危機におけるリーダーの危うい姿と望ましい姿

―文献名―
ASTDグローバルネットワークジャパン リーダーシップ開発委員会「2011年度 ASTDグローバルネットワーク・ジャパン リーダーシップ開発委員会報告」2012年3月16日
 *ASTD:American Society for Training & Developmentという非営利団体の略称。主に人材開発や組織開発の分野でカンファレンスやセミナーを
      行っている団体。

―この文献を選んだ背景―
 診療所経営で日々様々な問題を経験し対処・対応しているが、その問題が危機的状況となると違うリーダーシップが自然と発動される感覚があった。先の震災でも話題になった「危機のリーダーシップ」について学習・省察しようと調べてみたところ、この文献に出会うことが出来たので共有する。

―要約―
【作成経緯】
 ASTDの日本支部のリーダーシップ開発委員会で、2011年7月から2012年2月まで10回の議論を行い、企業組織の内部に起因する“危機”とその対処における“あるべきリーダーシップ”に着目し、組織の危機対応のプロセスを①迫りくる危機、②危機への対処、③体質の転換の3つのフェーズに区切り、各フェーズでのリーダーシップ(トップ、ミドル、社員に求められるフォローワーシップ)の仮説を立て、インタビューや文献調査によるモデル化を行った。

【資料要約】
●フェーズ①「迫りくる危機」:危機は顕在化していないが、リスクが存在する局面
  ■組織の状況
   ◇ 杜撰で不透明な管理体制、不正や問題に対する感度の低さ、世間と組織の倫理観のズレ、現状追認の意識、組織防衛を優先
  ■リーダーの意識・行動の描写
   ◇ トップ:緩い現状認識、重んじる判断軸のズレ、自らの地位への執着
   ◇ ミドル:当事者意識の欠如

  ■望ましい意識・行動
   ◇ トップ・ミドル共通:
    ・信頼関係の構築、問題解決への執着、鋭い情報収集アンテナ、失敗経験を生かす、厳しい現状認識から逃げない姿勢(不都合な情報・
     事態に向き合う、丹念な情報収集)、価値基準の明示(長期的な組織の発展を重んじる、顧客・社会の立場で考える)
   ◇ トップに求められること:
    ・理念・危機対応方針の共有、危機対応への覚悟、私利私欲の排除
   ◇ ミドルに求められること:
    ・社内の連帯作り、現場での危機対応シナリオ構築、危機対応への覚悟
   ◇ 現場に求められること:
    ・現場の生の声を上げる
  ■望ましい組織体制・文化のあり方
   ◇ 組織全体に求められること:
    ・風通しの良い組織作り、危機の想定の具体策、危機対応シナリオ構築、危機対応に関する社内リソース構築、危機対応に関する
社外リソース活用
   ◇ トップに求められること:
    ・適切な人材登用

●フェーズ②「危機への対処」:危機が顕在化し、危機への対処処置を行っている局面
  ■組織の状況
   ◇ 危機への無関心・楽観、危機発生直後にパニック発生、不安・不信の高まり、情報錯綜・隠蔽、外部からの関心の高まり、
     司令塔不在による混乱、外部からの批判・糾弾、組織内部の疲弊、社会的制裁
  ■リーダーの意識・行動の描写
   ◇責任回避、判断回避、外部の権威への依存、多方面への受身の対処、脅威による疲弊

  ■望ましい意識・行動
   ◇ トップ・ミドル共通:
    ・的確でスピーディーな情報収集、的確な情報発信、事態収拾の徹底
   ◇ トップに求められること:
    ・価値観の明示と実践、正しい現状認識、適切な情報コントロール、積極的な内部コミュニケーション、社内のモチベーション維持への配慮、
     覚悟の明示、真摯な対応姿勢、ポジティブな思考と迅速な行動
   ◇ ミドルに求められること:
    ・方向性の明示、オープンな情報共有・的確な状況把握、主体的な行動、危機対応に集中
   ◇ 現場に求められること:
    ・事実に基づく現場の状況報告、即時最善の行動
  ■望ましい組織体制・文化のあり方
   ◇ 組織全体に求められること:
    ・危機対処組織の立ち上げ

●フェーズ③「体質の転換」:危機をバネに新生を目指している局面
  ■組織の状況
   ◇ 経営破綻への不安、上層部への批判、原因追究の動き、事態収拾の兆し、組織改革への機運、引責者・退職者の出現、組織の主体的な
     情報発信・危機的状況の沈静化、現場の主体性回復、再建への機運、新体制・ルールの構築、再生に向けた価値の再定義、新体制での方針・
基準策定、問題解決への取り組み、再発防止への取り組み
  ■リーダーの意識・行動の描写
   ◇ 旧リーダーの機能不全、新たなリーダーの出現、事業・組織体制の改革、企業価値・基準の新たな定義、信頼回復に向けたコミュニ
     ケーション、リーダーとしての覚悟と実践、大胆な改革・ビジョンの提示

  ■望ましい意識・行動
   ◇ トップに求められること:
    ・過去との決別・逃げない覚悟、新たな企業価値観の追及と明示、根本原因の解決、強いエネルギーと熱意、期限かつ誠実な行動、
ポジティブマインドを促す、部下への感謝、社外へのメッセージ発信、情報開示の徹底、着実な再生への取り組み、経営陣の信頼関係構築
   ◇ ミドルに求められること:
    ・風土改革の主導・実践、再生への熱意、方針を現場に落とす、現場のチーム作り、誠実な行動、体質転換への問題把握、
     有能な社員の引き留め
   ◇ 現場に求められること:
    ・現場管理の徹底、確実な業務運営、再生への建設的な関与、キャリアの再考
  ■望ましい組織体制・文化のあり方
   ◇ 組織全体に求められること:
    ・オープンで多様性を活かすしくみづくり、新たな企業文化構築への取り組み

―考察とディスカッション―
 危機を3つのフェーズに分け、在りがちな組織の現状やリーダーの行動の描写は反面教師になった。また望ましい意識・行動のリストは自分が行えていること・行えていないことのチェックリストにもなり、自然発生的な危機のリーダーシップでは不足する部分(意識しないと振る舞えないリーダーシップ)を補う情報となった。
 またリーダーのみならず、ミドル(HCFMならサイト長、診療所ならフェロー)の役割の重要性も認識できた。当事者意識を持ってリーダーと積極的にコミュニケーションを行い、現場を指揮するミドルの存在が危機対応には欠かせないと改めて実感した。
 また危機のときほど事実確認が濁り、組織のコントロールが難しくなる実感を持っている。自分なりには先入観や希望的観測を排し、冷静に「事実に基づくこと」情報管理と細かな情報発信を重視している。また組織コントロールを握るためにも、ギアをあげて巻き込むと同時に穏やかに落ち着いて振る舞うという、スピード感と安定感のバランスにも工夫している。
 危機を等身大に扱いどのようなパースペクティブで扱うのかのリーダーシップを鍛えていきたい。
皆さんが、この資料を読んで新たに学んだことは何ですか?
皆さんが、危機のリーダーシップで大切にした(い)ことは何ですか?

【開催日】
 2015年11月18日(水)

DSMの功罪:操作的診断は正しいのか

―文献名―
アラン・V・ホーウィッツ著.それは「うつ」ではない どんな悲しみも「うつ」にされてしまう理由
(原著名:The Loss of Sadness How Psychiatry Transformed Normal Sorrow Into Depressive Disorder).2011年 阪急コミュニケーションズ

―この文献を選んだ背景―
アリセプトの売り上げと認知症患者数の比例、新型うつ病と休職など精神疾患の診断criteriaは時に、社会問題まで発展することがある。私たち家庭医はプライマリケアを担うため、精神疾患と関わることが多いが、大局的に見た精神科業界の流れ、大きな位置付けをしめているDSMについて時に、批判的な視点をもっておくことも必要である。このような事を改めて考える必要を感じ、上記書籍を読んでみた。

―要約―
第一章:うつの概念
1960-1970年代に、同じ患者、同じ症状でも精神科医によって診断にバラツキがあることが問題となり、DSM作成チームは,1980年代から各疾患の明確な定義を確立するために、症状リストを提示することになった。

 DSM-5は、うつ病の症状を9つ挙げ、それを一定数以上満たせばうつ病の診断基準を満たすとしています。うつ病の症状については、次のようになっています。
佐藤先生図
これらのうち、
 ・5つ以上が2週間以上続くこと
 ・1か2のどちらかは必ず認めること
 ・苦痛を感じている事、生活に支障を来していることを満たすと「抑うつエピソード」であると判断され、更に他の疾患を除外している事
  (例えばお薬で誘発されたうつ状態など)
を満たすと、うつ病の診断基準を満たすこととなります。

第二章:正常な悲哀
 正常な悲哀は一時的なものであるとは限らない。夫婦間のごたごた、ストレスの多い仕事、長期にわたる貧困、慢性病などが背景にあれば悲哀も長時間つづく。
 乳幼児は主たる養育者から引き離されると、泣くなど特有の悲哀反応を示す。親密な関係の喪失に対して社会化以前の乳幼児が示す悲哀反応は、人の生得的な本性の一部であり正常な反応と考える。
進化で獲得したメカニズムだとしたら、悲哀は何のためにあるのか?
 ①社会的支援が得られる:うつ反応が助けが必要なことを周囲の人々へ知らせ、社会的支援を引き出すSOSの叫びである。
            絆の喪失後に強い苦痛を伴う悲哀を経験することで、人々は絆の大切さを実感し、結束の維持に努めるようになる。
            遠い祖先の時代には、狩猟などで家族が離れ離れになることがあり、このような環境では、喪失による悲哀は
            社会的な絆を強め、維持する強い動機付けになった。
 ②地位喪失後に身を守る手段となる:敗北や服従という状況に対する適応的な反応として、身を守ることに役立つ。
 ③不毛な努力を断念させる:今までの目標をあきらめて、新しい目標にエネルギーを向けるのは困難な作業だが、今行っている活動を
             中断し、考え込むことで、この作業をよりうまく遂行できる。

第三章:理由の有無という指標-古代から19世紀までのうつの診断史
メランコリー:これといった理由がないのに抑鬱状態になった場合。理由に対して抑うつの度合いが激しい場合。
 問題が解決したのちも鬱がつづくような場合→病的なうつとされていた。症状だけではなかった。

第四章:20世紀のうつ
 1950年代、アメリカでは精神科の治療の中心は重度の患者を扱う州立病院から、比較的軽度な外来患者を扱う精神分析セラピーへシフトした。そのため以前からある重度の障害を定義した統計マニュアルは役立たなくなり、1952年、アメリカ精神医学会は、新マニュアルを作成した(DSM-Ⅰ)
 この反応においては、うつと自己評価の低下によって、不安が軽減され、多少なりとも緩和される。この反応は現在の状況が引き起こしたもので、患者にとっての何らかの喪失が引き金となることが多く、往々にして過去の行為に対する後悔や罪悪感を伴う。このようなケースでは、喪失の現実的な状況だけでなく、喪失したものに対する患者の愛憎入り混じった感情の強さによって反応の強さが変わってくる。抑うつ反応は「反応性うつ」と同義であり、精神病性反応とは区別すべきものである。この区別で考慮すべきポイントは1)患者の生活歴、特に気分が激しく変化したか、人格構造、引き金となるような環境要因があったか。2)悪性の症状(自分は病気ではないかと異常に心配する、興奮、特に身体的な妄想、幻覚、激しい罪悪感、ひどい不眠症、自殺願望、極端な精神運動性の遅滞、深刻な思考の遅滞、麻痺)がないことである。
 うつ状態を意識化に潜む不安から自分を守る手段とみなすだけではなく、罪悪感と愛憎が維持混じる感情がうつの中核にあるという精神分析派の説を採用している。1967年、DSM-Ⅱは「抑うつ神経症」に簡潔な定義を与えている。
 この疾患は、内的な葛藤または愛する対象や大切にしていた所有物を失うなどの出来事による、過剰な抑うつ反応として現れる。これは「退行期うつ病」「躁鬱病」とは区別されるべき疾患である。反応性うつ、または抑うつ反応はこのカテゴリーに含まれる。
この定義は、精神科医がうつの諸症状を知っていることを前提として、その諸症状は列挙せず、病因論を土台としている。
 1970年以降、うつは一つの病気か複数のタイプに分類するべきか調べるために、症状に対する因子分析を統計学的な手法として採用するようになった。また1972年、正確な定義なしに様々な分類が行われる限り、精神医学が科学的な学問分野として認められることは望めないと考える研究チームが現れた→異なる研究グループの結果を比較し、データを蓄積し、統一的な基準を設置することを目指したファイナー基準が作られた。
 診断の信頼性はあがったが、妥当性(診断の有効性)については不確かであった。ではなぜ症状優位の基準へ変化したのか?
 ①1980年代、フロイト派の影響力は低下し、ざまざまな理論の精神医学派が乱立。病因については論じないDSM-Ⅲは多少な考えをもつ臨床家に
  受け入れられた
 ②反精神医学の運動(診断の不一致、幻聴ダミーの入院)が盛りあがり、精神医学の信頼性の回復の必要性
 ③精神疾患に医療保険が適応されるためには、確固とした根拠が必要で、診断基準が特定の病気のみを保険適用とするというものでなければ
  ならない。

第五章:DSM—Ⅳの定義するうつ

第六章:DSMの基準が社会に及ぼした影響
 地域に対しての疫学調査で、臨床家が得るのに相当する診断を得ることが体型的な質問票を使えば可能であるという前提で、一般住民に対して調査が行われた。精神科受診する母集団と有病率が違うという点でも無謀であった。

第七章:悲哀の監視

第八章:DSMとうつの生物学的研究

第九章:抗うつ薬による薬物療法の普及
 費用対効果を重視するマネジドケアは、心理療法より薬物療法を優先する。またマネジドケアは、心理療法よりもSSRIに寛大に医療給付を行う内容になっている。また1997年 FDAが一般向けメディアを通じて直接消費者へ向けた医薬品広告(DTC広告)を認可したためSSRIの使用は拡大。FDAは医薬品広告では、病気の治療に用いるものであることを明確にし、日常的な苦痛を軽減する効用をうたってはならないと定めている。この場合、DSMの定義は、一般人にもわかりやすい病気の定義を示すのにうってつけであった。DSMの定義を採用すれば、ありふれた症状が病気の兆候とされるため人々は合法的に処方箋を手に入れられるし、製薬会社は合法的に一般人向けに製品を宣伝できるのだ。また製薬会社がDTCに投ずる予算は年間20億ドルにもなる。しかし製薬業界は患者と家族の支援団体に多額の寄付を行ったり、うつ病の臨床研究にも巨額な助成金を提供。また全米うつ啓発デーなど教育キャンペーンを大々的に展開し、うつのスクリー二ングを無料で行う自動音声電話やホームページを開設している。https://www.youtube.com/watch?v=pB6_6DlXFoQ(ジェイゾロフト1分間広告例)
→著者の意見:正常な悲哀までうつと診断し、SSRIを処方しているのは行き過ぎでは?
 反対派:出産に伴う正常な陣痛をなくすために麻酔薬を使う無痛分娩に反対する人はほとんどいない。同様にSSRIの服用で感情を制御でき、
     自信をもつことができ、精神的な苦痛が和らぐなら病気でなくても処方すべきでは?
 その反対派:孤独で耐え難い悲哀の場に一定期間とどまることが人の自然な姿であり、その悲哀の場につきものの苦痛を薬で
       軽減してもいいのかという思い。

第十章:社会科学の役割

第十一章:結び
 精神科臨床医によって、症状に基づく基準のメリットは、保険に適用されない可能性のある幅広い患者の治療費が、保険会社から償還されることである。保険会社は疾患の治療費は払うが、生活上の悩みには保険は適応されない。またDSMの診断基準で恩恵をうける最も堅調な利害関係者は、正常な悲哀がうつ病と診断されることで巨額の利益をえる製薬会社であろう。ただ最後に、悲哀を病気と定義することで、恩恵をうけるものとして、苦痛を感じている人々なのかもしれない。心理的な苦痛を治療可能な病気と解釈すれば、抵抗なく医師へ助けを求めることができ、つらい感情をコントロールできる。また病気の犠牲者という自己定義をすれば、自分の抱える問題を社会的に容認される形で説明でき、そうした問題に対する責任をある程度免れることができるため、人々はそうした自己定義を進んで受け入れることもあるかもしれない。

―考察とディスカッション―
 各国のコンテクストの中で、DSMのようなスタンダートが作られたという流れは興味深かった。精神科では上記の内容はもしかしたら常識で、みなさん注意して使っているのかもしれないが、プライマリケアで他分野(だいたいはそう)から輸入して使用する際には、その分野のコンテクストなども把握しないと、製薬会社中心の情報では注意が必要だと改めて認識をし直した( DSMの定義の変遷など興味深い)。
  1) DSMをどのように普段の臨床で位置付けていましたか?
  2) 正常な深い悲哀は見直されるべき意義があるのか、それとも不都合なものとして私たちの生活から排除されるべきなのか
  3) DTC(Direct to consumer)広告について、GERD、リリカ、アリセプトなど患者さんが外来で話をする際に、
    どのように対応をしているか、何か気をつけている点など

【開催日】
 2015年11月4日(水)

脳梗塞再発予防における抗血小板薬

―文献名―
Wuxiang Xie, Fanfan Zheng, Baoliang Zhong, Xiaoyu Song, Long-Term Antiplatelet Mono- and Dual Therapies After Ischemic Stroke or Transient Ischemic Attack: Network Meta-Analysis, J Am Heart Assoc. 2015 Aug 24;4(8)

―要約―
BACKGROUND
The latest guidelines do not make clear recommendations on the selection of antiplatelet therapies for long-term secondary prevention of stroke. We aimed to integrate the available evidence to create hierarchies of the comparative efficacy and safety of long-term antiplatelet therapies after ischemic stroke or transient ischemic attack.

METHODS and RESULTS
We performed a network meta-analysis of randomized controlled trials to compare 11 antiplatelet therapies in patients with ischemic stroke or transient ischemic attack. In December 2014, we searched Medline, Embase, and the Cochrane Library database for trials. The search identified 24 randomized controlled trials including a total of 85,667 patients with antiplatelet treatments for at least 1 year. Cilostazol significantly reduced stroke recurrence in comparison with aspirin (odds ratio 0.66, 95% credible interval 0.44 to 0.92) and dipyridamole (odds ratio 0.57, 95% credible interval 0.34 to 0.95), respectively. Cilostazol also significantly reduced intracranial hemorrhage compared with aspirin, clopidogrel, terutroban, ticlopidine, aspirin plus clopidogrel, and aspirin plus dipyridamole. Aspirin plus clopidogrel could not significantly reduce stroke recurrence compared with monotherapies but caused significantly more major bleeding than all monotherapies except terutroban. The pooled estimates did not change materially in the sensitivity analyses of the primary efficacy outcome.

CONCLUSIONS
Long-term monotherapy was a better choice than long-term dual therapy, and cilostazol had the best risk–benefit profile for long-term secondary prevention after stroke or transient ischemic attack. More randomized controlled trials in non–East Asian patients are needed to determine whether long-term use of cilostazol is the best option for the prevention of recurrent stroke.

【背景】
 最新のガイドラインでは、脳梗塞の二次予防のための長期抗血小板薬の選択について、明確な推奨はしていない。我々は、利用可能なエビデンスを統合して、脳梗塞後、または一過性脳虚血発作後の長期抗血小板薬治療の効果と安全性の階層を創出することを目的とした。

【方法と結果】
 我々は、11の脳梗塞または一過性脳虚血発作の患者に対する抗血小板薬療法のランダム化比較試験についてネットワークメタ分析を行った。2014年12月、我々はMedline、Embase、Cochrane Libraryを検索した。その検索で、85,667人の少なくとも1年の抗血小板薬の治療を受けた患者を含む24のランダム化比較試験が見つかった。シロスタゾールは、アスピリン(オッズ比 0.66, 95%信頼区間 0.44 – 0.92)とジピリダモール(オッズ比 0.57, 95%信頼区間 0.34 – 0.95)と比較して著明に脳梗塞の再発を減少させた。シロスタゾールは、アスピリン、クロピドグレル、テルトロバン、チクロピジン、アスピリンとシロスタゾールの併用、アスピリンとジピリダモールの併用のそれぞれと比較して著明に頭蓋内出血を減少させた。アスピリンとクロピドグレルの併用は、単独療法と比較して著明な脳梗塞の再発を減少させることはできなかったが、テルトロバンを除くすべての単独療法と比較して主要な出血イベントを著明に増加させた。プールされた推定値は、有効性の主要な一次アウトカムの感度分析に著しく変化を与えなかった。

【結論】
 長期の単独療法は、長期の併用療法よりも良い選択であり、シロスタゾールは、脳梗塞後または一過性脳虚血発作後の再発予防にリスク対効果で最も優れていた。非東アジア系患者において脳梗塞の再発予防におけるシロスタゾールの長期使用が最も良いかどうかを決定するには、より多くのランダム化比較試験が必要である。

※ネットワークメタ分析(Network meta-analysis)とはメタ分析の一種である。通常のメタ分析は治療法Aと治療法Bを比較した臨床試験を収集し、個々の比較結果を統計的に併合する。従って、治療法Aと治療法Cや、プラセボを比較した臨床試験は分析対象とはならない。今まで分析対象外となっていた臨床試験を含めたメタ分析がネットワークメタ分析である。

※シロスタゾール:プレタール®、クロピドグレル:プラビックス®、チクロピジン:パナルジン®

【開催日】
 2015年11月4日(水)

肥満治療に対するGLP-1受容体作動薬の効果

―文献名―
Xavier Pi-Sunyer, M.D. et al. A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management. N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):11-22.

―要約―
【背景】
肥満は重大な健康問題を引き起こしかねない慢性疾患である。しかし、生活習慣への介入のみでは減量を維持する事は難しい。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチド(ビクトーザ○R)3.0mgの1日1回皮下注射が体重コントロールに有効であったと示された。

【方法】
2型糖尿病のない患者3,731人を対象とした二重盲検試験を56週間行った。参加者のBMIは少なくとも30以上、あるいは、脂質異常症、高血圧症(治療の有無は問わない)がある場合は少なくとも27以上。リラグルチド3.0mgを1日1回皮下注射する群(2,487人)とプラセボを1日1回皮下注射する群(1,244人)にランダムに割り付けて、両群ともに生活習慣の改善指導も行った。プライマリエンドポイントとして、体重の変化と少なくとも5%、10%以上減少した患者の比率を設定した。

【結果】
ベースラインとしては、患者の平均年齢は45.1±12.0歳、平均体重は106.2±21.4kg、平均BMIは38.3±6.4、78.5%が女性で61.2%が糖尿病になる前の状態であった。56週後の平均体重減少幅はリラグルチド群8.4±7.3kg、プラセボ群2.8±6.5kgだった(95%信頼区間 −6.0 to —5.1;P<0.001)。体重が5%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が63.2%、プラセボ群で27.1%だった(P<0.001)。体重が10%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が33.1%、プラセボ群で10.6%だった(P<0.001)。リラグルチド群で最も頻度の高い有害事象は軽度から中等度の嘔気、下痢が報告された。重症の有害事象の発生率はリラグルチド群が6.2%、プラセボ群で5.0%だった。

【結論】
今回の試験から、リラグルチド3.0mg投与は食事療法、運動療法に補助的な役割を果たし、体重を減少させ、肥満コントロールを改善する効果がある。(ノルディスク社による支援あり)

―考察とディスカッション―
元々は2型糖尿病の治療に用いる注射薬を、用量を増やして肥満の体重コントロールに使用した臨床試験。肥満患者の減量治療の補助薬として、リラグルチドは一定の効果はありそうである。しかし、製薬会社からの支援を受けている試験でもあり、信頼性に一部疑問はある。また、日本人でここまでの肥満患者はあまりいない事を考えると、日本で同様の条件で採用される事はないかも知れない。皆さんはどのように考えますか?

【開催日】
2015年10月21日(水)

ALS患者におけるラジカットの有効性と安全性

―文献名―
KOJI ABE, YASUTO ITOYAMA. Confirmatory double-blind, parallel-group, placebo-controlled study of efficacy and safety of edaravone (MCI-186) in amyotrophic lateral sclerosis patients. Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration,2014;15:610-617

―要約―
【目的】
 ALS患者を対象に、二重盲検並行群間比較法により、ラジカット60mgを6クール投与したときの有効性及び安全性について、プラセボを対照として検討した。

【対象】
 ALS患者205名(ラジカット群101名、プラセボ群104名)
 選択基準はEl Escorial 改訂Airlie House診断基準のうち、「Definite」「Probable」「Probable-laboratory- supported」、ALS重症度分離のうち、1,2度、努力性肺活量は70%以上、罹病期間は3年以内、前観察期12週間のALSFRS-Rスコアの変化が-1~-4の患者。

【方法】
 投与開始12週前の前観察期の後、被験者をラジカット群又はプラセボ群に二重盲検下で割付け、点滴静脈内投与を6クール行った。主要評価項目はALSFRS-Rスコア、二次的な評価項目はFVC、手首・指先の力変化、Modified Norris Scale score、ALSAQ-40。

【結果】
 主要評価項目であるALSFRS-Rスコアの6クール、24週間の変化量はラジカット群とプラセボ群の投与群間差は0.65±0.78で、p値は0.4108であり、有意な差を認めなかった。%FVC、手首の力、Modified Norris Scale score、ALSAQ-40についても有意な差を認めなかった。指先の力については繰り返しの分散分析において有意差を認めた。

【結論】
 ラジカット投与によってALSFRS-Rはプラセボと比べ減少は少なかったがALSにおける効果は示されなかった。

このままだとなぜラジカットが保険適応になったかは不明すぎる・・・

追加
今回の試験(検証試験 1回目 第Ⅲ相)
榎原先生①.jpg

 主要な評価項目で有意差を認めなかったが診断が確実なものや重症度が低いほうが差があると考えられたためにその後の試験(検証試験2回目 第Ⅲ相)が行われた。
榎原先生②

 2試験とも重症度1、2度の患者さんを対象ではあったが、この基準が曖昧だったため、検証的試験1回目は重症度分類3度に近い重症の患者さんが多数エントリーされ、有効性を確認できなかった一因となったと結論。そのため、検証的試験2回目はALSFRS-Rスコアが「全項目2点以上」という基準を設け、厳格に軽症の患者さんを定義し、さらに、検証的試験2回目は努力性肺活量80%以上の患者さんを対象とすることで、より軽症の患者さんを選択し、1回目と同様の試験を実施した。
 その結果、主要評価項目のALSFRS-Rスコアの低下はラジカット群とプラセボ群の投与群間差で2.49±0.76で、p値は0.0013有意な低下を認め、6か月投与時点でプラセボ投与群の4か月のスコアと同程度だった。ALSAQ-40スコアの6クール、24週間の変化量は、ラジカット群とプラセボ群の投与群間差で-8.79±4.03で、p値は0.0309であり、ALSAQ-40スコアの上昇は有意な差を認めた。

資料
ALS重症度分類
榎原先生③

ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R: The revised ALS Functional Rating Scale)
 患者への聞き取り及び実際の動作を観察して採点を行う。以下の12項目について、各項目を0~4の5段階で採点する。
榎原先生④

●ALSAQ-40
 ALSに特異的なQOL尺度
 5つのカテゴリーに割り振られた40項目の質問からなる。
 <5つのカテゴリー>
  「フィジカルな可動性(10問)」、「ADLと自立性(10問)」、「食べて飲むこと(3問)」、「コミュニケーション(7問)」、
  「感情作用(10問)」
 各質問に対し被験者が1~5点で回答し、合計スコアで評価を行う。スコアが大きいほど、QOL低下を示している。

―考察とディスカッション―
 今回読んだ文献ではラジカット投与群とプラセボでの比較では指先の力以外では有意差は無かった。さらに進めた研究で、診断が確実で重症度が軽度な方で評価項目に有意差が出たことがわかり、2カ月程度進行を遅くしている可能性があるということがわかった。しかし、具体的にどの部分の点数に差が出たのかなどについてはわからなかったため消化不良な感じは残っている。現在MFCでラジカット投与している患者さんの重症度は1~3度の患者さんであり、3度の患者さんにはあまり効果はないのかもしれない。ただALSという治癒が望めない疾患で保険適応が通った新薬であり重症度で適応が決められていないということを考えると患者さんが治療を望むことは非常に理解できる。今後もALS患者さんは訪問診療で関わっていくことが予想されるため、ラジカットの限定的な効果などを医療者側が認識しながら患者さんに寄り添っていくことが大切だと思う。

ディスカッションポイント
 ①ALS患者さんに対してラジカットを勧めますか?
 ②勧める場合はどのように説明しますか?

【開催日】
 2015年10月21日(水)

診療所内のチームビルディング

―文献名―
仲山進也. 「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則」講談社.

―要約―
「グループとチームの違い」
  ① グループ→個々が役割以上のことはしないまたは出来ない組織
  ② チーム→個々が役割以上の力を発揮する組織
  ③ この本では「グループ」が成長して「チーム」になると考えている

「タックマンモデルの紹介」
チーム成長の法則「70 点のグループ」が「赤点」を経て「120 点以上のチーム」に変身する

「優秀なリーダーがいればチームになる必要はないのでは?」
 右肩上がりの時代であれば優秀なリーダーがいるグループのまま100 点を目指す方針でも皆ハッピーに仕事ができたが、
変化の激しい時代と言われている現在においては、リーダー1人が変化を捉えてアクションを考えるのでは間に合わないほど、
変化する要素が増えている。だからこそ各自が考えて行動出来る自走型の「チーム」になる必要がある。

■ 第1章フォーミング
 ● フォーミング体質①自己主張をしない。空気を読んで遠慮する。
 ● フォーミング体質②対立、衝突によりパフォーマンスが低下した時点で、チーム状態が悪くなってきた。
    もとに戻そうという発想・行動をとる
 ● ストーミングに入ると組織としてパフォーマンスが低下するため企業の多くはフォーミングに戻す選択をすることが多い
 ● フォーミングを進めるにはコミュニケーション量の増大が鍵
   例)自己紹介名鑑の作成、フォーミング飲み会の開催

■ 第2章ストーミング
 ● 特徴としてはメンバーの本音の意見が場にでて、対立や衝突がおこりイライラやモヤモヤが発生。
   その結果生産性が低下するが本音を言うことで「自分ごと化」が進む。
 ● ストーミングで解散しないために
   ・ ビジョンが示されている
   ・ ストーミングの意義を共有:チームとして成長するために必要なプロセス
   ・ 個人の安全を確保:個人攻撃の場ではなく、皆の意見が場に出揃うことが目的
   ・ グループ全体の安全を確保:生産性が低下して売り上げ低下しても資金ショートを起こさない地盤確保
   ・ ストーミングを進み易くする:各自が紙に書くなど
 ● ストーミングを進めるためにはコミュニケーションの質が大事

■ 第3章ノーミング
 ● 特徴としては小さな成功体験を繰り返すうちにチームの暗黙のルール(行動規範)が築かれる。
  共通言語が生まれ、「私たちのやり方」「ウチのチームは」という表現がメンバーの口からでるようになる
 ● ノーミングを進めるために、自分たちでつくったルールを徹底化するために明文化し確認と共有を繰り返す

■ 第4 章トランスフォーミング
 ● 特徴としてはメンバーの協働意志で、上位のビジョンを目指す。他のメンバーへの貢献につながる行動が自動化する。
  チームに対する帰属意識が高まり、「ずっとこのチームでやりたい」、「このチームなら何でもできる」という意識になる
 ● さらなる上位のビジョンを目指すためビジョンや価値観に共鳴できる人を採用する

【開催日】
2015年10月7日(水)

風邪とプラセボ効果

―文献名―
Barrett B, Brown R, et al. Placebo Effects and the Common Cold: A Randomized Controlled Trial. Ann Fam Med 2011;312-322.

―この文献を選んだ背景―
 伝統的に使用されてきた対症療法薬の多くが症状の緩和や有病期間を短くする効果がないことが示されている。今回、米国で伝統的に使用されている対症療法薬Echinacea(Cochraneのシステマティックレビュー1)でプラセボと有意差がなかったことが示されている)をオープンラベルとしたときの効果を盲検化したときと比較した研究を小児の風邪に関する総説を執筆中に見つけ、結果が興味深かったので紹介する。
1)Linde K, Barrett B, Wölkart K, Bauer R, Melchart D. Echinacea for pre- venting and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2006;(1):CD000530.

―要約―
【目的】
 オープンラベル化した薬剤をランダムに割り付けた場合、二重盲検化し実薬とプラセボに割り付けた場合、何も薬剤を処方しない場合の3者を比較した場合、風邪による症状の重さや期間が変わるかどうかを調べる。

【方法】
 新規発症の風邪患者でRCTを行った。参加者は4グループ(Figure1,(1)薬剤なし,(2)盲検化されたプラセボ,(3)盲検化されたechinacea(4)オープンラベルのechinacea)に割り付けられた。主要アウトカムは有病期間とarea-under-the-curve global severity、二次アウトカムは内服2日後の鼻腔洗浄液の好中球数とIL8レベルとした。

【結果】
 719の参加者のうち6名が離脱した。女性が64%,白人が88%、年齢は12歳から80歳。
○ 有病期間の平均
 7.03日(薬剤なし),6.87日(盲検化プラセボ),6.34(盲検化echinacea),6.76(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし
○ global severityスコアの平均
 286(薬剤なし),264(盲検化プラセボ),236(盲検化echinacea),258(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
  ※ 薬剤なしと盲検化したプラセボグループの比較
    有病期間 -0.16日(95%CI -0.90 − 0.58) severity -22ポイント(95%CI -70 − 26)
  ※ 盲検化echinaceaとオープンラベルechinaceaグループの比較
    有病期間 0.42日(95%CI -0.28 − 1.12) severity 22ポイント(95%CI -19 − 63)
○ IL8と好中球数の変化の中央値
 30pg/ml/1cell(薬剤なし),39pg/ml/1cell(盲検化プラセボ),58pg/ml/2cell(盲検化echinacea),
 70pg/ml/1cell(オープンラベルechinacea)。
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
○ 薬剤の服用時にechinaceaの有効性を高く見積もった(100点を「きわめて有効」とするスケールで50点以上をつけた)
 120の参加者において盲検化されたプラセボ群は薬剤なしの群と比較して有病期間は2.58日有意に短く(95%CI -4.47 − -0.68)、
 global sevirtyスコアの平均は26%低かった(−97,95%CI −249.8 – 55.8 有意差なし)。
 このサブグループにおいては盲検化echinacea群とオープンラベルのechinacea群で比較すると有病期間も重症度も違いはなかった。

【結論】
 薬剤なし群に割り付けられた群では有病期間が長くなり、症状が重くなる傾向があった(統計学的有意差はない)。
 Echinaceaの有効性を信じているサブグループで薬剤を与えられたグループでは有病期間が短くなり、症状が軽くなる傾向があった。
 これらの結果は、患者の治療に対する信念や感じ方が重要であり、医療における意志決定においては考慮されるべきであるという考え方を支持するものであった。

【開催日】
2015年10月7日(水)

アルツハイマー病の非薬物療法

【文献名】
山口智春,山口春保.アルツハイマー病の非薬物療法.日老医誌 2012;49:437-441

【要約】
 適切な薬物療法とともに、患者の抱える不安や喪失感を理解し、介護環境を知り、適切なリハやケアを提供し、家族介護者を指導し支えるといった、他職種で協働する非薬物療法が求められている。診察室での本人や家族への接し方など、主治医や家族介護者が本人に関わる行為の全てが非薬物療法であると包括的に捉える。脳活性化リハビリテーションの5原則はリハ・ケアばかりでなく診療にも活かせる。

八藤先生図

脳活性化リハビリテーションの5原則
● 快刺激
 ―快刺激により笑顔が生まれることで、脳内にドパミンが多量に放出され、学習意欲・やる気の向上につながる。スタッフ側も笑顔になることで、笑顔が笑顔を生み出す。また、快適な環境の設定も重要である。

● ほめる
 ―対象者をほめる・受容する。ほめられることは人間にとって最大の報酬であり、ドパミン神経系の賦活により、意欲向上につながる。他人をほめることも大切であり、自己効力感や尊厳を高める。

● コミュニケーション
 ―他者と楽しい時間と場を共有することで、安心感が生まれる。特に進行と共に困難となる社会交流については、それを踏まえた上で受容的に関わり、非言語的コミュニケーションも含め社会的相互交流の場を維持する。

● 役割
 ―対象者が社会的役割を主体的に担うことができるようにかかわる。主体的役割の存在はその人が生きている拠り所となるものであり、疾患に関係なく人間として共通するものである。

● 誤りを避けて正しい方法を習得(errorless learning)
 ―認知症では誤りを基に試行錯誤からの学習は困難だけでなく、混乱を招きネガティブな感情のみが記憶に残りやすく、学習の妨げにもなる。能力に応じたサポートで不要な失敗を避けつつ、正しい方法を繰り返し、成功体験とポジティブな感情で終わらせる。満点主義が基本。

【開催日】
2015年9月16日(水)

【EBMの学び】IBSに対するSSRI

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015 / 9 / 8
【臨床状況のサマリー】
 70代女性、血便を主訴として来院。Vital変化や腹痛などは認めず、CT上でも虚血性腸炎の可能性は低い印象であった。本人とも相談の上、TCS施行相当と考え後方病院へ紹介。TCS上では明らかな器質的異常は指摘されず、血便の原因は痔核によるものと推測された。
 患者は遡ること2ヶ月前より便性変化(便柱が細くなったり軟便を繰り返す)や腹部膨満感、ストレス下での放屁などで悩んでおり、(混合型)過敏性腸症候群(IBS)の疑いがあると考えられた。大建中湯、ポリフル®(ポリカルボフィル)や整腸剤の投与などを行うもいずれも改善に乏しく、結果として現在はその中でも最も効果があったと思われる大建中湯を使用して経過を見ている。
 本邦におけるIBSに特化した内服治療は、ポリフル®に代表される合成高分子化合物、イリボー®に代表される5-HT3受容体阻害薬、トランコロン®に代表される抗コリン薬が挙げられるが、劇的な効果は期待できないことも多い。諸外国では、これらの他に三環系抗うつ薬やSSRIなどが治療に用いられるケースもあり、SSRIの効果について検討された論文を検索した。
 P;(混合型)IBSが疑われる70歳代女性に対して
 I(E);SSRIを投与した場合
 C;偽薬を投与したのと比較して
 O;消化器症状の改善が得られるか
 
STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Vahedi H, Merat S, Rashidioon A, Ghoddoosi A, Malekzadeh R.
The effect of fluoxetine in patients with pain and constipation-predominant irritable bowel syndrome: a double-blind randomized-controlled study. Aliment Pharmacol Ther. 2005 Sep 1;22(5):381-5.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;RomeⅡ基準(※2005年発行の論文のため)に該当した便秘型IBS患者(年齢=34.9±10.0歳、50歳以上で初発のPt.は除外されている)
 I(E);20mg/dayのfluoxetineを12週間投与した場合
 C;偽薬を投与した場合と較べて
 O;IBS症状の数がどれくらい減少したか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
① 研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない;)
   どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
  →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 介入4週間目の評価で、5つの主要症状について、全てP<0.05
 主要症状数の変化について、介入2週間目の評価で、P<0.005、
 介入16週間目の評価で、P<0.001
【② 治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
 ・ARRとNNTを計算する
 <介入16週目の評価>
 (1) 腹部不快感:RR=0.44、RRR=0.55、ARR=0.50、NNT=2
 (2) 腹部膨満感:RR=0.59、RRR=0.41、ARR=0.35、NNT=3
 (3) 硬便   :RR=0.30、RRR=0.70、ARR=0.35、NNT=3
 (4) 排便回数減少:RR=0.18、RRR=0.82、ARR=0.45、NNT=2
 (5) 便性変化 :RR=1、RRR=0、ARR=0、NNT=∞
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 信頼区間の記載なし

STEP4 患者への適応
【① 論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
・本患者は混合型IBSの可能性が高く、便秘型のIBS患者を扱った本論文の患者群と完全には合致していない。
・本論文では50歳以上の患者については除外対象としており(理由は不明であるが)、70歳代の本患者に適応できない可能性がある。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
・先述の通り、本邦においてIBS患者への抗うつ薬の適応が認可されていないため、実際には保険病名を別につけることで処方せざるを得ず、現実的な適応には困難な点もある。
・またfluoxetineが本邦でそもそも認可されていない薬である。論文中にはパキシル®(パロキセチン)など、他のSSRIでも有効であったとの記載がある(p.384左側)。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
・食思不振や下痢、食道炎などの消化器症状の副作用が偽薬よりもfluoxetineでより多く報告されている。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
・患者は上記症状で日常生活に支障をきたしており、何らかの治療planを提示するべきと思われる。SSRIの導入にあっては、薬の特性や効果に限定的な部分があるかもしれないことを説明した上での投与となるだろう。

 

【開催日】
2015年9月9日(水)

【EBMの学び】帯状疱疹に対するPSL

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015/08/12
【臨床状況のサマリー】
 関節リウマチでプレドニゾロン5 mg/day、環軸椎亜脱臼による疼痛でトラムセット内服中の70代男性。高齢者住宅に独居でADLはベッド上生活、当院定期訪問診療中。前胸部左側に疼痛を伴わない水疱・発赤出現し、帯状疱疹と診断したが、発疹出現から約80時間と72時間を過ぎていたため抗ウイルス薬の適応はなく、無治療経過観察とした。訪問看護師に報告すると、帯状疱疹後神経痛(PHN)予防のため何かできないかと相談を受けた。インターネットで帯状疱疹治療ガイドラインの概要をみると、PHN予防にプレドニゾロン60 mg/day内服7日間(以後漸減)を行うことがあるようだった。プレドニゾロンにPHN予防のエビデンスがどれほどあるのか疑問に感じ、文献を検索した。
  P;帯状疱疹急性期の患者
  I(E);プレドニゾロン内服
  C;プラセボ内服
  O;PHNの出現を抑制するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Wood MJ, Johnson RW, Mckendrick MW, Taylor J, Mandal BK, Crooks J.
A randomized trial of acyclovir for 7 days or 21 days with and without prednisolone for treatment of acute herpes zoster. New England Journal of
Medicine 1994;330(13):896-900.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;免疫抑制状態にない18歳以上の成人(各対照群の平均年齢は60歳前後)で、発疹出現から72時間以内
   の中等度以上の疼痛を伴う帯状疱疹急性期の患者
 I(E);アシクロビル+プレドニゾロン40mg/day内服7日間or 21日間
 C;アシクロビル+プラセボ内服
 O;疼痛が完全消失するまでの期間を短縮するか
   (6か月後まで疼痛をフォローし、PHNの重症度として評価)
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
②解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない) (intention to treatの記載なし)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
 Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 P=0.74
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
  コックス比例ハザード分析 HR = 1.043
 ・ARRとNNTを計算する
   Outcomeが「日数」なので計算不可?
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 HRの95%信頼区間:0.81-1.34

STEP4 患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 年齢が論文の対照群より高齢であり、もともと関節リウマチでプレドニゾロン長期内服中であるため、免疫抑制状態である点が異なる。また、発疹出現から72時間をわずかに超えている点、トラムセット内服中で疼痛を伴っていない点(マスクされている可能性あり)でも異なる。しかしながら、プレドニゾロンを追加投与のPHN予防のエビデンスが低いということを確認するには、当論文で概ね問題はないと思われる。(あるいは、若年者より高齢者の方がPHNのリスクが高いので、対照群を高齢者に限定すれば、違った結論に至るのかもしれない)
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 実行可能
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 副作用も評価されている。当論文は、プレドニゾロン投与はPHNの重症度に影響を与えず、副作用出現の可能性もあるため、推奨しないと結論している。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 疼痛もないため、発疹の出現をまるで気に留めていない。無治療経過観察の方針で、何の抵抗もなく合意している。上記③と併せて、本症例にプレドニゾロン追加投与する理由はないと考える。