ビタミンDによる上気道感染症予防

―文献名-
Adrian R Martineau et al. Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data. BMJ 2017;356:i6583

-要約-
Introduction
 急性上気道感染症は頻度が高く、死亡率も高い重要な疾患である。過去の観察研究において、25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度が低いことと急性上気道感染症の罹患率に関連性があることが示されていた。また、ビタミンDは上気道炎への抗菌・抗ウイルスペプチドを刺激し、感染予防に働く可能性があると言われていた。ビタミンD補給が急性上気道感染症のリスクを減らせるか、といったRCTが多数されており、現在までに5つの集計データメタアナリシスが実施されている。そのうち2つは統計学的に有意な効果を報告し、3つは有意な効果を報告しなかったこれら5つの試験のうち4つで、統計的に有意な異質性があると報告している。COPD患者の中でもビタミンDのベースラインが低い患者については補給による利益は大きく、また年齢やBMIなどはビタミンD補給による25-ヒドロキシビタミンDの応答に影響すると言われている。今回、この異質性を説明する要因を特定するために、ビタミンD補給による急性呼吸器感染症予防に関する25のRCTすべてにおいて、個々の参加者データのメタアナリシスを行った。

Method
 デザイン:ランダム化比較試験からの個々の参加者データのシステマティックレビュー、およびメタアナリシス
 データソース:Medline, Embase, the Cochrane Central Register of Controlled Trials, Web of Science, ClinicalTrials.gov, the International Standard Randp,osed Controlled Trials Number registry
 試験選考のための基準:ランダム化、二重盲検、プラセボ比較によるビタミンD3あるいはビタミンD2補給の試験であり、倫理委員会に承認されており、急性上気道感染症の発生率に関するデータが前向きに収集されているもの。

Results
 25のRCT(計11321名の参加者、0歳から95歳まで)が同定された。参加者データは10933名(96.6%)で得られた。ビタミンD補給により、全ての参加者の急性呼吸器感染証のリスクを減らした(調整オッズ比0.88、95%信頼区間0.81-0.96、P値<0.001)。サブグループ解析では、追加のボーラス投与なしで、毎日あるいは毎週ビタミンDを摂取した者に保護効果が認められた(調整オッズ比0.81、0.72-0.91)が、1回以上のボーラス用量を受けた者では効果が見られなかった(調整オッズ比0.97、0.86-1.10、P値=0.05)。毎日あるいは毎週ビタミンDを摂取した者のうち、保護効果がより強かったのはベースラインの25-ヒドロキシビタミンDレベル<25nmol/L(調整オッズ比0.30、0.17-0.53)であり、25-ヒドロキシビタミンDレベル≧25nmol/L(調整オッズ比0.75、0.60-0.95、P値=0.006)より高かった。ビタミンD摂取による有害事象の発生率には差がなかった(調整オッズ比0.98、0.80-1.20、P=0.83)。 結論:ビタミンD補給は安全に実施でき、急性呼吸器感染症に対する保護作用は全体に認められた。中でも、ビタミンD欠乏が強い者、ボーラス投与を受けていない者が最も利益を受けていた。 中島先生図1

中島先生図2

【開催日】
 2017年3月22日(水)

何もしないという“わざ”

―文献名-
Iona Heath. The art of doing nothing, European Journal of General Practice, 2012; 18:4, 242-246

-要約-
他者からの知恵
・ジグムント・バウマン(ポーランド出身の社会学者)は、その著書の中でカール・ヤスパース(ドイツの哲学者・精神科医)の言葉「私たちの時間は、どのようにそれを使うかという観点から考え得られている。何もしないということがあるにも関わらず。」を引用している。
・メアリー・ミッジリー(英国の哲学者)は、その書籍の中で次のように強調している。「私たちの最近の膨大な技術(その多くは役立つしそうでもない、そして恐ろしいほど資源を無駄にする規模)の発展から生じる新しい力に魅せられた状態を超えて、私たちがそのニーズが増大する環境から抜け出すのは至難のわざである。なぜなら私たちの時代は抑制するのではなく継続的に向上することに著しく夢中になっているからである。」
・ウイリアム・カローズ・ウイリアム(米国の詩人でGP)は、医師たちがこのひどい状況にいとも簡単に屈してしまうことを、彼の短編集にこう書いている「我々に迫る圧力で、私たちは最終的に全ての民衆に全てを行う。そこから逃げようとしても、徐々にスピードが落ち、最終的には泥んこレースの中になる。どこに行くのかもわからず、そこから抜け出す時間もない・・・」
●上記のように、GPとして働いている皆はこのような現象を認識しているのではないだろうか?立ち止まる時間なく、聴いたり考えたりする時間もなく、トイレに行く時間もなく、一日中を走り回っている
・エルビン・シュレーディンガー(オーストリアの物理学者)は、何もしないというわざの力の重要性について次のように記述している。「誠実に知識を調査するとき、あなたは割といつまで続くかか分からない無知に我慢をしなくてはいけない。この要件が確固たるものとして立った時にはそれどころか、更に正しく理解したいという次なる探求への刺激と道路案内となる。これは自然であり科学者に不可欠な性質である。」
●考えを一時停止すること。これは無知と不確実が一般的なGPにおいて重要である。結論として、おそらく直観に対抗し、医学において、何もしないというわざは積極的で、熟考されて、慎重なものである。圧力に対抗するために解毒的に行うことには、多くの種類があるので、下線毎に紹介する。

聴く・気づく
・同時に熱心に正確に聞きながら行為を行うのは不可能である。先ほどのウイリアム・カローズ・ウイリアムは、GPにおける聴くことの強さをこう書いている。「そこに真実がある。私たちが聴いている全ての瞬間に、稀な要素でも、想像がつかなくても、それが事実・・・」
●これはGPを、深い感情や不安を診察室で表現しながらもがいている患者の人生の最接近者として描いている。キャサリン・ジェイミー(英国の詩人)は、必要な関わり合いと聴いて気づくことへの集中力は、祈りを捧げる人の考えに近づくと考えている。
・彼女のバードウォッチングの体験を読むと、GPに必要なある種の受け入れる準備にとても近いように聞こえる。「分析するのではなく、気づくこと。脳の一部は『あれは何?鶴?コウノトリ?バカにしないで、奇妙な鷺じゃない』と、ごちゃごちゃと大声で喋っているが、同時に自分の内なる声を静かにさせるべきである。あなたは後から整理して修正ができ、診断と分析ができる。しかし、今は心を開いて、風の中で首をかしげる様や、その色彩、不運な形を頭に焼き付けなさい」
●今は、何もせず、患者に心を開く。彼らの何かに気づいて、それを頭の中に入れる。分析や診断は始めない、早すぎる。
・ポーランドの偉大な詩人のZbigniew Herbertは、聴くことに注意を払う難しさを次のように書き、私たちにその責務を教えてくれる。「何もできないことに反発して、彼の対抗手段は乱用だけであった。希望がないにもかかわらず、援助を受けてしかるべきで、賞賛と敬意を理由に。」

考える
●患者は診断を必要としているだろうか?それは患者を本当に助けうるだろうか?どんな種類のケアが、その時・その場に適しているだろうか?
・ハンス・ゲオルク・ガダマー(ドイツの解釈学の哲学者)は、考えるということがどれくらい重要で重いものかを次のように教えてくれる。「考えるということは、それ自身が魂の中で対話をしている。これはプラトンが考えることについて述べたものであり、その意味とは、理解できない問いが生じた際、それについて考えることは我々自身に同時に与え・与えられる答えを聴くことである。」
●EBMにおける善意からの強調されてきた遺産は、医療供給の案内を設計するガイドラインを急増・拡散させ、パフォーマンスに連動した支払いを動機づけ、考えるための小休止なしに処方を継続する姿に変えられてしまっている。

待つ
●待つということはしばしば勇気がいる。診断や治療のツールに、自然に何が起こるのかを見るために、時間を使うことがある。これらは何もしないというわざの基本的なスキルとなる。過剰診断や過剰治療の魅力的な罠に陥らないためにも、極めて重要である。
・NZのGPで詩人のGlen Colquhounの一つの詩が、待つことの重要性をうまく表現している。
「占いのますます洗練された方法は、医学の実践において使われている。・・・次に何が起こるかを見るのを待つことによって。」
●次に何が起こるのかを待つことは、高価で威圧的な技術が利用可能で増大しているのに直面しているからこそ、最も洗練され高い教養のある方法となる。

そこにいる・証人となる
●ただそこにいること。患者のそばにいること。
・GPを表現したベストな書籍と私が考えている、果報者ササル(A fortunate man)を書いた、ジョン・バージャーは次のように書いている「彼は病気にある人を治療するよりも、彼らの人生の客観的な証人となっているようだった。」
・Zbigniew Herbertの詩を英訳したカーペンター夫妻は、「私たちの自由や正確さを決めるのは、真に周囲の苦痛を受け、その証人でいることに耐え、それに対して抵抗し続けることができるかどうかです」と述べている。
●家庭医にとってのこの態度は、アドボカシーへの責任ある活動と同様である。私たちは表現することができず、声を上げることのできない人たちの代わりに政治家や政策立案者に声を上げる必要がある。・・・アドボカシーは構造的な治療方法となる。ノルウェーで出会った若い循環器医の歌う歌詞の中で、「‘I know I can see you through this」が繰り返し流れる時に、ゆっくりと気づいたことがあった。それは結束と逃げないという約束を示した関わり合いの宣言に聞こえた。
・アーサー・クラインマン(米国の人類学者で精神科医)も同様のことを次のように述べている。「共感的な証人は、病を持った人間といるときの基本的な関わり合いです。そして、何らかの気づきやその経験への価値付けとなる病いの語りを促進させます。これが医師になることの道徳的な中核でありillnessの体験です。」

害を防ぐ
・これについては2012年の最初の頃の内科雑誌に予想もつかない結論で掲載されている。
・ウラジミール・ナボコフの「人間性の愛おしいところは、誰かが良い行いに気づいていない時に、その人は自分の悪いことにいつも気がついている」という言葉がある。
・私たちは、医師たちが患者にベストしか尽さしておらず、その結果、素晴らしく・満足のあるものを彼らの人生に提供していると確信している・・・このコントロールがつかないポジティブフィードバックのループに捕らえられているように見える。「」

最後に
・何もしないことは、不適当で時期尚早なラベル付けしたり、平凡で人間的な悩みを医学的に扱ったり、無益な治療を開始してしまうなど、さっと結論を急ぐよりも望ましい。
・何もしないというわざの疑問のない利点とその意欲が高いうちに、エメ・セゼールからの警告に耳を傾けよう。「私の体と私の心に注意しよう。あなたの腕組みの全てに注意をしよう、傲慢で想像力に欠けた観客のような態度に注意をしよう。なぜなら人生は壮大な物語ではなく、sea of sorrowは舞台前部のものでもない。人が泣いているのは見せ物の熊ではない。」
・何もしないというわざを養っていこう。しかしそれは観客的な想像力のない態度に避難することではない。

【開催日】
2017年3月22日(水)

プライマリ・ケアでの家族性高コレステロール血症のスクリーニング

-文献名-
David S. Wald, et al. Child–Parent Familial Hypercholesterolemia Screening in Primary Care.N Engl J Med 2016;375:1628-37.

-要約-
押見先生の本(www.amazon.co.jp/dp/4758309604)にあった10のステップに沿ってみます。

Step1:結論を類推しながらタイトルを確認する
スクリーニングの推奨についての論文だろう

Step2:研究規模を知るために研究グループ名と著者の所属機関を確認する
松島先生図1
Wolfson Institute of Preventive Medicine, Barts and The London School of Medicine and Dentistry(http://www.wolfson.qmul.ac.uk/about-us)1991年設立
North East Thames Molecular Genetics Laboratory, Great Ormond Street Hospital(http://www.gosh.nhs.uk/)こども病院
どちらもイギリス、ロンドン

Step3:結論の真髄を見る(conclusion)
Child–parent screening was feasible in primary care practices at routine child immunization visits.
 プライマリ・ケア医をワクチンで受診したときにスクリーニングは可能
For every 1000 children screened, 8 persons (4 children and 4 parents) were identified as having positive screening results for familial hypercholesterolemia and were consequently at high risk for cardiovascular disease.
 1000人の子をスクリーニングして、4人の子と4人の親がFHと診断された。

Step4:Backgroundを見て研究の新規性・独自性を確認する
・What is known?
 FHは常染色体優性遺伝の疾患で、1000人に2人の頻度(BMJ2007より)。2007年のBMJのメタアナリシスで、FHのPopulation-Based child-parent screeningが提案されている。1-9歳児でコレステロールを測定し、高コレステロール血症があった場合に両親も測定する。20-39歳のFH患者は、同世代の健常者の100倍心血管イベントを起こしやすい。両親と、思春期になった子にはスタチンが勧められる。
 FHの診断は遺伝子検査で行うが、全ての遺伝子変異が同定されているわけではない。またFH変異があってもコレステロール値が高くない場合もある。以前のメタアナリシスの見積もりでは、総コレステロール(T-Chol)のカットオフは中央値の1.53倍(multiples of the median;MoM)≒99.9パーセンタイルで、1〜9歳児のFH患者を88%拾い上げられる
・What is unknown, Purpose of the study
 We assessed the efficacy and feasibility of such screening in primary care practice.

Step5:Methodsから研究方法を同定し、PICOを用いて仮説を検証する
・エビデンスピラミッドのどこに位置するのか
 診断の有益性を見る、横断研究?
・PICOは?
 なし

<Methods>
 2012年3月〜2015年3月 イギリスの92箇所のgeneral medical practicesでおよそ13か月で子供の予防接種で来院した時に、親にスクリーニングを受けるか確認
13097児の親のうち11010児の親(84%)が同意した。
 予防接種の時に、heel-stick capillary blood sampleを採取し、コレステロール値の測定とFH変異の有無を確認した。良好な検体は10118児で得られた。T-Chol, HDL, TGはthe Cholestech LDX point-of-care analyzer (Alere)で測定された。
coefficients of variation(変動係数)、、、
 LDLはthe Friedewald equationで計算。最終的に10095児が解析された。
 計測されたFH変異は、FH48という48種類のもの、c.10580G→A (p.Arg3527Gln) mutation in APOB、c.1120G→T (p.Asp374Tyr) mutation in PCSK9
 DNAはthe QuickGene-810 (AutoGen)で抽出されTaqMan single-nucleotide polymorphism (SNP) genotyping (Life Technologies) on the Fluidigm Biomark platformで測定された。FH48はないがTCが高値(230mg/dl以上)のものはthe BigDye Terminator, v. 3.1, Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いてSanger sequencing of LDLR (all exons, boundary and promoter regions), APOB (exon 26), and PCSK9 (exon 7)を調べた。それでも異常がない場合は、3か月以降経ってから再度コレステロール値を調べた。

 高コレステロールがありFH変異があるか、3か月以降に再度高かった場合をスクリーニング陽性とする。その親も同じ変異をもてば陽性とする。変異がない場合、両親のうち高コレステロールな方をスクリーニング陽性者とする。

Step6:比、信頼区間、P値を確認して結果を評価する
松島先生図2
(私見)
・心筋梗塞の家族歴がある率が、日本での実感と比べてかなり高い。
・母親の年齢の中央値が31歳、父親が34歳、英国も晩婚化しているのか。

松島先生図3
 FH+は全員ヘテロ型だった

松島先生図4
 FH変異+のうち1/3は正常値(1/6は正常中央値以下)

松島先生図5
 FHと診断された親はスタチン内服を開始した。
 診断についてネガティブな印象を持った親はいなかった。予防接種の妨げになることもなかった。

Step7:考察部分からパラグラフリーディングスキルを用いて結果の解釈と限界を同定する

・Summary of Main Findings
・Interpretation
 コレステロール値が高くない児でも遺伝子検査をおこなったことでわかったこと
  FH変異+のうち1/3は正常値(1/6は正常中央値以下)
  同じ変異を持っていてもコレステロール値には幅がある→高コレステロール血症の発言には他の因子が重要
   →ホモ型とヘテロ型の違い
   →家族性高コレステロール血症の定義自体が難しい:変異を重要視するのか、コレステロール値を重要視するのか
 その解決法として提案しているのは、FHを早発冠動脈疾患のリスク要因として捉えること。
 (例えばBRCA1の変異は、疾患でなく、乳がんや卵巣癌のリスクとして捉えられている)
 Figure4に示すpopulation-based screening policyによって、偶然の高コレステロール血症を除外でき、
 未知の変異も含んだ高コレステロール血症を拾い上げ、冠動脈疾患リスクを下げることができる。
・Generalizability
 この研究では全員に遺伝子検査を行ったが、実際は限られた人(1.35MoMの高コレステロール血症の人)しか適応にならない。
 Reflex DNA testing(http://www.lmsalpha.com/features/ReflexDNA)が出来れば、広まるかもしれない
・Conclusions
 このやり方が導入されるかどうかは不明だが、有用である。

Step8:Editorial(編集後記)を使って研究領域での論文の価値を同定する
 両親世代は健診や医療機関受診が最も少ない時期なので、このchild-parentスクリーニングはよい機会になるかも。小児期(10歳)からスタチン治療することで、冠動脈疾患リスクを正常人と同等まで減らせるかもしれない。
 これまで行われているCascade screeningでは、高度の高コレステロール血症のある成人を機転に、家族にスクリーニングをかけていく方法で、コストパフォーマンスはよいが、すでに動脈硬化が進行していることも多い。Universal screeningが求められる。Pediatrics 2011にあったExpert panelの発表では、9-11歳と17-21歳でのスクリーニングを推奨しているが、より早い時期に行うことで漏れを少なくしたり早期からの生活指導や治療を始めることができる。

Step9:Correspondenceを使って関連する研究を評価する

Step10:Conference reportを使って論文が社会に与える影響を考える

【開催日】
2017年3月15日(水)

Healthy Communities 総論

―文献名-
Frumkin, Howard. Environmental Health, edited by Howard Frumkin, John Wiley & Sons, Incorporated, 2016. Chapter 15

-要約-
【Key Concepts】
 ご近所、町、都市の設計は、人々の健康に影響を与える。近代の公衆衛生は都市計画や土地利用施策と歴史的に結びついている(表15.1)。土地利用(図15.4)や交通手段の決定は、日頃の身体活動、空気のきれいさ、安全、人付き合い、精神的な健康、社会的な公平、他の健康を規定する要因を支持したり、阻んだりする。
“Smart growth principles(テクスト図15.6)” は人々の健康に恩恵をもたらし、環境の持続可能性や回復力を支える。”Health impact assessment”は提案した企画やプロジェクト、政策の潜在的な影響を熟慮した上での意思決定を助けるツールである。地域作りや公衆衛生の新しい研究や流行として、土地利用計画者と公衆衛生の専門家の間で協同が増えてきている。

佐藤先生図1

佐藤先生図2

佐藤先生図3

 上の文章はHealth impact assessmentのステップについて言及部分

佐藤先生図4

【開催日】
 2017年3月15日(水)

希釈リンゴジュースと電解質調整経口補液の軽度の胃腸炎小児に対する効果

―文献名―
Effect of dilute apple juice and prefered fluids vs electrolyte maintenance solution on treatment failure among children with mild gastroenteritis JAMA. 2016.5352.Published online April 30, 2016.

―要約―
【背景】
 胃腸炎は小児のコモンディジーズである。電解質調整補水液は脱水の治療と予防に推奨されている。軽症脱水小児での効果はよく分かっていない。

【目的】
 小児の軽症胃腸炎に対して、希釈リンゴジュース+好みの水分による経口補水が電解質調整補水液と比較して非劣性かどうかを評価する。

【デザイン、セッティング、患者】
 ランダム化比較試験で、単盲検・非劣性試験がカナダオンタリオ・トロントの小児の3次救急外来で2010年から2015年までに行われた。組み入れ患者は6-60か月(5歳)までの軽度の脱水を伴う胃腸炎患者。

【介入】
 患児は色調を合わせた半希釈のリンゴジュース+好みの水分群(n=323人)とリンゴ風味の電解質調整補水液(n=324人)に割り付けられた。経口補水治療は施設のプロトコールで行われた。退院後、半希釈のリンゴジュース+好みの水分群は飲みたいときに水分摂取し、電解質調整補水液群は電解質調整補水液で行われた。

【メインアウトカム】
 プライマリアウトカムは、7日以内の治療失敗の複合アウトカムで、点滴による脱水補正・入院・予定外受診・症状遷延・クロスオーバー・3%以上の体重減少・重症脱水の複合とした。
 セカンダリアウトカムは、点滴による脱水補正・入院・下痢や嘔吐回数が含まれた。非劣性マージンは7.5%と設定し、片側検定でα=0.25。

【結果】
 647人の小児(平均28.3か月、331男児、441女児、脱水徴候なし)が割り付けられ、644人(99.5%)がフォローアップされた。半希釈のリンゴジュース+好みの水分群の方が電解質調整補水群と比較して治療失敗が有意に少なかった(16.7% vs 25.0%、-8.3%:-∞ to -2.0%、非劣性かつ優越性あり)。半希釈のリンゴジュース+好みの水分群が有意に点滴による脱水補正を受ける群が少なかった(2.5% vs 9.0%, -6.5%:-11.6% to -1.8%)。入院率や下痢や嘔吐頻度は両群で差を認めなかった。
榎原先生図①

【結論】
 軽症胃腸炎の軽度脱水患者では、半希釈のリンゴジュース+好みの水分を投与することは、電解質調整補水と比較して、治療失敗が少ないことが明らかになった。多くの先進国小児の胃腸炎の脱水補正に対して半希釈のリンゴジュース+好みの水分を投与することは、代替方法になり得る。

【開催日】
 2017年3月1日(水)

Ambulatory care sensitive conditions(プライマリ・ケアの現場で適切にマネジメントすれば不要な入院を避けられる可能性のある状態)による入院と家庭医による継続性の関係

―文献名―
Isaac B, Adam S et al. Association between continuity of care in general practice and hospital admissions for ambulatory care sensitive conditions: cross sectional study of routinely collected, person level data. BMJ. 2016;356:j84.

―要約―
【目的】
 家庭医によるケアの継続性がambulatory care sensitive conditions(※1;プライマリ・ケアの現場で適切にマネジメントすれば不要な入院を避けられる可能性のある状態)による入院と関連があるかを評価するため。

【デザイン】
 横断研究

【セッティング】
 英国Clinical Practice Research Datalinkに参加し接続しているプライマリ・ケアまたはセカンダリ・ケアの200の家庭医療の医療機関。

【参加者】
 2011年4月から2013年3月までの間に少なくとも2回家庭医を受診した62歳から82歳の人230,472名。

【主要評価項目】
 2011年4月から2013年3月までの期間の患者1人あたりのambulatory care sensitive conditions(家庭医が外来でマネジメント可能であると考えられる)による入院数。

【結果】
 usual provider of care index(UPC; ※2)を用いてケアの継続性を評価した。
 平均のUPCは0.61。ケアの継続性の高さによる3グループに分けても年齢・性別・社会経済的状態に違いはなかったが、ケアの継続性の低いグループではより頻回に受診する傾向が見られた(Table1)。また、医師数の多い医療機関ほどUPCは低い傾向にあった(大きな医療機関で0.59,小さな医療機関で0.70)(Table2)。
 平均すると研究機関において患者1人あたり0.16回のambulatory care sensitive conditionsによる入院を経験していた(Table1)。
山田先生図①

山田先生図②

 高齢なほど、専門医への紹介が多いほど、慢性疾患が多いほど、家庭医への受診が頻回なほどambulatory care sensitive conditionsによる入院は多い傾向にあった(Table3)。
山田先生図③

 こういった共変量を調整すると、UPCが高い患者ほどambulatory care sensitive conditionsによる入院は減る傾向にあった(Table4)。
山田先生図④

 モデル化し人口統計的・患者の臨床状況を調整した場合。全ての患者のUPCが0.2上昇すると入院は6.22%減少する(95%CI 4.87%-7.55%,Table5)。
 サブグループ解析ではプライマリ・ケアの頻回利用患者においてその関連性はより強固に現れた。頻回利用者程ambulatory care sensitive conditionsによる入院が増える傾向にあり(家庭医を研究期間に18回以上受診した患者1人あたり0.36回の入院、2-4回の患者1人あたり0.04回の入院)、UPCが0.2上昇するとambulatory care sensitive conditionsによる入院が有意に減少することが示された(Table5)。
山田先生図⑤

【結論】
 家庭医療におけるケアの継続性(この文献ではUPC)を改善すると2次医療のコストを削減できる可能性がある。とくに医療を頻回に利用する患者においてはそうである。
 ケアの継続性を促進することによって患者や家庭医療の現場で働くものの経験も改善する可能性がある。

【What is already known on this topic】
 予期せぬ入院を減らすために多くのヘルスケアシステムはプライマリ・ケアへのアクセスの迅速さと平等性に焦点を当ててきた。英国においてケアの継続性は低下の傾向にあり、それはおそらくアクセスの改善・促進と継続性の間にトレードオフがあるためであろう。ケアの継続性は患者と医師の満足度に関連しているが、入院との関連は明らかにされていなかった。

【What this study adds】
 ケアの継続性はプライマリ・ケアでマネジメント可能なAmbulatory care-sensitive conditionsによる入院を低下させる。家庭医の頻繁な利用者においてはケアの継続性とAmbulatory care-sensitive conditionsによる入院の関連が最も強く認められた。ケアの継続性を改善させる戦略はケアの質とコストを同時に改善させる可能性があるが、その方法については評価が必要である。

※1 Ambulatory care-sensitive conditions (ACSCs)
 以下のリンクを参照して下さい.
 http://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2013/10/08/162442

※2 Usual provider of care index(UPC)
 UPC=numbers of visits with assigned provider/total visits
山田先生図⑥

【開催日】
2017年3月1日(水)