家庭医の研究関与の生態学

-文献名-
Nicholas Pimlott, Alan Katz. Ecology of family physicians’ research engagement. Canadian Family Physician May 2016 vol. 62 no. 5 385-390

-要約-
 ここ20年での家庭医療学の研究は大きく成長し、研究の時代が来たという状況となっている。1990年以前はほんの数人の偉大な研究者がわずかに行なっていた研究だったが、今は大学の大きな家庭医療学講座の誕生で、その国や国際的な雑誌に高いレベルの投稿を行なう研究グループが出現している。このような状況に際し、我々家庭医は全員が研究に関与するかしないのか?どのように家庭医は研究に参加するのか?なぜそれが重要と考えるのか?などの疑問を以下のように考えて行きたい。

 まず家庭医の研究関与の生態図を作成した。これは何かが欠けていたり、疑問を生じさせるものでもあろう。このモデルは研究との関与方法を様々な言葉やフレームに落として、研究について考えたり、研究スキルや研究者としての訓練する道のりを考えたり、最終的には我々の成長を評価するフレームを生むことになる。

【研究のコアコンピテンシーを開発・維持する】
 最も家庭医としての基本的な研究との関わりは、治療のRCTや正確な診断法の開発、ガイドラインへの推奨など「商品」というべき研究に触れることである。
 批判的吟味やガイドラインの活動は、スキルの維持と継続的な生涯学習の側面も持っている。論文を検索し、見つけて、批判的に評価し、質の高い結果を臨床状況に応用することが重要なコンピテンシーとなる。しかし時間に追われる家庭医は、検索・評価された二次資料の活用に頼っている。より研究に関わる準備として批判的吟味・EBMがあるが、より多くの研修医にとっては標準的ではなく、UpToDateのような二次資料、三次資料に取って代わられている。これは家庭医が他の領域で研修する際に、その領域の医師がそのような学習をしていることに起因する。家庭医のプログラムとしては、エビデンスを探し、批判的に評価し、臨床に適応できるスキルの重要性と妥当性を伝え、それは挑戦でもあるが指導医としてそれをロールモデリングしてもらう必要がある。

【世界がひっくり返る】
 家庭医は生涯学習と患者ケアの改善をガイドラインに主に頼っているが、これには重大な問題を孕んでいる。多くのガイドライン作成とその実行について家庭医が出席の機会を与えられ関与と影響することが求められている。USPSTFでさえ、単一の疾患などは互いに衝突し関心をもつ家庭医ではない専門医で方向付けられている。ガイドラインの作成には家庭医の代表が参加し、経済的側面や効果的な分配など他が気付かない側面を伝えて欲しい。

【質改善】
 継続的な質改善は、家庭医にとってミクロの世界の研究経験となる。研究とは一般的な知識を生成することであるが、患者の改善のために自身の診療や行為を研究することも非常に類似したものである。多くの家庭医のプログラムでは研修医が質改善のProjectを任務とされ、診療のなかで研究プロセスの大いなる洞察を経験している。

【症例報告:核となる活動】
 研究活動とその貢献として症例報告は最も良い方法の一つである。研究の形としては質を落とすが、症例報告は早期だったり特異的な疾患の状態の理解を促し、新しい疾患の発見に繋がる可能性を持つ。
 指導医が研修医に研究についてのトレーニングに苦労するのは、研究計画書から執筆までの一連のプロの研究者の行為を想定するからである。研修医が前もって必要なスキルを持ち合わせ、レジデンシー期間中にそれらを見につけることは難しい。しかし彼らを敏感な臨床の観察者として支援し、興味深い通常ではない経過の事例を報告してもらうことは研究に触れ、臨床かとしてのアイデンティティ形成に寄与する。

【臨床的発見:忘れられた研究の型】
 マクウィニーはそのキャリアの晩年、家庭医がもはや臨床的発見に関与しないことを嘆いていた。新しい疾患の発見や、よく知られた疾患の新しい、通常ではない経過の発見、患者に相互に影響を与える疾患やその治療の独特の方法論のみならず、ケースシリーズや臨床の場での実際的な介入も乏しくなっている。
 RCT全盛の時代によって、その研究の価値が減じられたとマクウィニーは述べているが、現代においても家庭医の行ないやすい研究の型として重要である。

【PBRNs:新しい地平】
 PBRNsは決して新しくないが、カナダではその発展が他の国より遅れている。
 PBRNsの発展の一つの大きな挑戦は臨床家が、現場で働きながらプロの研究者として成長するプロセスであり、そのうちの何人かは臨床を行なう家庭医ではなくなる。また家庭医にとっては重要な臨床的発見の機会となり、規模の大きなPBRNsの活動では研究者の同僚として熟達していくであろう。PNRNsでのITスキルや遠隔観察、クラウドソーシングなどの技術革新が家庭医の研究を拡張し、全く新しいレベルの研究関与を可能にする。

【プロの研究者】
 全ての努力と同じで、鍛錬と経験の組み合わせによって熟達する。研究の熟達のためには臨床の縮小と研究活動の時間の確保が求められる。これを行なう家庭医をプロの研究者と呼んでいる。研究資金を獲得することで“週末の戦士”からプロの研究者となる。また研究者としての成功は、「家庭医の研究室」でもある地域基盤の臨床セッティングとの近い距離の研究が求められる。

【この箱の中の人生】
 研究のかかわりについての今回の記述的なモデルは静的であり限界もある。しかしこのモデルの階層化された箱は様々な研究のレベルや関与を表現している。家庭医はこの中で様々な研究と関わっている、プロの研究者となるものもいれば、違った場所で違った時間で行なうものもいる。この箱は家庭医の半透膜の図である。

【結語】
 家庭医の多くは研究のユーザーとなっている。カナダには3万5千人の家庭医がいるが、プロの研究者はわずかである。
今後このモデルの発展には2つのことを際立たせた。1つは、プロの研究者という存在である。もう1つは研究参加のための様々なコアスキルがありそれを維持発展できることである。

松井先生図

【開催日】
 2016年6月1日(水)












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