健康な生活習慣へのアプローチ

-文献名-
Robert L, Sandra K, Raymond F, et al. Practical opportunities for healthy diet and physical activity: relationship to intentions, behaviors, and body mass index. Annals of Family medicine. 2016; Vol14:109-124

-この文献を選んだ背景-
 生活習慣病管理を行う際、ルーチン的に食事・運動について聴取していたが、もともと行動変容に関心のない人に対して食事・運動について聞くこと自体が非難するような印象を与え、お互いバツの悪い思いを経験することが多く違和感を抱いていた。そこで文献にあたるなかでAnnals of Family medicineのOriginal researchで取り上げられたこの文献にいきついた。

-要約-
Introduction:
 生活習慣様式の変化によりこの30年で飛躍的に肥満の有病率は増えており、臨床的な介入は避けられる病気や死を減らす大きな可能性をもっている。食事・運動様式の改善のための戦略は、患者によりよい選択ができるよう勇気づけていくことに焦点をあてているが、控えめな成功しか得られていない。
以前の文献で、私たちは「潜在能力アプローチ」※を用いた健康行動を調べた質的、また実証研究を行ってきた。潜在能力アプローチは個人と社会の幸福の指標として実践的な機会を評価する枠組みとなり、実践的な機会の測定には収入や利用可能なサービスに代表される「資源」と、資源を活用するために影響する健康リテラシーや自律性といった「変換因子」があることがわかった。この文献ではその実践的な機会のモデルの検証を行い、行動変容の企図や食事、運動、BMIとの関連を調べることで、この新しいツールによって有用性を評価することを目的とした。
※潜在能力アプローチは厚生経済学の領域において、Sen Aの提唱した人間の幸福についてのアプローチ。能力を評価するうえで以下の5つを提唱し、選択の自由と個人の異質性がいかに重要かを述べた。
  1.人の長所を評価する際での、真の自由の重要性(The importance of real freedoms in the assessment of a person’s advantage)
  2.資源を価値ある活動に変換する能力が、個人によって違うこと(Individual differences in the ability to transform resources into valuable
   activities)
  3.幸せを感じる活動は、多変量な性質をもつこと(The multi-variate nature of activities giving rise to happiness)
  4.人の厚生を評価する上での、物質的なものと非物質的なもののバランス(A balance of materialistic and nonmaterialistic factors in evaluating
   human welfare)
  5.社会における機会分布の考慮(Concern for the distribution of opportunities within society)

Method:
 2012年にTexasにある8つのプライマリケア診療所で英語かスペイン語を話す18歳以上を対象に100人ずつ参加者を登録した。2つの段階で研究を実施した。第一段階では検証的因子分析※で潜在能力測定尺度の構成概念妥当性を評価した。第二段階では潜在能力尺度と測定された食事、運動、BMIとの関連を評価した。
 25項目からなるCapability Assessment for Diet and Activityおよび適切な健康行動、BMI、行動企図(週に何日健康な食事をとることや運動することを計画したか、0-7)について測定した。
※因子分析とは相関関係の背後に潜む構造を研究するための統計学的分析手法。検証的因子分析では構造に関する仮説をデータと照らし合わせて検証していく。

Results:
 食事に関する変換因子が1SD上昇する(5ポイントの尺度で0.6)と、BMIは4kg/m2減少と関連していた。運動に関する資源と変換因子が1SD上昇するとBMIは1.6kg/m2の減少と関連していた。潜在能力と運動との関連では、運動企図は実際の運動時間の強い予測因子となっていた。運動企図は運動に関する資源によって予測され(b=0.29, p=0.05)、運動に関する変換因子はより強い予測因子となっていた(b=0.77, p<.001)。食事に関する変換因子は、健康な食事企図を予測する因子となったが(b=0.42, P<.001)、資源は関連がみられなかった(b=0.2, P=.50)。
上野先生図

Discussion:
横断研究では因果関係を立証できないため、今後の縦断研究での検証が必要である。食事や運動活動の自己報告による測定をプライマリケアの診療場面で行うことの実現可能性は証明されているものの、社会的望ましさによるバイアスによる影響を受けやすく、信頼性に欠ける。食事に関する測定の分配ミスで27%しかサンプルが得られなかったためさらなる研究が望まれる。
 今後は縦断研究を行い、観察期間を通じたCADAの変数間での結果や帰納がどうなるか理解を深める必要があるが、より効果的で重要かつ健康増進において十分根拠のあるアプローチを約束するだろう。

-考察とディスカッション-
Capability approachでの資源とそれを変換する能力という分け方は、個人の異質性に近づくために、通り一遍の食事・運動の活動に触れるだけでは実情に迫りえないことが言語化され自分の中ではしっくりくる考え方だった。
また文献のなかで臨床家は診療するコミュニティのなかで、健康な行動を促進したり阻害したりする状態に気づく必要があり、診療を通じた実際的な契機となる情報の蓄積により、いまだ対応されていない地域ニーズの同定や、公衆衛生機関にとって地域の価値ある知恵を提供する助けになると述べられており、健康増進をはかるうえで地域のなかでの資源や活動をさまたげる障壁について私たち家庭医は理解を深めていかなければいけないことを改めて気づかされた。

ディスカッション
 1.食事・運動改善のためにいままでみなさんはどのようなことを意識して診療していたか?またこの文献を読んで参考になりそうなことはありますか?
 2.個人の健康増進を検討するうえで地域ニーズの発掘と結びついた経験は?

【実施日】
 2016年6月1日(水)












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