【EBMの学び】脂質異常症に対するスタチン

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
2015年9月28日
【臨床状況のサマリー】
5年ぶりの市民健診でLDL203,T.Chol270を指摘された65歳女性。特に大きな既往もなく、1日40分程度散歩するなど健康には気をつけている方という自負のある方。5年前の健診では特記事項なし。兄弟でコレステロールの薬を飲んでいる人がいたため、自分もついに薬を飲まなければならないのかと不安に思いながら小生外来受診となった。診察上黄色腫や黄疸、甲状腺腫大など認めず、血糖、腎・肝機能、甲状腺機能にも大きな異常を認めなかった。喫煙なし 飲酒なし 家族歴 父;食道癌 母;心不全、ペースメーカー留置後。「投薬せずに経過をみる症例」と考えたが、今回一次文献に遡り文献上の吟味を経た意思決定を行うことにした。
P;心血管系イベントの既往のない高齢女性
I(E);スタチン投与群
C;プラゼボ投与群と比較して
O;心血管イベント発生率に差が出るか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

P;冠動脈疾患既往のない軽~中等度(総コレステロール値220~270mg/dL)の高脂血症患者
I;食事療法+プラバスタチン(10~20mg/日)群
C;食事療法単独群
O;冠動脈疾患の発症に差が出るか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
→ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
→隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
→盲検化が      ( されている ・  されていない )←不完全
実際のT ableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
→( なっている ・ なっていない )
②解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 ※Figure1を参照 (5.3年後の結果)
  ●Primary endpointsでは冠動脈疾患、心筋梗塞、冠動脈再潅流術
  ●Secondary endpointsでは冠動脈疾患+脳梗塞、全心血管イベント
 でP<0.05となり有意差あり。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
  ・ RR(あるいはHR・OR)を確認する
  ・ARRとNNTを計算する
 ※Figure2を参照
  ARR=101/3966-66/3866=0.0084
  NNT=1/ARR=119(“Results”内にも記載あり)
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 P値と同様の項目で有意差あり。
 (ただし、冠動脈再潅流術の項目以外はおおよそ0.5-0.9程度に入り、幅は広い印象。)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 論文の対象者(Table 1)は女性の占有率が70%と高く、女性の喫煙率が低い点、コレステロールの平均値などは一致している。一方、年齢が少し若い点や高血圧や投薬例が40%弱を占めている点などは若干異なる。
 登録患者は全て病院の外来受診患者であるため、診療所の患者とは背景が異なる点もあるが、今回の症例には適用可能な点も多いと考える。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 投薬していても、癌の発生率や総死亡に差がないこと、(発症すると致命率の高い)横紋筋融解症の発生がゼロなのはメリット。
 メバロチンの薬価も100点を下回っておりコスト面でも問題なし。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者は健康意識の高い方であり、基本的には「薬による治療は最後の手段」という認識がある方だった。母親に心疾患があったことも考慮し、スタチン投与による心血管イベントのNNTを説明したところ再度投薬希望はされなかった。今後も定期的に健診は受けられる予定であり、follow可能なことは確認しつつ、次回半年後に再度フォローとした。

【開催日】
2015年10月14日(水)