AIによる呼吸器症状を呈する患者のトリアージは患者のアウトカムを改善する

-文献名-
Steindor E, et al. Triaging Patients With Artificial Intelligence for Respiratory Symptoms in Primary Care to Improve Patient Outcomes: A Retrospective Diagnostic Accuracy Study. The Annals of Family Medicine. 2023; 21(3): 240-248.

-要約-
【Introductionと目的】
総合診療医/家庭医は、より多くの患者、併存疾患、要望を抱え、診断検査のオーダーも大幅に増加している。一般開業医を訪れる患者の約20%は自己解決型の症状で、患者の最大72%は急性呼吸器症状である。診断検査の過剰使用や誤用は、プライマリケアにおけるよく知られた問題であり、偶発的な所見を増加させる。同じことが抗生物質の処方、 特に呼吸器感染症に適用され、耐性菌の増加につながる。臨床資源の誤用の原因は多岐にわたるが、患者の要求、人間の持つバイアス、時間の圧力が主要なものである。機械学習モデル(MLM)は、複数の臨床上のタスクにおいて医師と同等かそれ以上の能力を持つと考えられている。MLMを用いた患者のトリアージは、医師によるトリアージと同等と報告されている。ガイドラインやスコアリングシステムは診断と治療を標準化し、コスト削減とケアの質向上に資するのだが、十分利用されていない。ガイドラインの適用性、利便性、時間不足が理由として挙げられる。
本研究の目的は、呼吸器症状を持つ患者の症状や徴候(臨床的特徴)について、来院前のトリアージを模倣するため患者に質問可能な要素のみを使用することにより患者トリアージMLMを訓練することである。
このMLMは、呼吸器症状トリアージモデル(RSTM)と呼ばれ、スコアに基づいて患者を10のリスクグループ(グループ1から10までリスクが高くなる)に分類する。医療現場におけるMLMのパフォーマンス評価は複雑であり、どのベンチマークを使用すべきかはしばしば不明確である。多くの報告では、人間の偏見やエラーの影響を受ける医師の診断をベンチマークとしてMLMを評価している。RSTMを複数の患者のアウトカムをベンチマークとして評価することはより良いパフォーマンス指標となる可能性が高いが、この方法でMLMトリアージのパフォーマンスを検証した報告はない。
【方法】
アイスランド・レイキャビク地域のすべてのプライマリケアクリニックを対象とした。7つのICD10コード(J00、J10、JII、J15、J20、J44、J45)のうち1つの診断を受けた患者のカルテから臨床テキストノート(CTN)※を抽出した。23819名の患者の44007のカルテ記録を条件に合致した2000のCTNに絞り込み1500CTNをMLMの訓練に、500のCTN(testing set1)とこれらの記録に含まれていなかった664のインフルエンザのCTN(testing set2
)をアウトカムの計測に用いた。続いて、下気道感染症の有無を予測しトリアージすることを目的に患者がみずから応えられる受診前の臨床情報のみを用いて、MLMを訓練した。このMLMは患者をスコアリングし10個のリスクグループ(値が高いほどリスクが高い)に分類し、各グループのアウトカムを分析した(スコア1〜5をlow risk、6〜10をhigh riskグループとした)。
臨床テキストノート(CTN)とは、患者の症状や徴候に対する医師の解釈、診察中に行われた臨床決定の理由、取られた行動(画像紹介、処方箋の作成など)を記録した文書である。)
各リスクグループについて、C反応性タンパク質(CRP)の平均値、ICD-10コードの分布、7日以内にプライマリケアと救急で再評価された患者の割合、胸部レントゲン撮影となった患者の割合、胸部レントゲンにおける肺炎の兆候と偶発腫瘍所見、抗生物質の処方を受けた患者の割合をアウトカムとして検討した。
95%CIは、各アウトカムの値をソートし2.5%および97.5%のパーセンタイルを計算することで算出した。二値変数のP値の算出には両側フィッシャーの正確検定を、連続変数のP値の算出には両側マン・ホイットニーのU検定を使用した。P<.05を有意とみなした。
【結果】
それぞれのtest setの特性はTable1。
リスクグループ1~5は6~10と比較して若年者が多く(本文中Figure2-4)、CRP値、プライマリ・ケアおよび救急医療の受診率、抗生物質の処方率、胸部X線(CXR)の実施、実施されたCXRで肺炎の所見を認めたものが少なかった。リスクグループ1〜5ではCXR上の肺炎の所見も医師による肺炎の診断も0件であった(Table2)。
【ディスカッション】
この大規模な後方視的研究により医療機関受診前のデータ(症状等)を用いたプライマリ・ケアにおけるMLMによる急性の呼吸器症状を訴える患者のトリアージの結果が示された。MLMによりlow riskとされた5グループではレントゲン上の肺炎の所見を示したものも、肺炎の診断となったものもいなかったことは特筆すべき点である。インフルエンザ患者のみを集めた(training setとは異なる患者層であった)test set2においても同様の結果が得られた。
RSTMが実臨床の現場で同様のパフォーマンスを示すことができれば、医療機関を受診する前の段階で患者をトリアージするためのWebベースのツールとなりうる。肺炎を見逃すことなく不要なレントゲン撮影を減らす可能性がある。今回のデータではlow risk患者にも抗菌薬が処方されていたが、こういったlow risk groupではトリアージにより抗菌薬の処方を控えることで処方の質が向上する可能性もある。
本研究は後方視的研究手法の限界やバイアスがあり、前方視的に妥当性が検証されるべきである。今回トレーニングと解析に用いたCTNは医師が患者の症状や所見を記録したものであり、ヒューマンエラーやバイアスが含まれる可能性がある。直接患者からデータを得ることでより質の高い訓練を行いうる。

【開催日】2023年6月7日(水)

医師の燃え尽きと、キャリアエンゲージメント、患者ケアの質との関係

―文献名―
Associations of physician burnout with career engagement and quality of patient care: systematic review and meta-analysis
BMJ 2022;378:e070442 | doi: 10.1136/bmj-2022-070442

―要約-
Introduction
・ バーンアウトはemotional exhaustion(感情的疲労), depersonalization(脱人格化), a sense of reduced personal accomplishment(個人的達成感の低下の感覚)の3要素を含む症候群
・ USでは10人中4人の医師がバーンアウトの症状を1つ以上有すると言われ、UKでは1/3の研修医が高いレベルでバーンアウトを経験しているという
・ 医師は、他の医療従事者を含む他の労働者よりもバーンアウトを経験する可能性が2倍高いとの報告も
・ Covid-19パンデミック下でそれらは更に広がったとも言われている
・ バーンアウトした医師はワークライフバランスが悪く、キャリアの満足度が低いことは指摘されていたが、キャリアエンゲージメントとの関連は未検討であった
・ また、医療従事者のバーンアウトが患者ケアの質の低下につながることは指摘されていたが、対象の異質性が高かった
・ バーンアウトとキャリアエンゲージメント、患者ケアの質の関連を調べることは、医療期間の効率性の側面からも重要であり、ひいては行政・政策立案期間がバーンアウトに度の程度資本を投入するかの判断にも重要である

Method

・ 登録されたプロトコル(Reporting Checklist Observational Studies (MOOSE))にしたがってシステマティックレビューを実施
・ Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses (PRISMA) guidanceに準拠
・ あらゆるセッティングにおいて働く医師を含んだ定量的観察研究を対象とした
・ バーンアウトと、キャリアエンゲージメント(仕事満足度、キャリア選択後悔、離職意思、プレゼンティズム(疾病就業=心身の不調を持ったまま出勤すること)や欠勤で示される生産性の低下、キャリア開発)の関連を報告した
・ さらに、バーンアウトと患者ケアのアウトカムの質(投薬エラーを含む患者安全インシデント、確立した定義に基づく低いプロフェッショナリズムによる最適ではない患者ケア、患者満足度)の関連についても検討した
・ データベース開設から2021年5月までのMedline、PsycINFO、Embase、CINAHLを検索し、英語の引用文献を調べた。
・ 各研究のStudy characteristics、physician characteristics、バーンアウト(測定項目)、報告方法を含むアウトカム指標に関するデータを抽出。The outcomes of interestは総合的なバーンアウトと感情的疲労、脱人格化、個人的達成感を含むバーンアウトの3つの尺度のいずれかについて評価されたものであった
・ 総合的なバーンアウトのスコアが報告されていない場合は、3つの解釈度のスコアをプールすることでburn outを算出した
・ ログオッズをプールしながらDerSimonian-Lairdランダム効果を使用し、これらの結果を指数化してオッズ比とし、フォレストプロットでデータを表示した。10以上の研究を含むメタアナリシスでは、出版バイアスを評価するためにファネルプロットとEggerのテストを用い、異質性の量を表すために、予測区間を算出した。
・ その後地域、セッティング、デザイン、年齢、性、専門分野、バーンアウト尺度等の変数を用いてメタ回帰を行った。
Results

・ 239,246名のphysicianを含む170のstudyが適格基準を満たした。
【Study characteristics】
・ 170の研究の内77件(45%)が米国、48件(28%)が欧州
・ 107件(63%)は病院を拠点、プライマリ・ケアのセッティングは29件(17%)
・ 研究全体の医師数の中央値は312人、年齢中央値は42歳、112件(66%)の研究ではほとんどが男性医師であった

・ 医師の専門は、42(25%)が様々なspecialtyの混合、32(19%)が内科、21(12%)が外科(外傷、形成、神経外科)、19(11%)が救急・集中治療、11(6%)が一般開業医、8(5%)がインターンまたは研修医
・ 最も一般的なburn outの測定法は、22項目のMaslach Burnout Inventory完全版であった

【Meta- analysis of association of burnout with career engagement and quality of patient care】
<キャリアエンゲージメント>
・ 仕事満足度:burn outは、満足している場合と比較し、満足度低下と約4倍(3.79, 95%信頼区間3.24~4.43, I2 =97%, k=73 study, n=146,980 physicians) 関連していた(=burn outを有すると、満足度低下する可能性(リスク)が3倍高い)
・ キャリア選択後悔:burn outは、キャリア選択への満足と比較して、その後悔と約3倍関連(3.49, 2.43~ 5.00, I2 =97%, k=16,n=33,871 )
・ 離職意志:バーンアウトは、現在の職にとどまる意向と比較して、離職意向と3倍の増加と関連(3.10, 2.30 to 4.17, I2 =97%, k=25, n=32,271, figure3)
・ 生産性の低下:バーンアウトは、生産性の持続と比較して、小さいながらも有意な生産性の低下と関連(1.82, 1.08~3.07, I2 =83%, k=7, n=9,581)
・ キャリア開発:2つの研究だけが、良いキャリア開発と比較して、全体的なバーンアウトとキャリア開発の懸念との間に有意なプールされた関連を報告した(3.77, 2.77 to 5.14, I2 =0%, k=2, n=3,411)
<患者ケア>
・ 患者安全インシデント:バーンアウトは、患者安全インシデントを起こさない場合と比較して、患者安全インシデントのリスクが2倍になることと関連していた(オッズ比 2.04, 95%信頼区間 1.69 to 2.45, I2=87%, k=35, n=41 059; figure 5)
・ プロフェッショナリズム:バーンアウトは、プロフェッショナリズムの維持と比較して、プロフェッショナリズムの2 倍以上の低下と関連していた(2.33, 1.96~2.70, I2 =96%, k=40,n=32,321)
・ 患者満足度:バーンアウトは、患者満足度の最大3倍の低下と関連していた(2.22, 1.38~3.57, I2 =75%, k=8,n=1,002)

<メタ回帰>
・ 単変量回帰の結果、全体的なバーンアウトと低い仕事満足度との関連は、プライマリケアセッティングと比較して病院勤務医(1.88,0.91~3.86,P=0.09)、より具体的には一般内科と比較して救急医療と集中治療(2.16,0.98~4.76,P=0.06)、31~50歳の人と比較して50歳以上の医師でより強い関連が見られた(2.41, 1.02~5.64, P=0.04 )。この関連は、開業医で最も弱かった(0.16、 0.03~0.88、 P=0.04)。 しかし、これらの関連は多変量回帰では有意性を保てなかった
・ 単変量回帰の結果、バーンアウトと患者安全インシデントの関連は、若い医師(20~30歳、1.88、1.07~ 3.29、P=0.03)、救急や集中治療の現場で働く医師(2.10、1.09~3.56、P=0.02)または研修中の医師で大きいことが判明した
・ バーンアウトとキャリア選択の後悔との 関連を単変量回帰で調べた結果、救急医療・集中治療を専門とする医師(2.89, 0.97~14.89, P=0.10)、神経内科(2.52, 0.82~7.80, P=0.10)で最も大きいことが判明した

※参考:22項目のMaslach Burnout Inventory完全版の測定項目

(https://www.researchgate.net/figure/Maslach-Burnout-Inventory-Item-Stems-and-Frequency-With-Which-Items-Load-on-Expected_tbl1_200010233)

Discussion
<研究の限界>
・ 対象国や性別の多様性の少なさ
・ アウトカムの定義にばらつきがあったためか、患者安全、プロフェッショナリズム、仕事への満足度など、いくつかのアウトカムで大きな異質性が見られた
・ これらのアウトカムを評価するために使用されたツールやアンケートはかなりばらつきがあり、このばらつきによって意味のあるサブグループ分析や感度分析を行うことはできなかった
・ 最大限データの標準化を行ったものの、集計データのばらつきによって、プールされた効果量にある程度の不正確さが存在する可能性はある
・ メタ回帰においては、医師の専門領域など、一部のグループでは参加者が少なかった

【開催日】2023年3月8日(水)

家庭医療学研究についての非公式カリキュラムと学生の認識がキャリア選択に与える関連について

―文献名―
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice
Beinhoff P, Prunuske J, Phillips JP, et al.
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice. [published online ahead of print February 13, 2023]. Fam Med

―要約-
背景
米国はプライマリ・ケア医の不足に直面しており、2034年までに17800~48000人のプライマリケア医が不足すると予測されているが、マッチングの専攻医枠を拡大しても1/3ほどしか埋まっていない。正規のカリキュラムとキャリア選択の創刊についての研究はいくつかあるが、研究環境などの学習環境や学生の認識との研究は少ない。今回、家庭医療に対する学生の認識やその環境が学生の家庭医療キャリアの選択に与える影響について調査した多施設共同研究を行い、医学生が家庭医を目指すことを決定する理由を明らかにし、今後の不足に対処するための取り組みに役立てたい。
方法
家庭医療に対する学生の態度を評価するために開発され改良された14項目の検証済み質問票であるFamily Medicine Attitudes Questionnaire(FMAQ:Table2)に対する医学生の回答を、米国の16医学部で収集され、各大学の家庭医療に進む卒業生の割合と比較した。
※ FMAQについては以下を参照
※ https://journals.stfm.org/media/2378/phillips-2018-0409.pdf
※ 14項目の質問票は、Cronbach αが0.767。総スコアは家庭医療分野の選択と相関があった(P<.001)。質問票のスコアが56以上であれば、家庭医療に進む学生を特定するのに78.1%の感度と65.3%の特異性。回帰分析で質問票スコアは、家庭医療を選択する独立した予測因子であった(オッズ比1.289。信頼区間1.223-1.347)。 家庭医療に対する学生の意識と卒業生のキャリア選択との関係を探るため、各医療機関のFMAQスコアの合計を、各医療機関の卒業生の家庭医療を選択する割合と関連させて分析した。学生個人のレベルではなく、教育機関レベルで探り機関毎で測定した。またFMAQの下位尺度である、家庭医の仕事の楽しさ、家庭医で十分な収入が得られるか、仕事量のコントロールなどを反映した質問から採点された。マッチング結果と家庭医のライフスタイル、研究、重要性、不足に対する学生の態度など、特定のFMAQデータセットサブセット領域との比較について、二次的なピアソン相関係数分析を実施した。

結果
FMAQスコア(学生の認識)の学校別平均は55.7(SD 2.5)、範囲は51.5-59.9。家庭医のマッチング率の平均は12.0%(SD 4.6%)、範囲は2.8~22.3%で、2,844人の学生のうち1,189人がアンケートに回答し、全体の回答率は41.8%となりました。

図1は、16校のFMAQ平均スコア(x軸)と家庭医のマッチング比率(y軸)をグラフ化した散布図である。この散布図から、1校が外れ値であると判断され、さらなる分析から除外された。この学校は、その後、もともとデータに含まれていた唯一のオステオパシー学校であることが判明した。

表3は、FMAQサブスケールのドメインと各校の家庭医へのマッチング比率との相関を示したものである。各サブスケールドメインのピアソン係数は以下の通りである。それぞれ、ライフスタイルが0.539、研究が0.812、重要性が0.607、不足が0.644であった。家庭医療学研究に対する学生の態度は、FMAQの総合得点や他の下位項目と比較して、教育機関からの家庭医マッチ率の割合と最も強く相関している変数であった。家庭医療研究に対する学生の肯定的な認識は、家庭医療レジデンシーへマッチングと最も強く相関する要因であった。

ディスカッション
医学部全体での学生の家庭医療に対する考え方が、その医学部の学生のうち家庭医療レジデントを目指す学生の割合と相関していることを示唆しています。家庭医療の経験のみならず研究に積極的に触れることは、学生の認識に変化をあたえる可能性がある。
AAMCのデータによると、卒業時に家庭医療を選択した学生の約半数は、医学部の初期に別の専門分野を選択していたと報告しており、学生への介入することの意義を強調している。また家庭医療研究に対してポジティブな印象を与える大学は、家庭医療のキャリア選択を支援する環境作りに影響力を持つ可能性がある。さらに、優れた研究実績を持つ家庭医療学教室は、教育やリーダーシップなど他の面でも優れている可能性があり、それらが一体となって学生にとって魅力的な学問分野としての評判を形成している可能性がある。
家庭医療研究に対する認識と家庭医キャリア選択の間に正の相関があることは、家庭医療研究の質と量が修正可能な特性であるため、家庭医療科にとって重要な発見である。家庭医療研究者を奨励・支援し、家庭医療科の学生に高品質でインパクトのある研究に触れさせることは、プライマリ・ケア人材を強化するための重要な戦略であると思われる。さらに、医学生が家庭医学研究プロジェクトに参加する機会を充実させることや、臨床実習で家庭医の研究を強調することも、診療科の戦略として考えられる。これまでの研究で、家庭医療学研究の最も重要なテーマは、全人的、地域ケア、ライフコース、集団への健康活動であるとされている。これらの研究テーマを医学生の臨床実習に組み込むだけでなく、家庭医や診療科の研究活動やSDH活動を紹介すれば、家庭医療学研究の価値を伝える有効な手段になるであろう。
結論
家庭医療と家庭医療学研究に対する学生の認識や接点を強化することは、家庭医なる卒業生数の増加を目指し、家庭医療学講座や医学部での関わりに有効な機会を生み出す可能性がある。

【開催日】2023年3月8日(水)

薬物の使用過多による頭痛(MOH, Medication Overuse Headache)に対する 3 つの治療戦略 : 無作為化臨床試験

-文献名-
Carlsen LN, Munksgaard SB, Nielsen M, et al. Comparison of 3 Treatment Strategies for Medication
Overuse Headache: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2020;77(9):1069–1078.

-要約-
Introduction:世界では、6,000 万人以上の人々が MOH に罹患している。(担当者注:一般人口 の約1−
2%と言 わ れている。 )個人にとって大きな負担となり、社会経済的な問題を引き起こす。
世界疾病負担調査で、障 害による生命喪失年数の上位 20 疾患に複数回取り上げられている。頭痛の頻度が増加し、短期間の薬物乱用が 進み、治療が困難な慢性頭痛を引き起こすことが特徴です。
(担当者注:病態生理は不明。遺伝素因 や 5-HT 1B/1D 受容体の感受性か。
片頭痛患者が MOH に進展することが多く、群発頭痛患者や 毎日のように消炎鎮痛剤を服用する RA 患者では MOH は多くない。)
薬の使いすぎは、既存の頭痛の治療が不十分であることの結果で あるかもしれません。複数の治療戦略が考えられていますが、議論の余地があります。

目的:MOH の 3 つの治療戦略を比較する
 1. 始めから休薬と予防を行う「休薬+予防戦略」
 2. 休薬はせず予防だけの 「予防戦略」
 3. 休薬の 2 ヶ月後に、予防治療を任意に行う 「休薬戦略」
 (デンマークの GL で、休薬は2ヶ 月間の 鎮痛剤の完全休止と定義つけられている。)

Method:
対象:
デンマーク頭痛センター(DHC)の 3 次医療に紹介された国際頭痛分類第 3 版(ベータ版)による MOH の診断を受 けた患者。頭痛の日数と薬の使用は、詳細な病歴と少なくとも 1 ヶ月分のデータがある頭痛カレンダーから確認した。
組入:
頭痛カレンダーを記入できること、18 歳以上であること、ICHD-3βの基準に従って、既存の緊張型頭痛および片頭痛(エピソード型および慢性型を含む)に起因する MOH であること、
薬の過剰使用のタイプ(オピオイドやバルビツール酸を毎日またはほぼ毎日使用しない)、個人の資源、モチベーションに基づいて外来治療に適格であるとみなされた。
除外:
重度の身体疾患(例:重度の疼痛の併存、コントロール不能な糖尿病、重篤な心臓病、癌)、精神疾患 (抗うつ薬の投与、精神科医による継続的治療、精神科クリニックでの治療)、
アルコール・薬物中毒がある場合、妊 娠・授乳中、12 ヶ月以内に妊娠予定の場合、病歴について情報を提供できない場合(言語の壁を含む)、他の頭痛 予防治療を行っている場合

研究デザイン
プロトコルは、Sup. 1 に記載。前向き縦断的オープンラベル無作為化臨床試験(RCT)で、患者は 1:1:1 で、休 薬+予防群、予防群、休薬群に無作為に割り付けられた。
3 つの戦略はすべて外来治療であった。患者は、ベース ラインと 2 カ月、6 カ月に面会し、治療開始後 1 カ月と 4 カ月に電話でフォローアップされた。
休薬アプローチ
休薬+予防群および休薬群は、訓練を受けた看護師から休薬と MOH に関する個別アドバイスを受け、その後、2 ヶ月間鎮痛剤を完全に中止した(Sup.2 の表 1)。
予防群は、プロジェクトの説明に関連して休薬について簡単な説明を受けただけで、短期間の薬物使用の制限は求められなかった(Sup.2 の表 1)。
休薬中はレスキュー薬(レボメプロ マジン(ヒルナミン®)または塩酸プロメタジン(ヒベルナ®)、最大用量 75 mg/日)と制吐薬(塩酸メトクロプラミドまたはドンペリドン錠、推奨用量 10 mg)が全例に提供された。
休薬後、休薬+予防投与群及び休薬群では、月 9 日(単純鎮痛剤のみでは月 14 日)の範囲で短期間の投薬が可能となり、休薬群には予防投与が行われた。
予防的アプローチ
休薬+予防群および予防群には、デンマークのガイドラインに従って選択された特定の予防治療に関する情報が提供された(Sup.2 の表 1)。
CGRP 関連抗体は、本試験の時点では入手できなかった。
エンドポイント
主要評価項目は、3 つの治療戦略におけるベースラインから 6 ヶ月後までの 1 ヶ 月あたりの頭痛日数の変化 。
副次的評価項目は、3 つの治療法について以下の項目を比較した。(1)ベースラインから 1、2、4 ヵ月後までの 1ヵ月あたりの頭痛日数の変化(2)ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの1ヵ月あたりの片頭痛日数の変化(3)ベースラ インから 1、2、4、6 ヵ月後までの 1 ヵ月あたりの短期薬剤使用日数の変化(4)0 から 90 までの 1 ヵ月あたりの総頭 痛強度得点の変化 (5)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に 1 ヶ月あたりの頭痛日数が 50%以上減少した患者数 (6)2 ヶ月後および 6 ヶ月後にエピソード性頭痛に戻った患者数 (7)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に薬の使いすぎで、6 ヶ月後にMOH の治癒が確認された患者数

Results:
対象者
2016 年 10 月 25 日から 2018 年 11 月 19 日までの MOH 患者は 483 人であった。
これらの患者のうち、195 人 が包括基準を満たし、75 人が参加を拒否し、120 人が連続して試験に組み入れられた(図 1)。
40 名の患者が各 治療法に無作為に割り付けられ、102 名が 6 ヶ月間の追跡調査を完了した(平均[SD]年齢:43.9[11.8] 歳、
女性 81 名[79.4]、男性 21 名[20.6])、合計 15%の脱落率(休薬+予防群:40 名中 9 名[22.5]、予防群:40 名中 5 名[12.5]、休薬群:40 名中 4 名[10.0])に相当した。ベースラインの特徴 は 3 群間で同様であった(表 1)。


月別頭痛日数の変化(主要評価項目)
1 ヶ月の頭痛日数は、休薬+予防投与群で 12.3 日(95%CI、9.3-15.3)、予防投与群で 9.9 日(95%CI、7.2-
12.6)、休薬群で 8.5 日(95%CI、5.6-11.5)減少しました。6 ヵ月後(P = 0.20)、あるいはその他の時点でも、3 群 間に差はなかった(図 2A)。
月間片頭痛日数、短期間の薬物使用日数、頭痛の痛みの強さの変化(副次評価項目)
図 2B〜D は、ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの片頭痛のある日数、短期間薬を使用した日数、頭痛の痛 みの強さの平均減少量を示す。1 か月あたりの片頭痛日数は,休薬+予防群で 5.0 日(95%CI,1.4-8.6),予 防群で 4.1 日(95%CI,1.1-7.1),休薬群で 3.3 日(95%CI, 0.9-5.7 )短縮した(p = 0.74)。

1ヵ月後、1ヵ月あたりの短期薬物使用日数は、休薬+予防群で 21.9 日(95%CI、19.5-24.3)、予防群で 8.6日(95%CI、6.6-10.6)、休薬群で 22.0 日(95%CI、19.6-24.4)減少していた。
痛みの強さのスコアは,休薬+予防群で 28.1(95% CI,21.1-35.1), 予防群で 23.7(95% CI,17.1- 30.2), 休薬群で 20.8(95% CI,12.2-29.4) に減少した(P = 0.42).

治療効果、エピソード性頭痛の寛解、および MOH の治癒
表 3 に示す。6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 23 人(74.2%)がエピソード性頭痛に戻ったのに対し、予防群 では 35 人中 21 人(60.0%)、休薬群では 36 人中 15 人(41.7%)だった(P = 0.03)。エピソード性頭痛への回帰の RR は 1.8(95%CI, 1.1-2.8; P = .03)であり、休薬+予防群では休薬群と比較して、エピソード性頭痛に回帰する 確率が 80%高いことに相当した。
6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 30 人(96.8%)が MOH を治癒したのに対し、予防群では 35 人中 26 人 (74.3%)、休薬群では 36 人中 32 人(88.9%)でした(P = 0.03)。これは、休薬+予防群では予防群に比べて MOH が治癒する確率が 30%(RR、1.3;95%CI、1.1-1.6)高いことに相当する(P = 0.03)。

Discussion:
何十年もの間、MOH 患者に対する最適な治療方針が議論されてきた。いくつかの研究で休薬治療の効果が推定され、MOH に対する休薬と予防治療の組み合わせが多国籍多施設共同研究(COMOESTAS)で検証されました。
本研究は、議論されている 3 つの治療戦略を直接比較し、MOH 患者をどのように治療すべきかという臨床的な 問題に取り組んだ、我々の知る限り初の試みである。頻回頭痛による MOH の既往のある患者さんには、新たな慢 性頭痛の発症や MOH の再発を防ぐために有効な薬物療法が必要です。
長所と短所
休薬治療は盲検化が不可能であり、本研究のデザインは、この臨床的問題を解決するために最も実現可能で実用 的なものであった。本研究の大きな強みは、臨床的妥当性が高いことである。この結果は、ほとんどの MOH 患者に 容易に適用でき、3 つの治療戦略はすべて外来プログラムであり、プライマリーケアやセカンダリーケアでも実行可能であ ると考えられる。研究対象者の 75%以上が、単純な鎮痛剤という 1 種類の薬の過剰使用であった。
MOH にはどの治療が最も効果的か?
患者 120 人を対象としたこの無作為化臨床試験では、休薬と予防薬による治療が最も効果的で、1 ヶ月あたりの 頭痛日数が平均 12.3 日減少しました。薬物乱用頭痛の治療には、休薬開始時から休薬と予防薬を使用すること が推奨されます。

【開催日】2023年3月1日(水)

高齢者のRA患者における低容量プレドニゾロンの追加効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
・Boers M, Hartman L, Opris-Belinski D, et al.
“Low dose, add-on prednisolone in patients with rheumatoid arthritis aged 65+: the pragmatic randomised, double-blind placebo-controlled GLORIA trial.”
・Annals of the Rheumatic Diseases 2022;81:925-936.

-要約-
Background:
RAは炎症性疾患であり、RAそのもの、あるいは治療により合併症を生じる。グルココルチコイドによる治療は1950年より比較的commonに行われているが、そのメリットとデメリットはまだよくわかっていない。多くはステロイドによる副作用の懸念があるが、初期のRAについては合併症が目立たないという報告もある。
多くの研究ではより合併症を経験しやすい高齢者が除外されていたり、PSLの量がバラバラであったりと質の高い研究は行われていない。
そこで、今回は2年の盲検化比較試験(GLORIA)により、高齢者において、5mg/日のPSLを標準治療に加えた効果と安全性について検討する。

Method:
デザイン、セッティング:EUの7カ国、28施設で無作為、二重盲検のRCT。
PSL5mg群とプラセボ群を、過去のPSL使用歴、ベースラインのリウマチ治療、施設によって層別化して1:1に割り付け、経過中の抗リウマチ薬やフレア時の短期間の強化治療などは行った。(はじめの3ヶ月はなるべく抗リウマチ薬は変更しないようにお願いした)

対象患者:65歳以上のRA患者でDAS28 2.6以上(当初は3.2以上 低・中活動性以上)
除外基準;ステロイド治療の禁忌、治療により悪影響があると考えられるコントロール不良の状態。
アウトカム評価:身体検査と定期的な採血を必要とするアウトカムは、ベースライン、3、6、12、18、24ヶ月目に評価した。患者はこれらの時期に転帰を報告し、さらに9、15、21ヶ月目に電話インタビューを行った。画像診断は、ベースラインと24ヵ月目に実施した。
主要アウトカム:有益性の主要評価項目:DAS28(欠測は多重補完)
有害性の主要評価項目:特に注目すべき有害事象(AESI)を1つ以上経験した患者数の合計
AESIには、Good Clinical Practiceの定義に従った重篤なAE(SAE)、以下のものを加えたものを定義とした(Other AESI)。
AESI
1. 治療継続が困難な有害事象
2. 心筋梗塞、脳卒中、PAD
3. 新規発症 (高血圧、糖尿病、感染症、白内障、緑内障)
4. 症状のある骨折

副次アウトカム:手足のレントゲン上の骨破壊、DEXA (complete case)
サンプルサイズ:800人、ベースの有害事象を20%として、27.5%までの上昇を80%検出できる)
       COVIDにより予定より募集が集まらなかったが450人でも問題ないことを別の研究で確認した。
統計解析;R, SPSS 、Excel

Results:
フローチャート
合計451人リクルートし、コンプリートしたのは6割前後ずつ(20%はCOVID関連のアクセスの問題による脱落)



(基本属性)
平均年齢72歳、BMI27。DAS28は高疾患活動性、CCP陽性がPSL群にやや多い。

・有効性の指標(DAS28)

特にはじめの3ヶ月は疾患活動性の低下がPSL群は顕著だった。

SDAI、レスポンス、など全体的にPSL群が良い印象。

・安全性のアウトカム

主に感染症の有害事象は増えている。骨折が全体は増えているが、SAEは少ない。

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
治療の最適化が可能な標準治療を受けた 65 歳以上の RA 患者において、低用量プレドニゾロン の追加投与は、疾患活動性と損傷の進行に長期的に有益な効果を示した。しかし、その代償として、少なくとも1つのAESIを有する患者数が11%増加した。そのほとんどが、感染症であった。
バイオを使用している患者は比較的諸外国と比べて少ない地域でもあり(20%)、バイオと併用した場合の再燃予防、感染症のリスクについては不明である。
長所はサンプルサイズ、高齢者をターゲットとしたこと、詳細な有害事象の記録である。
短所はモデル的に過小評価するデザインだったこと、プラセボが判別不能になっていたかどうか、短期のフォローアップなのでより長期の有害事象については不明なことである。
ガイドラインでは、短期のPSLの使用を推奨している一方で、実際には長期的に低容量のPSLがプラクティスとしてされている。今回の結果であれば、適切なモニタリング、有害作用(特に感染症や骨量減少)の予防と治療を行えば、このレベルで漸増すれば、疾患活動性を最適に抑制することが可能である。
結論として、低用量プレドニゾロンの追加投与は、最適な治療を受けている高齢のRA患者において、有益性と有害性のバランスが良好であり、長期的に効果が期待できる。

【開催日】2023年3月1日(水)

COVID-19パンデミック時のプライマリ・ケア属性の入院への影響

―文献名―
Takuya Aoki, et al. Impact of Primary Care Attributes on Hospitalization During the COVID-19 Pandemic: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan. Ann Fam Med. 2023 Jan-Feb;21(1):27-32.
doi: 10.1370/afm.2894.

―要約-
【背景】
死亡率、合併症、医療費の増加に関連する入院の予防は、プライマリケアの重要な役割である。COVID-19のパンデミック以前の研究では、質の高いプライマリ・ケアの本質的な属性と入院の減少との関連性が検討されている。例えば、システマティックレビューでは、プライマリ・ケア医との継続性が高ければ入院の総数が減少すると報告されている。他の研究では、プライマリ・ケアへのアクセスが良く、より包括的であれば入院の減少につながることが示されている。パンデミックの間、プライマリケア提供者は、通常の医療に加えて、患者のトリアージ、COVID-19の治療とワクチン接種を支援するためにリソースを割いた。さらに、米国や日本で行われた研究では、パンデミック時に外来受診数が減少し、遠隔医療による受診が増加したことが一貫して報告されている。その結果、予防サービスの利用率の低下、慢性疾患の診断の減少、慢性疾患のコントロールの悪化が報告されている。日本では、他の国と同様、パンデミック時にプライマリ・ケア医が通常の医療と並行してCOVID-19の初期評価とワクチン接種を行った。日本のプライマリ・ケアサービスは、地域の診療所と中小病院の外来で行われている。日本プライマリ・ケア連合学会は2010年から家庭医を認定しており、日本専門医機構は2018年から新たにプライマリ・ケア専門医の認定制度を開始した。我々のチームは、質の評価、多疾病、在宅医療、患者の複雑性などに関するプライマリ・ケア研究を行ってきた東京慈恵会医科大学臨床疫学教室の教員と卒業生で構成されている。パンデミック時には、予防医療、慢性疾患管理、一般的な急性疾患への早期対応に多くの障害があるため、プライマリ・ケアの特性がCOVID-19などによる入院の減少に貢献したかどうかは不明である。そこで、本研究では、日本の成人人口の代表サンプルを用いて、COVID-19パンデミック時のプライマリ・ケア中核属性と総入院数の関連性を検討することを目的とした。

【方法】
デザイン、設定、参加者
我々は、COVID-19の第4波から第6波の期間である2021年5月から2022年4月(追跡期間12カ月)に、「全国通常診療調査」と題する日本全国前向きコホート調査を実施した。2022年1月のオミクロン・ヴァイエントから始まった第6波は、日本で過去最大の規模となり、毎日9万人以上のCOVID-19の新規患者が発生しました。本調査では、日本リサーチセンターが運営する全国代表パネルを用いて、参加候補者を選定しました。このパネルは、日本の成人人口から多段階抽出法で選ばれた約7万人の住民から構成されている。このパネルから、年齢、性別、居住地域別に層別無作為抽出により40歳から75歳の参加予定者を選んだ。ベースライン調査では、参加者の普段のかかりつけの病院とプライマリ・ケア属性、健康状態、健康関連QOL、社会人口統計学的特性を評価した。ベースライン調査終了から12ヵ月後にフォローアップ調査を実施し、入院を含む医療利用について評価した。初回調査および追跡調査のデータ収集は、郵送で行われた。回答者には、調査ごとに500円の商品券を贈呈した。本研究は、東京慈恵会医科大学の機関審査委員会により承認された。

測定
プライマリ・ケア属性
JPCAT は、プライマリ・ケア属性を測定するための国際的に認知された尺度である Primary Care Assessment Tool をベースとしており、これまでの研究で、JPCAT は良好な信頼性と妥当性があることが示されている。まず、プライマリケア評価ツールの以下の項目を用いて、個人の普段のかかりつけ医を確認した。”病気になったときや健康についてアドバイスが必要なときに、いつも行くお医者さんはいますか?” 参加者は、大学病院以外で診療している医師を特定できた場合、普段のケア源を持っているとみなされた。次に、普段のかかりつけ医がいる参加者に対して、JPCATでプライマリ・ケア属性を評価した。JPCATの採点方法は、5段階のリッカート尺度(1=強く反対、2=やや反対、3=わからない、4=やや賛成、5=強く賛成)である。各項目の回答は0~4点の得点に変換され、同じ領域の項目得点の平均値を25倍して、0~100点の領域得点が算出される。JPCAT総合得点は、6つの領域得点の平均値であり、プライマリ・ケアの特性を総合的に表しており、得点が高いほど質が高いことを示している。

入院
本試験の主要評価項目は,COVID-19流行期間中の12カ月間の入院発生率であった.入院は、追跡調査項目 “過去12カ月間に、入院したことがありますか?”への回答によって決定された。参加者は2値(はい vs いいえ)で回答するよう求められた。参加者は、一次質問で「はい」と答えた場合、入院に関する次の項目に回答するよう求められた。”過去12ヶ月の間に、新型コロナウイルスに感染したために入院したことがありますか?” 参加者は、イエスかノーで答えるよう求められた。

統計解析
連続データの記述統計は平均値と標準偏差で報告された。カテゴリーデータは度数およびパーセンテージで報告した。JPCATの総得点が入院と関連しているかどうかを調べるために、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。さらに、JPCATの各ドメインスコアと転帰の関連について補助的な分析を行った。JPCATの総得点とドメインスコアを4分位に分類した。プライマリ・ケア属性と入院との関連を検討した先行研究に基づき、以下の潜在的交絡因子を選定した。つまり、年齢(連続)、性別、教育レベル(学士未満と学士以上)、慢性疾患数(連続)、EuroQol 5次元質問票(EQ-5D-5L)5段階評価による健康関連QOL(連続)である。我々は、過去の多疾病に関する文献とプライマリ・ケア集団との関連性に基づいて作成された、有効な20の慢性疾患のリストを使用した。高血圧、うつ病/不安神経症、痛みや制限をもたらす慢性運動器疾患、関節炎/関節リウマチ、骨粗鬆症、慢性呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎)、心血管疾患、心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作、胃腸障害、大腸障害、慢性肝炎、糖尿病、甲状腺障害、過去5年間の癌、腎臓病・腎不全、慢性尿路障害、認知症/アルツハイマー病、高脂血症および肥満である。すべての交絡因子は、ベースライン時に自記式質問票を用いて評価された。先行研究で用いられたサンプルサイズの計算式によると,ロジスティック回帰分析のためには変数あたりのイベント数が10以上必要である。先行研究では、日本人成人における入院の発生率は1ヶ月あたり1%と評価されている。したがって、本研究では変数数が最大9であることから、最小サンプルサイズを750と見積もったが、全国通常介護調査における他の研究のニーズを考慮して、より多くのサンプルサイズが選択された。各分析では、多重比較の調整なしで、P <.05の両側有意水準を使用した。独立変数の欠測データは、完全条件指定を用いた20のインピュテーションによる多重インピュテーションを適用して処理された。統計解析は、R, version 4.2.1 (the R Foundation)を用いて行った。

 

【結果】
参加者の特性
全国代表パネルから層別無作為抽出により40歳から75歳の1,382人が選ばれ、1,262人がベースライン評価を受けた。そのうち1,161人(92%)が追跡調査を完了した(Figure 1)。

Table 1に調査対象者のベースライン特性を示す。追跡調査を受けなかった参加者は、追跡調査を完了した参加者に比べて、年齢が若く、通常のケア提供者が少ないことを示唆する傾向が認められた。追跡調査を終了した被験者のうち,87名(7.5%)が12ヵ月間に入院した。そのうち5名(5.7%)がCOVID-19が原因で入院したと報告された。入院経験のない参加者と比較して、入院経験のある参加者は、高齢で、男性が多く、慢性疾患が多く、EQ-5D-5L得点が低く、普段のケア提供者がいる頻度が少なかった。普段のケア提供者がいる参加者では、入院した参加者は入院していない参加者に比べて、JPCATの平均総スコアと全ドメインスコアが低かった。

プライマリ・ケアと入院
Figure 2にプライマリ・ケアの総合評価(JPCAT総合得点)と入院との関連を検討した多変量ロジスティック回帰分析結果を示す。交絡因子で調整した結果、JPCAT総合得点は、通常のケアを受けていない場合と比較して、JPCAT最高四分位群では入院の減少に用量依存的な関連を示した(調整オッズ比[aOR] = 0.37; 95% CI, 0.16-0.83)。Table 2は、JPCATの領域得点と入院との関連をモデル化した多変量ロジスティック回帰分析の結果である。

Table 2には、JPCATの各ドメインスコアと入院との関連を多変量ロジスティック回帰分析でモデル化した結果を示す。線量反応関係は明確ではないが、JPCATの各ドメインスコアと入院との関連は、最高四分位と通常のケアなしとを比較するとすべて統計的に有意であった。

【考察】
日本人の成人人口を対象とした我々の全国前向きコホート研究により,JPCATで評価したプライマリケア全般の属性が,COVID-19パンデミック時の入院減少に関連していることが明らかになった。普段の医療が パンデミック時の入院を予防することは、国民の健康状態の悪化を回避し、医療費を削減するだけでなく、入院医療の過重負担を軽減することにもつながる。本研究の結果は、COVID-19パンデミック以前の知見と一致しており、アクセス性、継続性、調整、包括性などの各プライマリケア属性が入院の減少と関連していることを示している。特に、ケアの継続性が入院を減らすことができるという強いエビデンスが存在する。例えば、ノルウェーの最近の登録ベースの観察研究では、開業医によるケアの継続性は、用量依存的に急性期入院の減少と関連していると報告されている。さらに、この研究では、用量反応関係が存在することを示す主要な地域志向との関連は、因果関係があることを示している。さらに、JPCAT のファーストコンタクト、縦断性、連携性、包括性、地域志向性を表すすべてのドメインが入院の減少に関連していた。これらの結果は、通常の医療を提供する上で多くの障壁があるパンデミック時においても、質の高いプライマリ・ケアの提供が総入院数の減少に寄与していることを示している。パンデミック時の入院を予防することは、国民の健康状態の悪化を回避し、医療費を削減するだけでなく、入院医療の過重負担を軽減することにもつながる。地域志向は、単にプライマリケア診療所を訪れる患者だけでなく、地域住民全員の知識を通じて、疾患の認識、予防、管理を改善することができる。特にパンデミック時には、公衆衛生診療とプライマリ・ケアサービスの提供の統合が、より重要なプロセスとなる可能性がある。我々の知見の基礎となるメカニズムの一つとして、最近の全国規模の研究では、COVID19のパンデミック時に、プライマリケア全体の属性が、スクリーニング、予防接種、カウンセリングなどの予防医療の受給の増加と関連していたことが報告されている。慢性疾患の管理、メンタルヘルス、社会健康格差に関する他のメカニズムについては、さらに研究が必要である。我々の発見は、COVID-19パンデミック時およびその後の各国のプライマリ・ケアシステムを強化しようとする政策を支持するものである。例えば、米国科学・工学・医学アカデミーによる新しいコンセンサスレポートでは、米国は政府および民間部門による質の高いプライマリ・ケアの実施を優先させるべきであると強調されている。我々の知る限り、本研究は、パンデミック時の入院に対するプライマリ・ケアの属性の影響を報告した最初の研究である。本研究の主な強みは、日本の成人人口を代表するサンプルを用いた全国規模の研究から得られた縦断的データを使用したことであり、これにより、本研究の結果をより広い人口に一般化することができる。また、本研究のもう一つの強みは、追跡調査率が高いことである。さらに、使用した評価ツールであるJPCATは、プライマリ・ケア属性を評価するための有効で国際的に確立されたツールである。しかし、本研究にはいくつかの潜在的な限界があった。第一に、転居した参加者、調査に回答できなくなった参加者、追跡期間中に死亡した参加者のアウトカムデータがなかったことである。また、追跡調査期間中に転居した参加者は、追跡調査を完了した参加者よりも若く、入院の経験も少なかった可能性がある。また、ベースライン調査のJPCAT得点が低かったため、プライマリケア属性と入院の関係が過大評価された可能性がある。第二に、データ収集に構造化質問票を用いたが、入院や慢性疾患を特定するための自己報告データは、誤分類バイアスをもたらした可能性がある。第三に、参加者のサンプルには、進行した認知症などの疾患を持つ患者が含まれていない。最後に、我々は12ヶ月という短期間の入院を調査したが、より長期間のプライマリケア属性と入院の関連は不明である。結論として、本研究では、通常の医療を提供する上で多くの障壁があるパンデミック時においても、プライマリ・ケア、特に質の高いプライマリ・ケアの提供は、総入院数の減少と関連していることが明らかとなった。これらの知見は、パンデミック時およびその後にプライマリ・ケアシステムを強化しようとする政策を支持するのである。

【開催日】2023年2月8日(水)

高齢者における健康的なライフスタルと記憶力低下の関連性:10年間の集団ベースの前向きコホート研究

―文献名-
Jianping Jia,1 Tan Zhao,1 Zhaojun Liu, et al.
Association between healthy lifestyle and memory decline in older adults: 10 year, population based, prospective cohort study.
BMJ. 2023; 380: e072691

―要約-
【背景】
わかっていること:記憶力は日常生活の基本機能であり、年齢が上がるにつれて継続的に低下する。 記憶力低下の 多因子にわたる生物学的原因を考えると、遺伝的に記憶力が低下しやすい人であっても、最適な効果を得るためには、 健康的なライフスタイルの要因の組み合わせが必要かもしれない。記憶に影響を与える可能性のある因子として、加 齢、アポリポ蛋白 E(APOE)ε4 遺伝子型、慢性疾患、生活パターンなどの研究が行われている。

今回わかったこと:APOEε4 対立遺伝子を持つ人を含め、認知的に正常な高齢者において、健康的でポジティブな行 動の組み合わせは、記憶の低下速度を遅くすることと関連している これらの結果は、高齢者を記憶の低下から守るため の公衆衛生上の取り組みに重要な情報を提供するかもしれない。

【目的】 高齢者における記憶力低下を予防するための最適なライフスタイルプロファイルを明らかにする。
【デザイン】 母集団に基づく前向きコホート研究。
【設定】 中国の北、南、西の代表的な地域から参加者を集めた。
【参加者】 60 歳以上で認知機能が正常であり、2009 年のベースライン時に APOE 遺伝子型判定を受けた個人。
【主なアウトカム評価】 参加者は、死亡、中止、または 2019 年 12 月 26 日まで追跡調査された。健康的なライフス
タイルの 6 つの要因を評価した:
①健康的な食事(対象食品 12 品目のうち少なくとも 7 品目の推奨摂取量を遵守)、
②定期的な身体運動(中強度の 150 分以上または強度の 75 分以上、週あたり)、
③活発な社会接触(≧週 2 回)、
④活発な認知活動(≧週 2 回)、
⑤喫煙をしない、またはしたことがない、
⑥アルコールを飲まない。
参加者は、健康的なライフスタイルの要因が 4〜6 個あれば好ましいグループに、2〜3 個あれば平均的なグループに、0
〜1 個あれば好ましくないグループに分類された。記憶機能は WHO/University of California-Los Angeles Auditory Verbal Learning Test(AVLT※)で、グローバル認知機能は Mini Mental State Examination で 評価した。線形混合モデルを用いて、研究対象者の記憶に対する生活習慣要因の影響を調査した。

※AVLT:即時再生、短期遅延自由再生(3 分後)、長期遅延自由再生(30 分後)、長期遅延認識の測定を 行う。テストでは、評価者が 15 個の名詞からなる単語リストを読み、その直後に、参加者はできるだけ多くの単語を繰り 返してもらう。即時再生の得点は 0〜60 点、その他のテストの得点は 0〜15 点であった。標準 z スコアは、それぞれの 平均値と標準偏差のテストスコアに基づいて計算される。記憶機能の複合 z スコアは、各テストの z スコアを平均すること によって構成される。

【結果】
29,072 名の参加者(平均年齢 72.23 歳、女性 48.54%(n=14113)、APOE ε4 キャリア 20.43%
(n=5939)) が対象となった。10 年間の追跡期間(2009-19 年)において、好ましいグループの参加者は好まし くないグループの参加者に比べて記憶の低下が遅かった(0.028 ポイント/年、95%信頼区間 0.023-0.032、P< 0.001)。APOE ε4 のキャリアの中では、好ましいライフスタイル群(0.027、95%信頼区間 0.023 から 0.031)お よび平均的ライフスタイル群(0.014、0.010 から 0.019)は、好ましくないライフスタイルの人々よりも遅い記憶力低 下を示していた。APOE ε4 のキャリアでない人々では、好ましい群(0.029 ポイント/年、95%信頼区間 0.019〜 0.039)および平均群(0.019、0.011〜0.027)で、好ましくない群の参加者と同様の結果が観察された。APOE ε4 の状態とライフスタイルのプロファイルは、記憶力の低下に対して有意な相互作用を示さなかった(P=0.52)。 記憶力低下に対する各生活習慣構成要素の寄与を評価した。その結果、健康的な食事が記憶に対して最も強い影響を与え(β=0.016、95%信頼区間 0.014〜0.017、P<0.001)、次に活発な認知活動(β=0.010、 0.008〜0.012、P<0.001)、規則正しい身体的運動(β=0. 007, 0.005〜0.009, P<0.001)、活発な社 会的接触(β=0.004, 0.002〜0.006, P<0.001)、喫煙をしないまたはしたことがない(β=0.004, 0.000〜 0.008, P0.026)、飲酒しない(β=0.002, 0.000〜0.004, P0.048)の順だった(サプリメント表 6)。 【ディスカッション】 強み:この大規模な研究は、異なるライフスタイルプロファイル、APOE ε4 の状態、およびそれらの相互作用が、10 年 間の追跡期間にわたって縦断的な記憶の軌跡に及ぼす影響を推定した、我々の知る限り初めての研究である。その結 果、遺伝的に記憶力が低下しやすい人を含め、認知的に正常な高齢者では、健康的なライフスタイルが記憶力の低下 速度の緩やかさと関連していることが明らかになった。 このような変化のメカニズムは本研究では明らかにされていないが、脳血管リスクの低減、認知予備能の向上、酸化スト レスや炎症の抑制、神経栄養因子の促進などが考えられる。 弱み: ①ライフスタイル要因の評価は自己報告に基づいており、したがって測定誤差が生じやすい。 ②数名の参加者は、データの欠損やフォローアップ評価のために戻ってこないという理由で除外され、選択バイアスにつな がった可能性がある。 ③不健康な人は研究に参加しにくいので、不健康なライフスタイルを持つ人の割合は、我々の研究では過小評価された かもしれない。 ④我々の研究デザインの性質上、健康的なライフスタイルの維持が、研究への登録時点で既に記憶に影響を与え始め ていたかどうかを評価することはできなかった。 ⑤我々は、記憶機能全体を包括的に反映していない単一の神経心理学的検査を用いて記憶を評価した。 【結論】 健康的なライフスタイルは、APOE ε4 対立遺伝子がある場合でも、より緩やかな記憶力の低下と関連してい る。この研究は、高齢者を記憶力低下から守るための重要な情報を提供するかもしれない。

【開催日】2023年2月8日(水)

コロナウイルス感染症の非入院ワクチン接種患者におけるニルマトルビルおよびリトナビルの経口投与について

―文献名―
Sarju Ganatra, Sourbha S Dani, Javaria Ahmad, Ashish Kumar, Jui Shah, George M Abraham, Daniel P McQuillen, Robert M Wachter, Paul E Sax, Oral Nirmatrelvir and Ritonavir in Nonhospitalized Vaccinated Patients With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19), Clinical Infectious Diseases, 2022;, ciac673

―要約-
Introduction:
COVID-19の治療にニルマトレルビルとリトナビル(NMV-r)を併用することで、入院していないワクチン接種を受けていないハイリスク患者を治療すると、重症化するリスクが減少しました。ただし、ワクチン接種を受けた患者における NMV-r の潜在的な利点は分かっていません。

Method:
TriNetX 研究ネットワークを用いて、比較後方視的コホート研究を実施した。ワクチン接種を受け、少なくとも1ヶ月後にCOVID-19を発症した18歳以上の患者を対象とした(2021年12月1日から2022年4月18日の間)。診断後 5 日以内の NMV-r の使用に基づいてコホートを作成した。主要複合転帰は,30 日の追跡調査時の全原因救急室(ER)受診,入院,死亡とした.副次的転帰には,主要転帰の個々の要素,多系統の症状,COVID-19 に関連する合併症,診断検査の利用が含まれた.(複合主要エンドポイントである全原因ER受診、入院、死亡の各要素。COVID-19の診断から30日以内のさまざまな全身および非特異的症状(体質、心肺、消化器、神経系および筋骨格系症状、におい/味覚変化)、全身合併症(心血管系、呼吸器、消化器、気分障害)、診断検査(放射線診断検査、心血管診断検査[心エコー図および心臓リズムモニター])実施率)。Figure1

COVID-19を発症した非入院ワクチン接種患者を,診断後5日以内のNMV-rの使用に基づいて2つのコホートに分けた.NMV-rを使用したコホートとNMV-rを使用しなかったコホートである.連続変数については独立標本のt検定を用いてコホートを比較し、平均値(範囲)として報告した。カテゴリー変数はカウント(%)で報告し、カイ二乗(χ2)検定で比較した。患者コホートのベースラインの違いを制御するために、0.1プールの標準差(SD)のキャリパーで貪欲な最近傍アルゴリズムを使用する組み込みアルゴリズムを活用して、臨床的に関連性のある特性について1:1 PSMが実行された。コホート間の標準化平均差が0.1より小さい特性は、よくマッチしているとみなされた。傾向マッチング後、関連性の尺度としてχ2検定を用い、主要アウトカムと副次アウトカムについて95%信頼区間(CI)付きのオッズ比(OR)を算出した。相対的リスク低減は、治療群(NMV-r)と対照群(非NMV-r)の間の絶対リスク低減を対照群の絶対リスクで割ったものとして算出した。生存解析は、ログランク検定によるKaplan-Meier曲線のプロットとハザード比(HR)の算出により、2つのコホートを比較した。統計的有意性は、両側P値が0.05未満とした。統計解析は、R for statistical computing(R Foundation for Statistical Computing)を使用したTriNetXオンラインプラットフォームで完了した。

感度分析として、観察研究における未測定の交絡因子や省略された共変量によるバイアスに対する頑健性を確認する指標であるE値を、主要アウトカムと副次アウトカムの両方について測定した[13]。E値が高いほど、共変量の効果推定値を否定するために、より強い未測定の交絡因子が必要であることを意味し、因果関係の可能性が高くなる。

患者のベースライン特性をtable1に示します。PSM の後、2 つのグループのベースライン特性は類似しており、残留不均衡は見つかりませんでした (含まれる共変量の標準差 <0.1)

Results:
主要アウトカム
NMV-r コホートの 89 人 (7.87%) の患者と非 NMV-r コホートの 163 人 (14.4%) の患者で、30 日間のすべての原因による ER 訪問、入院、または死亡の主要な複合結果が発生しました (OR: .5; 95% CI: .39–.67; P  < .005)、45% の相対リスク低下と一致します(Table 2)。さらに、NMV-r を投与された患者は、30 日間の無病生存率が高かった (88.15% vs 84.16%; HR: .67; 95% CI: .52, .87; P  = .002) (Figure 2).

副次的アウトカム
全原因、ER訪問(82 vs 142; OR: .55; 95% CI: .41-.73; P < .05)および入院(10 vs 23; OR: .43; 95% CI: .2-.9; P = .02)は、COVID-19患者においてNMV-rを受けた群に有意差がみられた。10人の死亡が認められたが、すべてNMV-rを投与していないコホートで、NMV-rを投与した群では死亡はなかった(P < .05)(Table 2)。NMV-rを投与された患者では、体質、心肺、胃腸、神経、筋骨格系の症状が少なかった。また、嗅覚・味覚の変化については、2つのコホート間で有意差は認められませんでした。全体として、下気道感染症、不整脈、不安・気分障害などの全身性合併症は、NMV-rのコホートでは非NMV-rのコホートに比べてより少ない頻度でみられた。胃腸炎、大腸炎、下痢の発生には差がなかった。さらに、NMV-rを投与された患者は、NMV-rを投与されなかった患者に比べ、放射線診断検査の利用が少なかった。心血管診断検査は、両コホートでほぼ同じであった(Table 2, Figure 3)。

Discussion:本研究にはいくつかの限界がある。最も重要なことは、傾向マッチングを用いて治療群と非治療群のベースラインの差を慎重にコントロールする努力をしたにもかかわらず、測定不能な交絡が結果に影響を及ぼす可能性があるということである。したがって、感度分析を行った結果、この知見は測定不能な交絡因子によるものである可能性は極めて低いことが示された。電子カルテから収集されたレトロスペクティブなデータは必ずしも正確ではないが、より客観的な臨床検査結果を入手することができた。ワクチンや臨床結果を含む臨床データは、この研究ネットワークに参加している医療機関以外の患者でも発生した可能性があります。もしそうであれば、そのような患者は誤って分類された可能性がある。しかし、この制限は、おそらく治療群と未治療群の両方に適用されるでしょう。COVID-19に直接関連する入院を扱ったEPIC-HR試験とは異なり、ここでは原因別の転帰ではなく、全原因入院、ER訪問、死亡率を評価した。これらの結果は,COVID-19に関連しない疾患によって生じた可能性もあるが,臨床の現場でも,特にウイルス感染が病状を不安定にすることが知られている内科的合併症を持つ患者において,COVID-19が入院に寄与しているのか,偶発的な所見なのかを評価することは困難な場合がある。ERへの訪問はプライマリーケアへのアクセスに影響される可能性があり、場合によっては患者がNMV-rの処方を受けた場所かもしれないため、入院または死亡のみを対象とした感度分析でもNMV-rの有益性は同等であることが示された。

以上より,COVID-19合併症のリスクが高いワクチン接種患者におけるNMV-rの評価は,治療とER訪問,入院,死亡のリスク低減との間に強い関連を示した.COVID-19の症例は,ワクチン接種の普及にもかかわらず依然として発生しており,これらのデータは,ワクチン接種の有無にかかわらず,この脆弱な集団に抗ウイルス療法を実施することを支持するものである.さまざまな患者集団におけるNMV-rの継続的な前向き臨床試験により、治療の利点と危険性がより正確に定義されるでしょう。

 

Figure 1

TriNetX 研究ネットワーク (n=88,651,969 ; HCO 59)
2021年12月1日~2022年4月18日にSARS-CoV-2感染またはCovid-19を発症した患者(接種後少なくとも1ヶ月以上経過した患者)のうち、対象基準を満たさない患者(n=88,404,729)
≧18歳以上のワクチン接種者がワクチン接種後1ヶ月以上経過した時点でSARS-CoV-2感染陽性またはCovid-19と診断された場合(n=231,098、HCOs 40)
初回入院が必要な患者、または回復期血漿、モノクローナル抗体、モルヌピラビルによる治療を受けた患者(n=119,510)
入院せずにワクチン接種を受け,SARS-CoV-2感染またはCovid-19の検査で陽性となり,5日以内にNMV-rによる治療を受けなかった者(n=110,457; HCO 37)
入院せずにワクチン接種を受け、SARS-COV-2感染またはCovid-19が陽性で、5日以内にNMV-rによる治療を受けた患者(n=1,131、HCO 12)

 

Table 1 Baseline Characteristics
こちらのリンクより)

Table 2.
Outcomes Comparison at 30 Days

Figure 3. This forest plot demonstrates the odds ratios with 95% confidence intervals for primary and secondary …

【開催日】2023年2月1日(水)

医学的な疾患のある患者における、セルフコンパッションが心理社会的及び臨床的アウトカムに与える影響:システマティックレビュー

-文献名-
The Effect of Self-Compassion on Psychosocial and Clinical Outcomes in Patients With Medical Conditions: A Systematic Review.
Misurya I, Misurya P, Dutta A. Cureus. 2020 Oct 17;12(10):e10998. doi: 10.7759/cureus.10998. PMID: 33209554; PMCID: PMC7669250.

-要約-
Introduction:
以前の研究では、セルフ・コンパッションは、幸福、不安の軽減、うつ病、ストレス、生活の質の向上など、心理的健康の多くの要因に関連していることが示されています。メタアナリシスでは、セルフコンパッションが高い人ほど、より良い状態にあると報告されています。セルフコンパッションが高い人は、低い人に比べて、精神的健康と生活の質が高いです。さらに、Neff と McGehee は、セルフ・コンパッションがレジリエンスと相関していることを示しました [11]。別の研究では、不安に対するセルフコンパッションの保護的役割が実証されました。
セルフ・コンパッションが医療の世界でより大きく、より顕著な意味を持つ可能性があることを示唆する確固たる証拠があります。 したがって、このシステマティックレビューは、医学的に病気の患者の心理社会的および臨床的アウトカムに対するセルフコンパッションの影響を調査することを目的としました。

Method:
2020年8月10日までのいくつかのデータベースの包括的な検索を、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analysis) ガイドラインに基づいて実施しました [13]。データベースは、Ovid MEDLINE(R) および Epub Ahead of Print、Ovid Embase、Ovid Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Litereature(CINAHL)。適格基準は、1)セルフコンパッションに関して調査していること 2)18歳以上で医学的な疾患を持つ患者が対象であること 3)患者のセルフコンパッションの、心理社会的または臨床的なアウトカムを扱っていること。

Results:
<Baseline Characteristics>Table 1参照(※)
19件の研究が含まれ、そのうち4件は英国、5件は米国、4件はオーストラリア、2件はニュージーランド、3件はイラン、1件は中国からの研究でした。2,713 人の患者が含まれ、そのうち 1,989 人が女性で、年齢は 26 ~ 64 歳でした。 含まれる疾患は、糖尿病 (n=5)、乳がん (n=3)、多発性硬化症 (n=1)、二分脊椎 (n=1)、セリアック病 (n=1)、HIV (n=1) 、脳損傷 (n=1)、片頭痛 (n=1)、筋骨格痛 (n=1)、外陰痛 (n=1)でした。 研究は主に横断的研究 (n=14) であり、ランダム化比較試験 (n=2)、混合法 (n=1)、縦断的研究 (n=1)、準実験的研究 (n=1) が続きました。

<心理社会的アウトカム>Table 2参照(※)
18個の研究は、セルフ・コンパッション・スケール(SCS)アンケートを使用して、セルフ・コンパッションの結果を示しました。 5 つの研究では、1 ~ 5 のすべてのサブスケールの平均に基づいてセルフコンパッションの値が提供されました。 セルフコンパッション値の範囲は 2.8 ~ 3.46 でした。 3 つの研究では、SCS を使用して特定のサブスケールを調べました [16,18,30]。 Ambridge、Fleming、Henshall による研究では、Self-Compassion Scale-Short-Form (SCS-SF) を調べており、スコアは5.69 ± 1.15 でした [16]。 ブラウンらによる研究では、自己への親切: 2.74 ± 0.94、共通の人間性: 3.11 ± 0.93、マインドフルネス: 3.18 ± 0.83、内省: 1.70 ± 0.61 [18]でした。 最後に、Skelton らによる研究。 思いやりのある関与と行動のスコアは 64.12 ± 19.48 でした [30]。 残りの研究では、SCS は 18 ~ 80 の範囲の合計スコアの平均として報告されました。

<重要な相関関係>Table 2参照(※)
含まれているすべての研究で、うつ病、不安、ストレス、回復力、恥ずかしさ、生活の質、およびその他の結果などの他の重要な心理社会的結果とのセルフコンパッションの相関関係が評価されました。 9件の研究で、セルフコンパッションとうつ病との相関関係が評価されました[16,18,20-23,26,29,33]。 すべての研究で、医学的疾患を持つ個人の自己への思いやりが高いほど、うつ病のレベルが低いという相関関係があることがわかりました。
5つの研究では、セルフコンパッションと不安の相関関係が調べられており、そのうちの 2 つは以前に HADS アンケートを使用して議論されていました。残りの 3 つの研究では、さまざまな種類のアンケートを使用しましたが、セルフコンパッションスコアが不安と負の相関関係にあることが明らかになりました [23,29,33]。
「セルフコンパッションと恥」[16,30]。 1つの研究では、自分への思いやりのレベルが上がるにつれて、恥が減ることが示されましたが、もう一つでは、相関関係は示されませんでした。
「セルフコンパッションと生活の質」 [19,21,28,30]。 2つの研究では、セルフ・コンパッションの増加が生活の質を改善することが示されましたが、2つでは相関関係は示されませんでした。
「自己への思いやりとストレスのレベル」[21-23,26]。4 つの研究のうち 3 つは、セルフコンパッションと糖尿病の苦痛スコア (DDS-17) を調査し、セルフコンパッションが増加すると、DDS が減少することを示しました [21,22,26]。 他の研究では、セルフコンパッションレベルが高いほどストレスレベルが低いことが示されました[23]。
「セルフコンパッションとレジリエンス」Hurwit、Yun、および Ebbeck による 1 つの研究では、自己への思いやりが高いほど回復力が高いことが示されました [28]。
「セルフコンパッションとアドヒアランス」:セルフコンパッションは、HIV患者のアドヒアランス行動の増加と関連していないことを実証しました[30]。 一方、ダウドとユングは、ベースラインでのセルフコンパッションが、セリアック病患者のグルテンフリー食へのアドヒアランスを予測できることを示しました[19]。

<臨床的アウトカム>Table 3参照(※)
HbA1cと血糖値を伴う糖尿病の臨床転帰に対するセルフコンパッションの効果を調査した研究は2つだけでした[22,24]。 カラミらの研究では、ベースライン時および介入完了後の対照群と比較して、介入群(セルフ・コンパッション・プログラム)にいた患者の血糖値の改善を示しました[24]。ベースラインの血糖値は介入群:272.75 ± 21.96、対照群:271 ± 35.88 でした [24]。 介入後 (8 週間後)は、介入群:205.25 ± 12.55、対照群:267 ± 28.98 でした [24]。 同様に、もう一つのFriis らによる研究も 対照群と介入群の間でのHbA1cレベルを比較することを目的とました[22]。 彼らは、HbA1c値が介入後と 3 か月のフォローアップ時に、介入群で有意に改善したことを示しました (介入群:ベースライン: 74.25 ± 15.11; 介入後: 71.44 ± 18.34; フォローアップ: 64.03 ± 16.25)(コントロール群:ベースライン: 64.04 ± 13.32; 介入後: 66.03 ± 14.20; フォローアップ: 62.32 ± 12.41) [22]。

Discussion:
このシステマティック レビューには、さまざまな医学的疾患に苦しむ 2,713 人の患者を対象とした 19 の研究が含まれていました。 セルフコンパッションスコアの心理社会的結果は低く、うつ病、不安、ストレス、恥、回復力、生活の質などの他のパラメーターと相関していました。 さらに、2 つの研究では、病気の管理にセルフコンパッションに基づく介入を取り入れることのプラスの影響が示されました。
医学的疾病管理におけるセルフ・コンパッションのもう1つの重要な役割は、健康増進行動の増加に関連するものです。自己管理行動は、長い間、症状管理の中心的な要素であり、慢性疾患における疾患の経過と転帰を改善してきました [38]。最近の 2019 年の新型コロナウイルスのパンデミックは、あらゆる健康分野に影響を与えています。 メンタルヘルスも例外ではなく、その結果、認知的苦痛、不安、および人前に出ることへの恐怖が報告されています[39]。 セルフコンパッションは、これらを管理する上で非常に効果的なツールであることが証明されるかもしれません.
以前の研究でも、セルフコンパッションと自己管理行動との関連性が実証されています [3,4]。 Sirois によるメタ分析では、15 の研究で 3,252 人の個人をプールし、より高いセルフコンパッションが慢性疾患の健康増進行動へのより良い関与と正の相関があることを発見しました [40]。これらの行動には、より良いストレス管理、服薬遵守、ライフスタイルの変更、睡眠の質の改善が含まれていました. これは、私たちのレビューのデータと一致しており、2 つの研究のうちの 1 つで、自己管理行動がセルフコンパッションの増加に伴って増加したことが示されました。
セルフ・コンパッションに基づくトレーニングと介入は、医学的疾患を経験している個人のより良い臨床アウトカムに関連しています。 これらの介入には、思いやりに焦点を当てた療法(CFT:compassion-focused therapy)と思いやりのある心の訓練(CMT:
compassionate mind training)が含まれます[41]。 以前の研究では、健康を促進する行動を実践することで、自分自身を受け入れてケアをするという、これらの的を絞った介入の成功が実証されています [42]。 Leaviss と Uttley による 14 の研究を含むレビューでは、CFT は特に自己批判が激しい人にとって効果的な介入であることが示されました [43]。 臨床転帰の改善におけるセルフ・コンパッションの役割に関するデータは限られていますが、病状の治療の改善におけるセルフ・コンパッション療法の効果について有望な結果が得られています [44,45]。 このレビューの 2 つの研究で示されているように、プラセボと比較したセルフコンパッション介入は、HbA1c や血糖値などの糖尿病パラメーターの臨床転帰に真に影響を与える可能性があります [22,24]。
このレビューでは、これらの研究は、短期間の糖尿病の臨床転帰に対するセルフ・コンパッションの効果を 3 か月間調査しました。 心理社会的アウトカムと臨床的アウトカムの両方に違いをもたらすには、少なくとも12週間、複数のセッションを通じて自己思いやりの介入を提供する必要があるという証拠が増えています[46]。 Philips と Hine による研究では、自己管理行動に影響を与え、心理的成果を改善し、身体的健康を向上させるためには、複数回のセッションでのセルフコンパッション介入が重要であると強調されています [46]。 したがって、セルフ・コンパッションの介入と複数のセッションを 6 か月以上組み合わせることで、医学的疾患を持つ個人の疾患管理に対するセルフ・コンパッションの影響力を高めることができます。
セルフコンパッション的な介入を導入することは、この領域の始まりにすぎません。 ただし、そのような介入の影響を最大化するには、医療従事者によるセルフコンパッションの実践が必要です。 研究は、医療業界の労働者が患者の行動に影響を与える可能性があることを示しています[47]。 したがって、患者のより良いコミュニケーション、理解、および疾患管理を促進するために、思いやりのある環境を育むことが重要です[48,49]。 この継続的なトレーニングとサポートは、患者の自己効力感と自分自身への思いやりを高め、健康増進行動への取り組みに対する態度を改善する環境を育みます [50]。

<制限>
まず、この調査には英語の出版物のみが含まれていました。 第二に、研究間のデータ表示には大きなばらつきがありました。 たとえば、各研究で使用されるアンケートはさまざまでした。 さらに、同じセルフ・コンパッション・アンケートが使用されたにもかかわらず、各研究は、アンケートからさまざまな項目を削除することにより、異なる方法でスコアを計算していました. そのため、これは、メタ分析を実施し、心理社会的および臨床的結果に対するセルフコンパッションの影響の範囲を把握する能力を妨げました. 最後に、臨床転帰に対するセルフ・コンパッション介入の役割を報告した研究は 2 つだけであったため、セルフ・コンパッション・プログラムを使用することが医学的に病気の個人の臨床転帰と疾患の経過に影響を与えるかどうかを特定する能力は制限されていました。

結論
結論として、このシステマティックレビューは、相関関係と心理社会的結果への影響に関して、セルフコンパッションの役割を強調しています。 さらに、サンプルサイズが小さいにもかかわらず、この研究は、医学的疾患の管理におけるセルフコンパッションプログラムの統合の重要性を示しました. したがって、病気の治療に取り組むためのツールとして、セルフ・コンパッションを使用する差し迫った必要性があります。 疾患管理の役割におけるその重要性を強調するために、セルフコンパッションに基づく介入の長期的な結果を評価するには、さらなる研究が必要です。

※各Table資料はこちらよりご確認いただけます。

【開催日】2023年1月11日(水)

慢性疾患を持つ成人に対しての家族を巻き込んだ介入の有効性

-文献名-
Sousa, Helena, et al. ““Should WE Stand Together?”: A systematic review and meta‐analysis of the effectiveness of family‐based interventions for adults with chronic physical diseases.” Family process 60.4 (2021): 1098-1116.

-要約-
家族支援は、慢性的な身体疾患を持つ患者の心理的適応に重要な因子であることが確認されている。本研究は,慢性身体疾患に対する家族ベースの介入と患者志向の介入(patient-oriented intervention)の有効性を比較する研究を系統的にレビューし,メタ解析を行うことを目的とした。検索は,2021年4月12日から4月29日にかけて,Web of Science(含まれるすべてのデータベース),Scopus,PsycINFO,CENTRALで行った。13 件の RCT(癌6件、関節リウマチ3件、変形性関節症2件、慢性腰痛1件、COPD1件) が含まれた。その結果、痛み、苦痛、自己効力感、社会的・感情的機能、ストレス対処、家庭環境の幸福、社会的支援を動員する能力、性的関係に関連する様々な患者のアウトカムに対して、家族ベースの介入が中~大きな効果量(Cohenのd範囲:0.45~0.90)で支持された。この種の介入はまた、家族の不安、抑うつ、睡眠問題、苦痛を減少させ、人生の意味の探求と存在、社会的支援、患者に提供された支援、性的関係を改善し、中程度から非常に大きな効果量であった(Cohenのdの範囲:0.58-2.76)。メタ分析の結果、患者(k=12、d=0.34、95%CI=0.13-0.55、I2=74%、p<0.01)および家族(k=4、d=0.68、95%CI=0.08-1.27、I2=88%、p<0.01)は患者中心の介入と比較して家族中心の介入により、心理社会的アウトカムが著しく改善したことが示唆された。患者の自己効力感のメタアナリシスでは、中程度の効果が認められた(d = 0.64; k = 3; I2 = 19%)。この結果は、家族ベースの介入の有益な効果に対する傾向を示唆しているが、この仮説を確認するために、より質の高いRCTによるさらなる研究が必要である。
Cohen’sdは,式(1)からも明らかなように,
d=1の場合,二つの平均値が2条件の平均された標準偏差の一つ分 ,離れていることを意味する。 このCohen’sd の大きさの基準はCohen(198) によって,小( d= 0.2),中( d= 0.5),大( d = 0.8) と 定 め ら れ て い る

専修大学人間科学部心理学 国里愛彦先生スライドより

【開催日】2023年1月11日(水)