クリニカル・パールとは何か

【文献名】
著者名:春田 淳志、錦織 宏
文献タイトル:クリニカル・パールとは何か.
雑誌名・書籍名:JIM
発行年:P562?565, vol.22 no.8 2012-8

【要約】
クリニカル・パールの定義・基準

  Mosby’s Medical Dictionary 8th edition 2009では”A short, straightforward piece of clinical advice(短く単刀直入な臨床上のアドバイス)”、Whitmanは”Creative Medical Teaching, a compilation of definitions and discussions of individual items of medical education(創作的な臨床教育、すなわち、教育実践の場にある個々の記述・議論の集合体)”と定義している。クリニカル・パールを扱った721文献のレビューでは、11の論文がパールの特徴についてディスカッションされ、そのうち5つの論文に定義が記載されているが、共通した包括的な定義は明確になっていない。

  一方、クリニカル・パールについて、Mangrulkarらは以下の4つの基準を示している。

1) ある患者から得られた情報の中で、他の患者に対しても一般化出来るものである。
 一般化に関しては常にその範囲と程度を考慮する必要がある。

2) 経験豊富な優れた臨床医から得られるものである。
 誰が経験豊富な優れた臨床医なのかを判断することは難しいが、ジョンズ・ホプキンス大学のウィリアム・オスラー卿や、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のローレンス・ティアニー先生などが提唱したパールは日本だけでなく、多くの国の医師に受け入れられている。週刊誌等の一般雑誌に掲載された医師ランキングや教授だからといった社会的地位などで判断することは慎みたい。いったんつくられたクリニカル・パールは今の時代、ネット上の書き込みなどで伝わっていき、その情報源を確かめる術がないこともある。現場では指導医から後期研修医に、後期研修医から初期研修医にというように伝わって、疑問視されず受け入れられることもある。クリニカル・パールのようなパッケージ化された情報やトップダウン式の情報伝達は、批判的思考を抑えたり自己正当化の手段として使われてしまったりする可能性もある。自分自身が間違えたラベリングを行っていないかどうかについて常に振り返り、情報源を評価する必要がある。

3) あまり知られていない知識をうまく伝える事が出来る。
 この基準も非常にあいまいである。専門家のほとんどは知っているが研修医は知らないことをパールということもあるだろうし、パールはよく知られるようになればパールではなくなることもある。指導医として言語化されていない事をパールとして伝える事に長けた人もいるが、この「言語化能力」は良い指導医に求められる能力の一つと言っても良いかもしれない。

4) 注意を惹きインパクトのあることが最も重要であり、簡単で、理解しやすく、覚えやすくあるべきである。
 クリニカル・パールは1973年、Norman Milerが提唱したFactoids(事実のようなもの)とも表現される。Factoidsというのは、「証明されていないが、繰り返し印刷されたり放送されたりして信用を得たもの」である。証明されるというよりも、受け入れられるということが特徴である。
(Mangrulkar RS, et al : What is the role of the clinical “pearl”? Am J Med 113 : 617-624, 2002)
  これらの点を十分に理解した上で、臨床医は診療ツールとして、また指導医は指導のツールとして、クリニカル・パールを使う。
クリニカル・パールと科学的思考における推論
  科学的思考には、演繹と帰納という2種類の推論が含まれている。臨床現場では、科学的思考におけるこれら2種類の推論をうまく組み合わせることが必要である。つい演繹的思考で書かれたエビデンスをもとにして内的妥当性を考える事が科学的思考と考えてしまいがちだが、帰納的なクリニカル・パールも臨床現場では有用な情報であり、これらを発信しデータの量を積み重ねる事もリサーチクエスチョンとして質的検証していくのも、重要な科学的任務の必要であるといえるかもしれない。

クリニカル・パールと臨床教育

  臨床教育のツールとして使用する時には、以下の4つの基準で判断するのがよいといわれる。
① 情報源の妥当性の検討

② エビデンスとの比較
 すべてのパールにエビデンスを調べるのは実際的ではないが、検証する姿勢は持つべきである。

③ 安全性と費用対効果の検討:特に治療に関して

④ 実践性・転用可能性の検討
 高安病のマネージメントについてはプライマリ・ケアの雑誌よりもリウマチ科にとって役に立つ情報だろうし、専門家は皆知っているが研修医が知らないことであれば、研修医を指導する時には役に立つ情報になるだろう。集団・背景においてそのパールが転用可能かどうか、一般化の範囲を検討して発信することも必要である。

 これまでのレビューではクリニカル・パールの包括的で明確な定義は記載されていないが、Mangrulkarの4つの基準は参考になる。パールのような短く包括的で分かりやすい情報は受け入れやすく、盲目的になりやすいが、適応に関しては情報源・信憑性・安全性・費用対効果などを考慮し、一般化の程度と範囲に留意する必要がある。もし、無批判的にパールを適応するとそれが患者へのリスクとなることもありうる。

【開催日】
2012年8月8日












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