【EBMの学び】認知症患者の治療

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
2015年12月9日
【臨床状況のサマリー】
ある日の施設回診の一場面。
79歳女性 今年9月から特養入所中 鉄欠乏性貧血や頻尿でもともと当院へ通院されていた。アルツハイマー型認知症については3年前に他病院で診断・フォローされている。当院でのHDS-Rは8点(2年前)。今年7月からリバスタッチパッチ(リバスチグミン)導入されており9月頃から背中の貼付部位に皮膚炎出現。他病院の処方医に相談すると足底に貼るよう指示されたとのことで変更したところ大きな水疱を形成。10月よりレミニール(ガランタミン)4mg2T2×内服に変更された。施設看護師「レミニールに変更後は以前より眠りがちです・・もともと認知症の周辺症状は強くなくおとなしい方です・・」
現在のADLは一部介助で車椅子レベル。
この方が認知症治療薬を飲み続ける必要はあるのか?

P;重度アルツハイマー型認知症で認知症治療薬を内服している高齢女性
I(E);内服を継続している場合
C;内服を中断する場合
O;予後を改善するか?

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
◆Up to dateのCholinesterase inhibitors in the treatment of dementiaにはDuration of therapyの項目があり、ChEIの中断によりしばしば悪化することがあるとの記載。関連する論文はいずれもRCTではなく横断研究だった。
横断研究:http://www.uptodate.com/contents/cholinesterase-inhibitors-in-the-treatment-of-dementia/abstract/67?utdPopup=true
      http://www.uptodate.com/contents/cholinesterase-inhibitors-in-the-treatment-of-dementia/abstract/68?utdPopup=true

Galantamineの項には36ヶ月は効果持続するとあり、その根拠となっている論文を読んでみた。
The Cognitive Benefits of Galantamine Are Sustained for at Least 36 Months
 http://www.uptodate.com/contents/cholinesterase-inhibitors-in-the-treatment-of-dementia/abstract/33?utdPopup=true
→Pubmedでhttp://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=785390
軽症~中等度認知症患者を対象としており、患者のPICOには合わない…

◆Dynamed のAlzheimer dementiaでの薬物治療の項目にはcontinuing donepezil may slow cognitive decline compared to discontinuing donepezilとある。この根拠となったRCTがこちら
Donepezil and memantine for moderate-to-severe Alzheimer’s disease.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1106668

◆認知症疾患治療ガイドライン2010ではその時点ではリバスチグミン・ガランタミンは本邦未発売だったが、重度AD患者へのドネペジル24週間治療の有効性についてのRCTが紹介されている。
 http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

P;地域に住み、3ヶ月以上ドネペジルを内服しておりそのうち少なくとも最近6週間は10mg内服している、中等度~重度(SMMSE5-13点)の
アルツハイマー型認知症(疑い)患者
I(E);ドネペジルを続ける/メマンチンを使用する/ドネペジルとメマンチンを併用するのは(ドネペジル・メマンチンの単独または併用治療は)
C;ドネペジルをやめる/メマンチンを使用しない/ドネペジルとメマンチンを併用しないのに比べて(プラセボに比べて)
O;52週後のSMMSEスコアやBADLSスコアの値は良くなるか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
→ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
→隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
→盲検化が      ( されている ・  されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
→( なっている ・ なっていない)
どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 ・ドネペジル継続群ではドネペジル中止群と比較してSMMSEスコアが平均で1.9ポイント高かった(95%信頼区間1.3-2.5、P<0.001)。
  BADLSスコアは平均で3.0ポイント低かった(95%信頼区間1.8-4.3、P<0.001)。
 ・メマンチン投与群ではメマンチン非投与群と比較してSMMSEスコアが平均で1.2ポイント高かった(95%信頼区間0.6-1.8、P<0.001)。
  BADLSスコアは平均で1.5ポイント低かった(95%信頼区間0.3-2.8、P = 0.02)
 ・ドネペジルとメマンチンの有効性には互いに有意な差がみられなかった。(SMMSE:p=0.14、BADLS:p=0.09)
 ・ドネペジルとメマンチン併用ではドネペジル単独を上回る効果は見られなかった。(SMMSE:p=0.07、BADLS:p=0.57)

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 連続変数である症状スコアが指標となっており率が求められない。
 分析にあたって、SMMSEは1.4ポイント、BADLSは3.5ポイントの差をもって臨床的に意義のあるスコアとしている。
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 P値と同様の項目で有意差あり。

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 使用している薬剤は同じChEIだがそもそもドネペジルとガランタミン、リバスチグミンで種類は異なる。
 また施設入所中の患者である点も異なる。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 内服そのものは施設介護者が手助けしてくれ、拒食や拒薬の症状はみられないため、ドネペジル10mg内服継続という治療は有害事象がなければ実行可能と考えられる。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 ドネペジル10mgは後発品でも1日300点以上。ガランタミン16mgだと400点。コストはかかる。
 そもそもガランタミンとリバスチグミンは軽度~中等症の認知症に対して保険適応となっており重症について保険適応があるのはドネペジルとメマンチン。
 内服前に比べて傾眠の副作用が前面に出る場合は転倒のリスクもあり、内服継続は望ましくない。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 現時点で本人は施設での生活に満足しており、介護者も認知症による症状で困難を感じていない。重症の認知症患者と考えると認知症治療薬を内服継続することで僅かのMMSEやBADLSの値の改善がその後の生活を大きく変えるとは考えにくい。

 

【開催日】
2015年12月9日(水)

仏教と医療

―文献名―
池口惠觀:仏教は医療にどう関わるべきか.日救急医会誌.2015;16:539-544

―要約―
(文献のうち、「仏教界あるいは本邦の宗教界の医療への関わりについて」に該当する部分を要約する)
【諸言】
 原始、医療は宗教の一部であった。西洋ではヒポクラテス、東洋では釈迦がそうだった。本来、医療と宗教の両者は結びついていなければならないものだった。そこに、江戸時代に西洋医が導入され、区別されるようになった。医療は病を治す技術者としてその道を究め、宗教は心を癒す道に邁進してきたはずである。しかし宗教(この場合は仏教)は組織化と儀式化、そして学問化に邁進して布教という本来の職務を忘れてしまった。布教とはただ信者の獲得手段ではなく、信者の多くの心の支えとなり、庶民の生活に馴染んでいた。信仰は、身についてこそ緊急の場面で生きてくるが、それがなくなってしまっている。明治元年に施行された神仏分離令により、収入の道が閉ざされたことによる。

【仏教者の医療協力は必要か】
 近年、その仏教が再確認されるに至った。臨床医ならぬ「臨床僧」としての役目がありはしないか、という模索だが、当面のところ無理である。その理由を述べる。
 アメリカは多くの病院に礼拝堂が見られる。それは祈りの場としてキリスト教では馴染みの場所だが、日本では仏教が葬式を収入の道として開いたがために、病院内に薬師堂や涅槃堂を設けると、死のイメージに甘んじなければならなかった境遇を跳ね返す力を持たなかったことも含む。
 明治元年から昭和20年までの間、国は仏教を儀式に閉じ込め、日本人は個人の心を癒す宗教を失った。現在では仏教者自身が「道徳性」を崩壊または忘却してしまっている。有名な寺院は観光化し、檀家寺は葬式と副業に専心して、医療の場に役立つような有能な人材を育て得なかった。西洋のチャプレンに匹敵する「臨床僧」が成立するには、新たな宗教者の育成が不可欠である。それには医師に匹敵する優秀な学生を集めて教育しなければならず、そのためには魅力ある職業としての環境を整える必要があり、時間がかかる。

【諸行無常と共通の磁場】
 現代仏教が医療に役立つとすれば、医療者に対する教育に於いて発揮できる。仏教は万物の「無常」を説く。「生老病死」の4つの苦は、肉体に対するもので、今日は医療が担当している。釈迦は、この4つの苦を「真理」すなわち動かし難い宿業と悟れば、苦から解放されると説いた。万物は、必ず滅する。これを生きている者が真理として共通の認識を持つならば、死すなわち苦とはならない。そして自己の鍛錬と我欲の克服を日常の生活と成せば、いかなる死をも恐れる必要がない。
 この諸行無常の教えを医療の「慈悲」に繋げる。人の命は「須臾」の間、息を吸って吐く間と言われる。この時間をどう生きるのか。暗く生きるよりも明るく生きよと教えられている。仏教は一分一秒、刻々の生ある時を慈しむ生活の智慧であった。
 しかし医療は、死の世界から蘇らせる究極を天職とした。死を敗北とするだけに日常の学習は厳しく、日進月歩の医学についていかなければならない。それによって自己の人間性を損なっていないか、それを確認する時間もないままに新知識の獲得に追われる。これが医学生、臨床医のおかれた現実である。しかし、知識の量は進化しても、精神や体力はむしろ退化していると思われる。これでは精神が健全でいられるはずがない。
 宗教教育は、こうした精神の滋養に対する共通の認識、相互理解の磁場のようなものを培うことによって一瞬の「生」を慈しみ、お互いが助け合う心、補い合う心を育てるのではないか。

―考察とディスカッション―
考察
文献のまとめ:
 医療と宗教は元来結びついていたものだったが、江戸時代に西洋医が導入され、さらに明治時代となり、仏教者自身が心を癒す宗教を失ってしまっている。そのため臨床現場で役立つ仏教者は今のところ現れず、教育するにも長い時間がかかる。現代仏教が医療に役立つ場面としては、医療者に対する教育である。日進月歩の医学についていくため日々学んでいるが、それに追いつくための精神が培われていない現状があるため、宗教教育によってお互いに助け合う心を育てることができるかもしれない。

 「現代医学は、死を敗北とする」というところと、「生老病死は真理であり万物に必ず訪れる宿業と悟れば、死は苦とならない」というところが対比されているように見える。ヒーラーとしての家庭医や終末期ケアを行う医療者にとってはこういった心の持ちようも重要であるように思える。一方で、患者さんに対して思うだけでなく、自分自身も年をとり、病気にかかり、死ぬということも考えなければならない。自分は普段あまり病気をしないのでつい認識が薄れがちだが、自分自身の身体や心を大事にする必要もあるなぁと感じた。

ディスカッション
 ・皆様自身あるいは患者さんで、宗教によって心が救われていると感じた経験はありますか?

【開催日】
 2015年12月2日(水)

早期教育と幼児の発達

―文献名―
須森りか、鈴木克明:早期教育が幼児の発達に与える影響と今後の在り方.東北学院大学教養学部総合研究論文:1999

―要約―
【研究方法】
 文献とインターネットを使った研究論文。国会図書館での雑誌検索、インターネットにて早期教育を検索し独自に書籍やインターネットからの情報をまとめた。
 この論文における早期教育の定義は「胎児から小学校以前の教育でできるだけ早い時期から開始するという志向性を持ち、知的な教育、主にIQを高めることを意図し、働きかけに対する子どもの期待される反応を強く期待して行われる幼稚園や保育園を除いた教育」と定義づける。ここではお稽古ごとや、スポーツ教室は除外する。

【早期教育側の考え】
 知的早期教育の特徴は大脳生理学の考えである「才能逓減の法則」と「右脳教育」という2点がある。
 大脳の発達を年齢で見ると、第1の段階が1歳頃まで、第2の段階が3歳頃まで、第3の段階が6歳から7歳まで、そして第4の段階がそれ以降となっている(三石、1990)。脳が急速に発達を遂げているのは第2の段階までで、3歳頃まで が環境から与えられる刺激により脳の働きの可能性を大きく左右してしまうといわれている。「才能逓減の法則」とは、教育は早く始めるほど 高い能力が育ち、才能が伸びる可能性は年齢とともに急速に減っていくというものである(村松・吉木、1990)。また、「右脳教育」では右脳の働きが活発なのは幼児期で、0歳に近ければ近いほど高度の能力があり、学習意欲も旺盛であると考えている。右脳にはたくさんの能力が隠されており、開発できるのも右脳優位である3歳までが決め手になるのだという(七田、1993)。脳が急速に発達する3歳までの間に外からの刺激を受け止め、パターン化し、記憶するという最も基本的で重要な情報処理の仕組みができる。そのため右脳の働きも3歳までの間がもっとも活発である。上記2つの視点から、早期に教育することで幼児の才能を最高にひきだせるとしている。
 早期教育の教育内容の一つは、パターン認識を利用した「パターン教育」がある。特徴は「理屈抜きに見せる」「繰り返す」「結果は忍耐強く待つ」の3つであり、遊びの形態にしやすく左脳教育と比較し脳の負担が少ない。具体的にはカードを使うことが最良で、カードの使い方は一枚一秒の間隔でパッパッとめくって見せていく。するとこの速さに左脳はついていけないので引っ込んでしまい、右脳に働きを任せる。すると子供たちが生来持っている右脳の働きが優位に働くと説明している。
 アメリカのギルフォードが発表した知能構造論においては、脳には120の知能因子があるという。この知能構造論に基づいての教育法は、言語中枢と密接な関係があるという指先を司る脳を発達させることである。つまり言葉や文字の暗記などのひとつのことに偏らず、指を使うことで脳のいろいろな部分に刺激が与えるので子供の知能が全脳的に開発されるといっている。
 また、親子関係も深まる。早期教育をすることは子供への働きかけの時間が多くなるので、以前よりも子供とのふれあい、スキンシップが増えて、親子関係が深まると主張している。

【早期教育反対派の意見】
 幼児教育には「子供は遊びの中で育つ」という。早期教育でもその遊びを中心とした教材を開発しているが、本来の遊びと早期教育の遊びを取り入れた教材をすることでは本質が違うという。幼児の遊びの世界は、意味や価値の世界と無関係なところで展開される世界である。それに対して早期教育の世界は、この社会がもっている価値や意味の世界を体系化・記号化して子供の中に入れて行くことで成立する世界である。遊び体験は、自分の感情や要求に従いながら、子供自身が「内的ルール」を作り上げることで成立する世界であるのに対して、早期教育の場合は、外部で準備された活動を受動的に受け入れることで成立する世界である(加藤1995)。
 遊びを体験しなかった幼児は、体力がつかず幼児同士のコミュニケーションがないので社会性や協調性も育たず他人の気持ちが理解出来なくなる。遊びに熱中した経験がないと、集中力も育たなくなる。
 また山口(1994)は、早期教育で受動的な学習をしている幼児は自発性、創造性の領域の発達が抑圧されるのではないかと懸念している。幼児は親からの評価を気にして親の期待に沿おうと努力し続けてしまうという「依存的」なパーソナリティーが育ってしまう (高良、1996)。自主性が無く依存的な性格では、自分で自分の道を切り開いて行くことは出来ない(小宮山、1995)。
 早期教育では子供の知能をIQで測定するが、本当の賢さとは子供たちはその年齢にふさわしい形で対象に主体的・能動的に働きかけていく存在にほかならない。自分が体験したさまざまな事実を自分なりの論理でつなげ、それらのあいだに共通性を見つけだし、自分なりの「主観的な概念の枠組み」を形成しながら知的能力を伸ばしていくのである。賢さの本質はこの点にある(加藤、1995)。
 早期教育機関が挙げている大脳生理学の「合理性」に対しては、3歳までの脳の重さが急激に重くなることは確かであるが、それは脳の「構造」ができるだけであって「機能」が発達するわけではないと反論している。乳幼児期には子供自身が興味をもって広義の学習活動を行うことで、その後の脳の発達に影響する。早期教育機関の教材の遊びでは、なんのために覚えなければならないのか本人の自覚がないものでは学習の効果は一時的なものになる(汐見、1996)。
 加藤(1995)は、現在進められつつある早期教育はもっとも現代的な形で組織された管理主義保育の典型であるといっている。早期教育には基本原則が存在し、しかもその原則には一定の方向と順序を認める。その原則は「もっと早く、もっと高く、もっと正確に」である。早期教育が考える「能力観」には、「人間観」が欠如している。

【開催日】
 2015年12月2日(水)

【EBMの学び】BNPガイド下の心不全治療

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015年10月25日
【臨床状況のサマリー】
 #脳梗塞後遺症 #慢性心不全 #高血圧症 #脂質異常症 #慢性腎不全
 上記プロブレムで訪問診療中の74歳女性。ADLは屋内歩行器レベル
 2年前に心不全からの退院を契機に訪問診療導入。施設入所者。その後、入院を要することなく、安定した在宅療養を行えている。紹介時の心エコーではLVEF=30% 診察上 血圧130/80mmHg HR70 Sat95% 頸静脈怒張あり
  心雑音:心尖部にIII/VIの収縮期雑音 下腿浮腫あり 体重は概ね安定している。
 当院では、脂質異常症、慢性心不全のフォロー目的に3-6か月毎に血液検査(CBC、一般生化学、NTproBNP)を行ってきた。ここ2年のNTproBNPは1000程度pg/mLで推移している。内服調整なし。血清Creは1.5mg/dL程度
  内服薬)バイアスピリン(100)1T1x, アトルバスタチン(5)1T1x, レニベース(5)1T1x, アーチス(2.5)1T1x, アルダクトンA(25)0.5T,
      ラシックス(20)1T1xなど
  既往症)心不全の急性増悪(入院)心房細動なし
  喫煙歴:なし 飲酒なし 家族歴:なし
 今までなんとなく、慢性心不全の病名のある患者には定期採血にNTproBNPを含めていた。しかし、最近になりNTproBNP検査過剰である旨の警告が支払基金から送られてきた。NTproBNPを実施する患者を選択する必要を感じるようになった。慢性心不全の患者にBNPを実施することは有益なのか調べてみることにした。
 P;慢性心不全で治療中の高齢者
 I(E);NTproBNPを心不全の評価に利用した治療
 C;NTproBNPを利用しない治療
 O;QOLを改善するのか?

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
BNP-guided vs symptom-guided heart failure therapy: the Trial of Intensified vs Standard Medical Therapy in Elderly Patients With Congestive Heart Failure (TIME-CHF) randomized trial. JAMA. 2009 Jan 28;301(4):383-92.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;60歳以上の慢性心不全患者(EF≦45%) and NYHA>II以上 and 1年以内の心不全の入院歴 and NTproBNPが正常値の2倍以上
 I(E);症状に加えてBNP正常上限2倍以下を目標に治療
 C;NYHA≦II度を目標に治療する
 O;18ヶ月後の入院回避率とQOL
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない)
どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
一次エンドポイント
 ●入院回避率(figure 5)
  41% vs 40%( BNP群vs 症状群) p=0.39で有意差なし
 ●QOL(table 2)
  両群とも12ヶ月後にベースラインに比べて優位に改善(p<0.001)。
  両群間に有意差はなし。
その他の評価項目
 ●全生存率(Figure 5)
  84% vs 78%( BNP群vs 症状群) p=0.06
 ●心不全による入院回避率(figure 5)
  72% vs 62% ( BNP群vs 症状群) p=0.01
 ●年齢によるサブ解析(Figure 6)
  75歳未満では:入院回避率(p=0.05)、全生存率(p=0.02)、心不全による入院の回避率(p=0.002)と有意差を認めた。
  75歳以上では:入院回避率(p=0.54)、全生存率(p=0.51)、心不全による入院の回避率(p=0.45)と有意差は認めない。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
 その他の評価項目
  ・全生存率(Figure 5) HR 0.68
  ・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68
  ・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
    入院回避率:HR 0.70
    全生存率:HR 0.41
    心不全による入院の回避率:HR0.42
●ARRとNNTを計算する
 Figure5より
  18ヶ月時点での入院回避率 RR=0.9709 ARR=0.020 NNT=49.3
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
 その他の評価項目
  ・全生存率(Figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.45-1.02)
  ・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.50-0.92)
  ・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
    入院回避率:HR 0.70(95% CI, 0.49-1.01)
    全生存率:HR 0.41(95% CI, 0.19-0.87)
    心不全による入院の回避率:HR0.42(95% CI, 0.24-0.75)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 Table 1によれば、NYHA>IIIの心不全が74%を占めていて、NT-proBNP値の平均が4000程と高い点が目の前の患者と異なる点である。全体的に、論文の患者の方が目の前の患者に比べて重症感がある印象。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 治療のプロトコール詳細は不明であるが、ACC/AHAガイドライン通りの治療を行うことは忠実に実行可能であろう。しかし、BNP値が高いからといってACEIやB遮断薬の増量を行うということは実臨床では行うことはないかもしれない。
 NTproBNP測定(1.3.6.12.18か月)については心不全患者であれば保険適用内で実行可能であろう。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 75歳以上の患者群ではBNPガイド群は症状ガイド群に比べて入院回避率やQOLを改善させることなく、重大な副作用(腎機能障害や低血圧による入院)が多く出現している。74歳≒75歳であり、NTproBNPのコントロールを目標とした薬剤調整には危険を伴うだろう。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者の希望は入院せずに施設で生活すること。
 今回の論文の示す通り、BNPガイド治療で全入院回避率(特に75歳以上)について有意差がないのであればBNP検査施行の意義は限定的である。
 しかし、BNPの血液検査は患者の侵襲性をあげるとは考えない。他の検査機器(胸部レントゲンや心エコー)が使えない、在宅医療のセッティングを考慮すればNTproBNPを継続的にフォローする事自体は患者の心不全病態把握の一助となると思う。しかし、NTproBNPの値を目安に内服薬を調整することは患者に有害事象を加える可能性が高く慎重であるべきと思われる。

【開催日】
2015年11月11日(水)

【EBMの学び】脂質異常症に対するスタチン

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
2015年9月28日
【臨床状況のサマリー】
5年ぶりの市民健診でLDL203,T.Chol270を指摘された65歳女性。特に大きな既往もなく、1日40分程度散歩するなど健康には気をつけている方という自負のある方。5年前の健診では特記事項なし。兄弟でコレステロールの薬を飲んでいる人がいたため、自分もついに薬を飲まなければならないのかと不安に思いながら小生外来受診となった。診察上黄色腫や黄疸、甲状腺腫大など認めず、血糖、腎・肝機能、甲状腺機能にも大きな異常を認めなかった。喫煙なし 飲酒なし 家族歴 父;食道癌 母;心不全、ペースメーカー留置後。「投薬せずに経過をみる症例」と考えたが、今回一次文献に遡り文献上の吟味を経た意思決定を行うことにした。
P;心血管系イベントの既往のない高齢女性
I(E);スタチン投与群
C;プラゼボ投与群と比較して
O;心血管イベント発生率に差が出るか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

P;冠動脈疾患既往のない軽~中等度(総コレステロール値220~270mg/dL)の高脂血症患者
I;食事療法+プラバスタチン(10~20mg/日)群
C;食事療法単独群
O;冠動脈疾患の発症に差が出るか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
→ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
→隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
→盲検化が      ( されている ・  されていない )←不完全
実際のT ableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
→( なっている ・ なっていない )
②解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 ※Figure1を参照 (5.3年後の結果)
  ●Primary endpointsでは冠動脈疾患、心筋梗塞、冠動脈再潅流術
  ●Secondary endpointsでは冠動脈疾患+脳梗塞、全心血管イベント
 でP<0.05となり有意差あり。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
  ・ RR(あるいはHR・OR)を確認する
  ・ARRとNNTを計算する
 ※Figure2を参照
  ARR=101/3966-66/3866=0.0084
  NNT=1/ARR=119(“Results”内にも記載あり)
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 P値と同様の項目で有意差あり。
 (ただし、冠動脈再潅流術の項目以外はおおよそ0.5-0.9程度に入り、幅は広い印象。)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 論文の対象者(Table 1)は女性の占有率が70%と高く、女性の喫煙率が低い点、コレステロールの平均値などは一致している。一方、年齢が少し若い点や高血圧や投薬例が40%弱を占めている点などは若干異なる。
 登録患者は全て病院の外来受診患者であるため、診療所の患者とは背景が異なる点もあるが、今回の症例には適用可能な点も多いと考える。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 投薬していても、癌の発生率や総死亡に差がないこと、(発症すると致命率の高い)横紋筋融解症の発生がゼロなのはメリット。
 メバロチンの薬価も100点を下回っておりコスト面でも問題なし。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者は健康意識の高い方であり、基本的には「薬による治療は最後の手段」という認識がある方だった。母親に心疾患があったことも考慮し、スタチン投与による心血管イベントのNNTを説明したところ再度投薬希望はされなかった。今後も定期的に健診は受けられる予定であり、follow可能なことは確認しつつ、次回半年後に再度フォローとした。

【開催日】
2015年10月14日(水)












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