卒前教育の家庭医療コアカリキュラム

― 文献名 ―
 HOWARD TANDETER et al. A ‘ minimal core curriculum ‘ for Family Medicine in undergraduate 
medical education: A European Delphi survey among EURACT representatives. European Journal of General Practice, 2011; 17: 217-220

 ― この文献を読んだ背景 ―
 滋賀医科大学4年生対象に弓削の森先生と6コマの家庭医療の系統講義を担当する。100名対象の講義型で、かつ6コマということでどのようなテーマが良いのかを再度検討してみたかった。
 欧州の指導医委員会(2011)とSTFM(2009)と両方が見つかったが、前者の方が利用しやすいと感じたため共有したい。
 
 ― 要約 ―
背景:
家庭医療は世界で異なる発展をしている。特にプライマリケアが整備されていない国々では、家庭医が卒後キャリアの選択肢となっていないため、家庭医療の教育が不十分である。そのような状況で家庭医療は卒前教育中に必要な臨床経験とみなされていない

目的:
短期間の家庭医療の臨床実習の”ミニマムリクアイアメント””ミニマムコアコンテント”を同定する。

方法:
欧州家庭医療/総合診療指導者委員会(Council of the European Academy of Teachers in General Practice and Family Medicine)の中の全ての欧州国家とイスラエルの代表者であり、家庭医かつ指導医である40名のグループを対象にデルファイ法を用いて実施した。
デルファイ法(岡田先生のブログより):
 元々は予測が難しい未来のことを予測するための方法最近はそれを転じて合意形成の方法としても用いられる。専門家グループなどが持つ直観的意見や経験的判断を反復型アンケートを使って、組織的に集約・洗練する意見収束技法。技術革新や社会変動などに関する未来予測を行う定性調査によく用いられる。
デルファイ法ではまず、予測したいテーマについて詳しい専門家や有識者を選んで意見を求める。得られた回答は統計的に集約して意見を取りまとめ、これを添えて同じ質問を各専門家に対して行い、意見の再検討を求める。この質問とフィードバック、意見の再考という過程を数回、繰り返すとグループの意見が一定の範囲に収束してくる。この意見集約によって、確度の高い予測を得ようというわけである。
デルファイ法はテーマと関係のない影響力を極力排除するよう配慮されている。また問題としては「専門家の定義や選出方法」「アンケート質問の適正さ」「意見一致への強要や誘導」「集約手法の信頼性や妥当性」「未来予測の限界」などが指摘される。

結果:
何周かのデルファイによって、卒前家庭医療の必要最小のコアカリキュラムの15のテーマが同定された
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1   27票 特有の医学である家庭医療の紹介、継続性・包括性・協調性という家庭医療の重要原則
2  21票 全人的アプローチ:生物心理社会モデル

3  20票 症状早期の鑑別しにくい時期のマネージメント、不確実性の扱い方

4  17票 コミュニケーションスキル:患者、患者家族、難しい患者

5  17票 複数の健康問題のマネージメント:優先順位づけ

6  17票 流行状況や発生率に基づいた意思決定

7  17票 予防・健康増進、患者教育

8  16票 患者中心性

9  16票 外来スキル:外来のステージ

10 15票 慢性疾患ケア、慢性の疾患・健康問題のマネージメント:DM,HT,CHF,肥満

11 14票 疾患の原因・ケアの資源としての家族:家族背景、家族図、ライフサイクル

12  13票 家庭医療に特徴的なヘルスケア:全年齢、男性/女性、病気を治す・予防する、救急

13  12票 コミュニティ志向:コミュニティ中心のケア、地域ニーズ評価

14  12票 家庭医療にコモンな症状

15  10票 プライマリとセカンダリーの境界:紹介、ゲートキーピング、擁護者

15は別テーマ「疾患について:診断、治療、フォローアップ、訪問診療」と同等の10票であったが、最終デルファイで上位にランクされた。

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 ― 考察とディスカッション ―
 1位、2位は納得であったが、3位のテーマは臨床的でありなるほどと思った。
 家族や地域は思ったよりも高くなく、日本での教育も外来診療のためのスキルを重視しても良いかもと感じた。ただVer1.0との違いも目立たず、日本の家庭医療の後期研修目標に沿った卒前教育が良いかもとの確信も得ることが出来た。

開催日:平成25年10月25日