効果的な予防の優先度アップデート

―文献名―
Michael V. Maciosek,et al.Updated Priorities Among Effective Clinical Preventive Services.Ann Fam Med January/February 2017 vol. 15 no. 1 14-22

―要約―
【目的】
 プライマリケアセッティングにおいては人手や時間が限られている。結果として、どこに注力すべきかが重要となる。これは相対的な健康へのインパクトや費用対効果をアップデートするものである。

【方法】
 ■含めた予防サービス
  ・全住民に対してUSPSTFでgradeA,Bと考えられたサービス
  ・一般住民に対してAdvisory Committee on Immunization Practices予防接種諮問委員会が推奨しているサービス
  ・心血管疾患のハイリスク群と性感染症のハイリスク群に対してUSPSTFでgradeA,Bと考えられたサービス
 ■測定
  以下の2つに対してそれぞれ1~5点で採点され、トータルスコアが2~10点の範囲で評価した。
   ・臨床的な予防効果…米国の出生コホートで400万人に対して予防サービスが推奨されている年齢で推奨されている期間にわたって提供された
             として得られるQALYsとして定義
   ・費用対効果…QALYsあたりの費用(net cost純原価)を推定
  これらを推定するために新しいマイクロシミュレーションモデルを12の予防サービスにおいて最新の見積もりを出すために用い、スプレッドシート
 モデルを13の予防サービスに、ピアレビューで文献に基づいた推計を3つの予防サービスに用いた。
 ■評価項目
  ・28個のエビデンスに基づいた臨床的な予防サービスを評価した。

【結果】
中川先生図①

・最も高得点であったのは、小児のワクチン接種、若年者における喫煙開始の予防を行うためのカウンセリング、成人に対する喫煙スクリーニングと
 簡単な禁煙に対する同意付け介入の3つで、それぞれ10点であった。
・費用対効果CEの最高点5点であったのは、小児のワクチン接種、若年者における喫煙開始の予防を行うためのカウンセリング、成人に対する喫煙スク
 リーニングと簡単な禁煙に対する同意付け介入、アルコーールのスクリーニングと簡易的な介入、CVDのハイリスク者への低用量アスピリン、梅毒
 スクリーニングの6つであった。
・CVDハイリスク者への食事指導、運動習慣指導、ならびに成人肥満者のスクリーニングは費用対効果は1点と悪かった。

中川先生図②

 トータルスコアが5点以上の項目について、90%以上のサービス利用率になったとした場合のQALYsの上昇がどの程度期待できるかを示したのがTable3である。ただし、血圧とコレステロールのスクリーニングはすでに高い割合で達成できているので除外した。高い費用が出ている項目はより高い利用率にしていくことで効果を期待できる項目である。多くの人々への健康改善は、大腸癌のスクリーニングとインフルエンザワクチンと同様に、たばこの使用、肥満関連行動、アルコールの乱用を予防的に対処するための施設利用を増やすことで得られる可能性がある。

中川先生図③

【まとめ】
 本研究は予防サービスの優先度を同定し、質改善の先導を切っていく上でどのサービスを強調していったらいいのかを選択していくのに役立つだろう。

【開催日】
 2017年2月15日(水)

【EBMの学び】単純ヘルペスに対する早期高用量短期間パラシクロピル療法

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2017年2月1日
【臨床状況のサマリー】
 1年に10回程度、臀部の単純疱疹を繰り返している75歳女性。2週間前にも臀部ヘルペスを発症し、バルトレックス1000mg/day 分2 5日間の内服加療を行った。再び水疱が出現したため受診。臀部には水疱2つあり。
 これまでは毎回バルトレックス1000mg/day 分2 5日間で治療されている。
 既往:慢性C型肝炎抗ウイルス療法後、3日前に肺腺癌疑いと告知

  P;単純疱疹を繰り返している高齢女性において
  I(E);バルトレックスの内服加療 は
  C;経過観察 or 外用薬加療 と比較して
  O:皮疹の治癒を早めるか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
 検索したエンジン;UpToDate®
 Treatment of herpes simplex virus type 1 infection in immunocompetent patients
【見つけた論文】
Spotswood LS, et al. High-dose, short-duration, early valacyclovir therapy for episodic treatment of cold sores: results of two randomized placebo-controlled, multicenter studies. Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Mar. 2003, p1072–1080.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;12歳以上の、1年に3回以上口唇ヘルペスを繰り返している患者において
 I(E);早期にvalacyclovir <a: 2g/day 1日間>または<b: 2g/day 1日間+1g/day 1日間>で加療した群は
 C;プラセボを内服した群 と比較して
 O;皮疹の消失が早まったか / 皮疹の出現を予防・抑制できたか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明 )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →人種・性別の割合は同等。年齢・再発頻度の中央値は同等。しかしリスク因子に関しては全く不明。除外基準は、HIV感染などの免疫低下宿主、
  腎障害。担癌患者などは不明。
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】1-day therapy / 2-day therapy
皮疹の消失が早まったか:study1: 0.001 / 0.009 study2:  皮疹の出現を予防できたか:study1: 0.096 / 0.061 study2:

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
・皮疹の消失が早まったか(有意差あり)
  study1: -1.0日(median)、-1.1日(mean) /-0.5日(median)、-0.7日(mean)
  study2: -0.5日(median)、-1.0日(mean) /-0.5日(median)、-0.8日(mean)
 ただし、皮疹消失の時期がわからなかった症例は「15.0日」で計算されている。皮疹消失の時期がわからなかった症例が、各群で何人いたかは示されていない。
・皮疹の出現を予防できたか(有意差なし)
  study1: 6.4%(-1.8 to 14.5) / 8.5%(0.2 to 16.7)
  study2: 8.0%(-0.1 to 16.0) / 8.0%(0.3 to 15.8)
・ORを確認する:皮疹の出現を予防できたか(有意差なし)
  study1: 1.32(0.95 to 1.84) / 1.38(0.98 to 1.94)
  study2: 1.39(0.99 to 1.95) / 1.41(1.02 to 1.94)
・ARR(NNT)を計算する皮疹の出現を予防できたか(有意差なし)
  study1: 0.064(16) / 0.085%(12)
  study2: 0.08(13) / 0.08%(13)

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ②の()に記載

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 担癌患者であること、75歳であり対象の中でも最高齢クラスであること、すでに水疱を形成していること、臀部ヘルペスはHSV-1でない可能性があることから、結果は適応できない。

・内的妥当性の問題点は?
 Subjectの詳細(リスク因子など)が不明であること、resultの治癒期間の算定方法に疑問が残ることから、アウトカムの有意差は鵜呑みにはできない。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 帯状疱疹なら可能な投薬量。投薬期間は問題ない。
 ただし、前駆症状の段階での受診は稀であり、治療開始のタイミングは実現困難。
 論文のように、前駆症状がある患者に事前に渡しておくことは可能。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 Subjectの詳細が不明であること、resultの治癒期間の算定方法に疑問が残ることから、アウトカムの有意差は鵜呑みにはできない。
 また、副作用として、頭痛が倍増しているのは確か。
 コスト:1錠188.8~405.6円。1-day: 755.2~1622.4円。2-day: 1132.8~2433.6円。

【④使う者の経験の視点】
・これまでのその治療に対する経験はどうか?:
  外用でも効いている印象。初めて内服を試してみたが、確かに水疱まではできなかった。ただ内服しなかったらどうだったかはわからないので、
 なんとも言えない(自分のケース)。
・自分の熟達度から実行は可能だろうか?:処方自体は可能

【⑤患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 痛みや痒み、不快感などの症状はなかった。肺癌の精査が10日後に迫っており、それに影響が出ないか心配されていた。精査には影響がないこと、内服薬は不要であることを説明すると納得された。外用薬のみ処方した。

【開催日】
2017年2月8日(水)

【EBMの学び】急性下痢症に対する整腸剤の効果

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年12月23日
【臨床状況のサマリー】
 11歳、男児。
 受診1日前から腹痛を自覚し、その後複数回の下痢あり。
 便の性状は水様性で、血便や黒色便はない。その他、悪心・嘔吐・発熱などの随伴症状はなし。
 周囲流行歴はなく、生ものなどの食事摂取はない。
 胃腸炎と診断し、整腸剤を処方する旨を伝えたところ、同伴した母親から「これ(整腸剤)を飲むと、下痢はすぐ良くなりますか?」「ヨーグルトも効果ありますか?」と質問があった。

  P;小児の急性胃腸炎に対し
  I(E);整腸剤を処方した場合 / 乳製品を摂取したときと
  C;内服しない / 摂取しないときと比較して
  O:下痢症状の期間短縮につながるか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Probiotics for treatment of acute diarrhoea in children randomised clinical trial of five different preparations

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;小児(3-36ヶ月)の急性下痢症において
 I(E);5種類の整腸剤を追加した群と
 C;経口補液療法(ORT)のみの群を比べ
 O;下痢の期間や排便回数が縮小するか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない 
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明 )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
ひろむ先生図①

ひろむ先生図②

ひろむ先生図③

ひろむ先生図④

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
●ARRとNNTを計算する
※P値で有意差が出たものについて計算
→治療効果は計算できない

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
→①参照

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 除外基準である栄養失調や重篤な脱水、併存する感染症(髄膜炎、肺炎、sepsis)、免疫不全、食物アレルギー、研究開始3週以内の抗菌薬や止痢剤の使用等はない。
 但し、症例は11歳という学童期で、研究では3か月~3歳といった乳幼児が対象であり、対象年齢から外れている。学童期と乳幼児期の急性下痢症における発症経過や臨床経過、治癒過程などについての差異をはっきりとさせることができなかったため、この点において本症例への適応が可能かは不明である。

・内的妥当性の問題点は?
 研究はランダム化、隠蔽化、盲検化されている。割付された6つの群の特徴が記載されており、比較がなされている。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
ひろむ先生図⑤

 上記表はある診療所での整腸剤の採用薬だが、どの整腸剤も6円前後であり、内服期間も短期間で内服管理は親が行うことが予想され、内服は実行可能と考えられる。
 投薬量については、整腸剤の菌種の表記が
  日本:製剤1錠/1g中に〇〇菌△mg含まれている
  海外:〇〇菌が10△CFU/dose(twice daily)
といったように記載に相違点があり、投薬量の換算は困難である。
 Group5は4種類の菌種が含まれているので、複数の菌種により今回の結果が出たのか、または複数の菌種のうちどれが効果を発揮したのかは不明である。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 整腸剤の副作用に関しての評価はなかった。

【④使う者の経験の視点】
 胃腸炎に対して確固たる意味合いをもって整腸剤を処方していなかったと思しきところがある。しかし、整腸剤の菌種によっては、一般的に5日前後続く下痢の症状が、整腸剤を内服することで3日程度に期間を短縮できる可能性があると積極的に説明し処方することが出来そうだと考える。
 実臨床ではミヤBMを処方する傾向があり、今回の論文では酪酸菌は対象となっていなかったため、今後さらに検索する余地がありそう。

【⑤患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患児は小学校に通学中。内服期間も数日であり、通学中の昼分の内服程度であれば自己管理も可能そう。下痢というつらい症状を早く治したいという希望があり、処方しない根拠になるだけの根拠は無いのではと感じた。
 また「ヨーグルトも効果ありますか?」の問いに対しては、数多あるヨーグルト製品の中から、今回の論文でGroup2と5で使用された菌種を用いている下記のヨーグルトを参照に、お勧めできるかもしれない。(但し、菌株が異なるので、厳密に研究で使用された菌と同じかと言われると断言はできないと考えられる。)
ひろむ先生図⑥

※ビオフェルミン「錠」「散」について
 →剤型が異なると使用されている菌種が異なる別の薬になる。
  ただ、どちらも腸内細菌のバランスにおいて善玉菌である「ビフィズス菌」を優位にするという目的は一緒で、明確な使い分けの基準はない。

 

【開催日】
2017年1月11日(水)

【EBMの学び】ラメルテオンの効果

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年12月11日
【臨床状況のサマリー】
 片側膝関節水腫によるADL低下のため訪問診療を開始したばかりの93歳女性。関節水腫は整形外科で診断・治療を受け、訪問リハビリテーションも行い独歩が可能な程度には回復傾向。認知症(詳細は未評価だが重度には相当)、脂質異常症、高血圧はあるが訪問開始時点で内服薬はなし。隣の家に住む娘が介護しながら独居で生活している。娘が監視カメラで様子を見守っているが、夜間不眠があり一晩中うろうろ動いていていることがあり、娘も心配で眠れないとのことで以前効果があったというレンドルミン処方を希望された。レンドルミンを開始したが効果がなかったため、睡眠リズムを整えるラメルテオンであれば転倒の大きなリスクにはならずに状況を改善できる可能性があるかと考え論文を調べた。

  P;高齢(65歳以上)の不眠症患者に
  I(E);ラメルテオンを投与すると
  C;プラセボ薬を投与したときと比べ
  O:睡眠時間は増えるか / 転倒など有害な副作用は増えるか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
A 2-night, 3-period, crossover study of ramelteon’s efficacy and safety in older adults with chronic insomnia

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;65歳以上の高齢者に
  組み入れ基準…最低3か月続く週3-4晩の不眠を伴うDSM-Ⅳで診断される特発性不眠症患者で、不眠に起因する日中の障害や悩みを抱え、
         BMI18~34、自己申告の就寝時間が午後8:30~午前12時の者
  除外基準…1年以内に重大な精神または医学的疾患、5日以内に睡眠サイクルに影響しうる薬・サプリメントを服用、3週間以内に他に中枢神経に
       作用する薬を服用、3か月以内に睡眠に影響を及ぼしうる食事や運動や就労状況の著しい変化、7日以内に3回以上時差の境界線を越えた
 I(E);ラメルテオン4mgまたは8mgを投与すると、
 C;プラセボ薬を投与した場合に比べ、
 O;治療効果…入眠までにかかった時間、全睡眠時間、睡眠効率、中途覚醒の回数、睡眠開始から覚醒までの時間、自己申告の評価(sSL,sTST,sNAW,
       睡眠に戻るまでの困難さ、主観的睡眠の質)が改善するか
   副作用…残存薬理効果や副作用は増加するか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )※ただし方法は記載なし
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明 )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )※ただし盲検の対象が何なのか記載なし
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( 介入群・対照群の検討なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →そもそも脱落者なし

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 治療効果…客観的指標のLPS:睡眠潜時、TST:睡眠時間、Sleep efficiency:睡眠効率のp値はいずれも<0.05、
      主観的指標のほとんど(ramelteon4mgのsSL以外)のp値は>0.05
 残存薬理効果、副作用…残存薬理効果に優位差はないとされているがp値はいずれも>0.05、副作用は統計学的な評価がされていない

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
●ARRとNNTを計算する
 ※P値で有意差が出たものについて計算
 治療効果は計算できない

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 信頼区間の記載なし

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 睡眠リズムが大きく損なわれた超高齢認知症患者に対して効果があるかどうかは断言できないが、参考にはなる。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 生活指導は困難
 服薬管理は娘が行っており内服可能

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 コスト:ラメルテオン8mg82.5円/錠と比較的高価(一般的な睡眠薬の内マイスリー以外は1錠20円台以下が多い
     Ex. レンドルミン0.25mg27.5円/錠、マイスリー5mg49.6円/錠)
 副作用:検討が不十分。本患者で重要と思われる転倒リスク、長期間服用した場合のリスクも検討されていない。

【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 統計的に客観的睡眠を改善するとしてもその効果自体は小さく、最も意味のある主観的睡眠はほとんど改善しない。
残存薬理効果や副作用は十分検討されているとはいいがたいが、処方しない根拠になるほど大きなリスクはなさそう。
ただし本症例の真のアウトカムは「娘の心配や睡眠時間の改善」かもしれないので、多少なりとも客観的睡眠を改善するのであれば投与を試す意義はあると思われる。

*略語
 LPS(Latency to Onset of Persistent Sleep):睡眠潜時…寝入りまでの時間
 TST(Total Sleep Time):全睡眠時間
 Sleep efficiency:睡眠効率…就床時間中の睡眠時間の割合
 WASO(Waking After Sleep Onset):中途覚醒時間
 SL(Sleep Time):入眠潜時…就床から入眠までの時間

【開催日】
2016年12月14日(水)

嚥下機能低下ととろみ剤

-文献名-
ROBBINS, JoAnne, et al. Comparison of 2 Interventions for Liquid Aspiration on Pneumonia Incidence A Randomized Trial. Annals of internal medicine, 2008; 148(7): 509-518.

-この文献を選んだ背景-
・60歳代、80歳代の嚥下機能が低下した認知症患者に対しとろみ剤を使用する症例が最近あった。その内一例はムセが続いたためさらにとろみを
 足すか相談した。
・また脳梗塞後遺症で嚥下機能が低下した認知症のない80歳男性を嚥下造影検査(VF)など精査目的に紹介し、とろみ剤使用を指導されたが、
 本人が好まずとろみ剤は使用していない。とろみ剤は美味しくなくなると聞くし、仕方がないかな〜と感じた。その後そもそもどれほどの
 効果があるのか気になった。
・PubMedで「Thickened Fluid」「dysphagia」「aspiration」を組み合わせ検索するなかで見つけ読んでみた。

-要約-
【Introduction】
 誤嚥性肺炎は嚥下障害のある虚弱高齢者において良くあることで、多くの人が嚥下障害による栄養失調・脱水症・肺炎・QOL低下のためケアを必要としている。これらの患者の誤嚥防止のための介入は日常的に用いられているが、その介入の有効性についてはほとんど知られていない。

【Method】
 ランダム化並行群間比較試験。期間は1998年6月9日から2005年9月19日までのうちの3ヶ月間。
 47の急性期病院および79の亜急性期住居施設(subacute residential facilities)の515人で、スプーン3mlのサラサラな液体を嚥下するとき、あるいは、嚥下造影検査時や嚥下時に 特に介入なしに誤嚥をみとめられた際に研究へ登録された。誤嚥は、声帯下に観察されたバリウムとして定義された。顎を引いた姿勢でサラサラ液体、ニュートラルな頭位でネクター様の液体、ニュートラルな頭位でハチミツ様の液体の3群にラムダムに割り当つけられた。
貴島先生図1

Inclusion criteria:50歳〜95歳の認知症あるいはパーキンソン病患者。
Exclusion criteria:過去一年の喫煙、現在のアルコール乱用、頭頸部癌の既往、20年以上のインスリン依存性の糖尿病、経鼻胃管、
         進行性や感染性の神経疾患、6週以内の肺炎。

参加者は、誤嚥が疑われた場合、嚥下造影検査を受けた。

一時アウトカム:明らかな肺炎(胸部レントゲンによる診断、あるいは38度以上の持続する発熱、聴診所見、白血球を認める痰のグラム染色、
        呼吸器病原菌を認める痰培養の4つのうち3つ以上を満たすもの)
        疑わしい肺炎とは、上記の胸部レントゲンでの診断以外の4つのうち2つ満たすものと定義。
二次アウトカム:明らかな肺炎あるいは死亡

【Result】
 対象者:515人がランダム割り付けされ顎を引いた姿勢でサラサラ液体259名、とろみ液体は256名でその内訳はネクター様の液体133名、
     ハチミツ様の液体123名です。

貴島先生図2

貴島先生図3
Figure 2 顎を引いた姿勢ととろみ液体による肺炎の累積罹患率

貴島先生図4

一次アウトカム:カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎の累積罹患率は、
 顎を引く姿勢0.098(24事例)、とろみ液体0.116(28事例)(hazard ratio [HR], 0.84 [95% CI, 0.49 to 1.45]; P = 0.53)
とろみ液体のネクターとハチミツ様とでも比較しているが、
 ネクター様液体0.084(10事例)、ハチミツ様液体0.150(18事例)( [HR], 0.50 [95% CI, 0.23 to 1.09]; P = 0.083)

二次アウトカム:カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎あるいは死亡の累積罹患率は、
 顎を引く姿勢0.180(46事例)、とろみ液体0.183(46事例)(HR, 0.98 [95%CI, 0.65 to 1.48]; P = 0.94)
とろみ液体のネクターとハチミツ様とでも比較しているが、カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎あるいは死亡の累積罹患率は、
 ネクター様液体0.163(21事例)、ハチミツ様液体0.205(25事例)(HR, 0.76 [CI, 0.43 to 1.36]; P = 0.36)

貴島先生図5

貴島先生図6

貴島先生図7

Table2は 顎引き姿勢、とろみ(ネクター様・ハチミツ様)液体のそれぞれの群での有害事象、入院、死亡をまとめた表です。
少なくとも1回の脱水、尿路感染、発熱を発症した患者は、とろみ群で顎を引く群よりも多く9%対5%([CI, 0.3 to 9 %]; P = 0.055))であった。

【Discussion】
・老人ホームの脳卒中・認知症・パーキンソン病における罹患率は20〜40%ですが、登録患者全員の3ヶ月肺炎の累積罹患率は11%と低かった。
 無治療群のサンプルがないため、介入の結果が表しているこの低い比率か他のケアがもたらす変化かどうか判断できない。
・肺炎の罹患率ですが、ネクター様液体0.084(10事例)、ハチミツ様液体0.150(18事例)( [HR], 0.50 [95% CI, 0.23 to 1.09]; P = 0.083)
 ハチミツ様液体の患者の肺炎時入院期間の中央値がより長く、ネクター様液体はハチミツ様液体より気道からの除去が容易であるかもしれない。
 液体が粘性であればあるほどより安全に摂取するという前提はベッドサイドや嚥下造影検査に基づいている。(目の前で誤嚥を生じていないだけ。
 粘度が高ければ、目の前で誤嚥しないよね。しかし、ゆっくり誤嚥しているよね。ってことを言っている?)
・嚥下障害があっても、サラサラな液体で味や食感を楽しめる顎を引いた姿勢は選択肢になる。
 あるいは嚥下プロセスのトレーニングや監視を要さないネクター様の液体も合理的な選択である。

【開催日】
 2017年2月1日(水)

Association Between Socioeconomic Status and Mortality, Cardiovascular Disease, and Cancer in Patients With Type 2 Diabetes

-文献名-
Rawshani, Araz, et al. “Association between socioeconomic status and mortality, cardiovascular disease, and cancer in patients with type 2 diabetes.” JAMA Internal Medicine 176.8 (2016): 1146-1154.

-要約―
※前提:スウェーデンは医療へのアクセスや利用について、社会経済的側面でほぼ間違いなく世界で最も公平な国のうちの一つである。

研究の重要性:
 2型糖尿病患者において、医療への公平なアクセスがあり重要な交絡因子を調整したうえで、社会経済的状態と全死因死亡、心血管関連死、糖尿病関連死、癌死亡率との間に関連があるかは、検討されたことがない。

目的:
 2型糖尿病患者において、所得、教育水準、婚姻状況、出生地が、全死因死亡、心血管死、糖尿病関連死、癌死亡と独立して関連しているかどうかを評価する。

デザイン、設定、参加者:
 Sweden National Diabetes Register(2003年1月1日から2010年12月31日まで)に登録された70歳以下の2型糖尿病患者217364人を調査対象とした。イベント発生まで平均5.6年間追跡した。最大17の共変量を有するCOX比例ハザード回帰モデルを用いて解析した。

メインアウトカム:
 全死因死亡、心血管死、糖尿病死、癌死亡率

結果:
 217364人は平均年齢58.3歳、男性60.2%。19105人が死亡し、そのうち11423人(59.8%)が心血管死、6984人(36.6%)が糖尿病関連死、6438人(33.7%)が癌による死亡だった。完全調整モデルを用いた既婚者の(独身者に対する)ハザード比は全死因死亡0.73(95% CI, 0.70-0.77), 心血管死0.67 (95% CI, 0.63-0.71), 糖尿病関連死0.62 (95% CI, 0.57-0.67)だった。婚姻状況は全癌死亡には関連していなかったが、既婚者の男性は独身男性に比べて前立腺癌の死亡率が低かった(ハザード比0.67 (95% CI, 0.50-0.90))。収入の五分位の最低位は最高位と比べたハザード比は全死因死亡1.71 (95% CI, 1.60-1.83), 心血管死1.87 (95% CI, 1.72-2.05), 糖尿病関連死1.80 (95% CI, 1.61-2.01), 癌死亡率1.28 (95% CI, 1.14-1.44)だった。非西洋移民の全死亡死因、心血管死、糖尿病関連死、癌死亡率はネイティブスウェディッシュと比べて、それぞれ0.55(95%CI、0.48-0.63)、0.46(95%CI、0.38-0.56)、0.38 95%CI、0.29-0.49)、および0.72(95%CI、0.58-0.88)だった。大学の学位を持ってる者は教育年数が9年(スウェーデンの義務教育年数)以下のものと比べて全死亡者数、CV、糖尿病関連死亡率、癌死亡率のハザード比は、それぞれ0.85(95%CI、0.80-0.90)、0.84(95%CI、0.78-0.91)および0.84(95%CI、 0.93)だった。

結論:
 社会経済的状態は全死因死亡、心血管死の強力な予測因子だった。

ディスカッション:
 リスクファクターと共変量を調整しても社会経済的状態の影響を排除できなかったという事実は、リスクファクターのコントロールがこれらの較差を縮小することに効果がないことを意味するわけではない。
 社会経済的状態が悪いことは、心理社会的ストレス、失業、財政難、不健康な習慣、健康上の障害、危険な地域に住む、社会的支援の欠如、不十分な結束と結びついている。
 非西部から西部へ移住する個人は、母国では選択された強力なサブグループであるため、スウェーデン出身者より結果が良かったと考える。

Limitation:
 アルコール消費についてのデータを得られなかった。喫煙は吸うか吸わないか二分変数での評価だった。

【開催日】
 2017年2月1日(水)

高齢者のてんかん部分発作の治療にどの薬使ってますか?

―文献名―
A randomized, double-blind comparison of antiepileptic drug treatment in the elderly with new-onset focal epilepsy. Epilepsia 20156(3):450-459,2015.

―この文献を選んだ背景―
 90歳男性。糖尿病、収縮不全を伴う重度大動脈弁狭窄症、C型肝炎による慢性肝硬変、CKD、加齢によるADL低下で訪問診療していた。以前から突然両手が突っ張る発作があったが、診察時に始めて確認した。意識レベルは低下するものの返答もされるためてんかんの部分発作と診断。ADLの低下から病院への受診が困難なため訪問診療が導入になった経緯があり、当院で抗てんかん薬を開始することとした。日本神経学会のてんかんガイドライン2010(2014年度てんかん治療ガイドライン2010追補版)では以下の通り。

福井先生図①

 あまりに選択肢が多かったためPubMedで「epilepsy; elderly」で論文を検索し、648本の論文がヒット。その中でガイドラインに記載されている薬剤の効果を比較している論文として上記論文を選択した。

―要約―
【目的】
 新規のてんかん部分発作の診断となった高齢者に対する、カルバマゼピン(CR-CBZ:テグレトール®)、レベチラセタム(LEV:イーケプラ®)、ラモトリギン(LTG:ラミクタール®)の効果を比較すること
 研究前:CBZが頻用されているがそれを支持するエビデンスが不足。CR-CBZとLTGの比較では投薬維持率に差はなく、CR-CBZの方が発作なし率が
     高く、認容性はLTGが高かった。LEVとLTGの比較試験ではレトロスペクティブで非コントロール試験だった。CBZに対するLTGの非劣性
     試験はあった。

【方法】
 ランダム化二重盲検並行群間比較試験。2007年1月から2011年8月。ドイツ、オーストリア、スイスの外来や病院の計47ヶ所。対象者は60歳以上の新規のてんかん発作の患者で、痙攣の原因となる急性疾患がなく、この研究の薬剤が禁忌とならない者。患者はランダムに上記の3薬剤に1:1:1の人数比で割り付けられた。投与量は6週間で漸増し決定され、その後さらに52週間で投与継続されたり、痙攣の再燃や認容性に合わせて量を調整した。一次アウトカムは58週目(上記の6週と52週の合計)での投薬の継続率。二次アウトカムは痙攣なしの割合(30週目と58週目)と副作用の頻度。

【結果】
 ●対象者:361人の患者がランダム割付され、359人の患者をmodified ITTの対象とした
     (CR-CBZ=121人、LEV=122人、LTG=117人)(平均年齢71.4歳(60〜95歳))。

福井先生図②

福井先生図③

●一次アウトカム:58週目の時点で、LEVの投薬継続率はCR-CBZと比較して顕著に高く(61.5% vs 45.8%, P=0.02)、LTGと比較しても同様だった(55.6%)。

福井先生図④

●二次アウトカム:30週目と58週目の時点での痙攣の無い割合には差はなかった。
 CR-CBZを投与された患者は副作用による投与中止や死亡がLEVの2倍だった(32.2% vs 17.2%; odds ratio 2.28, 95%CI(1.25〜4.19, p=0.007))。一方、LTGの中止はその間(26.3%)。

福井先生図⑤

福井先生図⑥

(↓いずれかのグループで、対象者の10%以上に発症した副作用が他のグループでどうだったかの表)
福井先生図⑦

●投与を完遂した者(3グループ合わせて195人):投与量の中央値は、CR-CBZ 380mg/日(日本では200 〜400mg/日で開始し通常600mg/日くらいが
 維持量)、LTG 95mg/日(日本では25mg/日で開始し漸増して100mg/日で維持)、LEV 950mg/日(日本では通常1000mg/日)だった。

【結論】
 高齢者での部分発作に対して、単剤で治療を開始する場合、1年後の薬剤投与継続割合は、LEVが高かった。それはCR-CBZよりも認容性が高いためだった。LTGの投与継続割合は、その間だったがLEVに近く、大きな差はなかった。
 このRCTによって、高齢者の新規てんかん部分発作に対して、選択薬はLEVであり、LTGはその代替薬になりうる。

【ディスカッション】
 ・今回の研究からLEVによる単剤治療をCR-CBZと比較すると、効果の点では同等であり、認容性の点では優れていた。
 ・どの薬も推奨量より少ない量で維持できた。このことから高齢者では、認容性の問題から低用量から開始すべきである。
 ・LEVの投与継続率が高かったのは、効果の点では同等だったので、認容性の点からだろう。
 ・副作用全体の発生については3剤とも差がなかったが、薬剤に関連した副作用発現までの時間はCR-CBZが一番早かった。
 ・CR-CBZの内服者の60%でγGTの、15%でALPの上昇を認める。一般的にこれで投薬中止になることは少ないが、密な採血評価は必要である。

【開催日】
 2017年1月18日(水)

肺炎の経過についての記述研究

―文献名―
Jolien Teepe, Berna DL Broekbuizen, Katberine Lens et al. Disease Course of Lower Respiratory Tract Infection With a Bacterial Cause. Ann Fam Med 2016; 14 (6): 534-539.

―要約―
目的:
 • 細菌感染に由来する咳と、それ以外の咳の経過は異なると思われるが、先行文献は乏しい。
 • プライマリ・ケアの現場では通常細菌検査は行われず、臨床的な判断のもとで加療が行われる。現場の医師は重症化する細菌性の咳を見落としたく
  ないがため、症状が強い場合に抗菌薬を処方することがある。しかし、こうした対応では副作用の発症、耐性菌の出現を招いてしまう。
 • 抗菌薬による治療を受けなかった場合の細菌性の下気道感染(Lower Respiratory Tract Infection: LRTI)の経過の経過が明らかになれば、
  初期対応として注意深く経過をみたり、患者の治療経過を予測することができるようになると考えられる。よって本研究では、成人における
  急性発症の咳について、細菌性LRTIの経過について調べた。

方法:
研究デザインと研究対象者

 • プライマリ・ケアの現場から取得された発現から28日以下の急性発症の咳を伴う成人2,061人のデータ(ヨーロッパの多施設研究GRACE-10 study
  の二次利用)を用いた。この研究では被験者らはアモキシシリン群とプラセボ群にランダムに割り付けられていたが、今回の解析には疾病の自然
  経過を反映しているプラセボ群(1,021名)のみを用いた。聴診により明らかに肺炎が疑われる患者(局所的なラ音・気管支音)、全身所見が強い
  患者(高熱、嘔吐、重度の下痢)、妊娠している患者、ペニシリンにアレルギーがある患者、前月に抗菌薬治療を受けている患者、免疫不全の
  患者は除外した。
評価項目
 • 症状)4段階のLikert scaleによって以下の症状を記録した:咳、痰、息切れ、喘鳴、鼻汁、発熱、共通、筋肉痛、頭痛、睡眠障害、具合の悪さ、
  日常生活や仕事の障害、意識障害、下痢。
 • 検体)初診日に痰と鼻咽頭の培養を取得した。細菌検査とウイルス学的検査を実施した。
 • 胸部X線)初診から7日以内、できれば3日以内に取得した。
細菌感染の定義
 • S. Pneumoniae, H. influenza, M. Pneumoniae, B. pertussiss, L. Pneumoniae が気道検体から検出された場合、あるいは血清学的に
  証明された場合に、細菌感染ありと定義した。
抗菌薬の使用
 • 医師の判断で、必要な場合は適切な抗菌薬投与が行われた。
アウトカム指標
 • 初診から「症状がよくない」と評価された期間、診療から2日目から4日目の重症度、疾病増悪による再診、初診から4週以内に入院が必要となった
  際の新しい症状および所見、寛解までの期間、日常的な活動や仕事に支障があった期間。

統計解析:
 • 重症度(線形回帰)、期間(Cox回帰)、再診(ロジスティック回帰)を解析。多変量解析の際は調整因子を以下のように定めた:年齢、喫煙、
  併存疾病(肺・心・糖尿病)、受診までの咳の期間。

結果:
 • 対象者は834名で、細菌性LRTIは162名(19%)に認められた。
 • 起炎菌はS. Pneumoniae, H. influenza(いずれも34.7%)が多かった。
 • 細菌性LRTIの患者には喫煙者が多く(33% vs 24%)、咳の期間が長く(9日 vs 8日)、初診時の患者の訴える重症度が高く(34 vs 30)、
  レントゲン上の所見が多かった(6% vs 3%)。
 • 62名(7%)の患者に、初診から10日以内に5日以上の抗菌薬使用が認められた。これらの患者は医師の評価する重症度が高かったが(36 vs 31)、
  年齢や併存疾患は非使用群と差はなかった。
 • 細菌性LRTI患者は2日目から4日目にかけて患者の訴える重症度が有意に高く、症状の増悪のため再診する割合も有意に高かった。
 • X線上肺炎像が認められる患者を除外しても、結果は変わらなかった。
 • 細菌性LRTI群と非細菌性LRTI群にそれぞれ1名ずつの入院があった。死亡例はなかった。
 • 細菌性LRTI群と非細菌性LRTI群では、「症状がよくない」状態について経過に有意な差は認めなかった。
 • 抗菌薬使用者を除外した解析では、症状増悪のための再診が細菌性LRTI群で多かった(23% vs 16%, OR=1.67, 95%CI 1.06-2.63, P=.029)。
 • S. Pneumonia 感染者を除外した解析と、H. influenza 感染者を除外した解析について、それぞれにおいて特に結果は変わらなかった。

考察:
結論

 • 急性の細菌性LTRIはそうでないものよりも症状経過がやや悪いことが明らかになったが、この相違の意義は乏しい。
限界
 • この研究では、非常に重篤で即時紹介された患者は含まれていないので、研究結果は重症患者へ一般化することはできない。
 • 細菌がcolonizationしていた事例も細菌性LRTIに分類された可能性がある。ただし、S. Pneumoniae, H. influenzaは健常者で最大10%ほど
  colonazationが認められる程度である。COPD患者に, H. influenza のcolonazationが多いが、この研究では5%しか該当しない。
実臨床への意義
 • 細菌性LRTIは非細菌性LRTIと経過は変わらない。継承例は細菌性だとしてもself-limitingであるため、watchful waitingの戦略が検討の
  余地がある。

【開催日】
 2016年12月21日(水)

後期高齢者の厳格降圧は有効か?

―文献名―
Intensive vs Standard Blood Pressure Control and Cardiovascular Disease Outcomes in Adults Aged ≥75 Years: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2016 Jun 28;315(24):2673-82.

―要約―
【重要性】
 高血圧を有する高齢者の適切な収縮期血圧(SBP)の目標値は明らかではない。

【目標】
 高血圧を有するが糖尿病がない75歳以上の高齢者において厳格降圧薬(120mmHg未満)と標準降圧(140mmHg未満)の効果を比較する。

【デザイン、セッティング、参加者】
 SPRINT試験(米国50歳以上、血圧130〜180mmHgで非糖尿病かつ心血管リスクが高い患者が対象※1)に参加した75歳以上の患者の多施設、無作為化試験。2010年10月20日から登録を開始し、2015年8月20日までフォローアップした。
 ※1脳卒中を除いた症候性・無症候性の心血管疾患の既往、CKD、フラミンガムリスクスコア15%以上

【介入】
 参加者をSBP<120を目標とする群(厳格降圧群、n1317)とSBP<140を目標とする群(標準降圧群、n1319)に無作為に割り付けた。

【主要評価項目】
 主要評価項目は、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、非致死性脳梗塞、非致死性急性非代償性心不全、心血管死である。全死亡は副次評価項目である。

【結果】
 2636例(平均年齢79.7歳、女性37.9%)のうち、2510例(95.2%)で完全にフォローアップした。フォローアップ期間の中央値は3.14年で主要評価項目(102イベントvs148イベント、HR0.66、95%CI:0.51-0.85)と全死亡(73例vs107例、HR0.67、95%CI:0.49-0.91)は有意に厳格降圧群で低かった。
 重大な有害事象に群間差はなかった。(48.4%vs48.3%、HR0.99、95%CI:0.89-1.11)
 低血圧の発生は厳格降圧群2.4%、標準降圧群1.4%(HR1.71、95%CI:0.97-3.09)、失神はそれぞれ3.0%と2.4%(HR1.23 95%CI:0.76-2.00)、電解質異常はそれぞれ4.0%と2.7%(HR1.51、95%CI:0.99-2.33)、急性腎障害は5.5%と4.0%(HR1.41、95%CI:0.98-2.04)、転倒による外傷はそれぞれ4.9%と5.5%(HR0.91、95%CI:0.65-1.29)であった。

【結論】
 75歳以上の歩行可能な高齢者では、厳格降圧群で標準降圧群と比較し、致死性心血管イベント、非致死性心血管イベント、全死亡が有意に少なかった。


P:糖尿病を除く心血管リスクを有する75歳以上の高血圧患者
I:SBP<120mmHgを目標にコントロールする(厳格降圧群)
C:SBP<140mmHgを目標にコントロールする(標準降圧群)
O:非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、非致死性脳梗塞、非致死性急性非代償性心不全、心血管死の複合エンドポイント

inclusion criteria:心血管リスク(脳卒中を除いた心血管疾患の既往、CKD、フラミンガムリスクスコア≧15%、75歳以上)
exclusion criteria:2型糖尿病、脳梗塞の既往、6ヶ月以内の症候性心不全、EF<35%、認知症、生命予後3年未満、6ヶ月以内の故意でない10%以上の体重減少、SBP110mmHg未満(起立1分後)

・無作為化:記載あり(方法の記載なし)
・隠蔽化:記載なし
・盲検化:試験の性質上、患者と治療介入者は盲検化できない。outcome評価者は盲検化されている。
・介入群と対照群の背景(table1参照)
  アスピリン使用とfrailty index(スコアの範囲は0−1で値が高いほどfrailtyは高い)で群間差あり
  厳格降圧群でアスピリン使用が多い、厳格降圧群でfrail indexが高い
・解析:ITT解析
・結果
  複合エンドポイントのうち心不全のみ厳格降圧群で有意に減少している、NNT63(table3)
  内服薬は厳格降圧群で1剤多く、標準降圧薬に比べるとACE、利尿剤、βブロッカーの使用割合が高い(etable2)
  失神、電解質異常、腎障害は厳格降圧群で多い傾向(etable3)
  frail indexが高いほど重大な合併症が多い傾向(etable3)

村井先生図①

村井先生図②

村井先生図③

村井先生図④

村井先生図⑤

村井先生図⑥

 

―考察とディスカッション―
【考察】
 結果からは外来通院可能なADL(認知症や施設患者は含んでいない)で非糖尿病の心血管リスクが高い75歳以上の高齢者を対象に120mmHg前後に降圧することで心不全が減少することが示された。しかし厳格降圧群ではACE阻害薬/ARB、利尿剤、βブロッカーの処方が多く、それが心不全を抑制した可能性がある。また有意差はつかなかったが厳格降圧群で腎不全、電解質異常などの副作用が多く出る傾向があった。また同様に厳格降圧群ではfrailな患者ほど重大な合併症を起こしやすい傾向があった。

【開催日】
 2016年12月21日(水)