本当に必要な作業に向き合うことで、何を為しえることができ、それにはどのような代償を伴いますか?」
「あなたの周囲の人間は、あなたが本当に必要な作業に向き合っていないと思っていませんか?周囲のどんな行動からそれを読み取ることができますか?」

【開催日】
2014年10月15日(水)

慢性肝炎の肝細胞スクリーニング システマチックレビュー

―文献名―
Devan Kansagara, MD et al. Screening for Hepatocellular Carcinoma in Chronic Liver Disease A Systematic Review

―要約―
【Background】
ガイドラインではハイリスク患者の肝細胞癌の定期的なスクリーニングを推奨しているが、そのエビデンスレベルは不透明である。

【Purpose】
慢性肝炎患者のHCCスクリーニングついての有益性と有害性についてレビューすること。

【Data Sources】
MEDLINE, PsycINFO, and ClinicalTrials.gov に関しては検索可能な時期から2014年4月まで
Cochrane databasesに関しては検索可能な時期から2013年6月まで

【Study Selection】 
英語の研究で観察研究、スクリーニング群と非スクリーニング群の比較研究、有害事象の研究、スクリーニングの間隔に関する比較研究

【Data Extraction】
最も重視したものは死亡と有害事象である。
個々の研究の質とエビデンスの強さをパブリッシュされているクライテリア(文献16参照)を用いて2人でレビューした。

【Data Synthesis】
13,801から22の研究がinclusionされた。
総じてスクリーニングの効果におけるエビデンスは非常に低かった。
一つの大規模研究で定期的な超音波スクリーニングにおけるHCC死亡率が低い結果であった。 (83.2 vs. 131.5 per 100,000 person-years ;rate ratio, 0.63 [95% CI, 0.41 to 0.98]) しかし、この研究では方法論的限界があった。(baseline characteristicsが不透明、ランダム化作業が不透明、死亡のみがアウトカムであり追跡率に差があるなどの問題あり)
他の研究ではB型肝炎患者の定期的なAFP検査で生存に関する有益性は認めなかった。全死亡/100人年が1.84 vs 1.79 (P=NS)であった。
18個の観察研究ではHCCの診断に至った段階でスクリーニングされていた患者群では、臨床的に診断された群よりも早期のステージであった。しかし、リードタイム・バイアス、レングスタイム・バイアスが交絡していた。
2つのスクリーニングの間隔に関する研究では、短い間隔(3~4か月)と長い間隔(6~12か月)で生存率に差が出なかった。
有害事象に関しては良質な研究がなかった。(確証的検査であるCT、MRI、肝生検のリスクを扱ったものはあった。)

【Limitations】 
英語研究のみであったこと。このエビデンスは方法論的な問題と研究数が少ないことで研究限界があった。

【Conclusion】
慢性肝炎患者のHCCスクリーニングによる死亡率に対する効果は非常に弱いエビデンスしかなかった。
スクリーニングは早期肝細胞癌を同定できる可能性はあるが、現段階では臨床的な診断よりもシステム化されたスクリーニングが生存の上で有利かどうかは定かではない。

<参考①>
(lead time bias)
検診発見がんと外来発見がんとの間で生存率を比較する際に問題となる偏り。がんの発生から死亡までの時間が検診発見群と外来発見群の両群で等しい(すなわち検診の効果がない)場合でも、検診で早期診断された時間の分(リードタイム)だけ、検診発見がん患者の生存時間は見かけ上長いことになり、したがって見かけ上の生存率も上がることになるという偏り。生存期間の始点が早期発見の分だけずれるという意味から、ゼロタイム・シフトとも呼ばれる。

(length time bias)
 スクリーニングで診断される疾患は、通常の診療で診断される場合よりも緩徐に進行する病変が多いかもしれない。というのも、進行が速い病変はスクリーニング受ける間もなく、症状が顕在化し受診して病変を発見されることになる。緩徐進行性の病変は長く体内に病変が存在しているのでスクリーニングで発見されやすい。スクリーニングが実際よりも有効であるように見えてしまう。

<参考②>
AASLD米国肝臓病学会ガイドライン
recommendation…半年ごとの腹部エコー(1年毎ではなく)
   期間として3カ月と6か月でどう違うか?
   局所病変の検出に差なし
10㎜以下の病変の検出率は3カ月で有利だが、
HCC発生累積数、代償不全、肝移植、生存率に関して差なし
not recommend…
腹部エコーとAFPの組み合わせ(コスト高と疑陽性↑)
   AFP単独(感度、特異度が低い)
   CT(疑陽性↑、コスト高、放射線量の問題)

<日本癌治療学会> http://jsco-cpg.jp/item/02/intro_03.html

【開催日】
2014年10月15日(水)

診療所での弁膜症評価

―文献名―
Yukio Abe, MD, Makoto Ito, MD, Chiharu Tanaka, M.  A novel  and simple method using pocket-sized echocardiography to screen for aorticstenosis.  J Am Soc Echocardiogr. 2013;26: 589-596

―要約―
【背景】
大動脈弁狭窄症(以下、AS)は最もありふれた弁膜症であり、加齢変性による石灰化が現代のASの一番の要因となっている。ASは通常、収縮期駆出性雑音(以下、SEM)を機に発見される。50歳以上の50%近くにSEMを聴取することから、すべての人に最上位機種の心臓エコー検査を行うことは時間もかかり、経済的負担にもなる。そこで重大なASを発見するための簡便な方法が必要とされている。
 ポケットエコーでの心臓エコー検査はその一つに位置づけられるかもしれない。この研究ではポケットエコーをASのスクリーニングに使用する価値についての評価する目的で行われた。

【方法】
継続診療を受ける20歳以上の2度以上のSEMか既知のAS患者147名を集め、大阪市立総合病院で心臓エコー検査を行った。経験豊富な循環器内科医による身体所見ののち、熟達した技師によるポケットエコーで大動脈弁の解放を視覚的にスコア化した(0=制限なし、1=制限あり、2=重度に制限)。その合計値をVisual AS scoreと定義した。最上位機種での心臓エコー検査結果に基づき、大動脈弁高面積指標(Aortic Valve Area Index以下、AVAI)が0.6cm2/m2と0.6~0.85 cm2/m2 をそれぞれ重度ASと中等度ASを示すものとみなした。

【結果】
147名のなかで51名がASの診断を受けており、51名が何らかの症状を有していた。検査困難だったり、他の弁膜症性疾患による雑音だったものなどを除外し、130名の患者が残った。そのうち55名が男性で、平均年齢は74±10歳だった。重度ASと診断されたのは27名で、中等度ASと診断されたのは30名だった。
Visual AS scoreとAVAIとは強い関連が見られた(R=-0.89, P<.0001 ; Figure2)。重度ASを診断するうえで頸動脈へのSEMの放散とSEMのピークが後方にずれることと頸動脈波の緩徐な立ち上がりが最も高い感度(93%;95%CI; 76%-99%)を示し、Ⅱ音の消失が最も特異度が高かった(94%; 95%CI;88-98%)。Visual AS scoreが4点以上をカットオフとすると重度ASを診断するうえで感度85%、特異度89%だった。中等度~重度ASと診断するうえでは頸動脈への放散が最も感度が高く(91 %;95%CI;81%-97%)、頸動脈波の振動が最も特異度が高かった(99%;95%CI;93%-100%)。Visual AS score3点以上をカットオフとすると感度は84%、特異度は90%となった。 ポケットエコーでのVisual AS scoreの観察者間の再検査信頼性はκ値が0.78と評価された。ポケットエコーを用いた評価では125±39秒を要した。 【結論】  今回、私たちが提唱するVisual AS scoreは、重要なASの存在を判断するうえで熟達した身体所見と同等の正確さが認められた。Visual AS score3点未満では中等度から重度ASの否定につながり、4点以上では重度ASの確定に役立つ。ポケットエコーはASの素早い診断につながり、数多くのSEMを認める患者に対してさらなる精査を行うかどうかの判断を手助けしてくれるだろう。 【開催日】 2014年10月8日(水)

医師の服装の重要性

―文献名―
Hiroshi Kurihara,  Takami Maeno, and Tetsuhiro Maeno.Importance of physicians’ attire: factors influencing the impression it makes on patients, a cross-sectional study.Asia Pac Fam Med. 2014; 13(1): 2.Published online Jan 8, 2014. doi:  10.1186/1447-056X-13-2

―要約―
【目的 】
患者さんに信頼感を抱かせる医師の服装の重要性を、患者像・好み・服装が印象に影響を与える要素を通して明らかにする。

【方法】
自己記入する質問票を、日本内の5か所の薬局において20歳以上の患者さんまたは介護者に配布し実施。調査は2日間連続で各薬局で行った。医師に対する信頼感を見積もるために、6項目、すなわち医師の服装・発言(話し方・音量・トーンなど)・年齢・性別・肩書き(教授・PhDなど)・評判を質問した。そして参加者に、男女の医師における5つの異なるタイプの服装(白衣・スクラブ・semiformal・smart casual・casual)の写真を提示し、5点のリッカートスケールを用いて各服装の妥当性を質問された。

【結果】
薬局へ来た1,411人の患者さんまたは介護者のうち、530人が質問に回答し、491人が全てに解答しその後の分析に利用された。発言は医師への信頼感を決定する最も重要な因子(平均点 4.60)であり、評判(4.06)・服装(4.00)がそれに続いた。
服装に関しては、医師の性別に関わらず、白衣は最も妥当なスタイルと判断され、スクラブがそれに続いた。スクラブに対する好みのみが年齢・性別・地域に有意に影響された(P<0.05)。二項ロジスティック回帰分析を用いて、我々はスクラブの妥当性の高低における年齢の影響を評価した(高:スケール 3-5点, 低 1-2点)。20-34歳と比較し50-64歳と65歳以上の年齢でスクラブが妥当でないと答えた人が優位に多かった(調整オッズ比:男性医師 4.30と12.7, 女性医師 3.66と6.91)。

【考察】
服装は医師に対する患者さんの信頼感を抱かせる重要な因子の一つである。白衣は医師にとって最も妥当な服装と考えられ、スクラブがそれに続く。しかし、年齢層の高い方は、低い方と比較してスクラブはより妥当でないと感じる傾向にある。

【開催日】
2014年10月8日(水)

家庭医はDVとどう対峙するか

―文献名―
O’Doherty LJ1, Taft A, Hegarty K, Ramsay J.Screening women for intimate partner violence in healthcare settings: abridged Cochrane systematic review and meta-analysis.BMJ 2014;348:g2913  PMID:24821132

―要約―
1)目的
医療機関のセッティングでパートナーからの暴力についてスクリーニングすることの効果を検証する事で、その意義を高め、女性の幸福に寄与し、今以上の暴力や害悪の原因を減少させるため

2)研究デザイン
スクリーニングの有用性を評価するためにシステマティックレビューおよびメタ分析を行なった。研究評価、データの抽出、質的評価は著者ら二人が独立して行なった。リスク比および95%信頼区間の設定については標準化された方式を用いて求めた。

3)データ
2012年7月までに、9つのデータベース(CENTRAL, Medline, Medline(R), Embase, DARE, CINAHL, PsycINFO, Sociological Abstracts, ASSIA)で検索され、2010年までに5つのトライアルが登録された

4)研究の選択における加入クライテリア
医療機関において16歳以上の全ての女性に対して、パートナーからの暴力を受けているかのスクリーニングプログラムがあることが、ランダム化もしくは準ランダム化試験が組み入れ基準である。スクリーニングだけを目的として介入したものと、普段のケア(スクリーニングをしない)との比較した研究だけを選定し、権利擁護や治療的介入のような構造的な介入を目的としたスクリーニングプログラムは除外した。

5)結果

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11のトライアル(n=13027)が同定され組み入れられた。(figure1)
6つの研究(n=3564)のメタ分析では、パートナーからの暴力を同定する割合が(通常のスクリーニングを行なわないケアに比して)上昇した(リスク比2.33、95%信頼区間1.39~3.89)。(figure2)とりわけ、出産前においては、リスク比4.26、95%信頼区間1.76~10.31となっていた。

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3つの研究(n=1400)のメタ分析では、スクリーニングプログラムは、DVの専門機関への紹介につながるエビデンスがないことが証明された。(リスク比2.67、95%信頼区間0.99~7.20)。(figure3)

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2つの研究だけのメタ分析では、スクリーニング後(3~18ヶ月)の暴力の経験を調査しているが、パートナーからの暴力は減っていない事を証明した。1つの研究から、スクリーニングに害悪はないと報告があった。

6)結論
医療機関におけるスクリーニングによりパートナーからの暴力が同定されるケースは増えているが、こうした暴力の潜在的な確率と比較すると、まだ低い状態である。また、スクリーニングが、効果的な専門家への紹介につながっているかどうかは不明である。短期間では、スクリーニングは、害悪がないとされているが、医療機関でスクリーニングを行なう上では十分なエビデンスはない。女性の長い期間の幸福において、スクリーニング法と、事例発見法、治療的介入を織り交ぜたスクリーニング法の有用性を比較する研究が必要である事を、医療機関におけるDV発見政策を施行しようとする政府に知らしめなければならない。

【開催日】
2014年10月1日(水)