どんな組織にもある2つの欠陥

―文献名―
ジョン・P・コッター.村井章子 訳.「企業変革の革新」.150-194.日経BP社.2009

―この文献を選んだ背景-
新しい組織で新しいことをやるということは、つまり変革を手動するということである。このテーマを意識するようになり「適応のリーダーシップ」(ハイフェッツ)や「変革のリーダーシップ」(コッター)を参考にしていたが、コッターが提唱する「危機感」についての考え方は、イノベーションを起こせずに廃れていったほとんどの組織にとってあてはまるのではないかと思われる。こうした概念を企業転落の予防線として知っておくことは、あらゆるリーダーにとって重要と考え、この場で共有することとした。

―要約―
企業変革のプロセスの第一段階は「危機感を生み出す」ことである(※詳細はコッターの企業変革の8段階を参照)が、ほとんどの組織がこの第一段階でつまずいている。本当の危機感を理解するためには、その反対の概念を知っておくとよい。「自己満足」と「偽の危機感」が、それである。

1.自己満足
 ■自己満足はなぜ生まれるのか?:
過去の成功体験から生まれることがほとんど。
 ■自己満足するとどう考えるようになるか?:
自分が自己満足に陥っているとはまず考えない。「やるべきことは自分が一番よく知っている」「やるべきことはわかっているが、しかし容易ではない」「自分はやるべきことをやっているが、上手くいかないのは他に(上司に、他部門に、競合に)問題があるせいだ」と考える。
 ■自己満足するとどう感じるようになるか?:
変化を恐れ、現状に執着する。
 ■自己満足すると、どう行動するようになるか?:
言葉ではなく行動にはっきり現れる。「このままでいい」と思っているので、外からの脅威を見逃すし、新たな機会を探そうとしない。関心の対象が内向きになり、変化のスピードが鈍感になる。過去に上手にいった事をいつまでも続けようとする。

2.偽の危機感
 ■偽の危機感はなぜ生まれるのか?:
失敗経験または、現実の危機の重圧から生まれることがほとんど。
 ■偽の危機感を抱くとどのように考えるようになるか?:
混乱し、思考停止に陥る。経営陣や上司がいたずらに危機感を煽っていると考えたりする。
 ■偽の危機感を抱くと、どう感じるようになるか?:
不安(自分はこの先どうなるのだろう)や恐れ(こうなったのは誰のせいだ)を感じ、焦って行動する結果、疲労感や徒労感を覚える。
 ■偽の危機感を抱くと、どう行動するようになるか?:
思いつくままに次々に行動に移す。一見すると精力的に活動しているため、本当の危機感に基づく行動と取り違えやすい。しかし偽の危機感に駆られた行動は「行動のための行動」であって、よい結果に結びつかないことがきわめて多い。会議に次ぐ会議で疲れ切る。組織にとって重大な脅威や有望な機会にフォーカスするのではなく、他人を攻撃したり保身に走ったりする。

自己満足と偽の危機感を突き止めるチェックリスト
✓重要な事柄を経営陣がほとんど関与しないタスクフォースに任せたりしていないか?
✓重要な取り組みをはじめようというときに、関係者のスケジュール調整がつかないということがないか?
✓社内の裏工作やお役所的な事務手続きで重要なイニシアチブが滞っているのに、そのまま放置されていないか?
✓重大な問題に関する会議で、何も決まらずに先送りにされることはないか?
✓議論が社内の人事など内向きなことに終始し、市場・技術・競争等が話題に上らないということはないか?
✓会議に次ぐ会議で時間をとられ、大事なことがおろそかになったりチャンスを逃したりしていないか?
✓脅威や機会の存在を示すデータに対し、偏った事実や断片的な事実に基づく議論が展開され、最終的にそちらが優勢になることはないか?
✓過去の失敗から学ぶのではなく、過去の失敗を盾にとって新たな試みが阻害されることはないか?
✓真剣な議論の最中に、皮肉なジョークやしらけた発言が飛び出すことはないか?
✓重要なイニシアチブの一環として割り当てられた仕事が、中途半端に終わったり形だけになったりしていないか?

―考察とディスカッション-
ハイフェッツが提唱する「適応のリーダーシップ」では、リーダーシップは「人々を困難な仕事に向き合わせること」であるとしている。困難な仕事に向き合うという作業については、メンバーはもとより、リーダー自身にも重荷を強いるとこになる。さて、リーダーが本当に必要な作業に向き合えていないとすれば、そこは自己満足や偽の危機感が存在する可能性が少なくないと考えるが、あなたの組織ではどうだろうか?

【質問】
「あなたが関わる組織は、変わるべきですか?変わらない出来ですか?」
「変えるとすれば、何を変えるべきですか?その意見は組織の中でどのようにみなされていますか?」
「あなたは本当に必要な作業に、向き合えていますか?向き合えていないとすれば、それはなぜですか?その理由は過去の経験の影響をどの程度受けていますか?その過去の経験はいつまでも成り立つものですか?」
「本当に必要な作業に向き合うことで、何を為しえることができ、それにはどのような代償を伴いますか?」
「あなたの周囲の人間は、あなたが本当に必要な作業に向き合っていないと思っていませんか?周囲のどんな行動からそれを読み取ることができますか?」

【開催日】
2014年10月15日(水)