6ヶ月未満の乳児におけるCOVID-19関連入院に対する妊娠中のmRNACOVID-19ワクチンによる母体ワクチン接種の有効性-17州

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Natasha B. Halasa, MD, Effectiveness of Maternal Vaccination with mRNA COVID-19 Vaccine During Pregnancy Against COVID-19–Associated Hospitalization in Infants Aged. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Feb 18; 71(7): 264–270.

-要約-
COVID-19の予防接種は、妊娠中、授乳中、妊娠希望している人、または将来妊娠する可能性のある人をCOVID-19から守るために推奨されている。乳児は、急性呼吸不全などCOVID-19による生命を脅かす合併症の危険性がある。他のワクチンで予防可能な疾患から得られた証拠によると、母体免疫は、特にリスクの高い生後6カ月間に、経胎盤的な受動抗体移行により乳児を保護することができる。妊娠中のCOVID-19ワクチン接種に関する最近の研究では、SARS-CoV-2特異的抗体の経胎盤移動が乳児に保護を与える可能性を示唆している。しかし、妊娠中の母親の免疫による乳児のCOVID-19に対する保護効果についての疫学的証拠は今のところ存在しない。
検査陰性、症例対照研究デザインにより、症例乳児の母親と対照乳児の母親(SARS-CoV-2検査結果が陰性の者)の妊娠中に2回の一次mRNA COVID-19ワクチン接種シリーズを完了した確率を比較して、ワクチン性能を評価した。参加した乳児は6か月未満であり、2021年7月1日から2022年1月17日までの間に20の小児病院の1つに出生入院以外で入院した。この期間中、SARS-CoV-2デルタ変異体は米国で優勢な変異体だった。12月中旬までの州で、その後オミクロンが優勢になった。症例-乳児は入院の主な理由としてCOVID-19で入院したか、急性COVID-19と一致する臨床症状を示した。症例の乳児は、SARS-CoV-2逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)または抗原検査の結果が陽性。多系統炎症性症候群の診断を受けた乳児はいない。対照乳児は、COVID-19症状の有無にかかわらず入院し、SARS-CoV-2RT-PCRまたは抗原検査の結果が陰性であった乳児。登録された対照乳児は、部位ごとに症例乳児と照合され、症例乳児の入院日から3〜4週間以内に入院した。
ベースラインの人口統計学的特性、臨床情報、およびSARS-CoV-2検査履歴は、入院中または退院後に訓練を受けた研究担当者が実施した親または保護者のインタビュー、および乳児の記録の電子医療記録レビューを通じて取得された。母親はCOVID-19ワクチン接種歴について尋ねられた。投与回数、妊娠中に投与を受けたかどうか、ワクチンを受けた場所、ワクチン製造業者、COVID-19ワクチン接種カードの入手可能性などが含まれる。研究担当者は、州の予防接種登録、電子医療記録、またはその他の情報源(プライマリケア提供者からの文書など)を含む文書化された情報源をレビューして、予防接種の状態を確認した。
 母親は,資料に基づいて、またはもっともらしい自己申告(接種日および場所の提供)により、ファイザー・バイオンテックまたはモデルナのmRNA COVID-19ワクチンの2回接種シリーズを完了した場合、COVID-19のワクチン接種済みとみなした.母親のCOVID-19ワクチン接種状況は、1)未接種(乳児の入院前にCOVID-19ワクチンを接種しなかった母親)、2)ワクチン接種††(妊娠中に2回分の一次mRNA COVID-19ワクチンシリーズを出産前14日以上に完了した母親)に分類された。妊娠中または出産後の母親の SARS-CoV-2 感染状況は、この評価では記録されていない。母親は、妊娠中に部分的にワクチン接種された場合(妊娠中に1回接種し、妊娠前には接種しなかった場合)(71人)、Janssen(Johnson&Johnson)COVID-19ワクチン(4人)を受け、COVID-19を2回接種した場合、妊娠前にCOVID-19ワクチンを2回接種(7人)、出産前14日以上でCOVID-19ワクチンを2回より多く接種(10人)の場合は除外した。
 症例乳児と対照乳児の特徴を比較するために記述統計(カテゴリー別結果についてはピアソン・カイ二乗検定およびフィッシャーの正確検定、連続結果についてはウィルコクソン・ランクサム検定)を用いた。乳児の COVID-19 入院に対する母親のワクチン接種の効果(すなわち、ワクチン効果[VE])は,ロジスティック回帰モデルから求めた VE = 100% ×(1-症例乳児および対照乳児の母親が妊娠中に COVID-19 mRNA ワクチンの 2 回投与を完了する調整オッズ比)式で算出した。モデルは、乳児の年齢と性別、米国国勢調査の地域、入院の暦年間、および人種/民族で調整された。その他の因子(例:乳児の基礎疾患、社会的脆弱性指数、行動因子)も評価したが、ワクチン接種のオッズ比を5%以上変化させなかったため、あるいは多くの乳児に関するデータ(例:母乳歴、未熟児、保育参加)が得られなかったため、最終モデルには含まなかった.二次解析では、母親が妊娠初期(最初の 20 週以内)および妊娠後期(21 週から出産 14 日前まで)に 2 回目の COVID-19 ワクチン接種を受けた場合の有効性を評価した。統計解析はSAS(バージョン9.4;SAS Institute)を用いて行った。
2021年7月1日から2022年1月17日の間に、17州の20の小児科病院において、483人の対象乳児のうち、104人(22%)が除外され、71人の除外乳児は妊娠中に部分接種した母親から生まれたか出産後に接種し、10人は出産14日以上前に3度目のワクチン投与を受けた母親から生まれ、23人は他の理由により除外された。残りの入院乳児379人(症例乳児176人、対照乳児203人)の年齢中央値は2カ月で、80人(21%)が少なくとも1つの基礎疾患を有し、72人(22%)が未熟児として生まれた(表1)。症例児のうち、妊娠中にCOVID-19ワクチンを2回接種した母親は16%であったが、対照児の母親は32%が接種していた。症例児と対照児の基礎疾患(それぞれ20%と23%、p=0.42)および未熟児(それぞれ23%と21%、p=0.58)の有病率はほぼ同じであった。症例児は対照児(それぞれ9%と28%)に比べ、非ヒスパニック系黒人(18%)とヒスパニック系(34%)の割合が高かった。

Table 1. COVID-19(症例乳児)で入院し、COVID-19(対照乳児)で入院していない生後6か月未満の乳児の特徴— 20の小児病院、17の州、* 2021年7月から2022年1月

 症例児のうち、43人(24%)が集中治療室(ICU)に入院した(Table 2)。25例(15%)の乳児は重症で、入院中に人工呼吸、血管作動性輸液、体外式膜酸素療法(ECMO)などの生命維持療法を受けており、これらの重症乳児のうち1例(0.4%)が死亡した。ICUに入院した43例の乳児のうち、88%は母親がワクチン未接種であった。ECMOを必要とした1例と死亡した1例の母親は、いずれもワクチン未接種であった。

Table 2. COVID-19で入院した6か月未満の乳児の臨床転帰と重症度、妊娠中の母親の予防接種状況別* — 20の小児病院、17の州、† 2021年7月〜2022年1月

妊娠中に母親の一次mRNA COVID-19ワクチンシリーズを2回接種した場合の、6カ月未満の乳児のCOVID-19関連入院に対する有効率は61%(95% CI = 31%~78%) であった(Table 3)。ワクチン接種済みと分類された母親93人のうち,90人(97%)がワクチン接種日を記録していた。妊娠初期(最初の20週)の2回接種COVID-19シリーズの効果は32%(95%CI=-43%~68%)であったが、信頼区間が広く、慎重に解釈する必要があり、妊娠後期(21週~出産14日前)は80%(95%CI=55%~91%)であった。

Table 3. 妊娠中の母親のワクチン接種のタイミングによる、6か月未満の乳児におけるCOVID -19関連の入院に対する母親の2回投与一次mRNA COVID-19ワクチン接種の有効性 — 20の小児病院、17の州、2021年7月〜2022年1月

Discussion
妊娠中のCOVID-19は重症化および死亡と関連しており、COVID-19を有する妊婦は早産、死産およびその他の妊娠合併症を経験する可能性が高い。重症化や死亡を含むCOVID-19の予防のために、妊婦へのワクチン接種が推奨されている。COVID-19のワクチン接種は、妊娠中に行うことで安全かつ効果的である。妊娠中のCOVID-19ワクチン接種は、出産時の母体血清、母乳および母体抗体の移行を示す乳児血清で母体抗体が検出されることと関連している。妊娠後期にワクチン接種を受けた女性から生まれた乳児のVE点推定値が高いことは、乳児に保護を与える可能性のあるSARS-CoV-2特異的抗体の経胎盤移動の可能性と一致する。乳児を保護する抗体が移行するための母親のワクチン接種の最適なタイミングは現在のところ不明であり、乳児の重症COVID-19の予防における母親のCOVID-19ワクチン接種の直接的効果は、これまで報告されていない。さらに、現在、乳児はワクチン接種の対象年齢ではなく、乳児の入院率はパンデミックの最高レベルにとどまっていることから、本研究は、妊娠中の母親のCOVID-19ワクチン接種が生後6カ月未満の乳児をCOVID-19による入院から守る可能性を示唆するものであった。

Limitations第1に、特定の変異体に対するVEを直接評価することができなかった.第2に、サンプル数が少ないため、ワクチン接種の妊娠三期別のVEを評価することができず、サンプル数が少ないため、いくつかの推定値の信頼区間が広くなり、慎重に解釈する必要がある。第3に、この解析では、妊婦が妊娠前または妊娠中にSARS-CoV-2に感染していたかどうかを評価しておらず、それによって母体の抗体が得られたかもしれない。第4に、感染リスクに影響を与える可能性のある、ワクチン接種者と非接種者の母親の行動の違い(母親が出生前ケアをしていたかどうかなど)などの交絡が残っており、潜在的交絡因子(例えば、母乳、保育への出席、未熟児)は、すべての乳児についてこの情報が得られなかったため、モデルで説明することができない。第5に、この解析には少数の参加者の自己報告データが含まれるため、母親のワクチン接種状況が少数の乳児について誤って分類されているかもしれない、あるいは母親が妊娠中にCOVID-19ワクチン接種を完了したかどうかについての記憶が不完全である可能性がある。第6に、母親がプライマリーシリーズを完了するために追加の mRNA COVID-19 ワクチン接種を必要とするかどうかを判断するために、母親の免疫不全状態が収集されていないことである.最後に、妊娠中に受けた母親のブースター用量のVEは、サンプルサイズが小さいため、評価できなかった。
生後6カ月未満の入院乳児379人(COVID-19を接種した176人[症例乳児]、COVID-19を接種しなかった203人[対照乳児])のうち、月齢中央値は2カ月、21%が少なくとも1つの基礎疾患を持ち、症例乳児と対照乳児の22%が早産(妊娠37週未満)で生まれたことが分かった。生後6カ月未満の乳児のCOVID-19入院に対する妊娠中の母親のワクチン接種の有効性は61%(95%CI=31%-78%)であった。妊娠中に 2 回の mRNA COVID-19 ワクチン接種シリーズを完了することで、生後 6 ヵ月未満の乳児の COVID-19 入院を予防できる可能性がある.CDCは、妊娠中、授乳中、現在妊娠を希望する女性、または将来妊娠する可能性のある女性がCOVID-19のワクチン接種を受け、最新の状態を保つことを推奨している。

【開催日】2022年6月1日(水)

高齢者における目標血圧のランダム化試験

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Zhang W, Zhang S, Deng Y,et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021;385(14):1268-1279.

-要約-
【背景】高齢の高血圧患者において、心血管リスクを低減するための適切な収縮期血圧の目標値は、依然として不明である。世界的な高齢化に伴い、恒例の高血圧患者における収縮期血圧の治療目標値を決定することは研究の争点となっているが、高齢者における収縮期血圧の目標値に関しては各国のガイドラインでは依然として移管していない。75歳以上の患者でもSPRINT試験において集中的な血圧コントロールにより心血管疾患の予防効果が観察されたほか、メタアナリシスでは収縮期血圧の目標値を130mmHgとすることで高リスク患者では心血管イベント及び死亡リスクが減少することが示された以峰で、高齢者における収縮期血圧の130mmHg未満への引き下げは慎重に行うべきだと示唆されている。
【方法】多施設共同無作為化比較試験(STEP試験:Strategy of Blood Pressure Intervation in the Elderly Hyper-tensive Patients)において,60~80歳の中国人高血圧患者を、収縮期血圧の目標値を110~130mmHg(集中治療)または130~150mmHg(標準治療)に無作為に割り付け、フォローアップ期間を4年と計画した。1、2、3カ月後にフォローアップの診察をうけ、その後は予定の48カ月までは3カ月毎で診察を受けることとした。薬剤調整は診察室血圧の測定に基づき行われた。一方で家庭血圧測定も実施し、スマートフォンアプリによる血圧管理効果も検証した。主要アウトカムは、脳卒中、急性冠症候群(急性心筋梗塞および不安定狭心症による入院)、急性虚血性心不全、冠動脈再灌流、心房細動、心血管系疾患が原因による死亡の複合とした。心血管疾患の10年リスクはFramingham Risk scoreを用いて推定した。

【結果】 対象となった9624例のうち、1113人(11.6%)が除外、8511例が試験に登録され、4243例が集中治療群に、4268例が標準治療群に無作為に割り付けられた。試験終了までに234例(2.7%)が追跡不能となった。患者のうち19.1%が糖尿病の既往があり、6.3%が心血管疾患の既往あり、64.8%がフラミンガムリスクスコア15%以上だった。1年後の平均収縮期血圧は、集中治療群で127.5mmHg、標準治療群で135.3mmHgであった。中央値3.34年の追跡期間中に、一次アウトカムイベントは集中治療群147例(3.5%)に対して、標準治療群196例(4.6%)に発生した(ハザード比,0.74;95%信頼区間[CI],0.60~0.92;P=0.007)。主要転帰の個々の要素についても、集中治療群が有利であった。脳卒中のハザード比は 0.67(95% CI,0.47~0.97)、急性冠症候群は 0.67(95% CI,0.47~0.97) であった。急性心不全 0.27(95% CI, 0.08~0.98) 、冠動脈再灌流 0.69(95% CI, 0.40~1.18) 、心房細動 0.96(95% CI, 0.55~1.68) 、心血管死 0.72(95% CI, 0.39~1.32 )であった。安全性および腎機能に関する転帰は,低血圧の発生率が集中治療群で高かった(3.4%vs2.6%、P=0.03)ことを除き,両群間に有意差はなかった。

【ディスカッション】高血圧の集中治療は、心血管ベントの発生を有意に減少させ、ほとんどの副次的転帰についても良好な結果が得られた。一方であらゆる原因による死亡リスクは有意差は無かった。STEP試験もSPRINT試験はともに集中的な血圧コントロールが心血管系疾患の予防に有効であったが、両試験に大きな相違点がある。SPRINTでは診察室血圧は自動化されたシステムで行われすべてのプロセスで試験担当者は立ち会わなかったが、STEPではオシロメトリック電子血圧計を使用し訓練を受けたスタッフが診察室で血圧測定した。またSPRINTでは糖尿病患者は除外されている(髙石注:50歳以上の心血管リスク因子を有する非糖尿病患者を対象に、強化療法(目標SBP<120mmHg)と標準療法(目標SBP<140mmHg)とを比較)。両試験は脳卒中既往者を除外している。STEP試験とSPRINT試験のあらゆる原因による死亡や心血管死亡リスクの差は、試験の意義と適格基準、血圧の目標値、地理的位置、試験集団の人種的・民族的背景の違いによって部分的に説明されるかもしれない。STEP試験はサンプルサイズが大きく、慢性疾患を併せ持つ多様な患者層、高い追跡調査率、家庭血圧のモニタリングの使用などが長所である。試験の限界は中国の人口の90%以上を占める漢民族のみを対象としていること。今後は民族による無作為化の層別化が課題だろう。またFramingham Risk scoreは博仁を対象に作成されており、中国人成人の心血管系リスクを過大評価する可能性がある。
【結論】高齢の高血圧患者において,収縮期血圧の目標値を110~130mmHg未する集中治療は,130~150mmHg未満とする標準治療よりも心血管イベントの発生率が低いことが示された。


Figure 1. Screening, Randomization, and Follow-up.
介入を中止した患者は,収縮期血圧の目標値や降圧剤に関連する副作用のため試験介入を中止したが,追跡調査には参加した。追跡不能となった患者は、連絡が途絶え、ある追跡訪問から試験終了まで主要アウトカムに関するデータが確認されなかったものである。データの解析はITTアプローチに基づいて行われた。追跡不能となった患者も解析に含め、データは最後の追跡訪問の時点で打ち切った。

Figure 2. OfficeSystolic Blood Pressure Measurements.
平均投薬回数は、患者1人あたりの各診察時に投与された血圧降下剤の数に基づいている。

Figure 3. Cumulative Incidence for the Primary Outcome.
主要転帰は,脳卒中,急性冠症候群,急性心不全,冠動脈再灌流,心房細動,心血管系原因による死亡の複合とした。Fine-Gray 分布ハザードモデルを用いて計算し,臨床施設を調整。挿入図は、同じデータを拡大したY軸である。

【開催日】2022年3月2日(水)

年齢別の甲状腺刺激ホルモンの参照は、ヨウ素過剰地域の高齢患者の甲状腺機能低下症の過剰診断を減少させる

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Yingchai Zhang, Yu Sun, Zhiwei He, Shuhang Xu, Chao Liu1, Yongze Li, Zhongyan Shan, Weiping Teng. Age‐specific thyrotropin references decrease over‐diagnosis of hypothyroidism in elderly patients in iodine‐excessive areas. Clinical Endocrinology. 2021;1–8.

-要約-
過去にも、JCで潜在性甲状腺機能低下症の文献が取り上げられている。
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症(2017年) https://www.hcfm.jp/journal/?p=1318、レボチロキシンは80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症のQOLを改善しない(2020年)https://www.hcfm.jp/journal/?p=1919 

目的:
過剰なヨウ素への急性または慢性の曝露は、甲状腺の生理機能に有害な影響を及ぼす。したがって、この研究は、過剰なヨウ素摂取に慢性的にさらされている地理的地域に居住する高齢者集団における顕性甲状腺機能低下症(OH)および潜在性甲状腺機能低下症(SCH)の有病率を決定し、寄与する危険因子を分析することを目的とした。

設計:
この横断的研究は、高ヨウ素摂取への慢性的な曝露を記録した江蘇省の地域で2016年から2017年に実施された。
対象者:
多段階の層化抽出法を使用して、2559人の成人参加者を登録した。

測定:
尿中ヨウ素濃度(UIC)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベル、およびその他の関連パラメーターを測定した(Table 1.ヨウ素過剰地域の研究参加者の特徴)。人口統計情報は、標準化された質問票を使用して記録された。年齢別のTSH参照は、米国臨床生化学会ガイドラインによって決定された(Table2.無病者の年齢別TSH参照, Table3. TIDE研究からのヨウ素が適切な地域の無病者の年齢別TSH参照, Figure1. 2つの異なる年齢層におけるTSH分布。点線:70歳以上の無病者。実線:70歳未満の無病の個人)。
単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実行して、研究対象集団における甲状腺機能低下症の危険因子を特定した。

結果:
参加者のUICの中央値は307.3µg / L(四分位値:200.7、469.8 µg / L)だった。検査室の基準値を使用した70歳以上の被験者におけるOHの有病率は2.37%だった。ただし、年齢別の参照範囲を使用すると、1.78%に減少した。同様に、SCHの有病率も、年齢別の基準値を適用すると、29.59%から2.96%に大幅に低下した(Table 4.OHおよびSCHの有病率)。
単変量モデルと多変量モデルの両方で、甲状腺機能低下症の危険因子として、高齢、女性の性別、および高いUICが特定された(Table5. 甲状腺機能低下症の危険因子)。

限界:
まず、甲状腺疾患の病歴など、研究のいくつかのパラメーターは、長期の医療記録がない場合、参加者による想起バイアスの影響を受けている。第二に、食事中のヨウ素摂取量の推定では、食事中のヨウ素の重要な供給源でもある他の食品(卵など)を無視している。したがって、食事中のヨウ素摂取量を過小評価する可能性がある。第三に、この研究はヨウ素過剰地域で実施された。したがって、この研究集団から得られたTSH基準値は、生理学的に「正常」とは見なされない可能性がある。年齢別のTSH基準値は、ヨウ素が適切な領域の基準値よりも高く、甲状腺機能低下症の診断を過小評価している可能性がある。したがって、適切なヨウ素状態の領域での定期的なスクリーニングの基準範囲を決定することが最善である可能性がある。最後に、これは2016年から2017年までのデータが収集された横断研究だった。政府はその後2018年にこれらの地域の非ヨウ素化塩を承認したため、現在のシナリオは大幅に異なる可能性がある。私たちの知る限り、これらの地域での非ヨウ素添加塩の使用によってOHとSCHの有病率が変化したかどうかを調査した研究はまだない。したがって、これらのヨウ素過剰地域における非ヨウ素化塩法の影響を調査するために、5年間の追跡調査を開始する。

結論:
年齢別のTSH基準値を使用すると、研究対象集団におけるOHおよびSCHの有病率が大幅に低下し、不必要な過剰診断および過剰治療が防止された。

【開催日】
2022年2月2日(水)

Inappropriate treatments for nursing home patients at the end of life / May 2021

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
Honinx E, Van den Block L, Piers R, et al. Potentially Inappropriate Treatments at the End of Life in Nursing Home Residents: Findings From the PACE Cross-Sectional Study in Six European Countries.J Pain Symptom Manage. 2021;61(4):732-742.e1. doi:10.1016/j.jpainsymman.2020.09.001

―要約―
Introduction
ヨーロッパでは、65歳以上の高齢者の最大38%が老人ホームで亡くなっている。ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランドの老人ホームでPACE(Palliative Care for Older、高齢者のための緩和ケア)の横断的研究を行った。

目的
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合を推定し、国による違いを分析すること。

Method
研究デザインとサンプリング
老人ホームの死亡した入居者を対象とした横断的な調査を、2015年に6つのヨーロッパの国(ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランド)で、比例層化無作為抽出法を用いて実施した。各国の老人ホームは、地域(州やその他の大きな地域)、種類、ベッド数(国の中央値以上/以下)で層別され、国全体をカバーするように無作為にサンプリングされました。

データ収集
過去3カ月間に死亡した入居者の概要と、それぞれの主要な回答者(スタッフ、すなわち、ケアに最も関与している看護師/ケアアシスタント、管理者/運営者、GP)のリストを各施設が提供した。これらの人々には、匿名コードと、完全な匿名性と守秘性を保証する添付文書が付いた紙のアンケート用紙が送られ、アンケート用紙はエクセルファイルを使ってモニターする研究者に直接返却された。自分が知っている限りで、これらの治療が人生の最後の週に行われたかどうかを尋ねられました。

測定方法
本研究で、不適切な治療とは、期待される健康上の利益(寿命の延長や痛みの軽減など)よりも、負の影響(死亡率や症状の重さなど)が大きい」治療や投薬を指す。
人工経腸栄養(経腸栄養、経管栄養TPN)、輸液、蘇生、人工呼吸、輸血、化学療法・放射線療法、透析、手術、抗生物質、スタチン、抗糖尿病薬、新規経口抗凝固薬を対象とした。

Results
調査対象者の特徴
死亡時の平均年齢は、ポーランドで81歳、ベルギーとイギリスで87歳となっていた(表1)。入院者はほとんどが女性で、ポーランドの63.5%からイングランドの75%までの範囲であった。入所者は主に老人ホームで死亡した(ポーランドでは80%、オランダでは89.3%)。認知症は、フィンランドで最も多く(82.5%)、イングランドで最も少なかった(60.2%)。死亡時の疾患としては、悪性がん(42.9%)であったイングランドを除き、すべての国で重度の心血管疾患が最も多く報告されました(ベルギー34.7%~ポーランド55.7%)。機能的および認知的状態が最も悪かったのはポーランド(BANS-S平均スコア21.9)で、最も良かったのはイングランド(BANS-S平均スコア17.5)であった。

6カ国における、人生の最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合の違い
最後の1週間に少なくとも1つの不適切な治療を行った割合は、ベルギーの19.9%からポーランドの68.2%まで差があった(p<0.001)。人工的な栄養補給や水分補給は、ポーランドで最も多く(54.3%)、オランダでは最も少なかった(2.7%、p<0.001)。ポーランド(48.6%)とイタリア(24.5%)では輸液が最も多く使用されていた(p<0.001)。経腸栄養剤は主にポーランド(17%;p>0.001)で投与されていたのに対し、経管栄養はイタリア(21.5%;p>0.001)で多く使用されていました。すべての治療法のうち、抗生物質の使用が最も多く、ベルギーの11.3%からポーランドの45%まで、すべての国で使用されました(p<0.001)。
リスク因子調整の結果、これらの差は住民の特性によるものではなく、各国の適切なケアの違いを反映したものであると考えられた。

Discussion
ほとんどの治療法の存在割合は、国によって統計的に有意に異なっていた。

研究の強み
医療制度や緩和ケアの文化が異なる欧州6カ国の322の老人ホームの1,384人の入居者のデータを含めることができた。リスク調整を行うことで、本研究の結果が国ごとの存在割合の違いを反映しており、入居者の特性の違いに影響されていないことが確認されました。

研究の限界
①調査データから、特定の治療法が「不適切」な場合を推測することはできず、治療が行われた時点では、ある治療が不適切であるとは考えられなかったかもしれない。
②データは看護師個人から収集したため、リコールバイアスの可能性があります。
③治療の開始時期や臨床的な適応についての情報を収集していない。
④治療法によっては大量の欠損データ(最大で24%)があった。 → 不完全な症例と完全な症例の回帰帰納法による感度分析を行いました。その結果、主に同様の結果が得られ、欠損データの影響は小さいことがわかりました。
⑤入居者が病院で死亡した場合、老人ホームは人生最後の1週間の病院での治療に関する情報を持っていない可能性があり、これが過小評価につながる可能性があります。→ 病院で死亡した入居者は全体の15%に過ぎないことから、これによるバイアスの可能性は小さいと思われます。

臨床的意義
国による違いが大きいことから、文化的な違いを考慮して、介護施設のスタッフやGPが治療の意思決定や終末期の認識を行う際に役立つガイドラインを作成する必要がある。介護施設における事前のケアプランは、入居者、親族、介護者が将来のケアの目標や好みを話し合うのに役立つ可能性があるため、より大きな注意を払う必要がある。最後に、終末期のケアに関する会話や終末期のケアの身体的側面に関するスタッフのトレーニングが必要である。今回の結果は、政策立案者やその他の意思決定者が、老人ホームにおける終末期ケアの適切性を向上させるための公衆衛生政策や介入策を策定する際に利用することができ、また、国境を越えて優良事例を交換することができます。

Conclusion
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における不適切と思われる治療の存在割合は、抗生物質の使用が一般的であったことを除いて、ほとんどの調査対象国で低かった。イタリアとポーランドでは,すべての治療がより多く行われており,特に人工栄養・輸液と抗生物質の投与が多かった。これらの違いは、法律、ケア組織、文化、緩和ケアに関する介護施設スタッフの知識や技術など、国ごとの違いを反映している。

【開催日】
2021年10月6日(水)

Guideline on behavioral and psychological treatments for chronic insomnia in adults (April 2021)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
Edinger JD, Arnedt JT, Bertisch SM, Carney CE, Harrington JJ, Lichstein KL, Sateia MJ, Troxel WM, Zhou ES, Kazmi U, Heald JL, Martin JL. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine systematic review, meta-analysis, and GRADE assessment. J Clin Sleep Med. 2021 Feb 1;17(2):263-298.

―要約―
はじめに
成人の慢性不眠症の行動療法や心理療法を活用する臨床ガイドラインを裏付けるエビデンスを提供することが、このシステマテックレビューの目的である。

方法
米国睡眠医学学会は9人の睡眠医学と睡眠心理学の専門家による研究班を組織した。成人の慢性不眠症の治療のための行動療法、心理療法に関するRCTの同定のためシステマテックレビューが行われた。切実で重要なアウトカムにおける臨床的に有意な改善を生み出す治療法かどうか同定するため、統計解析が行われた。最終的には、治療法を推奨するエビデンスを評価するGrading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation process(GRADEアプローチ) が使われた。

結果
1244件の文献が検索され、124件が組み入れ基準に合い、89件が統計解析に耐えうるデータを提供した。認知行動療法、ブリーフセラピー、刺激管理法2)、睡眠制限療法3)、リラクゼーション訓練4)、睡眠衛生5)、バイオフィードバック6)、逆説志向、集中的睡眠再訓練、マインドフルネス、のエビデンスが示された。エビデンスの質、利点と害のバランス、患者の価値観と好み、資源利用への配慮に関する要約も提示した。

*2 刺激管理法 例)寝室は寝るだけ、起きたら部屋から出る、TVや本を寝室で見ない
*3 睡眠制限法 例)日誌等から平均睡眠時間から逆算して、就寝時間を遅くする
*4 リラクゼーション 例) 腹式呼吸、筋ストレッチ、自律訓練法
*5 睡眠衛生 例)食事、運動、嗜好品の適切指導、光、音、気温の環境調整、加齢と睡眠時間の説明
*6 バイオフィードバック 例)前頭筋の筋電図をモニタリングして、リラックス法をみにつける
*7 逆説志向
夜、眠ろうとして眠れない経験を多くの人がもっています。眠ろうと思えば思うほど、眠れなくなるのです。眠ろうとする自分に意識が向きすぎる「過剰な自己観察」のために余計に睡眠が遠のいていきます。そこでフランクルは、眠れない夜は眠ることを諦めるように勧めます。「今夜はちっとも眠りたくない、ひとつ今夜は体を休ませながら、あれやこれやを考えてみたい。この前の休暇のことや、つぎの休暇のことをなど」本来であれば避けたい眠れない状況を、ユーモアをもって自ら望むことによって逆に睡眠を求める過剰な意識が薄れて眠りが訪れるというのです。
参照:https://diamond.jp/articles/-/176280?page=3
*8 集中的睡眠再訓練 例)脳波が測定できる部屋で、寝ても3分以内に起こされる(30分1セットで5時間)

【開催日】
2021年9月1日(水)

COVID-19パンデミックに伴う、米国におけるがん検診不足の関連性について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献―
Ronald C. Chen, MD, MPH; Kevin Haynes, PharmD, MSCE; Simo Du, MBBS, MHS; John Barron, PharmD; Aaron J. Katz, PharmD, PhD
Association of Cancer Screening Deficit in the United States With the COVID-19 Pandemic.JAMA Oncol. 2021;7(6):878

―要約―
重要性
COVID-19パンデミックは、がん検診の急激な減少をもたらした。しかし、パンデミックに伴う米国でのスクリーニングの総量の減少と、異なる地域や社会経済的地位(SES)の指標による個人への影響の違いについては、まだ完全には解明されていない。

目的
COVID-19パンデミックに関連する乳がん、大腸がん、前立腺がんのスクリーニング率を、異なる地域および異なるSES指数四分位の個人について定量化し、2020年における米国人口全体のがんスクリーニング不足を推定する。

デザイン、セッティング、参加者
このレトロスペクティブコホート研究では、米国の地理的に多様な地域のメディケアアドバンテージおよび商業医療プランに加入している約6,000万人を対象とした、単一支払いの行政請求データと登録情報からなるヘルスコア統合研究データベースを使用している。参加者は、2018年、2019年、2020年の1月から7月にデータベースに登録された個人で、分析指標月以前に対象となるがんの診断を受けていない人でした。

※メディケア(Medicare)は、65 才以上の高齢者と 65 才未満の障害者向けの米国の公的 医療保険プログラムである。米国の 65 才以上の高齢者のほぼ全員がメディケアに加入し、その数は 2013 年において 4,350 万人に上った。また、障害者の加入者数は 88万人であり、合計すると 5,230 万人、国民全体の約6人に1人がメディケアを利用している。 メディケアは4つのプログラムに分かれている。それらは、パート A(病院保険)、パート B(補足的医療保険)、パートC(メディケア・アドバンテージ)、パート D(外 来処方薬給付)であり、それぞれ財源が異なる。
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/usa/20141027_009074.pdf

介入:分析指標の月と年

主要な結果と測定方法:乳がん、大腸がん、前立腺がんの検診のレセプト。

結果
2020年の3月から5月にかけて、3つのがんの検診は2019年に比べて急激に減少し、4月に最も急激な減少が見られ(乳がん:90.8%減、大腸がん:79.3%減、前立腺がん:63.4%減)、乳がんと前立腺がんでは7月までに月間検診率がほぼ完全に回復した。(Figure1.)
COVID-19パンデミックに伴う米国人口全体の検診不足の絶対値は、乳がんで390万人、大腸がんで380万人、前立腺がんで160万人と推定された。
地域別に見ると、北東部が最も急激に検診数が減少し、西部は中西部や南部に比べて回復が遅れていた。例えば、4月の乳がん検診率の変化率(2020年対2019年)は、西部では-87.3%(95%CI、-87.9%~-86.7%)、北東部では-94.5%(95%CI、-94.9%~-94.1%)となっている(低下)。7月は、中西部の-0.3%(95%信頼区間、-2.1%~1.5%)から西部の-10.6%(同、-12.6%~-8.4%)までの範囲であった(回復)。
SES別では、SES指数が最も高い四分位の個人でスクリーニングの減少幅が最も大きく、2020年にはSESによるがんスクリーニングの格差が縮小することが示された。例えば、SES指数が最も低い四分位と最も高い四分位の個人の10万人の加入者あたりの前立腺がん検診率は、2019年4月にはそれぞれ3525(95%CI、3444~3607)と4329(95%CI、4271~4386)であったのに対し、2020年4月には1535(95%CI、1480~1589)と1338(95%CI、1306~1370)であった。多変量解析の結果、遠隔医療利用はより高いがん検診と関連していた。

Limitations:
例えば、保険に加入している人のみを対象とした分析では、COVID-19パンデミックに関連したがん検診の不足を集団レベルで推定することに偏りが生じる可能性がある。特に、今回の分析は、保険に加入していない人や公的保険に加入している人を代表していない可能性があり、SESとの関連を過小評価する可能性がある。もう一つの限界は、分析に必要な人種/民族の情報がないことである。
また、解析に使用したコードの多くはスクリーニング検査に特化したものだったが、コードによってはスクリーニングと他の臨床的適応のための検査を区別しないものもあった。対象となるがんの既往歴のない人を含めることで、スクリーニング以外の目的で実施された検査が不正確にカウントされるという限界は一部緩和された。

結論と関連性
COVID-19の大流行に伴うがん検診の大幅な不足に対処するためには、手技を必要としない検診方法の利用拡大など、公衆衛生上の努力が必要である。

【開催日】
2021年8月4日(水)

Testing rates in patients at high risk for primary aldosteronism (March 2021)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献―
Cohen JB, Cohen DL, Herman DS, Leppert JT, Byrd JB, Bhalla V. Testing for Primary Aldosteronism and Mineralocorticoid Receptor Antagonist Use Among U.S. Veterans : A Retrospective Cohort Study. Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):289-297. doi: 10.7326/M20-4873. Epub 2020 Dec 29. PMID: 33370170; PMCID: PMC7965294.

―要約―
Introduction:
原発性アルドステロン症は治療抵抗性高血圧の一般的な原因である。しかしカリフォルニア、イリノイ、およびニューヨークのヘルスシステムの研究からのエビデンスでは原発性アルドステロン症の検査率が推奨されている患者の間で3%未満と低いことが示唆されている。
しかし、同様の研究は大規模には行われておらず、大規模で高度に統合された医療システムで検査率が低いかどうかは不明である。明らかな治療抵抗性高血圧の発症と検査に関連する要因を有する米国退役軍人における原発性アルドステロン症の検査頻度を評価することを目的とした。また、テストがMRA療法による明らかな治療抵抗性高血圧のエビデンスに基づく治療及び長期血圧コントロールの違いと関連しているかどうかを評価しようとした。
Method:
 Design:レトロスペクティブコホート
 Date Source:米国退役軍人保健局(VHA) Corporate Date Warehouseの米国退役軍人保健局データを使用。このデータには約900万人の退役軍人に関する詳細な診断コード、検査結果、バイタルサイン、薬局の処方記録が含まれる。
Participants
2000年〜2017年に明らかな治療抵抗性高血圧(n=269,010)の退役軍人で、治療抵抗性高血圧とは3種類の降圧薬(利尿薬を含む)で治療中に少なくとも1ヶ月間隔で収縮期血圧が140mmHgもしくは拡張期血圧が90mmHg以上であること、もしくは4つのクラスの降圧薬を必要とする高血圧で定義される。
 除外:原発性アルドステロン症の検査を受けた、または明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たす前にMRA治療を開始した患者、および明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たす前に慢性腎臓病ステージ4または5または末期腎臓病を患った患者を除外した。
primary end point:血中アルドステロン濃度と血漿レニン活性まだは血漿レニン濃度のいずれかの同時測定として定義される、原発性アルドステロン症の検査の実施割合
secondary end point:MRA治療の開始とSBPの経時的変化

Results
明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たした後の、フォロー期間の中央値は3.3年で、4277人(1.6%)が原発性アルドステロン症の検査を受けた。(Figure1) Figure2の左の図は各VHA医療センター(n=130)で原発性アルドステロン症の検査を受けた治療抵抗性高血圧症の患者の割合を示している。検査率は全体の0~6%で明らかな治療抵抗性高血圧の患者数は医療センター全体の検査率との相関はなかった。Figure2の右の図は年ごとの検査率で検査率は年間1〜2%だった。
(Appendix Figure)原発性アルドステロン症の検査に関連する要因として、患者レベルでは低カリウム血症(standardized hazard ratio [HR], 1.93 [95% CI,1.80 to 2.07])、より高いSBP(standardized HR, 1.43 [CI,1.37 to 1.49])、を含むいくつかの要因が検査を受ける可能性が高い。また、腎臓内科医(HR,2.05[95%CI,1.66~2.52])または内分泌科医(HR,2.48[95%CI,1.69~3.63])による患者の問題を特定するための外来(index visit)はプライマリケアと比較して検査をする可能性が高いことに関連していた。センターレベルでは地方は非地方より検査をする可能性が低かった(HR, 0.53 [CI, 0.31 to 0.91])。
(table2)原発性アルドステロン症の検査を実施した場合は検査なしの場合と比較して、MRA療法を開始する可能性が4倍高く(HR 4.10[CI3.68~4.55])、低カリウム血症の病歴のある患者は低カリウム血症のない患者(HR, 4.21 [CI, 3.59 to 4.94])よりMRA(HR, 7.11 [CI, 6.25 to 8.10])で治療される可能性は高かった、そして、時間経過とともにより良い血圧コントロールと関連していた。
 Limitation:主に男性のコホートで後ろ向きデザイン、誤分類に対する診察室血圧の感受性の問題、および原発性アルドステロン症の確定検査の欠如などがlimitationである。
Conclusion:明らかな治療抵抗性高血圧を伴う退役軍人に関する全国的に施行したコホートでは原発性アルドステロン症の検査は稀であり、原発性アルドステロン症の検査はMRAによるエビデンス に基づく治療の割合が高いことと、長期的なBPコントロールが優れていることに関連していた。この発見は小規模な医療システムにおけるガイドライン推奨の実践への遵守が低いという以前の観察を補強し、治療抵抗性高血圧患者の管理を改善する緊急の必要性を強調している。

【開催日】
2021年7月7日(水)

急性心筋梗塞後の長期ベータブロッカー療法の継続期間(2020年12月)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献-
Long-term b-blocker therapy and clinical outcomes after acute myocardial infarction in patients without heart failure: nationwide cohort study
European Heart Journal (2020) 41, 3521–3529 doi:10.1093/eurheartj/ehaa376

-要約-
Aims
長期間のベータブロッカー療法とAMI後に心不全を起こしていない患者での臨床的アウトカムの関連を調査すること
Method
2010年〜2015年の間に退院時にベータブロッカー療法によるAMIの冠動脈血行再建術を受け、死亡、再発性MI、またはHFが1年間発生しなかった、合計28,970人の18歳以上の患者が韓国の全国医療機関の保険データから登録された。
Primary outcomeは全死因。
Secondary outcomeは再発性MI、新規HFによる入院、全死因による死亡・再発性MI・新規HFによる入院の各二次転機と複合アウトカム
Outcomes
アウトカムは指標MI後1年後のランドマーク分析を利用して1年以上のベータブロッカー療法(N=22707)と1年未満のベータブロッカー療法(N=6263)の結果を比較した。(Figure1)
フォローアップ期間の中央値は3.5年(2.2~5.0年)、1684人が死亡した。
1年未満のベータブロッカー療法を受けた患者と比較して、1年以上のベータブロッカー療法を受けている患者は、全死因による死亡リスク [調整済みハザード比(HR)0.81;95%CI0.72-0.91]および全死因による死亡、再発性MI、また新しいHFによる入院の複合アウトカム[調整済みハザード比(HR)0.82;95%CI 0.75-0.89]のリスクは優位に低かったが、再発性MIと新規HFによる入院のリスクは優位ではなかった。(table 2 Figure2)サブグループ解析でも1年以上のベータブロッカーの使用と全死因のリスクの関連は一貫していた。(Figure3)
Figure4ではそれぞれの地点でベータブロッカーを継続している患者と中断した患者を示している。継続的なベータブロッカー療法に関連する全死因のリスク低下 [調整済みハザード比(HR)0.86;95%CI 0.75-0.99]、再発性MIのリスク低下(調整済みHR 0.67; 95%CI 0.51–0.87; P = 0.003)は2年を超えて観察されたが、MI後3年を超えては観察されなかった。[調整済みハザード比(HR)0.87;95%CI 0.73-1.03]。全死因、再発性MI、新しいHFによる入院の複合リスクは3年以上持続するベータブロッカーによる加療を受けた患者で有意に低かった。(adjusted HR 0.85; 95% CI 0.74–0.98; P = 0.03) (table3,Figure4)
Discussion
 今回のコホート研究ではAMI後に心不全を起こさなかった1年以上のベータブロッカー療法をうけた患者が1年以下しか加療を受けなかった患者に対して、より低い全死因のリスクと関連があった。その有益な効果は様々のサブグループの中でも一貫していた。
 現在の結果にはいくつかのもっともらしい説明がある。
① HFなしに退院したAMIの多くの患者はフォローアップ中にMIの再発や再入院、HFによる死亡を経験している。それゆえに、二次予防としてベータブロッカーを続けることは退院の時にHFがない患者にとって有益であるかもしれない
② 血圧は長期でベータブロッカー治療を受けた患者の方が受けていない患者に比べてコントロールが良い可能性がある。血圧コントロールは冠動脈疾患がある患者のリスクを減らす重要な治療であり、厳格な血圧コントロールは冠動脈イベントリスクの高い患者にとって心血管イベントを改善する。
③ 血管内超音波試験からのプールされた分析では、ベータブロッカー療法は冠動脈疾患のある患者はアテローム量の減少に関連があることを示したので、冠動脈の動脈硬化の進展を遅らせる可能性がある。
Limitation
① この研究ではベータブロッカーを使う理由を特定できていない。長期間のベータブロッカー治療を受ける患者はフォローアップ中にベータブロッカーを中断した人たちに比べてベータブロッカー療法に耐えられているため、重度リスクのプロファイルが少ないかもしれない。潜在的なバイアスを乗り越えるために、我々はAMI後の早期ステージにベータブロッカー治療を始めた人々を除外した、そして、immortal time biasを回避するためにランドマーク解析を実施した。
② 記録されていない交絡因子によって引き起こされる潜在的な選択バイアスが存在する。例えば、我々はAMIのタイプの情報や欠陥造影による重症度、人体計測的・行動科学的要因などの情報は欠落していたし、請求に基づく疾病管理に関する情報は限られていた。
③ 左室機能障害に伴う情報はなかった。しかし、韓国におけるMIを経験した大部分の患者は左室駆出機能を保っていた。その上,駆出率の低い患者はベータブロッカー療法を受け、予後不良である可能性が高いためこのタイプのバイアスを我々の発見で説明する可能性は低い。
Conclusion
MI後の1年以上ベータブロッカー療法を受けたHFのないAMIの患者における全死因による死亡の減少と関連があった。しかし。AMI後のルーチンなベータブロッカー療法の適切な期間を決定するにはさらなる大規模なRCTが必要とされる。

【開催日】2021年3月3日(水)

皮膚感染と軟部組織膿瘍の診断のためのPOC超音波検査についてのまとめ

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Gottlieb M, Avila J, Chottiner M, Peksa GD. Point-of-Care Ultrasonography for the Diagnosis of Skin and Soft Tissue Abscesses: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Emerg Med. 2020;76(1):67. Epub 2020 Feb 17.

-要約-
目的
皮膚および軟部組織の感染症は、救急部門ではコモンな主訴である。これまで研究では身体診察だけでは蜂窩織炎と膿瘍を区別するのに信頼性が低いことが示されている。皮膚と軟部組織感染症の診断精度が向上するツールとして、POC超音波が研究された。
今回の目的は、膿瘍に対するPOC超音波の診断精度を評価することである。サブグループ解析は、成人対小児の患者、および高率の疑い症例と臨床的にはっきりしない症例について実施され、副次的な目的として、POC超音波によるマネジメントの変更が正しかったか誤っていたのかの割合、および治療失敗の減少についてが含まれている

方法
皮膚および軟部組織膿瘍の評価のためのポイントオブケア超音波検査の診断精度を評価するすべての前向き研究について、PubMed、Scopus、Latin American and Caribbean Health Sciences Literature Database、Cumulative Index of Nursing and Allied Health、Google Scholar、Cochrane Database of Systematic Reviews、Cochrane Central Register of Controlled Trialsについて研究開始から2019年7月26日までの間の文献を調査した。
データは事前に定義されたワークシートに二回抽出しQUADAS-2 ツール(診断精度に関する研究の質を評価するためのツール、Table2参照)を用いて分析を行った。診断精度は、感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比でそれぞれ95%信頼区間を示した。

結果
・我々は14件の研究(患者数2,656人)を同定し、その結果POC超音波は感度94.6%(95%CI 89.4%~97.4%)、特異度85.4%(95%CI 78.9%~90.2%)で、陽性尤度比は6.5(95%CI 4.4~9.6)、陰性尤度比は0.06(95%CI 0.03~0.13)であった。
・POC超音波は感度94.6%(95%CI 89.4%~97.4%)、特異度85.4%(95%CI 78.9%~90.2%)で、陽性尤度比は6.5(95%CI 4.4~9.6)、陰性尤度比は0.06(95%CI 0.03~0.13)であった。
・検査前に膿瘍または蜂窩織炎の疑いが高かった症例では、POC超音波の感度は93.5%(95%CI 90.4%~95.7%)、特異度は89.1%(95%CI 78.3%~94.9%)で、陽性尤度比は8.6(95%CI 4.1~18.1)、陰性尤度比は0.07(95%CI 0.05~0.12)であった
・臨床的にはっきりしないCaseではPOC超音波は感度91.9%(95%CI 77.5%~97.4%)、特異度76.9%(95%CI 65.3%~85.5%)で、陽性尤度比は4.0(95%CI 2.5~6.3)、陰性尤度比は0.11(95%CI 0.03~0.32)であった
・成人ではPOC超音波は感度98.7%(95%CI 95.3%~99.8%)、特異度91.0%(95%CI 84.4%~95.4%)で、陽性尤度比は10.9(95%CI 6.2~19.2)、陰性尤度比は0.01(95%CI 0.001~0.06)であった
・小児患者では、POC超音波の感度は89.9%(95%CI 81.8%~94.6%)、特異度は79.9%(95%CI 71.5%~86.3%)で、陽性尤度比は4.5(95%CI 3.1~6.4)、陰性尤度比は0.13(95%CI 0.07~0.23)であった
・POC超音波は10.3%(95%CI 8.9%~11.8%)の症例で方針変更につながり、0.7%の症例で間違った方針変更につながった(95%CI 0.3%~1.1%)

結論
最近のデータによると、POC超音波は膿瘍と蜂窩織炎の鑑別診断のための良い診断精度を有し、10%の症例で正しい治療変更に導いた。さらなる研究では、理想的なトレーニングとそのための適した画像収集のプロトコルを特定する必要がある。

【開催日】2021年2月10日(水)

無症候性重症大動脈弁狭窄症における早期手術

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Kang, Duk-Hyun, et al. Early surgery or conservative care for asymptomatic aortic stenosis. New England Journal of Medicine. 2020;382(2):111-119.

-要約-
背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

結論
非常に重度の大動脈弁狭窄を有する無症候性の患者において,早期に大動脈弁置換術を受けた患者では,保存的治療を受けた患者に比べて,追跡期間中の手術死亡または心血管系原因による死亡の複合アウトカムの発生率が有意に低かった.

ディスカッション
・本研究の意義:無症状の重症大動脈弁狭窄症患者における手術の決定は弁置換術のリスクと経過観察のリスクの間のバランスを慎重に見積もる必要がある。大動脈弁狭窄症は、慎重な経過観察+症状が出るまで手術を遅らせる戦略は比較的安全ではあるが、突然死のリスク、患者による症状の否定または報告の遅れ、不可逆的な心筋損傷、および手術リスクの上昇と関連する。以前の観察研究で見られたベースライン治療の群間の違い、治療選択バイアス、および測定されていない交絡因子を減らすことで本研究では、早期大動脈弁置換術を支持する証拠を示した。
・示されたベネフィットに対する説明:2群間の長期生存期間の有意差の理由として考えられるのは、第一に、本試験および最近の低リスク患者における外科的大動脈弁置換術とTAVRを比較した試験では、手術リスクはそれより以前の研究に比べて大幅に低かった点である。この試験では、手術による死亡率は1%未満であり、綿密な術後のモニタリング・術後のケアの改善により、早期手術に関連した長期的なリスクが大幅に減少した可能性がある。第二に、早期手術群では突然死が見られなかったことから、早期手術により突然死が避けられた可能性がある。対照的に、保存的治療群では、症状が出る前の大動脈弁狭窄の進行中の突然死の年間リスクが上昇する傾向があった。第三に、保存的治療群では、最終的な大動脈弁置換術は避けられず、大動脈弁置換術のリスクは、症状が進行するまで手術が延期されたことで増加した可能性である。手術後の心血管系イベントは保存的治療群でより頻繁に観察され、大動脈弁置換術を遅らせることによる長期的リスクが高いことが示唆された。
研究の限界と適用上の注意:第一に、大動脈弁狭窄の重症度が高い患者を対象とした本試験では、手術待機時間によりリスクが高まるため、早期手術が良い結果に出る傾向があった可能性がある。第二に、早期手術群では5%、保存的治療群では3%の患者でクロスオーバーが発生した。ただ、Per-protocol解析とintention-to-treat解析の結果はほぼ同じであった。第三に、この試験は盲検化されていないため、患者が受けた治療を臨床医が把握していることに、非致死的転帰が影響を受けた可能性がある。第四に、重度の大動脈弁狭窄症を有する無症候性の患者に症状がないことを確認するために運動検査を行うことは妥当であるが、本試験では選択的にしか実施されていない。第五に、患者数の少なさと主要エンドポイントイベントの少なさが本試験の重要な限界である。最後に、この試験では比較的若い患者(最近の低リスク患者を対象としたTAVR試験に登録された患者と比較して)が対象であり、その中でも二尖性大動脈弁疾患の発症率が高く、左室収縮機能が正常で、共存する疾患が少なく、手術リスクが低い患者が含まれていた。このように、我々の試験集団はTAVR試験に登録されている集団とはかなり異なっており、無症候性の重症大動脈弁狭窄症に対する早期TAVRに直接結果を適用できない。

【開催日】2021年2月3日(水)