救急部門の指導医コメントが研修医の仕事量に与える影響:J(^o^)PAN無作為化比較試験の結果から

―文献名-
Kuriyama A et al. (2016) Impact of Attending Physicians’ Comments on Residents’Workloads in the Emergency Department: Results from Two J(^o^)PAN Randomized Controlled Trials.
PLOS ONE 11(12): e0167480.

―要約-
目的
救急部門は迷信が信じられる傾向にあり、先行研究では満月の夜や13日の金曜日の受信が増加したかなどの調査が行われている。
また文献的には指摘がないが、一般的には「今日は平和だね」「静かな当直になるといいね」という元気なコメントを指導医がすると、突然救急部門が忙しくなるというジンクスが蔓延しているため、指導医からの明るい元気付けるコメントは控える傾向になっている。そこで今回は指導医からの日直帯の救急外来に景気付けのコメントがあるかないかで、救急部門で働く研修医の仕事量がどうかを検討する。その結果、ジンクスが否定された場合は、指導医と研修医でより良い会話ができることが期待される。

方法
倉敷中央病院(1131床の3次医療機関)の救急部門の平日9時から17時の救急外来(J(^o^)PAN-1試験)そして14時から22時までの救急搬送患者(J(^o^)PAN-2試験)のいずれかを診察した25名の研修医を対象として、単施設における2つの並行群、評価者盲検、無作為化試験としてCONSORTガイドラインに沿って実施した。結果に影響しないように研究委員会によって参加同意書は破棄され、研修医には未告知で研究は進められ、研究終了後に研究計画書が公開された。
参加した研修医は “今日は平和だといいね、今日は静かな日になるといいね”などのコマンドを乱数発生器を元に無作為に受け取ったこの研究を知っている6名の救急指導医から、コメントもらった群(介入群)とコメントを受け取っていない群(介入群)に割り付けられた。両試験は2014年6月から2015年3月まで実施され、研修医は、勤務中に診察を受けた患者数、シフトの忙しさや難易度についてアンケートが毎回救急シフト開始時に配布され、5ポイントのLikert尺度で評価し、救急部門の秘書がシフト後にアンケートを回収し、独立した別の指導医がデータセットを作成し、もう一人の医師がデータを分析した。統計解析はWilcoxon順位和検定を使用し、介入群と対照群の間でその他のアウトカムを比較するためにスチューデントのt検定を使用した。研修医への潜在的な学習効果やメッセージの経時的な鈍化効果を除外するために、主要アウトカムについて、各2ヵ月間の最初の10回のシフトで感度分析を行った。すべての統計検定は両側一致で、有意水準はp<0.05であった。すべての解析はStata v.11.2(StataCorp, College Station, TX, USA)を用いて行った。

結果
J(^o^)PAN-1試験では合計169件がランダム化され(介入群81件、対照群88件)、J(^o^)PAN-2試験では178件(介入群85件、対照群93件)がランダム化された。
J(^o^)PAN-1試験では、診察した救急外来患者数(それぞれ5.5人と5.7人、p=0.48)、研修のスケーリングによるシフトの忙しさ(2.8人対2.8人、p=0.58)、または経験したシフトの難易度(3.1人対3.1人、p=0.94)に差は認められなかった。しかし、J(^o^)PAN-2試験では、忙しさ(2.8対2.7;p=0.40)と難易度(3.1対3.2;p=0.75)は群間で同程度であったが、介入群の方が対照群よりも多くの転院患者を診察した(4.4対3.9;p=0.01)。

J(^o^)PAN-1試験では、ストレス(それぞれ2.8対2.9;p=0.40)、食事時間(17.2分対17.3分;p=0.98)、または疲労(3.0対3.0;p=0.85)において、介入群と対照群の間に有意差は認められなかった。さらに、入院数(10.4対10.6;p=0.70)または救急部門を受診した外来患者数(中央値、31対32;Wilcoxon p=0.98)には有意差は認められなかった。J(^o^)PAN-2試験では、ストレス(それぞれ3.0対2.9;p=0.61)、食事時間(15.6分対15.3分;p=0.82)、または疲労(2.9対2.9;p=0.95)において、介入群と対照群の間に有意差は認められなかった(表2)。さらに、入院患者数(14.1対14.0;p=0.86)または転院患者数(中央値、11対12;Wilcoxon p=0.68)には有意差は認められなかった。

結論
指導医からの激励コメントは、救急部門で働く研修医の仕事量への不吉な効果は最小限であった。

 

【開催日】2020年9月23日(水)