チームと心理的安全

―文献名―
エイミー・C・エドモンドソン.野津智子 訳.「チームが機能するとはどういうことか」.150-194.英治出版.2014.

―要約―
■2003年,アメリカで「コロンビア号の悲劇」と呼ばれる事件が発生した.NASAが打ち上げたシャトルが大気圏に再突入する際に燃え上がり,7人の宇宙飛行士が命を落とした.この件について,エンジニアは打ち上げ前にシャトルの欠陥について懸念を示したが,事故は起こってしまった.これは,チームが機能しなかった例である.ここで特に問題となったのか,チームに心理的安全に関する問題があったことである.

■心理的に安全な環境では,何かミスをしても,そのために他の人から罰せられたり,評価を下げられたりすることはないと思える.手助けや情報を求めても,不快に思われたり恥をかかされたりすることはない,とも思える.そうした信念は,人々が互いに信頼し,尊敬し合っているときに生まれ,それによって,このチームでははっきり意見を言ってもばつの悪い思いをさせられたり拒否されたり罰せられたりすることはないという確信が生まれる.

■病院をはじめリスクの高い組織を広く研究して明らかになったのは,ルールと必要な手順があるだけでは,心理的安全に欠けているために発見も修正をされない間違いが完全になくなることはないということである.それは,人々が故意にルールを破るからではない.私たちが微妙な方法で不確実性を理解したり,職場で互いのことを見たりしているからなのである.

■職場で直面する4つのイメージリスクの不安によって,積極的に意見を言うかどうかが強力に左右される.それは,1.無知だと思われる不安,2.無能だと思われる不安,3.ネガティブだと思われる不安,4.邪魔をする人だと思われる不安,である.

■心理的安全は従業員一人ひとりの性質ではなく単一体としてのチームを特徴づける.ミスについて話し合ったときに理解や関心が示された経験を共有していれば,何か失敗しても冷笑やあざけりを受けることはないと人々は思うだろう.心理的安全は個人の性格の違いによるものではなく,むしろリーダーが生み出すことができるし,生み出す努力をすべき職場の特徴によって生じるということなのである.

■職場での心理的安全によって7つの明確なメリットがもたらされる.それは,1.率直に話すことが促される,2.考えが明晰になる,3.意義ある対立が後押しされる,4.失敗が緩和される,5.イノベーションが促される,6.成功という目標を追求する上での障害が取り除かれる,7.責任が向上する,である.

■パフォーマンスについて強いプレッシャーを与えることが優れた結果を確実に生む最良の方法だという誤った,しかし善意から生まれることの多い信念に従うマネージャーは,従業員が不安のあまり、アイデアを提案したり,新しいプロセスを試したり,支援を求めたりできない環境を,知らぬ間に生み出してしまっている.仕事が明確でかつ個人プレーであるなら,このやり方でもうまくいく.しかし不確実性や共同する必要性がある場合には,生み出されるものは成功ではなく不安である.

■グループや部署内での地位が低い人は一般に,高い人に比べてあまり心理的に安全だと思っていないことが,研究によって明らかになっている.その結果,地位の低い人は,よくわからないことがあるときや,ミスをしたために非難されるのではないかと不安なときや,厄介な問題を言い出せないときや,自分のスキルが尊重されていない気がするときに,ほかの人に相談することが少なくなる.これらができるように計らうのがリーダーの務めであるが,リーダーはしばしばエンパワーメントを説くが,階級や地位の違いによって生まれる不安に気づいていないかもしれず,結果として,エンパワーメントのメッセージを心理的に安全な環境の中で確実に伝えるために十分には手を尽くせていない場合がある.そのつもりはなくとも,リーダーは自分の意見に対し,疑問を正直に口にすることよりもむしろ支持を求めることによって,意義ある反対意見を述べようと言う人々の意欲をそいでしまうことが少なくない.

■出来事に対するリーダーの反応によって,適切で安全な行動について他のメンバーが抱くイメージに影響が及ぼされる.チームリーダーがメンバーの支えとなり,助言を惜しみなく与え,疑問や挑戦に対して身構えなければ,このチームの環境は安全だとメンバーが感じる可能性が高くなる.逆に,リーダーが独裁主義者かすぐ罰を与えたがる人のように振る舞うと,他のメンバーの心理的安全が低くなり,結果として,メンバーは集団的な取り組みに力を尽くそうとしなくなってしまう.

■心理的安全は,経験の共有を通して育つ共通の感覚である.あらゆるレベルのリーダー,あらゆるタイプの組織のリーダーが,「問題があればいつでも話に来なさい」とか「私の部屋のドアはいつでもオープンです」などと言うだろう.しかし,多くの場合,具体性に欠けるそうした言葉では意義ある変化を起こすことは不可能だ.心理的に安全な環境は支持や指針やスローガンを使ったところで生み出すことはできない.心理的安全の高い仕事の仕方や状況を作るには,リーダーは行動しなければならないのである.

■リーダーは,メンバーを尊敬していることを,とりわけメンバーが持っている専門知識やスキルを認めることによって,はっきり伝えなければならない.対照的に,リーダーが独裁者のような態度をとったり,なかなか会えなかったり,自身の弱さを認められなかったりすると,メンバーはアイデアを共有したりミスを検証したりしたがらなくなってしまう.

■心理的安全を高めるリーダーシップ行動を挙げる.1.直接話のできる親しみやすい人になる.2.現在持っている知識の限界を認める.3.自分もよく間違うことを積極的に示す,4.参加を促す(意見を求める),5.失敗は学習する機会であることを強調する,6.具体的な言葉を使う,7.境界を設ける(どんな行動が非難に値するか明確にしておく),8.境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる.

【実施日】
2014年7月2日(水)