肥満治療に対するGLP-1受容体作動薬の効果

―文献名―
Xavier Pi-Sunyer, M.D. et al. A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management. N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):11-22.

―要約―
【背景】
肥満は重大な健康問題を引き起こしかねない慢性疾患である。しかし、生活習慣への介入のみでは減量を維持する事は難しい。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチド(ビクトーザ○R)3.0mgの1日1回皮下注射が体重コントロールに有効であったと示された。

【方法】
2型糖尿病のない患者3,731人を対象とした二重盲検試験を56週間行った。参加者のBMIは少なくとも30以上、あるいは、脂質異常症、高血圧症(治療の有無は問わない)がある場合は少なくとも27以上。リラグルチド3.0mgを1日1回皮下注射する群(2,487人)とプラセボを1日1回皮下注射する群(1,244人)にランダムに割り付けて、両群ともに生活習慣の改善指導も行った。プライマリエンドポイントとして、体重の変化と少なくとも5%、10%以上減少した患者の比率を設定した。

【結果】
ベースラインとしては、患者の平均年齢は45.1±12.0歳、平均体重は106.2±21.4kg、平均BMIは38.3±6.4、78.5%が女性で61.2%が糖尿病になる前の状態であった。56週後の平均体重減少幅はリラグルチド群8.4±7.3kg、プラセボ群2.8±6.5kgだった(95%信頼区間 −6.0 to —5.1;P<0.001)。体重が5%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が63.2%、プラセボ群で27.1%だった(P<0.001)。体重が10%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が33.1%、プラセボ群で10.6%だった(P<0.001)。リラグルチド群で最も頻度の高い有害事象は軽度から中等度の嘔気、下痢が報告された。重症の有害事象の発生率はリラグルチド群が6.2%、プラセボ群で5.0%だった。

【結論】
今回の試験から、リラグルチド3.0mg投与は食事療法、運動療法に補助的な役割を果たし、体重を減少させ、肥満コントロールを改善する効果がある。(ノルディスク社による支援あり)

―考察とディスカッション―
元々は2型糖尿病の治療に用いる注射薬を、用量を増やして肥満の体重コントロールに使用した臨床試験。肥満患者の減量治療の補助薬として、リラグルチドは一定の効果はありそうである。しかし、製薬会社からの支援を受けている試験でもあり、信頼性に一部疑問はある。また、日本人でここまでの肥満患者はあまりいない事を考えると、日本で同様の条件で採用される事はないかも知れない。皆さんはどのように考えますか?

【開催日】
2015年10月21日(水)

ALS患者におけるラジカットの有効性と安全性

―文献名―
KOJI ABE, YASUTO ITOYAMA. Confirmatory double-blind, parallel-group, placebo-controlled study of efficacy and safety of edaravone (MCI-186) in amyotrophic lateral sclerosis patients. Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration,2014;15:610-617

―要約―
【目的】
 ALS患者を対象に、二重盲検並行群間比較法により、ラジカット60mgを6クール投与したときの有効性及び安全性について、プラセボを対照として検討した。

【対象】
 ALS患者205名(ラジカット群101名、プラセボ群104名)
 選択基準はEl Escorial 改訂Airlie House診断基準のうち、「Definite」「Probable」「Probable-laboratory- supported」、ALS重症度分離のうち、1,2度、努力性肺活量は70%以上、罹病期間は3年以内、前観察期12週間のALSFRS-Rスコアの変化が-1~-4の患者。

【方法】
 投与開始12週前の前観察期の後、被験者をラジカット群又はプラセボ群に二重盲検下で割付け、点滴静脈内投与を6クール行った。主要評価項目はALSFRS-Rスコア、二次的な評価項目はFVC、手首・指先の力変化、Modified Norris Scale score、ALSAQ-40。

【結果】
 主要評価項目であるALSFRS-Rスコアの6クール、24週間の変化量はラジカット群とプラセボ群の投与群間差は0.65±0.78で、p値は0.4108であり、有意な差を認めなかった。%FVC、手首の力、Modified Norris Scale score、ALSAQ-40についても有意な差を認めなかった。指先の力については繰り返しの分散分析において有意差を認めた。

【結論】
 ラジカット投与によってALSFRS-Rはプラセボと比べ減少は少なかったがALSにおける効果は示されなかった。

このままだとなぜラジカットが保険適応になったかは不明すぎる・・・

追加
今回の試験(検証試験 1回目 第Ⅲ相)
榎原先生①.jpg

 主要な評価項目で有意差を認めなかったが診断が確実なものや重症度が低いほうが差があると考えられたためにその後の試験(検証試験2回目 第Ⅲ相)が行われた。
榎原先生②

 2試験とも重症度1、2度の患者さんを対象ではあったが、この基準が曖昧だったため、検証的試験1回目は重症度分類3度に近い重症の患者さんが多数エントリーされ、有効性を確認できなかった一因となったと結論。そのため、検証的試験2回目はALSFRS-Rスコアが「全項目2点以上」という基準を設け、厳格に軽症の患者さんを定義し、さらに、検証的試験2回目は努力性肺活量80%以上の患者さんを対象とすることで、より軽症の患者さんを選択し、1回目と同様の試験を実施した。
 その結果、主要評価項目のALSFRS-Rスコアの低下はラジカット群とプラセボ群の投与群間差で2.49±0.76で、p値は0.0013有意な低下を認め、6か月投与時点でプラセボ投与群の4か月のスコアと同程度だった。ALSAQ-40スコアの6クール、24週間の変化量は、ラジカット群とプラセボ群の投与群間差で-8.79±4.03で、p値は0.0309であり、ALSAQ-40スコアの上昇は有意な差を認めた。

資料
ALS重症度分類
榎原先生③

ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R: The revised ALS Functional Rating Scale)
 患者への聞き取り及び実際の動作を観察して採点を行う。以下の12項目について、各項目を0~4の5段階で採点する。
榎原先生④

●ALSAQ-40
 ALSに特異的なQOL尺度
 5つのカテゴリーに割り振られた40項目の質問からなる。
 <5つのカテゴリー>
  「フィジカルな可動性(10問)」、「ADLと自立性(10問)」、「食べて飲むこと(3問)」、「コミュニケーション(7問)」、
  「感情作用(10問)」
 各質問に対し被験者が1~5点で回答し、合計スコアで評価を行う。スコアが大きいほど、QOL低下を示している。

―考察とディスカッション―
 今回読んだ文献ではラジカット投与群とプラセボでの比較では指先の力以外では有意差は無かった。さらに進めた研究で、診断が確実で重症度が軽度な方で評価項目に有意差が出たことがわかり、2カ月程度進行を遅くしている可能性があるということがわかった。しかし、具体的にどの部分の点数に差が出たのかなどについてはわからなかったため消化不良な感じは残っている。現在MFCでラジカット投与している患者さんの重症度は1~3度の患者さんであり、3度の患者さんにはあまり効果はないのかもしれない。ただALSという治癒が望めない疾患で保険適応が通った新薬であり重症度で適応が決められていないということを考えると患者さんが治療を望むことは非常に理解できる。今後もALS患者さんは訪問診療で関わっていくことが予想されるため、ラジカットの限定的な効果などを医療者側が認識しながら患者さんに寄り添っていくことが大切だと思う。

ディスカッションポイント
 ①ALS患者さんに対してラジカットを勧めますか?
 ②勧める場合はどのように説明しますか?

【開催日】
 2015年10月21日(水)

診療所内のチームビルディング

―文献名―
仲山進也. 「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則」講談社.

―要約―
「グループとチームの違い」
  ① グループ→個々が役割以上のことはしないまたは出来ない組織
  ② チーム→個々が役割以上の力を発揮する組織
  ③ この本では「グループ」が成長して「チーム」になると考えている

「タックマンモデルの紹介」
チーム成長の法則「70 点のグループ」が「赤点」を経て「120 点以上のチーム」に変身する

「優秀なリーダーがいればチームになる必要はないのでは?」
 右肩上がりの時代であれば優秀なリーダーがいるグループのまま100 点を目指す方針でも皆ハッピーに仕事ができたが、
変化の激しい時代と言われている現在においては、リーダー1人が変化を捉えてアクションを考えるのでは間に合わないほど、
変化する要素が増えている。だからこそ各自が考えて行動出来る自走型の「チーム」になる必要がある。

■ 第1章フォーミング
 ● フォーミング体質①自己主張をしない。空気を読んで遠慮する。
 ● フォーミング体質②対立、衝突によりパフォーマンスが低下した時点で、チーム状態が悪くなってきた。
    もとに戻そうという発想・行動をとる
 ● ストーミングに入ると組織としてパフォーマンスが低下するため企業の多くはフォーミングに戻す選択をすることが多い
 ● フォーミングを進めるにはコミュニケーション量の増大が鍵
   例)自己紹介名鑑の作成、フォーミング飲み会の開催

■ 第2章ストーミング
 ● 特徴としてはメンバーの本音の意見が場にでて、対立や衝突がおこりイライラやモヤモヤが発生。
   その結果生産性が低下するが本音を言うことで「自分ごと化」が進む。
 ● ストーミングで解散しないために
   ・ ビジョンが示されている
   ・ ストーミングの意義を共有:チームとして成長するために必要なプロセス
   ・ 個人の安全を確保:個人攻撃の場ではなく、皆の意見が場に出揃うことが目的
   ・ グループ全体の安全を確保:生産性が低下して売り上げ低下しても資金ショートを起こさない地盤確保
   ・ ストーミングを進み易くする:各自が紙に書くなど
 ● ストーミングを進めるためにはコミュニケーションの質が大事

■ 第3章ノーミング
 ● 特徴としては小さな成功体験を繰り返すうちにチームの暗黙のルール(行動規範)が築かれる。
  共通言語が生まれ、「私たちのやり方」「ウチのチームは」という表現がメンバーの口からでるようになる
 ● ノーミングを進めるために、自分たちでつくったルールを徹底化するために明文化し確認と共有を繰り返す

■ 第4 章トランスフォーミング
 ● 特徴としてはメンバーの協働意志で、上位のビジョンを目指す。他のメンバーへの貢献につながる行動が自動化する。
  チームに対する帰属意識が高まり、「ずっとこのチームでやりたい」、「このチームなら何でもできる」という意識になる
 ● さらなる上位のビジョンを目指すためビジョンや価値観に共鳴できる人を採用する

【開催日】
2015年10月7日(水)

風邪とプラセボ効果

―文献名―
Barrett B, Brown R, et al. Placebo Effects and the Common Cold: A Randomized Controlled Trial. Ann Fam Med 2011;312-322.

―この文献を選んだ背景―
 伝統的に使用されてきた対症療法薬の多くが症状の緩和や有病期間を短くする効果がないことが示されている。今回、米国で伝統的に使用されている対症療法薬Echinacea(Cochraneのシステマティックレビュー1)でプラセボと有意差がなかったことが示されている)をオープンラベルとしたときの効果を盲検化したときと比較した研究を小児の風邪に関する総説を執筆中に見つけ、結果が興味深かったので紹介する。
1)Linde K, Barrett B, Wölkart K, Bauer R, Melchart D. Echinacea for pre- venting and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2006;(1):CD000530.

―要約―
【目的】
 オープンラベル化した薬剤をランダムに割り付けた場合、二重盲検化し実薬とプラセボに割り付けた場合、何も薬剤を処方しない場合の3者を比較した場合、風邪による症状の重さや期間が変わるかどうかを調べる。

【方法】
 新規発症の風邪患者でRCTを行った。参加者は4グループ(Figure1,(1)薬剤なし,(2)盲検化されたプラセボ,(3)盲検化されたechinacea(4)オープンラベルのechinacea)に割り付けられた。主要アウトカムは有病期間とarea-under-the-curve global severity、二次アウトカムは内服2日後の鼻腔洗浄液の好中球数とIL8レベルとした。

【結果】
 719の参加者のうち6名が離脱した。女性が64%,白人が88%、年齢は12歳から80歳。
○ 有病期間の平均
 7.03日(薬剤なし),6.87日(盲検化プラセボ),6.34(盲検化echinacea),6.76(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし
○ global severityスコアの平均
 286(薬剤なし),264(盲検化プラセボ),236(盲検化echinacea),258(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
  ※ 薬剤なしと盲検化したプラセボグループの比較
    有病期間 -0.16日(95%CI -0.90 − 0.58) severity -22ポイント(95%CI -70 − 26)
  ※ 盲検化echinaceaとオープンラベルechinaceaグループの比較
    有病期間 0.42日(95%CI -0.28 − 1.12) severity 22ポイント(95%CI -19 − 63)
○ IL8と好中球数の変化の中央値
 30pg/ml/1cell(薬剤なし),39pg/ml/1cell(盲検化プラセボ),58pg/ml/2cell(盲検化echinacea),
 70pg/ml/1cell(オープンラベルechinacea)。
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
○ 薬剤の服用時にechinaceaの有効性を高く見積もった(100点を「きわめて有効」とするスケールで50点以上をつけた)
 120の参加者において盲検化されたプラセボ群は薬剤なしの群と比較して有病期間は2.58日有意に短く(95%CI -4.47 − -0.68)、
 global sevirtyスコアの平均は26%低かった(−97,95%CI −249.8 – 55.8 有意差なし)。
 このサブグループにおいては盲検化echinacea群とオープンラベルのechinacea群で比較すると有病期間も重症度も違いはなかった。

【結論】
 薬剤なし群に割り付けられた群では有病期間が長くなり、症状が重くなる傾向があった(統計学的有意差はない)。
 Echinaceaの有効性を信じているサブグループで薬剤を与えられたグループでは有病期間が短くなり、症状が軽くなる傾向があった。
 これらの結果は、患者の治療に対する信念や感じ方が重要であり、医療における意志決定においては考慮されるべきであるという考え方を支持するものであった。

【開催日】
2015年10月7日(水)