診察での抵抗、両価性、葛藤への対応

序章
 私たちセラピストやクライエントがセラピーの成功を妨げる、通常は抵抗と考えられている者の価値に気付くことが基本にある。セラピーにおける葛藤、両価性、抵抗、そして様々な「雑草」に対処する態度はひとつの芸術となり得る。他のアプローチに無反応であったり抵抗したりする人に対してインクルーシブセラピーは有効で、特に「境界性人格障害」と診断された人に対して有効である。
 1990年代に多くのセラピストが解決志向アプローチに変更した後、クライエントの多くは恩恵を得るものの、何人かはこの技法にイライラし、セッションが進むにつれて離れていく経験をした。セラピストは何が役に立ったか、何が上手くいったかを尋ね続けることで憤慨させたり、不快にさせたりすることに対して無頓着で、この現象を「解決強制」と名付けて専門誌に発表された。
 物事を変化させようと可能性に踏み込むときでも、私たちは痛みや苦しみに直面しなければならない。複雑なことに直面する最もよいスタンスは、問題を承認すること、そして同時に変化への可能性を認めることである。

3Dイメージとインクルーシブセルフ
ピアジェによれば、初め乳児は他人を含む世界と自分自身を区別していない。社会適応が進む過程で、私たちは他人と自分自身を区別し始める。徐々に、生の体験からアイデンティティの感覚を構成し始める。そしてたいてい私たちは、自分で構成するアイデンティティのストーリーのなかに生の体験の多くを包含するが、すべてを包含するわけではなく、体験のいくらかの側面は、主たるストーリーにあわないため除外される。また、私たちが恥じているために除外される側面や、何らかのトラウマに対する反応として分離される部分もある。このプロセスを「3Dモデル」と呼び、私たちが分離したり(dissociate)、自分のものではないとしたり(disown)、価値をさげたり(disvalue)すること。私たちは自分のある側面しか同一視せず、残りは同一視から除外されるのです。
―文献名―
ビル・オハンロン著・宮田敬一訳:インクルーシブセラピー 敬意に満ちた態度でクライエントの抵抗を解消する26の方法,2007

―要約―
序章
 私たちセラピストやクライエントがセラピーの成功を妨げる、通常は抵抗と考えられている者の価値に気付くことが基本にある。セラピーにおける葛藤、両価性、抵抗、そして様々な「雑草」に対処する態度はひとつの芸術となり得る。他のアプローチに無反応であったり抵抗したりする人に対してインクルーシブセラピーは有効で、特に「境界性人格障害」と診断された人に対して有効である。
 1990年代に多くのセラピストが解決志向アプローチに変更した後、クライエントの多くは恩恵を得るものの、何人かはこの技法にイライラし、セッションが進むにつれて離れていく経験をした。セラピストは何が役に立ったか、何が上手くいったかを尋ね続けることで憤慨させたり、不快にさせたりすることに対して無頓着で、この現象を「解決強制」と名付けて専門誌に発表された。
 物事を変化させようと可能性に踏み込むときでも、私たちは痛みや苦しみに直面しなければならない。複雑なことに直面する最もよいスタンスは、問題を承認すること、そして同時に変化への可能性を認めることである。

3Dイメージとインクルーシブセルフ
ピアジェによれば、初め乳児は他人を含む世界と自分自身を区別していない。社会適応が進む過程で、私たちは他人と自分自身を区別し始める。徐々に、生の体験からアイデンティティの感覚を構成し始める。そしてたいてい私たちは、自分で構成するアイデンティティのストーリーのなかに生の体験の多くを包含するが、すべてを包含するわけではなく、体験のいくらかの側面は、主たるストーリーにあわないため除外される。また、私たちが恥じているために除外される側面や、何らかのトラウマに対する反応として分離される部分もある。このプロセスを「3Dモデル」と呼び、私たちが分離したり(dissociate)、自分のものではないとしたり(disown)、価値をさげたり(disvalue)すること。私たちは自分のある側面しか同一視せず、残りは同一視から除外されるのです。
 そこで、初めは360度あった自己が、例えば267度の自己になってしまうが、そのストーリーの周囲には常に本来の生の体験の材料があり、そこには私たちがまだ発展させていない潜在力が含まれている。これを「インクルーシブセルフ」と呼ぶ。(図:イングル―ジブセルフ 表示)
 このインクルーシブセルフは、私たちがインクルーシブセラピーを用いるときに、豊饒さを引き出す源泉となる。その人が体験の中で、分離したり、価値を下げたり、自分のものでないとしているいかなるものに対しても、招待し、許しを与え、含んでいくことで、インクルーシブセルフを扱うようデザインされている。

インクルーシブセラピーの3つの基礎的方法
1.クライエントの体験などへの許可やそうしなくてもよいという許可を与える。(許可法)
2.一見正反対や矛盾に見えるものが葛藤なく共存する可能性を示す。
3.過去にそうだった、現在そうである、将来そうなるだろうと話すときに、正反対の可能性も考慮に入れる。
 26の方法はこれら3つから応用的な方法やテクニックを選び出したもの。
許可法
許容は、インクルーシブセラピーの最初の基礎的な方法で、ほとんどのセラピストはおそらくすでにこの方法を用いている。なぜなら感じてはならない感情や考えてはならない考えやしてはならない行動のために行き詰まり、セラピーにやってくるのだから。
1.1 許可を与える
クライエントが持つかもしれない、ありとあらゆる体験や感情や思考や空想に対して許可を与えてください。感覚、不随意的な思考、感情、イメージなどの無意識な体験は大丈夫だと、クライエントに知らせてください。もちろん、それらと「計画」および「行動」(すべてが大丈夫とは限らない)との区別には常に注意する。
用例
クライエント : 私は時々、夫と子供から逃げ出すことを空想するんですよ。
セラピスト : 他の女性たちが同じことを言うのを聞いたことがありますよ。そういった場合、結婚生活や家庭生活のいくつかの局面と失望を結び付けすぎることからくることが多いんですが。それがあなたにもあてはまるかどうかはわかりませんが、しかしそのような考えをもつのはいいと思います。もちろん離別を「企てる」ことと実際にそうすることは、全く別物ですよ。

【開催日】
2015年1月21日(水)

企画実現への攻撃と処方箋

―文献名―
ジョン・P・コッター,ローン・A・ホワイトヘッド,庭田よう子 訳.「ハーバード流企画実現力」.2011.日経BP社.221p.

―要約―
優れたアイディアを守る、通説と一件相反する5つの原則
i. 攻撃させることによって周囲の関心を引き付ける
 反対意見を閉出すと、企画を進行させるために十分な共感や賛同が聴衆の中で高まるだけの注意を集められないため。
ii. 簡潔明瞭で良識にあふれた対応をする
 膨大なデータや論理を駆使して反対者をやり込めない。聴衆の関心が離れてしまう。
iii. 敬意を持って接する姿勢を聴衆に示す
 聴衆から反感を買わないようにすることが重要。
iv. 少数の攻撃者よりも聴衆の反応を観察する
 攻撃に対峙する際、真の問題の核心となるのは大多数の人々の反応である。
v. 事前に準備する
 企画に対する攻撃の基本戦略は「混乱」、「遅延」、「嘲り」、「不安をあおる」である。24の攻撃とその対応について準備しておく。

<24の攻撃とその対応(抜粋)>
1.「これまでうまくやってきたのに、どうして変える必要があるのか?」

 対応:確かにそうかもしれないが、状況に適応しなかった者がやがて滅びた例を誰もが知っているはずだ。

4.「わたしたちが失敗したと行っているも同然だ!」
 対応:あなたがたは必要なツールもない状態で、本当に素晴らしい仕事をしていると言っているのだ。(どちらか一方が正しいではなく、どちらも正しいという方向に導く)

6.「これについてはどうか、あれについては?これは、あれは・・・・・・・・?」
 対応:よいアイデアでも、それが新しいアイデアであれば、確実に答えられない多くの疑問が提起されるものだ。(確実に答えられない質問を反対者に多く語らせず、やんわり遮る)

7.「その提案は度を超している」「十分とは言えない」
 対応:これからこのアイデアより正しい方向へ踏み出せるし、これ以上遅れることなく進めるはずだ。(方向性の一致を利用して遅延の企てに対抗する)

10.中核をなす価値観を捨て去ろうとしている」
 対応:このプランは、わたしたちの伝統的価値観を守るために絶対的に必要なものだ。

14.「どうだ!これは否定できまい!(提案者が知らない厄介ごと)」
 対応:その重要性は誰も否定できない。確かにわたしたちはその問題を詳しく調べていない。だが、これまで見つけた潜在的な問題は容易に解決できた。それを踏まえると、新たな問題も、これまでの問題と同様に対処可能という自信がある。(その場で答えようとするのは得策ではない)

16.「かつて試したことがあるが、うまくいかなかった」
 対応:過去はそうだったかもしれない。しかし、状況は変化すると、わたしたちの提案はその内容とまったく同じものでもない。(シンプルに対応すべし、違う点を詳細に示す必要はない、新たな反撃を生む)

18.「よいアイデアだが、今はふさわしいタイミングではない」
 対応:絶好のタイミングというのは、気分が盛り上がり、何かを実現するために全力を注ぎたいと大勢の人が思うときであり、まさに今がそのときだ。

20.「ここではうまくいくはずがない。わたしたちはほかとはちがうのだから!」
 対応:わたしたちはみんなちがうが、一方でまったく同じところもある。

―考察とディスカッション―
 本書は反対者を駆逐する方法ではなく、反対者がいるなかで、その他大勢をどのように巻き込んでいくかについての方法を説いている。ともすれば反対者を論理でねじ伏せるような対応がとられがちだが、本書は企画実現のための効果的な立ち振る舞いとはどのようなものなのかを考える一つの視点を提供している。

<ディスカッションポイント>
皆さんは反対意見にあった際にどのような行動をとっていることが多いだろうか?
そしてその行動は果たして効果的に機能しているのだろうか?

【開催日】
2015年1月21日(水)

Healthを尋ねる

―文献名―
Marian R, Stuart PhD and Joseph A, Lieberman Ⅲ MD, MPH.The Fifteen Minute Hour: Therapeutic Talk in Primary Care 4th  Edition.Chapter 8 Accenting the Positive: Putting an Affirmative Spin on the BATHE Technique.

―要約―
新しいBATHE法を理解するために、以下に例を示す。

 Eさんは、63歳の女性で、糖尿病、高血圧、軽度うつ、不眠があり、定期診察を受け、処方内容を調整することになっていた。彼女の日常の症状を聴取し、処方内容を見直した後で、Dr.Sは、「前回の診察から今日までで、最も良かったことはどんなことでしたか?」と尋ねた。Eさんは、怪訝そうにDr.Sを見つめたが、「何もいいことなんて無かったわ」と答えた。「OK、素晴らしいことは無かったかもしれませんね。ただこの数日で、ちょっと良いことはなかったですか?」するとEさんは笑顔を浮かべて、「そういえば…、孫から手紙が届いたわ。彼女は8歳なの。」「なるほど!それはどうして起こったんでしょうね。」とDr.Sが尋ねたところ「そうね、きっとあの子は私に連絡を取りたかったのよ。あの子は私のことが好きだから。」Eさんに笑顔が戻って来た。Dr.Sは、そのことに関して最も感謝していることを聞きたいと思った。すると、「私は、あの子のことを愛しています。とてもかわいい子なんです。あの子がいてくれることに感謝しています。息子夫婦がもっと近くに住んでくれればと思うけど…」とEさんは答えた。Dr.Sはどうやったら、Eさんがお孫さんとうまく関われるようになるかを尋ねた。「やっぱり、手紙と折々の電話、訪ねてみることかしら。」Dr.Sは「それは素晴らしいプランですね。こうしたことを話してくれて感謝しています」と答えた。そして、「それと、定期的な運動もしましょうね。最低30分程度のウォーキングがおすすめです。また、お孫さんと会う時には、何か体を動かすような遊びをされたらいいですね。」と付け加えた。Eさんは診察室を出る際、微笑をたたえていた。

長先生図5

 これまでのBATHE法(左表)は有効性がありながらも臨床家にとって、毎回持ち出す必要がないと考えられる嫌いがあった。そこで、毎回の診察室でもルーチンで用いられる新しい枠組み(ポジティブBATHE法(右表))が編み出された。
 ポジティブ心理学は、通常の人間の強さや善行に関する科学研究である。患者の人生におけるポジティブな側面に焦点を当てることが重要とされる。その焦点の当て方、エビデンスに基づいた枠組みとして、ポジティブBATHE法がある。ポジティブな感情つまり、感激、決心、ひらめきといったものは、健康や寿命に影響する。ポジティブな考え方は、免疫力を高め、抑うつ気分を振り払い、身体的、精神的健康を高めてくれる。ポジティブな感情な人は、ネガティブな感情の人よりも健康的な取り組みを行なうことが多い。
 感謝に関しての質問は、うまくいっていることに焦点を当てる技法である。うまくいっていることを発見し(Discover)、起こりえる最良のことを想像して(Dream)、戦略を立て(Design)、そしてポジティブな結果をもたらす(Deliver)。
 また、ポジティブBATHE法は治療手段の一つで、頻回受診の患者や、慢性疾患のある患者に推奨され、人生におけるポジティブな側面に焦点を当てる様に設計されている。BはBestであり、「今週(または、前回の診察から今日までで)最高に良いことがありましたか?」と尋ねる。AはAccountであり、「この良いことをどう説明しますか?」、TはThankfulnessを表し、「この良いことのどんなところに一番感謝しますか?」、HはHappenであり、「より頻回にこの良いことが起こるにはどうすればいいですか」、EはEmpathy, Empowermentを表し、「それは素晴らしい、あなたならできますよ」となる。
 人生において、よりポジティブな面に目を向けさせる一つの手法としては、毎日、3つよかったことを書き出すというものがある。感謝の気持ちはより健康状態を高める。患者は、自分自身の個性の長所を自己認識し、その長所を活かして行くように勧められる。
 赦し、つまり、過去の憤怒や妬みなどをやり過ごすことは、精神的、身体的に健康状態を改善する。患者は赦しの心境に達するように、プロセスを理解した方がよい。つまり、自分を傷つける者を特定し、想像の中で、彼と向き合い、なぜ不愉快な事が起こったかを理解し、相手の立場、自分の立場からそれぞれ対話させ、赦す決意をし、自身の苦悩・痛みをやり過ごすことができれば、人は赦しの境地に至り、精神的、身体的反応は変化して行く。個人の苦悩・痛みのポジティブな面とは、赦しの過程を導いてくれるということである。
 知足とは、様々な問題を解決しようとする中で常につきまとうストレスを軽減する手法として知られている。常に自身の振舞いや考え方の型を変化させて行く事の難しさは承知の通りである。しかし、ネガティブな結果はいつでも学びの糧となる。現実的楽観主義は、ポジティブな結果に至らしめ、健康の質を改善する。最後に、医師は希望を常に処方するべきである。

【開催日】
2015年1月14日(水)

過去の食環境・経験が現在・未来の食生活へ及ぼす影響

―文献名―
小林 敬子 (日本女子体育大学).去の食に関する環境および体験が 現在および未来の食生活に及ぼす影響.校保健研究 45 ;2003;200-217

―要約―
目的:
過去の食に関する環境および体験が現在の食習慣や未来の家庭的食事に対する意識に与える影響を明らかにする

セッティング:
2002年10-11月
東京都内の私立女子大学

対象:
女子大生(2・3年生) 187名

方法:
 集合調査票を用い、上記対象者に調査用紙に無記名で解答を依頼。
 質問は、過去における食に関する環境および体験、現在における食に関する習慣、未来における家庭的食事に対する意識について、それぞれ16項目・10項目・5項目を実施。
 その結果を用い、上記3つの因果関係を用いて検証した。

結果:
 食に関する要因の因子分析結果を考慮して要因ごとに抽出された因子を説明する質問項目を因子ごとに合成し、過去における食に関する環境及び体験を説明する5項目、現在における食に関する習慣を説明する3項目、未来における家庭的食事に対する意識を説明する2項目の計10項目を用いて分析を行った。その結果採択された因果構造モデルにおいて、過去における食に関する環境及び体験から、現在における食に関する習慣へのパス係数は0.66、現在における食に関する習慣から、未来における家庭的食事に対する意識へのパス係数は0.92と中等度から高い値を示した。
図1:仮説モデル
 150115_1

図2:因果構造モデル 表示
150115_2

結論:
過去における食に関する環境および体験は現在の食に関する習慣に影響を及ぼし、現在の食に関する習慣は現在および未来における家庭的食事に対する意識に影響 を及ぼす。
また過去における食に関する環境および体験は現在および未来における家庭的食事に対する意識には直接的ではなく、現在の食に関する習慣 を介在 し、間接的に影響 している。

【開催日】
2015年1月14日(水)