アルツハイマー病患者のうつ症状にセルトラリン、ミルタザピンは無効かもしれない

【文献名】

Sertraline or mirtazapine for depression in dementia (HTA-SADD): a randomised, multicentre, double-blind, placebo-controlled trial. The Lancet, Volume 378, Issue 9789, Pages 403 – 411, 30 July 2011.



【要約】
うつ症状を示すアルツハイマー病患者に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のセルトラリン、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)のミルタザピン、偽薬のいずれかを投与した無作為化試験の結果が、Lancet誌2011年7月18日号に掲載された。英London King’s CollegeのSube Banerjee氏らによると、13週後と39週後のうつ症状の変化において、どちらの抗うつ薬にも偽薬を上回る利益は見られず、有害事象発生率は高かった。

認知症患者の多くはうつ症状を示すが、適切な薬物療法を示した質の高いエビデンスはない。



現状では、主要学会は抗うつ薬の認知症患者への適用を支持しており、セルトラリンなどが第1選択として処方されている。高齢化が進む先進国では、認知症患者のうつは臨床的に重要な領域であると考えた英National Institute of Health Research (NIHR)は、著者らに臨床試験の実施を依頼した。



そこで著者らは、英国で最もよく処方されているセルトラリンとミルタザピンの有効性と安全性を偽薬と比較する、二重盲検の無作為化試験HTA-SADDを実施した。

イングランドの高齢者精神医療施設9カ所で、07年1月から09年12月まで、患者登録を実施。NINCDS-ADRDA基準に基づいてアルツハイマー病疑いまたは可能性例と判定された患者の中から、4週間以上うつ状態が続いており、Cornell認知症抑うつ尺度(CSDD)のスコアが8以上の人々を選んだ。臨床的に危険な状態(自殺リスクが高いなど)の患者などは除外した。

登録患者は、1対1対1の割合で、セルトラリン(目標用量は150mg、107人、平均年齢80歳)、ミルタザピン(同45mg、108人、79歳)、偽薬(111人、79歳)のいずれかに無作為に割り付けた。4週と8週の時点でCSDDスコアを調べ、いずれも4以上なら増量するとした。

主要アウトカム評価指標は、13週時点のCSDDスコアに基づくうつ状態の軽減とし、2次評価指標として39週時点のCSDDスコアなどを評価した。

39週までの脱落は、セルトラリン群が35%、ミルタザピン群が29%、偽薬群が24%だった。1日用量の平均は、登録患者全体ではセルトラリンが70mg、ミルタザピンが24mgで、脱落患者を除くとそれぞれ95mgと30mgになった。



どのグループでも、うつ症状はベースラインに比べ軽快化していた。13週時点でCSDDスコアの低下が最も大きかったのは偽薬群で、-5.6ポイント。セルトラリン群では-3.9ポイント、ミルタザピン群では-5.0ポイントだった。39週時点では、それぞれ-4.8ポイント、-4.0ポイント、-5.0ポイントだった。



線形回帰混合モデルを利用し、ベースラインのCSDDスコア、時間、施設で調整して平均差を求めた。ベースラインから13週までのうつスコアの低下レベルに有意差はなかった。セルトラリン群の偽薬群との平均差は1.17(95%信頼区間-0.23から2.58、P=0.10)、ミルタザピン群の偽薬群との平均差は0.01(-1.37から1.38、P=0.99)で、セルトラリン群をミルタザピン群と比較した場合の平均差は1.16(-0.25から2.57、P=0.11)だった。39週の時点でも結果は同様で、偽薬群との平均差は、セルトラリン群が0.37(-1.12から1.87、P=0.62)、ミルタザピン群は-0.66(-2.12から0.79、P=0.37)だった。



ベースラインのうつ病の程度で患者を層別化(CSDDのスコアが8~11か12以上か)して分析したが、やはりこれら2種類の抗うつ薬の有効性は認められなかった。

39週までの消化器症状、神経学的症状などの有害事象発生率を調べたところ、偽薬群は29人(26%)、セルトラリン群は46人(43%、P=0.010)、ミルタザピン群は44人(41%、P=0.031)だった。

この試験では、偽薬を上回る抗うつ薬の利益は見られず、有害事象のリスクは有意に高かった。著者らは、「得られた結果はネガティブだが臨床的には重要だ」という。この試験では、割り付けから13週時点で偽薬群のうつスコアにも改善が見られたことから、「うつ症状が見られてから3カ月程度は観察を継続し、変化が見られないケースにのみ抗うつ薬の使用を考慮した方が良いのではないか」と著者らは述べている。いずれにせよ、認知症患者のうつに対する第1選択としてこれらの薬剤を用いることについては、再考が必要だろう。



【開催日】

2011年8月10日












copyright© HCFM inc. all rights reserved.