言語コミュニケーションと患者の安全性について

-文献名-
Rick Iedema, Trish Greenhalgh,et al.Spoken communication and patient safety: a new direction for healthcare communication policy, research, education and practice? BMJ open quality.2019.8.16.

-要約-
背景:NHS(イギリスの国民健康サービス)では36時間毎に約100万人の患者に医療サービスを提供しています。この過程において、数百万以上の口頭でのやり取りが行われます。これらの数字を考えると、話し言葉のコミュニケーションの失敗による事故が壊滅的な影響を与える可能性は十分にあります。実際、世界中のインシデント調査では、不適切または効果のないコミュニケーションが予期しないケアイベントや望ましくないケアの結果に最も関わる要因であることを示しています。
2017年NHS改善委員会は、患者の安全のため医療従事者のスタッフ-患者コミュニケーションをどのように改善するかを明確化するため、医療専門家の外部ワーキンググループに委託し、問題と課題の概念マップを作成し、これを基にレポートを作成しました。その結果は6つの重要なコミュニケーションドメインを示していました。
方法:ワーキンググループは10ヶ月かけて、ヘルスケア環境での音声コミュニケーションに関する既存の学術文献および非市販文献の調査をしたこと、定期的に収集されたNHSデータ(苦情通知および重大なインシデントレポートの代表数)を調査し、そのオンラインリソース(患者のフィードバックなど)のウェブサイトにアクセスしました。私達はこれらの二次情報源に、4つのフォーカスグループの患者と、合計100人のNHS患者とスタッフで行われた2つの半日相談イベント(NHSIが組織し、ワーキンググループのメンバーが共同進行)から得た情報を加えています。データはテーマ別に分析され、合成されました。以下の6つのドメインが発見されました。
①コミュニケーション環境
音声コミュニケーションの理想的な環境は、「思いやりのある環境」によって特徴付けられます。良い例としては外観がキレイでスタッフも親切で、清掃が行き届いている環境です。悪い例としては発電機が診察室のすぐ外にあり騒音があるなどの環境です。良い環境はケアの安全性と患者の心理的および生理学的安全感に貢献し、臨床医と患者とのコミュニケーションをサポートします。
②情報交換
音声コミュニケーションは、適切な人が適切なタイミングで正確かつ適切な情報を交換するときに効果的です。専門用語の使用など明瞭性の欠如がある場合、情報が過度にスクリプト化(漠然とわかる状況)されている場合、技術的でその場のコミュニケーション相手に十分に適合していない場合、競合する情報が混在する場合、情報が不十分またはない場合に問題が発生します。
良い例としては手術室でオペ室の看護師に「私の右手にステッチとはさみをお願いします」とその場にあって明瞭であること。悪い例としてはBIPAPで救急室から病棟へ移動する際に、事前の報告もなく準備についても確認しないまま移動し、酸素が用意されていないなど。
③聞き取りと態度
文献では、効果的なコミュニケーションを、敬意、コミットメント、前向きな考え、共感、信頼、受容性、誠実さ、およびケアに関する継続的かつ協力的な焦点に関連付けています。親切で援助的であれば良い一方で、配慮がないことは悪く働きます。患者の期待と理解は、より多様で明確になりつつあります。患者が自身のケアに寄与すべきことに積極的かつ敬意を持って耳を傾けることは、ケアの質と安全性にとって重要です。
④調整と対応
情報のネゴシエーションを最適化するには聞き取りと態度が重要ですが、この4番目の領域である調整と対応は、臨床医と患者の関係を育む上で重要です。臨床医は患者の気分やユーモアに合わせてコミュニケーションを調整する必要があります。これは、相互の信頼、およびデリケートでプライベートな問題の議論のための「共通基盤」を開発します。 この育成は1回限りの「チェック」ではなく、継続的なプロセスとなります。患者に対する発話を調整することにより、GPは関係を育み、それによってケアの質と安全性を向上させます。信頼関係が相互理解とオープン性を必要とする状況では、関係を構築することが最重要です。病気や治療がより長期的で複雑になり、不確実性にさらされつつある今、これは特に当てはまります。
⑤効果的なチームコミュニケーションのための前提条件の作成
チームは上記の①~④を実現することで効果的にコミュニケーションを取ります。それは「心理的に安全」であると感じ、懸念を提起したり問題を指摘したりすることが十分に価値があり、恐れずに言って良いとメンバーが感じるからです。
チームのコミュニケーションは、チームのすべてのメンバーの知識、感情、洞察を尊重する必要があることは明らかです。
⑥特徴のあるグループとのコミュニケーション
子どもや若者、話し言葉の英語を理解できない人(例:英語が話せない人、聴覚障害、学習障害、認知障害など)や苦しんでいる人、精神疾患がある人などのグループとのコミュニケーションには、通常よりも注意が必要です。このような特徴のある患者とコミュニケーションをとるためには病院のパスポート(名前、民族、宗教などの患者に関する基本的な詳細と、患者や介護者が「やりたいことや話したいこと」をリストできるセクションがある。また、写真、ポイントボード、読みやすい文書などの理解に役立つ「コミュニケーション方法」に関するセクションも含まれている)を作ることを推奨します。
結論:これらの6つのドメインは、安全なコミュニケーションのいくつかの側面を確認し、情報交換を超えた医療コミュニケーションの理解を拡大し、一般的なケア環境の質、聴力、対人関係を追求する関係のダイナミクスを含んでいます。さらに、チームコミュニケーションの多次元性、および患者のユニークなグループとのコミュニケーションの特徴を強調しています。適切な条件を作成する上で組織のリーダーシップの重要な役割を認識し、安全性が重視されるコミュニケーションをするためにすべきことは、上記の各ドメインに対処し、スタッフをさらに理解する必要があります。3つのせめぎ合いに対処する必要があります。(1)良好なコミュニケーションの狭い定義(正確、関連する情報の交換)およびより広い定義(状況認識、感情を必要とする社会的、感情的、文化的行為)の間(2)理想的なコミュニケーションビジョン(冷静、プライベート、中断なし)と、NHSで話されたコミュニケーションが行われる実際の、そしてしばしば準最適な状況の間(3)ツール、テクノロジー、チェックリストによってサポートされる構造化、スクリプト化、標準化されたアプローチと、複雑な状況の中で働く個々の臨床医の適応性、創造性、コミットメントを称賛しサポートするアプローチの間。
会話によるコミュニケーションを改善するという挑戦は簡単ではありません。少なくとも、このような改善には、ケアの複雑さのレベルの上昇を管理するための専門家の学習能力と反射能力の強化に役立つ行動的介入が必要になります。

【開催日】2020年3月4日(水)