便秘 診断と治療の進歩

―文献名―
Arnold Wald, MD. Constipation Advances in Diagnosis and Treatment JAMA. 2016;315(2):185-191.

―要約―
Importance
 慢性特発性便秘(CIC)は米国で少なくとも年間800万人の受診があり、診断のための検査と下剤の処方、非処方下剤のために多額の支出が行われている。

Observations
 刺激性下剤と浸透圧下剤、新たな腸管分泌促進薬と末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(後者は、オピオイド誘発性便秘(OIC)と治療に大きな進歩あり)についての有効性について強力なエビデンスが確立された。
 適切に使用されれば、sennaやbisacodylのような刺激性下剤は、長期間使用しても安全で効果的である。
 安価な下剤と他のメカニズムで働く新たな下剤との比較研究は不十分であり、強く望まれている。

Conclusions and Relevance
 CICとOICの治療選択は、費用と有効性に基づいて行われるべきである。
 現在利用可能な下剤に反応しない便秘は、排便障害の検査が行える経験豊富な施設でさらに評価する必要がある。
 近年CICの診断には大きな進歩はなかったが、過去5年間でCICの治療には次のような大きな重要な進展があった。
  ①CICのための新たな確立された下剤、分泌促進薬の出現
  ②オピオイド誘発性便秘の治療に対する新たなアプローチ
  ③従来の下剤に反応しない排便協調障害の診断

Method
 MEDLINE、EMBASE、Cochrane Reviews、AGA、ACG(米国胃腸科学会)、GRADEで検索し、21のpeer-reviewed studiesと12のmeta-analysisのreviewsからまとめた。
 Pathophysiology 便秘の原因としてBoxのようなものがある。

Clinical Presentation and Assessment
 患者の多くは、便秘の症状として「排便回数の少なさ」だけでなく「排便困難」も訴える。
 CICではお腹の張りや腹部不快を訴えるが、排便で改善する。
 他方、IBSでの便秘はお腹の張りや腹部不快感はより強く、排便ではあまり改善されない。
 突然の便通変化、血便、予期せぬ体重減少、大腸癌の家族歴などの大腸癌を示唆する警告症状に注意が必要である。
 この場合、大腸内視鏡検査が必要であり、血液検査としてはTSH、Ca、血糖をみるが、消化器内科学会は鉄欠乏性貧血の発見によって更なる検査を促すためにスクリーニングとしてCBCを推奨している。

Pharmacologic Agents for Constipation
尾崎先生図①

 現在米国で利用できる下剤には上記の4種類がある。(Table 1)
多くの下剤(膨張性、刺激性、浸透圧下剤)は処方なしで手に入り比較的安価であるが、新たな分泌性下剤は処方が必要で比較的高価である。(Table 2)
 Intestinal Secretogogues (腸管分泌促進薬)
 Lubiprostone (アミティーザ)や linaclotide(リンゼス)がある。
 一般の便秘薬は便秘には有効だが腹痛には効かなかった。linaclotide(リンゼス)は腹痛にも有効である。
 LubiprostoneはPGEの誘導体で小腸のapical chloride-2channel に働く。
 無作為化二重盲検プラセボ対照研究では、Lubiproston(1日2回24μg)で治療された患者は、プラセボ投与群よりも自発的な排便が多く、患者評価が有意に高かった。また嘔気、頭痛、下痢などの副作用も少なかった。

Stimulant Laxatives
 SennaとBisacodylのような刺激性下剤は、処方箋がなく一時的な便秘や慢性便秘に長期間利用できる。
 刺激性下剤の効果は確定され、有害の根拠もない。
 Bisacodylは経口と座薬で使用できるが、内服は眠前が良く、坐薬は朝食後に入れて胃腸反射に合わせると良い。

Which Laxatives Are Best for Constipation?           
 従来の下剤(Magnesium saltsとSenna)と新しい下剤との比較試験はなく、利用可能な下剤の間にかなりの価格差がある。
(日本 テレミンソフト:20円/個、アミティーザ:160円/C)             
 CICを治療するための推奨アルゴリズムがFigureに示されている。   
  ①食物繊維(野菜摂取)を増やすか、膨張性下剤(bulk agents)、例えばサイリウム(オオバコの種子の皮から精製した食物繊維)の内服  
  ②非吸収物質(PEG3350、Lactulose、マグネシウム)か刺激性下剤(Bisacodyl、Senna)で治療。一つの刺激性下剤で失敗したら、別の刺激性下剤で            
  ③腸管分泌促進薬のlinaclotideかlubiprostone。一方で失敗したら他方で治療。
  ④精査

Opioid-Induced Constipation
 オピオイド使用患者の40%から90%が便秘をする。オピオイドによる腸管運動抑制、腸管分節化 (segmentation)、通過時間が遷延することで水分吸収が増える、腸管への水分・ 電解質分泌抑制などが原因で便秘が起こる。
 オピオイドは、μ、κ、δの3つのオピオイド受容体に作用するが腸管では特にμ受容体に作用する。
 OIC治療に3つのμオピオイド受容体拮抗薬が有効である。
  ①メチルナルトレキソン (6試験、1610人):皮下注のみ。
  ②ナロキソン(4試験、798人):オピオイドによる便秘に有効。長期使用は許可されていない。
  ③アルビモパン (4試験、1693 人):術後イレウスに短期使用。
 麻薬による酷い便秘はオピオイド受容体拮抗薬であるナロキソンを使用することで、鎮痛作用を減ずることなく便秘だけを抑えることが出来る。日本国内ではナロキソンは注射薬しかない。
 oxycodone/naloxone を、最初10mg/5mgを2回/日か、20mg/10mgを2回/日で開始し最大40mg/20mgまで増量する。Lubiprostoneが非癌患者の麻薬による便秘にプラセボより有効であった。
尾崎先生図②

Discussion
 従来の下剤(Magnesium saltsとSenna)と新しい下剤との比較試験がなく、Magnesium saltsとSennaのRCTがないため、両者とも推奨度がNAであり追加の試験が望まれる。

【開催日】
 2017年5月24日(水)

終末期緩和ケア患者の感染症に対する抗菌薬の使用について

―文献名―
Joseph H. Rosenberg, Jennifer S. Albrecht, Erik K. Fromme, et al. Antimicrobial Use for Symptom Management in Patients Receiving Hospice and Palliative Care: A Systematic Review
J Palliat Med. 2013 Dec 1; 16(12): 1568–1574

―要約―
Introduction
 米国でも高齢化により緩和ケアの必要性が高まっている。終末期患者は高い感染のリスクがあり、約27%の患者が死亡する週に抗菌薬が投与されている。この状況にも関わらず終末期患者における抗菌薬の投与が、予後の延長と症状緩和に寄与するかについては明らかではない。2002年に終末期患者に対する感染のSystematic Reviewがあったが、その中では症状の改善に関する論文は1つだけであった。この10年で終末期患者における抗菌薬の使用を検討するいくつかの論文が発表されている。今回はそれらの文献を体系的にレビューし、症状の改善に対する既存のデータを要約した。これにより今後の終末期患者の抗菌投与の有無の判断について役立てることが目的である。

Method
 PubMedで2001年1月1日~2011年6月30日までの間に発表された終末期患者の抗菌薬使用についての文献のSystematic Reviewであり、palliative care、infection 、antibiotic等の文字で検索した。癌を含む終末期患者における、抗菌薬使用率と使用後の症状の改善を測定した文献に限定して分析した。創傷、口腔ケア、衛生環境、薬物動態に焦点を当てたものは除外としている。対象としている論文は記述研究である。データベース以外の検索はしておらず、funnel plotなし。文献の評価については、1人目の著者は文献が基準を満たしているのかを評価し、2人目、3人目の著者が選ばれた文献をレビューし、4人目の著者が評価者の内容に偏りがないかチェックしている。

Results
 PubMedで984の文献を検索し、基準を満たす文献は11個であった。table1は患者数、主病名、療養環境、国、研究方法、反応性、抗菌薬使用率について記載している。table2は抗菌薬に対する症状の改善について記載されており8個の文献が当てはまっている。全体での抗菌薬による治療の効果については、21.4%(95%CI:13.2%-31.7%)~56.7%(95%CI:52.7%-60.6%)と様々であった。点滴投与のみの研究は2つあり、効果はそれぞれ52.9%(95%Cl27.8~77.0%)、75.9%(95%Cl:52.7~60.6%)であった。また臓器別の抗菌薬の効果について記載された論文が3つあり、その中の2つの文献によると尿路感染症では60~92%、呼吸器感染症では0~53%、菌血症では0%の効果であった。

Discussion
 今回の研究の課題としては、抗菌薬使用群と非使用群との比較対照した研究ではない。抗菌薬の使用状況と症状の改善を同時に測定している事に異質性がある。現時点ではランダム化比較試験の研究はない。症状の改善という点でも有効な症状測定ツールを使用しておらず、主観的な評価を用いている(ただ、症状の評価自体が主観的であり測定が難しい)。解熱剤等の抗菌薬以外の治療の効果が除外されていないので、抗菌薬の独立した効果かは不明。抗菌薬の副作用についても考慮していない。
ホスピスでは感染症の診断自体があいまいな場合が多い。今回の研究では数が限られているため
ファネルプロットを用いた出版バイアスの評価も行わなかった。
今回の研究結果はこの分野における質の高い研究の必要性を再確認するものであった。
今後研究を行う際は、有効な症状測定ツールを活用する。抗菌薬治療群と非治療群とを分けて評価する。感染症を定義付ける。副作用も調査する。他の薬剤使用等の症状管理状況の交絡因子をきちんと除いたプロスペクティブな研究が必要である。

【開催日】
 2017年5月24日(水)

感染を伴った小児湿疹に対する経口および外用抗生剤治療の是非

―文献名―
Francis NA, Ridd MJ, Thomas-Jones E, et al. Oral and Topical Antibiotics for Clinically Infected Eczema in Children: A Pragmatic Randomized Controlled Trial in Ambulatory Care. Ann Fam Med. 2017;15(2):124-130.

―要約―
Introduction
 湿疹のある患者では皮膚から70%に黄色ブドウ球菌が検出され、悪化の際は広く外用抗生剤が処方されている。しかし2010年の湿疹への抗生剤加療についてCochrane reviewでの最新情報では、関連研究の多くは規模が小さく、質に欠けていることが示され、著者は湿疹の悪化へ抗生剤が使用されることに疑問を抱いた。
 そのため臨床的に湿疹に感染を伴ったと判断される小児に対して、標準治療であるステロイド外用に追加して経口や外用抗生剤を投与することが湿疹の主観的な重症度を軽減するうえでより効果的かどうかを判断するため本研究を実施した。

Method
 英国の外来診療のセッティングで3群間の盲検化ランダム化比較試験を行った。感染徴候を伴う湿疹のある3か月から8歳の小児患者に対し、経口と外用の偽薬(対照群)、外用の偽薬と経口抗生剤、外用抗生剤と経口の偽薬のいずれかをそれぞれ無作為に1週間処方を受けた。ただしpotentもしくはvery potent外用ステロイドや抗生剤の最近の服用歴、重症感染の徴候を認める、また重篤な併存疾患をもつ事例は除外された。1次アウトカムを湿疹の主観的重症度尺度であるPatient Oriented Eczema Measure(以下、POEM)とし、2週間後のPOEMスコアを共分散分析を用い比較した。
 サンプルサイズはα=0.025、90%の検出力としたとき、20%が追跡からもれることを想定し517人と設計した。2014年4月時点での解析結果からは225人が必要とされた。

Result
 2013年7月から2014年12月まで94の医療機関が参加し、33か所で1名以上の参加者が得られた。目標のサンプルサイズに満たなかったものの113名の参加者が無作為割り付けされた。3群間で患者背景に有意な違いはなかった(Table1)。研究開始時の平均POEMスコアは対照群で13.4(標準偏差5.1)、経口抗生剤群で14.6(5.3)、外用抗生剤群で16.9(5.5)であり、2週後はそれぞれ6.2(6.0)、8.3(7.3)、9.3(6.2)であり、抗生剤の効果は経口剤で1.5(95%信頼区間:-1.4-4..4)、外用剤で1.5(-1.6-4.5)と有意差を認めなかった(Table2)。
上野先生図1

Discussion
 本研究ではプライマリケアで小児の感染を伴った湿疹はmildからmoderateのステロイド外用で速やかに改善し、経口や外用抗生剤の追加は無益であることがわかった。当初設定したサンプルサイズには満たなかったものの、抗生剤使用の介入効果の信頼区間下限(-1.4と-1.6)でも臨床上重要な最小のPOEMの差に満たず、これらの結果は偶然によるものではないと考える。また2次分析でも一貫して同様の傾向がみられた。
 本研究は感染を伴った湿疹に対して経口および外用抗生剤の効果を評価した最大の研究である。感染を伴った湿疹は明確な定義は存在しないため、実際的な適格基準を設けた。黄色ブドウ球菌は開始時で70%にしか認めなかったが、すべての患者で医師は感染を起こしていると考えており、現在の診療に直接反映される結果ではないだろうか。
上野先生図2

【開催日】
 2017年5月17日(水)

高齢者の潜在性甲状腺機能低下症

―文献名―
D. J. Stott, et al. Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism. NEJM. April 3, 2017

―要約―
Introduction
 65歳以上の成人の8~18%は潜在性甲状腺機能低下症の状態にあり、男性よりも女性に多い傾向にある。高齢者における潜在性甲状腺機能低下症は、多くの問題にかかわっている可能性があり、甲状腺ホルモンは、心血管系、認知機能を含む脳神経系、骨や筋骨格系など多彩な影響を及ぼす。疲労感は、甲状腺機能低下症の重要な症状の一つであるが、甲状腺機能低下症の患者は、無症状、または非特異的な症状を呈する。
潜在性甲状腺機能低下症のレボチロキシン投与によるランダム化比較試験は、過去に行われているが、規模が小さく限られたエビデンスしか示されておらず、その効果やリスクには議論の余地がある。そこで、潜在性甲状腺機能低下症の高齢者に対するレボチロキシン投与の臨床的な意義を明らかにするために研究を行った。

Methods
 研究デザインは、レボチロキシン投与群とプラセボ群による二重盲検化ランダム比較試験で、少なくとも65歳以上で、潜在性甲状腺機能低下症(TSH値 4.60~19.99mIU/L、遊離チロキシンは基準値範囲内のもの)の状態にある737人の成人を対象に行った。368人がレボチロキシン投与(開始用量50μg/day、体重50kg未満の場合は25μg/day)を受け、TSH値に応じて調整された。369人は、プラセボ群に割り当てられて疑似的な用量の投与を受けた。2つの主要アウトカムは、1年間における甲状腺機能低下症スコアと、甲状腺関連QOL質問紙による疲労スコア(いずれも0~100点で、点数が高いほど症状や疲労が強いことを示し、臨床的に重要な最小の差は9点とされる)とした。

Results
 患者年齢の平均値は、74.4歳で、396人(53.7%)は女性だった。TSH値の平均値(±SD)は、6.40±2.01mIU/Lだった。1年間で、レボチロキシン投与群は、レボチロキシンの中央値50μgの投与において、3.63mIU/Lに低下したのに対し、プラセボ群では、1年間で5.48mIU/Lへと低下(P<0.001)した。
1年間の変化として、甲状腺機能低下症スコアの有意な変化は認めなかった。(プラセボ群0.2±15.3、レボチロキシン投与群0.2±14.4)レボチロキシン投与による副次的なアウトカム(QOLスコア、握力、血圧、BMI、腹囲)についても有益な差はみられなかった。また、事前に想定された重大な有害事象についても認められなかった。

Discussion
 今回の試験は、統計的に主要アウトカムを評価するには十分な症例数だったと考えられる。小さな規模の観察研究などでは、甲状腺機能低下症スコアや疲労スコアの変化を示していたが、いずれも短い観察期間におけるレボチロキシン投与による治療効果の比較だった。過去には、高齢者を対象とした質の高いランダム化比較試験は行われていたが、症例数が120人以下で、十分な規模とは言えなかった。潜在性甲状腺機能低下症では、情報処理能力が低下すると示唆されているが、今回の試験で行った文字コードテストの結果からは、明らかな差は示されなかった。同様に血圧、体重、腹囲、BMI、ADL(Barthel Index)、IADLでも治療効果の差は認めなかった。また、レボチロキシン投与群における有害な甲状腺機能亢進症の発現は認めず、プラセボ群においても、心房細動、心不全、骨折、骨粗鬆症など想定されていた有害事象については認めなかった。過去の観察研究においても、治療による有害事象のリスク上昇は示されていない。
今回の研究の限界としては、治療目標を一部の権威者が示しているTSH値(0.40~2.50mIU/L)ではなく、最近の高齢者に対するレボチロキシン治療のガイドラインに示されているTSH値(0.40~4.60mIU/L)を採用していることが挙げられる。限界の2つ目としては、TSH値が10mIU/Lを超えていた少数の対象者については、サブグループ解析が十分にできておらず、治療効果のメリットについては明らかにできなかった。限界の3つ目としては、対象者の症状の程度が軽く、より症状の強い場合の可能性については除外できていない。4つ目としては、甲状腺の抗体値を測定していないため、抗体の有無による差と、抗体を有している場合に長期間の治療で差が生じた可能性は評価できていない。最後に心血管イベントや死亡率に及ぼす効果を評価するには至っておらず、治療による心血管系への保護作用や有害性の可能性は、除外できていない。

【開催日】
 2017年5月17日(水)












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