【EBMの学び】急性下痢症に対する整腸剤の効果

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年12月23日
【臨床状況のサマリー】
 11歳、男児。
 受診1日前から腹痛を自覚し、その後複数回の下痢あり。
 便の性状は水様性で、血便や黒色便はない。その他、悪心・嘔吐・発熱などの随伴症状はなし。
 周囲流行歴はなく、生ものなどの食事摂取はない。
 胃腸炎と診断し、整腸剤を処方する旨を伝えたところ、同伴した母親から「これ(整腸剤)を飲むと、下痢はすぐ良くなりますか?」「ヨーグルトも効果ありますか?」と質問があった。

  P;小児の急性胃腸炎に対し
  I(E);整腸剤を処方した場合 / 乳製品を摂取したときと
  C;内服しない / 摂取しないときと比較して
  O:下痢症状の期間短縮につながるか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Probiotics for treatment of acute diarrhoea in children randomised clinical trial of five different preparations

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;小児(3-36ヶ月)の急性下痢症において
 I(E);5種類の整腸剤を追加した群と
 C;経口補液療法(ORT)のみの群を比べ
 O;下痢の期間や排便回数が縮小するか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない 
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明 )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
ひろむ先生図①

ひろむ先生図②

ひろむ先生図③

ひろむ先生図④

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
●ARRとNNTを計算する
※P値で有意差が出たものについて計算
→治療効果は計算できない

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
→①参照

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 除外基準である栄養失調や重篤な脱水、併存する感染症(髄膜炎、肺炎、sepsis)、免疫不全、食物アレルギー、研究開始3週以内の抗菌薬や止痢剤の使用等はない。
 但し、症例は11歳という学童期で、研究では3か月~3歳といった乳幼児が対象であり、対象年齢から外れている。学童期と乳幼児期の急性下痢症における発症経過や臨床経過、治癒過程などについての差異をはっきりとさせることができなかったため、この点において本症例への適応が可能かは不明である。

・内的妥当性の問題点は?
 研究はランダム化、隠蔽化、盲検化されている。割付された6つの群の特徴が記載されており、比較がなされている。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
ひろむ先生図⑤

 上記表はある診療所での整腸剤の採用薬だが、どの整腸剤も6円前後であり、内服期間も短期間で内服管理は親が行うことが予想され、内服は実行可能と考えられる。
 投薬量については、整腸剤の菌種の表記が
  日本:製剤1錠/1g中に〇〇菌△mg含まれている
  海外:〇〇菌が10△CFU/dose(twice daily)
といったように記載に相違点があり、投薬量の換算は困難である。
 Group5は4種類の菌種が含まれているので、複数の菌種により今回の結果が出たのか、または複数の菌種のうちどれが効果を発揮したのかは不明である。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 整腸剤の副作用に関しての評価はなかった。

【④使う者の経験の視点】
 胃腸炎に対して確固たる意味合いをもって整腸剤を処方していなかったと思しきところがある。しかし、整腸剤の菌種によっては、一般的に5日前後続く下痢の症状が、整腸剤を内服することで3日程度に期間を短縮できる可能性があると積極的に説明し処方することが出来そうだと考える。
 実臨床ではミヤBMを処方する傾向があり、今回の論文では酪酸菌は対象となっていなかったため、今後さらに検索する余地がありそう。

【⑤患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患児は小学校に通学中。内服期間も数日であり、通学中の昼分の内服程度であれば自己管理も可能そう。下痢というつらい症状を早く治したいという希望があり、処方しない根拠になるだけの根拠は無いのではと感じた。
 また「ヨーグルトも効果ありますか?」の問いに対しては、数多あるヨーグルト製品の中から、今回の論文でGroup2と5で使用された菌種を用いている下記のヨーグルトを参照に、お勧めできるかもしれない。(但し、菌株が異なるので、厳密に研究で使用された菌と同じかと言われると断言はできないと考えられる。)
ひろむ先生図⑥

※ビオフェルミン「錠」「散」について
 →剤型が異なると使用されている菌種が異なる別の薬になる。
  ただ、どちらも腸内細菌のバランスにおいて善玉菌である「ビフィズス菌」を優位にするという目的は一緒で、明確な使い分けの基準はない。

 

【開催日】
2017年1月11日(水)