高齢女性における歩数および歩行強度と全死因死亡率との関係

-文献名-
I-Min Lee,MBBS,ScD,Eric J. Shiroma,ScD, Masamitsu Kamada,PhD,et al. Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in older Women. JAMA Intern Med.Published online. May 29,2019.

-要約-
Importance:
1日1万歩を目標に歩くことは健康のために必要だと一般に信じられているが、この歩数は科学的な根拠が限られている。さらに、1日あたりの歩行数にかかわらず、歩行強度がより強い方が健康ベネフィットがあるのかどうかも不明である。
Objective:
1日あたりの歩数および歩行強度と全死因死亡率との関係を研究すること
Design, Setting, and Participants:
この前向きコホート研究には、2011年から2015年までの間で7日間、覚醒時間中に加速度計を装着することに同意したWomen’s Health Studyからの18,289人の米国人女性が参加した。17,708人のがデバイスを装着して返却し、17,466のデバイスからデータが正常にダウンロードされた。このうち、1日10時間以上、4日間以上装着した16,741人のデータが解析に供され、2018年から2019年に解析が行なわれた。
Exposures:
1日当たりの歩数といくつかの歩行強度の尺度(1分間ケイデンスピーク、30分ケイデンスピーク、5分間ケイデンス最大、意図的に歩行した40歩/分以上での歩行時時間)
Main Outcome and Measures:全死因死亡率
Results:
・選択基準を満たした16,474人の女性の平均年齢(SD)は72.0歳(5.7)だった。
・平均歩数は5,499歩/日で、時間割合は0歩/分が51.4%、1-39歩/分が45.5%、40歩/分以上(意図的な歩行)が3.1% だった。
・平均4.3年の追跡期間中に、504人が死亡した。
・各四分位における1日あたり歩数の中央値は、2,718 、4,363、5,905、8,442であった。
・交絡因子を調整後、各四分位の全死因死亡率に関連したハザード比(HR)はそれぞれ、1.00(基準)、0.59(95%CI:0.47-0.75)、0.54(95%CI:0.41-0.72)、0.42(95%CI:0.30-0.60)だった(p<0.01)。
・スプライン解析では、約7500歩/日までは1日当たり平均歩数が増えるにつれてHRが減少したが、それ以上では平坦になった。
・歩行強度については、強度が強いほど死亡率が有意に低かったが、1日あたり歩数を調整後は全ての関連が弱められ、ほとんどが有意ではなくなった。
Limitation
この結果が、より活動的でない集団やもっと活動的な集団にも当てはまるかは明らかでない。

 

【開催日】2019年6月12日(水)

軽度高血圧を有する、心血管リスクの低い患者に対する降圧薬投与の功罪

-文献名-
James P. Sheppard et al. Benefits and Harms of Antihypertensive Treatment in Low-Risk Patients With Mild Hypertension: JAMA Internal medicine. 2018; 178(12): 1626-1634.
-要約-
◎背景
心血管リスクを低い、軽度の高血圧患者の薬物療法を支持するエビデンスには決定的なものが存在しない。以前の論文は有効性を保証するに至っておらず、ガイドラインでも矛盾が指摘されていた。

◎目的
心血管リスクの低い、軽度の高血圧患者における降圧治療が、死亡や心血管疾患のリスクを下げるかを確認すること。

◎研究デザイン
後ろ向きコホート研究。1998年1月から2015年9月までの間に、未治療の軽度の高血圧(未治療下で140-159/90-99mmHg)を有する18歳から74歳までの患者が対象。既に心血管リスクを有しているものは除外し、途中で関心outcomeを発症したものは除外した。
※ 心血管リスクとは、心血管イベントの既往、左室肥大、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、若年での冠動脈疾患の家族歴、である。
Primary Outcomeは全死亡率、Secondary Outcomeは①心血管イベントによる入院もしくは死亡、②癌による死亡(Negative control)、③有害事象(低血圧、失神、徐脈、電解質異常、転倒、急性腎障害)である。

◎結果
▼ 19143人の治療群と未治療群に分け、追跡期間中央値は5.8年であった。降圧治療と死亡率の間に有意な証拠は診られなかった(HR=0.88~1.17)。心血管疾患との関連性にも有意差なし(HR=0.95~1.25)。
一方で、治療群では、低血圧(HR=1.30-2.20)、失神(HR=1.10-1.50)、電解質異常(HR=1.12-2.65)、急性腎障害(HR=1.00-1.88)のリスクと関連性を有した。
▼ 治療群における年齢、血圧、降圧薬の種類と、死亡率もしくは心血管イベントの発生率には有意差なし。

◎考察
▼ 過去、これらのoutcomeについて、(降圧による)有意な差を見いだせなかったとする研究や、ハイリスク群での研究はあったが、それに答える研究となっている。
▼ 新しいACC/AHAガイドラインにおける、低リスク群の軽症高血圧に対して降圧を促すことで、心血管イベントを減少させうるとするサジェストに異議を唱える結果となった。
▼ また、降圧薬の長期投与が各種の有害事象と関連していることにも言及できた。
▼ 一部有害事象は、電子媒体の不充分な記載によるところもありそうで、例えば入院まで至らなかったり主治医に報告がなされなかったりした転倒のイベントは拾えていない。
▼ 医療機関に報告がなされないようなイベントは患者個人が重要だと認識していなかったり、secondary outcomeは診断バイアスがかかっている可能性もある(治療中の患者は有害事象をより報告しやすくなるなど)。
▼ 残余交絡(residual confounders)に伴い、治療群をよりリスクの高い群とみなした可能性は否定できない
▼ propensity scoreを使用したマッチングを行っており、risk factorの記録の際にバイアスが生じている可能性もある
▼ サブグループ解析において、女性における心血管イベントの発生や、ACEi投与と心血管イベントの発生との間に関連性があるかもしれないと示されているが、重要な交互作用が考慮されていない点には注意が必要。
▼ 追跡期間の中央値が5.8年であり、より長く観察を続けた際に、薬剤投与を続けることの利点が示される可能性はある。

◎結論
測定が不可能な交絡による影響がある可能性を考える必要はあるものの、心血管リスクの低い、軽度の高血圧症の患者における治療を支持する結果は得られず、有害事象のリスクが増加しているという結果を得た。心血管リスクの高い患者で施行された試験の結果を、リスクの低い患者に一般化するガイドラインに従う場合、医師は注意すべきであることを示唆している。

(図1) 患者の特性について
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(表2) 結果
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(図1) 各群、イベントごとの発生割合
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(図2) 有害事象の発生割合
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(図3) サブ解析における治療の有効性の評価
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【開催日】2019年6月12日(水)

片頭痛もちの女性の脳卒中と低容量ピルの関係

-文献名-
Huma. U. Sheikh. Risk of Stroke Associated With Use of Estrogen Containing Contraceptives in Women With Migraine: A Systematic Review. Headache. 2018 Jan; 58(1): 5-21.
-要約-
Introduction:著者たちがなぜこの研究を行ったのか、これまでに分かっていること、分かっていないことなど前提となった事柄を記載する。
片頭痛は、妊娠可能な年齢の女性が罹患するcommon diseaseの一つである。片頭痛は脳卒中を含む様々な血管疾患のリスク因子と言われており、特に前兆を伴う片頭痛でリスクが高い。先行研究ではエストロゲン含有の経口避妊薬と脳卒中には関連があると報告されているが、経口避妊薬は改良を重ね、エストロゲン含有量もどんどん減ってきている。エストロゲン含有量の少ない現在処方されている経口避妊薬と、脳卒中発生リスクの間には関連があるのだろうか?(→経口避妊薬一覧へ)

Method:どのような方法を用いたのか、特殊な方法であれば適宜解説を入れる。
システマティックレビュー
PubMed、Cochrane Library、およびEMBASEを2016年1月まで検索し、18歳以上の女性を対象とした英語のRCTもしくは観察研究を収集した。介入は経口避妊薬の内服(エストロゲン単剤もしくはエストロゲン・プロゲステロンの合剤)を、アウトカムは虚血性・出血性脳卒中とした。
研究の質はGRADEとNewcastle Ottawaスケールで評価した。

Results:表やグラフがあれば適宜紹介する。
 7本の症例対照研究にて片頭痛を有する女性で経口避妊薬を内服した人うち、虚血性脳卒中を起こした人のORは2.08-16.0と報告されたが、いずれも小規模で信頼区間が広い。
 片頭痛を有する女性における経口避妊薬のエストロゲン含有量と脳卒中リスクについての研究報告はない。(エストロゲン含有量の記載はあるが、関係性は評価されていない)片頭痛と関連なくエストロゲン含有量と脳卒中の関連については、グループ間比較(エストロゲン含有量50μg、30-40、20)において虚血性脳卒中のリスクに容量依存的な変化があると結論づけた研究もあった。
 その他の危険因子として、片頭痛と喫煙と低用量経口避妊薬の組み合わせが相乗効果的に脳卒中リスクを上昇させることがわかった。OR34.4(CI 3.27-361)
前兆の有無での比較については、1884例を集めた研究があり、前兆を伴うものでOR6.1(CI3.1-12.1)、伴わないものでOR1.7(1.09-2.88)という結果であった。

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
ほとんどの研究において、片頭痛の診断基準が曖昧であること、前兆のあるなしで層別化していないこと、経口避妊薬の種類やエストロゲン含有量の記載がない(カットオフを50μg以下と記載しているものは多いが、現在処方されている低用量経口避妊薬は30-40μgがほとんど、10-20μgというものもあり、現状にはあまり即していない結果であった)ことがlimitationとしてあげられた。
結論としては、低用量経口避妊薬と脳卒中リスクについては質の高い研究に乏しいことがわかった。前兆のある片頭痛もちの女性の経口避妊薬内服と脳卒中リスクは関連がありそうだが、低用量経口避妊薬でのさらなる研究が必要。喫煙との併用はリスクが倍増するので注意。少なくとも50μg以上の高容量のエストロゲン製剤とは関連がありそうなので、より少ない含有量の経口避妊薬の使用が妥当だろう・・・。

【開催日】2019年6月5日(水)

日本人糖尿病患者に対する食事療法のエビデンス

-文献名-
Yamada S, Kabeya Y, Noto H. Dietary Approaches for Japanese Patients with Diabetes: A Systematic Review. Nutrients 2018; 10(8): 1080.
-要約-
【背景】
食事療法は糖尿病のマネジメントにおいて重要である。米国糖尿病学会(ADA)では地中海食、dietary approaches to stop hypertension(DASH)、ベジタリアン食、糖質制限食などいくつかの食事療法を推奨している一方で、日本糖尿病学会(JDS)では1965年以来、エネルギー制限食のみを推奨している。JDSガイドラインの食事に関する勧告は86の研究に基づいて報告されているが、そのうち83は日本人の2型糖尿病患者を対象にした研究ではなく、残りの3つもエネルギー制限食の有効性を示した研究ではない。
【目的】
日本人糖尿病患者の管理に対するエネルギー制限食(および炭水化物制限食)の影響を解明する。
【方法】
MEDLINE、EMBASE、JAMASのデータベースから検索
除外基準:(1)外国人データ、(2)非糖尿病患者データ、(3)他の食事療法アプローチ、(4)未発表データ(科学会議でのみ発表された要約を含む)、(5)症例シリーズや症例報告など、評価には不適切な研究
Funnel Plotなし(定量的データ分析は実施していない)
Mindsの勧告に従ってバイアスを評価
Yamada S、Kabeya Yのふたりで評価(意見の相違は議論およびNoto Hへの相談で解決)
【結果】
エネルギー制限食の評価:2つのRCTをレビュー(いずれも糖質制限群V.S.エネルギー制限群、nはそれぞれ24、66)
・エネルギー制限群は糖質制限群より6か月後のHbA1c改善において劣っていた。
・片方のRCTではエネルギー制限群の方が糖質制限群よりもエネルギー摂取量が高く、エネルギー制限の正味の影響は評価不能
糖質制限食の評価:3つのRCTをレビュー(上記2つに加えて、糖質制限群V.S.糖質非制限群、n=15)
・糖質制限群は糖質非制限群に比べて持続血糖モニタリング(CGM)における食後血糖の改善に優れていた。
・糖質制限食は、日本人の2型糖尿病患者における限られたエビデンスによって支持される。
【結語】
①日本人糖尿病患者に対する食事療法のエビデンスはほとんどない
②JDSが推奨するエネルギー制限食は科学的根拠に裏付けられていない → より大規模な試験が必要
③短期間のアプローチでは、糖質制限食はエネルギー制限食より効果的 → より洗練された設計の試験が必要

JC2019後藤

【開催日】2019年6月5日(水)