~発作性心房細動の手持ち薬による治療~

【文献】
A John Camm, Irina: PRACTICE Change page – Some patients with paroxysmal atrial fibrillation should carry flecainide or propafenone to self treat. BMJ Volume334, pp637, 2007.

【要約】
《臨床的問題》
 発作性心房細動による、動悸、めまい、倦怠感、胸痛がある患者に、
プロパフェノン(プロノン;クラス1c群)またはフレカイニド(タンボコール;クラス1c群)の内服による自己治療’ポケットに薬’のアプローチ法を提案す る。最近のNational Institute for Health and Clinical Excellenceや国際的なガイドラインで提案されている。
《エビデンス》
 この自己治療の方法を行った212のケースで、厳重な管理のもと経口プロパフェノンにて安全に除細動された場合、病院外での自己治療でも十分に治療に反応することが示された。
実 現可能性を示すキーとなる研究では、病院にて発作性心房細動に対し、経口のフレカイニドまたはプロパフェノンの投与で治療に成功した210の患者が、頻脈 に気づいたら5分以内に一回量を内服するよう適切な薬を渡された。症状が穏やかで比較的心房細動の発作が少なく(病歴12年以下)、発作開始が明確な患者 が選ばれた。さらに48時間以内に不整脈が始まり、平均脈拍数が70回/分以上、収縮期血圧が100mmHg以上の者に限って選ばれた。重度の心疾患が背 景にある患者、予防的抗不整脈薬が投与されている患者、電解質異常がある患者は除かれた。これらの210の患者は、各々の過去のコントロールデータと比較 された。心房細動発作の発生する回数は、それ以前とさほど変わりがなかったが(54.5回v59.8回/1ヵ月)、救急外来を受診する回数は減少した (4.9回v45.6回/1ヵ月、P<0.001)。観察期間中の入院回数も著しく減少した。(1.6回v15回、P<0.001) 《変化への障害》 プロパフェノンもフレカイニドも、患者が発作時に自己治療で使用することは認められていない。自己治療は、左室肥大を伴わない穏やかな心血管疾患の患者や、 心筋梗塞の発症がないよくコントロールされた虚血性心疾患の患者に拡大適用できる。しかし予防的に抗不整脈薬を使ってはいけないし、CHADS score(C=congestive cardiac failure 1点;H=hypertention 1点;A=angina 1点;D=diabetes 1点;S=stroke 2点)が2以上の場合には長期間の抗凝固薬が必要とされる。この治療を勧めるかどうかは心臓専門医次第である。病院におけるこの種の治療のエビデンスは信 用のおけるものだが、過去をコントロールとした一つの研究が、病院外で行うこのテクニックを立証している。 《診療をどのように変えるか?》 ・選択された発作性心房細動の患者に、一回内服分のフレカイニド(300mg)またはプロパフェノン(600mg)を携帯し、動悸がひどくなった場合に自己治療できるという情報提供をすべきである。 ・ 適する患者としては、構造的な心疾患がなく、心房細動のエピソードで症状を経験しているが、発作は頻回ではないこと(一年に3~4回まで)。発作が6時間 以上続くこと、血行動態が安定しており収縮期血圧が100mmHg以上で安静時脈拍が70回/分以上であること。患者がいつ、どのように薬を内服するのか が理解できる必要がある。 ・薬の選択は、以前に病院の管理下で治療に成功したものでなければならない。そのため、フレカイニドまたはプロパフェノンは、救急外来での発作性心房細動の治療のプロトコールの一部となっていなければならない。 ・治療は動悸が30分程度を超えて持続するようなら開始すべきである。薬を内服した後は、発作が止まるまで、又は4時間は座っているか、横になっていてもらう。もし、脈拍が明らかに速くなったり、めまいや失神が起こる場合にはすぐに病院にきてもらう。 ・もし自己治療が失敗した場合は、抗不整脈薬の予防的投与やカテーテルアブレーションなど他の方法を考え、自己治療のアプローチはあきらめる。 【開催日】 2010年9月1日(水)