教育者の12の役割 -組織と指導医個人の教育の振り返り・討論のために-

― 文献名 ―
 Ronald M. Harden and Joy
Crosby. AMEE guide No.20 The good teacher is more than a lecturer – the twelve
roles of the teacher. Medical Teacher. 2000;22:334-347

― この文献名を選んだ背景 ―
 我々は家庭医指導医として、日々家庭医療診療と同時に医学生・研修医教育にも当たっている。我々が自らの役割や活動を振り返る時に、家庭医療診療に関しては、ACCCCやPCCM/統合ケア/癒し、地域包括ケアといったように比較的なじみのある枠組みが多く、容易に自らの活動の全体像を思い浮かべることができる。しかし、医学生・研修医教育についてとなると、学習者の個別事例ベースの振り返りや、卒前・卒後という見方はあるものの、全体像や具体的活動を俯瞰する枠組みは意外になじみがないのではないだろうか。今後フェローシップにおける応用も考えている、教育者としての活動を俯瞰するにあたり有用なフレームワークを紹介したい。

― 要約 ―

・モデルの背景
 自己主導型学習、問題解決型学習といったカリキュラムの考え方や、ポートフォリオなどのパフォーマンス評価、ITなどの技術の影響など、医学教育において様々な変化が起こっている。特に学習者中心性を強調する流れは、教育者の役割を大きく変えつつある。こうした変化の中で、求められている教育者の役割が何なのかについてフレームワークを提案している。

・モデルの作成プロセス
3つの情報源、すなわち①ある医学校のカリキュラムの作成・実行において求められる教師のタスクの分析②12人の医学教育者の3ヶ月の日記とそこでの教師の役割についてのコメントを分析した研究③MedlineとTIME(Topics in Medical Education)databaseの検索で同定された教育者の役割についての文献と医学教育の教科書(Cox &Ewan(1988)とNewble&Cannon(1995)を含む)の分析 を統合してモデルを作成した。各々の役割が実際に教育者にとって重要かどうかについてアンケート調査によるRatingが行われ、実際にいずれの役割も重要であるという評価を得た。

・モデルの全体像;上記プロセスから、医学教育者の役割を12のカテゴリーに分類し、配置したのが図1のモデルである。個々の役割の説明の前に、全体像を簡単に説明する。まず、12の役割は医学の専門性を要するものと、教育の専門性を要するものに大きく分けられる。図の右側に医学の専門性を要する役割を、左側に教育の専門性を要する役割が分布している。同じように、12の役割は学習者に直接介入するために必要なものと、遠隔であるいは間接的に介入するために必要なものにも分けられる。図の右上により近くでの役割、左下がより遠くでの役割が分布している。

・個々の役割の説明;12の役割は6つのカテゴリーに分けられる。重要なのは一人の教育者が全ての役割を一人で発揮する必要な無いということである。個々の教育者に傾向や濃淡はあっても問題はない。また、個々の役割は完全に分割可能ではなく、同時に複数の役割を発揮する場面もある。

A情報提供者
1講師(lecturer);いわゆる「教室で行う講義」を実施する役割
2臨床あるいは現場の教員(Clinical or practical teacher);外来や回診におけるプリセプティングにおける役割。具体例として自身の臨床における思考過程を学習者と共有すること(ここにはreflective practitionerとしての能力も問われる)や病歴・身体診察を説明し、伝達することも含まれる。

Bロールモデル
3現場でのロールモデル(On-the-job role model);医師としての振る舞いを通じて教育する役割。具体的には、専門性に対する熱心さや臨床推論能力を示すこと、医師患者関係の構築、患者を全人的な視点で見ることができることなどが当てはまる。
4教育のロールモデル(Teaching role model);教育者として学習者に接する際の振る舞いや態度。

Cファシリテーター
5学習のファシリテーター(The learning facilitator);学習者の自己主導型学習や振り返りを促す役割。例えば話しやすい環境作りや、学習者の考えを引き出すこと、様々な学習資源・資料を学習者が使いこなせるようガイドすることも含まれる。
6メンター(Mentor, personal adviser or tutor);現場における教育や評価からは、離れた部分で学習者とかかわり、支援的な(そして、依存ではない)関わりから学習者の成長を促す役割。(※他の役割と一部重複する部分がある。)

D評価者
7学生の評価者(The student assessor);学習者に対して形成的・総括的評価を行う役割。
8カリキュラムの評価者(The curriculum assessor);カリキュラムを評価する役割。

E計画者
9カリキュラムの計画者(The curriculum planner);カリキュラム全体を計画し、実行する役割。
10コースの計画者(The course planner);コース(=カリキュラムの一部)を計画し、実行する役割。

F教材開発者
11教材の考案者(The resource material creator);ITをはじめとした技術の進歩により生じたものも含めて、様々な教育リソースを考案し、作成する役割。
12学習の手引きの開発者(The study guide producer);学習の手引き(学習者に学習目標や学習資源、学習の仕方や、自己評価の方法を伝える資料。初期研修の歩き方、的な本が該当。)を作成する役割。

― 考察とディスカッション ―

 著者は、このフレームワークを、指導医養成における評価やPF作成、指導医の生涯学習、組織としての教育者リソースの評価や、教育者を雇用する際の人財募集や契約に役立てられる可能性を述べている。
例えばこの図を見ながら、以下のような問いを討論してみると良いように思う。

Aフレームワークそのものに対して
 ・我々のコンテクストを考えた際に、この12の役割以外に何か思いつくものはあるだろうか?

B自らの指導医としての活動を振り返って
 ・指導医として、自分が最も行っている役割(そして、求められている役割)はどれだろうか?
 ・指導医として、自分が最もなじみのない役割(または、他の人に任せている役割)はどれだろうか?

C自らの組織を振り返って
 ・北海道家庭医療学センターにはどの役割がどの程度必要だろうか?
 ・北海道家庭医療学センターの指導層全体を見た時に、最も充実している役割はどれだろうか?
 ・北海道家庭医療学センターの指導層全体を見た時に、最も欠けている役割はどれだろうか?

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図1 教育者の12の役割

 開催日:平成26年2月12日












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