コーチングスキルを医療現場に活かす

― 文献名 ―
 メディカルサポートコーチング 奥田弘美+木村智子 著 中央法規

― この文献を選らんだ背景 ―
 医療現場において、コミュニケーションは非常に重要であり、私たち家庭医の舞台でもそれは例外ではない。むしろ他の専門医に比べても外来に重きをおいている分、その比重はより重いと言っても過言ではない。私は自身のコミュニケーションスキル向上などのために数年前より商業ベースでコーチングを修練しており、すでに認定コーチ資格&認定メディカルコーチ資格もとっているが、なかなか医療現場に適応できるスキルがまとまっている一冊がこれまでなかったと感じていた。今回手に取った書籍が非常に入門的でありつつも、医療現場に実行可能な中身が例示されつつまとまっている良書であると感じたため、スキルのまとめをしつつ、紹介する。

― 要約 ―

 ※本書は以下の構成となっている。(タイトルは中村で若干改変)
 第1章:メディカルサポートコーチング総論(対患者、対スタッフともに使える基本スキルを記載)
 第2章:セルフサポートコーチング(主にセルフケアの観点を記載)
 第3章:マネジメントコーチング(主に上司・部下間のコミュニケーションを記載)
 第4章:ホスピタリティコーチング(主に患者に使える、職種別のコミュニケーションを記載)

この中から、今回は第1章に記載されている、主に「対患者」に対するコーチングスキル手法をとりだして、列挙して紹介する(それ以外は本著を手に取ってみてください)。

1. 「モデリング」
 自身がロールモデルとする同職種をイメージし、「その人なら今の状況でどう行動するか」をイメージすること。こつは「貴方が理想のモデルに近づくために、今すぐ出来る小さな行動は何か?」という問いを立て続けること。

2. 「ゼロポジション」
 コーチングの「聴く」スキルの超基本の型。①先入観を持たない、②最後まで聴く、③口を挟まない、④非定型接続詞(でも、しかし、など)を使用しない、⑤沈黙を待つ、⑥聴き手に徹する、などから構成される。実際の医療機関ではこれを忠実に実行すると時間と集中力の観点から不可能のため、この基本形をもちながら応用スキルを併用していくこととなる。ここぞ!というシーンで力を発揮する姿勢。

3. 「ペーシング」
 相手と自分の共通点を多く作るスキル。人は自分と相手が「同じ」な点が多いほど安心感、親密感をいただく性質があることを利用します。①話し方を合わせる(スピード、大きさ、トーン、雰囲気など)、②言葉遣いや態度を合わせる(フランクな人にはフランクに・・・)、③動きを合わせる(相手が胸を押さえて痛むと話す時にはこちらも胸に手を当てて話しを進める)などから構成。

4. 「オウム返し(バックトラック)」
相手の言葉の語尾を繰り返す有名なスキル。効果は「貴方の気持ちを私は共感しながら受け止めていますよ」というメッセージを持つ。

5. 「あいづち うなずき」
 「はい」という返事とうなずきのこと。効果は「貴方の話をもっと聞かせて」とおいうメッセージ。会話は拡大傾向に向かうため、外来を収束方向に向かわせる時には少しセーブが必要です。

6. 「Open or Close question」
 これも有名なスキルで、Closeが「はい」「いいえ」で応えられるもの、Openがそうでないもの。使い分けが大切。少し落とし穴なのが、「すごく緊張した人にいきなりOpenを浴びせると実に答えにくい」ということです。Closeのほうが緊張状態の人も答えやすいという長所があるので、初見で緊張状態の方には最初には答えやすいCloseをあびせて(例:今日は○○ということについての相談ですね?→ ハイ など)、その後にOpenを行う(そして、問診後半はまたcloseへ)という絡め手を使うなどの応用があります。

7. 「過去型(否定型)質問 or 未来型(肯定型)質問」
 Openの応用編です。Whyや過去系を用いた質問、「~しなかったのは」などの否定語句が入る質問は相手に「責められている、非難されている」という意味を与えます。結果「すみません、~だったので・・・」という言い訳が多くなります。これでは行動変容も起こしづらいです。
 よって、同じ質問も可能な限りWhy以外の語句で、未来に向かうタイプの質問に切り替えることがこのスキルの本旨です。これはかなり意識しないと出来ないので、まずは自分へ問いかける練習から始めるとよいでしょう。
 例:「どうして運動できなかったのだろうか?」→「明日から少しでも運動できるためにはどうすればよいだろうか?」
 例:「なぜあんなミスをしたのだろうか?」→「少しでも挽回するために、明日から出来ることは何だろうか?」

8. 「塊をほぐす」
 相手の発言に「抽象的な語句(だいたい、そこそこ、微妙に、いつも など)」が出てきた時にその言葉の塊を分解して具体化していくOpen question応用スキルです。貴方の「いつも」とあいての「いつも」は異なることがしばしばあり、そのギャップを埋めることで相手との気持ちの連帯感とその過程における相手の気づきを生むという効果があります。ほぐした塊は再度サマライズして相手に伝えるとさらに効果的です(これを「塊を再構成する」と呼びます)。

9. 「Iメッセージ(We メッセージ)」
 同じ内容でも主語を変えることで伝わり方が異なるというスキル。日常最も使用されるYouは「断定・評価・決めつけ」の意味が入り、誤解のリスクに注意が必要となります。
 Iメッセージは意図したメッセージが100%受け取られる安全な言い回しで、コーチングで重宝される手法です。一方、WeメッセージIメッセージの強化型で肯定の内容のみで使用するのが無難です。Weメッセージの否定内容のダメージは大きいためです。

10. 「承認する」
 褒めることに代表される「相手のよいところを認める」ということを相手に積極的に伝える姿勢のスキル。相手が頑張っていることなどを見つけたら、すかさずその要素を拾い上げて言葉に出して承認することで、相手の意欲、やる気を高める効果を得ます(行動変容を求める相手できわめて有効です)。

11. 「枕詞」
 相手にとって聴きたくない情報を伝えるときにワンクッションを入れるというスキル。「重要なことなのですが~」とか「私の意見としてですが~」などで相手の了承を得て相手に聴く準備をしてもらうことでショックを緩和する効果があるとされます。医療面接では特に重宝するスキルです。

12. 「一時停止」
 ゼロポジションの対局に位置する相手の会話を中断する「枕詞」の応用スキル。①相手が話すべきテーマから外れた時、②時間がないとき、などに発動します。「大変申し訳ないのですが~」などの枕詞を用います。割り込むタイミングは一文節が終了する切れ目に滑り込ませることです。

13. 「要望する」
 相手に「~してはどうですか」ということを伝えるスキル。コーチング的ポイントは2点。①は「枕詞」の使用(これは要望なのですが~)、②相手にあくまで選択権があることを伝えること、です。ただし医療現場ではどうしても受け入れてもらいたいタイプの要望もあるため、その場合は③受け入れてもらいたい旨を明確に伝える、となります。

14. 「まとめと同意」
 最後に要点要約して、相手から同意を得るスキル。「これからどう考えてどう行動するか」をまとめて、相手の同意を得るようにすることで、誤解防止などにもなります。

15. 「応用:コーチング的医療面接のための3ステップ」
 コーチングは一つの構造化されたコミュニケーション手法なのですが、外来でこれを実践するとなると、少し工夫が必要です。本書では3つのシンプルなステップで外来応用を試みようとしています。
 ①マイゴールの設定:どの目標を目指すか?例:HbA1cを6台へ。
 ②マイアクションプランの決定:どの段階にいる?何を準備する?例:今は8台。食事療法・・・
 ③行動をサポートする:サポート体制の整備 例:定期外来構築、各種行動変容スキル・・・

― 考察とディスカッション ―
 これらのスキルは既に患者中心の臨床技法などを実践する際に、おのずと実践しているものも多いのではなかろうか。しかし、普段あまり意識していないスキルがあるのであれば、非常に使えるものとなっているため、ぜひ活用してみてもらいたいと感じている。皆様の中で日常の外来でこれらのスキル(もしくは他のコミュニケーションスキル)の声かけが奏功した事例などはありませんでしたか?

開催日:平成25年7月10日












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