高齢者の糖尿病治療戦略

- 文献名 -
 M. SUE KIRKMAN et al. Diabetes in Older Adults. Diabetes Care online October 25, 2012

- この文献を選んだ背景 -
 高齢者のDM治療ではエビデンスの弱さや最近のRCTから、いつもその目標値に悩むことが多かった。今回ADAとアメリカ老年医学会からのコンセンサスレポートがOnlineで出版され、今後の治療戦略に練り直しが必要と感じため共有する。

- 要約 -
 2012年2月にADAは65歳以上の糖尿病治療のコンセンサス作成会議を行い、以下の項目について各分野の専門家
からのプレゼンを受けてレポートを作成した。

【糖尿病高齢者の疫学と病態生理】
 米国の高齢者の22-33%が糖尿病。過体重や肥満との関連が指摘されている。高齢発症と中年発症の2タイプが
存在し、網膜症は中年発症タイプに多いが、CVD発症や神経症については発症年齢による差がない。
 下肢切断、心筋梗塞、失明などの合併症は65-74歳の群よりも75歳以上の群に多い。

【予防と治療】
 高齢そのものは前糖尿病/糖尿病のリスクである。生活習慣や各種治療で予防や発症遅延が可能となる。

 血糖コントロールについて
 ・UKPDS後の3つのトライアル(ACCORD、ADVANCE、VADT)が登場し、CVDを予防するための
  血糖コントロールの割が明らかになったものの、高齢者においての厳密な治療の功罪について不確実性が増した。
 ・最近の日本での65歳以上のトライアルでも多様な介入群と標準治療群での差を認めず。
 ・今までのRCTでは高齢者を含まないことが多く、血糖コントロールと高齢糖尿病患者との関係を観察することで
  示唆を得られるだろう。英国の50歳以上の観察研究では、単剤治療群と追加(内服/インスリン)治療群において
  A1cと死亡率の関係がU字型であり、もっとも死亡率が少ないのがA1c7.5%であった。

 脂質管理について
 ・高齢糖尿病患者についての脂質管理の大規模トライアルは存在せず、心疾患イベント抑制のエビデンスは
  高齢者群ではられたものにとどまっている。

 血圧管理について
 ・多数のトライアルにおいて降圧治療は心血管イベントを抑制するが、高齢糖尿病患者においての効果は
  限定的である。
  収縮期血圧170以上の群を150台に下げることの効果は指摘されており、140/80以下に降圧することの効果は
  選択されたトライアルで示されている。
 ・その他のコホート研究においては収縮期血圧を140以下に積極的に下げる利点はなく、高齢者においては
  拡張期血圧の低下が亡率上昇のリスク因子になるかもしれない。

【最近の高齢糖尿病患者への治療ガイドライン】
 ・身体機能、認知機能に障害のない高齢者は若年者と同様の治療目標となる
 ・高齢者の血糖管理目標は個々に緩めて決定されるが、高血糖による有害事象は避けなければいけない。
 ・その他の心血管イベントのリスク因子はそれぞれ治療され管理されなければいけないが、
  効果のある時間軸や患者の個別性への考慮が必要となる。
 ・合併症の評価も個別的なプランが必要となりつつ、機能障害への影響は注意しないといけない。
 ・2010年の退役軍人病院のガイドラインでは、以下の3つのカテゴリーに分けている
  *微小血管合併症がないかわずかなで生命予後が少なくとも10~15年の群はA1c7%以下
  *10年以上の糖尿病罹患期間がある、もしくは併存症の状態からも必要とされる群はA1c8%以下
  *進行した微小血管合併症があり重大な併存症があり、生命予後が5年以下と予想される群はA1c8~9%
 ・欧州の高齢糖尿病治療のガイドラインでも”治療決定に際し、低血糖や自己管理能力、その他の病的な
  異常の有無、知状態や生命予後を考慮して治療の功罪を検討すべき”とある。

【高齢患者への治療の個別化】
 ・併存症や虚弱性についての評価(移動障害、転倒骨折リスク、多剤管理、鬱状態、視力聴力障害が考慮される)
  のみならず、齢者独自の栄養療法、自己管理教育や指導の個別ニーズへの配慮、身体活動性と健康維持や
  年齢を考慮した物治療管理が求められる。
 ・メトフォルミンは治療の第一選択であるが腎障害で減量が必要となる。SU系は低コストであるが血糖
  リスクがある。
  αGIは高齢者には理論的には魅力があるが消化管への影響から忍容性が低くなる、DPP4は食後高血糖低下に
  役立ち忍容性もよいがコストの面で制限がある。
  インスリン治療は適応を選択して利用するとすぐれた治療になるが低血糖リスクが高く75歳以上においては
  限られた情報しかない。
 ・生命予後が治療目標に影響する中心概念となる。
 ・意思決定においては患者の目標と医学的な目標の間の中で一致点を探すコミュニケーションが必要となる。
 ・療養環境が自宅か否かも考慮され、例えば施設ケアの患者の治療は働くスタッフの負担を考える必要がある。

【高齢患者への推奨治療】
 3分類のフレームワークは治療効果の時間軸と生命予後とのバランスを考慮した一つの試みである
 ・〔患者の特徴と健康状態〕を3群に分け、それぞれ〔根拠となる生命予後〕
  〔理にかなった治療目標(低血糖などが無ければ個別にそれ以下の目標を設定できる)〕
  〔空腹時もしくは食前の血糖レベル〕〔就寝前血糖〕〔降圧目標〕〔脂質管理〕を置いた。
 ・健康群(併存症がほとんどなく認知/身体機能に問題なし)では、A1c7.5以下、空腹時血糖90-130mg/dL、
  血圧140/80以下、脂質は問題なければスタチン使用
 ・中間複雑群(併存症があり、IADLに2つ以上の障害or軽度~中等度の認知機能障害)ではA1c8.0以下、
  空腹に90-150mg/dL、血圧140/80以下、脂質は問題なければスタチン使用
 ・高度複雑群(健康状態不良群、長期や終末期の健康問題が複数or高度の認知機能障害orADLが2つ以上障害)では
  A1c8.5%以下、空腹時100-180mg/dL、血圧150/90以下、脂質はスタチンの利点が上回れば使用
  *併存症とは薬物療法や生活の制限が求められる状態で、リウマチやがん、心不全、うつ病、肺気腫、転倒、
   高血圧、排尿障害、CKD(stage3以上)、心筋梗塞および脳卒中が含まれる。(Table1参照)
  更なる推奨はTable2、今後高齢糖尿病患者に必要なリサーチクエスチョンはTable3に記載された。

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開催日:2012年11月28日












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