無症候性重症大動脈弁狭窄症における早期手術

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Kang, Duk-Hyun, et al. Early surgery or conservative care for asymptomatic aortic stenosis. New England Journal of Medicine. 2020;382(2):111-119.

-要約-
背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

結論
非常に重度の大動脈弁狭窄を有する無症候性の患者において,早期に大動脈弁置換術を受けた患者では,保存的治療を受けた患者に比べて,追跡期間中の手術死亡または心血管系原因による死亡の複合アウトカムの発生率が有意に低かった.

ディスカッション
・本研究の意義:無症状の重症大動脈弁狭窄症患者における手術の決定は弁置換術のリスクと経過観察のリスクの間のバランスを慎重に見積もる必要がある。大動脈弁狭窄症は、慎重な経過観察+症状が出るまで手術を遅らせる戦略は比較的安全ではあるが、突然死のリスク、患者による症状の否定または報告の遅れ、不可逆的な心筋損傷、および手術リスクの上昇と関連する。以前の観察研究で見られたベースライン治療の群間の違い、治療選択バイアス、および測定されていない交絡因子を減らすことで本研究では、早期大動脈弁置換術を支持する証拠を示した。
・示されたベネフィットに対する説明:2群間の長期生存期間の有意差の理由として考えられるのは、第一に、本試験および最近の低リスク患者における外科的大動脈弁置換術とTAVRを比較した試験では、手術リスクはそれより以前の研究に比べて大幅に低かった点である。この試験では、手術による死亡率は1%未満であり、綿密な術後のモニタリング・術後のケアの改善により、早期手術に関連した長期的なリスクが大幅に減少した可能性がある。第二に、早期手術群では突然死が見られなかったことから、早期手術により突然死が避けられた可能性がある。対照的に、保存的治療群では、症状が出る前の大動脈弁狭窄の進行中の突然死の年間リスクが上昇する傾向があった。第三に、保存的治療群では、最終的な大動脈弁置換術は避けられず、大動脈弁置換術のリスクは、症状が進行するまで手術が延期されたことで増加した可能性である。手術後の心血管系イベントは保存的治療群でより頻繁に観察され、大動脈弁置換術を遅らせることによる長期的リスクが高いことが示唆された。
研究の限界と適用上の注意:第一に、大動脈弁狭窄の重症度が高い患者を対象とした本試験では、手術待機時間によりリスクが高まるため、早期手術が良い結果に出る傾向があった可能性がある。第二に、早期手術群では5%、保存的治療群では3%の患者でクロスオーバーが発生した。ただ、Per-protocol解析とintention-to-treat解析の結果はほぼ同じであった。第三に、この試験は盲検化されていないため、患者が受けた治療を臨床医が把握していることに、非致死的転帰が影響を受けた可能性がある。第四に、重度の大動脈弁狭窄症を有する無症候性の患者に症状がないことを確認するために運動検査を行うことは妥当であるが、本試験では選択的にしか実施されていない。第五に、患者数の少なさと主要エンドポイントイベントの少なさが本試験の重要な限界である。最後に、この試験では比較的若い患者(最近の低リスク患者を対象としたTAVR試験に登録された患者と比較して)が対象であり、その中でも二尖性大動脈弁疾患の発症率が高く、左室収縮機能が正常で、共存する疾患が少なく、手術リスクが低い患者が含まれていた。このように、我々の試験集団はTAVR試験に登録されている集団とはかなり異なっており、無症候性の重症大動脈弁狭窄症に対する早期TAVRに直接結果を適用できない。

【開催日】2021年2月3日(水)

コロナ禍の診断エラーを減らすには?

-文献名-
“Reducing the Risk of Diagnostic Error in the COVID-19 Era” J Hosp Med. 2020 Jun;15(6):363-366.

-要約-
背景【担当者注】
“診断エラー”は, 「患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされないこと,もしくは,その説明が患者になされないこと」と定義される.(Improving Diagnosis in Health Care. National Academies Press. 2015.)
下記の3つの分類が存在, 併存する.(Arch Intern Med. 2005;1493-9.)
【①診断の見逃し, ②診断の間違い, ③診断の遅れ】
原因は, 個人の資質の問題(知識不足, 技術不足)ではなく, 「ヒューリスティクス, 認知バイアス」, 「システムの問題」であることが多い. 参考資料https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/series/182
<論文要旨>
COVID-19のパンデミックは, 診断エラーを高める可能性がある.疾患自体が新しく, 臨床知識やエビデンスが未だ発展途上であることや, 逼迫する医療体制などの状況による, 医療者のストレス, 疲労, 燃え尽きが背景にある.本稿では, COVID-19時代に懸念される診断エラーの新しい類型を提案する.これらのエラーは, システムに基づくものと認知的なものの両方の起源を持つ.いくつかのエラーは, パンデミックに特有のものもある.本研究は, 8つの診断エラーの概要と対策を提示する.

予測される診断エラーの種類(Table, 表)
“古典的”: COVID-19の検査が実施できなかったり, 偽陰性の結果によって診断が困難になる.
“変則的”: 非典型的な, 呼吸器症状を呈さない患者がいる. COVID-19の診断を困難になる可能性がある.
“アンカリング”: 細菌性肺炎などで呼吸器症状のある患者を、COVID-19と誤診する.十分な検査が行われていない場合に起こりえる.
“二次的”: COVID-19患者の続発症を見逃す可能性がある.例えば, COVID-19患者の増悪する呼吸不全の背景に, 凝固障害による肺塞栓症が新規発症している可能性があるが, 原因検索を行わず, COVID-19による肺機能障害として対処される可能性がある.知見が不十分な状況で, この診断エラーは増加する.
“急性に生じる巻き添え”: 新たな急性症状を呈した患者は, 感染リスクを理由に急性期医療の受診を控えることがある.急性心筋梗塞や脳卒中の患者が受診せず診断が遅延することが懸念される.
“慢性に生じる巻き添え”: 定期受診や待機的処置が延期, 自己中断された場合に, 重要な疾患の診断に遅れが生じる可能性がある.
“ひずみ”: 切迫した医療体制によりCOVID-19以外の診断が, 影響を受ける可能性がある.外科医, 小児科医, 放射線科医らが, 急性期医療に「再配置」される.新しい役割を担う臨床医が, 慣れない状況や疾患の症状に直面したときにこの診断エラーは増加する.これまでの経験が豊富であっても, 新しい役割でのスキルや経験が不十分であったり, 指導を求めることに抵抗感を抱くことがある.
“予想外の診断エラー”: 個人用防護具PPEや遠隔医療技術などを使用して患者の診療に当たることが増えている.これは医師と患者の双方にとって未経験なことであり, “予想外”の診断エラーを引き起こす可能性がある.遠隔医療や接触機会の制限の状況では、熟練の臨床医でも病歴聴取, 身体診察能力が低下する可能性がある.

診断エラーに対する戦略
<テクノロジーによる支援>
テクノロジーは, 新たなリスクに対処するためのプログラムやプロトコル作成, 実装に役立つ.例えば, 感染流行状況の把握、重症化リスクの予測アルゴリズムや, 医療機関同士の患者搬送プロトコル, 電子カルテデータから潜在的なリスクを割り出し待機的処置の日程調整を自動で行うプログラムなどが考案されている.
<業務フローとコミュニケーションの最適化>
対面での接触が限られている場合でも, 診療の工夫(例:患者へのiPadの提供, ジェスチャーなどの非言語コミュニケーション)を行うことで, 患者や家族と包括的な話し合いを持つことができる.慣れていない分野に再配置された医師は“バディシステム”を利用し, 経験豊富な臨床医とペアを組むことができ, 助けを求めやすくなる.
<“人”に焦点を当てた介入>
一人での診療に慣れている医師もいるが, 今は「診断ハドル(訳者注 huddle: アメリカンフットボールで, 次のプレーを決めるフィールド内での作戦会議.)」を導入する時期であり, 異常や困難な症例について議論したり, 何か見逃していないかどうかを判断したりするべきである.
患者にデジタルツールを使った自己診断を奨励することに加えて, 急性心筋梗塞や脳卒中などの特定の重要な疾患については, 公衆衛生当局やメディアの助けを借りて医療支援を求めるよう一般市民に助言することも望ましい.
<組織, 所属機関での戦略>
スタッフの心理的安全性に配慮した組織環境、安全戦略を確保しなければならない.
リーダーは, チームの行動指針や規範について明確に伝える.
認知バイアスにつながる疲労, ストレス, 不安を最小限に抑えるために, ピアサポート, カウンセリング, 勤務時間調整,他の支援を実施する.院内外で, 診断上の課題, 最新の情報を継続的に共有し, 改善すべきである.
<国家レベルでの対応>
アクセス性, 正確性, 検査の性能に関する課題は, 国レベルで対処されるべきである.診断パフォーマンスとアウトカムをモニターし, COVID-19の診断エラーが異なる人口統計にどのように影響するかを評価するために, 標準化された測定基準が開発されるべきである.

結論
臨床医は患者の診断と治療に最善を尽くすように, 認知とシステムに基づいた診療を提供しなければならない.診断エラーと対策を共有し診療システムの再設計と強化を行うことで, 予防可能な診断エラーを防ぐべきである.

表. COVID-19 パンデミックで予想される診断エラー(原表を基に担当者作成)

【開催日】2021年1月13日(水)

超高齢心房細動患者に対する低用量エドキサバン

-文献名-
K.Okumura. Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation. NEJM. 2020; Oct 29; 383(18): 1735-1745.

-要約-
Introduction:
年齢とともに心房細動は増加し、年齢と心房細動はいずれも脳梗塞のリスクである。心房細動患者の脳梗塞予防ガイドラインでは、高齢者であっても抗凝固療法が推奨されるが、超高齢者には腎機能障害・過去の出血歴・過去の転倒歴・ポリファーマシー・フレイルなどの出血リスクを鑑みて、処方をためらう医師が多い。高齢化に伴い、ハイリスク・超高齢者の抗凝固療法のエビデンスが必要である。
 低用量エドキサバン(15-30mg)は脳梗塞予防には用量不足として認可外ではあるが、出血のハイリスク群である超高齢者にとっては有益であるかもしれない。
Method:
 今回のELDERCARE-AF試験は、非弁膜症性心房細動を有し、脳卒中予防に承認されている用量での経口抗凝固療法が適当ではないと判断された超高齢(80 歳以上)の日本人患者を対象に、エドキサバン15mgの1日1回投与とプラセボ投与とを比較する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験(主要評価項目の発現が定められた定数に達するまで継続する試験)である。COIとして第一三共からの資金提供あり。
Patient:80歳以上の非弁膜症性心房細動を有し、CHADs2スコアは2点以上。CCr15-30、出血の既往、BW45kg以下、NSAIDs内服中、抗血小板薬内服といった理由から抗凝固療法を見送られている。
Intervention:エドキサバン15mg内服
Comparison:プラセボ
Outcome:4-48週目までは4週毎、以降は8週毎にフォローアップを行い、有効性として脳卒中または全身性塞栓症の発症、安全性として国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血の発症を評価した。
Results:
2016年8月〜2019年11月に164の施設、1086名がエントリーし、984名がエドキサバン15 mg/日の投与を受ける群(492例)とプラセボ投与を受ける群(492例)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。除外された102名は20名が同意撤回、3名が死亡、79例が基準を満たさなかった。平均年齢は86.6(±4.2)歳、平均体重は50.6(±11.0)kg、平均CCr36.3(±14.4)であった。423名が過去に抗凝固療を受けていた。追跡期間は平均466日で、681例が試験を完了、303 例が中止となった。(同意の撤回158例・死亡135例・その他の理由10例)試験を中止した主な理由は出血と関係のない有害事象と試験継続の意志喪失・能力欠如であり、人数は2群で同程度であった。
66例の脳卒中または全身性塞栓症から59例が主要有効性評価項目として認定され、エドキサバン群で15例(2.3%/人年、プラセボ群で44例(6.7%/人年)であった。(ハザード比0.34, 95%CI 0.19~0.61, P<0.001)サブグループ解析でも概ね同様の結果であったが、NSAIDs内服群のみ結果のばらつきがあった。
安全性の評価としては、22例の大出血イベントがあり、エドキサバン群で20例(3.3%/人年)、プラセボ群で11例(1.8%/人年)であった。(ハザード比1.87, 95%CI 0.90~3.89,P=0.09)消化管出血に限ると、イベント発生数はエドキサバン群のほうがプラセボ群よりも多い結果となった。全死因死亡に大きな群間差はなかった。(エドキサバン群9.9%, プラセボ群10.2%,ハザード比0.97,95%CI 0.69~1.36)
Discussion:
 本試験はENGAGE AF-TIMI48試験のデータをもとにエドキサバンを15mgに減量して使用した。
脳卒中と出血の両方のリスクが高い超高齢者に対する確立された標準治療はなく、対照としてプラセボを使用した。先行研究ではアスピリンは心房細動の患者の脳卒中の予防に効果がなく、脳卒中のリスクが高い患者には推奨されなかったため、比較対照薬として抗血小板薬を使用しなかった。
先行研究で腎機能障害があり(CCr15-30)エドキサバン15mgを投与された人と、腎機能障害がなくエドキサバン30-60mgを投与された人の血中濃度は類似しており、今回の試験と先行研究での有効性・安全性の結果が同様であった一因かもしれない。
Limitation:
 脱落患者が多かったが、出血に関連した同意取り下げは6名のみであり、多くは出血とは関係のない有害事象が理由となった。
 日本人(東アジア人)は他の人種と比較して脳卒中や全身性血栓症の発生率が高く、出血の発生率も高いため、他の集団で適応できない可能性がある。

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【開催日】2020年12月9日(水)

虫垂炎に対する抗菌薬と虫垂切除術のランダム化比較試験

-文献名-
The CODA Collaborative. A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis. The New England Journal of Medicine 2020; 383:1907-1919

-要約-
INTRODUCTION
虫垂切除術は,60年以上前に代替療法として抗菌薬療法の成功が報告されていたにもかかわらず,長い間虫垂炎の標準治療だった.成人における虫垂炎に対する抗菌薬療法のいくつかのランダム化試験が行われているが,重要なサブグループ(特に合併症のリスクを高めるかもしれない虫垂石を伴う症例)の除外,小さなサンプルサイズ,および一般集団への適用性に関する疑問が,この治療法の使用を制限している.2014年には,米国の虫垂炎患者の95%以上が虫垂切除術を受けた.しかし,2019年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い,医療システムや米国外科学会などの専門団体は,虫垂炎の治療における抗菌薬の役割など,ケア提供の多くの側面の再検討を提案している.そこで,成人の虫垂炎に対する抗菌薬療法と虫垂切除術を比較するために,この比較試験(CODA)を行った.当初,参加者全員が少なくとも1年間のフォローアップを受けた後に結果を報告する予定だったが,虫垂炎の管理に関するCOVID-19関連の懸念を考慮して,ランダム化後の最初の90日間に基づいて結果を記述する.

METHODS
米国の25のセンターで虫垂炎患者を対象に,抗菌薬療法(10日間コース)と虫垂切除術を比較する実用的,非盲検,非劣性,ランダム化試験を実施した.一次アウトカムは,ヨーロッパのQOL-5次元(EQ-5D)質問票で評価した30日間の健康状態で行った(スコアは0~1の範囲で,スコアが高いほど健康状態が良好であることを示し,非劣性マージンは0.05ポイントとした).二次アウトカムには,抗菌薬群の虫垂切除術と90日間の合併症が含まれていた.その解析は,虫垂石の有無に応じて定義されたサブグループで事前に定義された.

RESULTS
合計で1,552人の成人(虫垂石を伴う414人)が,ランダム化された.776人は抗菌薬の投与を受け(47%はインデックス治療のために入院しなかった),776人は虫垂切除術を受けるように割り当てられた(96%は腹腔鏡下手術を受けた).抗菌薬は,30日間のEQ-5Dスコアに基づいて虫垂切除術に劣っていなかった(平均差,0.01ポイント;95%信頼区間[CI],-0.001〜0.03).抗菌薬群では,虫垂切除術を受けた人の41%と虫垂切除術のない人の25%を含めて,29%が90日までに虫垂切除術を受けていた.合併症は虫垂切除群よりも抗菌薬群でより一般的だった(100人の参加者あたり8.1対3.5;レート比2.28; 95%CI,1.30~3.98); 抗菌薬群のより高い割合は,虫垂石のある人(参加者100人あたり20.2対3.6;レート比5.69; 95%CI,2.11〜15.38),虫垂石のない人(3.7対3.5人100人の参加者;レート比1.05; 95%CI,0.45~2.43)に起因する可能性がある.重篤な有害事象の発生率は,抗菌薬群の参加者100人あたり4.0,虫垂切除群の参加者100人あたり3.0だった(発生率比1.29; 95%CI 0.67〜2.50).

DISCUSSION
30日でのEQ-5Dスコアは,虫垂炎治療に反応する全体的な健康状態の検証済みの尺度であり,主要な結果として選択された.虫垂切除からの回復には典型的な期間と考えられる.
別の関連する結果は,虫垂切除術を受けていない患者の悪性腫瘍を見逃す可能性が挙げられる.ほとんどすべての参加者がCT検査を受け,腫瘍性病変を示唆する所見がある参加者は除外されたが,9つの虫垂切除標本で悪性腫瘍が同定された.注目すべきことに抗菌薬群の参加者の間で発見された悪性腫瘍は少なく,早期発見が患者の転帰に影響を及ぼしたかどうかは不明である.
 今回のCODA試験の幅広い選択基準は,過去の最大のランダム化試験であるAPPAC試験(合計530人の参加者)との結果の違いを部分的に説明できるかもしれない.APPAC試験では,抗菌薬群の虫垂切除術の発生率は,90日で16%,1年で27%,5年で39%だった.虫垂切除術の術中に穿孔が認められた患者の割合は,APPAC試験では2%未満であり,CODA試験では,虫垂切除群で16%だった.CODA試験で特定された穿孔率は,虫垂炎の疫学研究で報告された割合と一致する.APPAC試験では開腹手術のみであったが,CODA試験は,ほとんど腹腔鏡下手術であったことから,APPAC試験でより入院期間が長かったことを説明していると考えられる.
5件のランダム化試験の最近のメタ解析では,虫垂切除術よりも抗菌薬治療の方が,合併症の発生率が低く,障害期間が短いことが示されている.
 今回の試験の限界としては,90日間の追跡データしか含まれていないため,再発と長期的な合併症を過小評価していることである.また,無作為化に同意した患者が約30%であり,センター間でその割合が異なり,選択バイアスをもたらした可能性がある.今回の試験は盲検化されておらず,抗菌薬群の治療レジメンは指定されていなかったことから,いくつかの結果に影響を及ぼした可能性もある.虫垂切除群の一部の患者は手術を拒否し,抗菌薬群の一部はプロトコルで指定された手術基準を満たさずに虫垂切除術を受けた.地域や患者の特性により予想される交絡を考慮して,外来または入院治療による結果を評価しなかった.そして,虫垂石の有無によるサブグループを定義したが,これらのサブグループで観察された結果は,少ないサンプル数の個別の合併症を考慮する必要がある.
 今回の試験で,虫垂炎に対する抗菌薬治療は,少なくとも短期的には,一般的な健康状態の標準化された測定の結果に基づき,虫垂切除術に劣っていないこと示した.

【開催日】2020年12月2日(水)

2型糖尿病に対する血糖降下薬の有効性の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Apostols Tsapas, et al. Comparative Effectiveness of Glucose-Lowerinng Drugs for Type 2 Diabetes. Annals of Internal Medicine. Vol.173 No.4 18 August 2020.

-要約-
【背景】
 2型糖尿病の治療薬にはいくつかの選択肢がある。
【目的】
 成人の2型糖尿病における血糖降下薬の有益性と有害性を比較する。
【データソース】
 開始から2019年12月18日までの複数のデータベースと、2020年4月10日のClinicalTrials.gov。
【試験の選択】
 少なくとも24週間の介入が行われ、死亡率、血糖値、血管アウトカムに対する血糖降下薬の効果を評価した英語による無作為化試験。
【データ抽出】
 ペアのレビュアーがデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。
【データ統合】
 9つの薬物クラスから21の糖尿病治療介入を評価した453試験が含まれた。介入には、単剤療法(134試験)、メトホルミン療法への追加(296試験)、単剤療法とメトホルミン療法への追加の比較(23試験)が含まれた。
心血管リスクが低く薬物療法を受けていない患者では、治療法によって死亡率や血管アウトカムに有意な差は認めなかった。
インスリン療法とGLP -1受容体作動薬のメトホルミン療法への追加で、HbA1cが最も低下した。(Fig.2 B)
心血管リスクが低くメトホルミン療法を受けている患者(298試験)では、死亡率と血管アウトカムに関して治療法間に有意な差は認めなかった。(Fig.2 D)
心血管系リスクが高くメトホルミン療法を受けている患者(21試験)では、経口セマグルチド(リベルザス®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)、リラグルチド(ビクトーザ®)、徐放性エキセナチド(ビデュリオン®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)が全死亡率を減少させた。(Fig.2 C)
経口セマグリチド、エンパグリフロジン、リラグルチドは心血管死を減少させた。脳卒中のオッズは、皮下セマグルチド(オゼンピック®)とデュラグルチド(トルリシティ®)で低かった。SGLT-2阻害薬は心不全による入院と末期腎不全を減少させた。皮下セマグリドとカナグリフロジン(カナグル®)はそれぞれ糖尿病網膜症と下肢切断を増加させた。
【限界】
 心血管リスクの定義に一貫性がなく、心血管リスクが低い患者の一部の推定値の信頼性が低い。
【結論】
 心血管リスクが低い糖尿病患者では、どの治療法もプラセボと血管アウトカムに差はなかった。心血管リスクが高い患者でメトホルミン療法を受けている場合、特定のGLP-1作動薬とSGLT-2阻害薬は特定の心血管アウトカムに対して良好な効果を示した。
【主要な資金源】
 欧州糖尿病研究財団(European Foundation for the Study of Diabetes)、アストラゼネカからの無制限教育助成金の支援を受けている。

JC202011今江1

JC202011今江2

JC202011今江3

【開催日】2020年11月4日(水)

ペニシリンアレルギーのリスクの層別化

-文献名-
Jason A. Trubiano, et al. Development and validation of a penicillin allergy clinical decision rule. JAMA Internal Medicine. 2020;180(5):745-752.

-要約-
■Importance:
ペニシリンアレルギーは、患者、抗菌薬管理プログラムおよび医療サービスにとって重要な問題である。専門家によるペニシリン皮膚検査を必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを特定するために、妥当性を評価されたclinical decision ruleが求められている。

■Objective:
患者から報告されたペニシリンアレルギーのpoint of care リスク評価を可能にするペニシリンアレルギーのclinical decision ruleを開発、検証する。

■Design, setting, and participants:
 この研究では、オーストラリアのメルボルンにある2つの三次医療機関(Austin Health and Peter MacCallum Cancer Centre)からの622人の患者(多施設、前向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)が参加して、ペニシリンアレルギー decision ruleの開発と内的妥当性の評価を行った。ロジスティック解析・変数減少法を使用してペニシリンアレルギーテストの陽性結果を予測する臨床変数を含むモデルを導き出した。最終モデルの内的妥当性の評価には、Bootstrapped sample(※1)と係数から導出されたモデルスコアリングを使用した。外的妥当性の評価は、オーストラリアのシドニーとパース、テネシー州のナッシュビルからの945人の患者(後向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)で実施された。ペニシリンアレルギーを報告した患者は、皮膚プリックテスト、皮内テスト、パッチテストと経口チャレンジ(直接または皮膚テスト後)を組み合わせたアレルギーテストを受けた。データは2008年6月26日から2019年6月3日まで収集され、2019年1月9日から12日まで分析が行われた。
※1:母集団となるデータがある時に、母集団から重複を許してランダムにいくらかデータを取り出して再標本化する手法。予測モデルの生成に使われる。

■Main outcomes and measures:
 Primary outcomeは、外来または入院患者のペニシリンアレルギーテスト陽性という結果。

■Results:
 モデルの開発および内的妥当性の評価に用いられたコホート622人(女性367人(59%)、年齢中央値60歳(四部位範囲48-71歳))、外的妥当性の評価に用いられたコホート945人(女性662人(70.1%)、年齢中央値55歳(四部位範囲38-68歳))から、多変量解析によりペニシリンアレルギーテスト陽性に関連する4つの特徴は、PEN-FAST(penicillin allergy, five or fewer years ago, anaphylaxis/angioedema, severe cutaneous adverse reaction(SCAR), and treatment required for allergy episode)という略語にまとめられた。大基準(major criteria)には、5年以内に発生したアレルギーイベント(2点)、アナフィラキシー/血管浮腫もしくはSCAR(2点)が、小基準(minor criterion)にはアレルギーに治療を要したというエピソード(1点)が含まれた。内的妥当性の評価では、AUC 0.805(※2)、minimal mean optimism(※3) 0.003だった。ペニシリンアレルギー低リスクの分類には、PEN-FAST 3点以下がカットオフと設定されました。この場合、460人の患者のうち17人(3.7%)のみがアレルギーテスト陽性となり、陰性予測値は96.3%(95%CI、94.1%-97.8%)だった。また、外的妥当性の評価でも同様の結果が得られました。
※2:AUCの診断精度の目安 0.7-0.8 fair, 0.8-0.9 good, 0.9-1.0 excellent
※3:optimismとは、モデルの予測精度の過大評価のバイアス

■Conclusion and relevance:
この研究で、PEN-FASTは、正式なアレルギーテストを必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを正確に特定できる簡便な基準であることと証明された。3点未満のPEN-FASTスコアは高い陰性予測値を有するという結果から、臨床医にとって、あるいは抗菌薬管理プログラムにおいて、ペニシリンアレルギー低リスクをpoint of careで特定するために役立つということが示唆された。

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■Limitation:
・非ペニシリンβ-ラクタム系抗菌薬アレルギー、静脈内投与でのみ起こるペニシリンアレルギーが除外されている
・SCARのようなアレルギー表現型を持つ患者が少ない
・予測モデルの生成に際して、入院患者の割合が多かった
・成人患者のみしか適用できない
・ペニシリンアレルギーとアレルギー表現型の有病率が変化する可能性が高い、民族による違いの検証はネクストステップ

【開催日】2020年11月4日(水)

慢性腎臓病の進行に対するアロプリノールの効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Badve SV, Pascoe EM, et al. Effects of Allopurinol on the Progression of Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020;382(26):2504.

-要約-
【背景】
血清尿酸値の上昇は慢性腎臓病の進行と関連している.アロプリノールによる尿酸降下療法が,進行リスクのある慢性腎臓病患者における推定糸球体濾過率(eGFR)の低下を減衰させることができるかどうかは不明である。

【研究のデザインと方法】このRCTは,オーストラリアとニュージーランドの31施設で行われた,二重盲検化,隠蔽化された試験である.痛風の既往がない,ステージ 3 または 4(eGFE15-59) のCKD患者であり,尿中アルブミン/クレアチニン比が 265 mg/gCr以上、または過去 1 年間のeGFR の低下幅が 3.0 ml/min/1.73m2以上である成人集団をアロプリノール(100~300 mg/日)投与郡とプラセボ投与群に無作為に割り付けた.主要アウトカムは,104週目(2年間)までのeGFRの変化.副次アウトカムは,「40%のEGFR低下・末期腎疾患・全死亡の複合アウトカム」,「30%のEGFR低下・末期腎疾患・全死亡の複合アウトカム」,「腎臓アウトカム」「血圧」「アルブミン尿」「血清尿酸値」,「QOLのスコア」,「安全性アウトカム」.

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【結果】
予定していた登録数は620例だったが,登録数が伸びなかったため,369例で募集を終了し,アロプリノール投与群(185例)またはプラセボ投与群(184例)に無作為に割り付けた.1群あたり3人の患者が割り付け後すぐに辞退した。残った363例で主要アウトカムを評価した。(平均eGFRは31.7 ml/min/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比中央値は716.9mg/gCr、平均血清尿酸値は8.2mg/dL)
主要アウトカムであるeGFRの変化はアロプリノール群とプラセボ群で有意差は認められなかった(アロプリノール群は-3.33 ml/min/1.73m2[95%信頼区間{CI},-4.11~-2.55],プラセボ群は-3.23 ml/min/1.73m2[95%CI,-3.98~-2.47],平均差は-0.10 ml/min/1.73m2[95%信頼区間{CI},−1.18 ~0.97;P=0.85]であった)(FIG1)。

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副次アウトカムについては,
「eGFRの40%低下、末期腎疾患、全死亡の複合アウトカム」は,アロプリノール群では63例(35%)、プラセボ群では51例(28 %)に認められた.(リスク比、1.23;95%CI、0.90~1.67;ハザード比、1.34;95%CI、0.92~1.9)であった。「GFRの40%低下、末期腎疾患、全死亡の複合アウトカム」についても似たような結果であった.(TABLE2)

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ベースライン値を調整した場合の血清尿酸値の平均差は, -2.7mg/dLであった(95%CI、-3.0~-2.5)(Fig2A)。尿中アルブミン/クレアチニン比には有意な群間差は認められなかった(fig2B).収縮期血圧(平均差、-1.79mmHg;95%CI、-4.69~1.11)または拡張期血圧(平均差、-3.21mmHg;95%CI、-6.82~3.40)、またはQOLスコア(36項目の短命健康調査QOLサマリースコアの平均差、-4.4;95%CI、-10.5~1.6)においても有意な群間差は認められなかった.

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重篤な有害事象が報告されたのは,アロプリノール群で182例中84例(46%),プラセボ群では181例中79例(44%)であった(Table3).
重篤な有害事象は両群で同程度の頻度で発生した(アロプリノール群では84人[46%]の参加者で170件、プラセボ群では79人[44%]の参加者で167件)(表3および表S6)。発疹を含む非重篤な副作用のリスクには有意差はなかった。
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【Discussion】
CKDで進行リスクの高い患者において,アロプリノールによる尿酸降下療法は,プラセボと比較してeGFRの低下を遅らせることはできなかった。
今回の結果は、血清尿酸値がCKDの進行に因果関係があるという見解を支持するものではないようである。観察研究から得られた証拠は、尿酸値と慢性腎臓病の進行との間に関連性があるだけで、因果関係はないことを示している。

【今回の研究の限界】
・登録が不完全であったために検出力が不十分であったこと
・試験レジメンを中止した患者の割合が高かったこと
・eGFRの計算に血清クレアチニンベースの式を使用していたこと
・代替アウトカムの使用

【開催日】2020年10月14日(水)

COVID-19の母体の経過(2020年6月)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Sascha Ellington, et al.
Characteristics of Women of Reproductive Age with Laboratory-Confirmed SARS-CoV-2 Infection by Pregnancy Status — United States, January 22–June 7, 2020
Centers for Disease Control and Prevention MMWR June 26, 2020;Vol.69 :No.25

-要約-
Introduction:
2020年6月16日現在、COVID-19のパンデミックにより、米国では2,104,346人発症し、116,140人が死亡している。妊娠中、女性は免疫学的・生理的な変化を経験する。その変化により、呼吸器感染症による重症化のリスクを高める可能性がある(1,2)。これまでのところ、米国の妊娠中の女性におけるCOVID-19の有病率と重症度を評価するためのデータや、妊婦と非妊婦の間で徴候や症状が異なるかどうかを判断するためのデータは限られている。
Objective:
2020年1月22日から6月7日までに、COVID-19のサーベイランスの一環として、CDCに届け出られた、生殖可能年齢(15~44歳)の女性326,335人を対象とした。全員、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の検査結果が陽性であった。妊娠に関するデータを得られた人を対象とした。
Method:
観察研究。検査で陽性または疑いとなったCOVID-19患者は電子的にCDCに届け出られる。2020年1月22日から6月7日までに届け出られたものを解析した。50の州とコロンビア、ニューヨークからの報告が含まれる。データとして、人口統計学的特徴、妊娠状態、基礎疾患、臨床的徴候と症状、および転帰(入院、ICU 入院、機械的人工呼吸器の使用、死亡)を収集した。 データが欠落しているアウトカムは、起こっていないアウトカムであると仮定した。
Results:
 妊娠状況に関するデータは、91,412人(28.0%)で得られた。妊婦は8,207人(9.0%)であった(Table 1)。
 症状は、妊婦の65.2%、非妊婦の90.0%で報告された。症状の報告があったもののうち、妊婦の97.1%、非妊婦の96.9%で症状を認めた。妊婦と非妊婦の間で、咳嗽(51.8%、53.7%)、呼吸苦(30.1%、30.3%)は同頻度であった。妊婦は、頭痛(40.6%、52.2%)、筋肉痛(38.1%、47.2%)発熱(34.3%、42.1%)、悪寒(28.5%、35.6%%)、下痢(14.3%、23.1%)が少なかった。
 慢性の基礎疾患があるのは、妊婦で22.9%、非妊婦で35.0%であった。慢性肺疾患(21.8%、10.3%),糖尿病(15.3%、6.4%), 心血管疾患(14.0%、7.1%)が多かった。
 入院は、妊婦31.5%、非妊婦5.8%だった。ICU入室は1.5%、0.9%、人工呼吸は0.5%、0.3%。死亡は0.2%、0.2%であった。

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Discussion:
 15~44歳の方の5%が妊娠していたことになるが、この割合は予想以上に高くなっている。これは、以下のような可能性がある。
病気のリスク増加に関連しているとも考えられるが、妊婦は非妊婦と比較して医療機関に頻繁に受診するため、検査を受ける割合が高かったかもしれない。 ヒスパニック系および黒人の女性は,妊娠中に SARS-CoV-2 感染の影響を不均衡に受ける可能性がある。さらに、妊娠による入院の違いは、妊婦であるがために入院の閾値が低くなっているだけかもしれない。
 最近のスウェーデンでの研究では、COVID-19を持つ妊婦は、5倍の確率でICUに入院し、4倍の確率で人工呼吸管理を行われていた。死亡リスクは妊娠中と非妊娠中で同じであった。
生殖年齢の女性のインフルエンザ感染における妊婦・非妊婦の違いをみた最近のメタアナリシスでは、妊娠は入院のリスクが7倍高いが、ICU入院のリスクは低く、死亡リスクの増加はなかった。
 この報告書の所見には、少なくとも4つの制限がある。第一に、4分の3の患者で妊娠の有無が不明であったこと。妊娠状態、人種/民族、症状に関するデータ、基礎となる条件、およびアウトカムがかなりの割合で欠損していた。このような状況は、いくつかの特性の過大評価または過小評価につながる可能性がある。第二に、情報を確認して報告するためには、追加の時間が必要かもしれない。ICU 入院、機械的人工呼吸などのアウトカムの有病率を過小評価している可能性がある。第三に、妊娠週数は感染した時期や入院に関連しているかどうかがわからない。COVID-19の病気のためではなく、妊娠中の状態のために入院した可能性がある。最後に、ルーチンの症例サーベイランスでは、妊娠や出産のアウトカムは確認できていない。

【開催日】2020年8月12日(水)

日本人2型糖尿病患者に対する経口セマグルチド単剤療法の用量反応性、効果、安全性(PIONNER9)

-文献名-
Yamada Y, Katagiri H, Hamamoto Y, et al. Dose-response, efficacy, and safety of oral semaglutide monotherapy in Japanese patients with type 2 diabetes (PIONEER 9): a 52-week, phase 2/3a, randomised, controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020;8(5):377-391. doi:10.1016/S2213-8587(20)30075-9

-要約-
背景 日本人2型糖尿病特有の表現型を考えると経口セマグルチドなどの新規両方は、この集団での評価を必要とする。PIONEER9は経口セマグルチドの用量反応を評価し、日本人集団における経口セマグルチドの有効性と安全性をプラセボおよび皮下GLP1受容体アゴニストと比較すること目的とした。
方法
 PIONEER9は日本の16施設(診療所と大学病院)で行われた52週のフェーズ2/3aのランダム化試験。
参加者は食事や運動による加療でコントロール不良の2型糖尿病(HbA1c7.0~10.0%)、または経口血糖降下薬単剤(HbA1c6.5~9.5%)で加療中の20歳以上の日本人患者。除外項目は90日以内に週1回GLP-1受容体アゴニスト、週1回DPP4阻害薬、チアゾリジンによる加療を行われた患者、腎障害(eGFR<30)、緊急治療を要する増殖性網膜症や黄斑症の患者。 1日1回の経口セマグルチド(リベルサス:3mg/7mg/14mg)とプラセボ、1日1回皮下注射製剤のリラグルチド(ビクトーザ)0.9mgを1:1:1:1:1にランダムに割付け、二重盲検化された。(Figure1) Primary endpoint  ランダムに割り付けられた全ての患者の試験製品推定値でのベースラインから26週までのHbA1cの変化。 結果 2017年1月10日から7月11日までの間に243人の患者がセマグルチド3mg(n=49),7mg(n=49),14mg(n=49)また、プラセボ(49),リラグルチド0.9mg(n=48)にランダム割り付けされた。患者のベースラインに差はなかった。 26週までのHbA1cのベースラインからの変化(平均8.2%)において経口セマグルチドは用量依存的だった。(セマグルチド3mg ではmean change-1.1%,[SE0.1]、7mg では-1.5%[0.1]、14mgでは-1.7%[0.1]、プレセボでは−0.1%[0.1]、リラグルチド0.9mgでは-1.4%[0.1]) 26週時点でのHbA1cのベースラインからの推定変化はプラセボと比較して経口セマグルチド3mg,7mg,14mg全てで優位に変化していた。セマグルチド14mgではリラグルチド0.9mgに比較して有意に変化していた。(Figure2) プラセボと比較したHbA1cの変化の推定治療差 経口セマグルチド3mgで-1.1%ポイント(95%CI-1.4to0.8;p<0.0001) 経口セマグルチド7mgで-1.5%ポイント(–1·7 to –1·2; p<0·0001) 経口セマグルチド14mgで-1.7%ポイント(–2·0 to –1·4; p<0·0001) リラグルチド0.9mgと比較した推定治療差 経口セマグルチド3mgで0.3%ポイント(95% CI –0·0 to 0·6; p=0·0799) 経口セマグルチド7mgで-0.1%ポイント(–0·4 to 0·2; p=0·3942) 経口セマグルチド14mgで-0.3%ポイント(–0·6 to –0·0; p=0·0272) 体重変化は経口セマグルチド14mgでは26週でベースラインから減少し、52週まで持続的に減少した。26週でプラセボ(P=0.0073)、リラグルチド(セマグルチド7mg P=0.0312/セマグルチド14mg P<0.0001)と比較して経口セマグルチド14mgは有意に体重減少した(Figure3)。 主要な軽度または中等度の消化管イベントが経口セマグルチドで最も頻繁に報告された有害事象だった。便秘が最も一般的で、経口セマグルチドの患者5~6人(10~13%)、プラセボで3人(6%)、リラグルチド9人(19%)だった。 結論 この研究は経口セマグルチドが2型糖尿病の日本人患者におけるプラセボとリラグルチドの両方と比較した経口セマグルチド単剤療法の有効性と安全性を示している。用量反応関係が確立され、経口セマグルチド14mgにより26週目においてHbA1cと体重両方がプラセボおよび日本で承認されたリラグルチドの維持量(0.9mg)よりも有意に減少することがわかった。経口セマグルチド7mgはリラグルチド0.9mgと同等にHb1cを下げることがわかった。 JC白水1

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【開催日】2020年8月12日(水)

高齢者の降圧剤の減薬について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
James P. Sheppard, et al. Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older. JAMA. 2020;323(20):2039.

-要約-
Introduction
高血圧症は心血管疾患の危険因子の第一位であり、多臓器合併症の高齢者では最も一般的な併存疾患である。降圧剤による治療は脳卒中や心血管疾患を予防し、80歳以上の患者の約半数が降圧剤を処方されている。しかし、過去の観察研究では、複数の降圧剤処方による血圧低下が複数の疾病を有する一部の高齢者において有害である可能性を示唆している。
ガイドラインでは、虚弱高齢患者に降圧剤を処方する際には個別の臨床的判断を行うことが推奨されているが、これらのガイドラインは減薬への手順は曖昧であり、エビデンス自体が不足しているため、この分野での研究の必要性が強調されていた。
この試験では、2種類以上の降圧剤を処方されている複数の疾病を有し、収縮期血圧管理が良好な高血圧症の高齢者を対象に、降圧剤の減量に対する構造化されたアプローチを実施した。この試験は、12週間の追跡調査で臨床的な変化(血圧管理不良、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象)なしに、部分的にでも降圧剤の減薬が可能であるかどうかを検証することが目的の研究である。

Method
本研究はイングランド南部と中部のプライマリ・ケア施設で実施されたものである。対象となる参加者は80歳以上で、ベースラインの収縮期血圧が150mmHg未満で、2つ以上の降圧剤を12ヶ月以上処方されている方である。対象者の募集を行ったプライマリ・ケア医には、最新のガイドラインやエビデンスについての学習を事前に実施した。参加者はポリファーマシー、併存疾患、薬のアドヒアランスが悪い、虚弱体質などの特徴が一つ以上あり、投薬の中止で恩恵を受ける可能性が高い患者のみが研究に登録された。過去12ヵ月間に左室機能障害による心不全、心筋梗塞または脳卒中の既往歴のある患者、二次性高血圧、また同意能力のない患者は研究から除外された。
参加者は、降圧剤の減薬(介入群)と通常のケア(対照群)に無作為に割り付けられ、研究者と参加者へ隠蔽化された。非盲検化のデザインをとっており、事前に定められた統計解析は、参加者の割り付けとは無関係に実施された。
介入群の減薬後は、プライマリ・ケア医により4週間後の時点で評価され、収縮期血圧が150mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の状態が1週間以上続いた場合、有害事象が発生した場合、または血圧上昇の兆候が見られた場合には、降圧剤の治療再開を行った。対照群に無作為に割り付けられた参加者は、処方された通りにすべての降圧剤を服用し、薬の変更を強制されることなく、通常の臨床ケアに従い、すべての患者は12週間の時点でフォローアップされた。
Primary outcomeは12週間の追跡調査における収縮期血圧コントロールの群間の相対リスクである。血圧測定は、臨床的に検証された血圧計を用いて測定され、測定値は参加者が少なくとも5分間座って安静にした後、適切なサイズのカフを使用して左腕で測定された。Secondary outcomeには、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象、収縮期血圧と拡張期血圧の12週間の変化における群間差であった。虚弱性は、Frailty index、Electronic Frailty Index、およびMorley FRAILスケールを用いて定義した。QOLはEQ-5D-5Lを用いて測定され、副作用は、高血圧症に対するRevised Illness Perception Questionnaireを用いて24の項目から発生がないか確認した。重篤な有害事象には、死亡または生命を脅かすものと定義され、入院を必要としたものまたは既存の入院を長期化させたもの、持続的もしくは重大な障害をもたらしたもの、または前述のいずれかのリスクにさらすか、または発生を防止するための介入を必要なものとした。

Result
Primary outcomeは12週目の追跡時の収縮期血圧が150mmHg未満であったのは、減薬群229例(86.4%)、通常ケア群236例(87.7%)であり、降圧剤の減薬は通常のケアと比べて劣らないことを示していた。
Secondary outcomeは12週目の収縮期血圧は、介入群の方が3.4 mmHg高く、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象については統計学的に有意な差は見られなかった(以下表参照)。

Discussion
複数の降圧剤を処方されている高齢者を対象とした本非劣性無作為化臨床試験では、通常の治療と比較して降圧薬の減量は、12週間後の収縮期血圧が150mmHg未満の患者の割合に関して非劣性が示された。しかし本研究にはいくつかの限界が示唆される。
第一に、研究の参加者は減薬の恩恵を受ける可能性があるというプライマリ・ケア医の見解に基づいて選択され登録され、ウェブベースの無作為化アルゴリズムと隠蔽化でバイアスを最小限に抑えるように設計されているが、適切にプライマリ・ケア現場の一般集団を示しているか定かではない。
第二に、非盲検化のデザインであることである。しかし、血圧測定は自動血圧計を用いて行われ、医師の介入は最小限で済むため、主要アウトカムの確認におけるバイアスの可能性は低いと考えられる。
第三に、降圧剤減薬群の参加者は、通常のケアと比較して、フォローアップ期間中に少なくとも1回の追加フォロー(4週間後)があるため、受診頻度の増加につながり、有害事象の発生率増加につながっている可能性がある。
第四に、通常ケア群の参加者のうち13人が追跡期間中に降圧剤の減薬を行ったことが、結果に影響を与えた可能性があること。
第五に、フォローアップ期間が短い(12週間)試験のデザインを決定したのは、より長いフォローアップ期間を持つ大規模研究に着手する前に、血圧と有害事象に対する薬物減量の短期的な効果を実証するためという倫理的な理由からである。このため、この研究では群間の有害事象の信頼性の高い比較を行うには力不足であり、その結果、降圧薬の減量による長期的な有益性と有害性は不明のままである。
第六に、非劣性マージンは、医師と患者の治療合意に意義があることに基づいて決定されたものであり、事前のエビデンスに基づいて決定されたものではないことである。
以上の結果から,長期的な臨床結果を評価するためには、今後さらなる研究が必要であるが,一部の高齢の高血圧患者においては,血圧コントロールに大きな変化を伴わずに降圧薬の減量が可能であることが示された。

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【開催日】2020年8月5日(水)