家庭医療関連の文献におけるシステム・複雑系思考を統合的・歴史的文脈で振り返るレビュー

― 文献名 ―
 Systems and Complexity Thinking in the General Practice
Literature: An Integrative, Historical Narrative Review. Ann Fam Med 2014; 66-74

― この文献を選んだ背景 ―
 臨床医学の中では家庭医療学は他科と本質を異にしている.複雑系の科学という側面でそれがよく語られるが,家庭医療学においてそれがどのように取り入れられ影響を及ぼしているのか,理解を深められるレビューを紹介したい.

― 要約 ―

【目的】
 過去70年,システム/複雑系の科学を扱う理論は学術的思考/研究に大きな影響を与えてきた.このレビューは複雑系の科学が家庭医療学に与えてきた影響を評価することが目的である.
(Figure1は複雑系の科学の発展と家庭医療学の発展を平行して示した図.本文中では「戦後複雑系の科学は多様な分野に適用されていったが,医学は例外とされてきた.家庭医療学によってようやく段階的に医学に適用されてきたのである」とあります.)

【方法】
 以下の方法で文献を検索し,歴史的文脈にそって統合的にレビューを行った.
“complex adaptive systems(複雑適応系)”, “nonlinear dynamics(非線形力学)”, “systems biology(システム生物学)”, “systems theory(システム理論)”といった用語を MeSH “humans”と組み合わせ,2010年12月以前に出版されたgeneral practice/ family medicine(家庭医療)関連の文献に絞った. 16,242の文献が検索され,うち49が家庭医療関連の雑誌に掲載されたものであった.ハンドサーチと雪だるま式検索によりさらに35の文献を得た.全文をレビューしたのちシステム科学と家庭医療を扱う56文献を採用した.

【結果】
 家庭医療学は現れてきたシステム・複雑系理論を4つのステージに分けて取り込んできた.

(Table2)
1995年以前)
 家庭医療学とシステム/複雑系の科学との対話が始まり,臨床現場の観察や臨床上の経験を再度評価する動きが現れた.システム/複雑系の科学が個人や家族,コミュニティの病いを,より効果的にコンテクスト(背景)に基づいて理解することに役立つことへの気づきが生まれた.
 自然科学における研究の「敵」と長く見られてきたコンテクストが,豊かな研究分野となり「知」の創出源となった.

(1995年~2000年)
 家庭医療学の複雑適応系的側面を描写する文献が主であった.システム/複雑系の科学が医療の持つ性質を理解するために大きな力を持つことへの確信が深まり,組織やヘルスケアシステムへの適応にハイライトが当たり始めた時期である.家庭医は個人へのケアの提供のガイドとしてカオス理論を注目し,患者を多変量で非線形で非周期系の存在であるとみなしてケアするようになった.McWhinneyはこの時期,家庭医療の特徴をシステム/複雑系の科学的に以下のように表現し多大な影響を与えた.
① 家庭医療学分野は医師と患者の間にある関係性で定義される.
② 家庭医は人とその人の病との関連について考察する.
③ 家庭医は特徴的な生態系の多様性,非線形性(成長,再生,癒やし,学習,自己組織化,自己超越~McWhinneyはこれをorganismic metaphorと表現した)を受け入れている.
④ 学問分野として家庭医療学は身体と心という二元論を脱却する.
システム/複雑系の科学を取り入れた家庭医療学はヘルスケアシステムの中で重要な学問分野として対等することとなった.

(2000年~2005年)
 家庭医療における診療のシステム力動を描写することに焦点が当たった.研究者はシステム/複雑系の科学を家庭医療学のより広い論点に適用するようになった.コミュニティや職業人としてのリーダーシップ,治療関係などである.

(2005年以降)
 複雑系の科学理論をヘルスケア,ヘルスケア改革,医療の未来に広く適用するようになった.
① より効果的な診療を提供するために病い(illness)と疾患(Disease)を扱う.
② 診療組織の変化をリードする
③ プライマリ・ケアを相互連携の多次元システムであることを理解する
④ ヘルスケア改革へ影響を及ぼす.

【結語】
 この歴史的文脈で振り返るレビューにより複雑適応系理論と関連した家庭医療学の発展が描かれた.そして家庭医療学の原理に流れる哲学やアイデンティティがシステム科学により,より正確に示された.家庭医療学はその(学問としての)境界や範囲を意図的に再構成する過程で経験的なツールを適応する前にまずシステム理論を取り込んだことが示唆された.今後の研究は非線形力学や経験的なモデリングの適用を,患者ケア,診療現場の組織化や発展,コミュニティの発展への関わり,ヘルスケアの改革への影響を及ぼすことなどに力を注ぐことになるだろう.

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開催日:平成26年3月12日