医師における性別役割分担 ―診療時間と家事労働時間の男女比較―

―文献名―
安川 康介,野村 恭子,医師における性別役割分担 -診療時間と家事労働時間の男女比較-,医学教育,2012.8:第43巻,第4号,p.315-319

―要約―
【背景】
 日本における女性医師の数は近年増加傾向にあり、平成 22 年度の厚生労働省の調査によれば、全医師に占める女性医師の割合 18.9%、29 歳以下の医師では 35.9%となっている 。しかし、現在の医療現場において、女性医師が仕事と出産・育児を両立することは難しく、離職せざるを得ない女性医師は少なくない。日本医師会調査によれば、約 4 割の女性医師が休職・離職を経験しており、約 4 人に 1 人は 6 カ月以上の休業・離職を経験していた。同調査では、女性医師の 64.1%が女性医師としての悩みは「家事と仕事の両立」であると回答し、勤務形態が常勤以外の女性医師の 44.3%が常勤ではない理由として家庭と育児を挙げている。

【方法】
 平成21 年6 月の時点で都内某私立大学医学部同窓会に所属する会員1,953 人中、連絡先住所不明の607 人を除いた1,346 人(男性1,030 人 女性316 人)に自記式調査票によるアンケート調査を行った。
 調査内容は年齢、婚姻の有無、結婚年齢、配偶者の仕事(女性のみ)、子供の有無、主な所属機関、就労形態、「社会的には育児はまだまだ男性よりも女性の仕事である」に対する意識、週当たりの診療時間、週当たりの家事労働時間である。
 年齢、婚姻状況、子供の有無、就労状況、職場、診療時間と家事労働時間について性別で差があるか否か有意差検定を行った。

【結果】
 回収数は男性452 人、女性224 人、回収率はそれぞれ44%と71%であった。
平均年齢は女性が43 歳と男性(48歳)に比べてやや若く、婚姻率は男性が高く(67% vs 88%)、子供を持つ割合も男性で高かった(64% vs 78%)。婚姻している女性は159名(71%)おり、76%が男性医師を配偶者に持っていた。
 週当たりの診療時間については男性の中央値(IQR)が50 時間(40,60)であるのに対し女性では40 時間(30,55)と低かった(p<0.0001)。一方週当たりの家事労働時間については男性の中央値3 時間(0,8)に比べ女性の中央値は30 時間(15,42)であった(p<0.0001)。 【結語】 1)医師における性役割分担の実際について検討するため、都内某私立大学医学部同窓会に所属する医師を対象に、診療時間と家事労働時間に関する任意無記名の質問紙調査を実施した。 2)週当たりの診療時間は男性の中央値が 50 時間、女性では 40 時間と女性の方が短いが、週当たりの家事労働時間は男性の中央値 3 時間に比べ女性は 30 時間であった。 3)診療時間に家事労働時間を加えた労働時間は、男性医師よりも女性医師の方が長かった。 4)本研究では、医師という専門職においても性別役割分担が存在していることが認められた。 【開催日】 2015年6月17日(水)

認知・発達・関係性を統合してみる「self-authorship theory」

―文献名―
Sandars, J., & Jackson, B. (2015). Self-authorship theory and medical education: AMEE Guide No. 98. Medical teacher, (0), 1-12.

―この文献を選んだ背景―
 診療所での家庭医療教育を行う際に、学習者の個別性を評価して(学習者診断)、教育目標や方略をそれに合わせて変えていくことが重要である。我々の持つ学習者診断の枠組みの幅広さや深さが教育の幅広さ・深さに影響すると言えよう。今回は学習者を統合的に見る視点について解説した文献に出会ったため、紹介する。

―要約―
【背景】
 未来の医療職には、技術の進歩、疾患の複雑性、患者中心性、他職種連携などの背景から、知能的成長(cognitive maturity)だけでなく、文化的・心理的・社会的発達(development)が求められるが、competency基盤型教育だけではこうした側面の成長に対処することは容易ではない。知的成長の最も本質的な側面は、「意味を形成すること」、つまり、自分の周辺の様々な情報を受け取り、それを踏まえて自分が持っている前提を批判的に理解し、変えていくことである。個人としての発達は定義しにくいが、「Fully functioning person」に近づくための道のりと言える。Fully functioning personとは、自らの信念・価値を自覚しながら、それを用いて自発的な自己決定ができる人物と言える。こうした知的発達・個人的成長を統合してみる際の視点としてself-authorship theoryを紹介する。

【self-authorship theoryの特徴】
constructive-developmentalな視点からの理論である。Constructiveなので、学習に対しては「学習者が積極的に意味を作り上げる」という見方をするし、developmentalなので、時間経過を重視した見方をする。
実際の10代後半から成人期の学習者の観察に基づいた理論である
他の発達理論と比べるとより、統合的な複数の次元で学習者を分析した理論である

【self-authoshipの段階】
①Keganがはじめにself-authorshipを段階的に記述している。
 ・幼少期は人間は衝動的な感情を用いて、物事を分類する
 ・思春期早期になると、他人の影響を受けて形成した社会化した考えを用いて行動し、しばしば自分の行動を他人の影響のせいにする。
 ・思春期後期から20代早期には殆どの人が自分の意思決定や行動に個人として責任を持つようになる。こうした人たちはもはや他者に頼らない知識・信念・価値を持つようになっている。この段階をself-authoshipと呼ぶ
 ・最後に30-40代になって達成される段階として、自分自身がより広い世界の要素であるという理解を持つ段階がある。
②Magoldaが20代前半から30代後半までの追跡的な研究を行って、上記の段階の変容を研究している。
 ・特に、self-authoringのプロセスを進行させる刺激となるようなエピソードがあった。
 ・それを彼女は「crossroads」と呼び、自らが持つ世界観に対する内省を惹起し、未来に向けた新たな世界観を得るような刺激とした。こうしたcrossroadsは学生にとっては「驚き」の瞬間であり、例えば、他の文化圏からの人物と直面するとか、研究を実践に当てはめる困難さについての文献を読んだ、といった例があった。

【self-authorshipの3つの側面】
 Magoldaは、self-authorshipには三つの相互に影響する側面があるとした。人がself-authorshipを構築するまでの道のりの中でこの3つの側面それぞれにおいてどんな段階にいるかは、一人一人違うが、ある程度のパターンがあるということも記述した。
①cognitive dimension;how do I knowについての側面であり、知識の性質・限界・確実性についての認識を表している。人はまず知識を絶対的なものと見なすところから始まり、徐々により知識を不確実・グレーなものと見なす方向へ発達する。Self-authoredになると、様々な相反する多様な視点を理解しつつも、意思決定のために必要な「自分が取るスタンス」も選択できる。
②intrapersonal dimension;who am Iについての側面であり、他者の評価から形成した自己認識がよりそれに依存しない、内面化した信念・価値体系に基づいたアイデンティティの構築に至る。自己の現在のアイデンティティだけでなく、未来の専門家としてのアイデンティティまで形成することが必要となる。
③interpersonal dimension;how do I want to construct relationships with othersについての側面であり、他者が持っている多様性の理解から始まり、その多様性に対する許容性が有効な関係性には必要であると認識する方向へ発達する。それに基づいた成熟した関係性を構築するようになる。

―考察とディスカッション―
 この文献では、教育に適用するためのモデルとして、learning partnerships modelを取り上げており、以下の3つの教育経験を学習者に積ませることが学習者の知的成熟・人間的発達に重要としている。
 ・知識が(白黒・絶対的ではなく)複雑であること
 ・知識を構築する上で中心となるのは他ならぬ自己であること
 ・有効な学びには、多様な視点を共有して許容する必要があること
 この三つを伝えるための基盤として、学習者が安全にself-authorshipの段階を超えられるようなサポートと、超える必要性を生むようなchallengeの二つがあるとしている。

①上記の三つの要素を教える上で家庭医療の考え方はどのような関係があるだろうか?
②上記の三つの要素を伝えるために、皆さんは教育の上でどんな工夫をしているだろうか?

【開催日】
2015年6月17日(水)

【EBMの学び】便秘への漢方

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015/ 06/05
【臨床状況のサマリー】
 日常診療において便秘で困る患者と出会うことは非常に多い。特に虚弱高齢者の便秘に対して、「とりあえず麻子仁丸」というイメージを漠然と持っていたが、実際にどれほどの効果があるのか調べたことはなかった。
 P;機能性便秘症の高齢者
 I(E);麻子仁丸内服
 C;プラセボ
 O;便秘が改善する

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Chinese herbal medicine for functional constipation: a randomised controlled trial

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;18歳から65歳の機能性便秘症患者
 I(E);麻子仁丸内服
 C;Placebo内服
 O;1週間当たりの自発排便が増加するかどうか
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
 Pについて、臨床での疑問は麻子仁丸の処方対象として最も多いと感じていた虚弱高齢者。しかし高齢者についての論文は見つからなかった。I,C,Oについては、合致。Oについて、「便秘が改善する」とはどのように評価すべきか自分でもわからなかったが、この論文のOをみて、むしろこういう評価方法があるのかと納得。

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
②解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3論文で見いだされた結果の評価
 Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 Responder rate:麻子仁丸群43.3%、対照群8.3%(P<0.001) 【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】  ・RR(あるいはHR・OR)を確認する   RR 0.618  ・ARRとNNTを計算する    ARR 0.35    NNT 2.857 【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】  参考:   麻子仁丸群の8週間内服終了後CSBM/weekの回数は、   麻子仁丸群の内服前と比べて優位に増加1.62回(95%CI 1.11-2.13)P<0.001   プラセボ群の8週間内服終了後と比べて優位に増加 P=0.003 STEP4患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 知りたい対象は虚弱高齢者であったが、今回は18-65歳。この論文の結果が、施設入居などしている虚弱高齢者に適応できるかはわからない。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 麻子仁丸の用量は7.5g 1日2回で日本の一般的な用量の倍であり、この点も考慮が必要、保険適応はあり、投薬期間は8週間であり継続が難しい期間ではない。漢方薬自体の飲みづらさを感じない患者であれば、内服可能。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 副作用は腹痛、消化管の有痛性痙攣、下痢、浮腫、おならは麻子仁丸群で多かった。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 今回はある個人症例についての疑問ではなかった。虚弱高齢者に麻子仁丸を処方して、特に抵抗を受けた経験はない。

150612

【開催日】
2015年6月10日(水)

【EBMの学び】高齢者への骨粗鬆症予防

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015年5月4日
【臨床状況のサマリー】
 88歳女性。腰部脊柱管狭窄症、腰椎圧迫骨折疑いで他院にて保存的加療中だった。訪問リハビリ目的に当院紹介となり、外来受診となった。診療も当院への転医を希望されたため、継続して診療に当たることとなった。事前に当院理学療法士からの依頼があり、骨密度を評価したところ、YAM 55.77%と低値だった。高齢であるがADLはほぼfullである。これまで、骨粗鬆症は指摘されていたようだが、特に治療はされていなかった。88歳と高齢であり、治療のメリットと副作用のデメリットを考え、骨粗鬆症に対する治療を行うか否かを迷っている。
 P;80代女性
 I(E);骨粗鬆症の薬物治療を行う群
 C;骨粗鬆症の薬物治療を行わない群
 O;骨折の発生率

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Safety and Efficacy of Risedronate in Reducing Fracture Risk in Osteoporotic Women Aged 80 and Older: Implications for the Use of Antiresorptive Agents in the Old and Oldest Old

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;骨粗鬆症の80歳以上の女性
 I(E);リセドロネート5mg/日+カルシウム1000mg/日を3年間投与
 C;プラセボ+カルシウム1000mg/日を3年間投与
   ※介入群、対照群ともに血清中の25ヒドロキシビタミンDの値が40nmol/Lを下回るときにはビタミンD 500IU/日を投与した。
 O;椎体骨折の発生率
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
【①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?】
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
【②解析方法はITT(intention to treat)か?】
 →ITTが ( されている ・ されていない)

STEP3-3論文で見いだされた結果の評価
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 リセドロン投与群がプラセボ群に比べて新たな椎体骨折の危険性を81%減少させた。(P<0.001) 【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】  ・RR(あるいはHR・OR)を確認する   1年後、新たな椎体骨折の発生率 プラセボ群10.9%、介入群2.5%   →HR=0.19   3年後、新たな椎体骨折の発生率 プラセボ群24.6%、介入群18.5%   →HR=0.56  ・ARRとNNTを計算する   1年後 ARR=8.4% NNT=11.9   3年後 ARR=6.1% NNT=16.4 【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】  1年後 95%CI=0.09-0.40 P<0.001  3年後 95%CI=0.39-0.81 P=0.003 ※他にこの論文について気になったこと ・研究期間が1993年~1998年と時代が古い ・製薬会社Procter and Gamble Pharmaceuticals(P&Gの米国法人、現在は製薬部門は他社に委譲している)がスポンサーとなっている STEP4患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 ・年代、椎体骨折の発生率という点では合致している。
 ・人種の違いがある(北米、ヨーロッパ、オーストラリア)
 ・日本国内での添付文書上での投与量は2.5mg/日である。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 リセドロン酸ナトリウム(商品名:アクトネル、ベネット)は国内では2.5mg、17.5mg(週1回)、75mg(月1回)の製剤が発売されている。
 リセドロン2.5mgは通常毎日早朝空腹時に内服し、その後30分は横にならないようにしなくてはならない。それがこの患者さんに可能かどうか、ご家族が対応出来るかどうか確認する必要がある。
 また、週1回の製剤、月1回の製剤も発売されているので、それなら対応可能かを確認する必要がある。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 ・非椎体骨折の発生率に関しては有意差を認めていない。(80歳未満では有意差があったが、80歳以上では有意差がなかった)
 ・有害事象について吐き気、腹痛、消化不良、嘔吐、胃腸障害、深刻な上部消化管有害事象の有無について評価され、両群で有意差はなかった。
 ・週1回の製剤、月1回の製剤も発売されているが、これらが同様の結果が得られるものなのか、副作用の発症率などを別に検討する必要がある。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 ・骨粗鬆症の治療については次回の外来で相談することとしていたため、ご本人の希望についてはまだ確認出来ていない。
 ・リハビリに関しては意欲的である。当院PTが訪問リハビリで関わっているので普段の様子を確認していきたい。

【開催日】
2015年5月13日(水)

子どもの風邪に抗生剤を処方しないためには

―文献名―
Rita Mangione-smith, et al. Communication practices and antibiotic use for acute respiratory tract infections in children.Annals of family medicine. 2015;3(13):p.221-227.

―要約―
【目的】
 この研究では、小児の風邪(急性呼吸器感染症acute respiratory tract infection;ARTI)の診療における、医師のコミュニケーションと抗生剤処方および親による診療評価との関係について調査した。

【方法】
 ARTIの症状を主訴に受診した小児の診療1285件について横断研究を行った。対象となった小児は2007年12月から2009年4月までの間にワシントン州シアトル市の10の診療所に勤務する28人の小児科医のいずれか1人の診療を受けた。医師は小児の症状・身体所見・診断・治療を診察後調査票に記入し、親は医師のコミュニケーションと診療の評価を診察後調査票に記入する。多変量解析を行い、ARTIに対する抗生剤処方および親の診療評価に対してキーとなる予測因子を特定した。

【結果】(Table 1-4参照)
 子どもの症状をやわらげるために親ができることを提案すること(positive treatment recommendations)は、それ単独で、またnegative treatment recommendations(抗生剤の必要性を否定する)と組み合わせるとさらに、抗生剤処方の減少と関連することがわかった(adjusted risk ratio(aRR) 0.48; 95%CI, 0.24-0.95; and aRR 0.15; 95%CI, 0.06-0.40, respectively)。positive/negative treatment recommendationsの組み合わせを提示された親は診療に対して最高の評価をする傾向にあった。

【結論】
 positive/negative treatment recommendationsを組み合わせることが、ウイルス性のARTIの小児への抗生剤処方のリスクを減らし、同時に診療の評価を高めうる。コミュニティ・個人レベルで抗生剤耐性化の脅威が高まっており、コミュニケーションのテクニックは最前線の医師がこうした問題に取り組む上で助けとなるだろう。

―考察とディスカッション―
 今回の研究では、親が診察前に抗生剤の処方を期待しているかどうかについては評価していなかった。このため前医からの継続処方を期待している親に対象を絞ると結果が変わる可能性はあるが、第1子の風邪での初診などの機会にpositive/negativeを組み合わせて親の教育を行っていくことは重要と思われた。
 positive treatment recommendationsとしてどんな情報提供を行っていますか?

【開催日】
2015年6月3日(水)

人はどうやって認知発達をしていくのか?

―文献名―
大澤真也:ピアジェとヴィゴツキーの理論における認知発達の概念 -言語習得研究への示唆-.2008

―要約―
ピアジェの理論
 ピアジェは認知機能の発達を4つの段階として提唱している。
 第一の段階が、0歳から2歳までの時期に対応する「感覚運動期」。これは、自分の感覚と運動だけで世界を知ることを特徴とした時期である(自分の五感のみで単純に世界に働きかける)。
 第二の段階は2歳から7歳に相当する「前操作期」。この頃には、子どもは「言葉」という道具を持ち始めて思考することが可能になる。またこの頃から子どもは「象徴的な遊び」に着手するようになる。象徴的な遊びというのは、言わばフィクションの遊び、つまり「ごっこ」の遊びである(自分の五感で単純に世界に働きかけるだけでなく、自分の頭の中で様々な計画を立てられるようになる。しかしまだ世界を主観的な視点でしかみることができない)。
 第三の段階は7歳から11歳になると、子どもたちは「具体的操作期」を迎える。この時期は、子どもたちの認知発達が激変する時期である。それは、具体的操作期を迎えた子どもたちは、論理的な思考能力を発達させるためである。(具体的な概念は理解できるが、抽象的な概念になると他者の力を借りるなどして言葉を理解する)
 しかし、具体的操作期の子どもたちには未だ著しく劣る能力がある。それは仮説演算的な推理の能力である。ピアジェはこの推理を特に「形式的操作」と呼んだ。とりわけ形式的操作能力が高まるのは、11歳以降の「形式操作期」である。この時期になると、子どもは仮説演算や抽象的な概念を形式的に思考できるようになるとピアジェは考えた(抽象的あるいは仮説的な状況を取り扱うことができる)。

ヴィゴツキーの理論
 ヴィゴツキーの理論は、人は社会的状況の中で他人の助けを借り、また言葉という道具を媒介にして認知を発達させていく、というものである。
 ヴィゴツキーによれば、個人の発達は社会的に共有された認知過程を「内部化」することによって可能になると考えた。例えば言語で概念を形成するというのは、人間の精神の内部で実行されている。しかし言語や概念を造り上げたのは、社会や集団の相互作用である。今我々の精神の内部にあるように思える言語や概念も、もともとは精神の外部にあったということになり、単純化して言えばヴィゴツキーの言う「内部化」とは、精神の外部にあったものを内部に取り込むことを指す。
ヴィゴツキーが提唱した最も重要な概念の一つである「発達の最近接領域」は、この内部化の概念を前提としている。ヴィゴツキーは、子どもが独力で解決することのできる問題と、教師の指導や仲間の援助を受けることで解決できるようになる問題に着目した。前者の問題にどれくらい太刀打ちできたのかを評価してみると、今現在の子どもの生身の「実力」を知ることができます。この実力のことをヴィゴツキーは「現下の発達水準」と呼びました。
 「現下の発達水準」が指し示すのは、昨日までの学習によって子どもの中で成熟している精神機能の度合いである。一方、後者の問題にどれくらい太刀打ちできたのかを評価すると、今度はその子どもが「今指導や援助を受けることでどの程度実力を高めることができるのか」を知ることができる。自分一人の現段階の実力ではできないことでも、人の手を借りればできるようになることがある。それが行く行くは将来における子ども自身の「現下の発達水準」になる可能性がある。
 そして今現段階における「現下の発達水準」と、近い将来新たな「現下の発達水準」となり得る未定の発達水準との間の境界のことを、「発達の最近接領域」と呼びます。この概念が意味するのは、今はまだ完全には成熟していないが成熟の途上にある機能が存在するということである。ヴィゴツキーの学習論に倣うなら、この成熟の途上にある機能を育て上げることが、教育の役目だということになる。彼の学習論は、今現段階で「伸ばすべき能力」、「伸ばせば伸びるであろう能力」を特定できるという点で、教育的に有用であると言える。

ピアジェの理論とヴィゴツキーの理論
 ピアジェとヴィゴツキーにおける大きな違いの一つは知識の習得方法である。ピアジェの考え方では学習は個人から社会的なものへと進んでいくと考えられた(他者が期待しているものと自身の既存のスキーマの間に違いが生じたときに、人はスキーマを更に同化させたり調整させたりすることで均衡化の状態にしようと試みる)のに対し、ヴィゴツキーは社会的なものから個人的なものへと進んでいく(「最近接領域」を他者の助けを用いてその人の実際の発達レベルとの溝を埋める)と考えた。

【開催日】
2015年6月3日(水)












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