【EBMの学び】帯状疱疹に対するPSL

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015/08/12
【臨床状況のサマリー】
 関節リウマチでプレドニゾロン5 mg/day、環軸椎亜脱臼による疼痛でトラムセット内服中の70代男性。高齢者住宅に独居でADLはベッド上生活、当院定期訪問診療中。前胸部左側に疼痛を伴わない水疱・発赤出現し、帯状疱疹と診断したが、発疹出現から約80時間と72時間を過ぎていたため抗ウイルス薬の適応はなく、無治療経過観察とした。訪問看護師に報告すると、帯状疱疹後神経痛(PHN)予防のため何かできないかと相談を受けた。インターネットで帯状疱疹治療ガイドラインの概要をみると、PHN予防にプレドニゾロン60 mg/day内服7日間(以後漸減)を行うことがあるようだった。プレドニゾロンにPHN予防のエビデンスがどれほどあるのか疑問に感じ、文献を検索した。
  P;帯状疱疹急性期の患者
  I(E);プレドニゾロン内服
  C;プラセボ内服
  O;PHNの出現を抑制するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Wood MJ, Johnson RW, Mckendrick MW, Taylor J, Mandal BK, Crooks J.
A randomized trial of acyclovir for 7 days or 21 days with and without prednisolone for treatment of acute herpes zoster. New England Journal of
Medicine 1994;330(13):896-900.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;免疫抑制状態にない18歳以上の成人(各対照群の平均年齢は60歳前後)で、発疹出現から72時間以内
   の中等度以上の疼痛を伴う帯状疱疹急性期の患者
 I(E);アシクロビル+プレドニゾロン40mg/day内服7日間or 21日間
 C;アシクロビル+プラセボ内服
 O;疼痛が完全消失するまでの期間を短縮するか
   (6か月後まで疼痛をフォローし、PHNの重症度として評価)
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
②解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない) (intention to treatの記載なし)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
 Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 P=0.74
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
  コックス比例ハザード分析 HR = 1.043
 ・ARRとNNTを計算する
   Outcomeが「日数」なので計算不可?
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 HRの95%信頼区間:0.81-1.34

STEP4 患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 年齢が論文の対照群より高齢であり、もともと関節リウマチでプレドニゾロン長期内服中であるため、免疫抑制状態である点が異なる。また、発疹出現から72時間をわずかに超えている点、トラムセット内服中で疼痛を伴っていない点(マスクされている可能性あり)でも異なる。しかしながら、プレドニゾロンを追加投与のPHN予防のエビデンスが低いということを確認するには、当論文で概ね問題はないと思われる。(あるいは、若年者より高齢者の方がPHNのリスクが高いので、対照群を高齢者に限定すれば、違った結論に至るのかもしれない)
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 実行可能
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 副作用も評価されている。当論文は、プレドニゾロン投与はPHNの重症度に影響を与えず、副作用出現の可能性もあるため、推奨しないと結論している。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 疼痛もないため、発疹の出現をまるで気に留めていない。無治療経過観察の方針で、何の抵抗もなく合意している。上記③と併せて、本症例にプレドニゾロン追加投与する理由はないと考える。

胃がん健診目的の胃内視鏡検査

―文献名―
Hamashima C, et al. A Community-Based, Case-Control Study Evaluating Mortality Reduction from Gastric Cancer by Endoscopic Screening in Japan. PLoS One. 2013;8(11):1-6.

―この文献を選んだ背景―
 9年ぶりに本邦の胃がん検診ガイドライン(GL)が改定された。2005年GLは胃内視鏡検査は推奨グレードIで、対策型検診としては薦められず、任意型検診においては△であった。
 今回の2014年GLでは、胃内視鏡検査は推奨グレードB、対策型検診、任意型検診とともに推奨。検診間隔は2-3年。と変更されている。http://canscreen.ncc.go.jp/
 胃カメラ検診を推奨する根拠となった元論文の一つを選びHCFMの皆様のご意見を伺ってみたいと考えた。

―要約―
【目的】
 胃内視鏡検査によって胃がん死亡率の減少を評価すること

【方法】
 内視鏡での胃がん検診を導入している鳥取と新潟を対象とした症例対照研究
 ・症例群:死亡診断書とがん登録より2003-2006年に鳥取県内の4都市と2006-2010年の新潟市において胃がんで死亡した患者を抽出した。(条件:40-79歳、他疾患を除外、診断日不明を除外)さらに、地区の情報から内視鏡検診歴を確認できるものを症例群とした(Figure 1)
 ・対照群:疾病がない期間が確認でき、同じ移住地で、性別、年齢を条件に割り当てた。
 検診(胃内視鏡検診か胃X線検診)を受診した群を胃がん診断日より12.24.36.48ヶ月にわけて、検診なし群とオッズ比を計算した。Conditional ロジスティック回帰モデルを利用した

【結果】
 症例群は410人(男性288・女性122)で対照群は2292人。
 症例群(胃がん死)で36ヶ月以内に胃内視鏡検診を受けていたのは10.8%、対照群では14.3%が胃内視鏡検査を受けていた。その際の胃がん死亡のオッズ比は0.695(CI 0.489-0.986)であった。他の群では有意差は認めなかった。(Table 2)

【結論】
 胃がん診断日より36ヶ月前に内視鏡検診をうけた人では検診なしと比較して胃がん死亡を30%減少する。

【開催日】
2015年8月5日(水)

リーダーシップを体系的に学ぶための入門書

―文献名―
リーダーシップ3.0 〜カリスマから支援者へ〜.小杉俊哉.祥伝社.2014

―要約―
カリスマ型のリーダーは必要なのか?現場の第一線が自律的に働き価値を提供したり提案をあげたりすること(ボトムアップ)、中間管理層が活発な議論と組織の上下左右に対して働きかけ活性化すること(ミドルアウト)がなければ組織は立ち行かないことは自明である。このような状況をもたらすためのリーダーシップがリーダーシップ3.0である

<時代によるリーダーシップの変遷>
・リーダーシップ1.0:権力者がヒエラルキーの頂点に立ち、指示命令による中央集権的に組織を支配する。画一的なサービスの大量提供には向いていてるが、多様なニーズに応える柔軟性がない

・リーダーシップ1.1:各事業部に責任者を置き、そこに権限を委譲して責任を持たせることで組織全体をコントロールする。しかし事業部内で現場とマネジャー間の対立を深め、階層による厳格な管理、効率重視による賃金のみによる動機付けは従業員の独創性を削いでいった。またトップから各事業部に下った指示にフィードバックをかける仕組みがなかったため、急激に変化する環境に対応しきれなくなった

・リーダーシップ1.5:権力によって率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与えること、雇用の安定を図るなど協調を促し、組織全体の一体感を醸成することにより組織を牽引する。従業員がわくわくするものを見つけ出し、意図的にそれを持続させたり、終身雇用、年功序列、労使協調に代表される手法で価値観を一体化させたりする。いわゆる企業戦士が登場した。しかし当初は有効だった価値観に基づく行動パターンが形骸化した。退職したもの、職を失ったものはその瞬間、収入以上のものを失うこととなった。また個人の目的が不要、あるいはいかにそれを組織に合わせるかが問われた。また組織重視のためコンプライアンスの低下をもたらし、CSR(企業の社会的責任)が問われる事件が頻発した。

・リーダーシップ2.0:いわゆる「変革のリーダーシップ」。組織の方針を提示し、大胆に事業領域や組織の再編を行い、競争や学習を促し、縦割りの部門間、社員間の交流、活性化により組織を変革する。経営コンサルタントを雇い、新たな経営戦略を策定し実行した。しかしカリスマ個人の力量に依存するところが大きく、破壊的イノベーションには対応しにくい。またカリスマに依存し社員が受け身になる。トップが答えを持っていないと企業全体をミスリードしてしまう。経営コンサルタントに依存するとどの企業も同じような分析になり、差別化できない。

<リーダーシップ3.0>
  生まれた背景:外部環境が急激に変化する中で、企業のトップの最大の課題は、いかに新しいビジネスモデルを作るかに尽きる。そのためには1)アンラーニング(成功体験の否定)、2)ベンチャー思考(想像性を発揮しリスクをとる)、3)非連続性の発想、である。今まではトップ20%の人材と信頼関係を作っていればよく、下位の人材は入れ替えれば良いという考え方が主流であったが、これらを達成するためには、顧客により近い現場のリーダーに権限を渡し、トップは彼らを支援し、そこで彼らが活躍できるような場にすることが必要になる。つまりトップ20%だけでなく、全社員に対して注目する必要があるという認識がなされるようになってきた。ここから、人間を機械とみなすのではなく、個人のコンピテンシー(業績者には単にスキルや知識があるだけでなく、「良好な対人関係の構築力」「高い感受性」「信念の強さ」など複数の特性が見られる)、いわゆる人間力を重視していくこととなる。上下関係ではなく、社員を社内顧客として扱う。リーダーシップをあえて一言で表すなら「信頼」(by トーマス・ピーターズ)とも言われるようになった。

  支援者としてのリーダーシップ3.0:リーダーは組織全体に働きかけ、ミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を涵養する。と同時に個人個人とも向き合い、オープンにコミュニケーションを取り、働きかけて組織や個人の主体性、自律性を引き出す。組織全体をそのような場として整える。コミュニケーションは、組織の階層を通じて行うこともあれば直接現場の担当者に対して行うこともある。またそのコミュニケーションの対象は必ずしも社内に限らず、社外の参画意識を持った人々とのコラボレーションも促す。このようにして組織自体や組織内外の人々に対して支援することによってリーダーシップを発揮する。組織全体の価値創出のために個人の最大の力を引き出し、目標達成に向けて一体となれる組織が実現され、個人個人が自律的に動くことで優れたパフォーマンスを発揮することが可能になる。その点在する個人が事業に共鳴し参画意欲とともに集まり組織化され、試行錯誤を繰り返し、既存の情報を自分たちの目的に合うように新しく組み直し、新しい製品、サービス、生産システム、経営システムを作り出せれば、それがイノベーションとなる。
  リーダーのコミュニケーションは、メンバー一人一人と向き合う双方向性が必要になる。コラボレーションを絶えず促すような動きを、リーダー自身がとる必要がある。その点から人間性や人間味も非常に重要になる。
  サーバントリーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ)、羊飼い型リーダーシップ(リンダ・A・ヒル)、コミュニティシップ(ヘンリー・ミンツバーグ)、オープンリーダーシップ(シャーリーン・リー)、コラボレイティブ・リーダー(ハーミニア・イバーラ)、第5水準のリーダーシップ(ジェームズ・C・コリンズ)なども、このリーダーシップ3.0を示している。
  裏付ける理論:マネジメント2.0、場の理論とマネジメント、モチベーション3.0、マーケティング3.0、U理論などもリーダーシップ3.0を支持する内容となっている。

<3.0リーダーに必要とされるもの>
 要素1「ビジョンを持ち語る」

 要素2「リーダーになる」:ビジョンを持っている、情熱を持っている、誠実である、信頼を得ている、好奇心と勇気を持っている

 要素3「ミッションを持つ」:自分のギフトに気づき、それをミッションに生かす

 要素4「他者を支援するという自然の成長に従う」:40代に訪れると言われる「中年の危機」を迎えると今までの勝ちパターンが使えなくなる。そこで新しい自分のアイデンティティを確立する必要がある。そこで将来世代の幸福に対する関心が生まれる。

 要素5「人間力を磨く」:人を惹きつける独特の雰囲気、確固とした人生哲学や豊かな人間性、周囲の人を熱気に巻き込んで実現する人心掌握、社会的善を経験的に知っている、無理な目標を「できるかもしれない」と思わせる影響力、遊びも尋常でなく多様な人間を通して審美眼が磨かれている、場の状況を読み適切に対応することで他人の共感を呼び起こす

 要素6「仮面をとる」:リーダーは弱さを見せていい。自分の弱点を受け入れ、他者の不完全さも受け取る。フォロワーはリーダーが完璧であるからついていこうと思うのではない。ふとリーダーの弱みや人間的なところを見た時、なんとかこの人の足りない部分を支えたい、この人に成果をあげさせてあげたいとついてくる

 要素7「ファシリテートする」:場を提供し、フォロワーが自律的に動くように支えるためには、リーダーがファシリテーターの役目を果たすことが必要。問題解決アプローチではなく、ポジティブアプローチで。

 要素8「エンパワーメントを正しく理解し実行する」:なぜやるのかを伝え、どうやるかは任せるのがエンパワーメント。どうやるかも指示するのが権限移譲。

 要素9「動機付けを行う」:外発的動機付けは機能しなくなっている。内発的動機付けとして「人と協力すること」、「仕事内容そのものに満足」、「自分で選択できるということ」がある。上司の期待と、任せられるという責任感が動機付けになる。

【開催日】
2015年8月5日(水)