マルチモビディティ診療モデルの試作「アリアドネ プリンシパル」

-文献名-
Christiane Muth. The Ariadne principles: how to handle multimorbidity in primary care consultations.
BMC Medicine 2014, 12:223

マルチモビディティは主にプライマリケア診療で扱う健康問題である。包括性、患者中心のアプローチ、患者との長期的な関係性、そしてケアの継続性と協調性に対する責任の結果として家庭医はマルチモビディティの患者を特に上手く管理出来る。しかし疾患志向のガイドラインは複数疾患の相互作用を捉えていないため、ガイドラインを遵守しその治療の負担から生じる衝突はしばしば物議をかもす。マルチモビティティにおける意思決定の道標を提供する為に、指針原則を作成しギリシャ神話の登場人物アリアドネ(迷宮から脱出する道標を担った王女)を引用しアリアドネ プリンシパルと名付けた。この目的のために、2012年10月にドイツ・フランクフルトで国際シンポジウムを2日間にわたって開催した。発表され、議論されている現状の知識背景に照らして、北米、ヨーロッパ、オーストラリアの19人の専門家がパネルディスカッションや小グループ会議でプライマリケアのマルチモビディティ管理における懸案事項を確認し、公式および非公式のコンセンサス方法で合意した。プリンシパルは、多段階フィードバックプロセスが用いられ、事例を用いて議論された。

医師と患者による現実的な治療目標の共有は、アリアドネの原則の中核であり、以下の3つから成り立つ。(図1参考)
(1) 患者の状態、治療、性格、背景の相互作用評価:
• すべての現在の状態のプロブレムリストを保持し、その重症度と影響を評価し、投薬を見直す。
• 依存や睡眠障害、食欲不振、脱水などの非特異的な兆候や症状を含む認知機能の問題、不安、苦痛および抑うつの徴候を積極的にモニタリングする。
• 社会的状況、経済的制約、生活環境および社会的支援、健康リテラシー、機能自律性、対処方法を引き出し、考慮する。
• 患者のケアに関わる他の医師やセラピストをリスト化し、全体の治療負担を評価する。

(2)患者の嗜好を考慮に入れた健康問題の優先順位付け
• 生存、自立、痛み、緩和ケアの必要性を含む症状緩和などのgeneric health outcomeに対する嗜好を引き出し、患者の嗜好と同じでない可能性があるため、自身の(暗黙の)嗜好を自覚する。
• 該当する場合は、非公式の介護者や家族の好みを考慮する。
• 患者(および必要に応じて患者の介護者)との現実的な治療目標に同意する。

(3)診断、治療、予防におけるケアの最善の選択肢を実現するための個別化されたマネジメント
介入(診断、治療、予防)よって期待される利益が患者個別の不利益や害を上回るかどうかが重要である
• 個々の患者のリスクレベルと好みを考慮して、治療(および予防)の期待される利益が起こりうる不利益や有害性を上回るかどうかを吟味する。
• 患者(および必要に応じて介護者)の漸増および複合治療の負担を評価する。
• 患者のニーズと能力に応じて自己管理を検討する。
• 副作用の徴候や適切な管理に関する推奨などのセーフティネットの指示を提供する。
• 目標到達度を評価し、相互作用を再評価するためにフォローアップ受診のスケジュールを患者と同意する。
• 患者に関わる他の医療従事者や非公式介護者に相談する。 理想的には、関係するすべてのヘルスケア提供者は治療決定についての情報を受けたり、情報にアクセスすることができる。

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【開催日】2018年5月23日(水)

病院における終末期患者の治療目標に対する意志決定の障壁因子について

-文献名-
Barriers to Goals of Care Discussions With Seriously ill Hospitalized Patients and Their Families A Multicenter Survey of Clinicians
ohn J. You, MD, MSc1,2; James Downar, MDCM, MHSc3,4; Robert A. Fowler, MDCM, Epi5,6; et al
JAMA Intern Med. 2015;175(4):549-556. doi:10.1001/jamainternmed.2014.7732

-Introduction-
終末期の入院患者に対して、ケアの目標に対するコミュニケーションと意志決定がEOL(end of life)のケアの質を向上させる優先事項である。EOLのケアの質を改善するためには既存の障壁を取り除く必要がある。ただ、今までこれらに対する病棟の臨床家の見解を明らかにした論文はなかった。目的としては病院臨床家の観点から1終末期患者とその家族とのケアの目標を阻害する因子について、2臨床家がこのプロセスに従事する意欲と受け入れについて調査することである。

-Method-
カナダの5つの州の教育施設である13の病院で勤務している内科スタッフ、内科レジデント、看護師を対象とし、医師、看護師で個別性を持つアンケートを3段階で作成した。アンケートの内容に関しては、最初のセクションは臨床問題(Box)を読んでもらい、その中で患者と意志決定を議論する上での21の障壁(家族、患者因子に関わるものが10個、臨床医の要因が4つ、システムに関する要因が7つ)の重要性について、主要アウトカムとして7点スケール(1重要でない7非常に重要)で評価するように回答。
次のセクションではケアの目標に対する様々な側面について調査しています。ディスカッションの会誌、情報交換、コーチング(価値の明確化、治療のオプションなど)、延命を希望するかしないかについての最終的な意志決定についてです。それぞれ参加者はどの程度意欲的に取り組んでいるのか、看護師は職場環境でどのくらいこれらに関わっているのか尋ねられた。これも7点スケール(1意欲がない、7きわめて意欲的である)で評価。紙ベースとWebベースの両方で出来るよう対応。結果は研究調整センターで分析された。
解答に関してはスタッフ医師、レジデント、看護師に分けて記載。カテゴリ変数はカウントとパーセンテージ、連続変数は平均と標準偏差で記載。平均と障壁における95%信頼区間が全試験サンプルで報告。専門科での各障壁に対する重要度の違いも評価した。

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-Results-
2012年9月から2013年3月の期間で、1617人の対象者のうち1256人がアンケート調査を受け解答した。全体の回答率は77.7%(646人の看護師のうち512人[79.3%]、634人のうち484人[76.3%]、337人のスタッフ医師[ 77.2%])。
Figure1はすべての参加者によるケアの目標を決める際の障壁と感じるものの重要性です。
障壁の重要性の順位付けは3グループともに同様であり、家族、患者に関連した因子が最大の障壁となっているとの答えであった。
(家族、患者が短い予後を受け入れられない、治療の限界や合併症の理解が難しい、家族間の合意の欠如、本人の意志決定能力
の欠如)。臨床家は自分達のスキル不足、要因はあまり重要ではないと考えていた。また、障壁の順位は類似していたが各重要度は看護師が最も高かった。
Figure2は意志決定の目標を達成する意欲と支持について記載されている。スタッフ医師が最も意欲的であり、次はレジデントであった。
看護師は目標達成の意欲、職場環境のサポートともに高くはなかった。
Figure3はコミュニケーションと意志決定における様々な専門職との関わりの重要性について記載されている。
スタッフ医師とレジデントは意志決定に非常に重要であると評価された、一方でスタッフ医師、レジデントは看護師と比較して、看護師、SW、他の医療スタッフが意志決定に関わることはあまり重要ではないと評価していた。

【開催日】2018年5月23日(水)

急性心筋梗塞が疑われる患者に対する酸素療法

-文献名-
Robin Hofmann, et al. Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction.

-背景-
従来は急性心筋梗塞が疑われると虚血部位への酸素供給を増やす目的でルーチンの酸素投与を行っていたが、過剰な酸素は冠攣縮や活性酸素産生により再灌流障害をきたしうる.AVOID trialでは,STEMI患者において酸素投与群で非投与群と比較しより大きな梗塞巣が確認された.一方で,ベースラインで低酸素血症を認めない急性心筋梗塞が疑われる患者にルーチンに行う酸素療法の臨床効果は不明である.

-方法-
スウェーデンの全国的データベースを用いた患者登録とデータ収集によりRCTを実施した.急性心筋梗塞が疑われ,SpO2 90%以上である患者を,酸素投与群(マスク6 L/分を6-12 時間投与)と,室内気吸入群に無作為に割り付けた.(Figure.1)
【結果】 6,629例が登録された.(Table.1)酸素療法の施行時間の中央値は11.6 時間であり,治療終了時のSpO2の中央値は,酸素群で99%,室内気群で97%であった.低酸素血症は,酸素群では62 例(1.9%)が発症したのに対し,室内気群では254 例(7.7%)が発症した.入院中のトロポニン最高値の中央値は,酸素群で946.5 ng/L,室内気群で983.0 ng/L であった.(Table.2)主要エンドポイントとした無作為化後1年以内の全死因死亡は,酸素群では5.0%(3,311例中166 例),室内気群では5.1%(3,318例中168 例)で発生した(ハザード比0.97,95%信頼区間 [CI] 0.79-1.21,P=0.80).1年以内の心筋梗塞による再入院は,酸素群では126 例(3.8%),室内気群では111例(3.3%)で発生した(ハザード比1.13,95% CI 0.88-1.46,P=0.33).(Figure.2,Table.3)事前に定義したサブグループのすべてで結果は一貫していた.

-結論-
低酸素血症を認めない,急性心筋梗塞が疑われる患者に酸素投与をルーチンに行っても,1 年全死因死亡率の低下はみられなかった.

 

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【開催日】2018年5月23日(水)